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本選と策略

途中で消えてしまったので話がおかしいかもしれません。

おかしな点はご指摘ください。

 今日は大会二日目。今日は早めに集まってくじ引きをした。

 僕は試合の第四試合だ。

 気になっているSランクのロンダークさんは第三試合、竜人バーリスさんは第二試合となった。ロンダークさんとは勝ち上がれば準決勝で、バーガルさんは決勝で会うこととなる。


 僕は精神を集中して対戦相手のデロリンさんを見る。名前は少しふざけているように聞こえるがその弓の実力は魔弓がなくてもすごいとわかる。短剣も名剣のようで素手で触ると危ないな。


『さぁて始まります、大会二日目。今日も元気に生きましょう! 本選の説明をします! 本選はトーナメント戦となり、今日は四試合執り行いたいと思います。宣言時間は三十分。相手を気絶させるか、結界内から退場させると勝者となります。降参もあります』


 朝からテンションの高いマイクさんが本選の説明をしている。

 本選も基本予選と同じで、違うところは制限時間が付き時間が限られている点だろう。


『それでは第一試合をはじめましょう。まずは本選に進ん女性の一人、見目麗しいエルフの魔法使いセネリーノ! 対するは流れるような剣技を繰り出す紳士。その名はAランク冒険者『貴公子』ロベルク!』

『ワアアアアアァァァ』


昨日と同じく割れんばかりの歓声が轟く。



「『風の精霊よ』私を守って」


 精霊使いだったのだか。ロンさんが精霊使いだったけど見せてもらっていなかったからどういうのか話に聞いているだけだ。

 精霊とは魔力を渡してその代わりとして精霊が魔法を使ってくれるという魔法のことだ。

 精霊のも序列があり、上級となればその姿を見ることが出来る。セネリーノさんの精霊は姿が見えないことから下級、中級のどちらかだろう。感じる魔力から恐らく中級だ。

 セネリーノさんの実力はAランクに届くかというところだろう。


 それに対してレイピアを上に構え左腕を返して腰に置いたロベルクさんは目を閉じて集中している。


『お互いに美しい美貌を持っております。裏ではファンクラブも作られている最中だとか! おおっと準備が整ったようだ! それでは試合……かいしぃぃぃぃぃ!』


 開始の合図とともに両者が動き出した。


「『風の精霊よ、相手の足を止めて』」

「くっ、『クエイク』」


 セネリーノさんに突っ込んでいったロベルクさんは足が拘束されたことで立ち往生したが、足に向けて地魔法を与えて風を爆風で消し飛ばした。


「『ウィンドカッター』」


 違爆ぜた砂埃が舞う中セネリーノさんはロベルクさんがいた場所に向けて風の刃を放つ。

 風の刃が砂埃を舞い上げその場を露わにするがそこにはロベルクさんの姿がなくなっていた。


「ハッ、フッ」

「くっ『精霊よ』」


 セネリーノさんの横から現れたロベルクさんはレイピアを突き刺すように連続で振う。セネリーノさんは何度か腕に貰ったが精霊にお願いすることで背後に空高く舞い上がり、逃げ切ることが出来た。そのまま、セネリーノさんは魔法を放つ。


 セネリーノさんは純粋な魔法使いで、ロベルクさんは剣が主体の魔法剣士のようだ。体力に分のあるロベルクさんの方が有利に立っている。


「『穿て! ウィンドショット』」


 風の弾丸が何発もロベルクさんにぶつかる。ロベルクさんは地にレイピアを突き刺し、地を盛り上げらせて防ぐ。


『白熱した試合を繰り広げています! 両者一歩も引きません』

『ロベルクの剣技は凄まじいです。国の兵士でもこれほどの者はいません』

『ゴリアルさんの墨付きが出ました! ロベルクさんの剣技は特殊で、セネリーノさんは苦戦しているようです』


 二人は解説の間も白熱した戦いを繰り広げている。

 剣を突き刺し、風が舞う。切り裂く風が飛ぶ、地が盛り上がって防ぐ。頭大の岩が地面に突き刺さる、空へ浮かび上がり精霊が助ける。


「さすがね。なら、これでどう? 『狂う風よ、吹き荒れ、飲み込みなさい! テンペスト』」


 セネリーノさんから放たれた風魔法は中級の風魔法『テンペスト』だ。荒れ狂う風の暴風雨は土をぬかるませ、ロベルクさんを空へ舞いあがらせた。


「くっ『母なる地よ、無数の雨となり。敵を殲滅せよ』」


 ロベルクさんは空中で詠唱をすると大きな岩を作り出しその岩に乗りながら暴風雨を避け、その岩はセネリーノさんに降り注いでいく。

 いくつかの岩は風で軌道がずれたが、数発がセネリーノさんに向かって行った。


「キャアアー」


 セネリーノさんは避けきれず足に当たってしまった。


「『母なる地よ、蠢く岩となり、拘束せよ! ロックバインド』」


 セネリーノさんの下の地面が動き始め、拘束し始めた。セネリーノさんは慌ててその場から逃れる。

 セネリーノさんは立ち上がると詠唱を唱え始めた。ロベルクさんは地面に着地すると地を力強く蹴り付けて突貫する。


「『身に纏う風は我が身を風と化す、吹き抜ける風よ、我が身を空へ! フライ』」

「はあっ! くそっ。『地よ、撃て! ロックバレット』」


 空へ飛び上がったセネリーノさんはロベルクさんが放った石の球を避けながら空高く上がっていく。セネリーノさんはある程度の高度まで達すると動きを止めて腰の短剣を抜いて突進する。

