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黒幕の正体

この回から迷宮編になります。

書いている作者自身が言うのもおかしいのですが、はっきり言うと面白くないと思います。

理由としまして、今服用している薬の副作用で頭の回転が落ち、思考が定まっていない状態です。そんな状態で書くなと思うかもしれませんが、書いてしまったのでご了承ください。

ネタバレになるので言えませんがそれほど大掛かりなことが出来ていないでしょう。


学園編では更新が遅くなるかもしれませんがしっかりと書いていこうと思います。指摘されたところも修正・勉強していくのでさらに遅くなるかもしれませんが、三、四日に一話、最低でも一週間に一話は投稿したいと思います。

 僕は朝早く起きて第二区画の中央広場にある世界教の教会に来ていた。

 ガラリアと同じような作りの神殿で右手に礼拝堂があるとのこと。僕は言われたように右の礼拝堂に行き、長い列の椅子に座ってメディさん達に会いたいと願う。


(メディさん? ロトルさん? ミクトさん? あそこに連れていってください)


 僕がそう思いながら手を合わせて願お数分経った頃、僕の周りが光を発しこの前と同じように神界へ連れていかれた。




 神界は変わらず真っ白な世界だった。

 辺りを見渡して誰かいないか確かめると左後ろにロトルさんと、えっと……フレイさんだったっけ? そして、ミクトさんがいた。

 残念ながらメディさんの姿はなかった。まだ僕の魂が治りきってないのだろう。

 まだ、あれから半年しか経っていないから仕方がない。


「お久しぶりですね、シュン君」

「お、シュン君じゃない。お久」

「おっす、久しぶりだなシュン」


 三人は変わらずの挨拶をしてきた。

 僕は三人に近づいてから挨拶をする。


「お久しぶりです」


 三人はニコニコと僕に笑顔を見せてくる。

 ん? 何か僕面白いことをしたかな?


「いや、お前は何もしていないぜ。ただ、お前が変わったと思ってな」

「変わった?」

「そうですよ? 最近は魂の修復が速いですよ。それもあの子のおかげでしょうか」

「私の言った通りその子とくっ付いたわ。良かったー良かったー」


 思い出した。フレイさんが言っていたのは僕に出会いがあるって言うことだった。

 どんな出会いかは教えてくれなかったけど、フィノと出会えたからまあいいや。


 最近変わったのはフィノのおかげか……そうだろうな。彼女は明るく、喜怒哀楽がきちんと出て、親しみやすい。

 僕には過ぎた彼女、婚約者だよ。

 僕が地球にいたころには想像もできないくらい美人だし、可愛い。僕にはもったいないけど誰にもやる気はない!


「そうだぜ、男なら惚れた女位しっかり守れよ、シュン」

「わかっていますよ、ミクトさん」

「その意気だ」


 ミクトさんは僕の背中をバンバン、と叩きながら笑う。

 僕は再度フィノを守ると心に決める。


「シュン、あの子を救ってくれて助かった」

「いえ、僕もフィノと合えてよかったですから」

「そう言ってくれると助かる。俺たち神は世界に干渉することが出来ねえ。自分の加護を与えた者を守ることが出来なかった。だから、シュンがいてくれて助かったぜ」


 神々はその力ゆえ世界に干渉することが出来ない。

 干渉するには世界の終わりや魔王のような凶悪な生物が現れないといけない。今回の魔王はそうでもないので無視をしている。

 干渉は勇者召喚や神物を与える、日照りが続いたと地に雨を降らせるなどのことだ。


「でも、どうしてフィノを助けようと思ったのですか? 僕としては大変ありがたいことですが。……加護を与えたからだけではないですよね?」


 僕がそう言うとミクトさんはその眼に真剣な色を宿らせ、ロトルさんとフレイさんを呼んだ。


「俺があの娘を助けてほしいと頼んだのは加護を与えたというのもあるが、シュンお前のためでもある」


 ミクトさんは僕を指さして言った。


「僕ですか?」

「そうだ。お前が初めてここ神界に来たとき神を捕まえたと言ったな」


 うん、言っていた。

 僕はそう言うふうに聞いた。


「だがな、配下の神をまだ捕まえ切れていないんだ。取り逃したのは一人なんだが、そいつがどこにいるのか分からん」

「最近力を感じたのですが感じた瞬間に消えてしまったので特定することが出来なかったのです」


 ミクトさんに続いてロトルさんが悲しそうに心配して言う。


「それで、俺が加護を与えた王族の娘がいたからそいつにお前のことを保護してもらおうと思ったんだ。だが、それを思いついた時にはその娘が再起不能になりかけていた」


 ミクトさんが怒りの形相で言った。

 相当フィノに迷惑をかけた奴らのことが許せないのだろう。

 僕だって同じ気持ちだ。フィノに危害を加えたものは地獄の果てまで追いかけてやる。


「それは魔法が使えなくなっていたことですね」

「ああ、そうだ。そこでシュンのことに気が付いた。お前なら絶対に直してくれると思っていたからな。あの世界の人間が絶対にしないことをし出したお前ならと思って任せてみたんだが、大成功だったな」

