お出かけ
辺りは長閑な薄らと暗い木々が支配し、地面には少々背の高い草木と道の端に花が咲き、その奥には木々の隙間から漏れた太陽の木漏れ日が迷彩柄のように地面を照らしていた。
正面は一本の道があり、人通りが全くないために数十年前に避難道として整備されたままの状態で、馬車で移動するには少し問題があるかもしれないが、今の僕達にはさほど問題はない。
どうしてかというと、僕と義父さんとシリウリード君はロロの背に乗り、フィノと義母さんはエアリの背中に乗っているからだ。
普通に乗っては落ちる可能性があるため、この日のために研究者と相談してロロとエアリ用の鞍を作り、それを括りつけて乗っているのだ。だけど、馬の鞍では常にどこかを持っていないといけない為、車の座席の様な背凭れシートベルト付きの特殊な鞍となっている。
製作時に何度か失敗していて、なかなか頑丈で座り心地の良いものが作れなかったんだ。
それも車と違い動きがあることや座席自体を背中に固定できるようにしなくてはいけなかったからだ。
作ったことのない物ということや、馬の鞍には使えない等というのもあった。
座り心地はラ・エールで作った羽毛の椅子ではなく、質感は違うけど綿のような毛を持つ魔物が平原にいることが分かり、数十匹捕まえ、その毛を刈り取った。無害な魔物であることは触ってすぐに気付き、毛も一カ月ほどで生え変わることも調べて分かり、愛玩魔物として王城で飼育することになった。
それも完成した座椅子やソファー等の座り心地が今までにないほど柔らかだったから、義父さん達以外にも研究者達までがこれはぜひ欲しいということになったからだ。
勿論、僕達が研究のために作ってるので貴族達にはパーティー等のお披露目時に言うことになり、実際の販売は国営の平民の店で取り扱うことになる。
これは安く画期的な道具を国が作っては、今まで椅子などを作っていた人が路頭に迷いかねないと考え、国営という新しい仕組みを義父さん達に説明し、国が認めた経営の店という新たな枠組みの店が誕生した。
国営だからといっても値段は平民が買えるくらいのお手頃で、王族や貴族が使うような特殊な物は予め予約とどんなものがいいというのを伝えることになっている。
そして、それを作るのは僕達だったり、貴族専用の店で取り扱ってもらうことになった。
ただし、国営にすると『国が』という保証が付いてしまい、そこが店の信用を上げることになり、国営ばかりの店になってしまいかねない。
そこで僕達が考えたのは手頃な価格とは言え少々高めに設定し、職人には商業ギルドを通して製作法を買うことができるようにする。素材に関しても自分で飼育できる他、国が格安で卸すことになっている。
国営の店も売り上げの一部を国へ税として渡すことになり、売り上げは他の店と変わらないようにしている。
後は腕やこれをどのように発展させるかの手腕にかかっている。
恐らく商人は目をすぐに付けるだろうと思え、今のうちにがっぽり稼ぐという話になった。
勿論その稼いだお金は国の物となるけど、研究費用にも当てられ僕達研究班は俄然やる気に満ちている。僕はそれほどではないけど、研究費が増えると彼らの給料も比例して伸びるからだ。
そして、昼は僕がいるということで料理長の料理を食べられ、時たまフィノが来る時は僕の料理を食べられるということで、僕はすぐに研究班のリーダーのような存在になった。
というより、あの回復薬や持っている技術のオンパレードで土下座して手でも教えを乞いたいらしい。
流石国宝級の薬や道具だね。
固定するのはベルトというのが案に出ていたけどずれて落ちるということから、これも地球での知識になるけど動物用のフィットする服を開発し、その服の上に少し動く邪魔にならない椅子を付けたのだ。
人間用で言うと全身タイツや腹巻に近い感覚だと思う。
あと、それでも落ちそうな時はその上に裏地に滑り止めを付けたベルトを巻くと完璧だ。
そして、この方法は様々な物に応用できるということで、試作品ながらも新作のベルトや物の下に置く滑り止め、スパッツや関節を痛めた時のサポーター等だ。
ついでに薬の方も開発し、今までほとんど存在しなかった軟膏の様な子供用傷薬、打ち身・打撲専用の塗り薬、関節の痛みが消える薬を同時に作った。
とはいえ、僕の魔調律の技術が無ければほとんど効果の無い物となる。
魔調律は属性の魔力や魔法を籠めながら行うことを言い、刻印と違い膨大な魔力を必要とせず、精密さが要になるけど熟練の薬師と魔法使いが合わされば、息を合わせる必要性が歩けど完成させることが出来た。
