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謁見と婚約者と家族

自分でも書いててよく分からなくなっているので、おかしな点は質問してください。

 魔闘技大会が終わって十日が経った。

 僕はアイネさんにギルドに来てくれと言われギルドに向かっている。


 この十日間僕は姿を隠してシュンとして活動していた。見つかると人に揉みくちゃにされるのが分かっているからだ。他にも質問責め、剣術・魔法指南、しつこく付き纏う人が多いのだ。

 僕がシロだというのはばれていないけどこの状態だといつばれても仕方がないように感じる。


 大会で戦ったバーリスさんは魔大陸へ帰った。僕がバリアルから連絡があったことと叩きのめすことを頼まれたというと顔を真っ青にして文字通り飛んで帰った。

 ロンダークに探りを入れてみたがよくわからなかった。ロンダークは今回の件とまるで関係がないのかもしれないが、本人がなぜこの大会に他国から出たのか聞くと『この国の王妃に頼まれた』、と言っていた。王妃というのは多分見たことのない王妃だろう。




 冒険者ギルドに着くとアイネさんが一階に降りていた。


「あ、シュンくん。来たのね」


 アイネさんは僕を見つけてそう声をかけてきた。


「おはようございます。それで話とはあのことですか?」


 僕を呼んだということは僕が王宮に行く日にちが決まったのだろう。帰り際にギルドへ連絡してくれと伝えたからね。

 フィノが僕に何か言いたそうだったけど、国王様に今度来てくれるから、と言われて大人しくなっていたっけ。十日前のことなのに懐かしく感じるよ。


「ええ、そうよ。日にちは明後日の午前十一時。場所は貴族門だそうよ」

「わかりました。明日の午前十一時に貴族門ですね」


 じゃあこの二日間はゆっくりするか。

 いよいよ会談か……。何を聞かれるのかな?

 もしかしてあの仮面は不敬だったりするかな? でもあれを外すわけにはいかないんだよね。


 それだけを聞くと僕はギルドを後にした。




 二日後、僕は十時半になるとゆっくりと貴族門を目指した。


 セドリックさんのお店は新商品の発売で大繁盛だったらしい。

 新作のアイスクリーム、パフェ、シェイク等だ。

 観戦用として砕いた氷入りジュース、凍らせた果物の果肉などを販売したようだ。観客はあの熱気だったから大層暑かっただろう。それで売り上げが大分伸びたそうだ。

 この国は季節が夏と秋の中間といった感じだから人によっては暑いと感じる。だから、アイスが良く売れる。


 それを見越して魔力回復薬を何本か置いて行ってよかった。ララスさんが魔力枯渇で倒れてしまうとこだったからね。

 今度からは個数限定にするらしい。


 貴族門は乗り越えられないように魔力導線が張られた三メートルの格子と詰所付きの門構えだ。

 格子の隙間から見える貴族邸は低級貴族とはいえ普通の民家の数倍はあるそれが三階建てだったりするのだからすごい。


 僕は三階建ての民家に入ったことがないぞ。ここより比較的技術が発達している世界から来たのに。

 まあ、数十階とあるビルやマンション、東京タワーやスカイツリーに上ったことがあるからどうでもいいのだけど……。


 家には柵が付いていて家の前に門を通らないと入ることが出来ない。セレブっていう感じがする。

 敷地内には花壇や園芸、盆栽等の植物や広場がある。守衛やメイドさんが僕を見て驚き手を振ってくる。


 ゴミ一つ落ちていない道はタイルのようなもので舗装されきっちりと整備されている。

 この道を真っ直ぐ通っていくと王城に着くのだろう。この後は右手に見える金色の装飾と赤色の車体、大きな車輪が四つ付いた王家の家紋入りの高級そうな馬車に乗っていくのだろう。

繋げられた二馬は体が大きく白い体だ。この馬ならあの大きな馬車を引けるだろう。

まあ、乗っていくのに抵抗感があるけど……。


「貴殿がシロ殿か?」


 門に近づくと一人の門兵がそう訊いてきた。

 この門兵は他の門兵と鎧の形が違う。ランクの低そうな鉄色の鎧を着て槍を持ったのが門兵で、この人は黄色と赤の線が入った銀色の鎧と深緑色の鞘の剣を帯びている。もしかすると騎士団の人かも。


「そうだ、俺がシロだ」

「そうか。何か身分を証明する物はないか?」


 僕はそう言われたから収納袋からシロ用のギルドカードを取り出して見せた。

 このカードが役立つときが来たよ!


「確かに。……それではこちらへ来てください」


 突如敬語になった男性が門を門兵に開くよう伝えると馬車を指してそう言った。

 やっぱりあの派手派手な馬車で行くのか。


 僕はこの男性の後を着いて馬車に近づく。

 馬車の中は暗い赤紫色の壁で赤色のソファーがついていた。僕が腰を下ろすとそのソファーは僕の身体を押し返してくる。

 この感覚は僕が作った椅子と酷似している。作りや素材が似ているのかもしれない。


「それでは出発します。いいでしょうか?」

「ああ、頼む」


 馬車が出発する。

 だんだんと馬の走るスピードが上がり、時速に十キロといったところでスピードが一定になった。これ以上は飛ばしてはいけないのかもしれない。

 まあ、家が近くにあるからわかるけど。


 馬車は大貴族層の門を通過した。貴族邸がまた大きくなった。これは家というより城だな。

 庭や広場、花壇が付いているのは分かる。だけど、ここの貴族邸にはプールや訓練場が付いている。何が付いているかはその貴族の人の価値観で違うけど、ありえないものが敷地内にあるのはどこも同じそうだ。