「しかも、私が言った通りにくっついてくれたわ。あの告白を聞いたとき、お姉さん身悶えしちゃったわ!」


 フレイさんがガッツポーズをして言った。

 僕は引きながら、話の続きを聞く。


「あの暗殺と魔物騒動はその神の配下の仕業です。シュン君も聞いた通り邪神教の者達です。未だに詳しいことが分かっていませんがシュン君なら大丈夫でしょう」

「本当ですか? 僕はそこまで強くない気がするのですが……」


 実際にそうだと思うよ。

 魔王は僕よりも強いというし、バリアルだっている。他にも僕と同じSSランクの冒険者が師匠も入れて五人いる。

 それに相手は神でしょ? 勝てるわけがないよ。


「いえ、あなたならいずれ勝てます。今は経験が圧倒的に足りないのです。魔族はあなたの数十倍は生きています。あなたの師匠だってそうです。あなたはまだ生まれて六年と半年なのですよ?」


 ロトルさんは自信を持ってと僕を励ます。

 そういえばそうだったな。

 僕は知識としては二十年近くあるけどあの世界で、というと六年と半年しか生きていないことになる。経験が足りなくて当たり前だったのだ。


 僕はロトルさんに頷く。


「僕がどこまでできるかわからないけど、精一杯頑張ります」

「シュン君なら出来ます。私達の加護が付いているのですから」


 三人は頷く。


「メディさんの姿が見えませんが、僕の魂がまだ治っていないからですか?」


 僕は最初に思った事を聞いてみた。

 すると三人は困ったような顔をして僕に理由を話してくれた。


「あなたの魂はほぼ治りきりましたよ」

「メディの奴は溜まりに溜まった仕事の処理をしている最中だ」

「あの子は仕事を放って君をずっと見ていたからね。部屋の中に山が出来てたよ」


 メディさんはやっぱりメディさんだった。

 仕事も放って僕を見て何が楽しいのだろうか。

 僕は悩んでも意味がないなと思いメディさんには今度会おうと思うことにした。


「話を戻しますが、シュン君が関わった事件三つがこの邪神教が関わっています」


 三つ?

 今回の封印魔石の魔物騒動とフィノの暗殺関係でしょ。それから……何かあったっけ?


「それと、シュン君達が大規模魔物侵攻と呼んでいるものですよ」

「え! あれもなんですか。あれは天魔族という魔族が……もしかして、その魔族も邪神教ですか?」

「ええ、その通りです。その魔族だけではなくその一族が邪神の僕となっています。なので、シュン君は気を付けてください」

「なぜ僕が狙われるのですか?」


 僕は率直な疑問を聞いた。

 僕が狙われる理由が分からない。

 いや、理由は上司の神が捕まえられたからだろうけど、僕にちょっかいを掛けてくる意味が分からない。

 ちょっかいを掛ければ自分の居場所がばれてしまうんじゃないのか? せっかく隠れているのに自分から姿を現すとか何を考えているのかな?


「それは神々同士の争いが禁止されているからでしょう。私たち神々は天変地異を起こさないためにルールを作りました。その中には世界への干渉禁止、神々の争い禁止等といった世界を守るためのものが多くあります」

「邪神はそのルールを破ったものを称して呼ぶんだ。地球でシュンに悪事を働いていた神は邪神ではない。それはやっていることは悪いが加護を与えているのと変わらないからだ。その力も個人範囲のもので世界に干渉できるほどのものではない、と結論が出たからな。だから、幽閉という結果になったんだ。もしこれが邪神だった場合、その邪神は消滅させられる」

「でも、今シュン君にちょっかいを掛けている神は世界に干渉しているんだよ。言葉をかけて、多くの人間に力と加護を授ける。これは強い人を作っているということになるんだ。その人間が世界を破滅へ向かわせることが出来るような力なら尚更だよ。だから、私達は邪神だというんだ。本人もそう言っているし」

「シュン君を襲う理由ですが私達への抗議でしょう。『早く、私の上司を解放しろ』という。シュン君には私達の落ち度と加護が付いています。これ以上の獲物はない、ということになってしまいます。……シュン君、ごめんなさい。私達はこんなことになるとは思っていなかったのです」


 ロトルさん達が語り終えると三人が謝ってきた。

 僕の魂が弄られていたのを見つけてせめてもの償いと力と加護を授けて転生させたまではいいけど、その力と加護のせいで邪神に狙われることになってしまった、ということだな。

 うーん、僕としては迷惑だけどロトルさん達を恨むことはない。だって、ロトルさん達が居なかったら僕は死んでいたのだから。フィノに出会えず障害を終わらせていたということになる。


 僕はそう考えるとロトルさん達に顔を上げてもらい感謝の言葉を言った。

 僕はあなた方に出会えて、転生させてもらえてよかった、と。




「そのことを戻ったらみんなに伝えた方がいいですか?」


 今知ったことを国王様やアイネさんに伝えた方がいいのか、伝えてもいいのかよくわからない。

 伝えたら信じてはくれるだろう。僕のギルドカードのステータスだってあるのだから。

 だけど、このことは世界規模の話となり、僕が狙われているということは僕がいる所に迷惑がかかるということになる。

 ガラリアやソドムの街のように崩れたり壊滅したりする。今回のようにフィノに迷惑がかかったりする。

 僕が護れる範囲ならまだしも護れないところに来られたら……僕は耐えられない。


「言わない方がいいでしょう。今はまだ要らぬ混乱を避けるためです」

「シュン、今回の件で三回の失敗だ。次は仲間を補充したり、力を蓄えるために守りに入るだろう。邪神は中級の神だ。この三回で力が尽きているはずだからな。お前が学園を卒業するまでは恐らく何も起きない」

「何か起きれば私達が教えるわ。だから安心してフィノちゃんと過ごしてね」


 三人の言葉で憑き物が落ちたかのように安堵した。

 とりあえず向後三年は静かに過ごせるということだね。

 その後はその時にどうするか考えよう。今考えても六年の月日は長いから読むことが出来ない。僕には未来視がないのだから。

 出来ることをやっていこう。魔法を鍛えるとか、剣術や体術を鍛えるとかね。


「それがいいでしょう。今できることをしていてください。あなたが護りたいものを守るために」

「そうだぜ? 力はあって困らない。お前ならその力が強大になったとしても他人に振おうとは思わないはずだ。その力は守りたい奴の為に振え」

「神に勝つには尋常じゃないほどの努力がいるわ。今度は迷宮に行くのでしょう? ならそこで思う存分力を磨きなさい」


 三人は僕に次のための指針を示してくれた。

 僕はやる気を滾らせて今後のために努力することを誓う。

 僕は護りたい人のために強くなる!




