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 セドリックさんの依頼を引き受けて五日が経った。

 その間に数十種類のレシピを教えた。セドリックさんにはオムレツとピラフの他にカレーやトンカツ等の煮込み物や揚げ物等を中心に教え、ララスさんにはサンドイッチやグラタン等の軽食に使える物とケーキやクレープ等のデザートを教えた。

 リーリャさんにはメニュー製作を頼み、ネネさんとダレソンさんには買い出しと顔を覚えさせた。ガロッジさんは力が強いから外装を変えるのを手伝ってもらった。


 外では目立つため洗浄魔法を使わず、外装の汚れを水魔法と地魔法できれいに落とし、ガロッジさんがツタを切り揃えていく。外のテーブルも綺麗にすると魔法で加工をしていく。それをララスさんが見て驚いていた。

 内装はまだあれから弄っていない。


 三日が経った頃にローギスさんの元へセドリックさんとララスさんを伴って調理器具を取りに行った。ついでに厨房の整備とララスさん専用の調理器具を作った。

 最初は渋っていたララスさんだったけど、僕が無理やり作らせることで渋々と了承した。


 そして、現在僕とセドリックさんはヒュードさんの連絡を受けて、ヒュードさんのお店の客室にいる。セドリックさんは僕の光魔法『蜃気楼(ミラージュ)』で姿を消してヒュードさんの傍に堂々と座ってもらっている。


「シュン君、これ本当に見えないの?」

「見えていないはずです。ヒュードさん、見えていないですよね?」

「うん、見えていないよ。声だけが聞こえるからなんだかおかしな気分だよ」

「わかりましたか、セドリックさん」

「わかったよ」

「でも、声は聞こえるのでしゃべらないようにお願いします」


 セドリックさんは口元を塞ぎ、何度も頷いた。

 僕が見えるのは、僕が術者だからだ。術者の任意で替えることが出来る。


 あと数分もすれば、黒服達が訪れる時間となる。

 僕達が隠れているのはすぐに捕まえる態勢と魔道具の確認をするためだ。魔道具を使っていることが分かり次第、僕はその魔法を妨害する。

 ヒュードさんには相手がぼろを出すまで頑張ってもらおう。


 コンコン


 僕が考えている間にノック音が静かな部屋に響いた。

 ヒュードさんが返事をせずに黙っているとか数人の男が入ってきた。


「失礼します。お久しぶりですね、ヒュード様」


 そう言って入ってきたのは黒い服を着た二人組だった。情報通りの服装で水色の髪と茶色の髪を総髪(オールバック)にしている。見た目は前世で言うとセールスマンのような感じだ。声は猫撫で声のような感じでねっちゃりとした感じがする。

 チラッと見えたドアの奥には屈強そうな男が見えた。見たことのある様な顔だった気がしたけど気のせいだと思う。

 僕の知り合いで筋肉マッチョなのはロンジスタさんぐらいだからね。


「おや? そちらのお子様は誰でしょうか?」


 水色がそう訊いてきた。と、同時に魔力波を感じたから、『妨害(ジャミング)』で打ち消す。同時に茶色の表情に変化が見れた。


「ああ、この子は私の知人の息子でして少しの間預かることになったんです。私があなた方に合うことを話すと、あなた方にどうしても会いたいと言われまして、迷惑を掛けないということで私が折れてしまったんです。ご迷惑でしょうか?」

「い、いや、迷惑ではありませんが、見ていて楽しいものでは……」


 水色が迷惑そうな感じで言った。茶色は笑顔だけど気配が不穏だ。

 水色が主に話していくそうだ。茶色が魔道具を持っていると思っていいだろう。


 水色が断る前にヒュードさんは畳みかける。


「何やら情報も持っているそうなのですが……。王都の商人なら知っておいたほうがいい情報らしいのですが、あなた方に合わせてくれないと教えてくれないそうなので……」

「そ、そうなのですか? ですが、私どもは商人ではないので……」

「いえ、商人が、ではなく、王都に住む商売をする者でして。有益な情報というよりは不穏、危険な情報らしいです。気を付けておかないと商売が出来なくなる可能性もあるそうなのです。それに、あなた方の商会には商人もおられるでしょう? でないと、商人ギルドで商会を作ることが出来ませんからね。商人ギルドを通さない商会や商売は犯罪ですから、見つかり次第捕まってしまいますよ。捕まってしまうと最悪打ち首ですからね。まあ、そんなことでその商人さんにその情報をお教えさせてあげてもよろしいのでは?」


 ヒュードさんは体を近づけて、さらに畳みかける。


「いやー、既に知って「なんでもその情報はこの子が極秘に仕入れた情報みたいなのです。偶々大通りを外れて歩いていた時に路地裏で変な会話を聞いたみたいなんですよ。その情報はご両親にも話していないようなので、この情報は拡散していないと思いますよ?」……」


 ヒュードさんは水色に話すらさせないつもりだ。

 茶色は表情を変えずにいるけど、雰囲気が悪くなってきている。


「ですから、今聞いておかないと商人さんは相当な痛手を受けてしまうかもしれません。もちろん商人さんだけでなく、あなた方の商会も、ですが。ですから、聞いておいた方がいいと思います。聞いたとしても何も損はないのですからいいのでは?」

「……えー、そのー……」

「あ、聞きたくないのであればもちろん聞かなくていいですよ。ですが、この子の情報は私も知ることが出来ません。これで、私が被害に遭った場合、あなた方に被害請求をしますよ? 私はそちらの方が儲かりそうな気がしますから、構いませんが」


 満面の笑みで近づけていた顔を話して椅子に座り直すヒュードさん。

 ヒュードさんが黒い……。

 っていうか、被害請求って何だ? そんなので被害請求が出来たら、この世界は嘘だらけだよ。

 僕は笑いそうになっているけど、最初から笑顔にしているから本心で笑っても変わらない。

 因みにセドリックさんはそうなのかと思っている。

 そんなことまで頭が回らないのか水色と茶色は焦ったように承諾した。


「い、いえ! ぜひ、聞かせてください!」

「そ、そうですよ! 知らないより知っている方が得ですから!」


 二人は座っていた椅子を後ろに倒しながら、前のめりになって言った。

 初めて茶色の声が聞けた。思ったより普通の声だ。


「そうですよね。情報は生き物ですから。旬を逃せば儲けは出ず、破滅に向かっていきます。旬を押さえられない商人は三流、四流もいいところです。この情報の旬は今なんですよ。知っておかないと破滅に向かいますからね」

「そ、そうですよね」

「お、俺達は運がいいんだな」

「はい、そうですよ。綱・縁も商人にとっては強い武器となりますから。太い・広いほど情報は多く集まりますし、精度も上がりますからね。今回の場合は儲け話ではありませんが、注意情報なので騙されたとしてもあまり損はないと思います」


 ヒュードさんは二人に僕の話を聞かせることに成功したみたいだ。

 ここからは僕の仕事だ。水色に『同調』を行って思考を読み取っていく。


「では、お願いするね」

「うん、いいよ。おじさん、よく聞いていてね」


(お、おじさんだと……! 俺はまだ二十代だ! その情報が屑だったらタダじゃおかねえぞ、このガキが!)