 道も馬車の車輪がガタガタしなくなり、滑らかに進んでいく。

窓の外をちらりと見ると王城が目の前まで迫っていた。

 王城は薄青色の屋根と白色の壁が基準となっている。窓がたくさんあり、上の方には綺麗なテラスまである。内部には庭や噴水があるという。

 どんだけ金掛けてるんだと思うけど、貴族や王族というのは家や調度品にも金を使わないと舐められてしまうのだろう。


 馬車が王城に到着し、僕は連れて来てくれた兵の人にお礼を言う。


「ありがとう」

「いえ、これが仕事ですから」


 僕は扉の外で待っていた綺麗な黒色の礼服を着た人に連れられて王城の中に入って行く。この男性が中を説明しながら、僕を案内する。

 奥に進み、何十段とある階段を上がり奥へ進む。更に階段を上がると赤い絨毯が引かれた階段と金色の装飾がされた大きな白色の扉が見えてきた。その先に王様がいるそうだ。


 僕は貴族と対話をしたことがほとんどないから、この男性に礼儀について聞いてみる。


「ちょっといいか」

「はい、何でしょうか」

「中に入ったらどのようにしたらいい。礼儀や話し方がよくわからないのだが。とりあえず敬語ならいいか?」


 僕を呼んだ人はこの国の王様だ。不敬をはたらいても怒らない気がするけど、周りの貴族達が何を言って来るかわからないし、いらない問題を起こすのも面倒だ。


 男性が言うには、国王様はそれほど礼儀にうるさい人ではないようだ。一度話したことがあるからどんな感じかわかってくれているらしい。

 まあ、英雄に対してそれほど高圧的には出られないだろう。馬鹿じゃない限り。


 謁見の間に入るとこの絨毯が続いていて三種類の線があるらしい。手前の線が庶民の線、二本目が下級貴族の線、三本目がそれ以上の位のものが跪く線らしい。

 僕は目を伏せた状態で三本目の線まで歩き、その線に片膝をついて跪けばいいらしい。


 謁見の間まで着くと手前で危ないものを持っていないか調べられ、確認が終わると門兵が門を開け男性が中に入り僕が来たことを伝える。


「今大会優勝者シロ殿をお連れしました」


 男性が脇へと避けたから、僕は中に入って行く。

 下を向いているからよくわからないが、左右に多くの足が見える。赤い絨毯の下は模様の入った白色の大理石。他にも白い柱や金で装飾された壁。下から上まで届く大きな窓と赤色のカーテン。明かりの魔道具の付いた燭台。

 どれも華やかで煌びやかだ。


 謁見の間に入り三本目の線で止まり、片膝をついて跪く。

 本当ならあまりしたくない。これでは誰かの下に付いた様な気がするからだ。


「シロ殿よ、跪かなくてよ。顔を上げ、立ち上がってくれ」


 国王様がそう言ってきたから、僕は立ち上がり国王様の方を向く。

 目の前には国王様とその両サイドに王妃が、そしてフィノ達がいる。見たことのないものが王妃でその子供達だろう。

 こいつらがフィノを苛める奴らか。


 その両側には詳細と思える人や大貴族が並び立っている。後ろには警備兵や近衛兵、騎士団の団長レオンシオ・スコールスが立っていた。


 周りの貴族は僕が立ち上がったことが不満のようだが気にしない。その気になればこの国から出ればいいだけだ。


「まずは魔闘技大会優勝おめでとうと言っておこう」

「はい、ありがとうございます」


 僕は軽く頭を下げて感謝を述べる。


「この前も思ったが若いな。年はいくつだ?」

「今年で十二となります」

「おお、それでは我が娘と同い年ではないか。これは丁度いい」


 国王様は嬉しそうに言う。多分僕の年齢とフィノの年齢が同じなのが嬉野だろう。しかもこの大会の副賞としてフィノとの婚約もある。

 それが分かっているのか隣で座っている知らない王妃が憎々しげに僕のことを見ている。貴族の中にも……というよりほとんどが僕のことを憎いような目で見ている。中には好気的な目があるが、あれはどうやって引き入れようかと考えている目だ。