 短剣には風を纏わせている。体の安定は精霊に任せているのだろう。


「セヤァッ」

「しまっ、く、ガアァ」


 飛んで避けようとしたロベルクさんは濡れた地に足を取られ、こけてしまった。そこへセネリーノさんの短剣が脚に刺さり叫んだ。


「くっそ、これでどうだ」


 ロベルクさんは体を座ったまま翻すと勢いを付けてレイピアを振り抜いてセネリーノさんの右肩を斬り付けた。

 セネリーノさんは先ほどの『フライ』で魔力が枯渇したみたいで早く動けなかったようだ。そのままレイピアが胸元まで到達してセネリーノさんはこの場から退場した。


『しゅーりょーっ! 遂に決着がつきました! 勝ち残ったのはロベルク選手!』

『二人の魔法はどれも高度なものでした。最後に剣戟を避けたセネリーノさんの魔法は空を飛ぶ魔法『フライ』ですね。その技量が覗えます。短剣に風を纏わせるのも高い評価を受けるでしょう』

『ロベルクの剣技はやはりすごい。Sランクと言っても過言ではないと思われます』

『二人に盛大な拍手をお願いします』

『ワアアアアアァァァ』


 観客から盛大な歓声と拍手の渦が巻き起こる。控室の中でも拍手の音が聞こえる。

 これで、第一試合の終了だ。



         ◇◆◇



 くそっ、クソくそくそくそくそおおぉぉぉぉお!


「どうするんだ! 計画に必要な魔石が盗まれただと! ふざけるなよ!」


 一人の豚男が自室で喚き散らしていた。


「魔石を取りに行った者は返り討ち。裏ギルド『地獄の三つ首番犬』は壊滅。捕まったもの全てが死刑」

「誰がやったんだ! どこのどいつだ! 私の計画を……くそっ、よくもよくもよくも!」


 豚男は机や椅子を蹴りながら喚く。

 傍にいる影はその男を見て目を細めながら淡々と報告する。


「壊滅させた者は表向き冒険者ギルドとなっている」

「表向きだと?」

「ああ、聞き込んだところ白い狐の姿をした子供が目撃されたようだ。……そういえば昨日の魔闘技大会でその白い狐の子供が出場したそうだ。一瞬で挑戦者を倒したそうだ」


 それを聞いた豚男は目を見開いてその陰に掴み掛らんと近づき口から泡を出しそうだ。


「その子供は本物の英雄のようだな。……忌々しい」


 影は最後に顔を歪めて悪態付いた。

 豚男は手に持っていたグラスを放り投げ、ワインをラッパ飲みする。


「お前はまた嘘をついたな? お前はその英雄とやらは嘘だといったではないか!」

「そうはいっていない。信憑性に欠けるといっただけだ」

「フンッ、どうだか。それで、私が集められた魔石はない。その英雄が取って行ったんだろうな!」

「心配無用。我々が揃えられるだけの数を揃えた。これだけあればどうにかなるだろう」


 影は自信満々に言った。

 豚男は信じられなさそうな目で見る。


「本当だろうな? 大きなS級魔石がないのにか?」

「それもご心配無用、我々は手に入れることに成功した。魔石に閉じ込めることもできた。後は表彰の時に……」

「なら、信じてやろうではないか。だが、これが最後だ。失敗したら、私はもう援助をしないからな」


 豚男は話はすんだと言外(げんがい)にこの部屋から出て行った。

 残された影は豚男に舌打ちをして独り言をごちた。


「チッ、あの豚が。俺達はお前が願うから手伝っているんだぞ。それを豚は自分がさも手伝っているぜんとしやがって」


 影はそういうと影に溶け込みこの場から消えた。



         ◇◆◇



『地面の馴らしが済んだところで次の試合にまいりましょう。第二試合は四属性魔法使いであり二属性を巧みに使うクィットン選手と竜の樋爪と尾を持った謎の剣士バーリス! 飛び道具は剣圧だ!』


 二人が一緒に歩いて入場する。

 バーリスさんがこちらを向いた気がするけど気にしないでおこう。映像の魔道具が気になっただけだろうし。


『魔法と剣、お互いの遠距離技を持った戦いです!一体どのような戦闘を見せてくれるのか! それでは第二試合、かいしぃぃぃぁぁあ』


 ズガアアアァァァァン


 予選で見せた通りの剣圧の衝撃をお見舞いした。クィットンさんは無難に火魔法で壁を作りやり過ごした。


「ふっ、強いな」

「……」


 バーリスは一言もしゃべらずに衝撃波を出しまくる。全ての衝撃が火の壁にぶつかり火の壁を払い去り、背後の言いるであろうクィットンさんに向かう。


「わかっているよ『火と風の力よ、渦を巻き、飲み込み給え! ファイアートルネード』」


 放たれた炎の渦は風を含んで大きくなりその威力を上げ、速度も上げた。

 バーリスはその渦に向かって一直線に進んでいく。


「ふん、こんな炎で私の皮膚が焼けるとでも思いで?」


 バーリスさんの皮膚はやっぱりバリアルと同じく火に強いようだ。

 突っ込んだ表紙に剣を振り下ろして炎の渦を霧散させた。クィットンは既にそこにおらず、右側側面に移動して詠唱を始めていた。


「『眩い光よ、フラッシュ』」

「くっ、ちょこざいな!」


 クィットンさんを中心に眩いばかりの光が発し、観客を含めたバーリスさんの目を眩ませた。

 目をやられたバーリスさんは怒り狂いやみくもに衝撃波を生み出してクィットンさんを近づけさせないようにしていた。


『バーリス選手、目が眩み闇雲に衝撃波を放っているがクィットン選手には当たらなーい! という私も目が眩み実況がしにくいです!』

『フラッシュは下級の魔法ですが有用性があります。今回のように相手が隠れている間に詠唱を終了させ、相手が現れた瞬間に魔法を放つと感知できない者は眩んでしまいます。私は眩んでいません』


