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決闘という名の……

貴族(やり取りとか)とか政治とか全くわかりません。

何かいいサイトとかありませんかね?

今のところそういうところを諦めちゃったので皇子を徹底的に馬鹿にしました。

ぶっちゃけこの作品は頭をからっぽにして読んでもらうしかないです(笑)。

そうすれば楽しんでもらえるかと……。

 第五訓練棟。


「シュン君」

「うん、分かってる。大丈夫だからね。――皆はフィノのことを頼むよ」

「おう! 任せろ!」

「ええ、フィノちゃんに事は誰の手にも触れさせないわ」

「怪我の無いよう頑張ってきてください」

「多対一なんて、と思いますが、シュン様なら大丈夫ですよね?」


 第五訓練棟の入場口でフィノと友達となった四人に声をかけられた。

 フィノは少し心配してくれるようで、僕の手を握り自分の胸の前に持っていって勝利を祈るように包んでくれている。

 四人もそれぞれフィノの元を離れないようにお願いし、了承を得る。


 今から始まるのは僕対帝国第四皇子フォトロン、その取り巻きとカイゼル君との決闘だ。

 ルールは殺しや急所を狙わなければ何でもありの大会と同じルールとなっている。

 だが、決闘のため魔道具の使用は許可が出ている。


 恐らく、カイゼル君は魔道具を使わない可能性が高いが、あの皇子達は魔道具を使って来るだろう。

 少し頭に来てるから相手の全力を引き出して叩き潰した方がいいかもしれない。

 大体この決闘は僕の実力を示す場でもあるから、ノース学園長に言われた様に一瞬で倒すわけにはいかない。


 僕は五人と分かれ、闘技場内部へ歩いて行く。


 客席には学園に在学している多くの生徒が見に来ていることだろう。

 先日校内放送のようなものがされ、多くの生徒が決闘があることを知っているからだ。

 表向きは決闘ではなくエキシビションマッチというか不服を唱えた皇子とカイゼル君が僕に試合を挑んだという形になっている。

 多対一の理由はまあ、僕が許可したという形になり、皇子が最後の我儘として多対一を組んだということになる。


 皇子はこの決闘で負ければ全責任を取って退学処分となり、その取り巻きは罰則後退学処分、カイゼル君は罰則後謹慎処分が言い渡されるようだ。


 皇子達も謹慎処分だと聞いていたが調べていくうちにいろいろと明るみになり、職員会議でこれ以上は無理だと判断された。

 校則を破り過ぎて守れる者も守れないということになり、通信の魔道具で帝国に連絡を入れたところ皇帝自らが謝り、王族としての身分を剥奪し、叱るところへ送って教育させる、と言われたそうだ。


 その声には怒りと悲しみの気持ちがあったそうで、学園に送ればその性格も治るかと思ったが無理だったそうだ。

 まあ、皇子は先天的な貴族主義のようだからなかなか治らないだろう。

 最近の王族は国民主義というか、国民のために動く者が多い。

 それも魔族との戦争がなくなったからだ。


 さらに、皇帝からは僕に一言現実を突き付けてほしい、との旨を頂いた。

 直訳すると何をしてもかまわないから、自分がやって来たことを理解させてほしいとのことだろう。

 後怪我をさせてもいいという意味と取っていいとノール学園長が言っていた。


 まあ、怪我はさせないけど、それなりに怒りをぶつけさせてもらう。

 一番腹が立ったのはフィノの婚約者だと公然の前で言われたことだ。

 あの時が一番怒りを感じたよ。


 まあ、今回の原因は皇帝がしっかりと教育できなかったことだろう、と小耳にはさんだ。

 表向き試合というようになっているがやはりみんな決闘や罰則のようなものだと考えているそうだ。

 話を聞いた限りでは義父さんのような皇帝からどうしてあんな皇子が出来たのだろうか?

 もしかして、あの王妃の血筋じゃないだろうな……。

 まあ、だとしたら何となく納得できる。

 やってることが同じだし……。




 会場まで歩いて行くと既にノール学園長自らが審判役としてこの場に立ち、杖を片手に立っていた。

 まだ皇子達の姿は見えないが、暗がりの奥からカイゼル君の姿が見え始めた。

 何やら不機嫌そうなところを見るとこの決闘に思うところがあるのだろうか?