 そんなことをしたら逃げるから意味がないって。


「その年で魔力弾、纏、飛行魔法、古の魔法を使い、魔法の同時展開、闘技場を覆う結界、そして団長をも凌ぐであろう剣技。……なるほど、素晴らしいな」

「そうですな」


 国王様の言葉に、隣に立っている宰相が相槌を打った。

 中にはそれを聞いて驚く者や意味の分かっていないもの、ぜひとも引き入れようと企む者が出てきた。


「おお、ローデルヒもそう思うか」

「はい、私も魔法について齧っていますが、それほどの魔法が使える者を見たことも聞いたこともありません。魔力操作・制御については国、いえ世界でも随一かと」


 僕はそんなこと思わないけど他人から見たら僕の魔力は凄いのだろう。誰だってやれば簡単にできるのにな。

 まあ、教える気はないけど。


「そんなシロ殿が我が娘「お待ちください。あなた」……なんだね」


 隣の知らない王妃が国王様の話を切って話しかけた。

 なんかこの人僕と合わない感じがする。嫌悪感のような前世で見てきた人と同類の気がするんだよね。

 他人を見下し、弱き者を虐げる。支配するためには暴力をいとはず、権力と地位で差別をする。そんな感じだ。

 こんな人がたくさんいるような気がする。


「彼はこの国の英雄なのでしょう? ならば彼は第一王女に嫁がせればいいのではないでしょうか。それに私の娘もその気があるようですし……」

「む、だがな……。これは会議で決まったことだ」

「それはそれですが、その場で臨機応変に変えることも大事です。フィノリアはその気がないようですし」


 知らない王妃が好き放題言ってくれる。

 僕はこいつの顔をぶん殴りたい。

 国王様は困ったような顔をしつつ内心は嫌がっているのだろうか、体や手に力が入っている。

 フィノは怒り心頭のようだ。


「では、シロ殿に聞こうではないか。シロ殿も嫌であるのなら仕方がない」

「そうですわね」


 王妃は一言そう言うと僕を睨み付けてきた。

 これは断れと言っているのだろう。


「私は……この大会に知人から頼まれて出ることになりました」

「ほう、それは我が娘に魔法を教えてくれたものか?」

「はい。彼には彼女のことを救ってくれと頼まれました。何やら不穏なこともあるとか」


 僕は不穏、という言葉を強調して言った。

 それを聞き取ったのは数人の貴族と知らない王妃、国王様達だった。

 これで何か聞かれるだろう。


「不穏だと? それはどういった内容か聞いているか?」

「はい。まず、フィノリス様においては魔法が使えず虐げられていたとか。そのせいで婚約問題が出ているとか」


 僕はまず簡単なところを言う。


「それが不穏なことなのか?」


 国王様は眉を顰めて言う。

 いや、これは前段階でしかない。


「いえ、そのせいで私はある組織を潰してきました」

「ある組織とな?」

「はい。その組織の名は裏ギルド『地獄の三つ首番犬』です」

「やはりあのギルドを潰したのはシロ殿だったのか!」


 僕はその隙にあたりの貴族を見る。

 何人かの貴族の顔色が変わり青褪める者や冷や汗を流す者がいる。

 こいつらが今回の件の犯人か。


「はい。そこは彼に情報を聞き、頼まれたので潰しました。私はそこで面白いものを手に入れたのです」

「面白いうものとな? それは何だ?」


 僕は収納袋から数枚の紙を取り出して近くにいた兵士に届けてもらった。

 僕はニヤリと笑って続きを話す。


「その紙は今回に使われていた魔石が買われたリストです。貴族の名前入りとなっています」


 変化のあった貴族達は今にも卒倒しそうだ。

 王妃には変化がないように見えるが僕の魔法『同調』でばっちりわかっている。

 この魔法のことがばれてしまうと最悪、不敬罪とか何とかで捕まってしまいそうだから使うのは控えていよう。使われた本人も心を読まれるのは嫌だろうしね。


「ふむ、ブッチャー公爵、リフテイン侯爵、バッシュリン伯爵、ロンダレイク伯爵、ホントイ男爵……。シロ殿は今回の魔物騒動に関わっていると思うのか?」


 国王様は貴族の名前を言いながら紙から目を離し、僕に問い詰めるように言う。

 呼ばれた貴族は目を動かし、王妃を全員が見た。 

 やはり王妃が関わっている。


「はい。私はとある場所でその魔石を確認済みです。まだあってもおかしくないでしょう。仮にないとしてもこれだけの魔石の量です。調べてみればわかるでしょう」

「そうだな。だが、なかったとしたらどうする? まだ、貰っていないのかもしれないぞ?」

「それも確認済みです。その魔石の一部を私が回収済みです。それなりの数がありましたが間違いなくギルドのものが奪いに来ましたので間違いないです」


 僕は収納袋からいくつかの空の魔石を取り出した。

 すると何人かの貴族が喚き出した。


「そ、それは偽物じゃないのかね?」

「もともと持っていたのでは?」

「無礼者め! 衛兵よ! 奴を捕まえろ!」


 すぐに戸惑いながらも兵士が僕を取り囲むが国王様の一言で場が収まる。


「控えよ! シロ殿がお前達を嵌める意図が見えぬ。よってこの書類に従い、お前達の家を検めることとする!」

「あ、あなた!」


 国王様の決定に王妃が慌てる。

 多分貴族達を調べられると自分が関わっていたことがばれるからだろう。

 だが、僕は邪魔をさせないぞ。


「国王様、それで、婚約の件なのですが」

「そうだったな。それでこの件を受けてくれるか?」


 王妃は無視をされて僕を殺すように睨み付ける。


「私はその件をお受けすることが出来ません」

「なぜだ?」


 王妃の顔が喜色の色に染まる。


「すでに王女様が婚約者を決めているからです。私はそれを邪魔することが出来ません。この大英雄に奪えというのですか?」


 フィノが僕のことを見て驚愕の顔をして頬を赤く染める。

 僕、シュンのことを思い出したのだろう。

 僕も頬が熱くなるのが分かる。早く一緒に居られるようになりたいよ。

 貴族達が騒然となる。


「静まれ! ……シロ殿、それは彼のことか?」


 国王様が僕に決めつけるように言う。

 国王様は知っているようだな。フィノが僕のことを好きなことが、そしてその恋愛を応援しているのが分かる。

 これなら障害はなさそうだ。


「それに返答することは出来ませんが、実力は私と同等です。戦えばどちらが勝つかわかりません」


 うん、嘘ではない。

 国王様達は僕と同じような実力者がいることに驚き騒ぎ出す。


「彼はAランク冒険者ですが、普段はその実力を抑えています。彼は騒がれるのが嫌いなのです。私と同様自由を重んじるのです。

 それと、言っては何ですがこの婚約は私をこの国に繋ぎとめるためのものでしょう?」


 僕は核心に近づく。

 王妃が僕に何か言おうとしてくるが、その前に国王様が肯定する。


「そうだ。分かっているのでは仕方のないことだ。余は、シロ殿が他国に行くことが怖い。できれば我が国に仕えてくれればよいと思っておる。だが、シロ殿は自由を重んじると言った。無理なのであろう?」