 感度良好。


「えっと、僕が見た人は黒い服を着た人達だったの。会話は、

『あいつ等も不運だな。俺達に目を付けられるなんてよー』

『そうだぜ、額は少ねえが遊ぶには丁度いい』

『そうだが、お前考えたなー。借金の仲介役を引き受け嘘の返済額を言って、金を巻き上げるなんてよー』

『そうだろ、そうだろ。だが、この魔道具がなければ出来なかったことだからな。魔道具様様だぜ』

『ああ、本当だな。返済する奴もおもしれえが、操られている奴の顔を見ていると本当に面白いぜ。金を受け取っていると思っているんだからなー』

『ああ、本当だ。無いものを受け取っているんだからな』

だったはずだよ。

 だからね、おじさん達も騙されないようにしないといけないと思う。それに、おじさん達は仲介をしているんでしょ? なら、こんな人達が出てきたら、おじさん達の商売はあがったりだよ?」

「うん、そうだね。シュン君、ありがとう。――あなた方もわかりましたか? 聞いていてよかったですね。もしこの噂が広まり、あなた方が仲介を申し出ていたらこの商売が出来なくなっていたでしょうから。最悪、捕まっていましたよ?」

「え、ええ、助かりました」


 水色の頬は引き攣っている。もちろん茶色もだ。


(な、あれを聞いていたのか! ちっ、拙いな……バラすか)


 まさかの的中。

 適当に考えたことだったのに合っているとは……。


「あれれ~、ちょっと待って」

「どうしたんだい? シュン君」

「いやね、このおじさん達も黒い服を着ているからどうなのかな? って思ったんだ」


(はっ!? このクソガキっ! いらんことばかり言いやがって、覚えていろよ……)


 どこぞのチンピラか、お前は。


「い、いやだなー、僕? おじさん達がそんなことをするわけないじゃないか。は、ははは……」

「そうだよ。仮に、おじさん達が犯人だったら君の命が危なくなるんだよ? 滅多なことを言うもんじゃない」


 水色は後ろ頭を掻きながらどもり、茶色は半分脅しをかけながら言った。


「大丈夫だよ! だって、僕は強いんだよ! 魔法だって使えるんだ! おじさん達なんて瞬殺しちゃうんだから!」


 僕は内心では笑い転げそうになりながら、怒った真似をした。


(ハンっ! ガキが調子にのんじゃねえよ。てめえなんかに負けるか、ボケが。これでも、Dランクの実力があるんだよ)


 へぇー、水色はDランクの実力なのか。茶色も同じくらいかな?

 まあ、DでもCでもそのぐらいの実力だと、僕にとってはあまり大差がないけどね。


「ああ、おじさん達弱いからなー。あっという間に負けちゃうよ。だから、おじさん達には優しくしてあげるね」

「うん、いいよ。優しくしてあげる。おじさん達には攻撃しないよ」

「ありがとう、坊や」


 うん、攻撃はしない。……物理攻撃はね。


(こんなガキ相手に時間を食っている場合じゃねえ。早くしねえと頭にどやされちまう。早く幹部になりてえぜ)


 ふーん、『頭』と『幹部』、ね。

 こいつらが居る組織は大きいみたいだな。少なくともこいつらは下っ端で、その上に二つの階級があると。

 そうすると、最低でも頭と幹部が三人いるとしてその下に十数人は下っ端がいる感じになるか。少なくて五十人規模、多くて数百規模だな。


(おい、そろそろ、引き上げるぞ。とっとと魔道具を使え)


 水色が小さく茶色を肘で突き、次の段階に促そうとする。


(……は? 使えない? お前は何言ってんだ。壊れたとか言うんじゃねえだろうな)


 が、僕が妨害をしているから魔道具が発動しない。


「ええ、では返済額の話に移りましょうか」


(……壊れていない? じゃあなんでだ! この状況をどうするんだ! 今俺達が捕まってみろ、頭が引き受けている依頼に支障が出るかもしれねえ。最悪、俺達は殺されるぞ!)


 その頭は誰かの依頼を受けているのか。しかもその依頼は計画が組まれているか、緻密で少しでも歪みがあると困るみたいだ。

 依頼主は金持ちか身分の高い人だろう。まあ、両方だろうが。

 冒険者ギルドに通せない依頼をこいつらみたいな影の連中に頼むのはそれぐらいの奴じゃないと無理だ。隠す意味もないし。隠さないと自分の身が、身分が危なくなるということだ。


「返済額はどのくらいにしましょうか?」

「その前に聞きたいのですが、最近のセドの様子はどうですか? そこを聞いてどのくらい上げるかどうか決めたいと思います。最近、まじめに料理を作っているとか、高ランクの冒険者が依頼を受けて投資をしてくれているとか、そんな風の噂を聞いたもので……。で、最近の様子はいかほどで?」


 ヒュードさんは二人を追い込む。

 二人は額に玉のような汗を浮かべている。顎に垂れて来た冷汗を拭おうとするが体が震え間に合わず、ポタリと机の上に滴り落ちた。


「さ、最近ですか……。そ、そうですね、私どもが確認したところ、そ、それほど変わっていないようでした。外には出ていないようですが、店の中で何をしているのか分からない状況でして……」


(こいつ……。くだらないことを聞いてんじゃねえよ。俺達は早く帰りてえんだよ)


「ま、まさか、死んでいるとか言わないですよね! 私はあなた方を信用して任せたんですよ! あなた方に任せればしっかり取り立てられる。逃げられる心配もない。と、言ったのはあなた方ですよ! これで死んでいたら、あなた方は人殺しだ! それに、最後に高ランク冒険者を雇ったというのが本当だとしたら、今頃冒険者ギルドに連絡が行っているかも……」


 ヒュードさんは親友の死に激怒したり、顔を両手で覆い悲しんだり、青い顔で二人の未来を憐れんだりと表情をころころ変えた。

 セドリックさんはそれをジト目で見ている。


(くっ、言いたい放題言いやがって……。お前らは黙って俺達に貢いでいればいいものを。このクソガキのせいで完璧な計画がおじゃんじゃねえか)


 どこが完璧な計画だよ。穴だらけじゃないか。


「い、いえ、お亡くなりにはなっておりません」

「え? どうしてわかるの? お店の中の様子はわからないんだよね? なら、死んでいるんじゃ……。あ、ヒュードさんごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃないんだ」

「うんうん、わかっているよ。僕のことを心配してくれたんだね。ありがとう、シュン君」


 僕が慌てながら悲しそうな顔で謝ると、ヒュードさんは慈愛に満ちた微笑みで僕のことを撫でる。

 内心、僕達は笑っているけど……。


(くっそ! こ、い、つ、ら……いい加減にしやがれ! おい、もうこんな奴らに構っていられねえ! ここからずらかるぞ)


 おっと、危ない。

 このまま帰らせるわけにはいかないからな。


「何を言うのですか! 私どもの言うことが信用できないと? もういいです。あなたの契約を切らせてもらいます。そこで発生する違約金大金貨一枚を払ってもらいます」


 水色は手を差し出し、訳の分からないことを言ってきた。

 は? 何言ってんのこいつ。

 僕は訳が分からずヒュードさんの顔を見たが、ヒュードさんも訳が分かっていない。


「ヒュードさん、違約金ってなーに?」


 ヒュードさんは僕の顔を見て驚いた感じになったけど、僕の質問の真意を読み取ると僕に乗っかってきた。


「え? あ、ああ、違約金っていうのは契約書に書かれた内容とは違うことをした、契約を完了する前に破棄した時に取られる罰金のことだよ。例えば、『アプルの実をキロ単価銅貨五枚で払います』という契約書を書いた、契約したのに買い取る側は『傷んでいる』、『このぐらいでいいよな』とかいちゃもんをつけて値段を下げた時に発生するんだ。他にも買う側が『余所で買うことにした』と一方的に契約を切った時等もそうなるね。違約金は予め契約書に書いてあるものだよ」

