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奴隷と従業員

 向かった先はスラム街の方へ続いている少々物騒な商店街。この商店街は食材を買ったところとはまた、別のところだ。

 物騒と言っても荒くれ者やゴロツキ等が(たむろ)しているところではなく、商店の商品内容やそれらを買い求める人が多いでだけだ。


「本当にこんなところで見つけるのかい?」


 セドリックさんが商店の中や外から聞こえる物騒な声に萎縮しながら訊いてきた。


「まあ、依頼や募集をかければいいですけど、集まるのに時間が掛かりますし教えるのにも時間が掛かりますから。それに、雇った人が辞めると言い出した場合、どうする気ですか?」


 僕は辺りでいいところがないか探しながら答える。


「それもそうなんだけど……」

「僕だって嫌ですよ。人の人生を、命を何してんだっていう感じですが、その制度がないと生きていくことが出来ない人もいますし、犯罪者を捕まえて生かしておくこともできません。人件費で国が潰れます。……あそこなんかいいじゃないですか?」


 僕はそれなりに大きいお店を指さしてセドリックさんに訊ねる。


「悪いことだけでもありません。料理の秘匿をしろとは言いませんが、言いふらしたりされるとお客が減りますよ? その分この方法なら、誓約・命令で口外しないことを誓わせるだけですからね。楽です」


 セドリックさんが頷いたから、僕はセドリックさんを引っ張ってそのお店へ行く。


「はぁー、仕方がないか。よし、僕も覚悟を決めよう」

「その意気です」


 セドリックさんは大きな溜め息を吐くと気を入れ直して僕の隣で歩き始めた。


 僕達が来た商店街は、人を商品として売り買いするお店が建ち並ぶ奴隷市場だ。

 奴隷の商店が両脇にズラッとある。

 種類もまちまちだ。男女種族混合、種族別、男のみ女のみ、戦闘のみ、犯罪奴隷なし等々。


 奴隷は身売りや戦争捕虜等の一般奴隷と罪を犯し法で裁かれたりした犯罪奴隷の二種類に別けられる。

 普通は一般奴隷を商品とし、犯罪奴隷は国が買い取り鉱山発掘等の危険区域で働かされる。子供や軽度の犯罪はそこまでできないから、商品として売られたりする。


 僕達が奴隷を買いに来た理由は従業員を雇うためだ。

 開店するまでに料理人を二人、計算ができる人を一人、料理を運ぶウェーターかウェイトレスを二、三人必要だ。

 最初はギルドに依頼を出して冒険者に受けて貰ったり、バイトを募集しようとしたけど、さっきも言ったようなことが起きてしまうと面白くないから奴隷にしようということになった。


 僕達が向かったお店は大きく、どんな種族も取り寄せているお店だ。店員かどうかわからないけど、店先で客引きをしている男性はそれなりにやりそうだ。


「セドリックさんが進めていってください。僕だと舐められてしまうかもしれませんし、セドリックさんの買い物でもありますから」

「はぁー、やっぱりかい。しょうがない、か。打ち合わせ通りに言っていけばいいんだね?」

「はい、何かあった時は僕が伝えます」

「わかったよ」


 セドリックさんが覚悟を決めたから、僕とセドリックさんは店先の男性に声をかけた。


「すみません。奴隷を買いに来たのですが……」

「はいはいはい、わかりました。それでは、奥に入って指示に従ってください」


 この男性は客引きだけらしい。

 奥に入って行くと綺麗にされたこじんまりとしたロビーに出た。


「はい、どのような奴隷をご所望で?」


 カウンターにいた初老の男性が顔を上げて言った。


「え、あ、その、料理を任せられる奴隷と計算のできる奴隷、あと数名若くて器量のいい奴隷を探しています」

「わかりました。……右の通路に入って三番と書かれた部屋でお待ちください。係りの者をお呼びしておきます」


 この人も違うようだ。

 多分、次で詳しいことを決めて奴隷をみていくんだろう。

 通路を歩いて行くと一番と二番の先に三番と書かれた部屋を見つけた。ドアが開いているから、そのまま入ってドアを閉めた。


 少し待っていると小太りな中年の男性が入ってきた。


「いやー、お待たせしました。私はここヤーデロイス商会王都支部を預かっているシルギリースと言います。シル、と呼んでください」


 小太りの男性はニコニコと笑って僕達と対面するようにソファーに体を預けた。

 この人は支店長だったのか。大物が出て来たな。


「ぼ、僕の名前はセドリックと言います」

「僕はシュン」

「セドリック様にシュン様ですね。ご用件は伺っております。料理屋を開かれるようで、その料理人達が欲しいということですね?」

「はい」


 セドリックさんが緊張した面持ちで答える。


「では、詳しい事を聞いていきます。料理人は何人ほどでどういったものがいいでしょうか?」


 『もの』、か。

 これが『者』だったらいいけど、こっちの『物』なんだろうな。まあ、仕方がないことか……。


「料理人は二人ほどほしいです。性別、種族は問いませんが、手先が器用な人や繊細さのある人がいいですかね」


 ふむ、これは料理の完成のことだな。細工や盛り付けのためだろう。


「なるほど。では、差別ではありませんが獣人の方はやめておきましょう。料理をするのであれば衛生上気になることでしょうから、遠慮しておきます」

「はい、それでかまいません」


 シルさんは手の持っている紙に記入していく。

 この人は相手の意図していることを上手く汲み取ってくれるな。


「それでは次に。計算できる人というのは、あとの若く器量のいいものというのと、御一緒でも構いませんか?」

「あ、は、はい」


 セドリックさんは、これで言い終わったかな?

