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大会メンバー選出

 グループを決めてから二週間が経った。

 今は大会のメンバーに選ばれるように皆頑張っている。

 僕とフィノは大会に出る気がないので事前にウォーレン先生に不参加だということを伝えてある。

 先生は残念がっていたが、魔闘技大会で懲り懲りなので、もう大会には必要でなければ出る気はない。


 フィノと同等の実力を持つ者は三年にいるかどうかというところだろう。だから、僕が出ない限りフィノは出場しないとのこと。

 僕もフィノが出るのであれば大会に出てもいいと思うから別にかまわない。




 授業を終えた僕達五人はいつものように大きな広場に集まり、大会のメンバーに選ばれるように特訓を始める。

 今のところ誰がメンバーに選ばれるのか分かっていないため、基礎を中心に特訓している。


 広場には僕たち以外の生徒が何人もおり、それぞれ大会に向けて特訓をしている。

 魔法で作られた人形の的に魔法を連射する者や対人戦ということで組み手を行う者、激戦になると読み体力をつけるために走り込む者等いろいろいる。

 規模は違うが部活をしているようにも見える。


 この学校には部活は存在しないがサークルや集まりのようなものは存在する。

 例えば、魔法研究や英雄研究等の特定のものを追い求めていくサークル、筋肉同好会や魔法同好会等の集まって話し合うサークル、将又どこかのイケメン・お嬢様のファンクラブやモテない同盟などがあるようだ。


 この辺りは前世と変わらないみたいだね。


 僕達は広場に着くと柔軟を始め、それぞれに分かれて魔力操作と制御を始める。

 僕も同じことをしながら魔力感知で四人の指導を行っている。


 やり方はいつもと変わらず、体内の魔力を一定に回すだけだ。

 だが、これは意外に難しく、これがしっかりできるだけで魔法の威力が上がる。

 皆は新しい魔法を追い求めるため基礎を疎かにしてしまいがちなのだ。


「アル、もう少しゆっくり。魔力が漏れ出してるよ」

「わかった。くっ……難しいな」

「シャルはもう少し早く。ギリギリでしないとなかなか上達しない」

「こうかしら?」


 どのようなことでもギリギリでやるからこそ上達する。

 体力をつけようと走るとする。

 限界を超えてまで走ると筋肉の疲労が限界を超え、逆に体を壊し体力を失ってしまう。疲れたぐらいでやめると体がそれに慣れてしまいなかなか上達しない。

 倒れるまでやるのではなく、倒れる一歩手前から二歩手前ぐらいがちょうどいいだろう。特に魔法は魔力が切れるまで疲れがないため自分でその限界を知らなければならない。


「クラーラはその調子でいこう。だけど、少しずつ魔力の量を増やしていくこと」

「はい」


 クラーラは平民でこの学園に入学できたというのは伊達ではなく、攻撃魔法に関してはあまり上手くないが基礎的な魔力の扱いは三人の中で一番上手だ。

 血液が流れるように体の中を循環する魔力を見れば誰もがそう言うだろう。


 どのようなことでも性格が表れやすいようだ。


「フィノは次のステップに進もう」

「何をするの?」


 フィノは循環させていた魔力を止め、目を開いて僕を見た。


「まず、何属性でもいいから掌に球を作る」


 右手の手のひらを上にすると水の球を作り出す。

 掌の上でふよふよと浮く水の球に注目が良くが、この状態なら学園にいるほとんどの人が出来るだろう。


「この状態はまだ出しただけだから自分の魔力と繋がっている。簡単に言うと魔力という名の紐がこの水の球に括りつけられている状態だ」


 フィノも僕と同じように水の球を作り出し、ふよふよと浮かしている。


「次にこの繋がっている魔力を利用して浮かんでいる球を動かしてもらう」


 僕はそう言うと水の球を自在に操り、分裂させたり、形を変えたり、凝縮させたりする。

 周りで見ている生徒が同じようなことをしようとして失敗する。


「操作するには放出している魔力を操作するしかない。一定の速度と放出量で操ることが出来る。簡単に言っているけど、体外に放出した魔力を操作するのは結構難しいことだから集中してゆっくり動かすことからしていこう」


 水の球を掌に戻すとゆっくり前後左右に動かしてフィノにこれと同じことをしてもらう。

 魔力を体外に表出することを魔力放出といい、魔法を操作するには魔力放出で放出した魔力を魔力操作で魔力を操作して魔法を移動させる。そして、魔力制御で魔力の出る量を変える。