「シュン君、体調は万全かい?」


 ノール学園長が微笑みながらそう問いかけてきた。

 僕は軽く頭を下げて微笑んで答える。


「ええ、万全ですよ。皇子はまだ来ないのですか?」


 後半の問いはカイゼル君にした質問だ。

 カイゼル君はそれを聞き眉を盛大に顰め、僕を睨むように構えるとノール学園長に叫ぶように問う。


「学園長! 私はシュンと一対一で戦いたい! あんな皇子など不要だ! 邪魔なだけだ」


 最後はぽつりと呟くように言い、それを聞き留めたノール学園長は苦笑する。

 観客もカイゼル君の言い方に怒りを含む声を上げるが、ノール学園長が杖を掲げることで場を収めた。


「君は何をしてきたのか分かってるかい?」


 その問いにカイゼル君はたじろぎ、一歩足を下げるがすぐに身なりを整え頭を下げて言う。


「はい。私の不注意な行動でシュンのみならず多くの生徒、学園に迷惑をかけたと思っています。ですが、私はどうしてもシュンと戦いたかったのです! 周りから主席候補だと言われていた、私を負かしたシュンと戦いどちらが上なのか知りたかったのです!」


 カイゼル君は段々熱を帯び始めてきた。


「私だってシュンの実力が凄まじいことは知っています! ですが、私はどうしても自分の力で試したかったんです。自分を負かした人はこんなに強かったのか、と。だからと言って負けるつもりは微塵もありません!」


 観客も罵倒を飛ばすことはなかった。

 なんとなくカイゼル君の言うことも理解できるのだろう。

 だけど、今回の件はそのお身が行き過ぎた結果によるものだ。

 僕としてはカイゼル君の気が済むのなら一対一で行ってもいいけど、それを許可するのは学園長であり、生徒全員だ。


 ノール学園長は少し考えるように顎に手を添える。

 カイゼル君は九十度に頭を下げ、今にも倒れ土下座をしそうだ。


「無理だ、と言いたいけど、引く気はないんだね?」

「はい。ありません。我儘を言っているのは分かります。自分の願いのためにこんな結界になったのだと理解しています」

「私としては生徒の願いは出来る限り叶えたいと思っている。問題は生徒とシュン君だ。彼らが納得しなければそれを許可することはできない。あとできたとしても、君に貸す罰則を増やすことになる。まあ、退学にはならないと約束しよう」


 ノール学園長は僕を見る。


「僕は構いません。これは勝てるからではなく、カイゼル君が僕に挑みたいという意思を汲みたいからです」


 僕の返答にカイゼル君は目を閉じ目礼してきた。

 頭に血が上らなければそのあたりはきちんとできるみたいだな。

 ちょっと短気? なのかな?


「ふむ、では生徒全員にはどう説明するつもりだい? 教師達は私に任されているから大丈夫だ」


 カイゼル君は一歩前に出て僕にまず「すまない」と一言謝り、キリっと表情を変えると生徒全員に向かって声を張り上げた。


「同級生、上級生の皆には本当にすまないと思っている。身勝手な行為でここまでことを大きくしたのは私の落ち度だ。それを許してほしいとは言わない。だが、私の願いをどうか聞き入れてくれないだろうか」


 その言い方に多くの生徒が怒りの籠った声を上げる。

 カイゼル君は頭を下げたまま声を張り続ける。


「何も私のためだけに言っているのではない。私が一対一で戦えば、皆はシュンの戦闘を二度見れる。Aランク冒険者『奇術師』としての戦闘をこの目で二度見れるんだ! 当然私もすぐに負けるようなことはしない! 彼の力を出来る限り引き出し、その二つ名の通り奇術を引っ張り出して見せる! だから、私にシュンと一対一の試合をさせてくれ!」


