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英雄の実力

 準決勝が終わった日僕は急いで宿に帰った。

 ダメージがないといっても体に疲れが残るのはしょうがない。それにあまり減っていないが早く休んで魔力を回復させよう。


 宿の借りている部屋に入るとすぐに体を魔法で綺麗にさせ、夕食を食べるとベッドに横になった。


「ふぅー、今日も疲れたな。明日に備えて早く寝よう。……ん?」


 寝ようとしていた僕の胸元で何かが光り思念を伝えてきた。


(シュン、聞こえているか。俺だ。バリアルだ)


 光っていたのはバリアルにもらった念話の魔道具で、念話相手もバリアルだった。

 僕はすぐに念話を返す。


(聞こえてますよ。お久しぶりです。バリアル)

(ああ、久しぶりだな。早速で悪いが、そっちに俺の娘、バーリスが来ていないか?)


 やっぱりあの娘はバリアルの娘だったのか。似ていたからなぁ。外見といい、技といい、態度といい。


(いますよ。傍にはいませんが明日、魔闘技大会という大会の決勝戦で戦います)


 僕は敬意を簡単に説明してあげた。

もちろん僕に喧嘩を売ってこともだ。


(そうか。……では、バーリスを叩きのめしてくれ)

(え?)


 僕は思わず聞き返してしまった。

 まあ、相手は力を第一に考える種族だからわかるけど……これは慢心しているタイプか……。


(あいつは負けを知らん。いや、負けることは知っているがそれは格が上過ぎる相手に限ってのことだ。それに俺の娘として育っているから周りのやつは手心を加えてしまう)

(そこで僕ですか)

(そうだ。お前はあいつに最大の力を出させたうえで徹底的に叩きのめしてくれ。そのぐらいしないと慢心して危なっかしい)


 バリアルさんは意外と過保護なのか?

 それにしても厄介な願いだな……。勝たないといけないからいいのだけど、力を最大限引き出したうえで倒すとなるとどうするべきか。

バーリスさんの最大の攻撃はあの飛斬だとすればあれを真っ向で破った後に……。


(まあ、わかりました。とりあえず努力してみましょう)

(そうか、任せたぞ。シュン。ではな)


 そう言ってバリアルは念話を切った。




「くぁっ……あー眠たい」


 昨日はあの後どうやって戦うか考えていたからあまり眠れなかった。少しだけ疲れが残っているかも。

 僕は朝食を食べると女将さんと親父さんの声援を受けて闘技場へ向かう。


 闘技場には溢れんばかりの観客が入口に集まっていた。この数の人数が入れるのだろうか、と心配になってしまうほどだ。


 僕は選手専用入口から入り、係りの人に従って入場口に向かう。今日は反対側の入場口にバーリスさんがいる。


 作戦はあの衝撃波を先に撃ってくるだろうからそれを同じ魔力衝撃で相殺する。仮にそうでなくてもいずれ撃ってくるだろうからその時に相殺する。そうしてすべての衝撃を相殺させていけば、近づいてくるだろうな。その後は……。


『観客の皆様、魔闘技大会最後の日がやってきました! 本日シュリアル王国最強が決まります! それは英雄シロか! それともダークホースバーリスか! 二人の行く末は我々にはわかりません! それでは選手入場です!』


 僕はそれを聞いて入場する。


『まずは国王陛下よりお話があります』


 貴族席の方を見ると三十代から四十代と思える男性が立ち上がり拡張魔道具を持っている。その隣にはフィノの姿が見える。僕は手を振りたいのをグッと我慢して国王様を見る。


『余がローゼライト・シューハン・シュダリアだ』


 国王様から威厳と威圧を含んだ声が出た。


『国民の皆、今日はよく来てくれた。四年に一度のこの大会はこの国の名物となり、他国からも人が来るほどだ。そして、今日は我が娘フィノリア・ローゼライ・ハンドラ・シュダリアのお披露目も兼ねている。存分に楽しみ、熱狂してくれ』


 国王様はそういうと椅子の着席した。


『そして、国王陛下の隣におられるのが第三王女フィノリア・ローゼライ・ハンドラ・シュダリア様です!』


 フィノは紹介されると立ち上がり真っ赤な顔で手を振っている。僕は手を振り返して微笑ましい気持ちになる。


『ワアアアアアァァァァァァァ』

『ありがとうございました! フィノリア・ローゼライ・ハンドラ・シュダリア様でした!』


『続いて試合に移りたいと思います! 今日の試合は決勝と三位決定戦の二試合となります! ともに制限時間なしとなり、勝敗が着くまで戦ってもらいます!』


「シロ。手加減しないからな」

「それはこっちのセリフだ。俺に全力を出してもらいたければ本気でかかってこい」

「くそッ! 吠え面を掻かせてやる!」


 バーリスさんは挑発に挑発を返され逆上していく。これで初めに衝撃波がくるだろう。


『早くも両者の間で熱い火花が散っている!』


 今日の僕の装備は右腰に差している黒剣だ。魔力衝撃を放つなら黒剣の方がいい。デモンインセクトの爪から作られた剣は魔力伝導率が高く、斬撃を飛ばすのに最適だ。切れ味、強度共に優れているため生半可な相手ではこの剣は使えない。

 その代わり魔法を纏わせることがし難いが、この試合では使う機会がないだろう。バリアル戦が生きているからね。


 バーリスさんの装備は袴のような服の上に簡易の旧称を守る防具をつけている。バリアル装備の女性版といった感じだ。背中に背負っている長刀からはバリアルの魔剣と同じ魔力を感じる所から筋力上昇系の魔剣だろう。