「はい、仕えるというのであればお断りします」

「そうか……」


 国王様は見るからに落ち込む。


「ですが、この国が今回のように魔物に襲われるようなことがあれば加勢に来ましょう。そして、この国以外の国に手を貸さないと。その条件が……」

「その条件が我が娘に好きなものと婚約させてくれというのだな?」

「は「あなた! 何を言っているの! どこの馬の骨とも知らない相手に嫁がせる気ですか! 彼をしっかりつなぎ留めればいいではないですか!」」


 王妃が自分の考えを漏らす。

 国王様は冷えた目でその王妃を見る。

 王妃の後ろにいる子供たちは僕のことを恨むように見ている。僕に対して何か言いたそうだ。

 それにしても馬の骨とは失礼な。

 まあ、素性が分からないのは分かるけど……。


「だが、お前が言ったのだぞ? 『臨機応変に動け』と。だから余はシロ殿が言った提案を受けたのだ。その方が我が国に利益があると思ったからな」

「そ、それは……」


 王妃は椅子に座り落ちた。後ろから子供たちが支えるように持つ。

 僕は終わったこと確認してしまいに入る。


「国王様、この願いは私が魔物の大規模侵攻から護った願いとしてください」

「ん? それはいいが……そうなると此度の婚約はなくなるぞ」

「はい、それでいいです。王女様に好きな方と婚約できれば」

「だが、シロ殿は何も得をしていないではないか」


 国王様はシロが何もないことに眉を細め、何かいらないかと言って来る。

 そうなると……。この人には僕の正体を教えておこうかな。


「わかりました。では、此度の婚約と魔物の襲来から護った褒美としてローゼライト国王様とハンドリア王妃様、フィノリア第三王女様との四人会談を望みます」

「そんなものでよいのか? 金でも宝庫にある宝でも住居でもなく、会談でいいのか?」

「私にも国王様にもその方がよろしいかと思います」

「余にもか……。わかった。ではそのように取り計らう。この後、呼びに行かせる。その時にぜひとも話そうではないか」

「ありがとうございます」


 僕は頭を下げて感謝を述べた。

 周りの貴族は僕が何を考えているのか探るような目で見る。


「先ほど呼んだ貴族については取り調べを行う! これにて謁見を終了する!」


 これで長かった謁見が終了して僕は謁見の間から外に出る。外に出るとメイドさんが僕を連れてとある一室に来た。

 僕はその部屋の赤いソファーに座って待つように言われた。

 フィノは最後まで顔が赤かった。




 部屋の中は白色の綺麗なテーブルを挟むように金色の縁の赤いソファーが置かれ、傍には明かりの魔道具とメイドさんが待機している。

 壁は花や植物などの絵が描かれ自然といったような雰囲気を感じる。右側にある窓は庭に続きこちらからわは赤や黄、青、紫等の花が咲き誇っているのが分かる。 その奥には噴水の水が見える。

 とても和むような場所だ。

 ここが貴賓室なのだろう。


 しばらくするとフィノを連れ立った国王様が現れた。

 僕が立ち上がろうとすると国王様が手で制した。

 フィノは先ほどの黒いラインの入った白色のドレスを着ている。とてもかわいい。

 国王様はメイドさんを下がらせて僕の前のソファーに座る。その隣にフィノが腰を下ろす。フィノを挟むように王妃様が座った。


「改めて、我が国と私達を救ってくれてありがとう」

「ありがとう」


 二人が感謝を述べてくる。

 僕はそれをどうといったこともないと答え、辺りを魔力感知で調べる。ほとんど反応がないから大丈夫だろうが、念には念を入れさせてもらおう。


「ちょっと失礼」


 僕は指を二度鳴らして隠蔽結界と遮断結界を張った。

 これで僕の正体を教えても大丈夫だろう。国王様達を信用していないわけではないけど、僕はそこまで早く人を信用できるようにはなっていない。

 まあ、フィノのことは別だけど。


「何をしたんだ?」

「すみません。隠蔽結界と遮断結界を張らせてもらいました。それもこれからするためには必要なことなので」

「これからすること?」


 国王様は王妃様とフィノを庇うような体勢になってそう言った。

 王妃様は変わらずのんびりとした顔つきでフィノは何のことか気付いているようだ。と、いうより僕の正体に半分気が付いているようだ。


「そんなに気を張らなくて大丈夫です。ただ単に僕の正体を教えておこうかと思いまして」

「お、教えてくれるのか?」

「はい、フィノの父親であるあなたにならと思ったので」


 僕がそういうとフィノがやっぱりといった顔をして、僕を急かすように体を前のめりにする。

 フィノの態度を見て混乱する国王様だが何かに気が付き何も言わないでいる。


 僕はコートを脱ぎ、仮面を外しながらフィノに声をかける。

 久しぶりにフィノと会話をするな。


「フィノ、久しぶりだね」

「うん、久しぶり。やっぱり、シロ様の正体はシュン君だったんだ。背丈や声が同じだからそうかなぁと思ったんだけど、魔力が違うみたいだったから」


 フィノも僕のコートの能力に誤魔化されていたようだ。

 因みに僕が謁見の間で仮面の事を聞かれなかったのはコートの効果による。


「このコートには隠蔽効果があるからね。その効果が魔力を隠してくれるんだ。あと認識もね」

「そうなんだ。すごいものだね」


 フィノは僕のコートを触りながらそう言う。

 このコートの毛は肌触り抜群で、僕の魔力を吸っているから僕の魔力と同じような効果が出て硬度も折り紙付きだ。

 僕の魔力の効果はあらゆる属性に対する耐性と着ている者の状態を回復させること。それは怪我でも状態異常でも病気でもだ。何でも治療する。

 そんなコートになってしまった。

 強度なんて僕が着ているデモンインセクトの鎧と同じ強度があるんだ。


「それはそうだよ。このコートは幻獣の毛から作られているんだから」

「げ、幻獣! 初めて見たよ」


 しげしげとコートを持ち上げて見ているフィノ。仮面なんかつけている。はたから見たらこんな感じなのか。

 フィノには結構に合っている。


「ちょ、ちょっといいか? き、君は英雄シロでフィノの魔法の師匠シュン君でいいのか?」

「あ、はい。それであっています」


 僕は放置していた国王様に申し訳なく思いながら返す。

 国王様は状況についてこれず、混乱しているようだ。

 フィノはコートに夢中で、僕は国王様が付いてこれるまで待ってみる。

 しばらくすると息を吐いて国王様が話しかけてきた。


「ふぅー。では君が何もかも解決してくれたわけだな」


 それは魔物の侵攻、フィノの魔法と婚約騒ぎ、反逆者の割り出しのことだろう。

 ここに来るまでに時間が掛かっていたのは貴族達と王妃に何か言っていたのだろう。


「シュン君と呼ばせてもらうが、シュン君のおかげでこの国に蛆を取り除くことが出来た。あの貴族とセネリアンヌが何かしているのは分かっていたのだが、証拠を押さえられなくてね、苦労していたんだ」

