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後片付け

書きたいのに上手く書けない……。

最近書き方もあやふやになってきたような……

「――それでは、私はこれで失礼する」

「私もこれで」


 義兄さんは髭がちょろりと生えた少し小太りな男性との会話を打ち切り、少し離れた位置で待機している僕の元へ帰って来た。


 義父さんと義母さんの容体が回復に向かい、フィノは現在二人に付き添ってもらっている。

 その間に僕と義兄さんは一週間ほどの時間を使い、少しでも嫌疑のある貴族を洗い出し、ここ王都にパーティーを名目に呼びつけた。もちろん、気づかれないようにその他の貴族も呼んである。

 中には夜逃げのように証拠の隠滅と国外へ逃亡しようとしていた者もいたため、先に通り道の封鎖と検問の強化を図っておいてよかった。


 パーティーは普通のパーティーではなく、末端の貴族まで呼びつけても問題ないように義兄さんに王位継承を決めたというものとなっている。

 もともと数年以内に義兄さんに王位を譲り、そのお披露目を行う予定だったので問題なく、義父さんと義母さんの容体が回復に向かっていると言っても、あと数か月は容体が元に戻ることはない、というのが医師の判断だ。

 解呪をした僕から見ても二週間近く呪いに苛まれた体は疲労が溜まっているだけでなく、精神がすり減り、肉体の体調も良くない。


 地球と違い、この世界の医術が回復魔法の存在があることでほとんど発達していないのは分かるだろう。

 そこから分かるように寝たきり、特に意識の無い者の体調管理を行うことが出来ない。

 また、筋肉の硬直を防ぐための運動やマッサージ、水分補給等も地球の知識に比べれば半分の水準もないだろう。

 回復魔法ではそこまで出来ないのだ。

 今の義父さんと義母さんが元に戻るというのは弱くなった体を元に戻さなければならないということだ。


 こういった理由もあり、執務や公務を行えないと判断されて義兄さんがいよいよ国王となることが決まったのだ。


 そして、現在はそのお披露目のパーティーを行っている。

 だが、裏では僕を主体にあらゆる貴族の思惑と先ほども言った王国の裏切り者を暴き出している。


 先ほど義兄さんが話していた小太りの男性貴族の名はブランチ・フォン・キューベルといい男爵位を持つ者だ。

 嫌疑は帝国にいる仲間に情報を流していたようだ。

 程度で言うとそれほど深くは関わっておらず、人員が減ったために情報を流す係に付いたようだ。


 情報といっても帝国が得をするような情報ではなく、元王妃のセネリアンヌに関わるような情報のみのようだ。

 中には王国の情報も持っていかれていただろうが、早い段階で気づくことが出来たようでまだ許容範囲以内とのこと。


 こうまでして帝国に、元王妃のセネリアンヌに加担するのかよく理解できない。

 ばれたら元も子もなく、帝国に行けたとしても皇帝は知っているから最早意味をなさないというのにな。


「シュン、どうだった?」


 義兄さんは隣まで歩き、僕から飲み物を受け取ると少し息を吐きながら聞いてきた。


「……嫌疑通り情報を流していたようです」


 僕は目を閉じ、ブランチが思い浮かべていたことを頭の中で反芻させ、整理しながら答える。


 義兄さんに聞かれた通り、僕はブランチに対して『同調』の魔法を掛け思っていることを調べていた。

 普通に話していただけでは調べられないので、義兄さんが言葉巧みについ思ってしまうように誘導してくれている。


 深く関わっている者が『帝国』という言葉を聞けば嫌でも思い出し、やって来たことを思い浮かばせるだろう。

 あまり関わっていない者や知らずの内に関わっている者等は調べ難いが、どうにかして調べ上げるしかないのだ。


 そして、先ほどのブランチが最後の一人となり、残った貴族は四十名ほどとなるのだが、その四十名全てにも一応取り調べを行うことになる。

 その人達に関しては白というのがほぼ確定しているため僕が調べることはせず、義兄さんが質疑応答をするといった感じとなるようだ。

 また、中には今回来なかった者が存在する。

 辺境の地に住まう者、怪我や病気をしている者、来るまでに時間がかかり、今回の緊急招集に近いパーティーに間に合わなかった者も少なからず存在しているのだ。


 もともと一週間前に急遽王位継承のお披露目パーティーを行うとお触れを出すのはおかしいのだが、いろいろと広がっているため仕方がなかった。

 義父さんと義母さんが倒れてしまったことは国民にまで広がってしまっているのだ。

 国民達はそれほど貴族が慌ただしくしていない為半信半疑なのだそうだが、義父さん達が倒れたことを知っている貴族達は口止めを行ったもののいろいろな憶測が飛び交っていた。