「ふーん、そうなんだ」


 知っているけど。


「あれー? でもそれって、アプルの実を買う人が違約金を払うんだよね」

「うん、そうなるね。売る側はしっかりと運んできたわけだし、何処をどう見ても傷んでいないし新鮮な状態だったからね。違約金を払うのはどう考えても買う側となるよ」

「え、で、でも、このおじさんが言っているのは違うよ? ヒュードさんが売る側でおじさん達が買う側になるよね。おじさん達が一方的に契約を破棄するって言っているんだから」

「あ、おお、そうだね。シュン君、ありがとう。『また』、騙されるところだったよ」

「よかったね、ヒュードさん。『また』、騙されなくて」

「うんうん、『また』、騙されなくてよかったよ」


 僕とヒュードさんは会話を続ける。

 水色と茶色は顔を真っ赤にさせてわなわなと震えている。握り込んでいる拳は肉に食い込み血が流れ出そうだ。


「ふざけるなーっ! お前達! 入ってきてこいつらをぶち殺せ!」


 怒りで我を忘れた水色は机を力いっぱい殴りつけると、部屋の外で待機している筋肉達に怒声を浴びせた。

 バンッ、と勢いよく開けられたドアから入ってきたのは屈強な男を先頭にした五人だった。ハンマー持ちの大男と剣持ちが二人、魔法使いが一人、盗賊が一人だ。


「て、てめえは、あん時のクソガキ……」


 先頭にいる金属製のハンマーを背中に背負った大男が顔を真っ赤にさせ、唾を巻き散らしながら僕の方を指差して言った。


 え? だ、誰? あんな醜い知り合いなんていたっけ?

 この人は僕のことを吸っているみたいだけど……僕は知らないし、会ったことないんじゃないかな?


「覚えていねぇとはいわせねぇぞ……」

「そうだ。俺達が味わった屈辱を……」

「お前にも味わせてやる……」


 大男とその背後にいる魔法使いと盗賊風の男が怒気を孕んだ声で威嚇してきた。

が、僕には身に覚えがない。


「シュ、シュン君? 知り合いなのかい?」


 僕が体を左右に振りながら両腕を組んで唸っていると、ヒュードさんが顔を近づけて訊いてきた。


「うーん、うーん、違うと思います。僕はこんな人達を見た覚えがありません。――おじさん達、僕と誰かを間違えていませんか?」


 僕はこの人達に優しく言う。

 人違いによる羞恥心をなるべく感じさせないように言ったつもりだったけど、この人達は顔が茹で上がるほど真っ赤にさせた。手前にいる大男は顔色が赤黒くなってきている。


「ふ、ふ、ふざけるなあぁぁぁッ! てめえのせいで俺達がどれだけ苦労したと思っている!」

「ギルドから罰金を科せられ、冒険者ランクは下げられ、街から追い出されたんだぞ!」

「なにもかも全部、お前のせいだッ!」

「俺達に、こんなことをしておいて、知りません、人違いです、だ? 調子に乗るなよ!」


 三人が今にも襲い掛かってきそうな感じになった。

 それを見ていた水色と茶色達は呆気にとられ毒気が抜かれていたけど、我に返って破落戸共に命令を下した。


「お、お前達! 何をしている! どうでもいいことを話していないで、早くそいつらを殺せ!」


 水色がそう吠えると破落戸共は互いに顔を見合わせてオ、オオォォォっ! と、野太い奇声を上げて武器を片手に襲い掛かってきた。


「ヒュードさんとセドリックさんは僕の後ろへ」

「う、うん!」


 二人を僕の後ろへ下がらせると、僕はそれほど広くない室内の中で襲い掛かってくる五人と相対する。


「死ねやぁーッ! クソガキがあぁぁぁッ!」


 一番近くにいた大男が巨大なハンマーを振り上げ、目の前の邪魔な机を破壊しようとして来た。僕は右手を突き出して圧縮した魔力の塊、『魔力弾』を顎に当てる。脳が揺さ振られた大男は勢いを殺されず、後方にいた二人を巻き込んで後ろの壁にぶつかって昏倒した。

 魔法使いは唱えていた呪文を邪魔され、盗賊は大男の陰に隠れていたため状況が分からず巻き込まれた。


 僕は打ち出すと同時に立ち上がり両手を上に挙げ『物理障壁』を作り出す。同時にガンッ、と衝撃音が響いた。左右から縫うように接近してきた剣士二人による剣撃だ。

 剣士二人は驚愕するが再度斬り付けようと剣を引いた。僕はその瞬間に『物理障壁』を消し、左右の手を二人の鳩尾に向け『魔力弾』を撃ち出す。

 剣士二人は体を捻って躱そうとしたけど、見えない高速の弾丸を避けられず息を吐いて倒れた。


 剣士二人が気を失ったことを確認すると、大男の下敷きとなっていた盗賊が机の死角から飛び上がってきた。僕の首筋の頸動脈を狙って来る両手で水平に構えられた短剣を身体強化した右手で下から跳ね上げ、がら空きとなった腹に左手の魔力を纏った掌底を撃ち付けた。

 掌底の衝撃を盗賊の後ろへ逃がし、撃ち込んだ魔力を盗賊の身体全体に巡らせて戦闘不能にする。


 自身が持つ魔力量以上の魔力を過分に供給・吸収すると魔力が体の中で暴れ、吐気、眩暈、痺れ等の症状が起き、酷い場合昏倒・昏睡、筋肉の断裂や血管破裂による出血、最悪死ぬこともあるがほとんどない。

 僕は魔力感知である程度の魔力量を測っているから、数時間ほど寝てもらうぐらいに絞った。盗賊は魔力量が少ないみたいだからやりやすかった。


 盗賊の身体が倒れていく中、魔法使いの男は詠唱を完成させ魔法名を唱えて魔法を発動させようとしていた。唱えている魔法は水魔法だ。


「『――! ウォーターボール』」


 僕に向けて構えている杖の先から魔力が吹き出し大人の頭大の丸い水玉になった。ただの水玉でも魔力が込められているから当たれば打撲、場所が悪ければ骨折するだろう。

 僕は、僕を狙って飛んでくる水玉に同じ水玉をぶつけて相殺させる。床の上に水が落ちバシャ、と音を立てる。魔法使いの男はさらに魔法を放とうと詠唱を始めているけど、僕はそれを待たずに右手を向けて、『魔力弾』を撃ち出して昏倒させた。


「ひ、ひいいぃぃぃぃぃ!」


 三十秒も掛からなかった戦闘を見て悲鳴の声を上げた水色と茶色は、腰が抜けて尻餅をつき後退った。僕が顔を向けて目が合うと顔を蒼くして悲鳴を上げようとするが、恐怖に支配された二人は歯の根が合わず言葉にならない悲鳴を上げた。