『それでは決勝戦、行きたいと思います! 強者はどっちだ! 決勝戦、シロ対バーリス戦! 開始!』

『ワアアアアアァァァァァァァ!』


 昨日以上の歓声が闘技場に鳴り響く。

 予想通りバーリスさんは先に動き手に持った長刀を立てに振い衝撃波を飛ばしてきた。


『早くもこれで終わりかァッ!』


 僕は腰の剣を抜き放つと同時に魔力衝撃を放つ。鋭い切っ先から放たれた衝撃波は地を抉りながら、僕とバーリスさんの中央でけたたましい音を立てて衝突した。

 衝突した衝撃波は同等の威力を保持していたのか威力が横へとそがれ結界に罅を入れた。


『ワアアアアアァァァァァ』

『シロから放たれたのも衝撃波だ! バーリスの衝撃波を剣を抜くと同時に打ち破りました!』

『あれはただの衝撃波ではありません。魔力が載っている魔力衝撃波です!』


 次々と襲い掛かってくる連続の衝撃波を僕は同党の威力に絞った魔力衝撃で相殺する。

 次第に威力が下がり、バーリスさんは僕に近づいてきた。


「グラアア」


 バーリスさんは竜のように吠えると手に持った剣を高速で叩き付けるように斬撃を浴びせてきた。僕はそれに向かい打つ。

 上段から迫る剣を右手の剣を上に弾いて捌き、お返しと左脚を軸にした右足の廻し蹴りを食らわせる。バーリスさんにその蹴りが当たるが自慢の鱗には全く聞かず僕の方がバランスを崩してしまう。


 バーリスさんは僕のバランスが崩れたところを狙って突きを放ってくる。それをバックステップで躱し魔法を放つ。


「『ライトニング』」


 無数の雷がバーリスに襲い掛かる。バーリスさんは長刀で逸らしながら躱し、僕に近づいてきた。

 バーリスさんは雷から抜けると剣を振り下ろし斬撃を飛ばしてきた。僕は同じように斬撃を飛ばし相殺する。


「ぬぅぅ!」


 バーリスさんはそれを見て悔しそうに唸りを上げる。僕は逆に近づき魔力掌底を浴びせる。バーリスさんは僕の手に集められた魔力を感知すると僕の手に向かって剣を振り下ろしてきた。僕は手を出すのを止め右に回避する。回避したところへ尻尾が振り回され横腹からもろに受けてしまった。


 僕は空中で一回転すると剣を突き刺して速度を落とし、手と足を突いてすぐに距離を詰める。僕の黒剣が尻尾を捉えるが寸前のところで反応され尻尾を引かれた。


「チッ」


 僕は舌打ちをして手首を返して体を開きながらバーリスさんの首筋に向かって剣を切り上げる。バーリスは上体を仰け反らせそれを回避する。バーリスさんはその状態のまま剣を水平に薙いできた。僕は剣を左側に入れそれをガードする。


 ガキンッ、と剣が折れるかという音が響き、僕は再び吹き飛ばされそうになるが今度は飛ばされた瞬間に魔法を放つ。


「『エアリアルバースト』」


 バーリスさんの側面にあたった風の砲弾はバーリスさんの小柄な体を結界まで吹き飛ばした。

 これがバリアルだと耐えられてしまう。


 僕はさらに風魔法を放ち追撃を行う。

 ドドドドドッ、と連続で鳴り響く風の弾丸は地面ごと削り取り、大きな穴を開けていく。結界にあたり揺れ動かす。観客は上体を仰け反らせている。


 この魔法はバーリスさんには全く効果がないだろう。竜魔族の身体は物理・魔法共に耐性が高く、バリアル戦では苦戦したからな。偽物の鎧とは比べ物にならないほどその耐性は高いだろう。


「ガアアアァァァ!」


 バーリスさんは両手を左右に振り抜き拳圧で僕の風魔法を全て消滅させた。そのまま息を大きく吸い込みブレスの動作を取った。

 僕は空に飛び上がり回避を試みる。


「カアアアァァァァァ」


 放たれたブレスは僕がいた場所を焼き尽くしていく。地を焼き、大気を焼き尽くす炎のブレスだ。


 僕は空中で氷魔法を唱えバーリスさんごとと閉じ込める。この戦法はバリアル戦と同じ方法だ。


「『凍えろ! ブリザード』」


 猛烈な吹雪が燃え盛る炎にあたりその炎を徐々に氷漬けにする。氷漬けられていく炎を見て、目を見開くバーリスさんは炎を吐くのを止めるが一足遅く、僕の吹雪がバーリスさんごと氷漬けにした。


『き、決まったのかァー! バーリスは氷漬けにされました!』

『竜種のブレスを氷漬けにする氷魔法ですか……。一体どのような訓練をすればその威力になるのでしょうか……』


 氷漬けにされたバーリスさんに声をかける。


「効いていないだろう? バリアルはそんな氷砕いたぞ?」


 僕は剣を右下に下げ構えながら、彫像と化したバーリスさんを見やる。


「……ふふふ。やはりか……はあああっ!」


 バーリスさんの周りの氷に罅が入り始め、バーリスさんが気合いの声を出すとその氷が無残に砕け散った。


「もっと本気で来い。俺を倒すのだろう? バリアルはこんなものじゃなかったぞ」

「ふん、それは今からだ」


 バーリスさんは剣を氷から抜き取り、氷を砕きながら僕との距離を短くする。僕は空から降り、剣で迎え撃つ。

 剣の衝撃が結界まで届きビリビリと震わせる。衝撃音が幾度となく鳴り響き、バーリスさんの防御が甘い所に僕の斬撃が掠る。


「くぅぅぅ」

「どうした。このままだと負けるぞ?」


 バーリスさんは自分の身体につけられていく傷跡をちらりと見ながら低く唸る。僕はまだ彼女が本気を出さずにいることに呆れながら挑発する。


「このままだとバリアルを越えられんぞ。俺に言ったのは口先だけか?」

「なにッ! くっそぉー、見てろ!」


 バーリスさんの両腕が鱗に覆われていく。これが竜化と呼ばれるものなのか?