 シュバリアさんは胸を張って自慢げに言った。

 そんなことを自慢されても困るんだけど……。


「どうだ。次はこれだ。『八つ脚の炎よ、雷を纏いて、敵を殲滅せよ! オクトパラライ』」


 バーリスさんに向かって伸びていく炎はタコの足のように八本ある。その足は炎でできていて電気を纏っている。その電気が当たると体が痺れて炎に巻き込まれるのだろう。

 合理的な魔法だが、バーリスには聞かないだろう。


「くっ、あああっ、効くかこんなものが」

「いえ、これは時間稼ぎにすぎません。さすがのあなたの皮膚でも少しぐらい痺れるでしょう?」


 あの魔法は時間稼ぎのためだったようだ。

 バーリスは回復した目を開き動こうとするが先ほどのスピードが出ていない。やはり体が麻痺しているようだ。

 その隙にクィットンさんは先ほどよりも魔力をセリ強力な魔法を使おうとしている。


「これでもくらいなさい。合成魔法『サンダーフレア』」

「が、ぐ、ガアアアアアァァァァァ」


 バーリスさんに降り注いだ雷の雨は落ちると同時に炎が巻き起こり爆散する。バーリスさんは炎が効かずとも爆破や雷は効いてしまう。

 苦痛の叫びを上げるバーリスさんはビクビクと動き気絶はしていないようだ。


「……や、やるなぁ」

「くっ、はぁはぁ、まだ気絶しないのかね」


『バーリス選手に途轍もない轟音を響かせる雷が降り注ぎ爆破しましたが、その体の四肢は健在です! それどころか気絶もしていません』

『多少のダメージはあるようですがさすがの竜の皮膚といったところでしょう。魔法に対する抵抗力が高いです。私も現役の頃苦労しました』


 ゴリアルさんが解説をする。


『それに比べてクィットン選手は魔力切れの症状を起こしかけています。解説のシュバリアさん今の魔法は何なのでしょうか』

『今の魔法は合成魔法と呼ばれるものです。合成魔法は二属性以上の属性を合わせて使う魔法のことで威力が上がる半面、コントロールや魔力消費の激しい魔法となります。それを一人でこの規模で使えるとなると私も兜を脱ぎました』

『そうなのですか! 観戦者の皆様聞きましたか? クィットン選手の技量をシュバリアさんが認めました』


 実況の言葉に歓声が沸き起こる。

 僕は師匠以外で合成魔法が使える人を見たのは初めてだ。僕が使った合成魔法よりも威力が落ちるけど僕から見てもすごい完成度の高い魔法だった。

 だけど、それを維持する魔力が少ないようだ。僕ならその魔法を数十発は撃てるだろう。フィノだったら十発は撃てるだろう。修行次第ではもっといけようになるはずだ。


「これで終わりだ。降参しろ」


 バーリスさんがクィットンさんに降伏勧告をする。


「はぁはぁ、クソッ」


 クィットンさんは顔を歪めて荒い息をするが、まだ諦めていないのか悪態をついている。


「はああぁっ」


 最後のあがきと魔力を手のひらに煉り込んで風魔法を放ったがバーリスは状態を反らせてそれを回避した。そのまま手に持っている長刀でクィットンさんの首に峰打ちした。


「がっ……」


 クィットンさんは息を吐いてぐったりと倒れた。


『決まりましたぁーッ! 勝者バーリス選手! 可憐な体に纏う鱗は竜以上に固いようだぁ!』

『今回の魔法もすごい壮絶でした。私の魔法探求心に火が付きましたよ』

『バーリスの剣技はどこの技なのでしょうか。魔法を切り裂き斬撃を飛ばす。あの衝撃には魔力がのっていないため純粋な力で飛ばしているのです。人族には不可能な芸当でしょう。さすがは竜人族といったところです』


 やっぱり竜人族は強いな。

 それにしてもゴリアルさんがあの剣術を知らないのか?

 と、なるとあの剣技はどういうことなんだ?

 もしかして、魔竜族かな?