 この後はこの二人に聞くことがあるから、二人が気絶しない程度に魔圧をして言うことを聞かせる。


「おい、椅子に座って質問に答えろ」

「(ふるふるふるふる)」

「もう一度言う。『座れ』」

「は、はいぃぃぃ」


 首を振って抵抗したから、僕は言葉に魔力を込めて命令した。


 魔力を込められた言葉は対象の脳に直接働かせて言うことを聞かせることが出来る。これは詠唱の部分と同じで対象が魔法か人かの差だけだ。言霊とも言ってもいいと思う。


 聞いた二人は本能が座らないといけないと悟り、いくら座りたくない、逃げたいと考えても座ってしまう。格下(魔力と抵抗力)にしか効かないものだけどね。


 僕は微動だにせずに目を逸らして座りながら、嫌な汗を掻きまくっている二人に僕は優しい黒い笑みを浮かべて質問を始める。


「今からお前達にいくつか質問をするから、本当のことを答えろ。嘘を付いたら、痛い目に遭ってもらう。嘘を付いてもすぐにわかるからな?」

「(こくこくこくこく)」


 僕が軽く脅しをかけながら話すと、二人は首が千切れそうなぐらい頭を上下に振った。

 うえ、汚いな。

 汗が飛び散って机が濡れた。


「お前達は何者だ?」

「お、俺達は、ちゅ、仲介業をしている者だ。う、嘘じゃねえ、な」

「あ、ああ、おお俺達の仕事は仲介をすることだ」


(嘘は言ってねえ。本当に仲介をしているからな)


 ふーん、嘘じゃないみたいだね。

 でも、なんの仲介なんだろうか……。


「……嘘じゃないみたいだな」

「あ、当たり前だ」

「次に、お前達はどこの組織の者だ?」

「テ、テオドライ商会の者だ」


(それは言えねえ。言ったら頭に殺されちまう)


 また、頭か……。


「嘘は分かるといっただろう? 本当のことを答えろ」

「い、いいいや、嘘じゃねえって! 本当だって!」

「お、おう。俺達はその商会に所属している。そこの奴が知っているはずだ!」


 茶色がヒュードさんを指さして吠えた。


「ヒュードさん、本当ですか?」

「うん、知っているよ。その商会が商業ギルドに登録されているか確認したからね。そのぐらいのことは商人ならするはずだと思うよ。登録されていなかったら闇商会関係だろうからね」

「わかりました」


 多分、その組織は商業ギルドに登録しているんだろう。表の顔が仲介等の商会で、裏の顔の組織が何らかの依頼を引き受けたといったところだろう。表の依頼だったら頭とは呼ばないだろうし。


「な? な? 本当だっただろう」

「わかっただろう? 俺達を帰してくれ。このことはチャラにしよう。俺達の説明不足、坊主達の挑発。お互い様だよな?」

「まあ、そうだな」

「だ、だろ」

「だが、頭とは誰だ? 幹部もいるみたいだな? それなりに大きいみたいだな」


 僕は読み取った情報を少し公開して話す。

 顔は蒼白で恐怖に彩られている笑顔のままだけど、僕がそう言った瞬間に二人の眉がピクリと跳ね上がり、笑顔が固まった。


「も、もちろん、商会の会長のことだ。幹部は各担当の上役のことだ」

「ふーん。……嘘じゃないみたいだな。それでは、なぜ頭に殺されるんだ? このまま、時間が掛かると頭に殺されるんだよな?」


(な、なんで知っているんだ!)


「お、お俺達そんなこと言ったか?」

「頭が何か依頼を受けているんだよな? お偉いさんからの緊急依頼なんだよな?」


(な、何なんだこのガキは! 何でそんなことを知っているんだ!)


「殺される? 会長が受けたお偉いさんからの依頼? すまんが何を言っているのかわからないな」


 水色は引き攣った笑みを浮かべて答えた。

 まだシラを切るつもりか。


「お前らの依頼もわかっているんだぞ? 僕がばらしてもいいのか? それが嫌だったら、お前らの所属組織を言え」

「ぐっ、くぅッ……」


(言えるわけがねえ……。裏ギルド『地獄の三つ首番犬(ヘル・ケルベロス)』なんてよ……。く、こうなったらあいつだけでも殺して店の地下にある依頼品を……)


 あいつっていうのは多分セドリックさんだろうな。お店の地下って言っているし。だけど、あのお店に地下室なんてあったかな?

 これが終わったらセドリックさんに聞いてみよう。


「依頼品はあの店の地下にあるんだな。今度改めさせてもらおう」

「なっ! 何で、わかっ……ま、まま、まさか……」

「おめでとう、正解だよ。僕は君達の考えを読んでいました。まあ、正解しても賞品はないけどね。だけど、良い情報が得られたよ。君達の存在、組織、簡単な構成、依頼品の場所、被害者とかね。あと、お前達はあの人を殺せないよ? ここにいるから」


 僕はそう言ってセドリックさんに掛けていた魔法を解除した。

 僕は作戦内容や得たことを全てこの二人に暴露してあげた。

 セドリックさんが急に現れたように見えた二人は暴露された以上の驚愕となっていた。二人はセドリックさんの方を見たまま固まり、青褪めて白くなっていた顔を赤く怒りの籠った表情へと変えていく。


「雇った残りの破落戸がお店の周りで待機しているんだろうけど、お店には物理結界を張っているから、僕の許可がない人は誰も入れないよ? 残念だったね」


 僕は顔に極上の挑発する笑みを浮かべて更にネタ晴らしをする。すると、二人の顔は見る見るうちに憤怒の色に染まった。


「それに、お前達は僕に勝てると思っているのか? あんな破落戸が何百人いても、僕には掠り傷一つ付けることも出来ないぞ。触ることすらできないだろうな」


 空を飛べば攻撃が届かない。そして、範囲魔法をぶっ放す。これ最強だ。

 二人は先ほどの光景を思い出し、体をぶるり、と震わせた。


 それにしても裏ギルドか……そんなギルドがあるんだ。初めて知った。

 でも、裏ギルドって何だろう?

 んー、語感から感じるのは犯罪系の依頼を受けるっていう感じかな。もしくは、国の暗部? みたいな? 

 というよりも、名前からして良いギルドではないね。


「ヒュードさん、裏ギルドって何ですか?」


 目の前の二人が息を飲み、目を見開いて驚愕の表情になる。


「裏ギルドっていうのは、簡単に言えば犯罪ギルドのことだよ。窃盗や強盗、殺人等非合法の依頼を受けるギルドだね。小さな村や町にはないけど、ガラリア等の大きな街や王都には必ずあるものだよ。街よりも確実に王都の方が、勢力が大きく手広く行っているね」

「そうなんですか。その裏ギルドで『地獄の三つ首番犬』というギルドを聞いたことがありますか?」


 僕は二人を横目に言う。

 二人はこれから待ち受けている想像上の重圧と目の前で繰り広げられている公開処刑のような会話の恐怖の圧迫に負け、眼の焦点が合わなくなっていた。口から小さな白い泡を吹き始め、今にも卒倒しそうだ。


「あるよ。王都に住む人なら誰でも知っている名前だよ。強盗や殺人だけじゃなく誘拐、密売、改竄あらゆる犯罪を、この王都を中心に行っているギルドだったはず。捕まえようにも、ギルドの場所が分からない。他にも構成員、勢力、頂点の名前等ほとんどわかっていないんだ。証拠も残さなくて尻尾を掴ませてくれないんだ。いつもいつも、トカゲの尻尾切りという状態で国も手を焼いているんだ」


