学年大会(一学期)
「――っ! 『守護壁』」
薄膜のような結界が僕の周りに展開され、頭上から何かが割れる音が聞こえた。
その場から移動し結界を外すと、結界に阻まれていた音の正体が地面に落ちた。
「これは……植木鉢? なんて古典的なんだ……」
地面には植木鉢が割れた破片と湿った土が花の上に落ちていた。
僕は綺麗に片付け、溜め息を付いて立ち上がると後者の中へ戻って行った。
このようなことがかれこれ三週間続いていた。
僕は学園長室に向かっている。
今朝急遽僕だけが呼ばれ、一時間目の授業は免除するとまで言われた。
どうやら、最近起こっている僕への嫌がらせの件のようだ。
「ノール学園長、シュンです」
「入っていいよ」
ノックをして名前を名乗ると、部屋の中から軽い調子の声が返って来た。
「失礼します」と、断りを入れて入ると、中ではノール学園長がニヤニヤしながら肘をついて顎を乗せていた。
「こっちに来て座ってくれる?」
「はあ、失礼します」
僕は柔らかい椅子に座って、職員だろうか紅茶を置いてくれた。
職員は一礼して隅の方に戻り仕事を始めた。
ノール学園長は一口紅茶を飲むと、目を細めて例の件について聞いてきた。
「シュン君。最近、君の周りでいろんなことが起きているようだね」
「ええ、あの日以来いろいろと起きていますね。授業中はいいですが、午後の自主練で魔法が飛んできたり、部屋には入れないようにしていますが前に何か置かれていたり、先日は植木鉢が落ちてきましたね。片付けておきましたが」
「いやー、すまないね。学校側としては規則に則って処罰を与えたいのだけれど、相手が一応皇子だからね。注意するにしても職員の方が怖気づいちゃって」
気さくに話してくれるウォーレン先生達が普通というわけではないのか。
やはり貴族と庶民の間には差があり、王族との差はもっとあるということだな。
カップを持ち上げて口の中を濡らす。
紅茶は珍しく薄く青い色をしている。
「これはおいしいですね」
「そうでしょ。それはこの国で冬だけに咲く花『氷仙華』の花びらを乾燥させて使うんだよ。雪の中に青色の花なんだけど、雪の隙間から出ているのを見つけるのは至難で、裏手にある氷山の中腹に生えてるんだ。毎年採りに行くのが楽しいね」
「それはいいものと情報を頂きました」
もう一口飲み、今度は味と風味に意識を向けてみる。
さっぱりとした味とスッとした喉越しをしている。ミントとまではいかないが口の中に爽やかさが残る。匂いは紅茶とあまり変わらないが心が安らぐような涼しい感じだ。
「まあ、相手は皇子なので仕方がないでしょう。今のところ被害自体は起きていないのでいいですが、周りに被害が出た場合はこちらで対処をしますよ」
「それはそれで困るけど、さすがフィノちゃんに何かを仕掛けた場合は仕方がないね。皇子の件では学園側が何もしていないのだから君がしたことに何かをしても黙認するしかないし、仕掛けた方も悪い」
「そうですよね。まあ、怪我をさせない限り、こちらも手を出すことはないです。今思えば、あの時に決闘を受けておけばよかったですかねぇ」
あの時に決闘を面倒臭がらずに受けていれば、こんなことに起きなかったかもしれない。
だけど、悔しがってもっとひどくなっている可能性もある。
どちらにしろ、僕に被害が出るということだな。
「決闘ねぇ。一応学園では黙認しているけど、死者を出されるのは困るから職員に通達することになっているんだよ。君は手袋に当たらなかったみたいだから報告だけだったけどね」
「そういう決まりもあるのですね。貴族との差がどうとは言いませんが、もう少しどうにかならないのですか?」
僕は無理だろうなと思いながらノール学園長に訊ねた。
ノール学園長は腕を組んで唸り、難しいだろうねと答えた。
「やっぱりそうですよね。僕には今一分からないものですから」
「そういうけど、実際君は王族と同等かそれ以上の存在だよ。国が認める英雄であり、SSランク冒険者なのだから」