 僕としては、後のことを考えるとちょっと条件を付け足しておきたいな。

 よし!


「ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう。シュン様」


 シルさんは丁寧な感じに訊ねた僕に返す。


「えっと、料理人は水魔法を使える人がいいです」

「ほぅ、それはなぜでしょうか?」


 シルさんは目を細めて僕を見て、セドリックさんはよくわかっていないのか首を傾げた。

 まあ、普通はわからないと思うよ。


「料理するところだから、食器とか洗うのに水代が節約できる。掃除も同じだね」


 本当はもっとあるけど……。

 セドリックさんとシルさんは納得といった感じに頷いた。


「なるほど……。セドリック様もよろしいですか?」

「は、はい!」

「他にございますか?」

「んー、あとは、風魔法も使える人がいた方がいいかも。外でも食べられるようにしてあるから、水魔法よりも掃除がしやすいかもしれない」

「ふむふむ」

「あと、料理を運んでくれる人はかわいい女性だけじゃなくて、かっこいい男性もいた方がいいと思う」


 シルさんのペンの動きが止まって、再度こちらを見た。

 ふふふ、なんだかおもしろい。

 もうないけど……。


「なぜでしょうか?」

「お店の雰囲気? が今までのお店と変わっているんです。料理の提供だけじゃなくて癒しも提供? みたいな感じだから、男性受けの女性だけじゃなくて、女性受けの男性もいた方がいいかと思ったんだ」


 シルさんのニコニコフェイスが極ニコニコフェイスになった。

 本心から込み上げるように笑っている笑みだ。

 こちらを気に入ってくれたようだね。


「ふふふ、わかりました。セドリック様もよろしいでしょうか?」

「もちろんです!」


 セドリックさんも興奮が隠せない様で、鼻息を荒くしてシルさんに答えた。


「……この条件であれば、何人か候補がおります。すぐに連れて来ましょう」


 シルさんはそう言って退室した。


「シュン君!」

「なんです?」

「よくあんなこと思いついたね! 僕は君が言ったことを想像しただけでワクワクしてきたよ!」

「僕が考えたことはこれだけじゃないですよ。まだまだあります」

「本当かい!」

「まあ、そうですが。この先はセドリックさんの意見も取り入れるので、一緒に頑張りましょう」


 これからのことを話している間に、シルさんは一人の奴隷を連れて入って来た。


「お待たせしました。このエルフ族の女性が、料理が出来るものとなります。今のところ料理が出来るものが一人しかいませんでした。すみません。それでは、自己紹介をさせます」


 シルさんは奴隷一人に僕達のことを紹介して、僕達から見て右側の人を促す。

 まずは、料理人からということか。


 エルフ族の女性だ。百七十センチほどで空色の長髪と綺麗な顔立ちをしている。宿っている魔力がエルフにしては少し低いような感じがするけど、それでも人族よりは結構高い。


「私はララスと言います。今年で百二十九となります。私はエルフ族ですが魔力が低いです。そのため、故郷の村を出て近くの町で喫茶店の手伝いをしていました。ですが、先日の魔物侵攻により町がなくなってしまい、働けなくなり奴隷となりました。得意なことは魔力が少ないですが魔法です。喫茶店では、簡単なものですが嗜好品を作らせてもらっていました」


