王都
キャラがぶれてきたような気が……。
ガラリアを旅立って二日が経つ。
ガラリアから王都まで馬車で一週間掛かる道程だが、既にあと走って四時間ほどで着くところまで来ていた。
なぜこんなにも早く着くことになったかというと、午前中は体力訓練として魔力強化なしで走り、午後からは魔力訓練として極限まで体に負荷をかけた状態で走ってきたからだ。
王都に近付くにつれ、凶悪な魔物の気配や魔力がなくなり穏やかな場所になってきた。
今まで通ってきた道は草原から始まり森林、川、平原だ。現在は平原のような草原を歩いている。
道は馬車が通りやすいように舗装されている。
「ロロ、もうじき着くだろうから歩いて行こう」
「ウォン」
ロロに声をかけゆっくりと速度を落としていく。
急に落とすと慣性によって道を抉ってしまうからだ。
後、徒歩三時間ほどで着く。
二十キロ先に見えるのは大きな城と横に広がっている城壁だ。前方には馬車や冒険者がちらほら見え始めた。
次第に道が石畳に変わり、道の両傍らにあるレールからは魔物除けの魔法が掛けられているように見える。
このおかげで魔物がこの辺りにいないのだろう。
一体どのくらいのお金をかけたのだろうか。
テクテクと歩き続けて三時間ほどが経った。
遠くから見えた王都は目の前にある。ガラリアにできた外壁よりも頑丈で高さのある城壁。聳え立つのは金属製の城門。固定部分から魔力を感じるから魔法で開閉する仕掛けの城門だな。
内側に開けられた城門は二つの列が出来ている。入場する列と退場する列だ。
僕は入場する列の最後尾へ並び、自分の番が来るのをロロと一緒に待つ。
しばらくすると僕の番が近づいてきた。
見えてきたのは詰所と窓口のようなところと、その傍に待機している門番か兵士の人達だ。
「止まれ。この球に触ってくれ。それから、身分証を掲示してくれ」
待機していた兵士さんは片手で制すと、お約束のような言葉を投げてきた。
僕が玉に触ると青色に光った。これは、犯罪者かどうか確かめるための魔道具だ。犯罪者は赤色に光るはず。
「ちょっと待ってください。……はい」
僕は収納袋からシュン用のギルドカードを出して見せる。
「……ほう。王都に来た目的は?」
僕のカードを見た兵士さんは、兜で隠れてよく見えないが片眉をピクッと動かした。
それだけの反応で済ませた兵士さんは一言感嘆の声を上げ、カードを返しながら目的を聞いてきた。
「主に観光が目的です」
「いいだろう。ようこそ王都シュダリアへ」
兵士さんは頷きと共に挨拶をした。
どうやら王都の名前はシュダリアというらしい。
王国の名前と王都の名前は別々みたいだ。
上から見た王都は、王城を囲むように円形となっている。
王城を中心に王城、大貴族層、小貴族層、庶民層という感じにわかれている。これは差別ではなく、平民が貴族とぶつからないようにするための処置だ。
城門は東西南北に一つずつあり、東と西は貴族が良く出入りするから気を付けなくてはいけない。
入るとすぐに大通りとなり、冒険者用の店から八百屋や喫茶店と建ち並んでいる。庶民層の半分の距離には円形の大広場と噴水があり、憩いの場となっている。
真っ直ぐ行くと貴族層と庶民層を隔てる門がある。ここからは、ある程度の身分がないと入ることが出来ない。無断で入ると捕まってしまう。
まあ、入ったとしても貴族の家や貴族御用達の高級店しかないので意味がない。
王都の治安はわりといいと聞く。
それでも、窃盗や人攫い等の犯罪は尽きない。庶民層の陰には貧困層もあり、働けない人や過去に傷のある者が屯する場所となっている。
だから、路地や人ごみは気を付けないといけない、と師匠達に言われた。
僕は子供だからいいカモに見えるらしい。
だけど、僕には魔力感知やロロがいるから近づいてくる前にこちらが先に気付くことが出来る。それに、お金や大事なものは収納袋や亜空間入れてあるからすられない。収納袋を盗もうとしても中身に何が入っているか知らないと取り出すことが出来ないから安心だ。