 生徒はそう言われて罵倒するのをやめると隣にいる人達と話し合い始め、何やら拍手の音が聞こえ始めた。

 決め手は僕の戦闘が二度見れると『奇術師』のせいだろう。


 なんてことを……と言いたいが、まあカイゼル君もそれほど必死なのだろう。

 それにしても『奇術師』であることが生徒全員にばれたのか……。

 ちょっと遠くに行きたい気分だ……もちろんフィノも一緒に。


 なんて考えていると生徒は全員立ち上がり、盛大な拍手でカイゼルの試合を受け入れていた。


 先ほどの「すまない」はこのことだったのか。

 まあ、人の弱みのようなものを握るのは嫌いだったのだろう。


「こうなったら仕方ないね。では特例としてシュン君とカイゼル君の試合を執り行う。幸い皇子達は来ていないからね」


 何をしてるんだろうかあの皇子は……。

 もしもフィノや友達であるアル達を気づ付けようと企んでいるのなら、見つけ次第叩き潰してくれる。

 まあ、空間把握と魔力感知に反応はないから大丈夫だろう。

 フィノ達には生徒がいて分かりにくい場所じゃなく、一番近くで見やすく、僕がすぐに反応して突っ込める会場入り口にいてもらっている。

 もしもの時があればいつでも助け出せる距離だ。

 最悪は『転移』を使うしかない。

 まあ、風魔法だと言い張ればばれないだろう。


「では、シュン君。彼の試合を受けるね?」

「ええ、いいですよ」


 僕は腰から鋼鉄の剣を引き抜き、構えながらそういう。


「カイゼル君も」

「はい。ありがとうございます」


 カイゼル君は頭をもう一度下げて腰から剣を抜き放つ。


 僕達は距離を取り、三十メートルほど離れるとお互いに向き剣を構える。

 僕は魔法主体の右手で持ち剣先を下に構えた状態。

 カイゼル君は剣先を上に右手で持ち、左手を腰辺りに持ってきている。

 いつでも魔法を放てるようにする構えだろう。


 観客は一度静まり、試合の開始を待つ。

 魔力感知からフィノの心配する気持ちが伝わって来た。


「それでは、試合を始める」


 ノール学園長は僕とカイゼル君と正三角形になるように立ち、拡声の魔法を使いながら開始の合図を送る。


「試合……はじめ」


 杖を掲げるとともに音が鳴り、試合の開始が伝えられた。

 それと同時にカイゼル君の無詠唱の魔法が幾重にも飛んで来る。


 僕は冷静に判断して同じような魔法をぶつけて相殺する。

 勿論構えを解かず、腕を一つも上げない状態で。


 魔法を放つには大概手を掲げたり、突き出したり、振ったり、杖を持って同じようにしたりするが、その中でも挙動なしというのが一番難しく、相手に虚の付けるやり方となる。

 だが、このやり方は一番難しく、どこから魔法を放つかというのを考えて行わないといけない。

 更に魔法の制御も行わないといけないのでかなり難しい。


『おおっとぉ! 初っ端から白熱した魔法戦闘が繰り広げられております! カイゼル選手はシュン選手の隙を覗えるように動きながら戦っていますが、シュン選手は全くその場から動かず、挙動も見せず、佇むように迎撃しています!』

『こ、これが彼の実力ですか!? ああ、素晴らしいという言葉が霞みます。『奇術師』……皆もこの二つ名を聞いたことがあるでしょう。姿を消す、炎の竜、空を飛ぶ、土の人形などなどいろいろと噂が聞こえていました。その人物が私達の目の前で戦っています』