 どれか一つでも欠けていると球が不安定となり崩れてしまう。


 フィノは眉間に皺を作り、掌の上に作った水の球をゆっくり動かそうとしているが、球の大きさが変わったり爆発しかけたりしている。

 不思議なことだが、自身の魔力と繋がっている間は自身に危害を加えることがないのだ。


「結構難しい……。これってシュン君が決闘でした炎のドラゴンや土塊の騎士団と同じものなの?」

「ん? ああ、あの時のも同じだよ。形を変えるのは魔力操作で、その形を作って魔法に変換するだけ、あとは今やっていることと同じだよ」

「土の人形がたくさんいたのは?」

「あれは魔力の回線を人数分作っているだけだよ。ただ、制御能力と処理能力が問われるけどね」


 今やっているように水の球が一つなら両手で一つの作業をしているのと変わらないが、二つ作り出すことは片手ずつにボールを持って投げている状態、別の操作をするとなると左右で違うことをするということになる。


 だけど、作業と違い魔力の回線で繫がっているため歩くと指示を出すように魔力を動かすだけだ。言わばコントローラーをたくさん持っている状態で、魔力感知を使えばどの回線がどの人形かなどはしっかり理解できる。

 それでも相当な処理能力を必要とするのは変わらないが。


 炎のドラゴンの熱が低かったのも魔力の回線がつながっていたため、こちらで温度を調整することができたのだ。もちろん魔力の回線を切れば普通に数百度の温度となる。


「これは想像以上に難しいからゆっくりやっていこう」

「うん、わかった」




 それから三十分ほど魔力の基礎訓練をした。

 次は基礎トレーニングをする。

 アルの場合は身体強化と部分強化の練習、シャルとクラーラは単発魔法をお互いに放ち避ける練習、フィノは僕と魔法の練習だ。


 それぞれに分かれて特訓を始めようとしたその時、僕達に向かって魔法が飛んできた。


「――『守護壁』」


 飛んできた魔法を簡易な結界で五人を覆うように展開して防ぎ切る。

 『守護壁』は結界の初歩魔法だ。

 僕が使った場合上級レベルの魔法になっているだろう。


 飛んできた魔法は風属性の『ウィンドブラスト』のようだ。風魔法の中でも中級レベルの魔法を使えるとなると上の生徒か上位の生徒だろう。

 僕はすぐに結界を消し去り、飛んできた方向に魔力感知を広げた。


 防がれた瞬間に僕達から逃げ出そうとしている反応を複数感知し、魔力を調べるといつもの奴等だった。


「またか。シュン、相手はまた同じ奴か?」

「そのようだね。あれから二週間も経つのに飽きないねぇ」


 魔力感知を切ってアルの方を向き呆れたように両手を振って答えた。


「先生には言ってないのか?」

「うん。大会前でもあるから騒がしくするのはね。それに練習していて魔法が飛んで行ったって言われたらそれまでだし。現行犯で捉えるにもすぐに逃げられるとね」

「そうか。まあ、影から攻撃されてもお前ほどの感知能力があったら見えているのと変わらないよな」

「特に魔法は見逃さないわよね」

「私はシュン様が結界を張るまで分かりませんでした」


 クラーラがそう言うと皆頷く。

 そうなるとそれなりに強い分類の生徒から放たれた魔法だな。

 ったく、あの皇子はいらないことばかりしてくれる。


「犯人はあの皇子の手のものと思う?」

「多分そうだろうね。僕達、僕に魔法を飛ばすという行為をするのはあの皇子しかありえない。フィノと一緒にいるというのもあり得るけど、僕の地位は伯爵で、あの事件で僕の立場も理解できただろうからね」


 少なくともあの事件で僕がフィノの護衛役ということと空を飛んで逃げたということで実力の一端を理解しただろう。理解できていない者もいるだろうが、あの場にいた人が僕に攻撃してくるとは思えない。

 あの皇子はどうやらあまり好かれていないようだからな。帝国出身だというのも拍車があるようだ。だからと言って帝国出身が全てではないが。


 噂でもいろいろと聞いているから違いないはずだ。

 噂はあの時の状況や僕が護衛役であること、実力に尾ひれがついているが実際の僕にはそれでも足りていないこと、奇術師であること、フィノの婚約者ではないか等々いろいろだ。