「ところで、また加護が付いていたのですがこれは何の効果があるのですか?」


 今回ついていたのは魔法神と武術神だ。

 名前からして魔法関連武術関連であることは分かる。

 だけど、その他のことが一切わからない。魔法使っても何も変わらなかったし、力が増したということもない。加護なのだから何かの力があるはずなんだけど。


「その加護は本人に聞くしかありません。今は魔法神も武術神も出かけています」

「まっ、シュンに限って言えばその加護があったとしてもあまり変わんねえんじゃねえか?」

「多分、魔法が珍しいとか、剣術と格闘術がすごいといった感じで付けたんじゃないかな?」


 この三人もよくわかっていないようだ。

 聞いた感じこの二人は軽い人なのかな?


 そう思った時に僕の周りが輝き始めた。

 そろそろ時間のようだ。今日はこの辺でロトルさん達とお別れになる。


「そろそろ帰る時間のようです」

「そのようだな。シュン、今度はメディを連れてきてやる。じゃあな」

「魔法神と武術神にもですね。また今度、楽しみにしています」

「シュン君! フィノちゃんといつまでも一緒に、護ってね! じゃーねー」


 僕は三人にお別れを言ってこの場から光に包まれて意識が遠くなった。次に目覚めたところは僕が祈っていた教会だった。




 僕は教会に大金貨五枚、五百万円のお布施をして教会を後にした。

 お布施の金額が多い気がするけど僕が持っているお金から考えたら全く減っていない。


 教会を出た後最近の日課であるフィノの元へと行く。知り合いとなった門兵さんに国王様に貰った通行証を見せて、挨拶をして通る。

 最初の内は僕のことを胡散臭そうに見ていたけど奥の方からフィノが来てくれたからどうにかなった。時間になっても来ない僕を心配して来てくれたようだった。

 今は王宮の中で僕がフィノに魔法を教えているのだ。

 どうして僕が王宮で教えるようになったかというといろんなことが起きたからだ。




 僕が四人会談から帰ろうとした後、第三王女が婚約したことを上層貴族達に伝えなければならなかった。それはシロがシュンを婚約者に、と言ったからだ。いや、僕が言ったからだ。

 そのために僕は後日シュンとして王宮に行かなくてはならなくなった。自分の尻拭いは自分でしろということだ。


 僕が謁見の間に入るとやっぱり僕を値踏みする者がいた。それは武術関連の貴族や将軍に多かった。

 僕が黙って聞いていると貴族の一人が僕のことが弱いだの言い始め、それが広がり僕とフィノの婚約をなかったことにしようとし始めた。


 この貴族達は何を考えているのか分からない。己の利権しか頭になく、僕とフィノが婚約しなかった場合どうなるかを考えていないようだった。

 僕とフィノが婚約しない場合、僕と師匠はよその国に行くということに。


 騒がしくなってきたところにレオンシオ団長が僕のことを思い出し、僕の師匠が“雷光の魔法使い”であることを言った。

 その後はシーンと静まり、ひそひそと僕のことをどうするか話し合い始めた。


 この場の終わりが見えなくなったところで国王様が実力を見せろといったから、僕はフィノの師匠として魔法師団団長フローリア・エクスリルさんと闘うことになった。

 フローリアさんは女性の方でウェーブのかかった水色の長髪を長く伸ばしているウンディーネみたいな女性だ。もちろん綺麗な人でフローリアさんのファンクラブがあるほどだ。


 魔法を使える上位の人は僕の漏れ出す魔力が一定であることに気が付き、只者じゃないと身を引き締めていた。武闘派の人は僕の身のこなしや歩き方等を見て僕のことを見抜いたようだ。僕のことを見抜いた人の一人がフローリアさんで、僕と闘いたいと言ってきた人の一人でもある。

 他に数人、僕と闘いたいと言ってきたけど、その中で魔法が一番すぐれているフローリアさんに決まったのだ。


 王城にある巨大な訓練所で戦うことになった僕は案内をされながらその場に向かった。

 決闘の結果は僕の圧勝だ。

 内容としては、フローリアさんは髪から分かるように生粋の水魔法使いで、他にも氷と回復属性を使えるようだった。

 開始の合図と同時にフローリアさんが小手調べに水の矢を連射してきたから僕はそれを指一つ動かさずに水の矢を作り相殺させた。


 僕がしたことを見てその場にいた王族から末端の兵士まで口をあんぐりと開け、時が止まった。止まらなかったのは義父さんと義母さん、フィノだけだった。それでも苦笑いをして、フィノは大興奮だった。


 我に返ったフローリアさんは僕に津波『タイダルウェーブ』や氷域『アイスフィールド』等の中級魔法を使ってきた。僕はそれを焦ることなく土壁『ロックウォール』や炎域『フレイムフィールド』で消し去った。


