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出発と食の都と出会い

次回から二万字を越えた時点で二つに分けて投稿します。

 中級最後の迷宮を踏破してからひと月が経った。

 このひと月の間にいろんな勉強をした。

 それは学園の入学試験だけではない。他にも、テーブルマナーや礼儀作法などもあった。

 僕とフィノが通う魔法学園は平民・貴族平等だとしても、さすがに他国の要人や開かれる催しで恥かしいことをするわけにはいかないということだ。


 算数に関しては地球での知識があるためそうでもなかったけど、歴史に関してはそうもいかなかった。ある程度は師匠や資料室などで独自に調べ知識として手に入れていたけど、学園での筆記試験に合格できるレベルかと言われるとそうでもなかった。

 だけどそれもこの四か月でどうにかすることができた。


 魔法に関しては言うことがなく、実技試験も問題がないだろうと思える。

 というより、僕とフィノは力を抑えないといけないだろう。全力でやるとどんな結果が出るかわかったもんじゃないからね。


 詳しいことは学園に行ってみないとわからないけど、試験内容は大きく分けて二つ。筆記試験と技術試験らしい。らしいというのは毎年試験が変わっているからだ。もしかしたら増える可能性もある。


 筆記試験は毎年違う問題が出され必ずあるのが、国語、算数、歴史、一般教養の四つとなる。

 国語と歴史は地球の試験と同じようなもので、理解力があるかの試験となる。また、言語が統一されているため国語に関しては問題ないけど、歴史に関しては各国で違う場合があるから大きな事柄とこのアルセフィールの歴史ぐらいとなる。

 算数は地球でいう四則計算ぐらいで、中一・二ぐらいだから問題ない。

 一般教養は国語に似ているところがあって、敬語やマナーなどが当てはまる。


 技術試験は毎年変わるそうで、詳しいことは試験前日ぐらいに伝えられるらしい。

 これは魔道具等の不正行為を防ぐためとも言われている。

 僕としては財力も力だと思うから魔道具が不正行為かどうかは判断できないけど、実際問題魔法学園は魔法等を習う場所だから魔道具で強くなっても意味はない。

 そんなもので合格しても入学してから自分が困るだけだからね。


 で、技術試験の内容は武術試験と魔法試験に分かれるだろうと言われている。毎年そうだからここは間違いないだろう、とフィノが言っていた。

 武術試験も試験者同士で戦闘したり、試験官と戦闘したり、挙句には魔物と戦闘させた年もあったそうだ。

 魔法試験というのは魔力量を測ったり、実際に魔法を放ってもらうことを言い、戦闘試験は文字通り戦闘を行うことになる。

 試験内容が変わるというのは魔力量の合格基準が違ったり、お題の魔法が自身が使える最強の魔法や威力が分かる魔道具を使って威力を確かめたりする、と毎年変わっているからだ。

 まあ、学園には魔闘技大会で使われた特殊な結界を使用している場所があるというから魔物と闘わせてもいいのだろうけど、始めて戦う人はトラウマものになると思うんだけど……。


 こういうように試験内容がころころと変わるのが魔法学園の試験となる。




 僕達四人はバラクでお世話になった人達に挨拶をして、魔法学園との中間にある食の都リーヨンに向かって出発しようとしていた。


 これまでお世話になった人達は獅子王のアールさん達、ギルドの受付嬢のローラさん、疾風の牙のガインさん達のことだ。他にもお世話になり続けた宿の人達や出店のおばちゃんおじさん達にもきちんと挨拶と食べ物をたくさん買ってきている。

 ついでに、ローラさんからもたらされた情報の中に僕達が説教をした天上天下の三人のことがあった。三人は僕達と別れた後、しっかりとギルドの訓練場で訓練と指導を受けているそうだ。特に魔法に関しては死に物狂いで頑張っているそうだ。

 それほどまでに僕とフィノの魔法が刺激的だったのだろう。


「シュン、元気でな。お前なら魔法学園に受かるだろうよ」

「フィノちゃんも元気でね。お肌には気を付けるのよ」

「私も魔法学園に通っていたので合格すれば私の後輩となりますね。友達をたくさん作ってください」

「俺はよくわかんねえが、お前達ならやれる。またいつか一緒に迷宮に潜ろうぜ」


 出発をする準備をしている間にいろいろな冒険者からお別れの言葉を贈られた。

 この滞在した四か月の間に、いろんな人とレイドパーティーを組んだことが何度かあった。そんなに回数は多くなかったけど、有意義な時間を過ごすことができたと思う。


 僕達は馬車に乗り込みながら、挨拶をくれる人達に手を振って別れの言葉を言う。


「今までありがとうございました。何時か帰ってくるので、その時にまた一緒に潜りましょう」

「私も元気に頑張ります。皆さんも怪我のないように頑張ってください」


 僕とフィノは挨拶をすませると馬車の中に入り込み、フォロンが御者台に座って手綱を引き馬車を発進させた。ツェルも僕達と一緒に馬車の中に入りフォロンと交替で御者をすることになっている。


 次第に加速していく馬車の中から、小さくなっていく迷宮都市バラクに心の中で出会いと経験に感謝を告げて、次の目的地食の都リーヨンに意識を傾けていく。




 食の都リーヨンまでは馬車で三日ほどかかり、荒野地帯から草原と湖の地帯となるところがリーヨンがある場所となる。

 リーヨンはいろんな国から商人や旅人が訪れるため、近づいていくにつれて活気付いていく。バラクも近くにあるから冒険者も結構いるそうだ。


 この三日間でおよそ二百五十キロ以上は走ってきたと思う。馬車はそれほど速くはないけど人が歩くより五倍ほど速く走れる。時速十キロから十五キロといったところで、一日あたり八時間の休憩込みで八十キロぐらいといったところになる。