これは世界初の薬師と魔法使いの共同作業となった。
そして、この方法はあらゆる分野で研究されることになり、今も僕がいないけど研究されているだろう。
で、僕達が今どこに向かっているかというと、僕の領地ロードベル山の頂上へ視察を名目に、ピクニックと義父さんと義母さんの健康の休暇を取るために向かっている途中だ。
「ロロを初めてみた時も思ったが、召喚獣は良いものだな。この触り心地が何とも言えん」
義父さんが背後でそう口にした。
席順は僕を一番前に、その後ろにシリウリード君が、その後ろに義父さんが座っている。
僕が一番前なのはロロに指示を出せるようにするためで、シリウリード君は僕とそう変わらないけど小柄だから義父さんが後ろから支えるようになっている。
エアリの方はロロほど背が大きくないので、フィノを前にその後ろで抱き着くように義母さんが座っている。
「僕は運が良かったですよ。子供の頃から育てましたから大変なこともありました。ですが、森では一緒に遊んでくれる友達だったんです」
「ウォン」
僕はそう言いロロの身体を撫でる。
ロロもそれに応じるかのように一吠え鳴き、嬉しそうに目を細めているのが分かる。
少し背後を向くと義父さんが身体の毛を撫でているのが分かり、その目が少し毛皮にしたいと言っているように見え怖い。言わないのは分かってるけど、何か怖い。
で、シリウリード君にはまだ見せてなかったから驚いてたけど、動物は好きなようでまずフィノのいるエアリの方に近づきなれるように努力をしていた。
僕は嫌われているのかと思ったけど、今見るとロロの身体を興味津々に眺めて、恐る恐る毛を触ろうとしているから少し安心だ。
男の子はやっぱり狼の方が好きだよね。
いや、フィノのエアリが駄目だと言わないけど、人気は狼の方があると思う。
珍しさで言うとエアリの方が数段階上だけど……。
「帝国の第二王子シュビーツ殿下が今度来訪しますが、その後召喚獣を買いに迷宮都市まで向かうそうです。殿下は動物が好きなようですから」
「え? 召喚獣は買えるのですか? あ、いや、何でもないです……」
やっぱり嫌われてるなぁ……。
前と違って辛い悲しみはないけど、違う悲しい気持ちがある。
これほど人に好かれたいと思ったことはないと思う。
もちろんフィノを除けばね。
それに興味があるようだけど、僕に聞くのはプライドが許さないって感じだね。
「シルリード君も動物が好きなら話が合うかもね。あと、聞きたいことがあったらフィノに聞いてみなよ。フィノはロロと違ってエアリを卵の時から育ててるからね。もしシリウリード君が召喚獣を買いたいって思った時は良い教訓になるかもしれない」
とりあえず差し障りのなさそうな言葉を選んでおく。
フィノに聞くのなら抵抗はほとんどないだろう。
それに今回は下見も行うから僕は少し目を離さないといけない。その時にシリウリード君はフィノと義母さんと残るだろう。
その時に話してもらえればいいと思う。
「ふ、ふん、シュン、兄様がそういうのなら聞いてやってもいいです。で、卵というのはどんな感じなのですか?」
あれ? 僕に訊くんだ。
まあ、それはそれで嬉しいけど、多分プライドより興味の方がかったんだろうね。
僕は苦笑するのを我慢し、あの時の思い出を語る。
「魔物の卵は様々な物がある。例えばエアリは両手で抱えるぐらいの大きさで、卵に毛の色と同じ斑点が幾つも付いていたよ」
「両手サイズ……。どうやって温めるのですか? まさか、抱いて寝ていたわけじゃないですよね?」
フィノが卵を抱いて寝ている所でも思い浮かべたのか、シリウリード君は少し嫌そうな顔をする。
僕はそうは思わないけど、とても微笑ましいと思う。
義父さんもこの話しが気になるのか毛を触りながらこちらに目を向けている。
横にいる義母さんはフィノから聞けばいいだろう。
「いや、魔物の卵はね、魔力を吸収して生まれるんだ。手を当てれば勝手に魔力を吸収するよ。でも、普通の卵と同じだから熱したり、冷やしたりすると死んじゃうと思う。暖かいところで愛情を込めながら孵化させるのが一番いいと思うよ」
「愛情を込めながら、ですか? 声を掛けたり?」
「そうだね。魔物を卵から孵す時に魔力を吸収するのは成長以外に、刷り込みに近い状態にさせることだよ」
「刷り込み?」
これもあまり知られていないことなのかな?