         ◇◆◇



『それでは第三試合を行いたいと思います。第三試合は帝国から遥々やってきたSランク冒険者ロンダーク・ラーラス! 対するはBランク冒険者スーシャガーだぁー!』

『SランクとBランクの対決ですか。Sランクのロンダーク選手が負けるとは思えませんがスーシャガー選手もここまで勝ち抜いてきた強者です。結果は蓋を開けてみるまで分かりませんよ』

『見たところスーシャガーの槍技はAランクと言っても過言ではないと思われます』

『おおおっと、スーシャガー選手にゴリアルさんからお褒めの言葉が出ました』


 僕はしっかりと見ていないからわからないけど、この混戦した予選をリーチの長い槍で本選まで上がったとなるとその実力が覗える。


『会場の整備が整ったようですね。時間も押しているのでサクッと行きましょう! では選手入場してください!』

『ワアアアアアァァァァァ』


 ロンダークさんが入場すると観戦客から爆発するような歓声が出た。さすがは優勝候補の一角だ。

 因みに僕は優勝候補なのか分かっていない。

 スーシャガーさんの入場により、いよいよ第三試合が始まろうとしていた。


『それでは第三試合を始めたいと思います。試合、かいしぃぃぃぃい!』


「はあぁぁあああっ!」

「むん」


 胸を借りるという思いなのかスーシャガーさんがいきなり突っ込み槍を付きだした。そのまま連続で突いたり払ったりするが、ロンダークは両手の持つ双剣を巧みに操り防いでいく。突かれた槍を双剣を重ねることで防ぎ、払いを体捌きと双剣で守ることで防いでいる。こちらは指導をしているように見える。


「脇が空いているぞ!」

「くっ、はあっ」

「今のはいい突きだ」


『ロンダーク選手は指導を行っています! 突き出された槍を最小限の体捌きで避け双剣で弾いています!』

『お互いに凄い技量ですがやはりこれはランクの差なのでしょうか? ロンダークの方が一歩も二歩も上ですね』


 技量の差もあるけど体格の差も大きいと思う。ロンダークさんの身長は二メートル近く、手の持つ双剣は長剣の大剣に見える。それに対してスーシャガーさんは百七十センチほどで細身だ。槍もその体格に合うように軽い材質で細長い作りとなっているように見える。


 槍と剣がぶつかり合い火花が散る。体捌きが地を擦り、武器の捌きが空気を引き裂き唸りをあげる。

 力勝負にはならず純粋な技量でスーシャガーさんは挑んでいる。その意気込みを買ったロンダークさんも力技を使わずに純粋な技量で立ち向かう。


「く、そ、なんで当たらないんだ」

「よく相手の動きを見ろ。先を読んで攻撃するんだ。Aランクになるには必須の条件だぞ」


 ロンダークさんは体捌きで避ける。それを追うように槍を突き出すスーシャガーさん。どう見ても後から突き出しているように見える。ロンダークさんから見るとスーシャガーさんの足さばきと力加減でどこに突こうとしているのか分かるのだろう。後は目線とか。


『スーシャガーさんは果敢に槍を付き出しますが一向にあたりません』

『スーシャガーはもう少し相手の動きを見て槍を突き出すか相手の動きに合わせて罠を仕掛けるかのように動かないといけないでしょう』

『ですが、それは難しそうですね』

『そうですね。すぐすぐには出来ないでしょう。これを習得するには一年間はそういった修行をしなければならないでしょう』

『魔法も同じことが言えますからね。身体強化にしろ属性の攻撃にしろ相手をよく見て使い、変えないと当たりません』


 そうだな。

 僕も最初の頃は師匠に避けられてばっかりだった。あたるようになったのは一年後くらいだったかな?

 まあ、当たるようになったのは僕が先を読んで新しい魔法を開発していったからだけど。


 ロンダークさんの動きが変わった。

 そろそろ決着を付けるつもりのようだ。


「これでおしまい、だっ」

「く、ぐああぁ」


『勝者、ロンダーク・ラーラス! 最後に決まったのは『瞬撃』の二つ名に恥じまい一撃でした! 迎え撃ったスーシャガーさんもすごい! 両者に盛大な拍手を!』


 盛大な拍手が巻き起こる。ロンダークさんはスーシャガーさんの方を持って退場する。


 いよいよ僕の番だ。

 僕を呼びに来た係員の男性の後に付いて入場場所へと向かう。僕が着くと反対側の通路からデロリンさんが弓を片手にやってきた。


 僕の装備は腰に差した鋼鉄の剣と背中に差した白銀の剣、ベヒーモスの鼻角とヒュドラの核から作った剣だ。と、腰に世界樹の杖を差している。


 デロリンさんは百八十センチ弱の身長で腰に短剣を三つと今手に持っている弓が主力の選手だ。その弓は魔武器で舐めた態度はとっていられない。

 こうなれば僕も飛び道具で迎え撃つか……。



         ◇◆◇



『それでは次の試合を執り行います。それでは選手入場です』


 僕が先に出て行く。


『出てきたのは容姿以外すべてが謎。背中と腰に差した剣は、使う魔法は、その技量は、その実力はいかほどなのか。予選でも魔力の威圧とその技量がよくわかっていない。全くもって未知数。各ギルドマスターから認められた本物の大英雄。名をシぃぃーロぉぉー!』