 魔力が低いから村を出たのか……。周りと比べて劣っていたら、いずらいって感じるもんな。仕方のないことか……。

 中級ぐらいまでの水魔法が使えるそうだ。


「それでは、私は次の奴隷の準備をしてまいります。その間に質問等、聞きたいことを聞いていてください」


 シルさんはそう言って、また部屋から出て行った。

 それを確認すると、セドリックさんは戸惑いながら二人に質問する。

 僕は補助に徹する。


「私はデザート専門となります。クッキーや簡単なケーキ等です。あとは紅茶等の飲物も作っていました」

「うん、わかったよ」


 セドリックさんは他にもいろいろと聞いた。

 どこの町で作っていたか、などだ。


「うん、わかったよ。シュン君は何かあるかい?」


 セドリックさんは聞き終えたみたいで、僕に何かないか訊いてきた。

 そうだな……。


「ララスさん」

「はい、なんでしょう」

「あなたは――」

「すみません、まだあるでしょうが次の奴隷の紹介をさせてもらいます。次は器量のいいものですね。この中に計算が出来るものもいます」


 考えている間にシルさんが帰ってきた。

 仕方ない、あとで聞くか。

 入ってきたのは六人だ。女性が四人で男性が二人だ。

 女性は皆綺麗で可愛い感じで二人の男性はかっこいい。


「それでは、順に自己紹介をさせます」


 一歩出てきたのは、身長は百六十弱で薄い青色が入った毛の猫の獣人だ。体毛は汚れて汚く見えるが、顔は整っていて可愛い感じだ。

 猫の獣人はターニャさんを思い出す。ターニャさんの毛は白色に銀色のような灰色が混じった感じだったな。


「はい、私の名前はリーリャと言います。今年で十七となります。両親と姉弟が私を入れて三人の計五人で暮らしていました。村で二年程不作が続き生活費を得るために奴隷となりました。獣人なので体力があります。あと、村では宿の手伝いをしていました」


 おとなしそうな感じがするけど、明るくて愛嬌のある微笑みで自己紹介をしてきた。

 宿では帳簿を付けていたそうだ。この人が、計算が出来る人なのだろう。


 次は燃える様な赤髪を短く切った活発そうな人族の女の子だ。身長は百四十センチと少し小柄だ。


「こんにちは! 私の名前はネネ、です。えっと、十六歳、です。私がドワーフと人族のハーフだから村に居られなくなって、村はずれを歩いていたところを攫われた、ました。ドワーフの血が流れているから力持ちだ、です。元気いっぱいで明るい子だと言われてた、ました」


 言い終わるまで笑顔が絶えず最後にぺこり、と頭を下げて後ろに下がった。

 明るくていい子みたいだ。少々言葉遣いに難点があるけど、見た目が相まってどうでもよく感じる。


 次の人を見た瞬間に、この人はダメだと思った。


「私はジュリダス帝国のレゼドリア男爵家の娘、ローゼリア・レゼドリアよ。年は言わなくてもいいわね。大体女性に年を尋ねるものじゃないわよ?」


 隣にいる女性も頷いている。

 なんだ、この人は。自分の立場を理解しているのか? 隣の人もな。

 奴隷になっている時点で何かあったはずだ。もしかしたら家も取り潰し、とかね。それに男爵家と言っているけど、『元』という字が頭に付くのではないだろうか。


「奴隷になった理由ね……パパが他の貴族に嵌められたからよ。私のパパは精一杯帝国に貢献しようとしていたのに、他の貴族の罪を被せられてしまったのよ。パパは最後まで諦めずにどうにかしようとしていたけど、周りの貴族達は手強くてどうにもならなかったのよ。どうにかパパが罪を晴らせそうになった時に、私の身が危険になったの。私は刺客達から何とか逃げまくったわ。だけど、私も疲れ果てて捕まってしまったの……。そこで『お前の父を助けてほしければ、お前は奴隷となれ』と言われたのよ。私は、私はパパに迷惑を掛けたくないと思い、その提案を受けて「あ、もういいです」どr……はい?」

「いえ、もういいと言ったんです。次に人も言わなくて結構です。僕達はこの後用があるので時間が欲しいんです。ですよね、セドリックさん?」

「え? あ、うん。そうだね」


 僕はこの馬鹿女の作り話を聞くのが我慢の限界となったから、話を切り上げさせた。セドリックさんも辟易していたみたいだから、了承を取って有無を言わせない。


「な、な、なんですって! あなたは私を……」

「そうです! 私なんてまだ……」

「シルさん、この二人を下げてください。はっきり言ってこれ以上作り話を聞くのは、『うざい』です」

「はい、お前達もういいぞ、下がれ」

「は? ちょっと待ちなさいよ! 私を誰と思っているの! 私は、ひうっ」

「あなたは、ドレイ、ですよね? ジュリダス帝国のレゼドリア男爵家の娘、ローゼリア・レゼドリア、ではなく、ドレイ、です。そこのところを間違えてはいけませんよ。……そちらの女性もです」

「ひっ」


 僕は二人に軽く魔圧した。

 変な声を上げながら震える高飛車。

 僕に目を合わせられただけで痙攣するように顔を振るわせる高飛車女。

 二人とも顔を青褪めさせて尻餅をつく。

 周りの人は何が起きたのか分からず、僕と二人を混乱しながら見る。シルさんはニコニコフェイスを崩さず、ララスさん僕の放出する魔力に勘付いたようだ。

 ちょっと余裕を出し過ぎたか……あまり隠さなかったからな。

 ま、いいや。


 試しとして『同調』を使いこの二人の内心を読むと、全く違うことを考えていた。

 「フフフ、騙されやがれ……」「こいつらを使って……」「ひょろそうな男と子供ならどうにか……」「私の美貌で奴隷なんて……」等々聞こえてくる。

 こういうのはどこにでもいるんだな。

 それにしてもセドリックさんと関わるとこういう人が多いな。

 いや、王都だからか?