 まだ炙り出しを行っている貴族達には義父さん達の容体が良くなったということを伝えていない。

 伝えてしまうとこのパーティーに出てこない者もいるだろうと考えたからだ。

 まあ、ばれても良いように包囲網を組んだ、という考えもあったけどね。


「そうか……。これで一段落ついたな」

「はい。後は捕まえるだけです」

「ああ。その辺りはレオンシオ団長に任せよう」


 一時間もするとパーティーもお開きとなり、僕と義兄さんは次の段階に進むために近衛兵と文官達と話し合いを行った。

 罪の証拠を集めるのには苦労するが、元王妃が何も考えずに騒ぎ、暴露するものだから簡単に罪状を作り上げることが出来ていた。

 今回の調べはその裏付けも兼ねていたのだ。


 それも長く続いた元王妃の策略もこれで一段落ついたということだ。


 因みに元王妃の子供達は関わっていなかったそうで、息子は文句を垂れながらも軍部で性根を叩き直され、娘二人は離宮に住みながら教養等の勉強とメイドとしての作法を習わされている。

 一番下の息子シリウリード君は何の罪もないということで今も王族としての勉強や作法を習っているそうだ。

 先日はフィノと一緒に楽しそうに話をしていたので安堵したよ。




 次の日。

 僕は三日程の長いパーティーの間ずっと相手の精神の中、思考を読み続けたことで精神的な疲労が溜まっていたため休憩を挟むことになった。

 義兄さんは近衛兵達に指示を飛ばし罪状作りや拘束手配の準備を密かに執り行っている。

 それと同時に僕はフィノと義父さん、義母さんと話し合い、帝国との会談内容を決めることになった。


 帝国への会談は義兄さんが国王となっているため行けず、義父さんと義母さんが向かうにも体調が万全ではないため行けず、僕とフィノが数人の近衛兵の護衛の下帝国へ向かうことになったのだ。

 勿論義兄さんや義父さん達は自分達が行くと無理を言っていたのだが、そこはどう考えても無理なため遠慮してもらうしかなかった。


「――仕方ないな。フィノ、シュン、気を付けていくんだぞ。帝国では何が起きるか分からないからな」


 義父さんはベッドの上で横になった状態で頭を横に向け、隣で座っているフィノの頭を優しく撫でて心配そうに言う。


「はい、お父様。シュン君もいますし、危ないことはしません」


 フィノはその手を取り、胸元まで持ってくる。


「ええ、僕もしっかり見ておきます。いつものようにフィノからは一歩も離れませんよ」


 フィノの肩に手を置き、目を合わせて少し頬を染めながら笑い合う。

 それを見た義父さんは優しく微笑み、隣にいる少し頬がこけた義母さんが目を開けて眉を悲しそうに顰めて言う。


「本当なら、元気な姿で、あなた達と会いたかった、のだけどね。学園の方はどう?」


 まだ本調子ではない為放す言葉が息切れで途切れ途切れとなっている。


「はい。私は楽しくしています。目的通り友達も作れました。少し慌ただしくなることもありましたけど」

「ふふふ、元気にやっているようね。シュン君もしっかりしてくれているようね」


 義母さんは反対のベッドからフィノの手を取り、義父さんの手と重ね持つ。

 僕もその手を重ねてフィノの手の上から包み込むように持った。


「はい。ちょっとありましたけどね。偽婚約者や婚約がばれたり、その他については楽しくやっていますよ」

「ばれちゃったのね。自分からばらしちゃったの?」

「ああ、まあ……そうなりますかね」


 当時のことを思い出してしまい、照れ臭く後ろ頭を掻いてしまう。

 隣でフィノはクスリと笑い、つられて義母さんと義父さんも笑う。

 僕は居心地が悪くなるが嫌な気分ではなく、悪事がばれた子供のような気分となった。


「あははは、自分からばらしたのか。それにしても早いな」

「はぁ、仕方ないですよ。帝国の皇子があそこまで馬鹿だとは思わなかったんですから」

「ああ、聞いたが相当なようだな。そのことも含めて自分が生きたかったのだが……この体では仕方ない。後で親書もしたためておくから頼んだ」

「わかりました。話を付けた後はすぐに帰ってきますよ。何かあれば念話で伝えますから」

「シュンにはそれがあったな。――フィノも言わなくてもわかるね」

「はい。いつものようにシュン君と一緒にいます」


 そう言ってフィノは僕の方を見てにっこりと微笑む。




 義父さんと義母さんが疲れ始めたのでそこで話をやめ、僕とフィノは部屋から退室し帝国に向かうまでの時間をゆっくりと過ごすことになった。

 この数日間慌ただしく、長い時間過ごしていたようだった。

 だけど、これで一段落つき、一時は学園にいた時のようにゆっくりできるよ。


 僕とフィノは手を繋いだ状態で慌ただしく動いている兵士やメイド達に挨拶をしながら、ツェルとフォロンを従え義父さんと義母さんの寝ている部屋の近くの中庭までやって来た。