 今度はその場にいた人の歓声が聞こえてきた。

 図式が、僕が試されるから僕に挑戦する魔法師団団長フローリアという感じになった。


 フローリアさんの魔法を相殺し続ける僕。フローリアさんは上級魔法の威力が高い魔法から手数の多い初級魔法主体に切り替え、魔力を煉り始めた。それは極大魔法を放つためだった。


 僕はその魔法に備えるために僕も魔力を煉りながら魔法を相殺する。

 フローリアさんが僕から離れて魔法を放った。放たれた魔法は氷魔法『ブリザード』だった。

 全てを凍て付かせる吹雪がこの場にいる全員に襲い掛かる。僕は咄嗟に観客に結界を張り、広域火魔法『インフェルノ』でその吹雪を消し去った。


 その後はフローリアさんが降参して僕の勝ちとなった。

 一部の貴族が未だに僕のことを邪魔者扱いしてくるが、いつも僕の傍にフィノがいるため何も言えない。遠回しな言い方もしてくるがフィノが気にしてないから僕も気にしないで受け流す。

 友好的な貴族はぜひとも魔法を教えてくれとせがんでくる。

 僕はどうしたらいいかわからず、魔法師団全員とフィノ、希望参加者に魔法を教えることとなった。


 そのおかげで魔法師団の実力が数段階上がった。矢系統の魔法しか使えなかった人は槍系統の魔法も使えるようになり、回復魔法の回復量が上がったりといろんなことをした。

 でも師匠に教えては駄目だと言われたことは教えていない。

 フィノにもその辺は言い聞かせ、フィノに教えていたのは中級魔法だ。


 そのことでさらに名が売れ、義父さんには褒められ、義母さんからも魔法を教えてくれと言われ、義兄さんからは剣術の相手を頼まれた。


 その功績等で僕に名だけだけれど爵位が付いた。これには褒美はないといっても少なすぎたため、シロの功績も含まれている。まあ、今回の件で貴族が粛清されたから増やす分にはいいかもしれない。

 貰った爵位は伯爵で、名前はシュン・フォン・ロードベルとなった。忌々しい名字は捨てていたから新しい仮の名字を貰って、三年後の婚約発表と同時にこの名が確定して、フィノの苗字も僕と同じになる。

 とはいっても僕も王族の一員らしきものになるのは確定事項だ。この国では降嫁しても王族であることは変わらないみたいだからね。


 ロードベルというのは王都の裏手にある国が保有している山の名前だ。小さな山で一応僕が貰った形にはなっているけど管理をしないし、人もいないから領地と呼べないから領地なしということだ。


 最初は遠慮していたけどフィノと婚約するための身分と他貴族に牽制も込めた意味合いがある。

 まあ、僕は有意義な時間を家族と過ごすことが出来たと思っている。


 昼食はフィノが僕の料理を食べたいといい始め、僕の料理を食べた義父さん達はまた食べたいといい始める始末となった。

 僕は仕方がないから総料理人にレシピと作り方を教え、庶民層に僕が一から教えたお店『ラ・エール』があることを教えた。

 既にお忍びとして何回か『ラ・エール』に行ったらしい。いつの間に……。

 三時のおやつは僕が作ることになり、毎回違うお菓子を作っている。




 今日はいつもと違い僕から義父さんの元へ向かった。途中フィノの部屋に向かってフィノを誘ってから向かう。

 義父さんの私室に入ると義母さんも一緒にいた。

 僕がこの場に来たのは、今日から迷宮都市に行くからだ。その挨拶とお別れを言いに来た。


「義父さん、迷宮都市に行って来る。フィノは絶対に護る。もちろん僕も死なない」

「ああ、わかっている。気を付けていって来い。学校の長期休暇の日には帰ってくるんだぞ」

「はい、わかりました」


 僕は義父さんと話す。フィノは母さんと話している。


「フィノ、あなたがいなくなると寂しくなるけど行ってらっしゃい。元気に帰ってくるのよ」

「はい、お母様」

「あと、シュン君が他の女に引っかからないように目を光らせなさい」

「はい! お母様!」


 と、いったやり取りをしている。

 僕は絶対にフィノしか見ないことを誓った。

 だって怖いんだもん。


「シュン君、これが魔法学院への推薦状です。こっちが学園長への手紙よ」


 僕は赤い家紋入りの魔法陣で封がされた手紙とただの手紙を受け取った。


「無くさないようにします」


 僕そう言って収納袋に入れた。


「最後にもう一回確認する。迷宮都市には今日から四か月間の滞在。その後一月掛けて魔法学園へ向かう。その時に試験を受けて合格を貰うこと。貰うための勉強はお互いに指導し合って勉強すること」


 僕がフィノに魔法と計算を教えて、フィノが僕に歴史一般教養を教えていく。

 この勉強方法は今も行っていることですでに三年までの勉強をしている。魔法に関しては卒業レベルを遥かに超えているだろう。


「後は二人とも無事で帰ってくること。帰ってきたあとは速やかに婚約発表をすること。その後は……」

「あなた急ぎ過ぎです。フィノ、シュン君、元気で帰って来てくれればそれでいいですからね。学校では思う存分友達と遊びなさい。私達は勉強と魔法の心配は何一つ問題だと持っていません。問題は怪我をすることただ一つです」