 覆い尽くして鱗は両腕と体を鎧のように包み込み強化外装が出来上がった。


「これは、半竜化と呼ばれる技だ。これを使って立っていたのは父しかいない!」

「なら、俺で二人目だな」


 僕はそう言ってバーリスさんに斬りかかる。バーリスさんはそれを避けもせず、防ぎもせずに斬り付けられたが僕の刃が通っていなかった。

 チッ、僕は心の中で舌打ちすると迫り来る上段切りを後ろに飛んで回避する。


「そんな攻撃は通らないぞ」

「みたいだな……。ならこれはどうだ! 『ライトニングボルト』」


 僕は両手を天に挙げ魔法を唱えるとバーリスさんに向けて振り下ろした。極太の雷がバーリスさんに落ちるが雷の中バーリスさんは何も効いていないかのように悠然と歩いてくる。


 この程度の魔法だと効かないみたいだな。となると魔力強化を上げるか。

 僕はそう考えると剣に通していた魔力の量を倍にした。


 バーリスさんは掻き消えるように姿を消すと僕の右隣に姿を表せて水平に薙いできた。僕はしゃがんでそれを回避すると剣を下から顎に向けて突き出す。

 バーリスさんは笑っていたが僕の魔力を感じ取り咄嗟に後ろへ飛び下がった。バーリスさんの髪が切れ辺りを漂い、顎に薄らと赤い筋が出来ている。


 これくらいの強化だと切れるようだな。


「まだ切れ味が上がるのか……」

「まだまだ上がるぞ」

「クソッ! おらあああ」


 バーリスさんは向上した身体能力をフルに使って僕に迫ると剣を高速で撃ち出してくる。その全てに衝撃波が起き僕の身体を斬り付けるが、僕も同じように魔力で衝撃波を飛ばし相殺する。

 僕は身体強化も一段階上げ、バーリスさんよりも早く動き始める。バーリスさんは僕の動きについてこれなくなり次第に僕の斬撃が当たるようになってきた。


 僕はスピードを生かして背後に躍り出ると魔力衝撃を放つ。


「ハアッ」

「ガアアアアァァ」


 再び吹き飛ばされるバーリスさん。僕も今度は強い魔法を放つ。


「『エアリアルストライク』」


 『エアリアルストライク』は『エアリアルバースト』を圧縮して固めた魔法だ。強度が上がり、早さも上がる。

 風の圧縮弾がピンポイントにバーリスさんの身体を貫こうと当たる。この弾丸なら効果がある。


 バーリスさんの姿が土煙で見えなくなるが僕は魔力感知で感知して撃ち出す。バーリスさんが魔法から抜け出して右側へ回り始めた。僕は剣を構えて魔力衝撃を放つ。


「まtっガアアアアァ」


 僕はバーリスさんを近づけさせない。何度か繰り返すことでバーリスさんが動かなくなった。そこで僕は魔法を止め腕を払うことで風を動かし土煙を払った。

 バーリスさんの身体は無数の弾丸で撃たれたかのように穴が空き、血が滝のように流れている。が、その眼はまだ死んでいない。


「グラアアアアアアアアァァァァァ!」


 自身が何も出来ないことに大きな雄叫びを上げる。周囲を威圧するその声は体制のないものを恐怖で縛り、実力のないものを委縮させる龍の咆哮そのものだ。

 僕は僕と結界を風魔法で覆い周囲の観客に声を聞かせないようにする。こんなところで倒れたら意味がないだろうから。


 バーリスさんはその隙に僕に斬り付けてくるが僕は姿が消える速度で動き横に回ると横っ腹を思いっきり蹴り付け、再び結界に飛ばす。

 起き上がったバーリスさんの口からブレスが漏れている。僕は分厚い水の壁を作り出しそのブレスを防ぐ。バーリスさんはまだ氷のブレスを吐けないようだ。


 僕はそろそろ決着を付けようと全身の魔力を気を失って乱れているバーリスさんに向ける。するとバーリスさんは意識を取り戻し、僕に恐怖の目を向けた。


「最後だ。お前の全力をぶつけてみろ」


 僕は迸らせている魔力を全部剣に上乗せさせる。バーリスはそれを見て歯をガチガチとならせながら、僕に向けて上段に剣を構えた。すると目を閉じて僕を見ないようにして意識を剣先に集めた。そうすることで僕の魔力と姿で怖気付かないにしたのだろう。


 僕はバーリスさんの準備が整うまで剣を構えて待つ。


『おおっと! 決着がつきそうです! 最後は一発勝負とするそうです! 皆! 目を見開いて一部始終その目に焼き付けろよ!』

『オオオオオオオオォォォォォォォォ!』


 観客席から轟く雄叫びが実況に合わせて起こる。


 僕はフィノを見てバーリスさんを見る。バーリスさんは目を閉じたままだが、僕に真っ直ぐ向いている。僕は静かに待つ。


 …………来るッ!