「ははは、それを皆に言えば収まりますけど、今度は僕の周りに誰も集まらなくなります。いえ、面倒な大人や危害を加えようとする者が出て来ますね。まあ、学園では実力を見せる機会はないでしょうが。見せても一端ぐらいでしょうか」
僕は人差し指と親指で示した。
ノール学園長はそれが面白かったのか声を上げて笑った。
「そうだろうね。君には私も敵わないだろうし、一生徒が敵うわけがない。一端でも実力を引き出せればいい方だよ。だから、大会には出ないのかい?」
「ええ、出る意味がないですから。出ても勝つ、とは未来が決まっているわけではないので言いませんが、負ける気はないですね。不測の事態が起きれば負けますかね」
別に出てもいいが勝つ気が全くない。
ウォーレン先生に相談したところでなくてもいいと言われたので出ないわけであり、選ばれたのなら適当なところで負けるつもりだった。
学園生活はのんびりと過ごせればいい。
「今は不測の事態ではないと?」
「ええ、一応大会のために大事にしないようにしていますが、今のところ嫌がらせだけですから。大会後は隙あらば問い詰めますかね」
「大会前に仕事を増やさないでもらえるのは嬉しいね。では、大会までのあと数日様子を見ているということだね?」
「はい。大会後は感知した瞬間に問い詰めます」
「いいだろう。何か言われても私の方で潰すから」
「よろしくお願いします」
僕は紅茶を飲み干し、立ち上がろうとすると再び声をかけられた。
「ちょっと待ってくれる?」
「まだ何かあるのですか?」
「うん。君にはいろいろと聞きたいことがあるんだよ。ここ数年学校行事が同じでね、何か新しいものはないか考えているんだ。だけど、職員で話しても魔法論文や大会、合宿しか出て来ないんだよ」
「なぜ、僕に訊くのですか?」
「君の発想が面白いからだよ。君のクラスは、というより君が教えたり、話を聞いた生徒は全員実力が上がってきている。特に魔法に関しては面白いね。新しい魔法じゃないかと思うのが多々あるよ」
ノール学園長は面白そうに笑って僕に言う。
隣の方では職員も聞きたそうにしている。
そういえば、僕の所に職員が質問してきたこともあったな。
そういうところから僕の噂が広がっているのだろう。
まあ、いろんな人に話しかけられるから僕としては嬉しいかな。
教えてもいいことしか教えていないし。
「まあ、いいでしょう。ですが、それが面白いかどうかはわかりませんよ?」
「うん、いいよ。その後職員で検討するから」
ノール学園長は紙を出し書く気満々だ。
僕は一つ溜め息を吐き、学校の行事で知っていることを話していく。
一応学校に入っていたのである程度の行事は知っている。
参加しても面白くはなかったが、こちらなら楽しいだろうな。
「これくらいです。あとは、この学園でもやっているようなことしか思いつきません」
「いや、とても面白かったよ。いくつかと言わず、全て学園で取り入れたいね」
「そうですか? まあ、先生方でしっかりと話し合って決めてください。生徒はそれ次第で頑張るでしょうから」
「そうだろうね。もうすぐ一時間目も終わるし、この辺りでやめようか。また何かあれば呼ぶから」
結構です、と即答しそうになったが、どうにか飲み込み「待ってます」と言って学園長室から出て行った。
教室へ戻ると僕の元へフィノ達が集まって来た。
「シュン、トーナメントが発表された。レンは二回戦、俺は八回戦、シャルは十四回戦だ」
「へぇー、見事にばらけたね。早く当たっても準決勝か。三人とも頑張ってね」
「ああ、絶対に優勝してみせる!」
「いえ、優勝するのは私よ」
「僕は自分の力を出し切るよ」
三人は意気込み、アルとシャルは目から火花を散らしている。
「応援に行くから頑張ってね」
「三人とも頑張ってください」
フィノとクラーラも笑顔で応援するという。