「刷り込みっていうのは動物が生まれて初めて見た人を親だと思うことだよ。人間だとあまりないことだけど、鳥が一番多いかな。で、魔物は孵化するときもだけど、魔力の味と言えばいいのかな? 送ってくれた魔力を覚えていて、その魔力の人を親だと思うんだ。だから、召喚獣は人に懐きやすいし、何かが起きない限り主人を襲うことはないし、命令も聞くんだ」
「へぇー、物知りなんですね。……いや、何でもないです」
いや、なんだかおもしろいね。
僕の周りにはいないタイプの人間だし、素直になりたいけどなれない反抗期の子っていう感じがする。
まあ、シリウリード君はちょっと違うかもしれないけど、十一歳となると丁度思春期に入りかけた時期で、第二反抗期になる感じかな。
この世界の人間は少し成長が早いから精神年齢も少しだけ上だと考えた方が良いかも。
「でも、奴隷とは違うから嫌なことは嫌っていうし、言うことを聞かなくなって、最後には逃げることも考えられる。友達や家族、雇用主と雇用者って感じかな」
僕はさっきから苦笑するしかなく、隣の方ではフィノが申し訳なさそうにしている。
義父さんと義母さんは困った顔をしているが気持ちは分かっているようで、僕やシリウリード君に何か言うことはない。
僕もこんなことに親の手を借りるつもりはないし、こう言うのはお互いで少しずつ近寄っていくしかないってこともわかる。
こればっかりは時間を掛けてやるしかないね。
それにシリウリード君は僕のことを心の底から嫌っているわけじゃないと思う。
「じゃあ、逃げてしまったらどうするんですか? 追いかけるなんてことはしないですよね?」
だってこうやって話してくれるし、いやなら僕の後ろに乗らないと思う。
やっぱり年頃だからかな?
そうなるとフィノもそうなんだけど、フィノが反抗したことはほとんどない気がする。
僕は精神は二十歳レベルだからね……。
「いや、召喚獣と契約した時に呼び戻せるようになってるんだ。僕がやっているものとは違うけど、例えば城の庭に置いていて遠くへ呼び出すとかできるよ」
「召喚することは出来ないのですか? 召喚獣なんですよね?」
「もちろん出来るよ。ただ、転移魔法と同じ扱いになるからかなりの魔力が必要となる。多少違うから魔力の消費は抑えられるけど、やっぱり長距離になるほど召喚に使う魔力は多くなるね。そうするくらいなら連れて行った方が良いよね」
僕の魔力は桁違いだから召喚できるけど、時空に穴を開けた方がかなり早く連れて来れるし、魔力も穴を開けるだけの魔力しか使わない。
比べるまでもなくこっちのほうが楽だ。
ただ、時空魔法が使えなければこの方法は取れないし、亜空間や世界の大きさはその時に込めた魔力量に比例する。だから、結局魔力が何でも必要になるんだ。
「そうだったのですか……。あ、ありがとうだなんて言いませんからね!」
そう締め括ったシリウリード君は後ろから義父さんに頭を叩かれ、軽い説教を受けている。
これをツンデレ……デレはない気がするけど、そうだと思いたい。
こんなに長く話したのは初めてだし、隣でフィノは微笑ましそうにシリウリード君を見ているもの。
僕はその後少し不貞腐れたシリウリード君から偶に質問される度に答え、仲が良くなったのかまだ変わっていないのか分からないけど、僕が思っていたよりもシリウリード君は優しく心が強い子のようだ。
そして、生い茂っていた木々が晴れ始め、前方数百メートル先が開けた野原の様な場所になり始めた。
どうやら山頂は草原のようになっており、屋敷を構えるのに丁度いい場所のようだ。
「じゃあ、私達はお昼の準備をしていますね。あなたとシュン君は調査を行ってください」
義母さんがエアリの身体から降り身嗜みを整え、フィノとシリウリード君を背後にこちらへ微笑みながら告げた。
連れてきている護衛は十人ほどで、女性四人を入れた騎士七人を置いて、僕達は残りの三人の五人でした見に行く。
ただ、護衛の内一人は建築に詳しい出の人物を連れてきていて、素人の僕達ではもしかすると建てられないところに決めかねないからだ。
その辺りは義父さんが手配してくれていて、やっぱり僕より視野が広いね。
「うむ、何かあれば呼んでくれ。まあ、エアリがいるから大丈夫だろうが」
「そうですね。エアリほどの魔物がいれば弱い魔物は敏感になって出てこないでしょう。でも、絶対ではないから気を付けてね」
「うん、分かってるよ。シュン君も気を付けてね。あと、楽しみにしてる」
フィノの気が早いが、この世界で屋敷はどのくらいの時間で建てられるのだろうか?