 解説は御馴染のレスターさんとシュナイさんだ。


 観客は激しい魔法戦闘に湧き、技術のオンパレードに興奮していく。


 そろそろ僕も動くか……。


「『タイダルウェーブ』」


 僕はその場で地面に片手を叩き付け僕を中心に大津波を発生させる。

 津波はうねるように会場に広がっていき、魔法で穴を開けようとするカイゼル君を飲み込もうと迫った。


「クソッ、『灼熱の爆炎よ、全てを燃やし尽くし焦土と化せ! フレイムキャノン』」


 上級に近い威力の中級魔法がカイゼル君の構えた両手から放たれ、迫り来ていた大津波に風穴を開け、そこを飛び込んで僕に剣を突き付けてきた。


「甘い」


 僕は立ち上がると同時に水を操作して大きな蛇――水龍を何体も作り出す。

 水龍は魔力糸で繋がっており僕の思い通りに動いてくれる。ヒュドラに行くまでの道のりで使った青い竜のやつだ。


 カイゼル君は水龍に横から飲み込まれ、激しくもがき苦しむ。


『ウオオオオオォオオオオオオ』


 観客は奇術のような現象に湧き起こり、解説の二人も同じように解説をせずに歓喜の声を爆発させる。

 教師達は驚愕に目を見張り、ノール学園長は面白そうに眼を細めていた。


 カイゼル君は竜の真下に爆炎をぶつけ水を飛び散らせるとそこから脱出し、むせながら僕の方を睨み付けてくる。


 僕は水を一カ所に集め大きな球体を作り出すとそこから機関銃のように水の弾丸をカイゼル君に向かって吐き出す。


「何っ!?」


 カイゼル君はこんなことも出来るのか! と驚きの顔になり、水の弾丸から逃げながら僕の方に近づき飛び上がって剣を振りおろしてきた。

 そして、カイゼル君は水の弾丸が背中を打つ瞬間の剣を弾いて横へ躱し、僕に水の弾丸が迫りくる。


「やったか!」


 カイゼル君のフラグを聞きながら僕は横目でカイゼルくんを見る。


「うぇ!? ちょ……」


 僕の前では水の弾丸が止まり、僕が手を横に振ると水の弾丸も向きを変えてカイゼル君を狙っていく。


「くそおお! 『燃え盛る炎よ、全てを破壊し、全てを飲み込み、全てを灰燼と化せ! バーストフレア!』」


 超高熱の塊が上空に浮かんでいる水の球体にぶつかり大爆発を起こした。

 水は大粒の雨となって降り注ぎ、水の弾丸は衝撃で辺りに飛び散ってしまった。


「はぁ、はぁ、反則だろ……」


 カイゼル君はそういいながら顎に伝って来る大粒の汗と水が混じった雫を拭い去る。

 ついそう呟いているが口元は吊上がり、楽しそうなのが覗える。


 観客である生徒は叫びに叫び、悲鳴じみた声も聞こえている。

 それほど高度な魔法のオンパレードなのだ。

 先ほどの火魔法だが分類は上級魔法だろう。

 この歳でと僕が言うのはおかしいけど、使えるのは相当な努力をしたに違いない。

 フィノでもまだ上級はコントロールが難しいというのに。


『シュン選手! 君はびっくり箱か!』

『次は一体何を見せてくれるのでしょうか! 私個人としては土の人形というのが見たいですね』

「私は夜の帳かな?」


 ノール学園長までそんなことを催促してくる。


「仕方ない人達ばっかりだ……」

「何を言っている? 隙を見せるんじゃない」


 カイゼル君は僕が余所見をした瞬間に風の後押しを使い、高速で剣を番えて肉薄してきた。


 僕は咄嗟に剣で地面を叩き一気に突き上げた。

 そこから地面が盛り上がり、カイゼル君の目の前に大きな壁が聳え立った。


 ガンッ。


 と、土の壁にカイゼル君の剣が突き刺さり、カイゼル君は慌てて引き抜こうとするが、魔力で作られた土は剣を飲み込んでいき手放すほかなかった。


「『クレイドール』」


 僕は初めて口を開き、土の人形を三体作り出す。

 高さ五メートルのメディさん、ロトルさん、ミクトさんの三人だ。

 色が付いていないのがとても残念でならない。


 ちょっと失礼だったかな?

 でも神様だけど、人とあんまり変わらないからなぁ。

 そっくりに出来たから喜んでくれるだろうし、教会にあった石像は本人に似てなかったからばれないだろう。


『で、ででで出ましたぁー! 私の希望通り土の人形ですよ!』


 シュナイさんが面白いほど興奮して実況をする。


 土の人形は大きな拳を振り上げるとカイゼル君に向かって突き出し、カイゼル君はそれから慌てて逃げ回る。


「『バーンフレア』」


 詠唱破棄で放たれた本のが爆発し土の欠片を零すが、土の人形の表面は恐ろしいほど固く作られているためほとんど壊れなかった。


 その状況に驚愕したカイゼル君は振り下ろされる拳や足から逃げ回る。


「チッ、これは使いたくなかったが! 『最古の炎よ、全てを燃やす灼熱の業火よ、星々の輝きよ、我が手に集え、集え、集え…… 更なる高みへ! アストラルフレア』」


 星のように輝き、周囲を燃やしつく隕石の様な上級魔法に分類される『アストラルフレア』はカイゼル君の頭上から放たれ、腕をクロスして身を護る三体の神々に向かって落ちていく。