 義父さんは少し急ぎ過ぎる傾向があることを最近知った。それをサポートしているのが義母さんだった。

 のほほんとしているように見える義母さんだけどいざというときはしっかりする。今みたいなときや魔物が攻めてきた時の回復時など。


「わかっています」

「はい、お母様」

「わかったわ。二人とも行ってらっしゃい」


 義母さんが僕とフィノに抱き付いて耳元でそう言った。

 ぼくはその言葉に自然と涙が出そうになる。

 初めて『行ってらっしゃい』と言われたことがうれしいのだ。帰りを待ってくれる人・場所がある。それだけで心の底から温まる気持ちになれるのだ。


 僕は泣きそうになるのを我慢して、この日のために作った魔道具を収納袋から取り出して手渡す。

 手渡した魔道具は耳朶を挟んで留める感じのイヤリング型通信機だ。大きさは三センチほど。


「それには念話の魔法が込められています。相手の顔を思い描きその人物の名前を言うと念話を掛けられます。魔力はその魔道具に込めることで使えます。最大まで込めても最大五分ですがどこまで離れていても念話が行えるはずです」

「こ、こんなものを貰っていいのか」

「それはこの日のために作ったものなのでぜひ貰ってください。できれば軍事使用は避けてください。そのために作ったものではないので」

「わかった。息子からの初めての貴重なプレゼントだ。大切にさせてもらう」

「私もです。これは耳に付けているだけでいいのですね」

「はい、肌に付けているだけでいいです。せっかくなので義父さんと義母さんでお揃いにしてみました。あとこちらは義兄さんに渡してください」


 僕はそう言ってもう一つ緑色のイヤリングを取り出して机の上に置いた。


「わかった。渡しておこう」


 義父さんがイヤリングを大切そうに握りながら、義兄さん用のイヤリングを手の取った。義母さんも同じようにしている。

 隣のフィノが自分には何かないのかという目で見ているから僕は手を繋ぐことで紛らわせる。

 フィノはそれがうれしいようでその目をやめてくれた。

 後で何か作っておこう。


「それと迷宮にいるときは連絡が付くかわかりません。夜間は出来るだけいるようにしますが期待はしないでください。あと壊れた場合はすぐに言ってください。今度帰った時に新しいのを作っておきますから」

「そこまでしてくれるのか……。私達はいい息子を持ったな」

「はい、フィノにはもったいないくらい」

「お母様!」


 義母さんがフィノをからかいそれを見て僕と義父さんが笑う。いつものようなやり取りをして僕とフィノは王城を出た。




 僕とフィノは王城を出た後、フィノの装備を整えにローギスさんの鍛冶屋へ向かった。

 フィノの装備は僕が予め頼んでいたものだ。僕とおそろいの素材で作ったものでバトルドレスのような感じにしてもらった。


 鍛冶屋に入るとすぐにローギスさんが現れた。


「ローギスさん、例のものは出来ていますか?」


 フィノには装備品を作って貰ったとしか伝えていない。

 僕も日頃からあの鎧を着ているわけではない。あの鎧は私服の上から切れるようになっているから僕はそのようにしている。

 フィノのバトルドレスもそのような作りにしてもらった。


「おう! 注文の品はこれだ!」


 ローギスさんの弟子たちが持ってきた装備品は肩口に羽根のような綿が付き、白いドレスに黒光りする紫色の甲殻は胸元から腰まで覆う。スカートは二段重ねとなっていて一段目は固い甲殻で守られ、二段目はふわりとした布でできている。

 手を覆うは貴婦人用手袋のように二の腕まである手袋で二の腕で止めるためのヒュドラの核を使った腕輪がある。この腕輪は魔力・魔法増幅の魔道具だ。それが左右にあり、指先を守るように小手が付いている。

 ブーツは軽い甲殻を使い白いニーソの上に銀色のガードと黒色のロングブーツだ。

 頭には髪を留める為の魔耐性のある半透明のリボンとルビー色のアクセサリー。


 武器はレイピアのような細身の剣で魔力を通しやすく魔力を通すと青く光沢を放つ。その属性の魔力によっても効果を発しやすくなっている。今後のために『纏』を教えておこうと思う。


「フィノ、これに着替えてくれる? この装備品は僕からのプレゼントだよ」

「こ、こんなものを貰っていいの? 高そうだけど……」

「いいんだ。この素材は僕が持っていたものだから作って貰った費用ぐらいしかかかっていないよ。それに、大切な人の身を守るための武具だよ? これぐらいしなきゃ。義父さん達にも頼まれたしね」

「……は、はい……」


 フィノは僕の言葉に顔を赤らめて了承してくれた。

 ローギスさん達が僕とフィノを見て「ヒュー、ヒュー」と野次を飛ばしてくる。


「さ、さあ、フィノ、着替えて見せてよ」

「わ、わかった。ちょっと待ってて」


 フィノはそう言って女性店員に連れられ防具の試着に行った。

 僕は残されローギスさん達にからかわれる。


「シュンよー、おめえはいい女が出来たな」

「初々しくて見ているこっちも恥ずかしくなるぜ」

「フィノちゃんは可愛いし、健気な感じがまた男心をくすぶる。シュン坊、良く射止めたな」


 僕は何も反論できずに頬染めてそっぽを向くしかできなかった。

 それを見て更にからかって来る。


 僕が少しの間我慢しているとフィノが試着を終えて帰ってきた。

その姿は可憐の一言しか思い浮かばない。

 さらりと長い艶のある黒髪が透明な白いリボンで留められ、白い肌や体のくびれを強調するかのように白いドレスが黒いガードに栄えていた。

 剣を腰に帯びたその姿は凛々しくも可憐で今すぐに抱きしめたいぐらいだ。


「……フィノ、似合っているよ。この上ない位。この防具を作って貰って正解だったよ」


 僕は本心を口にした。

 フィノはほんのりと頬を染め恥ずかしそうにしながら、もじもじと腰をくねらせて頬を掻いた。……どこぞの化け物さん二人とは違うくねりだ。

 それを見たここにいた冒険者や工房の住人はその可愛さにやられてしまった。


「ふむ、サイズは大丈夫みたいだな。どこか悪かったりするか?」


 ローギスさんが腰の繋ぎ目やブーツを見ながらそう言った。


「いえ、ほとんど合っています」

「そうか。まあ、何かあったらすぐに言えや」

「はい」


 サイズはバッチリのようだ。

 僕と同じ背丈だといっただけでここまで正確に作れるのは職人ならではなのだろうか?