 リーヨンまでは魔物の駆除が頻繁に行われているため、魔物と遭遇して命を落とす人は少ない。更に荒野と草原地帯ということで盗賊が出てくる心配も少ない。

 だから、安心してリーヨンまで行くことができる。だからと言って、注意を怠ることは出来ないけどね。


「あと数時間もすれば、リーヨンが見えてくる頃だと思います」


 御者台から馬車の中に首だけを突っ込んだフォロンが目的地までの報告をした。

 残り数時間ということはあと五十キロもないといったところだろう。


 この三日間は天候も良く晴れた日が続いていたため、予想よりも早く移動することができ、現在が午前九時頃だから午後過ぎ、遅くても夕方には着くという計算になる。


 三時間経つと馬車の速度が落ち始め、馬車の簡易窓から外を覗くと周りには何台もの馬車が目に入った。もうすぐリーヨンに着くのだろう。

 それから二時間ほど経った頃無事リーヨンに入ることができた。


 リーヨンの中に入るとすぐに馬車と馬を管理できる宿屋を探して、遅めの昼食を食べにリーヨンの食通りに向かうことにした。


 僕はリーヨンについてあまりよく知らないからいろんなものが目に移り、その度に嬉しそうにフィノが説明してくれる。


「ここはリーヨンで一番有名な食堂屋“こくまろ”っていうお店なんだよ。濃い味付けなのに円やかで口当たりがいいって評判なの」

「へえー、そんな料理があるのか。じゃあ、お昼はここにしよう。二人もいいよね」

「「はい」」


 “こくまろ”という食堂屋さんは結構大きなお店で、入口の上にはでかでかと白文字で『こくまろ』と書かれた黒い看板が掛けてある。

 昼から外れた時刻だというのに行列こそできていないけど、先ほどから入って食事をしては出て行くお客さんがたくさんいる。

 中からはいい匂いが漂ってきて、お腹が空いている僕達にこっちに来いと呼びかけているようだ。


 二人もここで昼食を食べることに意義はないようで早速中に入って昼食を食べることにする。


「らっしゃい。ご注文は何にしやしょうか」


 僕達が席に着くと同時に、伝票らしきものを片手に鉢巻を頭に巻いた男性が大きな声で注文を聞きに来た。


「この店で人気なのはどれですか?」


 僕はこの店のメニューにどんなものがあるのか知らないから、とりあえず無難な人気メニューを聞いてみることにした。


「人気メニューはレッドバードの薄赤い鶏肉を高温の油で揚げて、甘辛い白色のソースをかけた甘辛チキン定食というのが人気だな。一緒にトマトサラダとクルミパンが付いてる料理となりやす。他にも特製シチュー、最近仕入れたパスタと呼ばれる麺料理、香辛料を多く使ったスープなんかもおすすめとなりやす」


 男性は注文表を指さしながら簡単に説明してくれた。フィノ達も一緒に聞いている。


「では、そのレッドバードから作った甘辛チキン定食でお願いします」

「私は特製シチュー定食にします」

「では、私はそのパスタという麺料理をお願いします」

「僕は香辛料を使ったスープのパン定食をお願いします」


 それぞれ食べたいものを言うと男性が伝票に走り書きをして奥の方へ消えていった。




「お待たせしやした。ご注文の甘辛チキン定食と特製シチュー定食になりやす。残りの二つもすぐに持ってきやす」


 僕とフィノの前に料理を置いてすぐに残りの二つを取りに行き、数秒後に二つの料理を持って帰ってきた。

 慣れているのか動きに無駄がないように見られる。


「ご注文は以上でいいやすね。では、ごゆっくりとお食べ下さい」


 男性は最後だけ綺麗な言葉遣いで言い、頭を下げて先ほど入ってきたお客さんの方へ注文を取りに向かった。


 忙しそうにしているけど楽しそうだったな。

 セドリックさん達も同じような感じだったから、辛くても今やっていることに誇りを持っているのだろう。


「冷める前に食べようか。いただきます」


 男性を追っていた目を料理に向けて、熱々と揚げたての音を立てているチキンを一口食べてみる。


「――おいしい! レッドバードの肉はこの辺りだと手に入らないから初めて食べたけど、そんなにしつこくなくて甘辛いソースが絡んでとてもおいしい。肉も柔らかいしとても食べやすい」

「このシチューはとろみがついているけど、あっさりしていて口当たりがとてもいいよ。入っている具も柔らかくて味がしっかりと付いてる」


 フィノはシチューを飲み目を輝かしながら、僕の肩を叩き嬉しそうに言っている。


 ツェルのパスタは地球でいうミートスパゲッティのようなもので、中心に半熟の卵がのっている。麺は少し太いような気もするけど、ツェル本人はニコニコとおいしそうに食べているからそれほどではないのだろう。


 フォロンの香辛料をたくさん使ったスープというのはカレースープに近い物のようだ。匂いはカレーに近く、色は若干茶色で、大きめな野菜とジャガイモが入っている。これも当たりのようでフォロンは辛さに驚きながらもおいしそうに頬張っている。


「このパスタという料理の見た目は脂っこいのですが、意外にあっさりとしていて女性でも食べやすいですね」

「僕のものは辛いですが、それほど苦ではない辛さです。見た目通りあっさりとしたスープでこの香辛料の辛さが病みつきになります」


 二人も満足いっているようだ。


 初めて食べる料理に舌鼓を打ちながら、至福のひと時を過ごした僕達四人は“こくまろ”を後にして、リーヨンでの目的である食材調達と観光に移った。




 食通りと呼ばれる大通りは料理専門店が建ち並ぶ道のことで、僕達の目的である食材が多く売られている大通りは食材通りと呼ばれるところとなる。


 食材通りには僕が見たことのない食材がたくさんあるに違いない。先ほど食べた料理なのかにも僕が知らない食材がふんだんに使われていたのだからね。


 多くの商人や主婦達が売り買いしているのを視界に入れながら、まずはどんなものがあるのか確かめていく。お店によって扱っている食材が違い、値段、鮮度、種類、量、産地……いろいろと変わってくる。しっかりとみて、出来るだけ質が良く、値段が手頃で、信用できる食材店を探すのがコツだ。