もしかすると魔法でちゃちゃっと一か月ほどあればできるのではないかな。
僕はお店の内装に半日もかけずに行ったわけだし。
勿論僕の魔法があってこそだと分かってるけどさ。
「ほら、シル君も」
「フン! ……いってらっしゃい」
フィノに背中を押されて僕と目が合ったシリウリード君は鼻を鳴らしたけど、頬を少しだけ赤くし気恥かしそうにした後、僕の方をチラチラと見ながら見送ってくれた。
フィノ達は苦笑しているけど、僕は挨拶をくれるだけでも嬉しい。
「行ってくるね。シリウリード君も気を付けて」
「わ、分かってます!」
そのまま護衛を連れてちょっと遠くへ行ってしまった。
僕達は困った顔になったけどそこで手を振り分かれ、僕と義父さんは護衛を連れて見晴しの良い場所から探索することにした。
最初に訪れたのは山の頂上だ。
目的は城を見ながら寛げるところに屋敷を構えることだから、見晴しが良い場所に屋敷をまず構えることになり、城側の斜面から頂上までが範囲となる。
反対側ではその目的に沿えないので却下だ。
この山は長い年月で地面に皺が寄り、地面が隆起した火山ではない山だ。
隣にもポコポコと大小様々な山が連なっている山脈と呼ばれるもので、その中でも城の背後にある山が僕の領地だ。
取れる物と言えば薬草や山菜が主流になるだろうけど、僕は税をちょびっと払うだけだ。
税というのは領民がいて初めて発生するもので、勿論領地を運営するのに税金が発生するけどそれは微々たるものだ。というより、僕が払っているのは維持費とかぐらいだ。
「頂上は結構平坦ですね。ただ、土が少し柔らかいのかな?」
僕は地面に魔法で作った木の棒を突き刺し、この柔らかさで大丈夫なのか疑問に思ってしまう。
義父さんも同様に木の棒で地面を突っつき、護衛の騎士達も軽く足を踏み鳴らしている。
草原になっているから土が柔らかいのは分かるけど、やっぱり柔らか過ぎるのは問題ではないだろうか。
建築とは無縁だったからよくわからないんだよね。
まあ、柔らかいのなら水魔法で少し湿気を取り除けば問題ないし、火魔法で熱しても良い。それもダメなら土魔法で固めればいいかもしれない。
その辺りは僕では判断できないから専門家に任せるんだけど。
「そうだなぁ、王都の周りと比べると少し柔らかいか……。ただ、問題はなさそうな気もするが」
義父さんはそう言いながら僕の方へ近づいてくる。
後ろの方では地面に手を付いたりして感触を確かめている騎士が一人いる。
彼が建築に関する出の息子らしい。
歳は三十手前だから騎士としては若手の方で、この任務に連れて来られたのも建築知識だけでなく、実力の方も十分あるからだ。
「まだ時間がかかりそうですね。先に屋敷の大きさ等を話しておきますか? 僕は民家と店と城しか入ったことが無いので、屋敷に何がいるのか分からないのですが」
しかもその屋敷は僕の屋敷というか、領主の館というのかな? 見栄とか、権力誇示の様な物になるはずなんだ。
だから、もしかすると中にこれは無いといけないというのがあるかもしれない。
「特にこれといった物はない。まあ、貴族がここまで来るとは思えんが、友達を泊めたりするのなら客室は多めに作り、シュンの好きな風呂や調理場等は自由にしていいだろう。お前の場合執務室はいらないかもしれないが一応作った方が良い。あと、馬車が泊められる様に車庫と馬小屋も必要だ」
かなりいろいろとあるな。
執務室とかは何となくわかってたけど、馬車とかの車庫も必要なのか。
ということはあの道を整備しないといけにということだね。
まあ、魔法を使えば数時間で整備できるだろう。
でも、報告書を作らないといけないから今は保留ね。
「ロロの庭も作って上げようかな。そういえば僕の世界風だから、池とかあったほうが良いのかな? 後、地面に砂利を敷いて、風情のある松とかも探してこないといけないし、畳も必要だよね」
地・木魔法で地面に生えている草を左右に避け、一メートル四方の空間を作り出す。
そこにまず門となる塀――和風過ぎてはおかしいので、格子の門と白壁の塀だね――を作り、中に次々と思い浮かぶ物を土で作っていく。
フィギュア作りみたいで楽しい作業だけど、魔法ありきのものだし、色は付いていないからそこまでではないかも。