「代金はどのくらいになりましたか?」


 僕は一通り話が済んだところで代金の話に進んだ。


「素材の持ち込みだったから……百十二万ガルといったところか」


 百二十万ガル。大金貨一枚と中金貨一枚、小金貨二枚だ。

 僕の装備の二倍の値段になったのは素材が余らなかったことと特殊なことを頼んだからだろう。

 その値段を聞いてフィノが青褪めた目たように鎧と僕を見た。代金が思った以上に高かったのだろう。

 まあ、僕にとっては大切なものだし、このぐらいの出費は全く痛くない。足らなくなればギルドで稼げばいいだけでもあるしね。


 僕は収納袋から代金を取り出して、ローギスさんに手渡した。


「よし、丁度だな。今から迷宮都市バラクに行くのか?」

「はい。時間も有限なので街の外で待たせいる馬車でいこうと思っています」


 この馬車は義父さんが用意してくれたものだ。フィノが王族だということを悟らせないために行者はいない。


「そうか。なら、迷宮都市にいるクィードという奴に頼めばいい。俺からだと言えば迷宮で手に入った物の買い付けなどをしてくれるはずだ」

「クィードさんですね。わかりました。頼らせてもらいます」

「なーに、いいってことよ。シュン、フィノ、じゃあな」


 僕とフィノは皆に挨拶をして王都の外に置いてある馬車に急いだ。馬車は近衛兵が一人見張りとしているだけで他には誰もいなかった。

 僕とフィノが近づくと近衛兵の人が頭を下げて道順と簡易な地図をくれた。また、迷宮都市で迷宮内のレクチャーを受けた方がいいと忠告を貰った。




 移動手段は基本馬車となるが、王族用の馬車ではなく普通の馬車だ。

 白い屋根のカバー付きで前に大人二人が座れるほどの御者台が付いている。馬は白と黒の二頭いる。名前はホワイとブライだ。

 荷台には水や食料、着替えなどが置かれている。

 僕達の収納袋に入れればいいのだけれど、何が起きるかわからないということで持っていくことにした。

 収納袋に数年分の水と食料とかが入っているけど……。


 迷宮都市まで行くのにこの馬車で日中をゆっくりと移動した場合五日ほどで着く。

 その間に迷宮のことが書かれている本を二人で読んだり、学校へ行くための勉強をしたりする。魔物も出にくい道のりだから安心して勉強ができる。出てきたとしてもこの辺りに生息している魔物はFランクで、強くてもDランクのスローモンキーだ。