『ワアアアアアァァァァァァ』


 歓声の大きさに鼓膜が揺れて闘技場が揺れ動いた気がした。

 僕が腕を上げて挨拶をすると歓声がさらに大きくなった。それほどまでに英雄というのは住民に憧れられる存在なのだろう。しかも、現存在する英雄だからな。


『対するはその魔弓から放たれる矢は一撃秘中。予選の猛者どもを一撃の下でねじ伏せ、近づいてきたものを腰に差す短剣で切り伏せた。その名を狩人デロリぃーン!』


 デロリンさんがゆっくりと弓に矢を番えながら歩いてきた。

 僕との距離は三十メートル。

 僕はいつものように静かに魔力の調子を確かめる。これもいつものように何事もなく通り、何事もなく使える。

 あとはデロリンさんに集中して、開始の合図を待つだけ……。


『両者準備が整いました。王国の大英雄『幻影の白狐』シロが勝つか……。必中の魔弓使いデロリンが勝つか……。両者見合って……第四試合……はじめぇぇぇぇ!』


 デロリンさんは開始の合図とともに弓を放ってきた。僕は弓を捉えると左手を弓に突き出して『魔力弾』放つ。

 バキ、と刻みのいい音がして粉砕した弓がその場に落ちた。


『何が起きたのでしょうか。シロ選手が手を突き出した瞬間にデロリンさんから放たれた矢が地に落ちました!』

『あ、あれは……』


 シュバリアさんが気が付いたみたいだ。

 僕の『魔力弾』は魔力をしっかり制御出来ないと放つことが出来ない。

 それは魔力を魔法として放つのではなく、物理攻撃になるまで魔力を圧縮して放たなければならないからだ。魔力を放つのにも途轍もない技量がいる。


『シュバリアさん、何が起きたのでしょうか?』


 シュバリアさんの声を聞きとったマイクさんが聞く。


『あ、あれは魔力を飛ばしたのです』

『魔力、ですか?』

『はい。通常魔力とは飛ばすことが出来ません。体から沸き起こるものが魔力であり、魔法に変換することで攻撃と化してダメージを通すことが出来るのです』

『魔力自体には攻撃がないというように聞こえますが、今のは魔力が矢を折ったのですよね?』

『ですが、魔力は圧縮することで攻撃力を持たせることが可能なのです。古い本にそう書かれていたのを見たことがあります。それを可能にさせるには魔力制御が特に必要なのです。私は使うことが出来ません。いえ、この世界に使える人は一握りしかいないでしょう』

『そ、それは凄い! 凄すぎるぞ! 大英雄の名に恥じない技量だぁぁー!』


 何本も連続で飛んでくる矢を無駄なく『魔力弾』で迎撃する。

 デロリンは次第に焦りの顔色を濃くしていく。

 僕は少しずつ歩いて距離を詰める。


 迎撃が少し難しくなった所で足を止め、右手の『魔力弾』をデロリンに向けて放つ。デロリンがそれに気が付いて避けた瞬間に腰の剣を抜き放ち、風を纏わせる。


「『火よ、纏え』」


『あ、あれは『纏』!』


 今度はゴリアルさんが吠える。


『ゴリアルさん? 『纏』とは何でしょうか? シロ選手が何かしたのでしょうか?』

『今彼が剣を抜き放った瞬間に『火よ、纏え』と言いましたが、それは武器や防具等に魔法を纏わせる詠唱なのです。しかもそれは詠唱破棄です。実際はもっと長い詠唱となります。

纏わせるにはその魔法を維持することと纏わせた道具が壊れないようにしなければなりません。その安定化も大切ですが、シロの行っている『纏』には無駄が一切ありません。さすがは英雄といったところでしょう』


 そこまで褒められるとなんだか照れるよ。

 こんなこと簡単にできるようになるよ。フィノに今度教えてあげようかな? 攻撃力の低い女性には最適な魔法だからね。


 僕は剣を下にだらけさせるように持ち、左手で矢を迎撃する。剣を後ろに下げ新しい魔法を使う。


「避けられるかな? 『火走り』」

「――っ!? くっ」


 僕が上に剣を振り抜くと火が地を走るようにデロリンに向かって行く。そのまま左右に振り抜き何発も走らせる。

 デロリンは立ち上がり僕を中心に回るように近づいてくる。短剣で応戦するつもりだろう。

 だが、そうはさせない。


「くらえ! 『火波』」


 今度は剣を右から左に地を擦るように薙いだ。すると陽が並のように、レッドカーペットが引かれるようにデロリンに向かって行く。デロリンはこちらに飛び上がって避けようとしたが飛距離が足りず足を焼かれてしまった。


「く、くああぁ」


 僕はその隙に近づいて剣の柄を前に出してデロリンさんお鳩尾に当てて気絶させた。

 ぐったりと僕に体を預けるデロリンさんを僕が支えていると影がデロリンさんを包み『影移動』を発動した。


『き、決まったぁぁぁーッ! 第四試合の勝者はやっぱり強い『幻影の白狐』シロォォォー!』

『ワアアアアアァァァァァァァ』


 割れんばかりの歓声が辺りに響き渡る。

 僕は手を振って入ってきた方へ戻っていく。


『どちらも恥じない技量の持ち主でした! 古の魔法を使う大英雄シロ! 対して寸分違わずに矢を放つデロリンでした!』


 僕は控室に戻り、体を揉んで椅子に座る。

 次の試合が今日最後の試合だ。


 最後に試合は僕の偽者野郎が出てくる。

 偽者野郎は意外に強いみたいで一応彼の方が英雄みたいだと言っている人もいるようだった。だが、この試合を見てその気はなくなっただろう。

 まあ、それもこの試合の内容次第でまた変わるけど僕以上の魔法唱えると限られていると思う。


 対するのはボーディさんだ。ボーディさんは人族の大剣使いだ。実力はAランクの中でも上位に位置すると思う。

 大きな大剣を使っているがその技量は凄く細かな動きを得意としているようだ。予選で見せていた剣技は全て一撃で首を跳ね、降懸ってきた魔法や矢を大剣の剣圧や刃で叩き落とし、剣や斧などの武器を跳ねあげていた。