「思っていた以上に人で溢れ返っているね。馬車が三台は通れそうなのに、今は一台も通れそうにないぐらいだ」

「全てがそうではありませんが、一度ここへ食材が集まり、商人達が仕分け・売買をして各国に送り届けられます。もちろん、王国の食材も一度はここへ集まっているはずです」


 僕の率直な感想にツェルが詳しく答える。

 ここの大通りは王都の大通りと同じくらいの幅があるのに、王都と比べて活気が凄まじく、冒険者とは違った商人達の威勢のいい声が飛び交っている。


 次々に人が行き来しているから立ち止まると後ろの人の邪魔となり、一カ所に立ち止まることが出来ず、店内を外から少ししか見ることが出来なかった。

 好奇心旺盛のフィノはいろいろなものに目が移り、歩いていた足が緩み掛けては時折人とぶつかりそうになって慌てて僕の方に近寄ってくるのを繰り返していた。


 そんなフィノも思った以上の人混みの多さと休む暇のなさに疲れが出始めたのか、僕の方に少しだけ寄りかかるようにして歩いている。

 馬車旅の疲れもあるようで顔には疲労の色が浮かび、少し粗い息遣いになっている。


 ツェルとフォロンも気が付いているようだけど、この周りには休めるような場所がなく、人混みの多さで足を緩めることもかなわないからどうしていいのか困っているようだ。

 そして、僕の身長が低いため辺りを見回して休憩できるところを探すことが出来ずにいた。


「フォロン、この辺りに休めるようなところが見える? 食材通りだから喫茶店とかはないかもしれないけど、どこか休憩できるような場所は見えないかな?」


 フォロンに聞いてみるがそれほどいい返事が返ってこなかった。


「あと二、三百メートル程進んだところで人混みが途切れているように見えます。恐らく、公園か広場があるのでしょう」


 後二百メートルはあるのか。

 フィノの様子からしてたぶん大丈夫だろうけど、早めにその場所まで向かった方がよさそうだな。


「一通り市場調査も終わったから、フォロンが言っていたところまで向かおう。そこでちょっと休憩することにする」


 食材通りの三分の二ほどの距離を進み終っていたため、これ以上調査をしても同じだろうと考えて三人に休憩することを促した。


 人は慣れない物や場所に行くといつも以上に疲労が溜まってしまうものだ。

 フィノは冒険に慣れ始めたといっても、まだ冒険に出始めて半年も経っておらず、人混みの中を歩くこともほとんどしたことがないはずだ。


 僕はいつものようにフィノの手を取って、人の隙間を縫うように奥の方へ進んでいく。ツェルとフォロンも僕達に遅れないように付いて来ている。


 十分ほど経つと人が減り始め、人と人の隙間が大きくなり身動きが取りやすくなった。フィノも人に対する気疲れがなくなり、疲れながらも僕の隣で歩いている。

 それから少ししてすぐに開けた場所に出ることが出来た。


 開けているといっても人はたくさんいるようで、座れるような場所を探すのに一苦労しそうだ。


「あちらの日陰に空いている席があります。あそこに座って休憩しましょう」


 ツェルが見つけたところには傾きかけた陽で建物の日陰となった長椅子が設置されていた。テーブルはないようだけど、今は休憩したいだけだからどうでもいいことだな。


 誰かが座る前にその設置された長椅子の場所へ向かう。フィノも休憩できるとわかり、早足となり急いで長椅子のところまで向かって行く。僕達はフィノを追いかけるようにフィノの背中を追って休憩に入った。


「はぁー。……疲れちゃった。シュン君、迷惑かけてごめんね」


 フィノぐったりと背凭れに背中を預けて、僕の肩に頭を寄せて呟くように言った。


「いいんだよ。迷惑だって思ってないから、疲れたときは疲れたって言って。倒れてからだと遅いからね」

「うん、今度からはそうするね」


 僕は方に傾けられているフィノの頭を優しく撫でて、僕もフィノに寄りかかるようにして疲れを癒すことにした。

 ツェルとフォロンは僕とフィノを挟むように長椅子の両端に腰を下ろして、僕とフィノを微笑ましい目で見ていた。


 僕は気恥かしく思いながらも寄り添っているフィノに気遣って、フィノのしたいようにさせることにした。

 フィノも頬をほんのりと朱色に染め、恥ずかしそうにしているけど、座ったことで疲れが取れていくのが分かるのか身動ぎせずに僕の方へ寄り添っていた。


 通行人が僕達を見ていろいろな目を向けてくる。独身であろう男性たちからは嫉妬の籠った目を向けられ、お年寄りや子供連れの夫婦からは微笑ましいものを見るような目を向けてきていた。そして、子供達からはからかうような目を向けているような気もする。


 三十分ほど休憩をした後、陽が暮れ始めたから馬車と馬を預けた宿屋へ帰って夕食を食べることにした。

 と言っても、先ほど昼食を食べたばかりだから軽いメニューを頼み、食べ終わるとすぐに部屋に戻って就寝することにした。


 宿屋の部屋は四人部屋を頼み、お風呂が付いていてゆったりと出来る部屋だ。


 やっぱり、馬車の移動とかで疲れた後はゆっくりとしたいと思う。少し熱めのお風呂に入って体の芯まで温まると一気に眠気が襲ってきて、歯を磨いてすぐに寝ることにした。




 次の日。僕が起きると既にツェルとフォロンが起きていて、メイド服と執事服に着替えていた。私服でもいいのではないかと思うけど、二人がこっちの服の方が落ち着くと言われたから本人に任せることにした。


 僕としては恥ずかしい気もするけど、これからは学園に入りフォロンが従者として付くから慣れておかないといけないことなのだろう。それに、一応貴族になっているからそのこともある。

 フィノは元から王族なのでこういったことに抵抗感がほとんどないみたいで、いつも通りに過ごしていた。

 王城のメイドや執事なら戦えて普通なのだろうな。大物貴族が戦闘メイドを保持しているのだから、当たり前ではあるのだろうけどね。


 今は慣れている僕だけど、地球出身の僕からしてみれば、メイドが戦うというのは想像上のものだから傍から見ていてとても新鮮だった記憶がある。


 隣のベッドにはフィノがまだ眠りに就いているみたいで、僕はその寝顔が可愛く思って自然と笑みが浮かんできた。

 もごもごと口が動いたり、微かに漏れる吐息と声、身動ぎすることで露わになる白い肌、乱れた長い黒髪が顔に垂れかかってとても綺麗で可愛らしく思える。


 何回も思うことだけど、僕はよくフィノと婚約することが出来たな。本当なら顔を拝見することさえ叶わないことだっていうのに、僕は本当に運が良くていろんな人に愛されていると思える。

 メディさん達神様には感謝してもしきれない恩を感じている。メディさん達は罪滅ぼしと言っていたけど、普通はここまでしてくれないと思う。だから毎日感謝の念を忘れないでいるんだ。

 こんなことは前世では考えられなかったことだけどね。


 僕はいつものように空に浮かんでいるお天道様に向かって感謝の気持ちを込めた祈りを捧げる。

 神殿に行っても祈ってもいいのだけれど、毎日神殿に行くことが出来ないから、神が住んでいそうな太陽に向かって祈っているのだ。

 太陽に神が住んでいそうだと思うけど、実際は住んでいるとは思っていない。太陽が最も神に近いであろうとは思っているけどね。


 日課を終えたころにはフィノものっそりと起き始め、朝食を食べに行く準備に取り掛かる。

 まだ疲れが完全に取れていないみたいで少しだけ眠たそうにしているフィノは、ツェルに着替えを貰って風呂場に向かって行き着替えを始める。

 僕とツェルとフォロンはフィノが着替え終わるまでに今日の予定を決めていく。


「シュン様、今日の予定はどうされるおつもりですか?」

「今日は昨日確かめた食材を買おうと思っている。だけど、今日も人が多いだろうから早めに行って昼には買い終えておこうと思う。昼前なら商人だけで、主婦達はいないだろうからね」

「わかりました。では朝食を食べた後すぐ出かける、ということでよろしいですね」

「うん、準備は既にできていると思うから朝食を食べたらすぐに出かけよう」


 着替え終わって風呂場から出てきたフィノにも聞こえていたみたいで、すぐに出かけられるような準備をして四人で朝食を食べに向かった。


 朝食は三種類あって一つは野菜を中心としたあっさりメニューで、もう一つが卵やハム等を中心とした一般メニュー、最後が完全な和食とまでは言えないもののご飯と焼き魚のメニューだった。


 僕は当然ご飯と焼き魚を頼み、フィノとツェルが野菜を中心としたメニューを、フォロンが卵とハムのメニューを頼んだ。


 この宿屋は少しだけ高級な宿屋なため、出された料理もそれなりにおいしく、完食することが出来た。




 朝食を食べ終えた僕達は先ほど決めた予定に従って、食材通りに向かった。食材通りは昨日のような人混みの多さはなく、中央は一直線に馬車一台分ほどが空いていた。それでも人が多くいるように見えるのは凄いことだ。