「それでな、シュン。大会までのこの三日間は、会場の整備に時間が掛かるみたいで休校になるみたいなんだ」
「それで、この三日をシュン君達に指導してもらいたいの」
「シュン様、僕もお願いします」
僕はどちらでもいいが、フィノはどうなのだろうか。
「フィノはどうする? 僕としてはどちらでもいいけど」
「私も手伝うよ。クラーラも一緒にどう?」
「私もいいのですか? では、よろしくお願いします」
「と、いうことだから明日の九時頃に門の前に集合しよう」
「門の前? 正門のこと?」
「うん。この三日で今以上に鍛えるのは無理だ。なら、実践をしてもらおうと思う」
フィノは僕が何を言いたいのか理解したようだ。
「実践? 今も一緒に戦っているじゃないか。外でこの前みたいに大規模戦闘をするのか?」
「違うよ、アル。シュン君は外に出て魔物と戦ってもらうつもりなんだよ。――そうだよね、シュン君」
フィノに頷く。
「いくらなんでも魔物は……」
「まあ、いきなり魔物と戦えというのは怖いかもね。でも、対人戦と何ら変わらないんだよ? 足が竦むのは気持ちの問題もあるけど、魔物は人と違ってどんなに低ランクでも殺気を飛ばしてくるからね。それに慣れると対人戦でも綺麗に戦えるようになる」
「死ぬことはないと思うよ。戦わせるのはウルフとか、低ランクの魔物でしょ?」
「うん。冒険者ギルドに行ってEランク程度の依頼を受けてから行こうと思う。危なくなれば、僕が介入するから大丈夫。今の君達ならDランクはあると思うよ」
アル達は不安そうだが僕とフィノの説得に折れ、明日からの三日間は外で訓練することになった。
明日となり、六人が集合すると冒険者ギルドに向かった。
まだ、肌寒いガーランだが、春の芽や動物たちが冬眠から起き始めている。
それに伴って魔物の討伐や採取依頼が増えてくる。
冒険者にとっても稼ぎ時となるのだ。
「冒険者ギルドに入るのは初めてです。荒くれ者が多いのですか?」
クラーラが怯えるように言った。
アル達は入学前に入っているが、あの時は詳しく見ていない様で頷いている。
「いや、確かに荒くれ者は多いけどそこまでじゃないよ。堂々としていれば絡まれることもないさ」
まあ、僕は堂々としていても何故か絡まれることが多いけど……。
冒険者ギルドに着き中へ入ると受付に行き、何か良い依頼はないか尋ねる。
「すみません。学園の生徒なのですが、Eランク程度で受けられそうな討伐系の依頼はないでしょうか。大会があるので訓練も兼ねて行いたいのです」
僕はそう言いながらギルドカードを受付嬢に手渡す。
受付嬢は僕の顔を何度も見たが、何も言わずに依頼を進めてくれた。
「これはいかがですか? この辺りに生息する『コロポック』というEランクの魔物を十体倒してくるものです。報酬は銀貨一枚。学園の生徒ということなら丁度いいかと思われますが……」
コロポックとは、草の妖精のような魔物だ。見た目は三十センチほどの人形で葉っぱを翳している妖精のようだが、木々を操る能力を持っている魔物だ。
攻撃性はないが、敵が捕まっている間に逃げて行く習性があり、木々の方は頑丈だ。
討伐証は持っている葉っぱだ。
少し報酬が多いのは春先で数が多くなっているからだろう。
「そうですね。どのあたりに生息していますか?」
「ここから西に五百メートル先にある草原『ガラリー草原』に頻繁に出ます。十体以上討伐された場合は一体に付き鉄貨五枚です」
「そのほかの魔物情報はどうですか?」
「いえ、何も目撃されていません。ですが、冬眠から目覚めた魔物や動物が草原へ獲物を探しに降りてくる可能性があります。代表的なものはレッドベアーです」
「わかりました。何かあれば報告しに戻ってきます」
「では、依頼の受注をします。期限は無期限ですので怪我をしないようにしてください」
僕は受付から離れ、珍しそうに周りを見ているアル達の元へ行く。
まあ、冒険者ギルドは想像よりもきれいなところで驚いているのだろう。