『それでは本日最後の試合を行います! 選手は入場してください! まずは自分こそが本物の英雄『幻影の白狐』! 使う得物は銀色の大剣、使う魔法は地を爆ぜさせる火魔法とのこと。その名もハァークゥー!』


 シロに対してハクとか何て安直な名前なんだ。


『最後の選手は精細な大剣使いボーディーだぁー! 繰り出される剣技は豪快且つ繊細、凶悪且つ華麗。全てが大剣使いの見本となる剣捌きだ!』


 二人が入場してきた。

 白い狐の……鎧かな? を着た男ハクは背中に白銀に煌く大剣? 白銀というより白色の大剣を背負っている。筋肉が盛り上がり、魔法が得意そうには見えない。


 ボーディさんは意外に細身で背負っている大剣は地に着きそうだ。だけど、体は見事なまでに引き締まり、顔つきが獲物を狙う野獣のようだが繊細さも感じる。体には無数の傷跡が見える所から過酷な修業をしたのだろう。


『それでは最終試合を始めたいと思います。両者準備はOK? それでは試合、かいしぃぃぃぃい!』


 二人は大剣を構えてお互いに動かない。お互いに相手の技量を測っているようだ。

 観客からヤジが飛び交いそうになる時にハクが動いた。左足で地を蹴り飛ばし、ボーディさんに肉薄すると大剣を上段から砕くように叩き落とす。

 それをボーディさんは冷静に見切り、大剣を斜めに構えて軌道をずらした。飛び散る火花と衝撃音。

 ボーディさんは剣を逸らし斬ると右脚の前蹴りを放つ。ハクは後ろに飛び去りそれを避ける。


 ハクの実力は結構高いようだ。蹴ったスピード、剣速、反射神経、どれもAランク並だ。対するボーディさんはハクの全てを見切っているやはりこちらの方が強いようだ。


『お互いに一歩も譲らない! ハクの剛剣の対し、ボーディの流麗な剣! 打ち合いをして五分経ちますがお互いに被弾ゼロ! 凄まじい戦いです!』

『ワアアアアアァァァァァ』


 実況に合わせて観客が湧き、打ち合いの音に合わせて咲き誇る。


 ハクの剣は全てボーディに捌かれ、一発も当らない。

 ボーディの格闘技や剣は全て回避されている。

 多分あの鎧の下は獣人族だろう。でないと、その動きは出来ないと思う。


「やるな! 偽物」

「くっ、俺が本物だぁッ!」


 喋りながらハクが剣を薙ぎ払う。それを飛んで回避するボーディ。着地する前に剣を地に刺して安定させ、両足でハクを蹴り飛ばした。


『おおぉぉーッとぉー! 遂にボーディの蹴りが決まりました! ハクは闘技場壁まで吹き飛びます!』

『ボーディの剣技は達人級です。それに加えて格闘も達人級と思われます。この国に欲しい人材です』


 ゴリアルさんが身を乗り出して言う。


 ハクは体を起こしボーディさんを見る。ボーディさんは着地すると一気にトップスピードに乗り、大剣を高速で繰り出し始めた。遂に本気になったのだろうか。


「はああああっ!」

「く、アアアァ」


 ハクは大剣で防ぐが少しずつ被弾する。鎧に傷が入り、隙間から血が垂れる。

 歯を食いしばると、大剣で守るように構えたまま詠唱を唱え始めた。


「『激しい炎よ、周囲を爆ぜさせる爆炎と化せ! バーンフレア』」


 ドオオオォォォォォォーン


 と、ボーディさんとハク自身を巻き添えにして爆発が起こった。ハクとボーディさんの中心で起きた爆発はボーディを背後へ吹き飛ばし、ハク自身に深刻なダメージを与えたように見えた。

 が、ハクは無傷だった。多分あの鎧の魔法耐性が高いのだろう。


「ガハァ、げほっ、はぁ」


 吹き飛ばされたボーディさんは不意の魔法で回避が取れずもろに受けてしまったのだろう。血を吐き息を詰まらせている。

 ハクは地を蹴り付け同じように突貫する。


「これで終わりだぁぁッ!」

「ぐっ『ムーブ』」

「チッ」


 振り下ろされた大剣をボーディは風魔法で足を速くして避けるが体がついて行けずこけてしまった。


『あの魔法は爆撃の魔法です。自身も喰らっているように見えましたがその鎧が完全に守ったのでしょう』

『そうなのですか! ボーディは深刻なダメージを追っているようだ! 辛うじて立っているがその脚は震えている!』


 ハクが再び肉薄する。今度は動かずにボーディは待ち構える。

 ハクが大剣を斜めに切り下ろす。ボディは起死回生の思いで体を迫り来る大剣の方向に入れ、顔を反らせて凌ぐ。そのまま右脚を軸に大剣を水平に薙ぐ。


「ふんっ」


 ガイン、と鎧と大剣が打ち響き鳴る。


「なっ」


 ボーディは斬れなかったことに驚愕の声を漏らした。ハクの鎧に傷がついたが深く傷ついただけで止まってしまった。物理耐性も強い鎧なのだろう。


「(にっ)くたばれ!」


 ハクはニヤリと笑い大剣の刃をボーディの方へ返して斬り上げた。体を後ろに反らさせたボーディだったが大剣は胸を切り裂き夥しい量の血が噴き出した。


『決まったああぁぁぁぁーッ! しょーしゃー、ハク! 噂に違わない剛剣と魔法でした! ボーディの剣技も見る者を魅了する剣技でした! 両者の健闘に拍手を!』

『ワアアアアアァァァァァァァ』

『本日の試合はすべて終了しました。観客の皆様は怪我の内容にお帰り下さい。そしてまた明日子の闘技場で会いましょう!』



         ◇◆◇



「や、やりましたよ! シロが勝ちました!」


 私は飛び上がりながらシロがかったのを喜びます。

 彼が勝つとなんだかうれしいです。やっぱり恋しているのでしょうか?