 僕は魔力を煉り上げ三体の神々の強度を上げると共に被害が出ないように結界を張り、次の魔法と決着を付けるために剣を握る手に力を込める。


「これでえええぇ……どおおおぉだああああああぁッ!」


 兎に角破壊音のみが闘技場内に響き渡り、強化された神々は身体を溶かされながら僕を護るようにその星を防いでくれる。


 神々は星の力に対抗し、古の神話の様な姿を僕達の目の前で見せているかのようだ。


 口が開き雄叫びの幻聴が誰の耳にも聞こえ、星は押し返され、三体の神々が腕を振りほどくと共に星は消え去り、神々もカイゼル君に近づくことなく焦げ、その場ですなと化していく。


「く、そったれ……」


 カイゼル君は片目を閉じ、魔力枯渇の苦しみを露わにすると僕の方を向いて闘志をまだ立ち昇らせていた。

 だが、もう彼は動けないだろう。


 ノール学園長を見ると頷かれたので、早々に決着を付けることにした。


「はぁ……くっ、まだ、だ……っと、なん、だ!?」


 僕は指を鳴らし、カイゼル君の周りに先ほどの砂から大きな手を作り出し、体を横から握りしめて僕はその首元に剣を当てた。


「どう?」

「……あ、ああ、降参する。俺の負けだ」


 カイゼル君の降参により勝負が着き、会場は爆発的な歓声と勝者も敗者も祝福する声が響き渡る。

 どうやら希望に叶えられ、カイゼル君もある程度許せてもらえたようだ。


「勝者、シュン君。両者は……動けないようだから、カイゼル君は教師に任せなさい」


 ノール学園長の勝利宣言にさらに湧く生徒達。

 僕は腕を上げながらフィノの様子を見て、少し頬を染めて腕を握り締めている仕草に安堵する。


「では、次の試合に移るけど、シュン君は大丈夫かい?」

「はい。大丈夫です。まだ魔力は半分以上残ってるので」

「末恐ろしいね、君は。では……」


 そう言って杖の石突を地面へ突き、荒れた会場を元の茶色い大地へと戻した。

 相当な使い手だと思っていたけど、相乗以上の魔法の精度だ。


 それを見計らったかのように勝者の笑みを浮かべた皇子と少し怯えた取り巻きが入口から現れた。

 皇子は先ほどの試合を見てもまだ余裕を表せるのだろうか?

 取り巻きは不安そうに……それ以上に怯えているというのに。


「ふんっ。貴様はもう負けているのだよ。お前達も何をそう怯えているのだ? 奴は先ほどの試合で魔力を使い果たしているに違いない。魔法は凄かった。だが、魔力は持たないはずだがね」

「そ、そうですよね! で、ですが、相手はピンピンしてますが……」

「あれは演技だ。俺達にその姿を見せて怯えさせ、降参してもらおうという腹積もりだと思うがね」

「そ、そうですね! あんなチビ、私達が勝てないわけありません!」

「先ほどの試合だって怪我を両者ともにほとんどしていないようですし!」

「カイゼルというガキも、殿下の言う通り役に立ってくれたようですな!」

「ああ、俺の役に立てたのだ、今頃は俺に感謝をしているに違いない! ブヒャヒャヒャヒャ」


 取り巻きが皇子を褒め称えるが今の僕はそれどころではない。

 カイゼル君は確かに自分の意志で戦うといった。だけど、それは皇子が許可しなければできないことだろう。

 短気で、前しか見えていなくて、人に迷惑をかけるカイゼル君だったけど戦って分かったこともある。

 カイゼル君は真っ直ぐで目標に向かって突っ込む人だ。

 だから、仕方ないとは言わない。

 でも、冷静になって悪いとわかれば頭を下げ、元々平民だという僕を差別的な目で見ない。

 義父さん達以外で初めて貴族らしくない貴族を見た気がした。


 それをこの皇子は……。

 もう許さん!

 徹底的に叩きのめしてやる!