「今日はあまり疲れそうにないね」


 フィノは昨日の人ゴミの多さを思い出して、今日の人通りが少ないことに安心したように言った。


「だけど、早くしないと人が増えていくだろうね。早速見て回ろうか」

「うん!」


 僕達は大通りの人混みの中に進んでいく。


 まず向かったお店は野菜専門のお店だ。昨日の時点で眼を付けていたお店の一つで、量が多く種類もたくさんあるお店のようだった。


「いらっしゃい。家の野菜は種類が売りだからよく見て言ってちょうだい」


 僕達が野菜を見ているのに気が付き、にこやかなおばさんがお店の奥から出てきた。


 店には三十種類を超えると思える野菜が並べられていて、今日の特売と最近入荷した野菜が店先の草の器に入れられて置かれていた。

 僕の目に留まったのはその店先に置かれた特売と入荷の野菜だ。


 今日の特売の野菜は大根やカブ、ゴボウ等の根菜が多いようで、どれも土がついていて採れたてであることを示している。大根は太く長く立派で、カブは丸っとずっしりとしていて、ゴボウは細長く量が多いように見える。

 入荷した野菜はトウモロコシや生姜、みょうが、枝豆等が多くある。多少季節の違いがあるけど、どれも新鮮で瑞々しいように見える。


「では、大根と春菊、長葱、白菜をお願いします。あ、あと、生姜もお願いします」


 僕はそれぞれの野菜を指さしながら、目的のものを買っていく。このメニューは鍋物のメニューとなる。


 学園に着くときは二月頃で、季節は冬となるからそれなりの対策をしていかないといけないだろう。この世界の冬がどのくらいの寒さになるのかよくわからないけど、人から聞いた話では地球のそれと変わらないと思えたからしっかりと準備をしていたほうがいいだろう。

 ツェルとフォロンについては分からないけど、フィノに関しては季節が変わるという状態が初めてだろうから体調を崩しやすいと思う。

 だから、ここで冬物の野菜と夏物の野菜を多めに買っておいて、季節対策の料理を作れるようにしておかないといけない。


 他にも服屋さんに寄って冬物のコートと私服を買っておいた方がいいだろうな。学園にも売っているだろうけど、この辺りで買っておいた方が入国するときから着ていられるからそっちの方がいいだろう。


「生姜も買うのかい? 子供にはまだ早い気がするけどいいんだね?」


 おばさんが生姜を手に持ちながら確認を取ってきた。

 この世界の食文化はそれなりに進んではいるけど、料理が医療効果や美肌効果、健康維持、体温保持等にも優れていることがあまり知られていない。

 寒いところでは熱いものを食べる等といった調整は出来ているけどね。


「僕達はこれから学園に向かうのですが、聞いた話では寒いとのことで寒さ対策をしようと思ったんです。そこで目に入ったのが生姜で、生姜は体温調整をしてくれる効果があります。軽く加熱した生姜をすりおろしたものを紅茶に加えて飲むと体温を高くします。他にもミルクに混ぜたり、蜂蜜とレモンや柚子と一緒に飲むのもおすすめですね」


 僕はおばさんから生姜を受け取りながら、生姜の簡単な料理の仕方を教えた。生姜は他にも冷え性に効いたりするはずだ。

 ただ、使い方を間違えると逆効果になってしまう。低温で加熱した生姜や乾燥生姜は身体を温める効果があり、逆にそのまますりおろした生姜は身体の体温を下げる効果がある。


 ようは使いどころと使用法を間違えてはいけない、ということになる。今回の場合、僕が教え方を間違えると間違った情報が広まってしまう可能性があるから気を付けないといけない。


「そうなのかい。それはいい情報を貰った。いろいろとおまけしておくよ。風をひかないように気を付けるんだよ」

「はい。健康管理には十分に気を付けます」


 おばさんは数個の生姜と大根を一つおまけしてくれた。

 僕達はおばさんにお礼を言って次のお店に向かって行く。

 この世界では情報もそれなりの価値が付いてくることが多い。情報を蔑ろにする人は、この世界では生きていくことが出来ないといっても過言ではないかもしれない。特に商人であるのなら尚更だ。

 情報は生き物のように動くものである、と聞いたことがあるからね。


「本当にシュン君は何でも知っているね。故郷では普通のことなの?」

「国によって認知度は違うけど、僕がいた国ではほとんどの人が知っていることだったね。情報もすぐに手に入れられるところだったから」

「いろんな情報を知ることが出来るんだ。私もシュン君のいた国に行ってみたいなぁ」


 フィノはそう言ったけど、僕がいた世界に行くことは不可能だろう。

 まあ、絵として見せることが出来るからそれで満足してもらうしかないな。


 ネットさえ繋がっていればいつでも知りたい情報を知ることが出来た。本も比べ物にならないほど安価で冊数も多く、物事の細部が解明されていた。その分、嘘の情報が流れていたり、自分で調べる能力の低下、犯罪や思想に染まったり、個人情報の漏洩にも繋がりやすかったな。


 まあ、この世界だと情報を集め難い代わりに個人情報はあまり知られることがない。個人情報が漏れ難いのではなく知られ難いのは、個人情報を国や街が集めていないからだ。

 冒険者ギルドも個人情報と言っても個人の能力が主なことで、血液関係や家族、仕事等が書かれているわけではない。


 だから、いろんな意味で気を付けないといけないのはこの世界でも同じことだ。




 次に向かった場所は穀物や豆類等を売っているお店だ。

 鍋と言えば豆腐を忘れることは出来ないと思う。

 だけど、この世界にはやっぱり豆腐という料理が存在しない。いや、存在しているかもしれないけど、この辺りでは目撃したことがないし、聞いたことさえない。醤油に関しても同様だ。

 残念ながら醤油に関しては作ったことがないから作ることが出来ない。大豆が主な原料である、ということしかわかっていないから無理だ。


 で、買いに来たものは消費してきた米類と小麦粉、豆腐を作るための大豆だ。にがりについては海水から作ることが出来るから大丈夫だし、出来ていればすごく苦いだろうからわかると思う。


「こんにちは。お米と小麦粉、大豆を見せてくれますか?」


 僕は店先にいたお兄さんに向かって目的のものを言った。


「米と小麦粉、大豆な。米はこっちにあるから自分で好きな種類を確かめてくれ。小麦粉はその隣にある。大豆はどのくらいいる?」


 お兄さんは抑揚のない声で食材のある場所を教えてくれた。


「そうですねー、多ければ多いほどいいので百キロほどくれますか?」

「百キロもかっ! まあ、売れるのなら構わないからちょっと待ってろ、直ぐに持ってくる」


 お兄さんは細い目を見開いて驚愕するとすぐに元の状態に戻って、奥の方に大豆を取りに行ってくれた。


 僕達はお兄さんが戻ってくる前に米と小麦粉の種類を選んで待っておくことにした。

 米の種類は大きく分けて二種に決め、小麦粉は強力粉と薄力粉と思える小麦粉の二種類を選び、その中でも中間のような感触の小麦粉を選んだ。


「待たせたな。そっちは決まったか?」


 お兄さんが数キロ単位で布の袋に入った大豆を簡易台車に載せて声をかけてきた。

 袋が二つあるから、一つ五十キロといったところなのだろう。


 この世界のものの量り方は天秤法に近い測り方をする重さが決まっている重りを片方の受け皿に乗せ、残った皿に入れ物を置いて中身を入れていく。中身を入れていくと徐々に重りを置いた受け皿が上がり始め、丁度一直線になった所で入れるのをやめる、といった方法になる。

