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見えない溝の消滅

感想を返せていませんが、しっかりと見ています。

もう少しして学園に復帰させようと思うので、それまでの話を数話作ろうと思います。

その話は国王夫妻の回復と召喚獣についてと考えている最中です。

 目的外のことが起こったけど、どうにか帝国での用事が終了し、僕達は王国へ帰ることとなった。

 昨夜はパーティーに有効であると思わせるために――裏では貴族の調査を行って皆白だと確認――出席し、初めてフィノと一緒にダンスをした。

 一応帝国にいる間もダンスの練習をフローリアさんの監視の下を行っていたため、本番でも失敗することなくやり過ごすことが出来た。


 フローリアさんは初めて知ったんだけど男爵家の娘なんだって。

 名前にミドルネームが無かったからおかしい気もするけど、フローリアさんは三女みたいで男爵家では結婚させることが金銭面等で困難だったみたい。

 両親はどうにかしたいと思っていたみたいだけど、フローリアさんは逆に魔法の才能があるということで家を出て冒険者となり、十年ほど前の魔物退治時に手柄を取り騎士となり、ここ最近魔法師団団長に抜擢されたそうだ。

 そう聞けばかなり良い道を進んでいるように見えるけど、フローリアさんはまだど……だから、ちょっとそっちが心配だね。

 でも、お付き合いしているというか雰囲気が良い人がいるみたいだら、誰も邪魔せずに温かく見守っているそうだ。


 そして、ダンスはさすがにフィノだけと踊っているわけにはいかず、僕は意外に嫉妬深かったようで、フィノが他人と踊っている姿を見ると胸のあたりがむかむかとし、嫉妬しているのが分かり、僕の相手だった既婚者の女性に笑いながら怒られた。

 実際は二十歳を超えている僕だけど、今は十二歳だから大目に見てほしい。

 で、ダンスは五回ほど踊った――かなり多い方――けど、最後の一人が高校生ぐらいの女性で、何でも帝国の第二王女らしかった。

 大変綺麗な人だったけど、何やら肉食系のようなオーラが見えたために少し怖かった。

 だけど、僕はフィノ命だから頑張った。

 笑みを絶やさず、無難な答えだけを返すこと十分ほど。僕はどうにか解放され、がっかりさせたのは仕方なかったけど、僕はどうにかフィノの機嫌を悪くしなくて済んだようだ。


 料理は美味しくて、武の帝国は意外に薄味系が多かったのが印象的だったけど、パーティーにはもう出たくない……。


 で、レコンに関してだけど、どうやら僕が考えていた病気で合っていたようだ。

 体内の魔力が減ったことにより、まず日常的に動けるようになり、食事も普通に取れるようになった。

 まだ、走ったりという激しいことは出来ないけど、声を上げたり、軽くじゃれたりと遊ぶことは可能になったそうだ。

 一度診察に行ったときは僕のことを覚えていたみたいで、かなり感謝の嘗めを受けてしまったのはいい思い出だ。

 体長も戻りつつあることも良かったけど、身体も成長し始め少しだけ身体が大きくなっていた。

 これも魔力を抑えなくてよくなったからだろう。

 あの『トーカ』を止めて暫くしてすぐに体調が良くなったところを見ると、魔力だけでなくあの果物も注意が必要だったのだろう。


 ネックレスの対価は王国ではなく、僕自身が貰うことになり、お金はあっても仕方ないのでなかなか手に入らない食材や調味料、学園で使えそうな道具、金属なんかも貰った。

 金属はガンドさん達にでも渡して何か作ってもらおうと画策中。

 あと、帝国でも有名な宝石『黒真珠』と呼ばれる宝石をいくつか貰い、他にもダイヤモンド等の宝石も頂いた。

 これはあと数年もすれば必要になると考え少しお願いしてもらったのだ。

 勿論僕と皇帝達しか知らないトップシークレットだ。

 そのために僕とフィノの関係を伝えることになったんだけど、やっぱり知っていた。

 まだ、僕が実力を見せていない為、新たに現れたSSランク冒険者だとは思っていないみたいだったけど、隣国にそのような強者が二人も存在するとなると放っておけない案件となるだろう。