特に首都にあるギルドはどこも綺麗だった。
顔であるということなのだろう。
「皆、依頼受けてきたよ。討伐系で『コロポック』十体以上の討伐だ。早速準備をして向かおうか」
「シュン様は手慣れてますね」
声をかけるとレンがすぐに依頼を受けてきたことに驚いた。
アル達も依頼版から選ばずに依頼を受けてきたことに驚いているようだ。
「ああ、レンは知らなかったんだね。僕は『奇術師』の二つ名で通ってる、Aランク冒険者だよ。だから、ボードで選ぶよりも直に貰った方が速いんだ。それに僕よりだいぶ下の依頼だからね」
「えっ!? シュン君ってあの『奇術師』だったの!?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 僕が『大魔法使い』とか『魔の極みに達した者』とかと呼ばれる『奇術師』だよ」
自分で言ってて恥ずかしいな、これ。
「シュン君の魔法は凄かったよ。火の龍に土塊の騎士団。どれも二つ名にぴったりだった。私のための魔法でもあるんだ」
「ほほう、詳しく聞きたいわね」
「フィノリア様への魔法ですか! それは嬉しいですね」
女子三人はキャッキャッとはしゃいでいる。
男子三人はそれを見て苦笑し、準備に向かうことにした。
準備を終えた僕達は待ちから出て、西にある『ガラリー草原』に向かった。
歩きながら魔物への対処法と警戒の仕方、冒険者の在り方や注意すること等を話す。
そろそろ目的地に着きそうだ。
「そろそろ着くからコロポックの特徴と対処法を話すね。コロポックは小さく臆病だから直に攻撃することは難しいだろう。だからといって魔法を使うと自然に影響を与えてしまう」
「だから、最小限の魔法か自然に影響の出ない魔法を使うの。この辺りなら火魔法以外になる」
「近接攻撃をするなら相手より早いスピードで近づくか死角を縫って動く。だけどこれには高い隠密技能がいる。魔物は大概察知能力が高いからね」
近づいてくる魔物ならば待ちを待っても対処できるが、逃げていく魔物は追い駆けなければ倒すことが出来ない。
そこがランクを高くする要因の一つでもある。
コロポック自身はそれほど強くないのだ。
草木の間からこちらの様子を覗っているコロポックは、僕達が草原に入ったことで散り散りに逃げて行ってしまった。
「逃げちゃったね」
「うん、逃げたね」
「いやいや、こんなに早く動く奴どうやって倒すんだよ」
草原の端で椅子を作ってのんびりしていると、アルが吠えてまたコロポックが逃げて行った。
「そこを考えるのが今回の課題でもあるけど、一回だけお手本を見せよう」
魔力感知の範囲を広げると一番近くにいるコロポックに向けて魔法を放った。
コロポックは逃げる暇なくお腹に風穴を作り倒れた。
「こうやるんだよ」
「だから、それは出来ねぇって!」
「なんで? 僕はしっかり指導してきたよ? やり方としては魔力感知で感知した方向に魔法を放つだけじゃん」
「だから、それが難しいんだって。相手は近づいたら逃げるしよぉ」
アルは悲しそうにそう言っているが、反対側の草原ではクラーラとレンが仲良く仕留めている。
機動力のあるレンが誘き寄せて、魔法の精密さのあるクラーラが仕留める。良いチームワークだな。
それに比べてアルとシャルは不用意に近づいて敵を逃がし、魔法を放てば掠るだけ。
個人で戦っているから当たる物も当らない。
こういう相手は実力がない限り、二人以上で戦うものだ。
「わかった? レンとクラーラみたいに戦えばいいんだよ。それが出来ないのなら、相手との距離感を覚えて逃げられない位置から魔法を当てるしかないよ」
「アル、これは対人戦でも必要なことだよ? 相手との距離感を掴む練習でもあるし、魔法の制御能力を上げる練習でもある。隠密能力や察知能力、チームワークを上げることも出来る」
「わかった。レンとクラーラみたいに協力してやってみる」