「シルさん」

「はい。……連れて行け」


 シルさんは手に持っていた小さい鈴を鳴らすと、部屋の外から屈強な男が二人入ってきて二人を部屋の外に引きずり出した。

 シルさんは準備がいいな。恐らく、こうなることを知っていたな。


「いやー、すみません。あの二人が出せと煩かったもので……。このことは、あとで勉強させてもらいます」


 ちゃっかりしている。

 恐らく、僕がAランク冒険者なのを知っているんだろう。そして、僕を怒らせることであの二人の教育をさせた。

 その迷惑料として奴隷の代金を下げる。怒るに怒れない。

 まあ、怒ってもいいんだけどね……。


「次はこういうことがないように頼みますよ?」

「はい。わかっておりますとも」


 シルさんはにこやかに返答した。


「では、男性の方へ移らせてもらいます」


 すぅー、はぁー。

 男性(人族)二人は魔物侵攻の影響で住む場所がなくなり奴隷となったそうだ。二人とも顔が整っていて、とてもかっこいいと思う。茶髪がダレソンさん、緑髪がガロッジさんという。

 かっこよさは、男の僕から見るとよくわからない。

 あとで、女性の奴隷に聞いてみようかな。


 買う奴隷は料理人であるララスさん。会計のリーリャさん。接客のネネさんとダレソンさんとガロッジさん。

 計五人となる。


「この五人でよろしいですね?」

「はい」

「代金は男性が二人で中金貨二枚。女性はララスが中金貨四枚、リーリャが中金貨二枚と小金貨七枚、ネネが中金貨三枚となります。合計で大金貨一枚と中金貨一枚、小金貨七枚です。更におまけして小金貨二枚を引きましょう」


 男性はやけに少ないな。女性の半分以下とは。

 それに比べて女性は高いんだな。エルフは特に。

 それでも、安いと思うのは僕がお金をたくさん持っているからなのか、一人の値段が五百万もしないからなのか……。


 訊いてみたところ、普通ならこの倍はするそうだ。

 それなら、妥当だという気はするけど……本当かどうかはわからない。


 僕は収納袋からお金を取り出してシルさんに手渡す。

 シルさんは僕が代金を払ったことに疑問を抱かなかった。というよりも、最初っから僕が払うのを見越しているようだった。


「はい、丁度もらいました。それでは、次に奴隷契約に移りましょう。契約されるのはセドリック様でよろしいですか?」

「は、はい」

「では、この契約書にお名前をお書きください。奴隷の証は首輪にしますか?」


 セドリックさんは僕の方を見るけど、僕はそこまで決めない。

セドリックさんが勝手に決めていいと、とりあえず頷いておくことにした。


「で、では、首輪でお願いします」

「はい、わかりました。では、首輪に『隷属』と触りながら言ってください。そうすることで主の認証が出来ます」


 セドリックさんは五人の首輪に触り認証させていく。

 認証と同時に赤いスパークが起こりセドリックさんはびくりとするが、その現象は無害だ。

 魔力のパスが繋がった瞬間に起きる魔力の残滓だからな。


「これで終了となります。本日はありがとうございます。またの起こしをお待ちしております」


 シルさんは立ち上がって頭を下げた。

 僕とセドリックさんは奴隷を連れてお店の外へ出る。


「で、シュン君。これからどうするの? この後は戻って料理の練習をする?」


 セドリックさんが奴隷五人を背後にして言った。


「いえ、この後はこの人達の服とか日用品を買いに行きます。さすがにこの服のままだと……」

「それもそうだね」

「あ、あの、ご主人様……。お二人はどういった御関係でしょうか……」


 ララスさんが引き気味に言った。

 あー、説明してなかったっけ。

 セドリックさん、頼みました。初めてのご主人任務です。という目で見た。


「はぁー。ま、これは僕の務めだろうね。ゴホン、僕は君たちの主人のセドリック・ロジスターっていうんだ。君達には僕の店の手伝いをしてほしい。料理と会計、接客ね。それで、この子は僕の依頼を受けてくれたシュン君というんだ」


 セドリックさんの紹介により、僕は頭を下げた。


「シュン君にお店が軌道に乗るまで手伝ってもらっているんだ。他にも料理指導や店の改修・改築、投資、助言を貰っているよ。……それと、ご主人様はどうにかならない? さすがに店内でご主人様って呼ばれるのはちょっと、ね……」


 セドリックさんは目を逸らして、頬をかきながら言った。

 確かに、お客に言っているのならそれは営業としているかもしれないけど、店の人をご主人様と呼んでいたらおかしいかも。


「そうですか? では、セドリック様、とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「んー、ま、それでいいよ」