「上手い物だな。こういうのも技術が必要か? 確実に名産になりそうだが」
隣にしゃがんだ義父さんが出来上がった門の細かい装飾に目を向けながら、関心と感嘆の声を上げてビジネスにくっ付けた。
異世界というと武力に走る傾向が強いと思うけど、戦争とは百年も無縁なのだからこうなってもおかしくない。
騎士の人は少し頬を引きつらせているけど、これくらいならやり過ぎではない。
いや、これはそもそも人に見せる物じゃないし、しっかりとしたものを業者や大工に見せようと思う。
勿論義兄さんに許可を取ってからね。
「そうですねぇ……。地魔法に適性がある人を数年間教え込めばそれなりに出来るようになると思います。あと、地魔法だけでは上達しないので、手作業を出来る器用な人が良いでしょう。魔力に関しては少し多めに入りますが、慣れれば減らせるでしょう」
「そうか。まあ、今は落ち着くまで置いておくか。――この作りは変わっているな。これがシュンの世界の屋敷か?」
出来上がっていく砂利の道や長方形の石畳を敷詰めた地面、木魔法で作った松に似た植物、池にも石を敷き詰め、竹のカコンと音が鳴る鹿威しも作る。
鹿威しって何のためにあるんだろうね。
まあ、僕はああいうのが好きだから作っておいても問題ないけど。
ただ、水については考えないといけなくなるね。
「僕の世界と言うより、僕の国の屋敷ですね。僕の世界では様々な屋敷が存在します」
僕は簡単にうろ覚えな屋敷や城を作り上げていく。
王城と似ている西洋城や西洋屋敷、砂漠圏内にあるピラミッドやタージマハルのような城、教会の神殿やこの世界では珍しい宮殿まで作る。
まあ、ほとんど覚えていないから歪なのは歪だけど。
「こっちは城と似ているな。この宮殿とやらは公国の城に似ていたはずだ。ここまで装飾には凝っていなかったはずだが、かなり似ている」
「僕の世界でも砂漠に近いところや湖畔等のイメージが近いです。教会は同じ作りですが、やはり種類が多くあります。なんといっても国は二百近くありますから」
「二百も国があるのか!? それは凄まじいな。それならこれだけの文化があっても納得できる」
また何か勘違いしているようだけど、あまり間違ってもなさそうだから置いておくか。
この後も屋敷の外見作りに義父さんが逐一質問してくるから、僕は大きめの内装などを端に作りながら文化について説明する。
だけど、僕自身屋敷に詳しくないからこんな感じという形しか作ることが出来ず、後は話をしてどういった物か説明書を作成しないといけないだろう。
まあ、僕の仕事でもあるから別にかまわないけどね。
それから十分ほど経った頃、測量などをしていた騎士が謝りながら詳細を教えてくれた。
「時間がかかりすみませんでした」
「気にせずともよい。まず、結果から教えてくれ」
義父さんが頭を下げる騎士を手で制し、すぐに説明を促す。
どうやらこの屋敷が気に入ったようで、実際にこの場に作れるか知りたいようだ。
「結果から言いますと、可能ではないかと思います。ただ、地面が柔らかいので二階建て、三階建ては部屋数を抑えるしかないです。そうしなければ、恐らく徐々に地面が沈む恐れがあり、雨風の日に地盤が崩れる可能性も捨てきれません」
そこは僕も気付いていたことだから、義父さんも気付いていただろう。
地面についてはさっきも言ったけど魔法でどうにかなる。
だけど、よく考えれば雨が降った日に元に戻るかもしれない。
そうなると定期的に整備しないといけないことになるね。
「うむ。建てられないことはない、ということでいいのだな?」
「はい。しっかりと測量しなければわかりませんが、幼い頃此処より柔らか土質の場所に家を建てたことがありますから大丈夫なはずです」
「では、それを踏まえた上で、この模型の屋敷を構えることができるか考えくれ」
騎士は僕が細かい部分を削っている隣へ歩き、感嘆の声を上げながら一つずつ僕に断りを入れて手に取り、僕は隣で義父さんにした説明を繰り返す。
「この屋敷は斬新ですが、一階建てですか?」
やっぱり和風な屋敷はこの世界では珍しいのだろう。
屋敷に見慣れているはずの義父さんが感心し、大工の息子であるこの騎士ももの珍しそうに見ているのだから間違いない。
