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会談からの断罪

これが私にとって最大限考えた会談内容です。

辻褄が合っているでしょうか?

 謁見が終了し、フローリア達と失礼だけど魔法で解毒した昼食を取りながら、午後の会議の話を詰めていく。


「恐らく、今日一日で話し合いが終了するとは思えません。陛下から言われましたが三日はかかるとお考えください。謁見で分かりましたが皇帝はそれほど強く出ないでしょう」


 フローリアさんは謁見の時のように軽はずみなことを言わないようにと釘を刺し、僕とフィノは深く反省する。

 でも、死にそうな召喚獣を見殺しには出来ないんだから仕方ないとも思う。


「うん、僕もそれは感じた。それとごめんね、予定ならいろいろと調べるつもりだったんだけど、想像以上に貴族の思考が黒すぎて頭の中で処理しきれなかったよ」


 今更だけど同調は個人に使えるが人が多すぎると直視する必要があるため、今回は念話を指定した人物全員に使うやり方を応用し、謁見の間にいる貴族の意識に向けたんだ。

 だけど、ありえないほど黒く染まっていて、あれはいくら想定していたとしても長時間は無理だったと思う。


「ううん、仕方ないよ。元々その魔法なしで行うものなんだから出来なくても変わらないよ」

「ありがとう。会議では危ないと思った時だけ使うようにする」


 それだけは譲れない。

 まあ、僕がこういう場に出ることもこれが最後かもしれないのだから大目に見てもらおう。


「第一皇子と第二皇子も皇帝と同じ感じだったね。第三皇子とは違うのに驚いたよ」

「あ、それは私も思った。でも、家でもそうだったからそこまでじゃなかったかな? 差は激しいと思うけどね」


 そう言えばセネリアンヌの子供達もそんな感じだったな。

 僕は直接会ったことがないからよくわからないけど、最近は何も聞かないから頑張ってるんだろう。


 その後フローリアさんと話し合い、胃が楽になってくる一時過ぎとなると会談を始めると連絡が来た。

 流石に四人の騎士全員を連れていくことは出来ず、会談室の外で帝国の兵と一緒に待機させ、フローリアさんを連れて三人で入室した。

 武器はフローリアさんのみ許され、帝国側も騎士団長を皇帝の背後に置いている。


「来たようだな。それでは、会談を始めよう」


 僕とフィノが皇帝と数人の重鎮貴族を前に座ると、皇帝自ら不穏な空気が流れる中穏やかにしようと明るい声でそう言った。

 皇帝を中心に第一皇子が次の皇帝となるからか座り、隣に一番の腹心なのかモルロさんがハンカチで汗を拭きながら縮こまり、その隣に気弱そうな眼鏡をかけた妙齢の女官が座っている。

 その隣はこの会談の話全てを書き取る記録係がいる。

 勿論帝国側だけでは改竄が出来る為、王国の駐在人や大使のような人物が代わりに座り記録を取る。

 後で知らされたことだ。


 反対側には僕達に鋭い視線を向ける宰相や大物らしい貴族、武人の様な体躯の貴族がいる。

 彼らは僕達にあまり印象を持っていないようだけど、あからさまにされるということはなめられているという判断でいいのだろうか。

 フローリアさんの魔力が高まっているから気に障るのだろう。


「――まず、そちらの要求をお話し下さい」


 進行役なのかモルロさんが進める。

 宰相の名は幾度となく挙ったため、目録にでかでかと書いてあったはずだ。

 この場にいるのはまだ権力が残っているからだろうか、宰相を使ってでも上手くことを運びたいかのどちらかだろう。


 フィノが隣にいる僕の手を握り、勇気を貰おうとしている。

 僕も握り返し、今度は対面しているため一人ずつ同調が可能だ。


「はい。王国側としてはセネリアンヌ元王妃の暴走が一番の原因かと思っています」

「そうでしょうな。王国へ嫁いだ元皇族なのですから、そちらで対処するのがいいでしょう」


 と、聞いてもいないのに宰相が口元をにやけさせながら言う。

 フィノも負けじと宰相に余裕の見える微笑みを向けて答える。


「ですが、元王妃は元々帝国が嫁がせた、と聞いております。友好関係を維持するためにということでした。ですが、元王妃がしてきたことと言えば帝国への橋渡し、情報漏洩、捜査員や諜報員等の手引き、王国貴族への誘惑や引き抜き等々……。とてもではありませんが友好関係を維持しようと先代国王陛下に嫁がせたとは思えません。まるで、王国を我が物にしようと誰かに示唆されたように思えます」