 僕の思っているものと合っていたみたいだ。でも、ほとんどのことが分かっていないのか。

まあ、でもこいつらに聞けばわかることだからどうでもいいことだな。


「おい、『目を覚ませ』」

「は、はいぃぃぃ」

「お前達は『地獄の三つ首番犬』で間違いないな? お前達のギルドの場所を教えろ。教えるのなら、解放してやってもいい」

「ほ、本当だろうな!」

「ああ、約束は守るから安心しろ。そんな、顔をするな。僕は既に約束を守っている。お前達に攻撃をしないという約束を守っているだろう?」


 僕がそういうと二人は見るからに安堵した。


「お、俺達の「ば、馬鹿言うな! 俺達、殺されちまう!」何言っているんだ! 今も殺されそうだろうが! こうなったら何もかもぶちまけてやる!」


 自暴自棄になった水色を茶色が止めようとするが、自棄(やけ)になった水色はそんなことお構いなしだ。


「おい、言うのか? 言わないのか? どっちだ」

「あ、ああ、俺達のギルドはここ第二区画のスラム街にある。スラム街にある唯一の酒場だからすぐにわかるはずだ。ギルドはその地下にある。……本当に解放してくれるんだろうな」


 嘘は言っていないみたいだな。


「ああ、してやる。だが、一つだけ条件がある」

「そ、それは何だ……」

「いや、お前達の頭に伝言を頼もうかと思っただけだ。『首を洗って待っていろ。僕の知り合いに手を出したことを後悔させてやる』と伝えてくれればいい。伝え方は手紙でも何でもいい。……どうだ? やってくれるか?」

「い、いや……そ、それは……」


 伝え方は何でもいいと言っているのに、水色は食い下がろうとする。


「なんだったら支度金に中金貨一枚をくれてやる」


 僕はそう言って水色に中金貨一枚を指で弾いて渡した。

 水色は震える手で大袈裟にキャッチすると光に当てて本物かどうか確かめる。隣にいる茶色が覗き込み一言「本物かよ……」と呟いていた。


「……わ、わかった。伝えるから、解放してくれ。解放した後に殺すとか言うんじゃないだろうな?」

「そんなことはしない。……殺してほしいのか?」

「い、いや! 殺さないのならいい! 殺さないでくれ!」


 水色は必死に頭を下げて懇願する。

 茶色は複雑な心境でそれを見ている。


「だけど、伝えなかったら地の果てまで殺しに行くからな。信じるかどうかはお前たち次第だけど、僕はAランク冒険者だ。この辺りのギルドマスターとも顔見知りの存在だからな。そこを考えて伝えるか決めるんだ」

「絶対に伝える! だから、ここは見逃してくれ! 頼む! お、お前も言え!」

「あ、ああ、坊主、後生の頼みだ!」


 二人は椅子から飛び降りると、濡れている床の上に服が濡れるのもお構いなしに土下座をした。

 この世界にも土下座ってあったんだ。


「セドリックさんはこれでいいですか? 過分に払っていたお金やされていた恨みを晴らしたいかもしれませんが、今この二人を捕まえると今まで以上の騒ぎになりそうなので我慢してくれませんか?」

「うーん、まあ、いいよ。シュン君が居なかったら解決しなかったことだし、僕だけだとお金が返せないと思うからね」

「シュン君、僕も反対はしないよ。少し損をするけど後で、セドのお店の食材仕入れと商談をさせてくれればそれでいいよ」


 ヒュードさんは抜かりがない。さすが商人だな。


「わかりました。――そう言うことだからお前達、もう帰っていいぞ。伝言をしっかりと伝えろよ?」

「は、はい! すみませんでした!」


 二人はすぐに立ち上がると頭を下げて風のようにこの場から消えた。辺りに残されたのは僕達とのびている破落戸五人だけだ。

 ロープで縛り上げた後、この五人のギルドカードを取り出して、アイネさんに渡しておくか。いきさつも一緒に。


 セドリックさんとヒュードさんの商談はスムーズに行われた。僕が関わることじゃないから僕はこの会話に入っていない。ただ、何がいるかは僕が言ったけど。

 まあ、これで食材を買うのに邪魔されなくなったからいいと思う。腐っていたりしたのは奴らのせいだろうからな。


 僕は二人が商談をしている間に、セドリックさんのお店の周りに潜んでいる破落戸を魔力感知で探し、見つけ次第仕留めていった。全部で六人だった。




 セドリックさん達三人で十一人を近くにある詰所に持っていき、恐喝、暴力等の犯罪と『地獄の三つ首番犬』との繋がりがあるかもしれないことを伝えた。

 詰所にいた兵士は僕達の情報に驚き、すぐに調査をしてくれた。確かめる方法は真偽の魔道具を使う。この魔道具を触って質問に答えると言っていることが本当かどうか確かめることが出来る優れものだ。

 僕達が取り調べを済ませると、目を覚ました破落戸の取り調べが始まった。最初に内はごねてごねて喚き散らしていた破落戸も僕のことを見て恐怖に染まると観念したのか、兵士さんに縋りながら助けを求めしゃべりだした。


 が、こいつらの繋がりはあの二人だけだったみたいで結局、進展はほぼなかったようだ。

 だけど、この十一人の犯罪が暴かれ、この十一人は冒険者ギルドの脱退・使用禁止、高額の罰金となり、犯罪奴隷として鉱山で十年間以上の無給労働となった。

途中、目を覚ました大男が僕に散々罵倒し続けたけど、偉そうな兵士が持っていた剣を喉元に突き付け一喝すると、開いていた口を閉ざした。


 罰金額は騙された金額プラスこいつらの所持金と犯罪者捕縛の賞金大金貨二枚、二千万円だ。この中には情報料も入っているらしい。

 セドリックさんはこのお金でヒュードさんに借りていたお金を返済し、残った中金貨二枚をお店の投資として使うことになった。

 僕に返そうとしていたけど、まだお金がかかりそうだし、お店が軌道に乗るまで受け取れないというとあっさり引き下がってくれた。




 僕はセドリックさんを無事に送り届けると冒険者ギルドに向かった。


「ミルファさん」

「あら、シュン君、久しぶりね。依頼、大丈夫だった? 体調を崩していない?」


 ターニャさんといい、ミルファさんといいどうしてこんなに心配するんだろう? 