 中には決闘から逃げたや皇子を怒らせて退学する等といった変な噂もあるがほとんどの人が信じていない。

 それもそうだろう。

 僕は決闘から逃げたわけではないし、あの時は面白おかしく避けていたからそちらの方が噂としては信じられ、僕が更新記録者の学年トップだというのも関係している。


「下手したら退学ものだよ? いくら学園では権力が効かないと言っても、さすがに王族に怪我を負わせると学園としても対処しないといけなくなるだろうからね」

「それでも攻撃してくるということは、あの皇子の駒であるということね」

「そういうこと。駒であるからあとのことは保証出来ているんだろうし、もしかしたら金を貰っているのかもしれない」

「ほんと帝国のやつらはいらないことばかりしてくれるぜ。ま、帝国全員が悪い奴だとは思わないがな」


 僕達は話を切り上げそれぞれの特訓に移った。




 それから一時間ほど経つと陽が暮れ始め、今日の特訓を終了することになった。


 特訓の終了と同時にフォロンとツェルが現れ僕達にドリンクとタオルを差し出してくる。それぞれがお礼を言いながら受け取り、汗を拭き休憩する。


「今日はここまでにしよう」


 ドリンクを飲み干して四人の終了を告げる。


「ぷはぁーっ。疲れたぜ」

「このドリンク、ホントおいしいわね」

「それは水に迷宮で見つけた蜂蜜と塩、レモンの果汁が入っているの。シュン君特性スポーツドリンクだよ」

「シュン様はいろんなことを知っておられるのですね」


 スポーツドリンクを飲みながらそれぞれが感想を言い合う。

 この世界ではボールを蹴ったり投げたり、泳いだり、走ったりといったスポーツは存在しない。赤ちゃんがボールで遊ぶことはあるけどね。

 あるとすれば魔法合戦や大会等といったものだけだ。

 だから、こういったドリンクは存在していない。


「シュン君は料理もすごいんだよ。シュン君の料理を一口食べたらもう他の料理を食べたくなくなるくらいに」

「そんなになのですか?」

「うん! 合宿に行く時はシュン君が料理を作ってくれると思うから楽しみにしてて」

「はい!」


 クラーラとフィノの中が良くなって僕も嬉しく思う。

 それにしてもフィノは本当においしいものに目がないね。

 でも、女の子は料理や甘いものに目がない方が可愛いと思うからいいけど。




 次の日。


「大会の選出メンバーが決まった」


 ウォーレン先生が教室に入ってくるなり開口一番にそう言った。

 生徒は一瞬の静寂に包まれ次の瞬間爆発するかのように声を上げ、ハラハラとし始める。


「静まれ。……それでは、メンバーを言う。まず一人目はセレリック」

「はい!」


 彼は公国の侯爵の息子だ。茶色い髪を丸く切ったような感じの髪型で、いかにも貴族っぽい。確か最初にフィノに声をかけてきた奴だ。


「二人目はウォークレン」

「は、はい!」


 彼は魔法大国出身の平民だ。くすんだ青髪を短く切り揃えた活発そうな男の子だ。呼ばれるとは思っていなかったのか緊張している。

 周りの貴族が睨んでいるようで萎縮している。


「三人目は――」


 それから三人ほど呼ばれ残り二人となった。


「六人目はアデラール」

「お、俺か! はい!」


 後ろから元気よくあるが返事をした。その声には緊張も大分含まれているようだ。


「最後はシャルリーヌ」

「はい!」


 最後はシャルのようだ。

 何人かが僕達の方を見て不思議そうな顔をする。

 まあ、理由は分かるけど学園に入ったばかりで皆に引かれる様な事をするわけにはいかない。貴族と皇子騒ぎで結構引かれているというのに。


「シュンとフィノリアが大会に選ばれないのを不思議に思っているようだが、本人が出場したくないそうだからメンバーから外した」


 ウォーレン先生が代わりに説明した。

 平民というか、僕達の特訓を見ている人達は納得と言ったように頷いていたが、そこへ馬鹿な貴族が鼻を鳴らした。


「フンッ、自信がないからだろう。フィノリア様は王族であられるから危険なことをしないのは分かるが、シュン、貴様は自分の弱さが露見するのを嫌がっただけだろう?」


 位の高い貴族達が一斉に僕の方を向く。その目は嘲りのようなものが混じっている。

 僕は溜め息を付いてどうしたらいいのか考える。


 フィノが僕のことを心配してみてくる。


「そう考えてもらっていいですよ? 僕の強さが変わるわけでも、僕の成績が変わるわけでもありませんから。侮ってくれるのならどうぞ侮ってください。ちょっかいを掛けてくるのなら叩き潰すまで、です!」