 でも、私が好きなのはシュン君です。私は一人に恋して、一人を愛し続けると神に誓ったのですよ。だから、この気持ちは違うのです。


「そんなに彼が勝つとうれしいのかい? フィノは彼と会ったことがあるのかい?」


 お父様が聞いてきました。お母様たちも興味津々のようです。


「いえ、会ったことはありません。ですが、私の師匠、シュン君が彼の知人だそうです。そして……」

「あー、こんなところにいらしたのですね? 誰があなたの婚約者となりそうかしら?」


 やってきました義母が。

 また嫌味を言ってきます。副音が聞こえるので本当に嫌です。

 お父様達も嫌気がさして顔を少し顰めました。


「ああ、リーリか。今観戦していたところだよ。フィノの婚約者は彼の英雄になりそうだ。フィノも彼の英雄に好意を抱いているみたいだから丁度いいかもしれない」

「ほ、本当ですの?」


 疑問文のようで驚愕しているように聞こえました。

 やっぱり何か企んでいるのですね。

 ひょっとしてあの帝国のSランク冒険者が何かあるのでは?


「ああ、そうだよ。彼の英雄は強い。強いとしか表現が出来ないほど強い。我が国の団長でも刃が立たないだろうね」

「そうですね、あなた。私が見たところまだ全力を出していないでしょう。これなら、この国も安泰ね。ついでにファノが好きなあの子も国のお抱えにしてみては?」

「うん、それもいいかもしれないね」

「あ、いえ、そのー、それは無理だと思います。彼は冒険者ギルドのギルドマスターと繋がりが強いですし、それにシュン君は自由が大好きなようですから」

「困ったな。彼の英雄も縛られることを嫌うという。このままではあの話がなかったことになるな。『優勝者が女性だった場合は帝国に嫁ぐ』でしたから。それにフィノは魔法が使える。シュン君という子には感謝の念しか湧かないよ」

「お父様くすぐったいです」


 お父様は私の頭を撫でてくれます。

 先ほどの言葉は言外に

『彼の英雄が優勝した場合、フィノはどこにも嫁がないぞ。しかも、彼の英雄が勝つ可能性が高く、フィノが魔法を使えるようになった人物のことが好きだ。それに彼の英雄と繋がりがある人物だ』

 と言っているのです。


 これほど頼もしい言葉はありません。

 納得いきませんが両親は私がシュン君と結婚するのを許してくれているみたいですし、私としてはどうといったことはありません。

 と、いうよりうれしすぎて我が耳と人生を疑ってしまいます。今までが今まででしたから……。


「そ、そうなのです? あ、ちょっと用事を思い出しましたわ。これで失礼させてもらいます」


 いそいそと義母は部屋を出て行きます。

 ざまあみろですよ。

 これで何か考えているのかが分かりました。

 今度は一体何をたくらんでいるのでしょうか?

 私は心の中で彼の無事を祈ります。



         ◇◆◇



 カッカッカッカッ


 一人の女性が華やかな廊下を大股で通る。

 大きな扉の前でカツンッ、と音を立てて止まると両手で取っ手を持ち、思いっきり開け広げた。そのまま女性は部屋の中へと入り、中にいた男に指を突き付けて怒鳴り散らした。


「どういうことよ! この大会は我が帝国の者が優勝できるのではなかったの! 聞いた話では違う者が勝ち上がっているとか! しかもそいつは憎き英雄じゃないの!」


 指を突き付けられた男は豚男だった。

 豚男は女性、フィノの義母であるセネリアンヌに対して萎縮している。

 彼女の言葉から彼女とこの男は帝国に繋がっているのだろう。


「そ、その話は私も先ほど聞いたことでして、そのー、申し訳ありません」


 豚男は一生懸命頭を下げようとしているが、頭と胸が肉で繋がり腹が出て腰が折れていない。


 セネリアンヌはそれを見て怒りが覚めたのか冷めた目で見るが、昨日の報告を思い出して再び怒りだした。


「あなたは昨日魔石を盗まれた、と報告しましたよね! これであなたの失敗は二度目です! あなたは本当に帝国に寝返るつもりがあるのですか? あなたがしていることは(わたくし)の計画を邪魔しているだけではありませんか!」

「い、いえ、それは私のせいでは……」

「いえ! あなたのせいです! あなたがきちんと命令を下さなかったのがいけないのです! どうしてすぐにあなたは回収しなかったのです! 集めたのであるのならすぐに持って来させればよかったではないですか!」

「……申し訳ありません」


 セネリアンヌの剣幕に押され、豚男は言い訳をしようとしていた口を閉ざし後退るように土下座? をした。


 セネリアンヌは元々帝国の元第三王女で、王国に和平のためにと嫁がせてきた人物だ。お互いの了承ではなく無理やりと嫁に取れと言ってきたのが帝国だ。


 帝国、王国、公国、聖国の四つを四大国と呼ぶ。その中でも最も力が強いのが帝国でなんでも力任せにしようとする傾向がある。王国は広い土地を持っている割には四大国の中で最も力が弱い。