 バーリスさんがカッと目を見開き、その剣に魔力を乗せて斬り下ろしてきた。


「『飛斬』」


 僕はそれを確認すると僕も剣を魔力解放と共に振り下ろす。


「『一刀両断』」


 放たれた衝撃が中央で激突する。暴風が巻き起こり地が砕け盛り上がっていく。大きな魔力が入り混じり結界に罅を入れ、結界の外にも影響が出始めた。魔力に耐性のないものが次々に体調が悪くなっていく。

 次第に僕の衝撃がバーリスさんの衝撃を押し始め飲み込み始めた。そうなると後は一瞬で、バーリスさんごと僕の衝撃波結界にあたり結界を壊しながら掻き消えた。運のいいことにバーリスさんは五体満足で観客席には被害がなかった。


 バーリスはゆっくりと倒れていき地に伏した。

 僕はそれを見届けると剣を持った手を高々に挙げた。


『き、きき決まったぁぁぁぁぁ! 優勝は国の窮地を救った大英雄『幻影の白狐』こと……シィィィィロォォォォ!』

『ワアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!』


 優勝者を祝福する地鳴り声が観客席から巻き起こり、拍手が揃って聞こえる。

 僕は身を翻して入場口に帰ろうとしていたその時、結界が音を立てて消え去った。僕は試合中に乞われなくてよかったと思っていると上空から石のようなものが無数に飛来してきた。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

「何事だ!」

「キャアアアアアアアー」


 僕はすぐに闘技場内に戻り事態を確認する。闘技場の中には無数の魔物が入り混じっていた。低ランクのスライムから高ランクのキングウルフまでいる。

 僕は中に入ってこようとしたロベルクとロンダークに静止の声をかける。


「こっちはいい! 上のいる観客を守れ!」

「わ、わかった! 死ぬなよシロ!」


 ロンダークから労いの言葉がかけられた。それに片手を上げて応える。


 僕は事態を飲み込むと闘技場御内部に結界魔法を張り巡らせる。闘技場内の魔物を場外に出さずに殲滅するためだ。


「『聖なる力よ! 大聖壁』」


 突如とあらわれた光り輝く壁に驚いている観客達。僕はフィノとバーリスさんの身の安全を確認した。フィノは近くの近衛兵が前に出て庇うように守ってくれている。あちらにも飛行タイプの魔物が地被いている。

 早くフィノの場所へ行かないと。魔石が砕けたところを見るとこれは前の連中のせいか! あの残党がいるとは考えられないからあそこで拾った紙に書かれた貴族が犯人か! 許さん!


 バーリスさんは意識を取り戻しているが結界内の傷が結界が壊れたため治らずそのままとなっていた。僕はすぐに近づき回復魔法を唱える。


「『オールヒーリング』お前はこの場から去れ」

「な、なぜだ! 私も戦う!」

「邪魔だ。……死にたいのか」

「なっ!」


 僕は回復させたバーリスさんの身体を転移魔法で闘技場の入場口まで移動させ、魔力を介抱させる。


 周囲からは阿鼻叫喚で、パニック状態に陥っていた。僕はすばやく判断すると目の前の魔物達に殲滅魔法を放つ。


「『命を奪い去る深淵の闇よ、我が敵は汝の敵、全ての悪に終焉を訪れよ! ダークネスライフドレイン』」


 僕に迫り来ていた魔物達の力が抜けて地に倒れていく。地に倒れた魔物は弱り果てていき足が動かなくなり、目が開けられなくなり、呼吸が出来なくなっていく。そして、全ての魔物の生命の力が僕の中に入って行く。

 周囲の人には僕が何の魔法を使ったか分かっていないだろう。この魔法は色もなければ音もない。死神が背後から忍び寄り、手に持つ大鎌でその首を跳ね飛ばすようなものなのだから。


 人々は僕が闘技場の魔物を一掃したことにポカーンとしている。このままでは周囲に飛んでいる魔物が襲って来る。

 僕は結界を解き周囲に鎮静化魔法を唱える。冷静となった所へ風魔法を使って声を轟かせる。


『聞け! 王都の住民よ! 慌てずゆっくりと急げ!』


 僕はそういうと空に飛び上がり、フィノの元へ向かう。その瞬間フィノの元で大きな魔物の反応が確認できた。

 僕は飛ぶスピードを上げフィノの元へ急ぐ。



         ◇◆◇



 な、何事ですか!

 急に結界が消えたと思ったら何か石みたいなものが落ちてきました。私はお父様とお母様に連れられその場から後ろに下がりました。

 次の瞬間。


「ガ、グギャ、ギャギャギャ」


 魔石が罅割れ中から魔物が出て来ました。

 こいつは見たことがあります。森でよく出てくるゴブリンです。

 近くで待機していた近衛兵がゴブリン達の相手をしていますが、人数が足りなく徐々に押され始めました。


 あ、危ない!