 スローモンキーのスローは遅いではなく、物を投げるという意味だ。近くのものなら何でも投げる。それが人であろうが容赦なく。


 そろそろ陽が沈み辺りがオレンジ色となってきた。

 僕は先の方を見渡して森の中に空けた場所を見つけた。


「フィノ、今日はここまでにしようか。あそこに見える空いた場所で一晩明かそう」

「うん、わかった」


 僕は馬車を止めて馬の紐を木に括り水と食べ物を与えると、フィノの元へと戻り一緒に夕食の準備をする。

 約束通り最近はフィノに料理を教えている。

 包丁で指を切ったり、さじ加減を間違えたりとフィノは危なっかしいけど、微笑ましく思うのは僕だけだろうか。


「今日は初めての野営だからしっかりしたものを作ろう。フィノは思った以上に疲れているはずだからね」

「わかった。で、今日は何を作るの?」

「先ほど倒したラビーの肉と野菜のスープとレッドベアーのステーキ、サラダだね。少し重たいけどこのぐらいがちょうどいいと思う」


 僕はそう言って土魔法で台を作り、器具と食材を出していく。

 フィノは使う野菜を水魔法で洗い始める。僕は倒したラビーの毛皮を剥ぎ収納袋に入れ、肉と骨を切り分ける。

 お互いの作業が終わると料理を始める。

 僕は肉を一口サイズに切り、フィノは野菜を切っていく。まだ切る大きさにバラつきがあるけど指は切っていないようだ。

 次に水を出し鍋に溜めると火魔法で加熱する。調味料と香辛料で味付けをすると野菜を入れる。その間にフィノはレッドベアーの肉をステーキ上に切り取る。

 僕はレッドベアーの肉に香辛料で臭みを取り味付けをすると、フライパンに油を引いて焼き始める。フィノはスープに切り分けた肉を入れ、味を調整しながら香辛料を足す。

 ステーキが焼けたころにはスープとサラダも完成し、辺りにおいしそうな匂いを漂わせていた。


「よし、あとは盛り付けて食べようか」

「うん、早く盛り付けて食べる」


 盛り付けをしていると僕達が馬車で来た方向から数人の魔力を感知した。

 少ししてフィノも気が付いたようで僕に聞いてきた。


「シュン君、あっちから誰か来るみたいだけどどうするの?」

「何人かわかる?」

「多分、四人……かな?」

「正解。恐らく冒険者だろうね。この辺りには盗賊の情報もなかったからね。多分僕達と同じで迷宮都市に行くんじゃないかな? あ、でも一応気を付けていてね」

「うん、わかった」


 フィノはそう言って杖を片手の持つと僕の後ろに隠れた。

 もうじきその杖も交換しないといけないな。多分フィノの実力がその杖を上回っていると思うから。


 僕がそんなことを考えていると感知した人達が視認できるようになった。

 格好は剣を片手に軽装の鎧を着た人が一人、神官のような人が一人、重戦士が一人、盗賊が一人という内訳だ。

 その四人は僕達を見つけると走って向かってきた。

 臭いにつられたか、僕達が子供だということで近づいてきたかのどちらかだろう。


 しばらく待っていると盗賊の女の人が先に近づいてきた。

僕の服を持つフィノの手に力が籠った。僕はそれを優しく手で覆い安心させてやる。


「なんで子供がこんなところに? 親はいないのか?」


 この人はあの距離を走ってきたのに息一つ乱していない。それだけの実力者なのだろう。

 僕は盗賊の女を見つめたまま答える。


「僕と彼女の二人だけだ。他には誰もいない」

「ここは危ないぞ! 何でこんなところにいるんだ!」


 僕がそう答えると盗賊の女は声を荒げてそう言った。

 どうやら僕達のことを心配してくれているようだ。

 そうこうしていると三人が到着した。


「どうした? ……っと、やっぱり子供だったか」

「子供ですか? あ、本当ですね。そうしてこんなところに?」

「はぁ、はぁ」


 重戦士の男は疲れて声が出せないでいる。


「で、どうして君達はこんな危ない場所にいるんだい?」


 剣士の男がそう訊いてきた。

 僕は面倒なのでギルドカードを取り出しながら訳を話す。


「僕はこういうもので『奇術師』と呼ばれる冒険者だ。こちらは一緒にパーティーを組んでいるフィノという。Dランク冒険者だ。僕達は迷宮都市を目指している」


 僕がそう言うと四人は僕のギルドカードに釘づけだ。

 僕の二つ名は結構広まっているだろう。

 こういう場面で役に立つとは。貰っておいてよかったと思う。


「にせも「ではないぞ」……」


 盗賊の女が『ギルドカードが偽物だ』と言ってきたのを言わせる前に封じた。

 他の三人は信じているようで僕に自己紹介と握手をせがんできた。


「俺はこのCランクパーティー『獅子王』のリーダーで剣士のアールという。ランクはCランクだ」

「私はCランクのミルトルと言います。一応神官として回復役をしています」

「ふぅー、俺の名ガイアン。Cランク冒険者だ。重戦士として壁役をやっている」


 僕は三人と握手をして自分も自己紹介をする。

 

「僕はカードを見た通りシュンと言います。一応Aランクです。……フィノ? 出来る?」


 僕の後ろに隠れているフィノに聞く。


「うん。私はフィノと言います。先日Dランクになりました。よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

「フィノさんですか? こちらこそよろしくお願いします」

「AランクとDランクのパーティーな。名前はないのか?」


 フィノも三人と握手をした。

 最後のガイアンさんが素朴な疑問を口にした。

 そう言えばパーティー名を決めていなかったっけ。

 フィノを見ればどうしようかと考えているようだ。


「僕達はまだパーティー名を決めていません」

「ってことは、二人は臨時で組んでいるということか?」


 アールさんがそう言った。


「いえ、僕とフィノは一緒に組んでいますし、これからも組みます。ですが最近組み始めたので名前がまだ決まっていないだけです」

「そうなのか。迷宮に行くのなら早めに決め居ていたほうがいいぞ」

「なぜですか?」

「それは迷宮を攻略すると迷宮前にある石碑に攻略者の名前が載るからだ。その時にパーティーを組んでいたらその名前も載るんだ」

「へー、そうだったんですね。早めに決めておきます。ありがとうございます」

「おう」


 僕とフィノはこの三人と仲良くなった。

 その後もどこから来たのかや王都の魔闘技大会はどうだったかなどいろいろ話した。やっぱり魔闘技大会に大英雄シロが出たこととあの表彰式が印象深かったようだ。

 彼らは王都の西にあるカンテの街から来たようだ。アールさん達も迷宮都市に向かう途中だったようだ。魔闘技大会の内容を人伝に聞いて迷宮で一旗揚げてみようと思ったらしい。


 そろそろ休もうかと思っていたところで僕達、子供がいるのに気が付いて声をかけてきたらしい。実際は子供でも高ランク冒険者で今話題の『奇術師』のパーティーだとは思わなかったそうだ。