 力とは武力、財力、権力、魅力……となんでもだ。帝国は武力と権力、財力に優れ、王国は財力と魅力、国が豊かで治安が良く争いが少ないことで有名だ。公国は財力、聖国は宗教国家で財力と権力が高い。


 己の美貌に自信のあったセネリアンヌは無理やり力が最も低い王国に嫁がされたため、内心腸(はらわた)が煮えくりかえっていた。

 『どうして私が和平の道具にならなければならないのか』と。しかも第二王妃、側室であることが気に入らない。

 だから、セネリアンヌは王国を自分の思うままに動かし、いらない人材を消す若しくは自分の息のかかったものに目を見張らせようとしているのだ。


 セネリアンヌが一番気に食わないのが第三王女のフィノリアだ。フィノが生まれた時にその気持ちがさらに大きくなった。

 フィノが生まれてすぐ適性の判定の義を行った時、フィノに加護があることが分かった、しかも使える属性が三つだ。国王はすぐに緘口令を引き、この場にいた者に言いふらさないようにした。更に年が経つにつれフィノの容姿が綺麗にかわいくなり始めた。貴族たちの間では誰が婿にするか言い争いが始まるほどに……。


 そんなフィノが自分より権力を持ちそうだから排除をしようと考えた。だが、相手は王族であり、自分の子供よりも地位が高い。

 毒殺に爆殺、暗殺、不慮の事故に見せかけた事故と、フィノが物心つく前からしていた。が、全て未然に防がれてしまっていた。


 それに気が付いたのが国王だが、国王は優しく追放すること、自ら離すことが出来ず今まで時間が掛かってきたのだ。それにセネリアンヌは帝国の人間だ。下手なことをして帝国が何か言ってきてからでは遅いのだ。


 徐々に怒りを蓄積させていくセネリアンヌ、それを阻止できない国王、被害に遭うフィノ。


 そんなところにセネリアンヌに幸運が転がってきた。

 それはフィノが魔法を使えなかったことだ。

 フィノが魔法を使えるようになった年になり誰でも使える初歩魔法を使おうとしても使えなかったのだ。その理由はシュンが解決した通り、暗殺などによる魔法への不信感と恐怖だ。


 別に魔法が使えないからと言って蔑まれるような国ではないが帝国では力を第一に考えるため、帝国の息がかかるとやはり蔑むようになる。


 セネリアンヌはそれを息のかかった者達に伝え広めていく。そして二年半の月日をかけてフィノを排除する計画に王手をかけた。

 それが、帝国の自分の息がかかった人間に嫁がせるか帝国に嫁がせるかだ。

国王は反対していたが、貴族たちの声やセネリアンヌたちの声に抗うことが出来すにいた。だから、打開策として魔法を使えるようにしようとしたのだ。


 だが、いくら練習しても使えず、指導をするものがセネリアンヌの息がかかっているものが多く練習が進まなかったのだ。息のかかったものはフィノに知識を与えるだけで魔法を使わせようとしない。フィノがそれを報告することで早めに打開していく。


 だが、徐々に時間が無くなり指導をする者がいなくなっていた。フィノも自分が置かれている状況に気が付き、指導者が信用できないのならと自分で魔法の練習をし始めた。


 そんなところに魔物の侵攻が起き英雄が誕生した。

 その英雄を王宮へ召還しようと、フィノのことを願おうとしたが、団長が会う前に英雄は姿を消してしまった。しかも英雄は国へはいかないと、呼べば救国の英雄雷光の魔法使いとともに姿を消すと言ってきたのだ。

 国は大慌てになったが、国王はフィノのことで頭がいっぱいで恐怖が先に来た。


 しばらくして王都にその英雄が出没したという話が出てきた。


 あとは知っての通り、願う形で英雄に乞い頼もうとしたのだ。無理やりでなければ大丈夫ではないかと。だが、その英雄は数が多く、全てが偽物でどうにもならなかった。


 国王がどうしようかと考えを張り巡らさせていた時にフィノが脱走を企てていたのを知り、フィノの意志があるのならそれでもいいかと思い影から手伝った。

 と、同時に大会の国家会議が開かれフィノが居なくなったことを伝えた。会議は荒れ、セネリアンヌはハンカチを噛んだ。

 そこでセネリアンヌは帰ってきた時のことを思い条件を変えた。

 魔法が使えなかったらを、大会までに帰ってきたらに変えた。


 そして魔法が使えるようになったフィノが笑顔で帰ってきた。国王は大慌てでフィノを隠したがセネリアンヌに見付かってしまった。

 そしてシュンに頼みフィノが消え、大会に英雄が現れた、ということだ。


「これ以上失敗は許されません! あなたは計画通り優勝者が決まった寸前に封印魔石を破壊しなさい! そして私の息子達とロンダークを中心に倒させなさい!」


 倒すことで発言力と王位継承権を上げようとしているのだ。そしてすべては自分と帝国のために、と。

 その計画はもちろん帝国の皇帝は知らないことだ。

 全部セネリアンヌが自分で良かれと動いている。


「そうすればあなたのことを帝国に進言してあげます」

「わ、わかりました。全ては計画通りに……」


 セネリアンヌはそれを聞くと部屋から出て行った。


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