「それを僕が持ってきた紙で解決したということですか?」

「ああ、そうだ。まだ、表面上しか排除できていないけどな。だが、シュン君が持ってきた紙を頼りに取り調べをするといろいろ出てくる出てくる。この国を帝国に売ろうとしていたことや、裏で暗躍している組織とかね」


 国王様は手を広げてそう言った。

 それほどまでに出てきたのだろう。あの短時間で。

 僕が持ってきた紙はそれほどのことだったみたいだ。

 まあ、フィノが無事でその家族も無事だったから万々歳だ。


「組織ですか? それは裏ギルドのようなものですか?」


 僕が組織と聞いて思いつくのはそれくらいだ。


「いや、邪神を信仰する者達だ。何でも君を排除するのが狙いだったらしい。その理由は聞いていないからよくわかっていない。すまないな」


 僕を狙う? それが邪神を信奉している集団だと?

 これは今度教会に行ってメディさん達に聞く必要があるな。メディさん達なら何か知っているかもしれない。


 僕は神に対してあまりいい印象を持っていない。もちろんメディさん達は別だけど。

 僕は神と人を同列で見ている。あの人達の存在や力は凄いけど言動は人と変わらない。僕は暖かく感じるからな。

 そして人のように僕にちょっかいを掛けてくる神がいるからね。もしかするとそれ関係かもしれない。


「お父様、その邪神の集団は黒い服を着た人のことですか?」


 フィノがコートから意識を離して隣にいる国王様にそう言った。


「あ、ああ、そうだよ。なぜフィノがそれを知っているんだい?」


 フィノがその組織について知っているようだ。

 黒服というとあいつらしか思いつかないけど、フィノには合わせていないはずだ。

 それにあそこは壊滅させた。残党がいたとしても幹部がいないからここまで大きなことは出来ないだろう。

 だとすると、その黒服は何者だ?

 というより、なぜフィノが知っているんだ?


「私はコカトリスが現れる前に炎の槍を当てて倒しましたよ? 私が槍を放つと逃げる素振りもせず、大変驚いていました。貴族席に魔石を投げてきたのはその人です」


 フィノの話を要約するとコカトリス達が現れたのは黒尽くめの男が封印魔石を投げ込んだかららしい。

 で、その男は天井から吊り下がっていたらしくフィノ以外誰も気付いていなかったみたいだ。フィノは怪しい奴だと思いそいつに炎の槍を当てて倒したということだ。


 フィノはよく倒したな。

 これが初めての対人戦闘だろうに。


「そうか……。そんな亡骸はなかったから燃え尽きたのか、仲間に回収されたのだろう」


 僕も国王様と同意見だ。恐らく、回収されたのだろう。

 これが徹底的なまでの秘密主義だな。


「しかし、フィノはよく気が付いたね。私はそんな人物がいるなんて知らなかったよ」

「それは敵が認識疎外の魔法を使っていたのだと思います」


 国王様の言葉に僕が返す。


「認識疎外ですか? その魔法はそこまで有用なものではなかったはず。光・結界属性であり、使用者の姿を認識し辛くさせるだけの魔法だった気がするのですが……。魔法使いの魔力感知にも反応がなかったようですよ?」

「私もシュン君からそう教わりましたよ?」


 王妃様とフィノが揃って首を傾げる。国王様は武闘派で魔法に関してはよくわかっていないようだ。

 この方法はあまり一般向けではないし、フィノにはまだ教えていないから知らないだろうね。


「いえ、それが闇魔法にも認識疎外があります」

「何ですって?」

「闇魔法は状態異常・精神操作系の魔法が多いですが、『影移動』や『影縛り』のように移動系や動作系の魔法もあります。そして、闇魔法の認識疎外は影との同一化となります」

「それは姿を消すということですか?」

「ええ、ほぼ間違いはありません。姿そのものを消すのではなく影との同一化、即ち陰に潜み気配を立つということです」


 この魔法は闇魔法の『影化(シャドー)』と呼ばれ、影があるところに潜み自身の姿を影と同一化させる魔法だ。

 認識疎外の効果としては気配や魔力を立つこと。

 それと反対に、認識疎外系の魔法には欠点がある。


「だが、どうしてフィノは見えたのだ?」


 国王様が疑問を口にした。


「それはこの魔法が、というより認識魔法全般に言えることですが、欠点として使用者の魔力よりも魔力量が多い者や魔力感知が優れている者、魔力に対して敏感な者は見抜いてしまいます。また、気配や姿、魔力を完全に絶つことは出来ないので空気の動きや臭い等で見破る人もいます。なので、フィノの場合は前者の魔力量ですね」


 フィノの魔力量は二十万超え。

 まだ、僕の三分の一以下だけど二十万はBランク冒険者の四倍はある。そのぐらいの魔力量があればどんな魔法でも使えるだろう。


「そうなのですか。私も不思議に思っていたのでわかりました」

「だが、その魔法が使われているとは限らないのだろう?」


 国王様が少し考えて口に出した。


「僕もそう思いますが、邪神教の集団が光魔法を使うとは思えません。光には光神教がありますから。使ったのは闇の確率が高く、光が低いといったところでしょう。結界に関しては使われていた感覚がありませんでした」