 これは義兄さんと話し合い、師匠とも連絡を取り考えないといけなくなるね。


 最後に本来の目的である帝国の膿はどうにか特定が終わり、ほぼ全てを捕まえ切ることに成功したそうだ。

 だけど、ここで王国とは違った問題が浮上した。

 それは文官の貴族が武官の貴族より少なく、このままでは帝国の政務が回らなくなるというものだ。

 武の帝国なので理由としては何となくわかるけど、王国が助けを出すのは内部干渉となるから無理で、人材を発掘するにもそんな時間はなく、今いる裁きを受けない文官では徹夜をしても無理な話だという。


 王国の場合は元々文官と武官の数が一定数いた。

 そして、関わったのが――帝国もだけど――文官が殆どだった。

 でも、王国の場合は粛清してもなお、ギリギリではあったけど首が回る人数が残っていたという。

 そして、騎士の中には商家の出の者もいたようで、彼らに特別手当を与えることで手伝ってもらい、早めの求人を募集し貴族の余った子弟を文官として使いうのだ。

 こうすることで王国はどうにか今回を乗り切っているらしい。


 では、帝国はどうするのか。

 帝国はさっきも言ったけど、文官の人材がいない。

 商家の出を探してみたもののほとんどおらず、いたとしても三男等が一般的で家を継げないということで、もとから騎士を目指して商売などの知識を得ていなかったのだ。

 そのため、文官として計算させることも、書類の整理をさせることも出来なかった。

 そして、子供達も親の影響を受けているため、使える人材が極端に少ないとのこと。

 影響を受けていないと思える子弟でも七歳未満と、とてもじゃないけど採用できない。

 今から育成を開始し、貴族も今回の件で身を震わせたようで、快く子供達に新たな教育を施すことに賛成したと聞いた。


 だけどそれでも足りなかったため、今回の件で深く関わっている僕とフィノに代案の許しを得に来た。

 その代案というのはほとんど関わっていないような貴族の粛清を厳重注意に変え、数年間の調査員派遣と帝国及び王国との関係に献身的な態度を確認次第、今回の罪を完全に洗い流すというものだ。