 地球にように量り機がないためこのように曖昧な量り方をすることが多い。


「この二つのお米とこの三種類の小麦粉をそれぞれ二百キロずつ下さい」

「また結構な量を買うな。俺としては売れる分には構わないがな」


 お兄さんは少しだけ嬉しそうにして布の袋にお米と小麦粉を入れていく。

 量らないのは僕達がたくさん買ってくれることへの配慮か布の袋自体に量が決まっているのかもしれない。それか慣れだね。


「ああ、収納袋持ちだったのか。なら納得だ。ほら、この袋が注文の品だ。袋は破れやすいから気を付けてくれよ」


 僕達は手分けをしてそれぞれの収納袋に入れていく。袋の整理は宿屋に帰ってからでもできることだから、お店の邪魔にならない内にどんどん入れていく。


 お金を払って次のお店に向かう。

 次は肉屋に向かうつもりだけど、肉類は迷宮でほとんど手に入れたものが残っているからほとんど買わなかった。

 他にもキノコ類を買ったり、香辛料を買ったりいろいろと買い込んでいった。


 お昼になるにつれて人が増え始め、フィノが昨日のことを思い出して僕の方を見てから袖を引っ張ってきた。それに気が付いた僕はすぐに二人の方を見て頷き、休憩がてら昼食を食べに行くことにした。


 今日の昼食も“こくまろ”を利用させてもらい、注文した料理は昨日と同じで注文した人が違っただけだった。




 それから二日ほど食材集めに精を出し、三日目に冬物の服を買いに出かけた。迷宮都市バラクでお世話になった洋服店『アロマ』を探し出して、そこで服を買うことにした。

 とりあえず僕とフィノの名前を出すと身分の確認が起き、確認が終わると店員さん一同が集まりにこやかな顔で僕達に対する接待が始まった。


 接待と言っても服の試着と要望を細かく聞いてもらい、学園に行くことを伝えるとそれにあった冬服と夏服を作ってくれることになっただけだ。

 その日は冬と夏用の私服を購入して宿屋に帰ることにした。


 この世界の服は主にスパイダー系の魔物の糸や獣系の魔物の毛皮を使って作ることが多い。夏服はスパイダー系の魔物の糸を使って薄く編み込んだものが多く、冬服は物によるけど毛皮の上側を加工して作ることが多い。

 魔物のランクが高くなればその分値段も上がるけど、低ランクの魔物の素材でも高級なものは高級である。


 二日後に再び『アロマ』まで服を取りに行くと約束通りの冬服と夏服を作ってくれていた。職人さんも表に出ていたけど、その顔には物凄い隈と疲労が見えていた。

 やっぱり、かなりの無理をさせてしまったのかもしれない。だけど、作って貰った服はどれも性能がよさそうで、僕とフィノの服は白と黒のペアルックになっていた。


 男物と女物で多少に違いはあるけど、基本的な作りが同じで背中にある模様はお揃いになっている。

 ツェルとフォロンの服はやっぱりメイド服と執事服で、その作りが変わっているだけだった。


 僕達は『アロマ』の皆さんに感謝をして、その日に魔法学園に向かって出発することにした。


 魔法学園までの距離はおよそ三百キロだ。今日は一月後半と入学試験がある日まで残り二週間ほどある。

 魔法学園までの道のりは一つ大きな山脈を越えていかなければならない。山脈の名前はキリキロスという。

 キリキロス山脈は魔物の目撃回数が多く、討伐体が頻繁に組まれることになるところだ。出てくる魔物の平均ランクはC程度と僕達から見ればそれほど強くはないけど、キリキロス山脈を越えようとする商人や旅人などからすると堪ったものではない。

 しっかりとした護衛を付けて山脈越えをするのだ。


 距離は三百キロといったけど、実際の道のりは山脈を越えないといけないから四百近くになる可能性があり、山越えは天候も変わりやすく疲れやすい。一週間ほどの日数がかかるだろう。


 山脈越えで気を付けないといけないことは飛行型の魔物だ。キリキロス山脈はそれほど高くないが霧が出やすく、道が細く崖が多いところとなる。そんな場所で飛行型の魔物に襲われたら、こちらは身動きが取れないのに相手は取れるという状態に陥り、苦戦すること間違いなしだ。


 それを避けるために通常は魔力感知に優れた魔法使いや、嗅覚に優れた獣人を雇うことが多く、戦闘は魔法や矢等の飛び道具を使うことになる。

 剣を振り回して崖から落ちたり、飛行している魔物に目が散って足元が疎かになってしまうからだ。


 キリキロス山脈はいろいろな道があるため要所要所に看板が設置されているけど、理由は分からないが魔物が破壊する場合があって、道に迷い魔物巣窟に進んでいた、という話をよく聞く。

 僕達が調べてみた結果わかったことは、運がいいことに魔法学園まではキーロス河という河がキリキロス山脈から流れているとのこと。その河を見つけて流れに沿って進んでいくと道に迷うことなく魔法学園までつける。


 魔法学園に到着するまでの予定日数は余裕を持った九日間とし、進む距離は一日あたり休憩を入れた八時間の平均五十キロ弱ほどとなる。山脈越えは相当疲労もたまるだろうから頻繁に休憩を入れる。魔物との遭遇も多いだろうから警戒もするため、平地を進むよりも時間がさらにかかると思うから余裕を持った九日間となった。


 九日間の移動をしたとしても試験当日まで五日が残り、宿も空いているだろう。空いていない場合はその場で考えるとしよう。最悪、借家や転移魔法でどこかの宿屋に帰るとしよう。


 リーヨンから学園まではキリキロス山脈を北に進んでいくことになる。山脈を越えたころから肌寒くなっていくだろうから、先ほど購入した防寒具を着て寒さに備えることになるだろう。




 リーヨンを出発して二日が経った頃、予定通りにキーロス河を発見することが出来た。流れは僕達が進んでいる方向に流れているからこちらの方で間違えていないようだ。

 天候はいいとは言えないけど、雲の隙間から光が洩れ、幻想的な風景のように見える。


 しっかりと休憩を挟んでいるからフィノはまだ疲れていないようだ。

 この二日間で魔物と何度か遭遇し撃退することが出来ていた。魔物はDランクのロックバードが多く、強いもので山頂に住むBランクのハーピィーぐらいだ。

 この山脈にはワイバーンなどの竜種は住んでおらず、山脈にしては比較的に安全な方に分類される。




 三日目。そろそろキリキロス山脈の三分の一まで進んだといったところになる。

 三日目は二日目と比べ肌寒くなり、霧が濃くなってきたように思えた。


「霧が濃くなってきましたが、このまま進みますか?」


 馬車が止まると、御者をしているフォロンが馬車の中にいる僕達に相談してきた。

 御者側の窓を開けて外の様子を確認すると確かに霧が出てきている。視程二百メートル未満の濃霧とまではいかないけど、空気が霞むように白く見える程度だ。


「僕はまだ大丈夫だと思う。これよりも濃くなるというのなら霧が晴れるか様子を見ることにしよう。フィノ達はどう?」


 反対側の窓を開けて外の様子を確認しているフィノとツェルに聞いてみた。


「私もそれでいいと思う。魔物に関しては魔力感知で気付けるから大丈夫」

「私も同様です」

「と、言うことだから、フォロンは霧に気を付けながら進めて。霧が濃くなったらまた声をかけてね」

「わかりました」


 フォロンはそういうと覗かせていた顔を引っ込めて再び馬車を進めた。


 その日は霧がこれ以上濃くなることがなかったから、慎重とではあったけど予定通りの距離を進むことが出来た。




 四日目。山脈の半分は進んだだろう。肌寒く感じていた気温がこれからは急激に下がり、寒いと感じるようになるだろう。馬車の隅に防寒着を出していつでも着れるようにしておくことにした。