「少しここで休憩しよう」

「うん」


 中庭に設置されたテラスに向かい合わせに座り、収納袋からティーセットを取り出しツェルとフォロンに準備を行ってもらう。


「ふぅ~。林間学校は楽しかったのかな?」


 あれから一週間余りが立っているため、学園の友達アル達は皆学園へ帰り、そろそろ夏休みに入るといったところだろう。

 林間学校もそうだったけど、夏休みも初めて家族と過ごしたり、友達と一緒に遊べるかと思っていたけどなぁ……なったものは仕方ない。

 来年、いや、冬休みを思いっきり遊ぶしかない。


「私も行きたかったなぁ……。友達と遊びに行ったことないんだもん」


 フィノは唇を突き出しアヒルのようにそっとカップに口を付ける。

 フィノの仕草が可愛らしく僕はそれに微笑み、お茶請けのクッキーを一口噛み飲み込む。


「そうだね。友達と行きたかったね。まあ、来年もあるし、いろいろとノール学園長に聞かれたから行事はたくさんあると思うよ」

「そうだったの? 何がある?」


 フィノは口の中一杯にクッキーを入れ、紅茶で口を潤しながら眉を少しピクリと動かし興味津々と聞いてきた。


「それは……」

「それは?」

「秘密だね」


 僕はにっこりと微笑む。

 フィノは呆気に取られたかのようにポカーンとし、少ししてぷくっと頬を膨らませた。

 ツェルとフォロンもクスリと背後で笑い、フィノはそっぽを向いて頬を赤く染める。


 気恥ずかしいようだな。

 フィノもそろそろお年頃と呼ばれる年になるんだね。

 僕もかれこれ二十年程生きることになるのか……。

 ちょっと感慨深い年になる。


「まあ、いろいろな行事があるのは確かだから楽しみにしてなよ。今までの行事の中にもいろいろとあるしね。そもそも何が採用されたかは僕も知らないし」


 カップをカチャリと音を立てて皿の上に置き、フォロンからお代りの紅茶を淹れてもらう。


「シュン君も知らなかったんだ。今までの行事って何があるの?」

「有名なので言うと大会になるけど、他は……学習祭くらいかな? ……あまり面白そうな行事はないね」

「シュン君もそう思うんだ。シュン君の世界の行事を聞きたいけど、今は我慢しておく」


 フィノはそう言ってにっこりと微笑んだ。

 僕もそれを見て悪いねと謝り、再度入れてもらった紅茶を一口飲む。


「フィノリア姉様……シュン義兄様」


 学園の話をしていると端にある通路から専属のメイドを従えた義弟のシリウリード君がやって来た。

 そして、何やら僕を見て険しい顔をする。


 何やら嫌われているようなんだけど……。

 まあ、実の母を嵌めて捕まえたのは僕だし、今回の件でのこともあるだろうから嫌われても当然かもしれない。

 元王妃も自身の子供には厳しい人間ではなかったようだし、シリウリード君にとっては大切な母親だったんだろうね……。


 シリウリード君はそのまま僕と一定の距離を取るように移動するとフィノの傍まで行き、満面の笑みを浮かべてフィノに話しかける。


 ここまであからさまだとちょっと悲しくもあるし、フィノも少し苦笑気味だ。


「姉様、おはようございます」

「おはよう、シル。勉強は終わったの?」


 フィノはシルの方を向き優しい笑みを浮かべて問う。

 シリウリード君は少しキョドルと頬を掻き、目線を彷徨わせながら頷いた。

 それを見たフィノはクスクスと笑い、シリウリードの額を指で突いた。


「シルったら……。来年は私の後輩になるのでしょう? しっかりしていないと入学できないわよ」

「が、学園の試験はそんなに難しいのですか?」


 聞いていた話ではそこまで勉強ができないわけではないみたいだったけど、するのは嫌いなのかな?

 まあ、僕も勉強は嫌いだし、フィノも好きではないと言っていたかな。


「ふふふ、そこまで難しい物じゃないわ。ただ、自信を付けて本気を出す為には毎日練習や積み重ねが大切なのよ」


 そうだね。

 いろいろとフィノには教えて来た。

 これからも教えることはあるだろうけど、これまでの修業や勉強でいろいろと学んでくれたみたいだ。

 僕も師匠からいろいろと教わった。

 それをフィノも感じ取ってくれてよかったと思うよ。


 シリウリード君は唇を突き出し、反抗期の子供が反発するかのようにそっぽを向き、黙って微笑んでいるフィノに気付きほんのりと頬を染める。


「わ、分かってますよ! ぼ、僕だって頑張ってます」

「そう。なら、これからも頑張ってね。来年、楽しみにしているわ」

「はい! 姉様みたいに強くなります!」


 シリウリード君はそう言ってビシッと背筋を伸ばす。

 僕達はそれを見て微笑ましい目を向ける。


「なら、シュン君に教わってみる? 少し時間もあるよ?」

「え?」


 そう言ってシリウリード君は僕の方を向き、嫌そうな顔を露骨に向けてくる。

 僕は苦笑し、どうする? というかのように首を傾げてみた。


「い、いいです! 自分一人で出来ます! 姉様、失礼します」

「シ、シル……」


 シリウリード君はフィノの制止を振り切って専属のメイドを連れ出て行ってしまった。

 フィノは少し悲しそうな顔をし、僕は苦笑してカップに口を付けるのだった。




 それから数日が経ち、僕とフィノは義父さんと義兄さんから親書を貰い、帝国の皇帝と話し合う案件を聞き出発した。

 アポに関しては事前に取り、今回の出来事の会談をすることを伝え、了承を得ているそうだ。



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