 僕は右手を握り締めて膨大な魔力を込めた。

 所謂威嚇だ。


「くっ! 負け犬の遠吠えにしか聞こえんな! そう言えば、帝国の皇子の決闘から逃げたそうじゃないか」


 何人かがそう言えばと囁いている。


「なぜ逃げないといけないのですか? 手袋に触ってすらいないのに。このクラスの中にもあの面白い現象を見ていたのではないですか?」


 僕がそう言うと何人かがあの時の光景を思い出し、クスクスと笑い始めた。

 僕はその話は違うんじゃない? という目で立ち上がっている貴族を見る。

 貴族は顔を真っ赤にして怒りの形相となるが、これ以上は何も言うことがないのか怒って座ってしまった。


「喧嘩するのはいいが後にしてくれ。あの事件は俺達も知っているが決闘は成立していないという意見だ。それにフィノリアの婚約者騒ぎは皇子の勘違いのようだ。王国の方から学園長に連絡があったそうだぞ」


 連絡があったというより、あの手紙に書かれていたというのが正しいだろうな。

 あの学園長もいいことをしてくれるじゃないか。


「話を戻すぞ。選ばれた七人はあと二週間余りしかないがしっかり特訓に励み、上位に食い込めるように頑張れ。その他の者は次の大会に出られるように励め」


 ウォーレン先生はそう言って午前の授業に移った。




 僕達は授業を終えると昼食を取りにテラスへ移動するが、既に空を飛んだというのが露見しているため、教室から出ると外に出て空を飛んで移動する。


 この二週間ちょっとでその光景にも慣れたのか誰も気にしなくなり始めていた。何人かが僕達に空を飛ぶ方法を聞きに来ることがあり、昼食は結構大人数となっていた。


 昼食を食べ終わると午後の授業に行くために更衣室で着替えて第二訓練棟へ急ぐ。


 訓練棟ではすでに選ばれたメンバーが練習を始めていた。

 僕とフィノは中に入るといつもの場所に陣取り柔軟を始める。

 そこへクラーラもやって来たが、今日はもう一人お客さんがいるようだった。


「シュン様、この子も一緒に訓練をしてもよろしいでしょうか」


 そこには大会のメンバーに選ばれたウォークレン君が居心地悪そうに立っていた。

 僕は立ち上がるとクラーラ達の方を向いてどうしたのか聞く。


「いいけど、どうして?」


 僕がそう訊くとウォークレン君は一歩後退った。

 ちょっと心が折れそうになる。


「私もこの国の出身で友達なんです。私が強くなったのを見て相談されたんです」


 まあ、普通はそう思うよね。

 それに女の子が自分より強くなったら尚更ね。

 僕はウォークレン君の方を向いて本人から聞く。


「ウォークレン君はどうなの? 君も強くなりたいからここに来たの?」


 僕がそう訊くと挙動不審となり大量の汗を掻き始めた。

 そんなに僕は怖いかな?


「い、いえ、僕は大会で上位に入りたいんです。クラーラが強くなったので自分も強くなりたいという気持ちがありますが、ここに入ったからには出来ることをしっかりしたいんです。だから、どうかよろしくお願いします」


 ウォークレン君はそう言って頭を下げてきた。

 僕は少しだけ呆気にとられたが、すぐに微笑んで彼の肩に手をかける。


「頭を上げて。僕でよければいつでも教えてあげるよ」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」


 ウォークレン君は嬉しそうに顔を綻ばせてお礼を言う。


「先生に許可は得た?」

「はい。元々自分は貴族達の中にいて心細かったので、そう言ったら普通に許可を貰えました。元のグループの皆にも伝えてあります」

「そうなんだ」


 多分、僕の所にでも来るとか思ってたんじゃないかな?