「作り方は得る覚えですが、一階建てにしようと思います。ただ、通気性を良くするために屋敷全体を柱で浮かせています。また中も天井が高く、二階と言えるか分かりませんが物置に近い物があります。また、通常の屋敷と違い、部屋を壁で区切るよりも襖と呼ばれる扉で区切りますね。廊下も長く、長閑な雰囲気と風情を尊重した作りになります」
西洋風の屋敷はその外見の煌びやかさや、庭園等の美しさを前面に押し出し、白を基調に作られるものが多いだろう。
だけど、僕の考えている屋敷はからくり屋敷に近い面が強くて、板張りの長い廊下に中庭を眺められる大広間、違った落ち着きのある作りだ。
西洋風は美しさという落ち着きで、僕のは自然の落ち着きといった感じだろう。
「まあ、分からないところは僕が実際に作っても良いですし、恐らく王国では初めての作業となるはずなので僕も一緒にいるはずです」
「かなり屋敷が広いですが、一階建てなら十分許容範囲内でしょうし、幸いこの山の頂上はかなり広いですから十分入ります。あとは私にもよくわからないことなので専門家に訊ねた方が良いでしょう」
「一応できるかもしれぬ、ということだな?」
「はい。作れないことはない、というのが私の判断です。ただ、専門家はまた違った意見を出すかもしれません」
「いや、そこまでは求めていない。もし無理ならば麓に作ればよいだけだからな」
まあ、確かに麓は平原だから作りやすいだろうし、ここまで来るのにも時間がかかるから、その方が良いと言えばいいかもしれない。
ここに建てても僕は転移で来れるし、どうせ貴族は馬車移動みたいだから道を整備してしまえば大して変わらないよね。
山といっても道は急な坂じゃなかったし。
でも、馬より早いロロでも数十分かかったから、途中に休憩場所とか作った方が良いかも。そこに展望台を作ったり、子供の遊び場を作ったりするのも楽しいかもしれない。
所謂、高速道路とかのサービスエリア的な?
それもこれも全て終わった後に考えることだから今は保留かな。
「結果は上々。後は城に帰って専門家と話し合ってみるとしよう」
「はい、その方が良いみたいですね。帰ったらより精巧な物を作っておきます。あと、道の整備もしたいので報告書を纏めておきます」
「うむ、そうしてくれると助かる。屋敷の報告書もな。後、何かしたければ一応報告書を纏めてくれ」
「分かりました。この山は観光地にしてもいいかもしれませんね。王都も近いですし、観光客の運動にもなりますし」
「まあ、その辺りはゆっくり考えよう。まずは目先のことを片付けてからだ」
義父さんがそう締め括り、僕達は昼食の準備をしているフィノ達の元へ戻ることになった。
解散する前にあのフィギュアは一応土に戻し、その場を木魔法で元に戻してから退散した。
そして、今度来た時に場所が分かるように杭の様な物を打っておくのだけは忘れずにいた。
因みにこの場にいる魔物を魔力感知で調べた結果、害のない穏やかな――強いて言うと愛玩用の魔物が多くいることが分かった。
中にはスライムやウルフ、植物の魔物等危険性のある魔物が住んでいるようだけど、その辺りはしっかりと整備すれば大丈夫だろうね。
政治は出来ないけど、そういった物作りなら僕にもできるし、お金の管理とかは信用できる人に任せて、僕は領民を作らずに商売をして税を作ればいいのかもしれない。
冒険者をしてるから少しの税ぐらい数日もあれば貯まるんだけど、それはそれで面倒な時もあるだろうし、やっぱり税はそれに応じたもので払いたいと僕は思ってる。
でも、何度も言うけど全てが終わった後だね。
中途半端な小説がありますが、新しい小説を投稿します。
一応オーバーラップに挑戦しますが、面白い小説を考えるのはとても難しいですね。
最近は何を書いても面白くない気しかしませんし……。
と、いうことで面白くないかもしれませんが、頑張ったのでよろしくお願いします。
あ、主人公はチートですが、戦闘をするわけではありません。
しないとは言いませんが、それ以外の面でチートにしています。
一応第一部前半を書き終ったので、そこら辺を九月一杯まで連続で投稿する予定です。