しばらく歩くと冒険者ギルドの看板を見つけた。ガラリアにある冒険者ギルドよりも大きく、扉が付いている。
僕は扉があることに感心しつつ、中に入って行く。
中はいろんな冒険者達が飲み食いしたり、勧誘をしたりと騒いでいた。大体の配置は同じでそのまま規模を大きくしたような感じだ。遠目に見える依頼板は三つあり、依頼が多いのが見て取れる。
魔物の襲撃がなかった王都周辺でも、魔物の出現が多くなっているのかもしれない。
僕が扉を開けた瞬間に全員僕の方を向いた。
何か言ってくる奴はいないが、値踏みする人が何人かいる気配がする。
いくつか魔力を探ってくる気配がしたから、魔力に干渉して打ち消した。その現象に驚いた二、三人の魔法使いと思しき冒険者に微笑んでおく。
そして、ちょっかいを掛けて来そうな人を瞬時に把握して、ロロに周囲を威嚇するように僕の近辺をうろついてもらう。
僕は収納袋からギルドカードを取り出して空いている受付に行く。
受付嬢はどこでも同じなのか、とてもきれいな女性が担当するようだ。金髪のエルフに青髪の人、犬や兎の獣人が受付をしている。
どの受付からも食事の誘いや口説いている声が聞こえてきた。
その中でも兎の獣人のところには多くの人が列を作り、口説きまくり、誘いまくっていた。
僕は一番空いているエルフの受付嬢のところへ並ぶ。
エルフ族は基本美形揃いだけど、全ての人に人気があるわけではない。何十人もいるアイドルの中にも人気順があるのと同じだ。
この中だと断トツで兎族の受付嬢が人気に見える。
エルフは美形で、兎族は愛玩・癒しといった感じだ。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
僕の番が来るときれいな声で用件を聞いてきた。
僕は取り出したギルドカードと一枚の封筒を渡しながら、小声で用件を言う。
「ギルマスに会うことはできますか? ガラリアのギルマスから手紙を預かっているのですが……」
「ギルマスですか? 少々お待ちください」
受付嬢はカードと僕を何度も見直して手紙を受け取ると、慌てたように二階へ上がっていった。
受付嬢が聞き返した声が大きく会話が聞こえていたようで、後ろからの視線の中に奇異な視線が増えた。
面白半分に誰かが近づいてこようとするが、ロロが振り向き軽く唸ってその人の動きを止めた。周囲からは囃し立てる声や笑いが起きるが気にしない。
だが、ロロに怯えた人は周囲の声に羞恥し、恐らく顔を真っ赤にしたと思う。
ギルマスへの取次を頼んだエルフの受付嬢が二階から戻ってきた。
「お、お待たせしました! すぐにお会いするそうです! 付いて来てください!」
全力で走ったのか息を切らし、慌てつっかえながら手で促してきた。
僕は急ぎ足で先を行く受付嬢の後を早足で付いて行く。
周りにいた冒険者達から「何者だ?」「この辺りじゃ見ないわね」等と怪しい奴だという声が聞こえてくる。魔力を探ってきた冒険者からは「関わらない方が……」「それなりにできる……」と仲間内に囁いていた。
僕には風魔法ですべて聞こえる。
ロロを入れるわけにはいかないから、あちらに返しておく。
「し、失礼します。Aランク冒険者シュンを、お連れしました」
「入れ」
受付嬢の声に優しく威厳のある短い女性の声が帰ってきた。
ここのギルマスは女性の人なのか。それに、声が高くて周囲に浸透するような通る声だったから若いのだろうな。
受付嬢が中に入るのを見て僕も続いて入る。
「ひゃっ!」
ピクッ。
入ると同時に、部屋の中を濃密な魔力が満たした。それは、中にいる者を屈服させようとする威圧。
受付嬢は肩をビクつかせて可愛い声を上げ、僕は軽く片眉を上げる反応をした。
元凶を探そうと視線を動かすと、いくつかの書類の束とインクと羽ペンの置いてある、執務机のような横に長い机を挟んでこちらを向いているエルフの女性が目に入った。
この人がこの元凶みたいだな。
僕を見ているようだけど、何かをしたかな?