「なっ、そ、そんなわけないでしょう! いかに王国の王族であろうと帝国を嘗めた言い草!」

「ですが、そうとられてもおかしくありません。私は今だから言えますが元王妃から逐一帝国へ嫁げと脅されました。なぜでしょう? ですが、運良くその原因も運良く取れ、その話が頓挫されました。それから半年以上も経った今、一か月前のことなので覚えておられるでしょうが学園で決闘が行われました」


 激昂する宰相達を尻目にフィノは皇帝に訊ねる。


「謁見で謝罪を頂き、こちらはそこまで怒っていないと申しました」

「ああ、そうだったな。本心からすまないと思っている。本当なら八つ裂きにしたいだろうが、まだ成人にもなっていないのでな、処刑するという選択側が帝国でも取れないのだ。フィノリア王女も処刑より毎日苦しんでいる方がスカッとしないか?」

「そ、そうですね。私もシュン伯爵もそれほど危害があったわけではありませんので、王国でも成人するまでは処刑をしないようになっています」


 フィノは一瞬困ったように詰まるが、すぐに立て直し工程同様に返す。

 隣では宰相が第三皇子を処刑と聞き驚愕する。


 第三皇子と宰相は繋がってるのかな?

 だとしてももう意味ないと思うんだけど、どうなんだろうか。

 それにフローリアさんが魔闘技大会の話をしてくれたから思い出したけど、あの黒幕がセネリアンヌたちと繋がってたということは帝国とも繋がっていてもおかしくないんじゃないだろうか。

 ロトルさん達が言っていたように邪神側の動きはないんだろうけど、末端は動いているかもしれない。

 だってよく考えたら組織が三年間も停止したら世間についていけなくなるんじゃないかな? 情報収集くらいはして、動くと気が早くなったら動けるように備えているはずだもんね。

 今気付いてよかったよ。


 僕はまず怒り心頭中で考えていることが表に出ているとわかる宰相に同調を行う。


「それでですが、皇帝陛下は何故半年以上もの間があるのにもかかわらず第三皇子……フォトロン様でしたか――は、私と婚約していると誤認していたのでしょうか?」

「む? 確かにそれはおかしな話だ。恥ずかしい話し私はもう年でな、あ奴が生まれる頃には第一皇子のレムエストルの教育に携わっておったのだ」

「皇帝陛下自らですか?」

「ああ、そうだ。戦争がなくなり、武の帝国だがそろそろ文も伸ばさなくてはならない時代に来ている。そのため、幼少の頃から少しずつ仕事を与え、次期皇帝としての矜持も身に付ける為にも儂の隣に置いて教育したのだ」