「おい、お前もそろそろ自己紹介をしたらどうだ? こいつらは悪い奴じゃなさそうだし、そろそろ機嫌を直せ」

「うるさい! 私は拗ねてなんかいない! フン!」


 盗賊の女の人はそっぽを向いてしまった。

アールさんは手を上げてやれやれというポーズをすると盗賊の女の人を紹介してくれた。


「彼女の名はシフィア。俺達のパーティーの斥候兼罠師だ」


 罠師というのは罠を仕掛ける人や罠を解除する役割を持つ人のことを言う。

 迷宮には罠が下に行くほどたくさん張り巡らされているという。矢が飛んでくるものや落とし穴、毒霧やモンスターハウスなどが存在する。

 そんな罠を解除したり見つけたりするのが役目だ。


「お前達は二人だけか? それで迷宮を攻略するのは少しきついんじゃないのか?」


 ガイアンさんがそう言った。


「僕達が入る迷宮は比較的罠が少なくある程度攻略されていて、情報のある迷宮に入ろうと思っているんです」

「そうか。まあ、それならまだ安全か。だが、危ないと思ったら誰かをパーティーに入れることだな」

「はい、わかっていますよ」


 僕はガイアンさんの言葉を素直に聞き入れる。

 こんなことを頑固になってフィノに怪我をされては僕が困るし、とても悲しい。


「それにしてもいい匂いがするな。これもお前達が作ったのか?」


 アールさんが鼻をひくひくさせてあたりに漂う料理の匂いを嗅ぎながら言った。

 ミルトルさんもガイアンさんも同じようだ。恐らく、アールさん達はあのくそ不味い携帯食しか持っていないのだろう。


「僕達が作った料理ですよ。さすがにステーキは量がないので上げられませんが、スープは量があるので少しどうですか?」


 僕はあの味を知っているからスープだけでもどうかと勧めてみる。

 それを聞いたアールさん達はその言葉を待っていましたとばかりに道具袋から皿を取り出し、僕にお願いしてきた。


「本当か! いやー、ほしかったんだよ。おいしそうな匂いを漂わせてるから」

「お言葉に甘えて私達もここで夕食としましょう」

「おう。大人数で食べた方が飯も旨いしな」


 三人はそう言いながら、僕達が場所を取っているところから少し離れた場所に野宿の準備をし出した。

 シフィアさんは無言でそれを手伝っている。

僕とフィノは貰った器にスープを入れながらそれを見ている。




 すぎに準備を終えると六人で焚火を囲むように座って料理を食べる。


「お、このスープはうめえな。味がしっかりついてらあ」

「本当です。旅の間にこんなにおいしい料理が食べられるとは思いませんでした」

「ああ、体が温まる。シュン、それにフィノちゃん、ありがとうな。ほら、お前も礼ぐらい言え」


 アールさんはそう言ってシフィアさんの頭を小突く。シフィアさんは納得しなさそうな顔で感謝を述べる。


「……ありがとう」

「どういたしまして」

「すまねえな。こいつはお前達のことを間違ったことを恥ずかしがったり、迷宮に行く前で緊張しているだけなんだ。許してやってくれ」

「私からも頼みます」

「俺からもだ」


 三人が頭をさげる。

 僕とフィノは慌てて料理を零しそうになり、三人の頭を上げさせた。


「いいですよ。それほど気にしていませんから」

「ええ、私も気にしていません」

「そうか、そう言ってくれると助かる」


 僕とフィノは食べ終わると食器を片付け、寝るための準備をした。

 地面の上にシートを敷いてその上に布団を敷く。僕の隣にフィノの分も準備してある。そして、明かり魔法で照らして勉強をする。

 三人が何をしているのか僕達に訊いてきた。


「シュンは何をしているんだ?」

「僕達は半年後にシュタットベルン魔法学園に入学するんです。そのための試験勉強をしています」

「へえー、お前達はあの学校に行くのか」

「はい、迷宮に行くのなら近くにあるその学校に行きなさい、とお父さんとお母さんに言われたので」

「そうなんだ。俺達はそこまで頭がよくねえし、魔法も使えねえからな。一生縁のないところだな」


 この話は予め決めていたことだ。

 この先何が起きるかわからないから僕とフィノは学校に着くまでそういうことにしている。

 学校についてしまえばフィノは王族となる。僕はその従者とか師匠だったり、コロコロと変わる。場合によっては婚約者だと名乗らないといけなくなるだろう。

 特に今年入学すると思う、元フィノが嫁ぐ予定だった帝国の皇子に、だ。


「勉強をするのはいいがこうも明かりを付けられると魔物が寄ってくるんだが……」


 アールさんが心配そうに言ったがその心配は無用だ。


「その心配はいりません。この辺りに半径十メートルの隠蔽結界を張らせてもらっています。その内側には侵入者を知らせる警報結界も張っています。なので、安心して寝れますよ?」

「そうなのか? でも、もしものことがあるから俺達は一人ずつ夜番をさせてもらうよ」

「ええ、構いませんよ」


 僕とフィノはそう言って勉強に戻った。


「シュン君、いつ結界なんて張ったのですか?」


 フィノの魔力感知に僕が結界を張ったのが感知できなかったのだろう。


「ああ、料理を作っている間に張ったよ」

「私は気付きませんでした。どうしてシュン君の魔法は感知しにくいのでしょうか? あの階段の時も結界を二種類張っていたみたいですがわかりませんでしたよ?」

「僕が普通に結界を張る時はほとんど魔力が変動しないからね。特に結界は森に住んでいた頃からずっと使ってきた魔法だから体の方が慣れて魔力が変動しなくなったんだ。後はあの訓練のおかげで消費魔力がほぼゼロのせいかな?」


 精神統一をしているおかげか体の調子も魔力の調子も良く、魔法を使った消費量が極端に少なくなっている。

 質や純度が良くなって魔法の威力が高くなったということは、皆と同じくらいの威力の魔法を使った時の消費量が下がるということだ。


「そうなのですか? 私もそのぐらいになれるでしょうか」

「なれるさ。今のフィノは僕と比べているから劣って見えるけど、今のフィノの実力はAランク冒険者と同じくらいだよ。しかも魔力がその人の数倍あるからそれ以上と言ってもいいかもね」

「シュン君……。私、頑張ります」

「うん」


 僕とフィノはある程度勉強を進めたところで明かりを消して床に入った。




 翌日起きて朝食を作ると僕とフィノは四人と別れて先に進んでいった。

 それから四日後、迷宮都市バラクに着いた。


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