 雲の色が黒くなり始め、いつ雨が降ってもおかしくないだろう。

 霧も一時期濃くなっていたけど、山脈を越えたあたりから霧が少しずつ晴れ始め、今ではほとんど気にならないほどだ。


 この日はほとんど何事もなく進んでいくことが出来た。




 五日目。魔物と遭遇することが何度か起きたけど、怪我をすることなく無事に倒しきることが出来ていた。

 迷宮と比べれば魔物の出現頻度も緊張の具合もどうといったこともなく、誰もあまり疲れてはいないようだ。




 変化が起きたのは六日目の午後になってからだった。

 五日目に入ってから徐々に気温が下がり、体感温度が十度ほどとなった所で防寒着を着始め寒さを凌ぐようになっていた。

 そのことまでは良かったのだけど、山脈の三分の二を越えたあたりで雨がポツポツと降りだし、天候が一気に変わり始めた。


 最初の頃は視界もそれほど悪くなく順調に馬車を進めていたが、六日目の午後の昼食の時間となると雨の強さが急に変わり、豪雨と言ってもいいほどの雨足となった。


 僕達は昼食を食べるのをやめ、馬車を崖の方から遠ざけ断崖のある方へ近寄らせた。丈夫そうに見えるから大丈夫だろうが、風が強くなったり、雨で車輪が滑ってしまうと川に落ちて仕舞いかねないからだ。


 残りの距離が凡そ(おおよ)百五十キロ強となり、キリキロス山脈を越え終るには残り六十キロとなった。


 まだ、風は出ていないけど先ほどから雨足が強くなるばかりだ。周りの気温は徐々に下がり、現在十度を下回っているだろう。

 御者をしていたフォロンも馬車の中に入り、毛布で体を包んでこの寒さを凌いでいる。フィノは寒くなる、というのを迷宮で経験しているが迷宮外では初めてなため少しだけ不安なようだ。




 馬車の中に魔力で動く簡易ストーブを置き、雨が弱くならないかジッと待つこと三時間。馬車の中もストーブのおかげで暖かく、その暖かさが心地よくてこっくりと舟を漕いでいた。


「わああ! 綺麗! シュン君、起きて。外綺麗だよ!」


 馬車の屋根を打つ雨の音が次第に小さくなり始めたことに気が付いたフィノが、馬車の窓を少しだけ開けて外の確認をすると、顔を輝かせて眠りかけていた僕の体を揺すった。


 眠たいと思いながら目を擦り、興奮しているフィノに腕を引っ張られながら僕も外の確認をする。


「おお! これは綺麗だね」

「でしょ! 迷宮でも見たけど、やっぱり本物は違うね」


 窓を開けると外の冷たい空気が僕の肌を撫で、切れるような痛みを感じさせる。入ってきたのは風だけでなく、白い綿のようなものも一緒に入り込んで僕の鼻頭にあたり、その綿を取ろうとしたけど触った瞬間に綿は解けてなくなった。残ったのは冷たい感触と濡れた感触だけだ。


 外では雨が止み、雪が降り始めていた。

 どこの世界も雪が降るというのは綺麗なもので、静かにゆっくりと降る雪は幻想的だ。

 まだ降り始めて時間が経っていないのか辺りには積っていない。今の内に馬車を進めた方がいいだろう。


「フォロン、雨が止んだみたいだから先に進もう」

「わかりました」


 僕がフォロンに声をかけるとすぐに御者台の方へ向かい、馬車を進め始めた。


 雪が降るのを見るのは数年振りだ。生前、地球で見たのが最後でこちらに来てから一度も見ていない。迷宮でも雪が積もっていただけで、雪は一度も降ってこなかった。

 僕は懐かしい思いをしながらも雪が積もって身動きが取れなくなる前に先に進もうと考えた。


 この降っている雪が止んでくれれば思い過ごしで済むことだけど、このまま降り続けると雪が積もって先に進めなくなる可能性が高くなる。車なら通ることで雪が溶けたり、多少の身動きは取れるだろうけど、馬車の場合馬の具合もありすぐに動けなくなる可能性が高い。


 今はそれほど降っていない雪だけど、これからはさらに寒くなるだろうから振って積もる可能性が高く、先に進むと既に積っていることも考えられる。


 今日は山脈をあと少しで越えられるというところで進むのをやめることにした。

 未だに雪が降り続いていて、このまま行くと明日は積っているかもしれない。




 七日目。予想していた通り雪は一日中降り続いていたようで、見渡せば当たり一面真っ白になっていた。積雪五センチといったところだからまだ馬車が進めないわけではない。

 だけど、まだ降り続いているため早めに出発した方がいいだろうと思い、すぐに馬車に乗り込んで学園に急いだ。


「迷宮にいた時は綺麗でおいしそうだとか思っていたけど、本当は結構恐ろしいものなんだね」

「そうだよ。この辺りだと大丈夫かもしれないけど、雪が降り積もった山はちょっとした切欠で土砂のように雪が崩れるゆきなだれとか起きるからね。綺麗な反面、恐ろしい現象も起こすから気を付けないと」


 道中、なぜ焦っているのか分かっていないフィノに雪から起きる事故や現象について簡単に説明した。

 フィノは僕の言ったことを真剣に聞いて心の留めてくれたようだ。


 今日は雪が積もっていても進めなくなることはなく予定通りの距離を進むことが出来た。明日はこうも行かないだろうから何か対策を考えなくてはならない。

 試験までの日数にはまだ余裕があるけど、雨と違って雪は解け難く通行出来るようになるまで時間が掛かってしまう。足止めされた場合、試験に間に合わなくなるだろう。




 八日目。昨日の時点で山脈を完全に抜けており、今日は平地を進めている。

 雪はさらに降り積もり積雪五十センチほどになっているため、馬も進むのに一苦労で疲労が溜まりやすくなっていて馬車の進む速度が下がっている。


「このままでは予定通りに着くことが出来ないと思われます。ここで休憩したとしても積った雪が解けるとは思えないのでどうしますか?」


 フォロンが寒さで若干震える声でそう言った。


「残りの距離は七十キロぐらいだよね。試験当日まで六日、二日前には確実に着いておきたいけど、ここで休憩したら立ち往生して間に合わなくなるよね?」

「恐らくそうなるかと……。天候次第ですが、このまま進めたとしても四日で着けるかどうかわかりません」


 フォロンは少しだけ考えてそう言った。

 最悪の状況になりつつあるな。

 どうするべきか……。


「あのー、シュン君、雪を溶かして進むことは出来ないの? 火魔法で火の球を出して雪を溶かしながら進んでいくとか」


 僕達が悩んでいるとフィノが雪を火魔法で溶かしながらそう言ってきた。


 溶かして進む、か。

 …………出来るだろうけど、残り七十キロも雪を溶かしていくのに魔力が持つだろうか。

 馬は戦闘に慣れているから魔法を出していても怯むことはないだろう。火の球の維持をするより、高さ積雪よりちょっと低く幅十センチほどの火壁を出して維持した方が効率がいいか。