「『ファイアースピアー』」


 私は咄嗟に炎の槍を創り出して近衛兵の後ろから迫り来ていた鳥の魔物に撃ち出しました。

 鳥の魔物はそのまま焼き焦げその場に落ちました。


「あ、ありがとうございます! 姫様!」

「お礼はいいのです! 早く魔物を倒しなさい!」

『ハ、ハッ』


 私は咄嗟に指揮を行いました。このままでは私達が魔物に食われてしまうからです。

 これもシュン君と王都の外で魔物と闘った成果ですね。


 私は近衛兵に迫り来る魔物達を攻撃して援護します。お父様も私に決起されて近くの剣を拾い、魔物に迎え撃ちます。お母様は傷付いた近衛兵に回復魔法をかけ戦線に復帰させます。


 私達が徐々に押していると騒いでいた観客が一斉に静かになりました。何事かと思い舌を見ると闘技場に現れた数百匹の魔物が死に絶えていたのです。


 お父様にこのことを伝えるとマイクを持って国民に避難を呼びかけようとしましたがそれよりも早くシロ様が動きました。


『聞け! 王都の住民よ! 慌てずゆっくりと急げ!』


 この声はひょっとして……。


 今はそんなことを考えている場合ではありません。今は目の前のことを対処するのです。


「『ダークショット』」


 だいぶ減ってきた魔物達。その残り数体となった所に、突如上空に現れた黒い人物が大きな石が投げ着けて来ました。他にも無数の石があります。


 私はその黒い人物に向けて炎の槍を放ちました。黒い人物は驚愕に目を見開きました。そのまま逃げ遅れて私の槍が辺りその身を地面に墜落させました。

 私は初めて人を殺してしまいました。が、今はそんなことを考えていられません。


「兵よ! 石が割れる前に砕け!」


 お父様が指示を飛ばします。

 私も視認した大きな石に向けて魔法を放ちますが大きな石には傷一つ付きません。剣も通じません。

 するとその大きな石が上空に上がり中から巨大な魔物が出て来ました。


「ギョアアアアアアアアアァァァァァァ」


 中から出てきたのは大きな鶏でした。真っ赤な鶏冠と真っ白な羽毛、そしてお尻の尻尾は蛇が付いています。


 こ、この魔物は……。


「こ、コカトリス……」


 コカトリスは確かSランクの魔物のはずです。今の私では刃が立ちませんがこの場をどうにかしないといけません。


「へ、陛下達はこの場からお逃げください!」

「何を言うか! 私は最後まで残る義務がある! フィノ、お前だけでも逃げなさい」


 お父様が私に逃げろといいます。が、私は首を横に振ってコカトリスに炎の槍をぶつけます。


「ここで逃げるわけにはいきません! あと少しすれば彼が来てくれますから」

「お、おい、フィノ!」


 私はコカトリスの石化ブレスを避けながら魔法を使います。シュン君にブレスの傾向と詠唱破棄を習っておいてよかったです。


「あっ」


 私はそう思っていると気が抜けて段差に足を躓けてしまいました。私は慌てて起き上がりますがドレスが石化した金属に引っかかり尻餅をついてしまいました。

 コカトリスは私に気が付き口を開けると、喉の奥をボコボコと不快な音を立ててブレスを溜めます。


「フィノ! く、こいつ!」


 お父様や近衛兵の方が私に近づこうとしますが周りの魔物が邪魔をして近づけません。私はドレスを引き千切ろうとしますが力が弱く破れません。

 焦りで自分が魔法を使えることを失念していたのです。


石化ブレスは全てを石にする凶悪なブレスです。その息がかかったものは一瞬で石化し、生命活動を停止させてしまいます。他にも同様なものが多数あります。バジリスクの石化の瞳、メデューサの石化の邪眼等がそうです。

 治すには石化回復魔法の『リシフィア』や万能薬を使わないといけません。どちらも半身が石化していると効果がなく死を待つしかないと言われています。古文書には神級回復魔法や加護魔法で治療が出来るとのことですが眉唾物です。


 コカトリスがブレスを吐く準備を終わらせました。喉で増幅させた石化効果のある物質を口の中に移し、頬にリスのように溜めてから吐きます。

 私は死を身近に感じました。

 ああ、私は死ぬのですね……。最後にシュン君に会いたかったです……。


「フィぃぃぃぃノぉぉぉぉぉ」


 ああ、これは好きな人の声。幻聴が聞こえます。

 幻聴でも何でもいいです! 私はその声に精一杯大きな声で返事を返します。


「助けてぇぇぇ! シュンくぅぅぅんッ!」


 その瞬間コカトリスがブレスを吐きました。私は目を力強く瞑り、頭を庇うようにしゃがみました。意味のない行動ですがしてしまうのが人間というものです。


 ゴアアアアアアァァァァァ!


 ブレスが吐かれた音が聞こえます。前から横から上からも。どの方角からも聞こえます。

 ですが、一向に私の意識がなくなりません。

 恐る恐る目を開けると光り輝く壁が私を覆いその石化ブレスから私を護り、私の前には白い狐のコートを風に靡かせた人物が、私を庇うように手を広げて立っていました。

 全身が清らかに迸る魔力で前進が青白く光り輝くその姿は、お伽噺の勇者のようでした。


「フィノ! 大丈夫か!」


 シロ様が私の愛称を呼びます。

 なぜ知っているのでしょうか? これもシュン君が教えた? やはり彼はシュン君でしょうか。


 私は顔を振って彼に応えます。


「はい、大丈夫です」

「……よかった。すぐにこの鳥を倒す。だから、今は少し待っていてくれ」

「はい! お願いします!」


 彼はホッと肩を下すと小さく安堵の声を漏らし、コカトリスの方を向いて討伐宣言をしました。

 彼に掛かれば有象無象の魔物と変わらないのでしょう。何てったって彼は私の大英雄様なのですから。


 彼が結界から出てコカトリスと相対します。

 コカトリスは首を長く持ち上げ翼を大きく広げる威嚇の姿勢を作ると、彼を見下ろし低く唸ります。

 彼は手の黒剣に魔力を纏わせ発光させます。そのまま右下に切っ先を向けゆったりと構えました。


 試合中にしていたことですが、間近で感じると凄まじいほどの魔力が籠っているのが分かります。肌をチリチリと焼くような感じがします。ですが、それを怖いとは思いません。全身を包み込んでくれているのです。