 皇帝はいろいろと見てきているから、時代の皇帝を武力に染まらないように仕立てたのだろう。

 だけど、二人までは手が回っても三人目までは無理だったということか。

 結果、二人に付かなかった武力主義の貴族が付くことになって、あんな第三皇子が出来上がったのだろう。

 二人は皇帝と同じで結構かっこいいし、三人目とは別人に見える。


「話を戻しますが、皇帝陛下は私がフォトロン様に何と言われたかご存知でしょうか?」


 フォトロンという度にフィノの手に力が入る。

 流石に切られていない皇族を呼び捨てや第三皇子というわけにはいかないのだろう。


「いや、すまないが直接聞いていない。あやつの文を貰ったのは宰相でな。――宰相よ、あの時儂に言った言葉をこの場でいってみよ」

「へ? あ、はい! そ、そのー……えー……」


 なんとなく先が分かって来たけどまだよくわからない僕は黙って訊く。

 皇帝は痺れを切らして手を振ると宰相を黙らせ自分で答える。


「お主はあの時こう儂に答えたな? フォトロンはフィノリア王女に婚約を迫った、と」

「え? あ、はい、そうですが……」

「儂はそれ以外何も聞いておらんぞ? 本当に迫っただけなのであろうな? 聞いてみるとそれ以上のことをしでかしているようだぞ?」


 顔色をさらに蒼くし、白くしていく宰相から目を離しフィノに続きをと促す。


「私はフォトロン様にこう言われました。『あなたの婚約者である』と。先ほども言いましたが、皇帝陛下は私の婚約が破棄されたことをご存知でした。なのに、どうして当の本人であられたフォトロン様は知らなかったのでしょう?」


 さも、不思議ですねぇ、と頬に手を当てて首を傾げるフィノに僕は笑いそうになってしまう。

 まあ、我慢して次の人に同調を掛けていく。


「ふむ。宰相よ」

「……はい」

「儂は主が立派に育てて見せるというからあれを任せたというに、見た目は醜く王族とは見えず、武の帝国の者とも見えぬ。まだ中身が良ければよかったかもしれんが、相手に会うまで自分の婚約者だと思い込み、更には決闘で負けても婚約者だと、相手は卑怯者だという。学園に入学できたのだから見た目とは違うと思ったが、やはり何か細工でもしたか?」

「失礼ですが、口を挟ませていただきます。黙っていましたが、うわさは広がるのでここで申しておきますが、付け足すと本物の婚約者であるシュン伯爵を侮辱し、暗殺紛いなことをし、私の両親である先代国王夫妻を臭いと侮辱し、未来の国王は自分だと周りから囃し立てられてましたよ? もう少し言うと父君である皇帝陛下も愚民主義だとか、自分が王に就かなければならないと学生の目がある皆の前で王国に喧嘩を売りました」


 これをご存知ですか? と口元を手で隠し、にっこりとほほ笑む。


 フィノ……やっぱり相当怒ってたんだね。

 僕が甘いばかりで我慢させていたんだね。

 なんか……ごめん。


「宰相殿は王国に喧嘩を売る気はないと言いましたが、どういうことでしょうか? 説明させていただけますか? フォトロン様の教育はあなたなのですよね?」


 存外にあなたは王国と戦争をしたいのですか? と聞いているんだと思う。


「…………」


 その情報を握り潰しているであろう宰相はフィノを少し睨むが、最早尻尾を捕まえられただけではなく、身体全体を杭で打たれ逃げられなくなった者の言うこと等柳に風だ。

 僕とフィノは誰にも言っておらず、学園でもほとんどの人が聞こえていなかったようで大丈夫だが、審判をしていた学園長は知っていることだ。

 皇帝もやはり知らなかったようで今は目頭を押さえ、横目で怒りに籠った目を宰相に向けている。

 その隣にいる皇帝派の者達は蔑んだ目を向け、よく分からない派の方は委縮気味だ。


「……思っていた以上に大変な騒ぎになっていたようだ。知らぬとはいえ、情報がここまで上がってこなかったのは儂が不甲斐ないからだな。フィノリア王女、シュン殿。今戦争になっていないのは二人が手打ちにしてくれておかげだな?」


 そう断言ぎみに訊ねる皇帝に僕とフィノは頷いて答える。

 フローリアさんからは怒気が伝わってくるから、後で何か言われるなぁ……。

 でも、戦争は嫌だからいいじゃないか。


「そうか……。本当にすまなかった。最早これは会談をするレベルにない。セネリアンヌの行い、帝国の者の不正入国と暗躍、愚息の馬鹿騒ぎ。どれをとっても王国と戦争ものだ。今戦争が起きていないのは心の広い王国と二人のおかげだ。フィノリア王女、帝国は王国の要件を全て飲むことにする」