 いや、心配されるのはうれしいんだけどね。なんかこう、過保護っていうかね、やり過ぎ感がすごく感じるんだよね。


「いえ、依頼の方は順調に進んでいますよ。それで、今日はその依頼に関することでアイネさんにお話があります。取り次いでくれますか?」

「わかったわ。じゃ、付いて来て」


 僕はアポなしでギルマスに合えるようになったみたいだ。

 今日は絡んでくる人がいない。というより、朝の冒険者ラッシュ時刻が過ぎているから、冒険者の数が少なくて僕のランクを知っている人ばかりだったみたいだ。


「失礼します。Aランク冒険者シュンが依頼の件で話があるそうです。時間はよろしいでしょうか」

「ああ、入って」

「じゃ、シュン君、入ってもいいよ」


 僕は五日ぶりにこの部屋に入る。前の時とほとんど変わっていない部屋だ。

 アイネさんは椅子に座り机に向かって仕事をしていた。すぐに顔を上げて僕に何用か聞いてきた。


「それで、シュンくん。依頼がどうしたのかしら。受けていたのはFランクの依頼だったわよね?」

「調べたんですか? 僕が何の依頼を受けたのか」

「それはそうよ。だって、あなたはSSランク冒険者だもの。そのぐらいの把握はするわよ」


 僕はそんなものなんだな、と納得してこの五日間に起きた経緯(いきさつ)を細かく話し、破落戸十一人分のギルドカードを渡して兵士に渡してきたことも伝えた。

 それを聞いたアイネさんは大きな溜め息をついて、一言述べた。


「ごめんなさい、シュンくん。私がしっかり管理しておけばよかったのだけれど……」


 アイネさんは申し訳なさそうに頭を下げて来た。


「いえ、気にしないでください。その代り、一つだけお願いがあります」

「いいわよ。さすがに金銭を払ってほしいとかは無理だけど、何でも言ってちょうだい」

「それでは、今回の後始末、『地獄の三つ首門番』の対処については僕、シロが行います。誰も手を出させないでください。もちろんその後の捕縛等の後始末は頼みますが」


 僕がそういうと、アイネさんは息を飲んだ。

 

「――っ!? そ、それは……」


 アイネさんは僕を止めようとして来たけど、この騒動に関しては、僕は引かない。引くことは過去の僕と同じだ。


「僕は、僕の周りが騒がしくなる以上に、僕の親しい人が傷付くのが嫌いです。だから、僕は報復をします。止めないでくださいね?」


 僕はアイネさんの目をじっと見る。

 しばらくするとアイネさんが目を瞑り、息を吐いた。


「仕方ないわね。これは冒険者ギルドからの指名依頼として『幻影の白狐』であるSSランク冒険者シロにお願いします。依頼内容は裏ギルド『地獄の三つ首番犬』の捕縛又は殲滅、組織のトップを殺さずに捕縛してください。ですが、住民に被害が出ないようにすることが条件となります」


 アイネさんは友人に接する顔から、冒険者ギルドの長ギルドマスターの顔になって通る声で言った。


 正式な依頼としてくれるのか。ありがたいな。


 アイネさんがここまでいいかと聞いてきたから、僕は頷いて了承する。


「報酬は前金として中金貨五枚。成功報酬として大金貨五枚。また、構成員の捕縛・殲滅状況、組織のトップの捕縛によって別途報酬を追加することとします。この依頼を引き受けてくれますね」


 前金は準備金といったところだろう。それでも、中金貨五枚は結構するな。それと成功報酬の大金貨五枚か。またたくさん増える。

 規模によってはさらに増えるといったところだな。


「はい、引き受けます」

「では、依頼を受理します。すぐに行かれますか?」

「いえ、今は様子見をします。一応、次は容赦しないという警告文を送りましたから、何かしらの行動があるまで放置します。無かった場合は今受けている依頼に一段落ついてからそれに移ります」


 まあ、絶対にちょっかいを掛けてくると思うけど。

 こういう輩は舐められたと思ったらしつこく付き纏ってくるものだからね。お店には依頼品もあるみたいだし。


「行く時は『念話』で連絡します」

「使えるのでしたね……。『念話』が届き次第、仲間を率いて駆けつけます。それより早く終わった場合は『念話』をしてください」

「わかりました」

「あとで依頼書を発行してミルファに渡しておきます。明日もう一度来てください」


 顔に笑顔を浮かべるといつも通りの雰囲気に戻った。


「わかりました。それまでは、今の依頼に取り組んでおきます」

「依頼は飲食店の手伝いだったわね」

「はい、そうです」

「この依頼は病人が多く出ているという報告が数件上がってきているけど大丈夫そうね」

「はい、今はしっかりと料理を教えているところです。あと、二・三週間すれば開店できると思います。……あ、今度食べに来ませんか? 開店していきなり本番より、予行練習があったほうがいいと思うんですが……どうでしょう。他の人達も一緒に。もちろん、お代は受け取りませんよ。その代わりと言ってはなんですけど、感想を聞かせてもらえればうれしいですね」


 いい考えかもしれない。

 いきなり本番だとテンパって失敗するかもしれないし、不十分だったところの反省や追加をすることが出来るからね。


 アイネさんは床を向いて少し考える仕草をすると、顔に笑みを浮かべて了承してくれた。


「いいわよ。準備が出来たら教えてくれる? 人数はどのくらいがいいかしら」

「そうですねー……男女含めて五人ずつ、計十人といったところでしょうか。料理はあまり重たい物は置いていません。あっさりとした女性向けの物や軽食とデザートが主です。あと、お酒類もですね」

「そう、わかったわ。準備が出来たら教えてね」

「はい、お昼、昼食として呼んでもいいですか?」

「うん、それでいいわ」

「わかりました。これで、用もないのでこれで失礼しますね」


 言いたいことを言い終えた僕はギルマス室を後にした。



         ◇◆◇



 ドガァン


 薄暗い部屋の中にあったボロの円卓が、風貌の悪い男の蹴りによって破壊された。


 男は返り血で染まった赤黒いバンダナを頭に巻き、擦り切れたシャツの上に薄汚れたチョッキのようなものを着ている。穿いているズボンは穴が空き、返り血が点々と付着している。

 極悪人のような角ばったごつい顔で、顔の右側には三本の傷跡があり眼帯をしている。腰に帯びている剣はサーベルのような形で抜き身状態だ。


「ふざけるな、どういうことだァーッ! 説明しやがれッ!」

「ま、まあ、落ち着いてくださいな。お頭」

「アアアァ! これが落ち着いていられるかッ! 舐めやがって、言ってきた奴はどこのどいつだァッ!」


 宥めようとした男を振りほどいたお頭は立ち上がると座っていた椅子を蹴り飛ばし、破壊した。

 この部屋の中には他にも数名の男がいる。どの男もお頭と呼ばれた者の怒りに身を竦ませて縮こまっていた。喉からか細い悲鳴を漏らし、全身に鳥肌が立ち、お頭の手によっていつ自分の命が消えるかと怯えているのだ。

 理不尽に感じるかもしれないが、ここでの命はお頭の気分一つで変わるのだから仕方がない。


 なぜ、このお頭がここまで怒っているかというと、先ほど齎された情報が原因となっている。




「ガハハハ、上手くいったなぁ、おいぃ。あとは依頼品の回収して貴族様に届けるだけってか? ああ?」


 引き受けた依頼が順調に進んでいたお頭は酒瓶を片手に上機嫌になっていた。赤く上気している顔は相当泥酔していることを差しているように見える。


「ええ、なんとか計画通りに進行中です。ですが、まだ回収するまでに時間が掛かりそうです」

「ああ? なぜだ?」

「我々が隠している場所の土地を買われてしまったようです。現在、その持ち主と交渉中ということなのですが……嘘でしょう。恐らく、ちまちまと金を巻き上げながら、遊んでいると思われます」


 お頭の右後ろで淡々と報告書を読み上げていた男がそう言うと、お頭は酒を煽るのをやめてその男を見上げた。


「はぁ? そりゃあ一体どういうことだ? 今回の依頼は迅速に行えと言ったはずだ。なぜ、時間をかけようとする? そいつらは死にてえのか?」

「幹部報告によると回収部隊は表向き仲介業の者が行っているようです。その中でも新人が交渉中とのこと。そのため末端まで指示が行届いていないようです。このスピードですと、あと数か月はかかるかと」