「これからよろしくね。気安くシュンと呼んでよ、ウォークレン君」

「で、では、シュン様と。僕のことは呼び捨てで構いません」

「まだ早いのかな? じゃあ、レンって呼ばせてもらうけどいいかな?」

「はい! よろしくお願いします! 本当にシュン様の指導が受けられるとは思いませんでした」


 レンは興奮してはない気を荒くし、頬を染めて僕に意気込んだ。


「僕の指導?」

「知らないのですか? シュン様の指導は的確で、解りやすく、内容が豊富で有名なのです! 上級生からも教えてほしいという人がいるそうですよ? 貴族の方々は嫉妬やプライドがあるようで認めていませんが、私達平民は教えを乞いたいとずっと思っていました!」

「そ、そうかな?」

「ええ、そうですとも! 最初は学年トップや貴族というので怖かったですが、私達平民に優しく接してくださり、貴族と驕ることもなく、元が平民だというのも人気の理由です! 学園に広まった噂も話になるほど広がっています!」


 レンは更に興奮する。


「う、噂? それってこの前の王子の騒ぎと決闘騒ぎのこと?」

「それもですが、元が平民ということや学年トップというのもあります。学園長と仲がいいことやコネというのもありましたが、あの騒ぎを知っている人はそんなこと気にしないでしょう」


 レンは腕を組んで強く頷く。


「私は王女様と護衛の禁断の愛というのがいいです」


 クラーラがおっとりしたような表情でそう言った。

 僕は反射的にフィノを見てしまい、フィノと目が合うとお互いに頬を染めて目を離してしまった。

 それがまたクラーラの乙女心に火を着けてしまう。


「きゃ、いいですね。王族と伯爵ですが、身分は足りてますよね」

「そうだけど、その噂って信じられてるの?」

「そうですねぇ、半分半分ではないでしょうか。女子生徒は信じるというより、その噂を想像するのが楽しく盛り上がっているといったところでしょうか」


 なるほど、想像物や妄想物のような感じになっているのか。


「男子生徒からは信じられていないですね。中には嫉妬を向ける人もいますが、シュン様が婚約者がおられると公言されたので表立っては動いていません。あの皇子の前で言ったのがそれなりに聞いているようです」