 とりあえず魔力が持つかどうかはやってみなければわからない。考えている時間もないからフィノの案で行ってみよう。


「よし! フィノの案でいこう。僕が主にやるけど、魔力が切れ始めたら交代を頼むね」

「うん、私も手伝うよ。このままだと入学試験に間に合わないもんね。折角あんなに勉強したんだから受けに行きたい」

「私も手伝わせてもらいます」

「フォロンは馬車を進めることだけに専念して。馬を火に近づけさせないようにね」

「はい、わかっております」


 僕達はそう決めるとすぐに馬車に乗り込んで準備を始める。

 考えている間に雪が降る量が増し、積雪七十センチになろうかとしていた。


 御者台の入り口を開け、そこから両手を付き出して馬の前方五メートル先に火の壁を作り出した。火が徐々に雪を溶かし始め、茶色い地面を露わにし始める。馬車が少しずつ進み始めると僕も魔法の維持と操作に集中する。

 少しでも気を抜くと火が止まってしまうから気を抜くことが出来ない。時折フィノが横から暖かい水を口に運んでくれるから喉が渇いて集中力が途切れることもない。

 フィノには感謝をしてもしきれないです。


 時速七キロほどを維持しつつ五時間ほどが経ったところで今日は進むのをやめた。残りの距離は三十五キロだ。

 雪が邪魔で学園がどこにあるかわからないけど、学園のある都市の周りはさすがに除雪されているだろうから、実質魔法の維持は二十五キロ未満といったところになるだろう。


 僕は魔力を出来るだけ多く回復させるために、夕食に魔力回復増進が見込める薬草と肉を使うことにした。魔力回復薬に比べれば大した量にはならないけど、魔力回復薬で魔力を回復させるよりも体にいい。

 魔力回復薬が体に悪いわけではないけど、魔力を無理やり回復させるよりは自然回復させた方がいいに決まっている。栄養価もいいだろうしね。




 九日目。今日起きて外の様子を確認すると雪が止んでいた。だけど、朝方まで降り続いていたようで積雪一メートルはあるようだ。馬車に乗っているからわからないけどそれ以上かもしれないな。


 僕達はすぐに準備を整えて馬車を進めて学園に急ぐことにした。


 魔法の維持に持っていかれる魔力が多く、さすがの僕も疲れが出始めてきていた。疲れと言っても魔力消費に対するものだからすぐに治るけどね。


 午後に差し掛かろうとしていると御者台の入り口に手を突っ込んでいる隙間から、前方で立ち往生している馬車を発見した。


 馬車の作りは一般のものと変わらず、大きさは僕達のものより一回り大きいかといったところだ。無駄な装飾も付いていない。この時期にこの辺にいるということはもしかしたら同じ試験生かもしれない。


「フォロン、少し避けてあの馬車の横を通るから馬車を止めて声をかけてくれる? もし、僕達と同じ試験生なら一緒に連れていった方がいいと思う。フィノもそれでいいよね」

「うん、私もそれで構わないよ。試験生でなくても立ち往生しているみたいだから助けてあげたいな」

「わかったよ。フォロン、声をかけながら近づいてね」

「は、はい。わかりました」


 フォロンの上がり症は大分治ってきたけど、まだ知らない人と話すのは抵抗があるみたいだ。


 雪を少しずつ横に避けながら馬車をそちらに誘導していく。いきなり移動させると柵があったり、段差があったりして危ないと考えたからだ。


「す、すみませーん! 馬車の中におられる方、聞こえていますかー! 聞こえていれば顔を出していただけませんかー!」


 フォロンにしては大きな声で前方の馬車に声をかけた。

 すぐには返事が返ってこなかったけど、一分ほどすると馬車の後ろ窓が開き大柄な男性が雪を掻き分けて出てきた。馬車に雪が積もっていないことから立ち往生をして時間が掛かっていなかったのだろう。周りにも雪があまりないことから馬車の中は結構暖かくしていたのだろう。


「なんだ。何か用か? 食糧が欲しいのであれば、すまないが俺達もあまり持ち合わせていない。食糧は旅の分までしか持って来ていなかったからな」


 僕達の馬車が男性に近づくと、男性は大きな体をくの字に曲げて申し訳なさそうに言ってきた。

 男性の服装は冒険者っぽく金属製の胸当てと熊の毛皮であろう防寒着を着ている。片手には大きな手斧を持っていた。


 うーん、試験生の馬車じゃなかったのか。

 まあ、試験生じゃないからどうといったことはないけどね。体は大きくて厳つい顔に見えるけど、口調は優しく丁寧で本当に困っているのが伝わってくる。見た目にとらわれたらいけないということだね。


「いえ、あなた方が立ち往生されているようだったので、声をかけさせてもらいました。それで、何かお困りですか?」


 いつもと違う雰囲気となったフォロンが事務的な口調で言った。

 さっき言った言葉を聞いた限りでは食料に困っているようで、立ち往生でも困っているようだ。


 相手の素性もわかっていないわけだから、こちらから助けを出すわけにはいかない。相手が求めてきた場合に限り助ける、といった感じだろう。

 馬車は普通でも僕達と同じように貴族が乗っているかもしれないしね。


「食糧が必要であればお分けすることが出来ます。立ち往生されているのであればご一緒に連れていくこともできますが、どうされますか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 仲間と相談してくる!」


 男性が馬車の中に首だけ突っ込んで何やら話し込むこと数分。良く聞こえなかったけど、子供の声が複数聞こえ、大人の声も男性以外に聞こえてきた。馬車の中には恐らく三人以上いるみたいだ。


 数分後、男性が首を出すと馬車の入り口から横に避け、中から僕達と同じ背丈の子供が二人男性に手を取られながら出てきた。雪の高さで顔が見えないため男性の肩に座っている。


「待たせたな。俺の名前はヴァシリール。一介の冒険者だ。こちらは俺の雇い主のシャルリーヌとアデラールだ」

「このようなところから申し訳ありません。紹介に預かったシャルリーヌです」

「同じくアデラールという」


 僕とフィノは窓の隙間からフォロンが対応している人達を見る。

 男性と一緒に出てきた女の子シャルリーヌは両サイドがくるっとカールしている金髪と緑色の瞳の整った顔の女の子で、燃える様な短髪の赤髪とその髪と同様の瞳の男の子がアデラールというようで年齢上に見せようとしているのか若干背伸び気味だ。