 コカトリスが動きました。コカトリスは恐怖をそそる鋭利な爪がある強靭な片足を上げ、彼に飛び掛かりながら振り下ろしてきました。


「あぶっ……」


 私は彼が串刺しになるのをイメージしてしまい、彼に危ないと声を出しそうになりました。

 しかし、彼は手に持つ剣をその脚に向けて振りました。するとコカトリスの頑丈で鋭利な爪が切り裂かれ、風圧でバランスを崩し後方に踏鞴(たたら)を踏みました。

 彼は態勢を整えさせまいと、その小柄な体をめいいっぱい使ってコカトリスに近づくと煌く銀線がコカトリスの体重が乗っている脚に走りました。彼は既に剣を振り抜き、地を蹴り飛び上がろうとしていました。


「コアアアァァァッ、コケエエァ!」

「フッ……はああっ!」


 コカトリスは足を斬られその場に膝を落しました。痛みの方向を上げ、石化弾を吐こうと頬袋を膨らませます。彼はその頬に左手を伸ばし魔法を放ちました。

 放たれた魔法は火魔法です。火炎弾がコカトリスの下顎、嘴にあたり顔を上に向かせます。その瞬間石化弾が放たれ貴族席の天井を石化させます。


 彼は剣で嘴を斬りました。コカトリスの中で一番硬いであろう嘴をスパっと切り裂きました。

 これで石化ブレスの命中度が下がります。


 コカトリスが怒り、その大きな翼で竜巻を起こしました。彼は既にその場からコカトリスの下に移動し、尻尾の蛇の付け根を斬り、切り落としました。蛇はのたうち回っています。

 そのまま背中に走り抜き、コカトリスが体を反転させる前にもう片方の足を切り裂きます。コカトリスは立てなくなりその場に落ちました。


「これで終わりだ」


 彼は飛び上がると剣を両手で持ち、コカトリスの首を水平に斬りました。


「コ、ケエぇ~……」


 コカトリスは情けない声を漏らしてその首から上を胴体から離しました。

 彼はあっという間にSランクの魔物を倒してしまいました。魔法が主体であるはずの彼が魔法を一度しか使わずに、です。


 彼はその後もこの場にいる魔物を次々に倒していきます。すばしっこいウルフの身体が剣で切り裂かれ、空を飛ぶフライバードを風魔法で斬り刻みます。ランクの高い魔物は地魔法で串刺しにされていきました。


 この場にいる誰もが苦戦していた魔物を一瞬で倒し終えました。お父様達は目の前で起こったことに固まっています。お母様は怪我をした人に治療を施していますが、その眼は驚愕に染まっています。


 一通りの魔物を倒し終わるとこの場を覆うような結界を張り、闘技場外にいる魔物の殲滅に入りました。


 私が彼の後を目で追っていると復帰したお父様が私に声をかけて来ました。


「フィノ! なぜ逃げなかったんだ! 私はお前が死ぬと思い、心配したんだぞ!」


 お父様が厳しく怒りつけると泣きながら私を抱きます。私も抱き返すと、自然と先ほどの死の恐怖が底から噴き出し泣いてしまいました。


「ヒッ、グ……ご、ごめんなざい。こ、怖かったよー……」

「もういい。……分かってくれれば、それで。私達は彼に助けられたのだな」


 お父様が私の背中を摩りながらそう言いました。その眼は私と同様に彼の後を追っています。


「……彼は何者なんだい?」


 お父様が思わず呟きましたがこの場にいる人すべての人が答えられません。

 私もその言葉に何も返せませんでした。


「わからないが彼にお礼をせねばならないな」



         ◇◆◇



「ふぅー」


 とりあえず、これでフィノ達は大丈夫だろう。


 僕は貴族席に結界を張ると闘技場外の観客席の魔物の殲滅に入った。

 ロンダークさんが真紅の双剣を縦横無尽に振い、ロベルクさんが地魔法で牽制しながらレイピアで突き刺し、バーリスさんは体力が少し回復したのか手に持つ長刀で迫り来る魔物だけを切り裂いていた。

 他にも見に来ていた冒険者や腕自慢達が魔物を倒していてほとんどの魔物が倒され終っていた。


 僕は上空から光速の魔法である光魔法『レーザー』を撃ち援護をする。人を襲いそうになった魔物はその光の速度の熱線に貫かれ絶命した。

 僕は粗方片付けると怪我をしている人たちの元へ向かい回復魔法で怪我を治していく。治した人は感謝の言葉を言いそのまま逃げて行く。


 全ての魔物を倒し終えると未だに怪我や恐怖で蹲っている観客や残念だけど亡くなってしまった人を運び出す。崩れそうな箇所を地魔法で補強する。

 僕はある程度役目を終わらせると貴族席のフィノの元へ向かった。


 さっき普通に呼んだからばれちゃったかな?