 結界を使えば外にいた僕が気付いていたはずだ。

 結界を張ると結界の魔力が空気の魔力に干渉して揺らぐように感じるからだ。

 それはどんな実力者や技能者でも無理な話だ。多少は変わっても僕の魔力感知で気づけないということは師匠以上の持ち主ということになる。

 僕でも師匠の光魔法の認識疎外を中々見抜けないというのだから。


「そう言われればそうだな。とりあえずそのように伝えておくか。……それにしてもシュン君には借りを借りっぱなしだな。ぜひともフィノを貰ってやってくれ」

「お、お父様! な、何を!」

「私もそう思います。フィノも満更というより、告白したのですよね?」

「な、なぜそれを……」

「あら、したのですか。それはいい事を聞きました。シュン君は何と答えたのですか?」


 フィノは顔を真っ赤にさせて国王様を揺する。

 国王様は全く揺れず素知らぬ顔だ。王妃様はフィノをからかい、僕を巻き込む。

 僕も顔が赤くなっているのだろう。

 改めてそう言われると照れ臭くて恥ずかしい。しかもフィノの父親と母親から言われているのだからね。


「フィノはシュン君のことが嫌いなのかい? 私としてはお似合いだと思うのだが……。容姿は良い、頭も良く、剣術・魔法共に一流以上だ。私としてはぜひとも婚約、いや結婚して欲しい」

「結婚は国を挙げて盛大にしたいですね。その前にシュン君がシロだということを公表しなければなりませんが」


 ああ、そうなるよな。

 だけど、フィノと結婚するか……。嬉しいけど、いろんな障害があるよな。作法だったり、国事だったり、貴族だったりといろいろ。

 僕はそう言ったことがあまり得意じゃないし、したくないんだけどな。

 フィノは何も言わない。恥ずかしくてプルプルと耳まで真っ赤にさせて震えているから。


「僕としては静かに暮らしたいのですが……」

「まあ、その願いは無理だろう。フィノ、王族と結婚するということはそう言うことだからな」

「そうですね。シュン君がいくら嫌だといっても貴族との会食や駆け引きなどは起きます」


 フィノが僕を心配そう、悲しい目で見る。

 そんなに悲しまないでほしい。僕はフィノと離れるつもりはないのだから。僕が我慢をして覚えることを覚えればいいだけだから。

 鬱陶しい奴にはそれなりの態度を示せばいいだろう。今までのように。


「まあ、今はその時ではないから成人するまでに決めればいい。それまでは……」

「「婚約ということでいいでしょう(だろう)」」


 国王様と王妃様が口を揃えてそう言った。

 フィノは真っ赤な顔で嬉しそうに微笑む。

 僕はこれから起きるであろうことを考えて頑張らなきゃと思いながら、フィノに笑顔を返す。


「フィノはどうだい?」

「……はい、それでいいです」


 フィノは消えそうな声で国王様に答えた。


「シュン君はどうだね?」

「僕としてもそれでいいです。成人するまでに決めます」

「よし、なら婚約発表はフィノが成人してからということにしよう」


 やっとこの話に一段落ついた。

 凄い長く感じた。先ほどの謁見よりもだ。

 僕は見えない汗を拭き取る。


「しかし、シュン君はなぜフィノに魔法を教えようと思ったんだい? フィノから大体のあらましや君のことを聞いているが、シュン君ほどの実力者が教える様なものではないだろう? まさか、可愛さ目当てというわけではあるまい」

「あなた、シュン君がそんな考えで近づくわけがないでしょう。きっと何かあったのよ。街角でぶつかったとか、フィノが泣きながら上目使いでお願いしたとか」

「それこそ可愛さ目当てであろう」

「いえ、この場合劇的な出会いによる一目惚れです。フィノが一か月目を離しただけでこれほど好きになった人物ですよ? お互いに好きにならなければおかしいというものですよ」

「むむむ、そうか。そうだな」

「ええ、そうですよ」


 国王様と王妃様が話を進めていく。

 話の大半は間違っているけど、内容は似たようなものだ。

 ギルドで出会い、フィノが泣いていたところを僕が救った。そして僕が魔法の素晴らしさを伝える。

 これを劇的と言える……はず。見る者が見ていれば。


「えー、一目惚れというのはまあ、そうですが……」


 僕のその言葉にフィノは顔を爆発させ、国王様はにやにやと笑い、王妃様はやっぱり、とにこやかにフィノの方を見る。

 フィノは目を逸らしながら僕の方を見て、ボソボソっと気持ちを言う。


「……私も……」


 王妃様はそれを聞いて悲鳴のような声を上げて自分のように喜ぶ。

 ああ……王妃様は人の恋愛やラブコメが好きなんだろうな。さっきの話を聞くとそうとしか思えないような内容の出会い方をしていたからなぁ……。


 だけど、僕がフィノに近づいたのはそれだけじゃないんだよ。


「フィノ、ありがとう。……それで、近づいた理由ですが……僕はとあるお方にフィノのことを頼まれたのです」

「とあるお方に頼まれた? それはシュン君の師匠の“雷光の魔法使い殿”のことかい?」


 国王様にその話はしているようだな。

 一体どこまで僕の話をしたんだろうか。


「いえ、もっとすごい方です。……話は変わりますが、フィノから僕の話をどこまで聞いていますか?」

「シュン君のことかい? そうだなー、君が捨てられていたという過去と“雷光の魔法使い”殿に拾われてから今までのことぐらいか」


 僕が最初にフィノに話した内容だな。僕がこの世界の十人ではなかったことまでは話していないようだ。

 フィノを見るといけなかった? というような顔をして不安そうにしているから、僕は首を振ってそれを否定してあげた。

 フィノはホッと肩の力を抜いて安堵した。


 僕は近づいた理由と自分のことを伝えるために収納袋からシュン用のギルドカードを取り出す。

 そして、隠蔽していた部分を全て取り去ってから国王様達に見せる。




名前;シュン

性別;男

年齢;十一

種族;人間

メイン;魔法 (火、風)


魔力量;八十四万

力;C+

魔力;SSS

防御;B

運;A (神の加護)


属性魔法;火、水、風、地、焔、氷、雷、木、光、

     闇、無、回復、召喚


加護;生命神、冥府神、メディ、運命神、魔法神

   武術神


加護魔法;聖域、暗黒、時空、???


称号;異界の魂、神々の寵児、最高神メディの寵愛神子、神に守られし者、絶望を知る者、神の依頼を受ける者、魔の極み、武の達人、古の魔導士




 なんかいろいろ増えてるよ!