 こうすることで文官の貴族を確保し、どうにか帝国内部が崩れないようにするというものだった。

 勿論僕とフィノとしては此処で帝国が潰れるのは止めてほしいので、別にかまわないとは言ったけどそれでも文官が足りるのか心配だった。

 だけど、どうやら文官はほとんどが関わっていない様で、よく考えれば今回は帝国の武力思考という旧世代が起こしたことだった。

 だから、文官についている者はほとんど関わっていなかったのだろう。


 あと、帝国がどうにかしていくしかないので僕とフィノはとうとう王国へ帰ることとなった。


「この度はいろいろとご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」


 そう言って頭を軽く下げるシュビーツ殿下。


 僕達は帰還準備を整えた後、手が空き且つ王国を訪問するというシュビーツ殿下に見送られていた。

 場所は帝国城の正門入口で馬車を待たせている状態だ。

 背後にはフローリアさんが馬の手綱を持ち控え、ロビソン達も馬の手綱を持ち馬車を囲むように控えている。


「ですが、これからはよりよい関係が築けるよう尽力するつもりです。御二方には叔母と弟がご迷惑をおかけしました」


 苦笑いを浮かべて本当に申し訳ないと目で頭を下げてくる。

 僕達ももう済んだことだと微笑み返し、暗い話は止めようと話題を変え軽く言葉を交わす。


「気にしないでください。これからの未来、全て僕達やシュビーツ殿下達にかかっています。僕達が仲良くしている限りは変わらないでしょう」

「そうです。これからは手を取り合い、前を向いていきましょう。王国に訪れた際は私達がいるか分かりませんが、兄様にはよろしく伝えておきます」

「そういえば、まだ学生でしたね。私も三年ほど前に卒業したばかりですから楽しんでください。もう邪魔をする者もいないでしょうし」


 そう言ってクスリと笑うシュビーツ殿下は本当にかっこいいな。

 こういう時フィノが僕でいいのだろうか? と思うのは自分に自信がないからだろうか。

 まあ、そんなことを考えず、フィノが僕だけを見てくれていると信じよう。

 そして、僕もフィノの思いに答えると。


「それと、バラクは帝国から遠く、少し荒れているところですが、良い召喚獣が手に入れられることを願っています。今度は私の召喚獣もお見せしたいですから」


 そうフィノは微笑み掛け、横目で僕に構わないよね? と問いかけてきたので頷いておく。


 今回はフィノの召喚獣までは見せられなかったし、同格のシルバーウルフならよかっただろうけど、それより希少性の高いグリフォンに並ぶエアロスだからね。しかも迷宮で手に入った卵が孵ったとなると、その価値は国宝級ではないか、と僕は密かに考えている。

 そして、エアリのことをまだ義父さん達に見せてなかったのを思い出した。

 かなりの量のことを教えていなかったため、王国へ帰ったらいろいろと話さないといけないだろう。

 それとまだ落ち着くまで学園に帰れないだろうから、その間にできることをしていかないといけない。

 今回のことで邪神の存在を深く思い出し、僕だけが戦うのは無理だろうから義父さん達と相談すること、帝国と協力体制を築いたら帝国にも話し武力を整えること、他国特に四大国の聖王国には話を付けに行かないといけないこと、ガーラン魔法大国もノール学園長はいいだろうけど、王様と話しをした方が良いだろう。