 それを聞いたお頭は顔を真っ赤にさせて怒鳴り出す。


「ふざけるな! 後三か月もねえんだぞ!? そいつらを今すぐ、ここに呼び出せ! 俺様が切り殺してやるッ!」

「て、てて、て、てえへんでえぇ! お頭あぁぁーっ! こ、ここれを読んで下せえ!」


 お頭が怒鳴り散らし控えていた者達に指示を飛ばしていたところに一人の三下っぽい男がつっかえながら這いずり駆け込んできた。

 息を絶え絶えに持ち上げた右手に握られていたのはハガキほどの大きさに折り畳まれた紙だった。


 近くに控えていた者がその紙を取り、お頭の元へ持っていく。

 お頭がその折り畳まれた紙を開いて読み始めると、お頭の顔が徐々にどす黒く怒りの色に染まっていった。


「この手紙を持ってきた奴はどいつだ! すぐに連れて来い!」

「は、はい!」


 慌てて出て行った男を一瞥して、お頭はもう一度手紙を読む。

 手紙にはこう書かれていた。


『首を洗って待っていろ。僕の知り合いに手を出したことを後悔させてやる』


 と。

 その他にも依頼品の回収失敗と隠し場所には高ランクの冒険者が雇われたこと等が事細かく書かれていた。


「つ、連れて来ました!」

「おい! お前、これは一体どういうことだ。返答次第では殺すぞ」


 お頭は憤怒の形相で連れられてきた男に訊ねた。

 連れられて来た男は怯えながらもお頭の様子と手に持つ紙で状況を把握した。


「そ、その手紙はお、俺の同僚から渡されたものです! ふ、二人いたのですが、二人とも顔を青褪めさせて『この手紙をお頭に頼む。くれぐれも誰にも見せないようにしてくれ。まだ、俺は死にたくねえ。いいな、絶対だぞ。いいな!』と再三言われて渡されました! 二人ともこの世の終わりを見たかのように怯え、震えていました!」

「アアアァァッ!?」

「まあ、待ってください。お頭」


 斬り殺そうとしたお頭を後ろに控えていた男が止めた。お頭は睨むようにその男を見てドカッ、と椅子に座りなおした。

 連れられて来た男はお頭の怒気と恐怖に支配され、失禁していた。


「その二人とは仲介役で回収部隊の者ですか?」


 背後の男がお頭の代わりに柔和に質問する。

 恐怖に支配されていた男は少しだけ心に平穏を取り戻すことに成功し、ぽつぽつとどもりながら答える。


「は、ははい、そ、そそそうです」

「その二人を連れて来ることはできますか?」

「い、いえ、それは無理だと思われ「ああん?」ひぃぅっ」

「なぜ?」

「その二人は、俺に手紙を渡すとお、王都の外へ逃げて行きました! ど、何処に行ったのか分かりません」


 背後の男が質問する度にお頭がキレ、連れられて来た男は悲鳴を上げる。そのやり取りが数回行われ、最後の質問に入ろうとしていた。


「最後にその二人は何か言っていませんでしたか?」

「い、いや、特に……い、いえ! 言っていました!」

「それは何と?」

「た、確か、うわ言のように『子供が……』と言っていました」

「子供、ですか……あ、もういいですよ。下がってください。ご苦労様でした」

「し、し失礼しました」


 連れられて来た男は立ち上がると一目散にこの部屋から出て行った。背後の男は虚空を見つめ顎に手を当てて考えるような仕草をする。


「クソがああぁぁぁッ! どうすんだ! あれを集めるためにどんだけ金をかけたと思っているんだ! アアアァァッー、クソがアアァァァァァッ!」


 これがあの状況へと繋がる。


「どこの誰かはわかりませんが、その人物の目星は既に済んでいます」

「なにぃー? それは本当か!」

「ええ。恐らく、最近噂となっている『幻影の白狐』でしょう。なんでも、今王都に千人以上いるそうですから。聞いた情報からも特徴が一致するものがありました」


 背後の男は正解を答えた。

 が、誰もそれを信じようとしないようだ。


「ぶっ、ガハハハ、そんなわけがねえだろうが! お前はあの噂を信じてんのか? あの噂は嘘に決まってんじゃねえか」

「そ、そですよ。参謀は何を言ってるんスか」

「お、俺達を、わ、笑い死にさせるつもりで?」

「前に参謀も信用できないと言っていたじゃないですか」


 お頭達は室内に笑い声が反響するほどの音量で笑う。

 背後の男、参謀は眉間を揉みながら溜め息を吐くと、笑い転げている者達に向けて注意した。


「はぁー、まあ、私もあまり信じてはいませんが……。だからと言って、油断していてはいけません。噂が出回るということはそれに近しい人物がいるということです! 気を引き締めなさい!

 これからのテコ入れをしますから、指示通りに動いてください。回収部隊の失敗は強襲部隊を加え、悪質な演出を行いその場にいる家主を撤去させなさい。強襲部隊は雇われている高ランク冒険者の足止め。出来ない場合は密かに殺しなさい。

 その後、依頼品の回収次第依頼主の元へ届けます。その後は作戦通りとします。

 時間が残されていません。皆さん、失敗は許されないと自覚しなさい」


 参謀の一言でお頭を含めたこの場に全員が気を引き締め、まじめな顔つきとなった。といっても、これから犯罪を犯そうとしているから、褒められたことではない。



         ◇◆◇


 私はフィノリア・ローゼライ・ハンドラ・シュダリアといいます。今年で九歳となる、ここシュリアル王国の第三王女です。


「はぁー。……本当に出来るようになるの……」


 私は最近の日課となった魔法の練習場へ向かう中、何度目かの溜め息と弱音を吐いた。

 魔法の練習をして数年が経とうとしていますが、私は満足に魔法を行使することが出来ません。毎回毎回魔法が発動した瞬間に掻き消えてしまうのです。

 私は悲しみと絶望の渦に苛まれていきました。


 お父様達はそんな私を見て心を痛めたようで、何人もの方から指導をしてもらいましたが、結果はどれも同じく発動こそすれ、維持が出来ませんでした。


 私は魔法が使えない落ちこぼれであるのにもかかわらず、王位継承権第二位を持っています。それが、疎ましいようで何度も身の危険を感じました。身内にしか伝えられていない原因が他にもあります。


 いったいどこから漏れたのでしょうか?

 私は貰いたくて貰ったわけではないと言うのに。


 この国の王位は女性でも就くことが出来ます。

 継承権は正妻である王妃の子を男子優先として、年長順に順位が決まります。私は王妃の娘で年が離れたお兄様が一人います。なので、私の王位継承権は第二位となるのです。

 その後に義母の子供達が同じ方法で決まります。


 継承順位と生まれた時の順は関係ありません。私が第三王女なのは、義母の子供に義姉が二人いるからです。

 お父様にご兄弟が居られればまた変わりますが、お父様は一人っ子らしいので今回は関係ありません。


 話を戻します。

 私が被害に遭ったのは毒入りの食事、暗殺者との遭遇等です。どれも危機一髪のところで王位継承権第一位であられる実のお兄様や兵士の方が駆けつけてくださり難を逃れて来ました。