だけど、このままっていうわけにもいかないか。
隣にいる受付嬢はカタカタ震えているし、顔色も少し悪そうに見える。
打ち消してもいいんけど、試されているとしたら意味がないよね。
よし! この人限定で魔力を解放しよう。
僕は抑えている魔力を解放すると魔力制御を行ってピンポイントに威圧する。
コツはスポットライトを当てる様な感じにすることだな。まあ、制御しないといけないけど。
「……参った。降参だよ。魔力を抑えてくれるかい?」
ギルマスが降参とばかりに両手を上げると、室内を満たしていた濃厚な魔力が消えた。
僕もそれを確認すると魔力を霧散させて、綺麗さっぱりと魔力を消し去る。
隣の受付嬢は何が起きたのか解らずに僕とギルマスを見て、目を白黒させている。
「どうやら、本物のようね。初めまして、私は冒険者ギルドシュダリア支部を束ねるギルドマスター、アイネというわ。先ほどはごめんね。受け取った手紙に証明と経緯が書かれていたけど、実際に確かめたくて」
ギルマス、アイネさんは片手の持った手紙を振りながら、苦笑した。
「いえ、気にしていません。僕は子供ですから、信じられないでしょうから」
「子供ね……。まさか、私一人に魔力を当ててくるだなんて思いもしなかったわ。一階でしていたみたいに打ち消すかと思ったのだけれど」
「それも考えていたんですけど、試しているように感じたので、つい。すみません」
「いいのよ。それにしても、すごい魔力ね。まだ、鳥肌が立っているわ」
「ちょ、ちょっと! 何が起きたの! お母さん」
僕とアイネさんが二人にしかわからない会話をしていると、隣にいた受付嬢が回復してツッコんできた。
お母さん、ね。
この二人は親子か。
よく見ると似ている気がする。綺麗なところとか、雰囲気とか……。
エルフだから、綺麗すぎてよくわからん。
「ミルファ、ここではギルマスと呼びなさいと、いつも言っているでしょう」
アイネさんは慣れた口調で受付嬢もとい、ミルファさんを嗜める。
ミルファさんというのか、この受付嬢は。
「わかってるわよ! それよりも、さっきの魔力は何? 心臓が止まるかと思ったんだけど! 収めたと思ったら、おk「ギルマス」……ギルマスが降参? それに試すって何! この子はいったい誰なの?」
ミルファさんはぜぇぜぇと息を切らしながら、思ったことを吐き出す。
アイネさんはギルマスと訂正するけど、ミルファさんの口調はいいのかな?
「騒がしい子ね。少し落ち着きなさい」
「誰のせいで騒いでると思ってるの!」
「まあまあ、落ち着いてください。……えっと、アイネさん? どうして確かめようと? 手紙に書いてあると思うんですが……。それに、本物ってどういう意味ですか?」
僕はミルファさんをどうどうと落ち着かせて、アイネさんに訊いた。
『実際に確かめないと』っていっていたけど、渡した手紙にしっかりと書いてあるはずなんだけど。
魔物侵攻のことと僕のこと。あ、あと師匠のことも書いてあるはず。
「ん~、そうね。まずあなたの質問から答えましょう」
アイネさんはミルファさんを見ながら言った。
「この子は最近Aランク冒険者になったシュンくんっていうの」
「それは知っているわ。ギルドカードを見せてもらったから。それが、どうして試すことになるのよ。しかも、降参って」
「そして、SSランクの冒険者でもあるわね。キャリー、仲良くしてあげてね」
「……え?」
「あ、そうだ。あなたをこの子の専属にしましょう。いい考えね。これは、ギルマス命令だから」
話が上手く噛み合っていない。
ミルファさんはSSランクと聞いて固まって、アイネさんは一人で先に進めていく。
アイネさん人の情報を暴露したよ……。
専属か……言葉からして、僕専用の人っていう感じ? 依頼とかをミルファさんに見てもらうって言うことかな。
「え? ええ? えええぇぇぇぇぇ!」
それほど大きくない室内にミルファさんの大絶叫が響き渡った。
僕は何度もこの技を見ているから、予備動作を見た瞬間に耳を塞いだ。ターニャさんとか、ブレスとか、ね。
「煩いわねぇ。この子の専属が嫌なの? ごつくないし、変態でもないし。それに、この子かわいいじゃない。……もしかして、ごついほうがいいの?」
「いいわけないじゃない! この子がかわいいのは同意するわ。専属も同意する。だけど、この子がSSランクって本当なの? 雷光の魔法使いってわけ?」
アイネさんが顔を顰めて言った。ミルファさんは両手を机に叩き付け、怪訝そうに身を乗り出して問う。
二人が話すのは構わないけど、僕に意見を聞かずに進めるのはどうかと思うよ。
いや、別にミルファさんが専属になるのが嫌だっていうわけじゃないからね。
あと、最後のは違うよ。
雷光の魔法使いは師匠のことだね。
「少し違うわね。その子は雷光の魔法使いじゃないわ」
「じゃあ、誰よ? この国のSSランクは雷光の魔法使いただ一人でしょ? それも、どこにいるかわからないっていう。他国のSSランカー……なわけないか」
「そんなわけないでしょ。この子は最近、SSランクに認定された冒険者よ。そのことは、この手紙に書いてあるし、魔力威圧をしても平然としているし、逆に負かされたから、本人で間違いないでしょう。それに、噂になっている姿は違うけど、子供だっていうのは同じじゃない?」
……ん? うわさ? 噂って何?