「わかりました。それで、私達はこれから何をすればよろしいのでしょうか? 私は料理を、他四人は接客でよろしいのですよね?」


 ララスさんが皆を代表して聞く。


「そうだね。詳しく言うと、僕とララスは一緒にシュン君から料理指導を受ける。リーリャとネネ、ダレソン、ガロッジは接客をしてもらう。リーリャさんは主に会計を中心にこなしてもらおうと思っているよ。他の人も会計ができるようになってほしいかな」


 僕が料理等を出来るのか疑問顔で見ているけど、言っても信じられないだろうから放っておくことにする。


「わかりました。私が料理、リーリャが会計を主に、ネネとダレソンとガロッジが接客ですね」

「うん、今のところはそれでいいよ」

「はい。それで、今はどこに向かっているのでしょうか? こちらにお店があるのですか?」

「いや。さっきも言ったけど、この後は君達の服や日用品を買いに行くよ。あと、従業員用の服もね」

「え? 買ってくださるのですか?」

「うん、そうだよ。と言っても買ってくれるのは僕じゃなくてシュン君だけどね。……シュン君も何から何まで、ごめんね」

「いえいえ、気にしないでください。お金はいずれ返してもらえればいいですから」


 僕達はこれからのことを話しながら、奴隷市場を後にした。


 大通りに戻ると買い物客や冒険者達の喧騒が戻ってきた。

 今度行くところは服屋だ。

 その前に大通りで私服や日用品を買う。

 セドリックさんの借金額がどんどん増えていくけど、あまり気にしていないようだった。

 全てを買い終えたから、残すは従業員用の服のみとなった。


 聞いた服屋の場所は、大通りから少し外れたところにあった。

 お店の中は小奇麗にされ、マネキンのようなものが数体店先に置かれていた。その服は肌触りが良く、緻密な作りになっていた。

 腕が良いみたいだ。

 服も丈夫で長持ちしそうだし、洗うのにも楽そうだ。その分値が張りそうだな。


「いらっしゃいませ。今日はどのような服をお探しでしょうか?」


 お店の中に入ると一人の男性が待ち構えていたかのように頭を下げてきた。


「いえ、今日は服の依頼に来ました」

「衣類製作依頼、でございますか? それでしたら専門の職人を呼んできます。店内で少々お待ちください」


 そう言って男性は消えていった。

 僕達は店の中にある服を見て回ることにした。

 どの服も高そうだ。貴族が着る様な自己顕示欲が出ている華やかな服。スーツのようなほぼ一色で作られた事務服。普段着のような服やゆったりとした服。子供服に帽子、ストールみたいな物等もある。


「お待たせしました。衣類製作依頼はこちらのクレアにお願いします。私はこれで失礼します」


 男性は話し終えると自らの持ち場に戻った。

 クレアと呼ばれた女性はふわっとした滑らかな薄黄緑色の長髪を右肩にまとめ、前髪を下ろしている。目尻が下がっていて、朗らかな印象を受ける。


「私の名前はクレアと言います。私に作って貰いたい服があると窺ったのですが、それはどういったものでしょうか?」

「お姉さん、作ってほしいのはこんな服」


 クレアさんはセドリックさん達に話しかけていたのに、僕が答えたから少し驚いていた。


「その服は料理の接客用の服で、滑らかでふんわりした感じに作ってほしいかな。二枚目はきっちりとした感じでお願いします。一枚目が女性用で、二枚目が男性用です。三枚目は料理人用の服です」


 女性の服はスカート丈が膝上で二種類の縞々ニーソとガーター(予定)となっている。背中には大きなリボンを着ける。

 男性服は執事服や燕尾服のような服。黒いベストやチェーン付き片眼鏡などもついている。

 料理服はセドリックさん用の金色のメダルで留める鮮やかな緑色の首巻とワンポイント入りの白い上着と黒色の前掛け。太いベルトは器具等が差せるようになっている。

 ララスさん用の料理服は赤色が基本となっている。膝下までの赤とピンクの柄付きスカートに白色のエプロン。頭に乗っける小さいコック帽が付いている。


「……面白そうね。色や装飾はある程度こっちでいじってもいいかしら?」

「うん、いいよ。お金に関しても気にしないでいいよ。女性服はふんわり可愛く、男性服はかっちりとかっこよくしてくれたら」

「ふふふ、わかったわ。この依頼を受けましょう。製作には一週間といったところかしら。代金はいい布を使おうと思うから一着小金貨二枚ぐらいになるわよ。お金は足りるかしら、坊や」

「うん、足りるよ。僕はシュンっていうんだ。これからよろしくお願いします。クレアさん」

「ふふふ、よろしくね。シュンくん」


 クレアさんは僕が書いた紙を見てやる気を出してくれた。どうやら、お目にかなったようだ。これなら、満足いく服が出来上がると思う。


「シュンくん。私はね、最初は断ろうと思っていたのよ」

「え? そうだったんですか」


 クレアさんが僕の頭を撫でながら言った。

 久しぶりに撫でられる気がする。


「そうよ。毎日毎日同じような服や注文を受けていたから、服を作るのに飽きちゃってたの。そんな時に私に依頼があるっていうから、平凡な服だったら断ろうと思っていたのよ。だけど、シュンくん達の依頼は私が作ったことのない服でインスピレーションが刺激されるの。それに可愛い・かっこいい服を作りたいところだったのよ」