「ありがとう。他に何かあったら教えてよ」

「はい、任せてください!」


 クラーラとレンは元気良く返事をしてお互いに何か情報を持っていないか話し合う。


 柔軟を終わらせたところでアル達もやってきて、それから数分経つと授業の鐘が鳴りウォーレン先生が来た。




 午後の授業は大会に向けて自習となるようで、残り一週間ちょっとで大会メンバーは調整するようだ。


「まず、レンがどのくらい出来るのか見せてよ。それからメニューを考えようと思う」

「わかりました」

「相手は――アル、頼むよ」

「おう! 任せろ」


 レンは僕と同じ片手剣のようで、僕のように魔法剣士というよりは剣主体の剣士という感じだ。

 内包する魔力もそれほど高くはないが、練習で見ていた技術はクラーラと同等ぐらいだ。

 知り合いだと言っていたことから恐らく、一緒に訓練でもしていたのだろう。


「ルールは相手に打撲以上の怪我を与えないこと、魔法アリ、僕が止めるまで戦うことの三つだ」


 二人は元気良く頷いて目の前の開けている空間に行き対峙する。

 アルはいつものように格闘スタイルで構え、レンは右脚を前に正中線に構える。


「両者、準備はいいね? ――それでは、始め」


 僕の合図と共にアルが駆け出し、レンの腹に向かって一撃を食らわせる。試しの一撃だろう。


 レンはそれを捉えて見極めると前に一歩出ながら体を横向きに変え、アルの首に向けて剣を横薙ぎに振う。

 アルは小手を縦に構えることで凌ぎ、金属音が火花と共に鳴り響く。


「レン、意外にやるな」

「アル様もお強いですね」

「シュンの指導を受けてるからなッ」

「それは羨ましいです。ですが、私も今日から受けますよッ」


 言葉を交わしながら続く攻防に周りの生徒も特訓をやめて様子を見始める。


 アルが突きを放てば、レンは体捌きで躱し剣撃を放つ。アルは小手で弾き流しながら肉薄するが、レンは小刻みに動き懐に入れない。


「『バーニング』」


 アルはいつものように火魔法の筋力上昇の魔法を掛け小手が赤くなる。

 それを見たレンも魔法を唱える。


「『アクアショット』」


 レンの周りにいくつもの水玉が出来上がり、近づいてくるアルに向かって飛んで行く。アルは小手で弾きながら距離を詰める。

 レンは水の弾丸をアルの顔に集中させて撃ち込み目くらましにしているが、技量の差が出始める。


「『ファイアーボール』」


 肉薄したアルは向かってくる水とレンの周りの水を火魔法で蒸発させて地を思いっきり蹴り付けた。

 レンはその場から後ろへ飛んだが、アルは身体強化を一瞬だけ施し蹴り付ける力を上げ、レンの懐に忍び込んで顎にアッパーを放つ。


「そこまで!」


 アルの放ったアッパーは寸前のところで止まり、レンの額から一滴垂れ地面を染める。

 二人は目を合わせると認めるかのように笑ってこちらに戻って来た。


「二人ともお疲れ」


 僕がそう言うと周りの生徒から拍手が送られる。

 二人は気恥ずかしそうに照れ、顔を赤くした。


「レンは剣と魔法の使い方はいいけど、威力がないね。身体強化とか使える?」

「いえ、なぜか難しくてうまく使えません」

「なら、大会までに使える様になろう。一週間もあれば大丈夫だろうからね。最初の一撃はいいタイミングだったのに威力がないから片手で弾かれたでしょ?」

「はい、バランスを崩すことも出来ませんでした」

「あそこで一瞬でも身体強化ができてればバランスを崩せて、追撃を行うことが出来たんだよ」

「なるほど……これからよろしくお願いします」


 少し言われたことを考えたレンは頭を下げてお願いしてきた。


「こちらこそよろしくね。――アルは大分魔法の使い方が良くなってきたけど、火魔法を使うまでが遅いよ。もしあれが熟練の魔法使いや水じゃなかったら穴だらけか傷だらけだよ?」

「め、面目ねぇ」

「だけど、火魔法を使った後からの動きはいいかな。身体強化も使えるようになったみたいだし」

「ああ、長続きは難しいが、一瞬だけならどうにか使えるようになったからな」


 アルは嬉しそうに鼻を擦った。




 先ほど言ったように今日からは大会用のメニューに切り替えようと思う。

 基礎練習に加えて実戦形式の練習を行うことにした。

 まずは身体強化の練習からだ。


「身体強化には二種類の方法がある。それは全身強化か部分強化のどちらかだ。四人にはまず全身強化を覚えてもらう」


 全身強化は万遍なく魔力を回し強化させる魔法のことだ。


「魔法というのは簡単に言えば魔力とイメージで決まる。特に身体強化には詠唱がないため、それが顕著だ」

「そう言えばそうだな。聞いたことがない」

「身体強化はどこを強化させるかでその力具合が決まるが、全身強化は全身に魔力を送ることで強化できる」


 四人は真剣に僕の話を聞く。


「まずアルに質問。アルは身体強化を行うとき、どこに意識をしている? イメージは?」

「そうだなぁ、全身に力を溜める感じか?」

「シャルは?」

「そうねぇ、魔力で満たす感じかしら」


 二人は難しい顔で思い出すと指を立ててそう言った。


「それだけだと魔力の無駄遣いだ。イメージを簡単に言うと魔力を血の流れのように循環させる。これは誰でもわかるように血は全身に流れているわけだからね」


 心臓を押さえて回る方向にぐるりと一周させた。


「次にイメージだけど、筋肉に意識を割いてみてほしい。体の表面や中身を強化するのではなく、筋肉という組織を強化するように考えてくれ」

「筋肉? それは今のとどう違うんだ?」

「そうだなぁ、実際に見てもらうか」


 僕は右手にアル達が使っている身体強化を施し、左手に自信がやっている身体強化を施した。


「見て分かるように右手の身体強化は表面上に魔力が出てきているが、左手の方は皮膚の下筋肉に魔力が纏っているため出てきていない」


 こうすることで消費魔力を抑え、体にかかる負荷も減らすことが出来る。

 フィノに地面を隆起させてもらうと両手を同じ勢いで振り下ろした。破壊音が鳴り響き、左手の方がより大きく罅が入り壊れた。


「と、このように威力の差も出る。これをアルとレンには使えるようになってほしい。シャルとクラーラは脚に使えるようになり、スピードを生かせるようになってほしい」


 この後僕とフィノの指導の下で身体強化の練習が始まり、どうにかコツを掴み始めた。

 僕の言葉を聞いた周りの生徒が同じように身体強化の練習を始めるのは結構面白かった。


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