 貴族のようにも見えるけどよくわからない。


「私はフォロンと申します。それで、助けは必要ですか?」

「そのことですが、私達は五日後の魔法学園の入学試験を受験しに来ました。ですが、この大雪で馬車を進めることが出来なくなり、立ち往生しています」

「そこにフォロンさんが来てくれた。食べ物も日数分しか持って来てなかったから残りがなくて困ってたんだ」

「そこへ私が丁度声をかけた、ということですね? では、魔法学園のある都市までご一緒する又は、食料の提供でよろしいですか?」


 フォロンが二人の会話から願いを推測して聞く。


「ええ、この大雪で疲れも溜まっているので、出来れば今日中に都市に入りたいと思っています」

「だけど、フォロンさんはどうやってこの大雪の中を進んでいくんだ? 馬車の後ろの雪が綺麗に解けているのが気にはなるけど……」


 二人は僕達の馬車の後方の雪が解けているのを見て不思議そうに首を傾けて言った。

 フォロンはチラリと僕達の方を見て、この後はどうしたらいいのか確認してきた。

 僕はフィノに頷いて僕が対処することにする。

 御者台の隙間からフォロンの隣へと移動し、まずは自己紹介をする。


「失礼します。僕の名前はシュンといいます。僕達も入学試験を受けに来たのでご一緒しましょう。ここまでは火魔法で雪を溶かしながら来たので、僕達の後ろについて来れば都市に着けると思います」

「火魔法でここまで来たのか!?」


 アデラール君は髪の色と同じく火魔法が使えるのか僕が言ったことに一番早く反応した。シャルリーヌさんも反応は薄いけど驚いているようだ。

 やっぱり普通はこんな方法を使わないよね……。


「はい、そうですよ。実際に見てもらえば分かりますね。『燃え盛る炎よ、赤き壁となり、我を護る壁となれ! ファイアーウォール』」


 さすがに無詠唱は拙いと思って即座に詠唱をして火の壁を馬の前に作り出した。

 すぐに先ほどと同じ火の壁が出現して積った雪を溶かし始めた。


「こうやってですけど……聞いていますか?」


 学園に行ってしまえば僕の実力というのは分かってしまうことだから、全力を出さないもののある程度は仕方ないと割り切ることにした。


 二人は今起きている現象に呆気にとられ、口を半開きにしている。

 これくらいなら誰でもできると思うんだけどな?

 それとも僕の基準が高くなっているのか?

 うーん、最近は普通の魔法使いの魔法を見ていなかったからよくわかんないや。

 まあ、フィノもできるだろうから僕一人があれっていうわけじゃないね。


「……え、ええ、で、では、お言葉に甘えてあなた方の後を付けさせてもらいます」


 シャルリーヌさんがぎこちない笑みを浮かべて答えて切れた。


「いやいやいや、シャルそうじゃないだろ! どう見てもおかしくねえか? 俺達と同じくらいの子がここまで出来るんだぞ? 俺も火魔法が得意だけどこれは無理だ。しかも、そんな子が試験を受けるんだとよ! 俺達の実力が低いのか?」


 アデラール君は捲し立てるようにシャルリーヌさんに顔を近づけて言った。


「そんなことないはずよ! 私達はお父様達に合格するだろうってお墨付きをもらったでしょうが! 多分この子がそうなだけ、きっとそうよ。こんな実力者がうじゃうじゃいるなんて想像できないもの」

「そ、そうだな。俺が悪かった」


 シャルリーヌさんの剣幕にやられたアデラール君は、ヴァシリールさんの肩から落ちかけながら絞り出すように答えた。

 二人は結構仲がいいようだな。一緒の馬車にいるようだから友達以上の関係なのだろう。


 これだけでこんな反応をされるようだから、試験では実力を落したほうがいいみたいだな。フィノにも忠告しておこう。


「では、あなた方の馬車の前の雪も溶かすのでその後僕達の馬車の後を付いて来てください」


 僕が最後のそう言って火の壁を再び出して操作しようとすると、シャルリーヌさんが待ったをかけた。


「ちょ、ちょっと待ってください。お礼は、お礼はどうしたらよろしいですか? ここまでしていただいてお礼もなしというのはちょっと……」


 アデラール君も深く頷いていた。二人を抱えているヴァシリールさんも同様だ。


「ああ、忘れてました。お礼は……そうですね、友達にでもなってくれますか? 僕ともう一人いるのですが、恥ずかしい話、友達が一人もいないものですから。なので、友達になってくれるとありがたいですかね。これから一緒に試験を受けて、三年間一緒に勉強する友達に」


 僕がそういうとフィノがツェルに体を支えられながら御者台の方へ出てきて、僕の隣に座ってお願いした。


「私からもお願いします。一緒に勉学に励む友達になってくれませんか? 言っては何ですが私達の目的は見聞を広げるのと友達を作ることですから」


 僕の目的は正しくそれだ。フィノも僕が教えてきているからほとんど僕と同じになってきている気がする。

 本当に僕とフィノは学園に何をしに行くのだろうか?


「…………」

「アル? 固まっちゃってどうしたのよ。……まさか……」

「……はっ! い、いや! シャル、そ、そんなことはないぞ! シャルの思い過ごしだ」


 フィノを見つめたアデラール君が頬を少しだけ染めて固まると、シャルリーヌさんが訝しげに見て何かを直感的に気が付き怒りの形相になった。それを見たアデラール君が回避するために物凄い勢いで抑えにかかる。

 これは……幼馴染以上だな。


 隣で僕の左手を両手で挟むように握っているフィノを見てみると二人がおかしかったのか笑っていた。

 僕は絶対にフィノを手放さないぞ! 絶対に!


「まあ、二人とも落ち着いてください。こちらはフィノと言います」

「私の名前はフィノリスと言います。これから学友となるでしょうから気軽にフィノと呼んでください」

「僕のことはシュンと呼んでください」


 僕とフィノはヴァシリールさんの上で騒いでいる二人に改めて自己紹介をした。

 二人は慌てて姿勢を正して自己紹介を返す。


「私はシャルと呼んでください」

「俺はアルと呼んでくれ。……って、まだ試験に合格するって決まったわけじゃないじゃないか。まあ、今の魔法が使えるのなら合格しそうだけどな。……俺、大丈夫かな?」

「何言ってるのよ、アルは。あんたは肝心なところで自信がないんだから、もう少し自信を持ちなさいよ」


 二人は再びじゃれ合うように話し出した。

 このままでは終わらないと感じたヴァシリールさんが二人を強引に馬車の方へ降ろして、僕達に向かって頭を下げてきた。


「騒がしくてすまんな。ちゃんと言い聞かせておく。これからの道中、よろしく頼む」


 僕達も馬車の中に戻って学園がある都市、ガーラン魔法大国に向かって馬車を進め始めた。


雪がとけるは『溶ける』『解ける』のどちらが正しいのでしょうか?

とりあえず、『溶ける』は干渉があって、『解ける』は自然現象としています。

間違っている場合は教えてください。

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