 まあ、言ってみればわかるか。




 僕は貴族席のところまで行くと結界に触れ消し去る。王妃様らしき人が未だに治療をしていたので右手を振って全員の傷と状態異常を治す。

 治し終えるとフィノを見て国王様に不敬にならないように話しかける。


「えー、あなたが国王様でよろしいでしょうか?」

「あ、ああ、余がこの国の国王だ。……シロ殿、と呼んでも構わないかね?」

「はい」


 国王様は急に話しかけられ惑いながら答えた。


「外にいる魔物の殲滅と人々の救援がほぼ完了したことを伝えに「父上! 母上! フィノ! ご無事ですか!」……」


 上品な戦闘着を着た男が破れている扉から入ってきた。

 男は身長百七十五センチほどで金髪碧眼のイケメンだ。手には綺麗に血が着いた剣を持っている。恐らくここに来るまでに魔物を斬り付けてきたのだろう。

 国王様を見て父上と言ったからこの人が第一王子だろう。


「ああ、シロ殿のおかげで一命を取り留めた」


 国王様がそういうと王子は安堵したように胸を撫で下ろし僕に向かってきた。


「貴殿が大英雄シロ殿か。この度は我が家族を守って頂き感謝する」

「いえ、助かったのであればよかったです。襲われる前に助けに行けばよかったのですが……」

「それはしょうがない。貴殿は闘技場に現れた魔物を倒していたのでしょう? 貴殿が居なければ私の家族は既にこのようにいなかったでしょうから」

「わかりました」


 何度もお礼を言ってくる王子。


「申し遅れた。私の名はローレレイク・ローゼライ・ハンドラ・シュダリアという。この国の第一王子だ」

「これは失礼した。私の名はシロという」


 僕と王子様は握手をしてその場を終わらせる。


「コホン。シロ殿、今回だけでなく半年前の大規模魔物侵攻の件も助かった。心から礼を言わせてくれ」


 僕は国王様が頭を下げようとして来たのを慌てて止める。


「あ、頭を言上げてください。……国王様は私が本物であることを信じるのですか? もしかすると偽物かもしれませんよ? 今は偽物がたくさんいるようですから」


 国王様は僕の言葉を聞くと盛大に笑い始めた。


「わっはっはっは……。そんなわけがない。シロ殿が今日したことを見れば誰がどう見ても本物だというだろう。貴殿の戦いは予選時から全て見させてもらっていたのだぞ?」


 国王様は片目を瞑って言ってきた。

 国王様って結構軽い人だな。


「まあ、貴殿が偽物であろうと余達、王族の命を救ったのだ。それなりの礼はしないと上に立つ者としていかんだろうからな」


 国王様は下の者の気持ちを理解しているようだ。それに比べてこの一件を企んだゲス貴族は何様のつもりだ。この国でクーデターでも起こしたかったのか?


「だからと言っては何だが、貴殿が来たくないのは分かるが一度王宮に来て礼をさせてくれぬか? さすがにこれで貴殿に何もしないのは王族、国のトップとして情けない」


 国王様は苦虫を潰したような顔で苦笑いをして僕に願ってきた。

 まあ、王宮に行くのは構わないけど縛られたり監視されるのは嫌だからなぁ。でも、いかないと国王様もといフィノが困る、と。


「……それと、私個人として君と話してみたい。君は私の娘の魔法の師匠と知人なのだろう? できればシュン君とやらも連れて来てくれないかい?」


 なに! そんな無理なことを。いや、幻術を使えば……不敬だからやめておこう。


「……わかりました。都合が合えば向かいます」

「おお、分かってくれるか! では、後日連絡をよこす。その時に都合が合えば会いに来てくれ」

「はい」


 僕は嬉しそうな国王様に返事をした。よく見るとフィノや王妃様、王子様までもが嬉しそうにしている。

 そんなに僕と話したかったのか?


 僕が悩んでいると国王様達も悩みだしてきた。


「どうされたのですか?」

「ああ、三位決定戦はこの有様では出来ないので両者を三位として扱い、賞金大金貨一枚を両者に渡そうと思っているのだが……」


 僕の問いに王子様が答えてくれた。

 さすがにこれほど壊れていると試合が出来ない。結界も壊れ、人的被害も酷く、何より選手達の気持ちも怪我をしてしまった。

 日にちを開けて行ったとしてもこれが決勝ならいいが三位決定戦なので盛り上がりに欠ける。

 それに……。


「表彰ですか?」

「そうだ。この後の三位決定戦の後に表彰を行う手はずだったのだが、この有様で観客がいないのではやる意味がない。後日、王宮でしたとしても国民全土に広がるのに時間が掛かる。それに、国民もその瞬間を見たいだろうからな」


 そう言うことか。

 うーん、どうしようか……。

 国の皆が見れて、知ることが出来、集まらなくていい。そんな都合のいい……魔法があるような気がする。

 あれは何の魔法だったっけ?