アルはそのままシャルの所へ行き、協力して倒すことにしたようだ。
僕とフィノは再び椅子に座り、紅茶を一口飲む。
「シュン様、十体分手に入れました。次は何をしたらいいですか?」
「そうだなぁ……。アル達が終わるまで『魔力弾』で遊ぶか」
「あれをやるの?」
「うん。丁度練習にもなるしね。今回は魔力弾を宙に飛ばすからそれを魔法で打ってもらう」
「面白そうだね」
レンとクラーラはよくわかっていないので、立ち上がり詳しく説明する。
僕は手のひらに白く光る『魔力弾』を作り出す。
「これは『ライト』ではなく、純粋な魔力の塊『魔力弾』と呼ばれる魔法だ。この『魔力弾』は『ライト』と違って魔力を使えば触ることが出来る。ただ、量を間違えるとダメージを受けるけどね」
触ろうとしていた二人は怯えて手を引っ込めた。
「大丈夫、これは弾けるだけだから。今回はこの『魔力弾』を上空へ飛ばすから三人で撃ち落とすだけ。ただ僕もある程度強化するし、動かす。三人が使っていい魔法は単発魔法でもショット系やボール系等の比較的小さい魔法ね」
そう言って上へ撃ち出すとフィノが右手を上げて撃ち落とした。
僕はフィノの頭を良く出来た、と撫でる。
「こうやって魔法の精密さと威力の底上げ、瞬間的に魔法を放つことを行う」
「わかりました。楽しそうなのでやってみます」
「フィノリア様に勝てるでしょうか?」
「大丈夫だよ。シュン君が避けてしまえば私だって当たらないし、さっきのは上に打ち出しただけだからね。シュン君ならあの状態から避けるよ」
三人はやる気になり、僕を睨むように今かと待ち続ける。
アル達は会話を聞いて自分達も加わりたそうに見ていた。
僕はその場から離れ、両手サイズのボールを作り出してゆっくりと上へあげていく。
最初の内はなかなか当たらなかった三人だが、誰かが外したところを狙って打つ方法や両手を使う、連続で打つなどいろいろと考えていた。
だが、ある程度対処ができるようになると、こちらも強度を上げたり、球を小さくしたり、スピードを上げたりして邪魔をする。
当たって喜んでいたのに、煙が晴れると健在していた時の驚きようは面白かった。
アル達も討伐をクリアし、三十分ほど加わったが見事に一回も当てられなかった。
「アルとシャルは魔法の威力は十分にあるのに精密さに欠ける。今回の事で身に染みて分かったと思う」
「対人戦でも相手の手に当てたり、急所に当てる、武器の軌道をずらすとかできるから大切な能力だよ」
「ああ、身に染みて分かった。力だけが全てじゃない」
「時には搦め手や相手の状況に合わせて使わないといけないっていうことね。始めにも言われていたけど、まだまだ足りなかったのね」
「それだけ分かれば今のところはいいかな。逆にレンとクラーラは威力がなかったしね」
「はい。撃ち落とせなかった時は驚きましたから」
この後は昼食を取って同じような練習を繰り返した。
残りの二日も魔物の討伐と採取等をして過ごし、いよいよ大会当日となった。
この三日で三人の魔法の技量は数段上がったとみていいだろう。最後の日にはアル達も『魔力弾』に当ててたし。
『さーて、やってまいりました。年に三回開かれる学年大会一回目。私は実況の三年レスターといいます。隣にいるのは解説の三年シュナイさんです』
『シュナイといいます。よろしくお願いしますね』
シュナイさんは結構きれいな人で、歓声が沸く。
『一年は初めての大会、上級生を脅かす人材がいるのか。二、三年は将来に向けての架け橋造りです。先ほど覗いた控室では、皆やる気に満ちていました。シュナイさん、今回はどうなると思いますか?』
『はい。今回は学園中で噂となっている一年の主席と次席が出場しないという初めての事態です。ですが、それも本人が望んだことなので、私達がどうこう言うことではありません』
ちらほらとクラスメイトが僕達の方を向く。
笑って誤魔化すしかないので、狼狽えることはない。