 クレアさんは今にも踊り出しそうな感じにくるくると回りながら言った。いや、回っているから踊っているのか。

 そこまで、いい服なのかな? 地球だったら普通にあるような服なんだけどね。

 まあ、この世界だと庶民はメイド服が珍しい分類に入るし、貴族のメイド服は黒と白の丈の長いスカートでブリム(頭に付けるやつ(ヘッドドレス))がないらしい。地球で言う中世あたりのメイドに近いと思う。

 萌よりも機能優先といったところだ。


「だから、この依頼を受けることにしたの」

「ま、まあ、わかりました」

「それじゃあ、寸法を測りましょう」


 クレアさんがそう言って指を鳴らすとどこからかメジャーのようなものを持った女性達が現れ、次々に寸法を測っていった。

 なぜか知らないけど、僕まで測られてしまった。

 多分、僕の服もできるんだろう。どの服になるか分からないけど……。メイド服じゃないことを祈ろう。


「それでは、一週間後にまた来ます。代金はその時でいいですか?」

「いいわよ。期待して待っていて頂戴。それじゃあね」


 クレアさんに手を振ってお店を後にした。

 これでほとんどの買い物が済んだ。あとはセドリックさんの料理修行をするだけだ。


「それでは、お店に帰って料理修行をしましょう」

「うん、そうしようか。皆、僕の店に案内するから付いて来て」

「わかりました」


 僕達は大通りを通り、セドリックさんのお店へ帰る。




「ここが僕の店だよ。さあ、中に入って入って」


 セドリックさんが皆を招き入れる。

 皆、外装を見て少しやる気が出ていたけど、内装を見てもっとやる気を出した。

 いやー、僕もなんだかうれしいね。内装を造り替えていてよかったよ。前の状態だとやる気が減少していただろうしね。

 まだこれから、内装以外に外装もいろいろと弄っていくつもりだけどね。


「では、セドリックさんの料理練習から始めます」

「うん」


 厨房に集まった僕達は僕を囲むように立っている。僕は台の上に調理器具と使う食材を出していく。


「今日の題目料理は『ピラフ』という料理です。今から作るのでじっくりと見ていてください」


 僕はフライパンを火にかけ、バターを引く。十分に溶けたところに薄く切ったマッシュルームや微塵切りのニンジンや玉ねぎ、コーンやグリーンピース等の野菜とエビやホタテ等の海鮮物を入れ良く炒める。

 少し焦げ目がついたら生米をそのまま入れる。生米は洗わないのが基本だ。

 少し炒めると水と味付けのためにコンソメ等を入れて調整する。沸騰したところで火を弱め、蓋をしておく。

 ある程度時間が経ったら蓋を開け、底から引っ繰り返すように混ぜて平らに戻す。再び蓋をしておく。

 火を消して先ほどと同じように引っ繰り返すと蓋をして蒸す。火にかけて混ぜ、皿に盛り付けると完成だ。

 この時、硬いと水を足して柔らかいと蒸すを繰り返すことになる。


「……んぐっ」


 誰かが涎を飲み込む音が聞こえた。

 ふふふ、見たか、僕の料理のテクニックを。


「できました。これがピラフです。どうぞ、召しあがってください」


 僕がそう言い終わる前に皆スプーンを持ち上げ、一心不乱にがっつき始めた。といっても、がっついているのララスさん以外だけど。ララスさんはおしとやかに噛み締めて食べている。