 あと、アルとシャルの故郷公国にも行っておかないといけない。


 確か攻めてくるのがあと二年と半年後の僕が学園を卒業してからだって言われたはずだ。

 だから、それまでに態勢を整えておく必要性がある。

 もう少し早めに気付いて報告するべきだったな。

 これは少し自分の力を過信していたからだろうし、僕だけを狙っている物だと思っていたからだね。

 もっと広い視野で考えれば王国を襲った時点で、僕以外の人も狙われると気づくべきだったんだ。

 義父さん達は邪神の集団として認知しているはずだけど、それだけだとまだ危険度が足りないはずだからね。


「そうですね。次にお会いするときまでお元気に」

「シュビーツ殿下もお元気で」

「何かあればお呼び下さい。特にレコンはまだ経過観察状態ですから、僅かな異変でもお知らせください」

「はい。シュン殿には大変お世話になりました。何かあれば頼らせていただきます」


 そこで会話を止め、僕とフィノは馬車に乗り込み手を振ってくるシュビーツ殿下に振り返し、フローリアさんの号令の下バララークから出発することになった。




 バララークを出発し、人気が無くなったところでフィノだけに、まずいろいろなことを打ち明けることにした。

 フィノに隠し事をしていると気づいたらなんだか申し分けなく感じ、無垢な笑顔を見ていると関係ないのに罪悪感が募ってきたからだ。


「――どうかしたの? 少し表情が硬いようだけど」


 何もないとは思っていてもやはり表に出ていたようだ。

 僕は考えていた思考を払いのけ、何でもないと軽く微笑んだ後、背筋を伸ばして一回目を瞑り真剣な視線をフィノに向けた。

 フィノも何かがあると勘付き、向かいの席に移動して僕の顔を真っ直ぐに何でも来いと構えるように見つめる。

 そこで意を決して話す。


「――ふぅ……。これから話すことは世界に大きく関わり、僕の人生……いや、命や運命に関わっていると思って」

「世界……? シュン君、何かあるの?」


 フィノが心配そうな顔になる。

 僕はその整った手入れのいらない白い手を握り締め、柔らかく少し暖かい感触に全てを話す勇気を貰う。

 別に話すことが怖いわけじゃないけど、フィノまで巻き込んでしまうのが申し訳ない。


「僕が異世界から来たことは話したよね? そして、魔闘技大会の時の黒幕が僕を狙っていることも」

「うん、あの時のことは覚えてるよ。まだ一年も経ってないし。黒幕は邪神とかいう集団で、なぜかシュン君の命を狙ってるんでしょ?」


 まだ、そこまでしか話してなかったのか、僕は……。

 何て愚かなんだ……。

 一度教会に行って全部打ち明けると事後承諾になるけど話すべきだな。


「そうだったね。でも、本当は僕は全てを知っているんだ。正しくは知らされたというのが正しくて、この世界に来たのも全て邪神が関係しているんだ」

「どういうこと?」

「フィノには神様に会った話をしたことがあると思う」


 それはフィノがまだファノと名乗っていた時で、魔法の事故でアクシデントがあったけどお互いに素性を明かした時だ。

 あの時完全に恋に落ちたと言ってもいいだろいう。


「うん。前世でどんな生き方をしたのか、神様に会ってこの世界に来たこと、それからのことも聞いたよ。嘘だったの? でも、ギルドカードには……」

「確かにその通りで、僕は嘘を付いていないよ。フィノに嘘を付くわけがない。でも、まだ話していないことがある」

「あぁ、それが邪神なのね? 黙っていたことが悲しいけど、詳しく聞かせて」


 流石フィノだね。

 そして、悲しませてごめんよぅ。


「魔闘技大会が終わり、謁見が終了した後僕はその邪神の集団について知らないか教会を訪れ、神様――生命を司るこの世界の管理者ロトルデンス様達神々に会いに行ったんだ」


 何気ないように言ったけど、流石に聞き捨てならなかったようで、フィノは僕の隣に移動して顔を挟んでどういうことか聞いてきた。


「え、えっと、シュン君は神様に会えるの? 神様に会ってこの世界に来たのは分かっているけど、そんなにポッと会えるものなの? しかもそんな名前の神様知らないっていうのは不敬だけど……。そういえば私に加護をくれた冥府の神様も知らない名前だった気がする」


 僕の顔から手を放して、あの時僕が口にした名前を思い出そうとするフィノの綺麗な眉間に皺が寄る。

 この世界の神様にも一応名前があるけど、神様は世界が終焉のように荒れた時や勇者のような存在を産み出し力を貸すときはあるけど、この世界に直接干渉するわけではないから名前が分からないんだ。

 何の神がいるかはその効果や最初の軽い宣言の様なもので推測は出来ているみたいだけどね。

 名前も全部の神様の名前を知らないわけじゃないけど、まず世界自体の創造神メディさんは世界が多すぎて干渉しないから伝わっていない。悲しいね。

 ミクトさんは終わった世界の魂を回収したりするからメディさんとは違った意味で、恐怖の対象となるからほとんどの世界に知られていない。

 で、ロトルさんは管理者として何度か表に出ているらしいけど、力を授けるだけで僕のように直接会えるようなことはないみたい。だから声も断片的で名前を聞けないそうだ。

 何だか悲しいけど、そういうものだと思わないといけないんだろう。


「僕にはその辺りはよくわからないんだ。でも、僕が直接会っているのがそうさせているのかもしれないね。――それで、そこで邪神の集団が僕を狙っているのが分かったんだ」


 緊張や不安が募り僕は指を組み、忙しなく動かしていた。

 フィノは突然の話に整理が追いつかないのが見て取れ、僕は整理がつくまで話さずに待つこと数分。

 フィノは一つ頷き問いかけてきた。


「神様については後で教えてね。だから、先にどうして狙われるのか教えて? シュン君は何もしてないよね?」


 僕は組んでいた指を離し、膝の上で軽く握り上を見ながら言う。


「どうやらその邪神は、僕を前世で嵌めていた神の部下のような存在らしいんだ。当初は敬愛する上司を捕まえたロトルさん達に抗議したらしいけどどうにもならなくて、次に僕の存在に気付き手を出し始めたらしい。それがあの大規模魔物侵攻と魔闘技大会、今回の件なんだ」