 ですが、今回ばかりはどうにもなりません。いくらお父様やお母様の権力が強くとも、お兄様や兵士の方の力が強くともどうにもなりません。


 私は近々開かれる闘技大会が国民に対する初お披露目となります。それは別にいいのですが、その大会の優勝賞品が私なのです。

 なんでも優勝者と私を婚約させ、優勝者が他所の国へ行かないようにさせるための楔だとか。

 まあ、王族と婚約できるのであれば嫌がる人はまずいません。それに、私が言うのもおかしいですが、私は十人いれば十人が振り向くほどの美貌を持っているはずです。……多分ですが。

 ですが、私は恋愛結婚というものに憧れているのです。好きでもない人と結婚なんて……。


 また、優勝者が女性であった場合は帝国へ嫁ぎに行かなくてはいけません。それは、帝国と友好関係を結ぶためだとか。


 私が嫁ぐ先は私と同い年の皇子だったと思います。絵で見たことがあるのですが、はっきり言って私はあの人が嫌いです。

 顔は綺麗だったと思いますが、性格が最低だと聞きます。まだ十一歳だと言うのに女性と関係を持ち、人を道具のように思っています。他にも私が嫌いなところや噂がたくさんあります。

 そんな人と結婚しろ? ふざけないでください。何度も言いますが、私は恋愛結婚がしたいのです。

 その願いが夢のまた夢だとわかっていても……。


 この賞品や嫁ぐことを決めたのは私の義母とその息子達でしょう。前々から私のことを疎んできた者達の筆頭なのです。

 さすがのお父様も義母や息子達、その取り巻きである貴族達から言われたら断れなかったのでしょう。最初なんてなんて言われていたことでしょうか。恐らく、これでもお父様は頑張って下さったのだと思います。


 私はそれが嫌で魔法の特訓をしているのです。魔法が使えないから楔や友好の証という道具と使われるのであれば、使えるようになって認めさせてやろうと思ったのです。

 すでに、お父様がその言質を取っていました。


 ですが、使えるようになりません。進歩すらしません。

 進歩したのは魔力量ぐらいでしょうか。枯渇、気絶、回復、覚醒を繰り返していくうちに魔力量は二十万以上となりました。これは宮廷魔法使いの十倍はあります。

 普通はこんなに伸びないのですが、恐らく私がさるお方から頂いた力が起因しているのでしょう。

 こんな力よりも普通に魔法が使える力が欲しかったと何度も思いました。あ、こんなと言ってはあの方に怒られてしまうかもしれません。

まあ、それはそれでいいかもしれませんが……。


 私の味方はお父様とお兄様、お父様の幼馴染である宰相、騎士団の団長達ぐらいです。それ以外の人達はほとんどの人が私達の敵です。

 あ、でもあの義母の一番下の男の子だけは私の味方をしてくれています。私によく懐いてくれているのです。

 良く抱き付いて来て、その頭を撫でるとにっこりと笑い、その笑顔は太陽のようです。その笑顔がかわいくて母性を刺激されるのです。

 まあ、それもあの義母達からすれば疎ましい原因となっているのでしょう。


 お父様はなぜあのような方とご結婚なされたのでしょうか? お母様はなぜお許しに?

 お父様もお母様も優しいのでそこを狙われたのかもしれませんね。


 そんな私は一週間前からお父様が連れてくるとおっしゃられた英雄様から、魔法の指導を受けています。その英雄様の名前はシロというのです。


私が密かに憧れている、最近王都中で噂の『幻影の白狐』様なのです。憧れていると言いましたが、この気持ちは小さな恋かもしれません。まだ一度もお会いしたことがないのに、なんだか惹かれてしまうのです。


 英雄様に会えると言われたときはとてもうれしかったのです。英雄様は一人だと聞いていたのにお会いした時は四人もおられました。それに女性の方も。

 私は勝手に決めていたようです。そうですよね、英雄が男だと誰が言ったのでしょうか。英雄が男だと思っていたのは固定概念にとらわれていたからですね。


 まあ、男の方もおられるようですし……べ、別にどうでもいいことですよ。男だからと言って好きになるわけではありませんから。私は恋愛結婚です。

 それに、私はこの方達が本物の英雄様だとは思えません。私の直感がそう言っています。証拠はありませんがなんとなくわかるのです。


私は小さな落胆を胸の奥に閉ざして英雄様方に魔法の特訓を受けましたが、英雄様の言われることはどれも今までの方と同じでした。

いくらやっても結果は変わらず……。変わらない私を見て、四人の方から苛立ちや困惑の気配が見えます。

 また、私は罪悪感と無力感の渦に苛まれていきます。


 私が下を向き、憂鬱な気持ちで歩いている内に練習場所となっている中庭に着きました。

 危うく通り過ぎる所でした。

 私は悲しんでいられないと気を引き締めて入ろうとすると、四人の話し声が聞こえてきました。


「うーん。……なぁお前達、王女様が俺達の指導で魔法が使えるようになると思うか? はっきり言うが俺はもう無理だと思う」


 人族の男性が諦めたように言いました。


「そうねー……私はよくわからないわ。なぜ、王女様が魔法を使えないのか。その原因が」

「私もです」

「俺もだな」


 他の三人も理由が分からないようです。

 私は、落胆はしません。

 分かりきっていたことですから。仮に彼らが本物であるのならば出来たかもしれませんが、私の直感では偽物なので無理ということです。

 まあ、この考えはただ単に逃げているだけでしょうけど……。


「どうするよ。あと二日もないんだぜ? もう無理だろう」

「そうよね。私はこれでもBランク冒険者の実力があるのだけれど、さっぱりね」

「冒険者か……いっそうのこと冒険者に依頼すると言うのは」

「何を言っているのですか? 私達は誰にも言わないと誓約したではないですか。死にたいのですか?」


 人族の男性がふざけて言ったであろう言葉に狐の獣人が優しく、きつい言葉で切り伏せました。


「い、いやわかっているさ。ただ、言ってみただけだ」


 男性は逃げ腰になりながら、獣人から距離を取ります。


 冒険者……ですか……。


 それは、勉強した中に出てきた単語のはずです。確か、お金や貴重な素材等を報酬とする代わりに、魔物の討伐や採取をする人のことだったと思います。

 それなら、私でも出来るかもしれません。それに、冒険者はこの方達よりも強いのでしょう。あの方でBランクであるのなら、その上のAランクの冒険者ならば可能かもしれません。


 ですが、どうやって依頼するかが問題です。

 依頼するには報酬が必要ですね。……報酬は私のお小遣いでいいでしょう。

 次に依頼の仕方です。

 これは、隙を突いてここを抜け出すしかありません。誰かにばれたり、言ったりすると絶対に止められるでしょうから。こっそりと抜け出します。


 後は、場所ですね。確か冒険者ギルドという場所に行けば依頼が出来ると言っていたはずですから、その冒険者ギルドがどこにあるのか探さないといけません。

 行くとすれば治安のいい第一区画か第二区画がいいと思います。

お父様が第三区画は娯楽施設が多く危ないと言っていました。第四区画は軍事練習場がたくさんあると言っていたので冒険者ギルドはないと思いますからね。


 もしかしたら、冒険者ギルドで英雄様に会えるかもしれません。だって、今王都に来ているのでしょう? 希望は残っています。


 後は計画を練っていくだけです。

 それまではばれないように頑張っていこうと思います。


 王宮の魔法使いは駄目、頼みの英雄は偽物だし、残された時間の少ない私にはこれしか残っていないのです。


ちゃんと嵌めたようになっていますかね?

書いてて良く分からなくなることが多いので、わからないところは質問してください。訂正させていただくので……。

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