 魔力量が増えるのはいつものことだけど、神様が一人も増えてるよ!

 僕はいつの間に魔を極め、武の達人になったんだ? 僕の魔法はまだまだだし、剣術だって齧っただけだ。それなのに武術神の加護が付くだなんて絶対におかしい。今度教会に行く用事があるからその時に聞かなくては。

 そもそも加護がこんなに付くとかおかしいよね。

 一つでも付いていればすごいんだよ? それが六柱の神様からとか……絶対におかしいって……。


 見てみろ、国王様達固まっているじゃないか。

 全部神様たちがいけないんだ。うん、僕のせいじゃない。勝手に加護を付け捲る神様が悪い。


「み、見て分かるように僕はこの世界の住人ではありませんでした」


 僕は聞いているのか分からない国王様達に僕のことを話す。

 僕がどういう人物でどういった世界から来たのか。なぜこの世界に来ることになり、どうやってきたのかを。


 僕が話していくと驚愕していき、畏れている? ような顔つきになった。その顔はまるで聖人様を見る様な畏まったような顔だ。

 僕は嫌な想像をしつつ確認を取る。


「わかりましたか? 僕は一度死に、神々の手によってこの世界に来ました。加護や称号が多いのは気にしないでください」

「「「いやいや、気にする(します)!」」」


 やっぱりですか……。


「ま、まあ、それでフィノに近づいたのはその神の中でも冥府を司る神様からの頼みがあったからです。ですから、僕はフィノが冥府神の加護持ちであることを知っています」


 ミクトさんの頼みがなかったらフィノとは会えなかった。とっても感謝しています。

 今度会ったらお礼を言わなくては。


「そ、そうなのか。私はそのことをどうしようか考えていたのだが、そのような理由があるのなら君に任せるもとい、結婚させなくてはならない」

「ええ、これはぜひとも結婚をさせないといけませんね。しかも、神子であり神々から寵愛を受ける方ですから。……フィノ、絶対に逃してはいけません」

「はい! お母様! 絶対に逃しません!」


 フィノ達は僕のことを獲物を捕まえる様な目で見てきた。ギラギラとした目つきだ。

 称号は消しておけばよかったかな? でもいずればれることだったような気もするし今さらって感じもするしな。


 僕は内心怯えながらまともな国王様の方を向いた。

 すると国王様はとぼけたように僕のことを弄ってくる。


「フィノはすごい方と出会ったのだな。これはシュン君とは失礼だったか」

「いえ、そのままで結構です」

「そうか。シュン殿やシュン様の方が世間的に見て合っているのだが」


 国王様は半分本気で言ってそうだ。

 僕は慌てて今まで通りの呼び名にしてもらった。


 一国の王が様付とかなんだよ。

 僕は神じゃないんだよ? たかが称号や加護なんかで偉くなってたまるものか。

 っていうか、神々は僕に何をしてほしんだ?


「なら、今まで通りシュン君と呼ばせてもらうよ」

「はい、そうしてください」


 僕の心の安定のためにも……。




「だが、シュン君も加護持ちだとすると厄介なことになるな。シュン君が加護持ちだということは他に誰が知っている?」


 国王様は加護持ちが二人もいることとなるこの国が周辺国から何を言われるか危惧しているのだろう。しかも僕は複数持ちだ。他の国の人から見れば神と等しい存在となるに違いない。

 もしかすると僕を攫ったり、殺したりしでかす人がいるかもしれない。

 まあ、ばれなきゃいいことだからいいのだけど、いずればれてしまうだろうな。


「まあ、加護持ちであるかは言わなければわからないことだからな。シュン君が黙っていてくれれば不要なことは起きないだろう」


 国王様は僕に忠告を込めたお願いをした。

 僕はどうなってしまうか分かっているからそれを有難く聞き入れることにした


「わかっています。出来るだけ隠し通します」

「うむ、分かってくれるのならいい。……君はこの後どうするんだい?」

「この後、というのは今後の活動についてでしょうか?」

「そうだ。婚約をしたとは言え、君は冒険者だ。自由がいいのだろう? この国に縛ることは出来ん。それが約束だからな」


 国王様は約束を守ってくれるそううだ。

 その気持ちを有難く思いながら、僕はこれからどうするか考える。

 本心を言えばフィノと一緒に居たい。でも、自由に世界を周っていきたい。


 僕は矛盾する考えと気持ちに悩む。

 それを見かねた国王様が一つ案を出してくれた。


「シュン君は旅に出たいがフィノと一緒に居たい、そんなことを悩んでいるのだろう?」


 国王様には見破られていたみたいだ。いや、王妃様もだ。

 フィノは頬を染めている。

 フィノも僕と一緒に居たいのだろう。


「ならば、フィノを連れていきなさい」

「え? いいのですか?」


 それなら僕は万々歳だけどいいのかな?

 フィノも嬉しそうだけど困惑しているようだ。


「ああ、もちろんだ。だが、条件がある」

「条件ですか?」

「条件は全部で三つ。一つは必ず二人でいること。外の世界では何が起きるかわからん。二人に何か起きた後ではもう遅いからな。シュン君ならフィノを任せられる」

「わかりました。必ず、フィノを護り切ります!」

「よし、任せた!」


 僕と国王様は二人で熱い握手をした。

 王妃はそれを見て嬉しそうに笑い、フィノは顔を真っ赤にさせて俯く。

 ちょっと恥ずかしい。

 手を離して二つ目の条件に入る。


「二つ目は一つ目の続きで二人とも死なずに帰ってくること。これは絶対だ。お互いにお互いのことを気にかけ、相手のことを守るんだ。シュン君は守るのはいいが死んではならん」