「噂って、今回の大規模魔物言侵攻の英雄『幻影の白狐』のこと? シロだっけ? でも、この子の名前はシュンよ。ギルドカードにもそう載っていたし、ランクも違うじゃない。見た目のわりにはランクが高いけど……。そもそも、その噂は信憑性に欠けるって言ってたじゃない」
え、英雄うぅぅーッ!? それに『幻影の白狐』って何!
確かに、白い狐の格好をしてたよ?
だけどさ、その名前はないんじゃない。
滅茶苦茶恥ずかしいじゃん!
シロって名乗っていたんだからさ……どうにかならなかったの……。
「あら、噂に関しては信憑性に欠けるとは言ったけど、実在しないとは言っていないわよ。噂は噂でしかないのよ? それに、SSランクの冒険者は目立つのだから、ギルド公認の擬装用ギルドカードを持っていても不思議じゃないわよ」
「なに、それ……」
「まあ、あまり知られていないことだし、この子がSSランクになったことは上層部しか知らないことだから、あなたが知らなくても不思議じゃないわ」
アイネさんの言葉にミルファさんは口を半開きにしている。
ああ、ロンジスタさんが上層部にしか知らせないって言っていたっけ?
「ちょっといいですか? その噂って何ですか?」
僕は二人の間に割り込みながら言った。
「シュンくんは知らないの? 自分の事なのに? 王都ではね、侵攻してきた数万体の魔物を白い狐の姿をした冒険者が退けたって言われているの」
アイネさんが噂について話してくれた。
王都周辺の街に攻めてきた数万体の魔物達。
各街が察知した時には既に遅く、魔物達は目の前まで迫ってきていた。
王都では不安が広がり、四方の街では混乱と恐怖が渦巻いた。特にソドムとガラリアの街には高ランク冒険者が存在せず、王国の騎士団も間に合わないだろうと言われ、あとは滅びを迎えるのみとなっていた。
その数と状況に蝕まれ、皆絶望の色を濃くしていたその時、一人の人物が颯爽と現れ魔物達の前に立ちはだかった。
その人物の名は、シロ。
誰もが呼びかける中、シロは聞く耳を持たずに全体に補助魔法をかけ、魔物達に向けて滅びの魔法を放つ。
その一つの魔法で数千体の魔物を消滅させた。
補助魔法で士気の上がったソドムは瞬く間に魔物を蹴散らし、他三つの街に新たな情報をもたらした。
曰く、率いる魔物を討伐すれば、魔物共は引き返すであろう、と。
その情報もシロからもたらされたもの。
魔物を束ねる凶悪な魔物、ベヒーモスにデモンインセクト、ヒュドラを単独撃破した。
侵略してきた魔族を激闘の末、打ち滅ぼした。
騎士団が到着する頃には魔物の姿はどこにもなく、街中からは歓喜の叫びが聞こえていた。
助かった人達はシロを英雄とし讃えようとしたが、探してもどこにもおらず、魔物と一緒に英雄の姿も消えていた。
身に秘める魔力は魔王をも凌ぐ絶対量。その魔力から放たれる魔法は空を焼き、地を焦がし、敵を消滅させる。
身に宿る力も凄まじく、一薙ぎで天を引き裂き、一振りで地を砕く、まさに神の如し。
その姿は白い衣を身に纏った子供、狐の幻獣。
将又、身の丈五メートルを超える体躯のドラゴン、伝説の竜人。
いやいや、ミスリル(はくぎん)に煌く強靭な爪に、力を与える漆黒の牙を携えた異国の旅人。
消えた英雄は魔族との戦いで死んでしまった、あれは神の使いだ……。
と、言われているらしい。
ちょっと待て。
それ、ほとんど合ってないじゃん……。
「どうして、こんな噂に?」
「実際に見た人が少なかったこととギルドの上層部以外はほとんど知らないことでしょうから、噂が独り歩きしたのね。ギルドの上層部でも、あなたの素性を知っている人は極一部だからでしょう」
「はぁ、そうなんですか……」
僕はその噂の内容に呆れと気恥ずかしさに溜め息をついた。
誇張に捏造、姿の混同。
捏造は少し違うか。
それにしても、本当のことが片手で数えられるぐらいしかない。
魔物の数と合成魔法、ベヒーモス、魔族との激闘まで、歓喜で湧いたぐらいじゃないかな?