「何かよぉ。シュン、キレてないか?」

「ええ、いつもと雰囲気が違うわね。魔力も肌に直接届くわ」

「それだけ感情が昂っていることでしょうか?」

「あの皇子が何か言ったんだろ? じゃないとシュンがキレるわけがねえ」

「まあ、これであの皇子も終わったわね」

『そうね(そうですね)』


 背後から風に乗ってアル達の話し声が聞こえた。

 それで気持ちが昂り魔力が噴き出しているのが分かり、慌てて感情を抑え付けると魔力を引っ込めフィノの様子を確認する。


 フィノは僕をじっと見て心配そうにしている。

 あの顔は勝負に対しての心配ではなく、僕に対しての心配のようだ。

 過去を知っているからこそ何を言われたのか大隊察しがついたのだろう。

 まあ、カイゼル君のことだとは気が付かないかもしれないけど。


「では、第二試合を始めよう」

「いつでも」

「降参しなくていいのかね? 今なら謝るだけで許してやるがね」


 何を言ってるんだこの皇子は……。

 もうお前はこの学園から去るんだよ。


「いえ、する必要はありませんね。いえ、必要性がありません。僕があなたに負けると? 寝言は寝て言う物ですよ? 皇子様」


 こんな白馬ではなく豚に乗っているような皇子がいて堪るか!


「何をォ!? お前なんか俺の手で一捻りだ!」

「殿下。魔力が枯渇して言っている奴の戯言です。冷静にならなければまた何やらおかしなものを使ってくるかもしれません」

「おお、そうだな。これでお前の読みは外れた。残念だったなぁ~」


 僕を見下すように見る皇子。

 後ろの取り巻きも僕を見てニヤついている。


「そういえば、お前が負けたらフィノを頂く。いや、元々俺のものだったのだ。それをどこの誰とも知らぬ輩に靡かれおって。こんなにいい男が傍にいてやると言っておるのにな?」

「ええ、フィノリア様も何を考えておられるのか」

「そうだな。早く目を覚ませてやらねば。こういう時は皇子のチッスで目が覚めるのだったか?」

「はい! 殿下のキスで呪縛から解かれるでしょう!」


 ワイワイと盛り上がっているが。僕の中では魔力が表に出せ、あいつらを殺す、と大暴れしていた。

 だが、今解放するわけにはいかない。

 せめて、試合が始まってからだ。


 そして、皇子は僕に止めの一言を言う。


「そういえば伯母上もどうにかしたもんだな。王国は帝国のものになるのではなかったのか?」

「はい。私どももそう訊いております」

「やれやれ。俺が尻拭いをしないといけないのか。あの国の王達も父上と同じく愚民主義なのだろう? 臭くて敵わん! 俺が王に就いてやればいいな」

「はい。殿下は未来の国王様です」


 …………。


「シュ、シュン君?」

「え? ああ、大丈夫ですよ? ちょっとあれですけど。ははは」

「そ、そう。殺さないでね」


 何を言ってるんだ? ノール学園長は。

 殺す?