「「「なっ……! こ、皇帝陛下!」」」

「そ、そんなことをすれば、帝国の威信が……!」


 宰相が帝国を思い止めようとするが、皇帝は立ち上がると共に眉を跳ね上げ烈火の如く怒りだした。


「黙れぇぇ! 誰のせいでこのようなことになっておると思っておる! 全て宰相! 貴様の指導不足が招いたことではないか!」


 帝国内でも温厚だと思っていた人が起こると相当怖いのだろう。

 僕達もまさかここまで激怒するとは思っていなかったため、少しビクリとしてしまう。


 更に皇帝はテーブルを叩き付け、宰相を指さして告げる。


「貴様……宰相の任を解く。財産取り押さえ及び帝国の追放、更にお前に加担した者も処刑する」


 まさかの展開に呆気に取られるが、戦争を起こそうとする者ならそうなっても仕方がないかもしれない。

 でも、話についていけない僕達。


「と、言いたいが今は大事な会談の最中だ。団長よ、お前が加担していないと信じ命令を下す。即刻宰相を牢屋に閉じ込め、王国からの要注意人物目録に載っている者を拷問してでもいいから取り調べよ」

「はっ! 直ちに執り行わせていただきます」


 皇帝は残っていた理性を使い、背後の団長に宰相を連れ出すように指示を飛ばす。

 団長が皇帝派かはわからないけど、恐らくあの目録に名前が載っていなかったのだろう。


「は、離せ! わ、私を誰だと思っている!」

「見苦しい! お前は罪人だ! 大人しく牢に入っていろ!」


 外で待機していた両騎士も何事かと見るが、宰相が引きずられていくことに驚く。

 僕達と目が合った王国の騎士に何でもないと首を振って応え、帝国の騎士は一人を残し他は団長の指示に従って皇帝の命令に従う。


 会談の場を罪人を捌く場へと変え、激昂した皇帝は静まる場で深い息を吐き無理やり精神を落ち着かせる。第一皇子は父親が激高したところを初めてみるのか、驚愕の表情をしながら宥め、場を整理しようと努める。

 モルロさん以下皇帝派と思える人物達は戦慄と同時に邪魔者がいなくなったからか安堵の気持ちが現れ、残った二人のよくわからない派は大物らしい貴族が青褪め大量の汗を掻き、武人貴族は何も変わらず無言を貫く。