「わかっています。フィノを悲しませることは絶対にしません」

「……浮気もするなよ。怖いから」

「……それも知っています」


 その手の恐怖は前世でよく知っている。

 自分がしたことはないけど、その現場を見たことがある。そして僕にとばっちりが来たんだよね。

 最悪だった。


「あなた」

「ゴホン、三つめはシュン君もフィノが入るシュタットベルン魔法学園に入りなさい」

「魔法学園、ですか……」

「私は君に魔法や戦闘の知識がもう必要ないことを知っているが、君には同年代の子と遊んだりすることが必要だ。君の事を聞いたら尚更そう思った。既に私達は親のいない君の親なのだ。このぐらいさせてくれ」


 国王様が王妃様の手を取って僕に真剣な目を向ける。

 僕は初めて親というものが分かった。

 親というものは子を思ってくれる。

 子のことを考えてくれる。

 子にものを与えてくれる

 子が危険に飛び込んでも守ってくれる。

 子が迷惑をかけても笑って許してくれる。

 時に怒り、時に優しく、時に守る。そういうものが親だということを。


 その暖かさに涙が出てくる。初めて知った家族の温もり。それがうれしくて涙が出る。

 師匠の時もそうだったが、こういったものが僕の前世には皆無だった。

 それがこの世界で知れて、出会えてよかったと思う。出会えた人は誰もが優しくしてくれる。

 僕はこんな世界に生まれてこれて良かった。

 だから、メディさん達には感謝をしている。


「魔法学園は十二歳になれば入れる。十二歳から三年間、成人するまで通うこととなる。周りには君と同年代の子が多くいる。ぜひとも友達をたくさん作ってくれ」

「魔法学園は私達の母校でもあります。顔が利くのであとで手紙を書きましょう」


 王妃様達もその学校に通っていたのか。


 シュタットベルン魔法学園は魔法王国にある三年制の学校で十二歳になれば誰でも入学することが出来る。

 男女とはず、種族とはず、差別のない学校だ。だけど、完全に差別がないわけではない。魔法の使えないものや能力の低いものはそう見られる傾向がある。ハーフも苛められるものとなる。


 入学するには一月前にある試験で合格しなければならない。試験内容はこの世界の歴史、簡単な計算等の筆記試験と魔力量や魔法の試験、剣術や槍術の試験等の実技試験がある。

 この試験の上位百人が入学を許される。


 授業の内容としては魔法理論、魔法実技などの魔法に関することが多く、歴史や算数等の勉強もある。

 他にも他国の学校があるがシュタットベルン魔法学園はその中でも名門だ。その分合格基準が高く競争率も高いのだが、僕とフィノなら大丈夫だろう。


 また、四か月に一回魔闘技大会のような学年大会があり、年に一度学園大会もある。その大会は魔闘技大会を小さくしたようなものだけど、結構な観客がくるそうだ。特に国にスカウトする者達で溢れるそうだ。もちろん、国際問題となる貴族には声をかけないが。


 三年になれば成果の発表会がある。この会は三年間の自分がしてきた成果や研究、新魔法を見せる大会のようなものだ。優勝者には豪華賞品があるそうだ。


「わかりました。僕もその学校に通います」

「そうか。ではそのようにしよう。後で書類を渡すからそれを学校の先生に見せてくれればいい。そうすれば試験を受けられるだろう」

「私から学園長に伝えておきます。フィノがいたとしてもあなたのことを疑う人がいるでしょうから」


 それはありがたいかもしれない。

 既にギルドで何回か突っかかられているからね。もう面倒なんだよ。


「ありがとうございます」

「いや、親としては当然だ」


 それが有難いんです。

 僕は心の中でもう一度感謝をした。


「で、この後にどこへ行こうと思っているんだ?」


 国王様が再度、質問をしてきた。

 そういえばそうだったな。

 いつの間にか学校に行く行かないの話にすり替わっていた。

 どうするべきか。

 とりあえず、この国にはあとひと月もいないだろうな。後で教会に行くとしてその後だよな。

 ……確か魔石はダンジョンで手に入るんだったな。

 よし! 決めた!


「……僕はここから西にある迷宮都市に行きます。少し前から迷宮というものに興味があったもので」

「迷宮か……。私も子供の頃は行きたくて何度も父に言ったな。よし、フィノを連れて行きなさい」

「お父様?」


 フィノがよくわからずに声をかける。


「フィノも知っていると思うが迷宮は結構危ない場所だ。旅だけでなく迷宮や学校でも彼のことをしっかりと信用して頼りなさい」


 国王様はフィノに真剣に忠告する。

 フィノはこうやって育てられたのか。だったらこんなにいい子に育つよね。

 フィノは真剣に頷く。

 その意味をしっかりと理解しているのだろう。

 王宮を抜け出した時も計画性があまりなかったからな。僕はしっかり見よう。僕もそれほどしっかりできてはいないけど……。


「シュン君も気を付けなさい」

「わかりました」


 僕は外の世界がいかに危険か分かっている。

 でなければ旅をしようとは思わない。

 魔物も怖いが一番怖いのは人だ。人は何をしでかすかわかったものではないからだ。知恵が回る分厄介なことこの上ない。


「それから私のことは義父さん呼びなさい」

「私のことは義母さんですね」


 と最後にこんなやり取りがあったが僕は無事王宮から帰った。


 それから三日後、いろいろなことがギルドを通して僕の耳へ届いた。

 王妃の処遇は離宮へ軟禁となりその子供、第三王子を除いた子供達は離宮か軍部の方へと回された。貴族達は領地取り上げと財産没収となり、その一部白金貨五枚、五十億円が僕の元へと来た。これはシロの報酬となる。

 内容は情報、証拠提出、魔物の脅威から王族の保護、褒美が入っているのだ。いらないといったのにね。

 これで僕の全財産は百億円に近くとなった。


 組織についてはほとんどわからず仕舞いだ。唯一分かったことが黒い服の組織であることと凄腕であることだけだ。


今回はここまでとします。次回は十三日の午後から投稿します。

あと、ストックも切れそうなので数日もすれば投稿が遅くなっていくと思います。

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[気になる点] 「僕は初めて親というものが分かった。親というものは子を思ってくれる。」 育ててくれた師匠のことを育ての親と思っていなかったんや。意外!
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