 そんな生温いことを僕がするわけないじゃないか。

 調子に乗った鼻を圧し折る、いや押し潰して、出た木製の杭を引き抜いて焼却炉に捨て、己惚れた心を握り潰し、減らず口を喋れないように口を開けないようにしてやる……。

 フィノの安全を確認した後、僕は笑顔のまま皇子から距離を取り、どう料理してやろうか、それだけを頭の中で考えるのだった。

 皇子達は僕に下卑た笑みを浮かべて離れていく。

 観客は僕の変化に気付いた者がちらほらおり、解説のシュナイさんは魔力の感度がいいのか若干冷汗をかいている。


『ええ、良く聞こえませんでしたが、何やら雰囲気が剣呑となりました。……シュナイさん? どうかされましたか?』

『い、いえ、大丈夫です。ちょ、ちょっと背筋に悪寒が走っただけで……。(あの皇子達が心配です。いえ、懲らしめては欲しいのですが)』


 解説の二人が無理やり言葉にした実況をする。

 それに合わせてノール学園長が杖を掲げ、試合開始の合図を送る。


「それでは試合……はじめ」


 それと同時に皇子達は遅い詠唱と甘い煉り方の魔力で魔法を放ってきた。

 僕はそれをニコニコとした笑顔で届くのを待ち、皇子達がフラグを作るまで待つ。


「「「『ファイアーボール』」」」

「「「『ウィンドカッター』」」」

「「「『アースショット』」」」

「「「『ウォーターウィップ』」」」

「『バーストフレア』」


 最後の魔法が皇子だが、それなりに力はあるのか威力は高そうだ。

 だが、それだけで、みんな僕には着弾せず、避けていくかのように僕の周りに地面を焦し、削り、埋まり、濡らし、爆ぜさせる。


 僕は極々薄い『守護壁』を張っているだけだ。

 次々に襲い掛かってくる魔法が十発ほどあり、その中でも数発しか僕の結界に着弾しない。


『おおっと、予想に反して皇子達がシュン選手を攻め立てる!』

『嫌な予感がしますね。皆さん、心の準備をお願いします』


 シュナイさんは直感もいいのかな?

 そろそろ魔法が止んできたからあのセリフを言うはずだ。

 僕が唯一知っているフラグ。

 それを叩き折る!