 僕も食べてみることにする。

 ……うん、おいしい。


「具材を変えてもおいしいです。もっと海鮮物を入れた海鮮ピラフ、ピリッとした辛さのカレーピラフなどが有名です。トッピングを付けてもいいですね」

「やっぱりおいしいね。シュン君の料理は。皆はどうだった?」

「はい、とてもおいしいです。シュン様、訝しんでいて申し訳ありません」

「いえ、気にしなくていいです」


 ララスさんが僕のことを信用していなくて申し訳なく思い頭を下げて来た。

 本当に気にしていないから謝られる方が気になってしまうからね。


 他の三人も舌鼓を打ち、僕のことを褒めてくれる。

 ネネさんに至ってはお代わりを言ってきた。僕はお皿を受け取りよそってあげる。


「次はララスさんの料理です」

「はい」


 僕は立ち上がって生地を取り出す。

 かまどの中を覗くと使えなさそうだったから、仕方ないから火魔法で作ることにした。


「料理名は『ピザ』です。これも、乗っける具材によって味が変わります」


 取り出した発酵済みの生地を円形に延ばしていく。

 ある程度の大きさになった所でケチャップを塗り、輪切りトマト、薄切り玉ねぎ、ベーコン、コーン、ハーブを乗っけてチーズを万遍なく降り掛ける。

 出来上がったピザを鉄板の上に置き、火魔法で囲むように焼いく。

 次第に香ばしい匂いが辺りを漂い始め、誰かの腹の虫が鳴る音が聞こえた。多分、ネネさんだ。

 少しすると匂いが変わってきたから火魔法を消し、鉄板の上のピザを風魔法で八等分に切り分ける。

 切り分けたピザを大皿の上に移して出来上がりだ。


「はい、出来ました。これがピザの基本となります。生地についてはパン作りと同じですが一次発酵まででいいです。小麦粉に塩と酵母を入れ混ぜます。ぬるま湯を加えながら一纏めにして蓋をし、一時間ほど寝かせてください。その生地がピザとなりますから」

「わかりました」


 先ほどと同じように一心不乱に食べ始め、食べ終わる頃には顔が緩み至福を味わっていた。

 とろける濃厚なチーズに酸味の利いたトマトと果肉のトマト、肉の油が生地に染み込み、噛む度に玉ねぎのシャキシャキ感とコーンの破裂感が分かる。

 皆の表情から考えて、この料理が初めてなこととうけることが分かった。


「作り方のレシピは置いて行きますから、この料理を明日までに覚えておいてください」

「わかったよ」

「わかりました」

「それでは、セドリックさん、あとは頼みます。今日はこれで帰ろうと思います。明日からはみっちりと料理練習をしましょう」


 僕はそう言ってお店を出る。皆が店先まで見送ってくれた。


 何かあると困るからとりあえず、中で騒いでもわからないように隠蔽結界と侵入を防ぐための物理結界を張っておく。許可なき者だけが入れないように改造しておくことを忘れない。



         ◇◆◇



 場所は変わってどこかにある大きな広間となる。


 そこの奥にある四、五段高い段差の上には金で装飾された赤い玉座に腰を下ろした三十代後半ぐらいの男性(国王)と同じぐらいの見た目の年齢の男性(宰相)が傍に立ち話し中のようだ。


 目の前には男女四人が(こうべ)を垂れて跪いている。種族は人族の男女が二人、狐の獣人族の女性が一人、エルフ族の男性が一人のようだ。四人の格好は四人とも同じように見える。真っ白な生地の上着とズボンを身に着け、頭には狐の耳らしきものを付けていた。まあ、獣人族の女性は元からだが。


「……わかった。ふむ、そなた達は最近噂となっている英雄殿で間違いないか?」


 陛下と宰相は会話を終わらせ、跪いている者達の方を見て確認した。


『はい』


 四人の返答が重なった。

 この四人が連れて来られた理由は、王都で自分こそが英雄だと名乗っていた者達からである。

 陛下は少し眉を顰め、口を開いた。


「宰相よ、彼の英雄は一人だと聞いたのだが……なぜ四人もおる。余が聞き間違えておったのだろうか」


 その台詞に四人の喉から音が鳴った。恐らく冷汗も掻き始めているだろう。


「いえ、私も一人だと聞き及んでおります」


 宰相が短く答えた。


「では、なぜだ?」

「彼の英雄は、ここ王都に千人以上はいると予想されています。我々の力では、その中から百人に絞るのがやっとでした。こちらにお招きした四人は、その中でも魔法に長ける者をお連れしてきたつもりです」

「おお、確か彼の英雄は魔法に長けているのであったな」

「はい、そうでございます。この四人の魔力量は宮廷魔法使い並と言っても過言ではありません。また、適性属性を二つ以上有し、魔法の扱いも宮廷魔法使い以上、とのことです」

「ほお、宮廷魔法使い並とな。そうか、それなら期待できそうだ。彼の英雄がそんなにおるのは些か分からぬが、今はどうでもよいことだな」


 国王の口から出た台詞は、国を救った英雄に対するものではなかった。

 なぜなら、国王達はこのやり取りを十回は行っていた。最早、ここに英雄が来ると思っていないからである。

 それに、残された時間も気になっている。


 そんなことを知らない英雄達は疑問に思いながらも、頭を垂れて声をかけられるまで待機をしていた。

 四人ともが心の中で、金が・褒賞が貰える、地位が・名誉が与えられる、国お抱えの魔法使いになれる、と思っているに違いない。

 自分が本物であると認められるために各人が、周りの三人に対して注意をしている。


「よく来てくれた、今回の大規模魔物侵攻の立て役者、王都の大英雄『幻影の白狐』よ。もう一度確認するが、そなた達は英雄で間違いないか?」

『は、はい』


 陛下は分かり切っていることを確認する。


「ふむ、ならば褒美に何を望む?」

『私は――』

「――と言いたいところだが、こうも多いのでは褒美を与えるわけにはいかぬ。そなた達もそのぐらいは分かるであろう?」


 四人は納得したような顔をして落胆し、陛下は初めから決めていたセリフを続ける。


「だが、その中に本物がいないとも限らぬ」

『そ、それでは――』


 四人は希望が見え顔を上げて陛下を見る。


「うむ。そこでそなた達に依頼をしようと思う。その依頼を達成した者に報酬として地位、名誉、金、権力、何でも二つ与えることとする。これは国を護った報酬と依頼の報酬である」