「なにそれ! ただの逆恨みだよ! シュン君何も悪くないじゃない! それに神様は助けてくれないの?」


 やっぱりフィノは怒ってくれる。

 それが嬉しくて少しだけ安堵した気持ちになるけど、これから完全に巻き込むと思うと少しだけ辛く、本当に選択があっているのか困惑してしまう。


「落ち着いて。確かに逆恨みだと僕も思うよ。でも、これは僕がどうにかするしかないんだ。いや、僕が狙われたから僕がどうにかするしかないんだ」

「どういう意味? シュン君が狙われなかったら何か変わるってこと?」


 僕は言って良いのか分からないけど、フィノに誰にも言わないようお願いした後にロトルさん達から聞いた神々のルールを口にする。


「神々はたとえ相手が邪神であろうと世界への介入は許されない。それは力が大きくて世界が耐え切れないからだよ。だから、間接的に勇者を送り、武具を授け、神託をするんだ」

「そうだったんだ……。で、どうしてシュン君が?」

「よく考えてみて。神はルールを守ってるから介入できないのに、邪神は悪だから介入してくる。でも、邪神を倒すには神が介入しなくちゃいけない。だけどできない」


 矛盾とまではいかないけど、もう少し緊急時のルールが必要だと僕は思う。

 流石に勇者でも魔王を倒すのが精一杯なのに、勇者でもない僕が神を倒すとかどうなの? とは思うけどこればっかりは仕方ない。


「納得し難いかもしれないけど、僕が狙われている時点で僕が対処しないとどうしようもない。だって、神様は介入できないんだもん。だから、僕はこの世界に転生した時に神々から力を貰ったんだ。前世で酷かったから自由に生きられるという願いを叶えてくれたけど、邪神を倒すという役目もあると思っている」

「納得は出来ないけど、それなら仕方ないのかもしれないと思う。でも、シュン君がっていうのはやっぱり嫌だ。邪神って神様なんだよね? 倒せるの?」


 死ぬかもしれないとは言えない。

 そのために今まで努力したし、これからどうにかしようと心に決めたんだから。

 巻き込んでしまうのは申し訳ないけど、この二年でどうにか態勢を整えたい。


「多分、僕が倒すのは無理だと思う。だから、発見してどうにか抑え込めばロトルさん達がどうにかしてくれるはずなんだ。顕現して捕まえるぐらいは介入に入らないと僕は考えてる。まあ、それも聞いてないからまだわからないけどね」


 だから今度教会でロトルさん達に合えるまで祈るつもりだ。


「そして、ここ方が本題になるんだけど、もう僕だけの問題じゃあなくなってるんだ」

「そうだね。シュン君を狙っていると言っても周りの被害は大きいものね」

「そう。本当は自分の力で決着を付けたいと思う。でも、もうそんなことを言っている場合じゃなくなったんだ。帝国で気が付いたけど、同時に二か国が襲われた時点でどうしようもなくなる」


 相手の勢力は多くはないとはいえ、魔闘技大会や魔族を使えば一国なんてすぐに墜ちるだろう。

 だから、どうにかしないといけないんだ。


「僕のせいで巻き込むのは心苦しい。多くの命を失ったし、迷惑をかけた。これからはもっと多く大きくなると思う。それがどうしても心苦しくて……」


 目頭が熱くなるのが分かり顔を下へ向けようとしたが、フィノが僕の身体を優しく胸元へ頭を包むように抱きしめ、僕がいつもしているように優しく撫で始めた。

 更に目頭が熱くなるがそこはぐっと我慢し、フィノが僕の肩を取って持ち上げ眼を合わせる。

 そして、慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべて、おでこをくっ付けながら言う。


「私は巻き込まれたなんて思わないよ。だって、シュン君は何も悪くないもの。シュン君だって被害者なんだから、私がシュン君を恨むことなんて絶対にない」

「……フィノ」

「それにシュン君が今まで頑張ってきたことも、努力してきたことも、どうにかしようとして来たことも、何もかも全部知ってる。まだ一年程しか一緒にいないけど、どれだけ世界を護ろうとしていたか知ってるよ」