 そして、落ち着いた皇帝は僕達を見て深々と頭を下げた。


「先ほどから謝ってばかりだが、もう言う言葉も見つからぬ」

「頭を上げてください、皇帝陛下。元は私達がしっかり伝えていなかったことも悪いのです。皇帝陛下の裁量も私達の満足いくものです」


 震える声で言う皇帝に慌てることなく落ち着いた声で言うフィノ。

 僕も隣で頷き、帝国の罪人は帝国の方に則って裁いてもらうことでいいという。


「父上、フィノリア王女もシュン殿もそう言っておられます。今は会談を速やかに終わらせ、その後しっかりとお互いに情報を交し噛み合わせるのが先ではありませんか?」


 息子として接した第一皇子の言葉にさらに落ち着きを取り戻した皇帝はゆっくり上体を起こし、どっと疲れたような表情で僕達を見る。


「それもそうだな。フィノリア王女、シュン殿。たいへん不快な思いをさせ申し訳ない。早速で悪いが、王国の要求を言ってくれるか?」


 僕とフィノは顔を少し見合わせ、義兄さんから聞いた要求を伝える。


 一、帝国は王国が調べた情報を使い、魔闘技大会から今回の件までに加担した者を裁くこと。ただし、裁量は帝国の皇帝に委ねる。

 二、帝国は王国に対し、損害を賠償し、それとは別に五千万ガル(王金貨五枚分)支払うこと。ただし、損害賠償を先に行い、五千万ガルについては五年間の内に支払うこと。

 三、帝国は武以外の面にも力を注ぎ、王国以外の国に対しても同様なことが起きていないか取調べること。

 四、それ以降帝国と王国は対等な国とし、お互いに無理ない国造りに努めること。


 この四つが今のところの内容となり、これ以外については今後の話し合いでどのような付き合いをしていくかが決まることになる。

 僕達が任されたのは帝国に情報を伝えることとこの会談の話し合いだけなので全てを決めることは出来ず、後は義兄さんが大使を送りしっかりと煮詰めていくだろう。


「ふむ。これだけでいいのかと思える内容だが、少々骨が折れる内容だな。一つ付け足すがいいかね?」


 内容を読んで少し考えた皇帝がそう訊ねて来た。

 見た感じ悪いことではないようなので頷く。


「帝国が見つけた者はこちらの裁量で裁くが、王国のみならず他国にいる帝国の犯罪者はそちらで裁いていいとする。ただし、その罪状に関してはこちらに教えてもらえると有難い。王国も放っていると思うが入国許可のある諜報員や商人等を消されては困るでな」

「それはそうですね。では、捕まえた後罪状の掲示をするという文を加えます。あと、身元の分かる遺品を証拠としましょう」


 それはそうだな。

 僕も学園を出ればいろいろな国に行くと思うから、その時に何もしていないのに殺されるとか理不尽極まりないもんね。


「あと、セネリアンヌに関しては王国の裁量に任せる。宰相が言っていたようにもう王国の人間なのでな、帝国は口を挟まん。その子供となればなおさらだ」

「分かりました。国王に伝えます」


 それもあったのか。

 やっぱり政治に関してはよくわからないな。

 やっぱり冒険者として自由にいるのが一番楽だよ。

 でも、フィノと結婚したらどうなるんだろう?

 どこかのんびりとしたところで家を買って、好き勝手に生きたいと思うのは無理な話なのだろうか、とここ最近思うんだよね。


「ふぅー、儂から言うのはおかしな話だが、これからはよりよい関係を築けるよう、よりいっそう力を合わせたいと思う」


 皇帝はそう言い立ち上がるとフィノへ手を差し出してきた。

 フィノも立ち上がり優しい笑みを浮かべその手を包み込むように取った。


「ええ、有難く取らせていただきます。これからいろいろなことが起きると思いますが、力を合わせて乗り切りましょう」


 これで一応一番の目的が終了した。

 僕は何もしていないのにどっと疲れた気分だ。

 フィノには悪いけど早く横になりたい。


「それでなのだが、今更召喚獣の容体を見てほしいとは言えんな。何が起きるか分からぬし、早く王国へ帰還した方が良いと思うのだが……」


 同調を使わずとも今の皇帝の信条を読むことが出来るほど悲痛な顔をしている。

 確か、幼い頃から一緒にいると言っていたはずだから五十年は生きている召喚獣となる。

 まだどういった召喚獣なのか聞いていないから知らないけど、そんなに生きれる召喚獣というとそれなりに強い分類に入ると思う。

 召喚獣は魔物だから普通の動物と違って寿命も長いはず。だけど、それがどのくらい長くなるのかは僕にはわからないし、恐らく研究している人も一般的な魔物しか知らないだろう。

 ただ言えることはランクが高くなれば強くなるように、寿命もそれに準じて長くなるということだ。


 例えば古の時代から生きている幻獣は強さを測れず、ドラゴンなんかも数千年と生き続けることができる。


 皇帝の傍では第一皇子だけでなく、その家臣であるモルロさん達も眉を顰めていた。


「どうしたらいいかな……」

「そうだね……」


 僕の呟きをフィノが拾い、僕としては別に治療しても構わないと思うけど、王国としてはダメなんだろうなぁ。


 いや、ちょっと待てよ。

 帝国にもこれからの体勢で話し合わないといけないんだよね?