『では、三位と四位の争いになると』
『はい。ですが、主席のシュン君は学園長も人目置くほどの生徒です。聞いてみたところ彼の魔法の扱いは達人級とのこと。私も魔法の威力の無さに困り相談に言ったのですが、『威力は魔力の込め方、量、詠唱、イメージ……いろいろなことで変わります。すぐに上げたければ魔力の扱いである、魔力操作と制御をしっかりと身に付けることですね。基礎は地味だからといって疎かにしてはいけません』と、とてもためになる助言をいただきました』
あ、そういえば、シュナイさんの顔を見たことがあるな。
あの皇子事件の後、飛行魔法以外で初めて聞きに来た人だ。
『そうなのですか。私も使える種類の少なさに悩んでいるので彼の元へ聞きに行ってみましょう』
「いや、そこは自分でどうにかしろよ!」
『へ? ついでに魔法の使い方とかいろいろと教えてもらえるかもしれないじゃないですか』
観客からのツッコミに憮然と返すレスターさん。
会場は笑い声に包まれ、僕も苦笑してしまう。
『おおっと、そろそろ時間となるので第一回戦いってみましょう!』
『一回戦目は二組リュー選手と一組セイン選手です。入場してください』
左右の門が開き、コロシアム内部に剣を帯びた少年と槍を持った少年が現れた。
『リュー選手は剣士でありながら、中級の魔法も使えます。属性は水です』
『セイン選手は光魔法と風魔法の使い手であり、槍の技量も目を見張るものがあります』
どうやら二人とも貴族のようだな。
来ている服は学園の服だが、武器や装飾はそれなりの物であり、魔道具さえも身に付けている。
『両者睨み合っております。会場も彼らを応援する声で充満です。それでは、第一回戦リュー選手対セイン選手の試合を始めたいと思います』
時間となりレスターさんの声を合図に二人は武器を構えた。
『それでは、第一試合はじめぇぇぇッ!』
宣言と同時に二人は地を蹴りぶつかり合った。
会場で繰り広げられる戦いに観客席では熱狂に湧いているが、僕の周りではそれほど湧いてはいない。
僕達の周りはクラスメイトが多く、これよりも凄い戦いを授業中に見ているのだ。
それも僕達なのだけどね。
放課後にはクラスメイトも入れて模擬線などもしているためこのような戦闘は普通だ。
先ほどのアルの戦闘は一分もしない内に決着が付き、レンの戦闘は相手に攻撃させることなく綺麗に収めていた。
目の前では今年の入学三位が戦闘をしているが、やはりアルやレンと比べると見劣りしてしまう。
確かに上級の魔法が最初に飛んだ時は凄かったが、それだけだったのだ。
操作と制御は甘く、魔力消費は多く、命中もしていない。威嚇にはなったようだが、しっかり当てなくては意味がないだろうに。
「なんだかつまらないね」
フィノがポツリと呟いた。
「魔闘技大会はそれなりに面白かったけど、どの試合も武器で打ち合うか、魔法を放つだけ。あの時みたいに相殺したり、切り裂いたり、避けたり出来ないのかなぁ」
「ははは、仕方ないよ。あの大会は大人、達人達の大会だよ? 一介の生徒が同じようなこと出来るわけないよ。二年になれば出来る人もいるかもね」
二、三年の試合は明日だ。
今日は一年の試合をしている。
「魔闘技大会は凄かったのですね。私は見に行っていないので羨ましいです」
クラーラも少しだけ退屈そうに話に加わって来た。
僕達程ではないが、近くにいるクラスメイトも同様だ。
「まあ、決勝に進むほど戦闘も激しくなるだろうから待っていよ?」
「それもそうだね。アルとレンの試合はそれなりに楽しかったし、シャルもきっと楽しくしてくれるはずよね」
「そうですよね。アルさん達の試合なら楽しいものが見れそうです」
僕達はシャルの試合を心待ちにすることにした。
シャルの相手は四組のレーテルという学年でも上位の成績を持つ者だ。
詳しいことは分からないが、負けることはないだろう。
もし負ければもう一度基礎からやり直しだな。