 フィノはおでこを離し、軽く首を抱きしめながら言った。

 今度はその優しさに心が触れてしまい右目から大粒の涙が零れ落ち、自然と有難い気持ちになる。


「お父様やお母様、お兄様もそれは分かってると思うよ。魔物の侵攻を止めたのはシロ君だし、魔闘技大会もシロ君で、帝国はシュン君。でも、私達は全部シュン君だって知ってる。だから、巻き込まれたんじゃなくて、手助けを絶対にしてくれる。シュン君を護るために、国や国民を護るために、世界の危機から護るために力を貸してくれるはずだよ」


 濡れた目を閉じると義父さん達の優しい包まれる笑顔が見える。

 最後にフィノの笑顔が映り、お互いの肩を持った状態で離れ眼を開けると想像と同じ顔がそこにあった。


「それに私はどこまでもシュン君の傍にいるし、味方でいるよ。だから一人で背負わないで。私も一緒にいるから背負わせて。重い物も一緒に背負えば軽くなる。皆で背負えばさらにもっと軽くなるよ」

「そうだね。僕が間違ってたよ」

「ううん、間違ってはないよ。でも、何でもかんでも一人でやり過ぎだよ。周りの皆を信じよ? もう、シュン君は一人じゃないんだからね」

「うん……うん、そうだったね。僕は一人じゃない。僕には知り合った人がいるし、義父さんに義母さんに義兄さんもいる。それにこんなに可愛くて素敵な、僕には勿体ない恋人もいるからね」


 僕は恥ずかしい思いを隠し、爽やかな笑みを心掛けてフィノの頬に手を置きながらいうと、フィノは一瞬キョトンとした後顔をトマトのように真っ赤にした。

 多分僕の頬も薄らと赤くなってると思う。


「わ、私もかっこよくて、強くて、少し抜けてるけど、とっても頼りになる恋人がいる……。だから、私とシュン君はいつも、いつまでも一緒。困難を共に破って、歩みを合わせて前へ進んで、背中を合わせて頑張って、寄り添いながら生きていくの」


 気恥ずかしさにどもっていた声も、最後には力強い宣言するような声に変わり、やっぱり僕には勿体ない恋人だ。

 だけど、フィノがいたからここまで楽しい一年間を過ごせたし、これからも乗り越え、楽しんで幸せになれるはずだ。

 だから、僕はできることを精一杯して、二年後に備えないといけないんだ。


「ありがとうね、フィノ。まだ、話してないことがあるけど、それは義父さん達も交えて話したいと思う。でも、もう隠し事はそれっきりだ。今度からはフィノには隠し事をしないよ」


 胸につっかえが取れたその後は、僕はフィノと手を繋いだ状態で様々なことを話し、フィノと会う前の話でいろいろと盛り上がったりした。


 隠し事はしないと言ったけど、流石に不味いことは隠させて頂こうと考えています。




 その後当初の予定通り温泉街ロリアへより、温泉に浸かり心の安らぎを得た後僕達は王国へとゆっくりと帰還した。


 因みにロビソンとガノンは僕が言ったように混浴へと向かったそうだが年配の人しかおらず、一番若く綺麗な人でもおばさんぐらいで子供連れだったと聞く。

 やっぱり悪いことを考えれば、自分に帰って来るんだろう。

 悪いことをしたわけじゃないけど因果応報だね。

 まあ、その後フローリアさん達に冷たい目を向けられていたのは自業自得だとしか言えない。

 流石の僕もそれにはかける言葉もなく、フィノとフローリアさんに一緒にいたら写ると言われ、ご愁傷様と祈りながら二人から離れた。


 血涙を流しそうなほど後悔していたと最後に記しておく。


八月に入ってずっと昼間がだるいです。

これは夏バテでしょうか?

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