その他はぜーんぶ誇張もいいところだ。
「ほ、ほほほ、本当に、SSランクなの!」
噂を聞いている間に再起動したミルファさんが絶叫に近い声を上げた。
本当にSSランクかと聞かれてもな……。
何か証明する物があったかな?
……あ、ギルドカードを見せればいいのか。
「……これを見てください」
収納袋から白金色のカードを取り出して、ミルファさんに手渡す。
「……ほ、本物……」
「当たり前じゃない。こんなところで偽装したカードなんて見せたら、重罪で捕まるわよ。それ以前にSSランクのギルドカードの偽装なんて出来ないと思うけど」
「僕がSSランカーであることは黙っていてください。それと、噂に関しては誇張もいいところなんでどうにかならないですか?」
僕は一言忠告を入れて、噂がどうにかならないか聞いてみる。
「もちろん黙っておくよ。ミルファもいいわね。……噂は、どうにもならないと思うのだけど……」
アイネさんは眉を細め、歯切れが悪くなった。
どうにもならない?
そりゃあ、中々消えないと思うよ。自分でもとんでもないことをしたってわかっているから。
でも、人の噂も七十五日って言うし、どうにかなんないの?
その噂を聞くたびに悶絶する自信があるんだけど。
その答えはミルファさんが教えてくれた。
「今、王都ではその英雄さんがたくさんいるの」
「偽英雄?」
「そうよ。姿を見た人が少ない。どの種族かわからない。お伽噺のような魔法に勇者のような圧倒的力。王都の住民は、最初の頃は信じていたけど最近はほとんど信じていないわね」
「それは、王都周辺に魔物が来なかったからですね」
「そうよ、数万体も侵攻してきているのに一体も来ないのはおかしいでしょ、ってことね。侵攻自体が起きたことは信じているけど、精々五千体っていうところね。そのぐらいなら防衛できるから」
被害が最小限に抑えられたのはいいけど、僕に被害が出て来たか。
いや、別にいいんだけでさ。
もうシロになることも、一時ないだろうし……。
「それに、SSランクであることも広まっていない。広まっているとすれば、Cランク試験を受けていたことぐらいかしら。実際、どこまでが本当なの?」
「それは、私も聞きたいわね。人伝には聞いたのだけれど、やっぱり本人から聞きたいのよね」
背が高く(僕が見上げて話すくらい)、同じくらい絶世の美人さんに迫られると結構怖い。
嬉しいとか、ドキドキする以前に怖い。
う~ん、言ってもいいんだけど、どうしようか。
そういえば、ミルファさんは専属になるんだっけ。なら、本当のことを知ってもらっていたほうが、今後が楽になるかもしれない。
「緘口令が敷かれているわけではないですけど、誰にも伝えないことを条件にしたので、誰にも漏らさないでくださいね?」
二人はぶん、ぶんと首を縦に振り了承した。
「まず、噂のほとんどが嘘ですね」
「やっぱりそうなんだ」
「当たり前じゃないですか。さすがに、Sランク以上を数十体と魔族の相手を一人で出来るわけないです。僕がしたのは精々ベヒーモスを初めとするSランク数体と魔族ぐらいですね」
「いや、それでも普通は無理だから」
ミルファさんが脱力したように突っ込んでくれる。
「他にはどれが本当なの?」
「後は、『補助魔法で』と『一つの魔法で』といったところですかね」
「ふ~ん、それじゃあ、実際はどのくらいの規模なの?」
「千三百ってところだったと思いますよ。大体、向かってきていた魔物の数が三千だったんですから」
僕は何でもないかのように言い放つ。
それを聞いたミルファさんは笑顔のまま固まった。
アイネさんはそれを見て苦笑している。