 陛下はそう言うと背凭れに背中を預けて、四人の返答を待った。

 宰相は依頼について話し始める。


「依頼内容については依頼を受けた時に話します。依頼内容を明かせないのは、この依頼が国家機密レベルの依頼だと思ってください。受けた後にやめることは許しません。依頼受理後、誓約を行わせてもらいますが、口外しないことを約束させるだけのものです。

また、この依頼は多少の傷を負うことがあるかもしれませんが、命が危険になることはありません。失敗したとしても罰則を与えるつもりもないので安心してください」


 四人はこの依頼を受けてもいいのか悩んでいるようだ。目を合わせどうするか決めかねている。

 メリットが大きい依頼であるのにも関わらず、デメリットが少ないため信じられず不気味なのだろう。

 そんな空気の中、人族の男性が依頼を受けることを誓った。


「わ、私は、その依頼を受けたいと思います」


 それを聞いた他の三人は後れを取ったと、自分達も受けることを誓った。


「そうか、受けてくれるか。宰相よ、誓約書を」

「はっ」


 宰相は懐から四枚の紙を取り出し、四人にペンと一緒に一枚ずつ配って名前を書かせた。

 誓約書の内容は言われた様に見た、聞いたことを口外しないことだけのようだ。


 書き終えた誓約書を回収した宰相は国王の元へ戻り、誓約書の確認のために国王に渡した。

 国王はそれを確認すると依頼内容について話し出す。


「うむ。では、依頼内容について話そう。依頼内容はこの国の第二位王位継承者である、来年で十二となる余と正妻の娘、フィノリア・ローゼライ・ハンドラ・シュダリアに魔法の指導をしてもらいたい。余の娘は毎日日が暮れるまで魔法の練習をしているのだが、一向に使えないのだ。余はそれがどうしても不憫に思えてならん。我が国の筆頭宮廷魔法使いでも匙を投げたのだ。


 そんな時に魔物の侵攻が起きた。誰もが絶望する中、元凶である魔族を撃退させるほどの実力を持った一人の英雄が誕生したのだ。その英雄は天を焼き、地を砕き、扱う魔法は神の如く、と聞く。そして、その英雄が王都に来ているという情報を得た。それを聞いた余は、このチャンスを逃してはならないと思い、その英雄に頼むことにしたのだ。それが今回の依頼に繋がる」


 陛下はそこで話し終えて続きを宰相が話す。


 この国の継承方法は男女混合だ。これは女性の王もあり得るということとなる。

 側室の子供がいる場合、正妻の子供が優先され、男子優先となる。


「依頼達成は陛下のご息女が、一般の新米魔法使いレベルの魔法を使えるようになることとします。期間は今日を含めて一週間。七日目に第三王女様が魔法を使えるようになった場合にのみ報酬を与えます。報酬はこの依頼期間中に考えておいてください。……何か質問がありますか?」


 宰相は書類から目を外して緊張しながら、こちらを見ている四人に問いかけた。

 四人は目線を彷徨わせながら、引き受けた依頼に不備がないか考える。


「そのー、先ほど筆頭宮廷魔法使いも匙を投げたとおっしゃいましたが、ご息女はどのあたりの実力なのでしょうか?」


 人族の女性が恐る恐る聞いた。


「魔法を発動させるところまではお出来になられます。ですが、発動させた魔法はすぐに霧散してしまうのです。あなた方に求めているのは魔法の発動から魔法の安定化までです」

「わかりました」


 宰相の答えに人族の女性は引き下がる。

 次にエルフの男性が質問した。


「では、第三王女様の適性属性は何でしょうか?」

「娘の適性属性は火と回復……それと闇だ」


 陛下がそう言った途端に四人は息を飲んだ。

 前にも言ったが闇の属性を嫌っているものはほとんどいない。だが、嫌っている者がいるのも事実であり、全ての者が好感を持っているかと言われるとほとんどの者が好感を持っていないだろう。

 どちらかというと忌避感は抱いていないが、一般的な闇魔法は精神や上体を崩す魔法が多いため、負のイメージが強く本能的に嫌がってしまうのだ。


「どれか一つでも使えるようにさせてくれればいい」


 陛下はそう言うと目を閉じて、眉を顰めた。

 恐らく、第三王女のことを憂いているのだろう。


「他に質問は? ……特にないようですね。それでは、これから第三王女様にお会いしてもらいます。扉の外で待機している衛兵の後に付いて行ってください」


 四人は立ち上がると広間から出て行った。


十五時から三話ほど投稿します。

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