 それには王国を襲った黒幕邪神の信者達についても話さないといけなくなるはず……。

 と、言うことはここで僕としての借りを作っておけば、もしもの時に備えられるんじゃないだろうか。

 別に帝国に一緒に戦ってほしいとかは僕も言わないけど、僕を狙わず家族や知人、街や国を襲うことも十分考えられるよね。

 その時に各国との繋がりと情報の交し合いとかできるようにしたいと思う。

 今気付くのは遅いかもしれないけど四大国のお偉いさんには、どうしても僕は協力を仰ぐことになるんだ。

 見捨てるという考えが僕にはないのだからそうするしかないんだ。

 だとしたら、この件を僕と王国何方が受けたらいいのかは知らないけど、僕が受けておいて協力させることもできるのならそうしておいたほうがいいよね。


 そこまで考えた僕はチラッとフローリアさんの方を向き、念話を使い僕がしたい未来のための基盤作りについて話してみた。


(――どうかな? だから、僕はここで深い縁を作っておきたいんだけど……)


 考えを伝えるとフローリアさんは少し眉を上げて考え、軽く頷き了承をしてくれた。


(シュン様の言うのは謎の組織のことですね?)

(うん、そうだよ。帰ったら知っていることを全部話そうと思うけど、今は帝国に出来る限り借りを作っておいた方が良いよね? この先いつ王国の様に襲われるか分からないしさ)


 僕に恨みがあるみたいだけど、というのは黙っておく。

 だって、相手は悪い神だから、世界を傷つけようと考えるかもしれないんだし、僕を嵌めるために二か国を攻めることも考えられる。最悪、バリアルみたいに魔族が攻めてくるかもしれない。

 早めにバリアルとも連絡を取って魔大陸に行ってみた方が良いかも。


(分かりました。条件としてフィノリア様と私の同行も許可させてください。武器に関しては私は魔法団長ですからいりませんし、シュン様のおかげで無詠唱と杖なしに慣れてきたところですから安心ください)

(わかったよ)


 そこで念話を切り、少し嫉妬してくれている可愛いフィノに苦笑を浮かべて謝り、皇帝達の方を向き僕は口を開く。


「皇帝陛下。条件を飲んでいただければ、私は召喚獣の容体を見てみたいと思っています」

「ほ、本当か!? の、飲むから診てやってくれ!」

「ち、父上!? シュ、シュン殿の条件が……無いとは思いますが!」

「そ、そうです! 陛下、条件を聞いてからでも遅くありません!」


 流石の僕達もそれには同意見だ。

 僕は咳払いを一つしてから、独自に付け足して条件を伝える。


「いくつかありますが一つはフィノリア様とフローリアの同行を許して頂きたいです」

「ああ、そのくらいなら大丈夫だ。そもそもシュン殿自身がAランク冒険者というのだから、逆に儂の方こそ護衛を付けさせていただきたいのだが……」


 失礼な言い方だが皇帝の顔がニヤついているのでいいだろう。

 僕としてもそっちの方が安心できるし。


「はい、構いません。ですが、二つ目として私の力を周囲に伝えないようにしていただきたいです。ですから、護衛も皇帝陛下が信頼できる口の堅い者でお願いします」


 もし、病気だった場合確実に技量がばれてしまうだろうから、実力ばれを防ぐとともに、出来るだけこの世界に先進的すぎる技量を伝えないようにするためだ。

 技術に間がないというのは危険性や理解していないことになるから、回復魔法と言えどかなり危険なことだと思う。

 やりすぎの回復は身体に毒と何かで聞いたことがある。


「ふむ。まあ、冒険者でなくとも自分の力は隠しておきたいだろうからな。よかろう。こちらは儂と息子のレムエストル、ここにはおらんが第二皇子シュビーツ、さっきまでおった騎士団長を入れた四人にしたい」

「はい、私はそれで構いません。最後にもし寿命だった場合、私でもさすがに延命させることは出来ません」

「うむ、それは仕方のないことだろう。さすがに寿命なら安らかに眠ってもらいたいと思う」


 皇帝以外の者達も皆頷いたのでこの会談はこれで終了となり、少し落ち着いてから召喚獣の元へと案内させてもらうこととなった。

 元々滞在が終わるのは目録に名前が書かれた要注意人物の調査が終わってからなのだ。

 帰ってから取り逃がしたことが分かり、再び今度は逆恨みで暗躍されては困るということだね。


 そして、この日はパーティー自体がなくなり、僕達は魔法を掛けた夕食を食べ、結界を施してから就寝した。


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