 …………。

 ……あ、映像の魔道具だ。あれなら皆が見ることが出来るし、声を聞くことが出来る。しかも見に来ていない人まで見れる。

 これほどいいアイデアはないだろう。


「私から一つだけ案があります」


 僕がそういうと国王様達が一斉に僕を見てその案を聞いてくれた。


「案か。言ってみてくれ」

「私はあの映像の魔道具がよろしいと思います。あの魔道具ならば声も姿も見れます。生、とまではいきませんが、間近で見ることが出来ます」

「だが、あの魔道具は数が少ない。それに、どうやって国民がそれを見るのだ?」


 それは僕も考えた。

 映像の魔道具はそれほど大きくなく縦二メートル横四メートルほどの大きさなのだ。

 これが一人で見るのならいいが今回は数万人だ。数メートル離れただけで見えなくなるだろう。

 数も少なく貴重な道具だ。作るには念話の魔道具と同じ感応の魔石等のように引かれ合うような二対の魔石がいる。これは映像を取る側と流す側を繋ぐためのものだ。

 この魔石は希少価値が高く一組数百万から数千万ガルもする。


「そこは私が魔法で上空に投影します。光魔法の『投影(プロジェクション)』を使えばそのくらい出来るでしょうから」

「そ、そんなことが出来るのか!」

「やってみないとわかりませんが、規模を大きくするだけなので可能かと思います」


 僕に掴み掛らんと国王様が迫り聞く。

 僕は若干引きながらそれに答える。


「よし! シロ殿が出来そうならば今すぐ表彰を行おう。――兵よ! 表彰をするものを闘技場の中心まで集めよ!」

「はっ」


 国王様は瞬時に判断すると近衛兵に向かって命令を飛ばした。

 これを見ると王様っていう感じがとてもするよ。


「それではシロ殿、その魔法が使えるかどうか確認してくれ」

「はい、わかりました」




 魔物が現れたことが王都全体に広まった頃にはすでに魔物の殲滅が終了しており、闘技場から徐々にその情報が広まりつつあった。

 その情報が末端まで伝わると魔物が出てきたこと自体が嘘であったかのような感じになっていた。


 それは当たり前だろう。

 被害があったのは闘技場とその付近だけなのだから。第一区画以外には被害がなく、いたって平和だったのだ。


 だが、そこへその情報が本当であったと知る映像が空に映し出された。

 映し出されたのはこの国の国王でその大きさは身の丈数百メートルはある。


『コホン、余はローゼライト・シューハン・シュダリアだ。皆が知っている通り先ほど魔闘技大会の決勝終了時に魔物に襲われた』


 国民は騒然となる。やっぱりあの情報は本当だったのだと。

 慌てて家に入り荷物を纏め逃げようとする人や冒険者は武器を手に闘技場へ向かおうとする。

 だが、次の一言で固まることになった。


『だが、安心してくれ。此度の騒動はここにいる選手達が見事討伐してくれた。既に魔物の脅威は去り、あとは怪我をしたものを治療するだけとなっている』


 国民はその言葉を聞いて湧く。


『討伐を中心となって行ってくれたのは半年前の大規模魔物侵攻からこの王都を、街を救ってくれた大英雄『幻影の白狐』シロだ。彼の英雄により此度の騒動は一瞬のうちに鎮静化され、被害が少なかった』


 国民は歓喜に沸き、隣の者と抱き合い、泣き出し、駆け回る。


『そしてこの映像も彼の力によって行われている。この映像はこの王都を中心に四方の街から見れるように映し、国民の皆に表彰を見てもらうために彼が出した案なのだ』


 国民はその騒動で起きた被害で表彰が出来なくなったことを知り、同時にこれなら多くの人が見れると理解した。


『それではこれから表彰を始める』


 国王のその言葉聞き、家やギルドの中にいた者は外に急いで出る。外にいた者は出来るだけいい場所で見ようと移動する。

 今まで闘技場だけで盛り上がっていた表彰式が王都全体で、四方の街までも含んだ大規模なものとなった。


 この映像は光魔法で映し出し、声を風魔法で届けるようにしている。

 風で声を届けるのもシュンでなくては距離が足りず出来なかった。シュンは二つの属性と六つの魔法を行使しているのだ。

 それを知った魔法使い達は卒倒したという。幸いそれを知ったのは極一部でほとんどの魔法使いはその実態を知らずに自分も頑張ろう、と精進したそうだ。


『では、ロベルク選手とロンダーク選手は前へ』


 隣で実況のマイクがそう言った。

 マイクは逃げていなかったようだ。これも実況魂なのだろうか。


『第三十七回シュリアル王国魔闘技大会第三位の栄誉と賞金大金貨一枚を与える!』


 国王の声が全土に響き渡り国民が湧く。

 国王はこの後第三位が二人いる説明をした。


『続いて、バーリス選手前へ』

『はい!』


 バーリスは元気良く返事をして前へ進んでいく。

 国民は初めて見る竜人族に興味津々だ。


『第二位、その健闘を称え栄誉と賞金王金一枚、副賞の収納袋を与える!』

『はっ!』


 バーリスはそういうと恭しくきっちりと受け取った。

 さすが武人といった感じだ。


『最後に半年前の大規模魔物侵攻から私たち国民と街を護った大英雄、今大会に数々の偉業を残した優勝者、そして大会中に起きた魔物の侵攻を食い止め国王陛下の命を救った救世主! その名も……シロォー!』


 マイクがそういうとシュンが国王の前へ出て行った。

 国民は今まで以上に湧いた。手を叩くだけではなく物をぶつけて大きな音を出し、脚を踏み鳴らしてている。

 国王は笑顔で、その周りにいる者達は既に拍手をしている。


『第一位! その健闘を称え栄誉と賞金白金貨一枚と、副賞の生命の雫を与える! また後日、王宮にて謁見を行う!』

『わかりました』


 シュンは頭を下げて賞金と副賞のどんな傷や病をも治す雫の入った小瓶を受け取った。

 この雫は急遽取り寄せたもので、第三王女との婚約を今発表しないための方策だった。


 国民はそんなこと知らずに優勝者の姿を見て湧く。

 中にはあんな子供がというが、その姿がどこからどう見ても噂の英雄の姿で噂と合致しているから掻き消えていく。

 闘技場まで聞こえる歓声と拍手の音を聞きながらシュンは帰る。


『それでは次の第三十八回シュリアル王国魔闘技大会まで皆さま、御機嫌よう!』


 マイクさんがそう言って空に浮かんでた映像は霧が掻き消えるようにきええちった。


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