 僕の周りの煙が晴れていくと想像通りあほな皇子は僕の思ったセリフを口にした。


「やったか! どうだ、手も足も出なかっただろう! 俺に刃向うからこうなるのだ! これで、フィノリアは俺――」


 そういった瞬間に僕の周りから煙が掻き消えるように振り払われ、魔法を使っていないのにもかかわらず暴風が吹き荒れ、僕の周りで青白い光が現れている。

 この光は具現化した魔力、濃密で、触れた者を無意識に怯えさせる最強の魔力だ。


 今の僕の表情は怒りに染まっているだろう。

 観客は結界に阻まれているが驚愕に目を見開き、ガタガタと震えあがっていた。

 フィノ達は突然のことに白黒している。

 ノール学園長は被害が出ないように真剣な目で自身の周りに結界を張っているようだ。


「王国が貴様のものだと?」


 僕は皇子に問いかけるように話し、一歩踏み出すごとに闘技場内の地面に罅が入り、大地が隆起する。


「義父さん達のどこが悪い?」


 生徒達、職員達は生唾を飲み込み手に汗を浮かべ強く握り込む。

 ノール学園長は直感っで結界の数をさらに増やしていく。

 良い判断ですよ。


「フィノが誰のものだって?」


 皇子達はガタガタと震え、僕に怯えた目を向ける。

 謝ろうとする意志が『同調』によって聞こえてくる。

 だが、その言葉が出てこない。

 腰が抜け、漏らし、歯の根が合わず、心の底から恐怖を感じている。


 お前達がしてきたことをその体と心に刻んでやる。


「フィノは僕のものだッ!」


 更に爆発的な魔力が会場を揺るがす。

 今度は厳格ではなく本当に地震が起きていた。


「義父さん達が臭いだと? 臭いの貴様だッ、この豚がッ!」


 皇子は一瞬憤慨するが、僕と目が合うことで再び青白い顔となった。


「王国に手出しをしてみろ。関わった奴等を全てこの手で叩きのめしてくれる! 手を出すのなら覚悟しろよ? 豚が!」

「き、き……」


 言葉が出ない皇子。

 どうせ帝国に喧嘩を売るつもりか、とでも言いたいのだろう。


 僕は皇子の近くまで歩み寄ると誰にも聞こえないように結界を張って言い放つ。


「お前の父、皇帝からお前に何をしてもいいという許可を得ている。お前が死ねば問題になるが、怪我ではならん!」

『(ガタガタガタガタガタガタ)』

「お前が誰に喧嘩を売ったのか身をもって知るんだな」


 僕はその場からまた一歩近づくと皇子達に対して右手を横に振り、皇子達を強烈な突風で壁に叩き付ける。


「あ、あが、がが」

「痛いか? これはお前達がしてきたことだぞ? まあ、痛いのなら回復さてやる」


 左手を向けて回復魔法を遠距離で掛け、次に右手を上へあげる。


「う、うわぁぁあああ」


 今度は地面が盛り上がり、依然フィノにした時よりも激しいトランポリンが出来上がり、結界にぶつかった。

 そのまま剥がれ落ちてくると再び柔らかい地面に亜あたり結界にぶつかるということを繰り返している。


「ぼ、ぼうやべ……」


 何やら喋るが僕の気は収まらない。


 トランポリンを止めると回復魔法を掛け、次は燃え盛る手加減をした炎の竜をいくつも作り出し、皇子達を飲み込む。

 さすがに悲鳴が上がるが、全く焦げていないことに気が付き生徒達は成り行きを見守る。


 水で消火をすると回復魔法を掛け、ぐったりしているところに僕の上級を越える最大の闇と光の混合魔法を使う。


「『星々の光は永遠なり、夜空に光る星はやがて力を失い落ちてくる、その光は消え罪ある者に降り注ぎ、悪を滅し、悪を潰し、悪を燃やす、夜の帳を来れ、今此処に最古の神々の神話を! 神々の怒り』」


 この辺り一帯の空が真っ暗となり、夜の帳に満ち生徒が慌て始めた頃、そらからいくつもの光が出来上がり、怯えていた生徒達は幻想的な景色に安堵しだす。

 だが、その星々は集まり出し、神話に出てくるような厳つい神の形相へと変貌した。


 星の集合体である神は先ほどの石像と同じく右手の拳を握りしめると皇子達に向かって振り下ろしてきた。


『アアアアァァァァァァアアアアアアァ』


 皇子達は声にならない雄叫びを上げて涙か鼻水かわからない液体を流しながらその拳が叩き込まれた。


 実際のダメージはないが当たった瞬間に神が弾けるように光を発し、地面だけを破壊する様に爆ぜていく。

 破壊音がと揃い手だれもが皇子達は終わったと感じ取った。


 光が消え、辺りに昼間の明るさが戻る。


『……す、凄まじい魔法です……。一体彼は……。いえ、そんなことよりも皇子は……皇子は無事です! 傷付いていますが生きているようです!』

『手加減されていたようですね。私はもう無理かと思いました。怒っていてもそのあたりは制御できるようですね』

『それにしても皇子は何を言ってシュン選手を怒らせたのでしょうか?』


 レスターさんが疑問をぶつける。


『シュン君の言ったことから王国に喧嘩を売り、その国王を臭い? とでも言い、フィノリア様を自分のものだといったのでしょうか? この前もテラスでそんなことを言っていましたね』

『ああ、あの件ですね。私も聞きました。どうも皇子は妄想をしていたようですね。ですが、シュン選手は確か、フィノリア様は自分のものだと言いませんでしたか?』

『確かに言いましたが、良いのではないですか? どう見ても日頃から仲が良さそうですし、実力も申し分なく、伯爵の当主ですから身分も釣り合っています。それに国王様を義父さんと呼ぶことから公認なのでしょう。私としてはシュン君とフィノリア様は付き合っている者だと思っていました』

『ああ、確かに。中には悲しむ人もいるかもしれませんが、相手は王族なので諦めましょう。シュン選手に関してもフィノリア様しか眼中になさそうなのでどうか諦めてください』

『お近づきに離れなくとも友達にはなれるでしょうし、魔法も教えてくれます。今日は怖い一面も知れ渡りましたが、怒らせなければ大丈夫ですね。基本的に優しい人ですし』


 シュナイさんのセリフに何人かが頷いている。

 まあ、同じクラスの人達だな。

 怖がられるかもしれないし、今回は有難い解説だった。


 それにしても暴露してしまった……。

 義父さん達には卒業してからだと言ったのに……。

 もういい、腹を括ろう。

 次期国王になるわけじゃないんだし、開き直ってしまえ。

 これからはなるようになる!

 今までのように!


 この後は泣いて飛び込んできたフィノを抱きしめて撫でまわしたり、観客にそれを見てヒューヒューと言われたり、やり過ぎてアル達に止められたりといろいろとあった。

 ノール学園長にやり過ぎだと言われたが、僕としてはこのぐらいでも生温い気がする。


 皇子達は拘束された後、帝国へ護送され、皇帝には手紙と共に皇子がしてきたこととその取り巻きの所業が書かれた手紙を送ることになった。


 そして、僕は義父さん達に連絡をして今回のあらましを話すのだった。


はい、ばらしちゃいました。


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