まあ、師匠もできないとは言っていたけど、それは『連戦で』だからな。
凄いことをしたのは当然わかっているよ。
だけど、僕と同じような修行と知識があれば誰でもできると思うし、驚くようなことではないんだよね。
「それに、魔力が魔王よりも多いだなんてありえないです。Bランク冒険者の十倍ぐらいです。あ、でも、魔法の威力はそれぐらいですよ。それぐらいないと、負けていましたね。あと、魔族を倒してはいません。和解しましたから」
うんうん、つくづく質を上げる特訓と魔法の探求をしていてよかったと思う。
「うふふふ、さすがは雷光の魔法使いの弟子っていうところね。彼女と違うところはカモフラージュが出来ているところかしら」
「師匠に忠告を貰っていましたから。アイネさんは師匠のことを知ってるんですね」
「そうよ。同族だからっていうわけではないけど、彼女とは百年前の戦争で彼女が姿を消すまで、偶に話していたからね。その頃は、私もまだ現役だったわ」
「そうだったんですか」
アイネさんが当時のことを懐かしむように話してくれた。
師匠の過去話に盛り上がっていると、置き去りにされたミルファさんが二度目の再起動を起こして割り込んできた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 何で、「ギルマス」ギルマスは驚かないの? どう考えてもおかしいでしょ! 私達の知らない魔法に、エルフよりも多い魔力量って何よ! しかも、和解? 一体どういうこと?」
「いいところだから、ちょっと黙っていなさい。ほら、これに全て書いてあるから」
「ちょっ……」
僕はどうしていいのか分からず、アイネさんの話を聞くことにした。
ミルファさんは諦めたようで、渡された手紙を読み始める。眉を上げたり、小さい声を上げたりとリアクションをとっている。
ミルファさんが読み終る頃には、アイネさんの話がここ最近の話となり、どこの店がいいとか紹介状の場所を聞いたりした。
「はあぁー。よくわからないけど、わかったわ。とりあえず、SSランクの実力は間違いないということね」
ミルファさんがそういうと、アイネさんとの会話をやめて偽英雄の話に戻る。
「それで偽英雄の扱いはどうなっているのですか?」
「現在は無視ね。ただ単に、名乗って注目を浴びているだけね。今のところは実害も出ていないから、放かっているところよ。あなたが嫌なら身分詐称罪で捕まえることもできるわ。国民が讃えた英雄を怒らせるのだから。だけど、SSランクとして発表をしていないし、シロくんのランクも定まっていなかったからそこは罪にはならないわね」
「いえ、実害が出ていないのであれば、僕から特に何もありません。ですが、実害が出てくれば別です」
「なら、どうするの?」
アイネさんとミルファさんがどうするか聞いてくるから、僕は少し笑って答える。
「もちろん、捕まえてしまいましょう。英雄だからといって好き勝手していい訳がありませんから。逆に、英雄だからこそ品位を落としてもらっては困りますしね。英雄は英雄らしく、ってところです」
僕がそう言うと、二人は心底面白そうに大笑い始めた。
偽英雄はそれほど強くないだろう。
強ければ、それなりに顔が知られているはずだからね。それに、世間で言われている噂の中に、Cランクの試験を受けたっていうのがあるらしいから、ほとんどの偽英雄の実力はCランク程度だろう。
強い場合は僕が呼ばれるだろうし。
「ふふふ、そうね。そうしましょう。ミルファ、全員にそう伝えておいてくれる」
「ははは、わかったわ」
これで話を終え、僕はミルファさんと共にギルマス室を退室した。
あ、因みに叫び声が大きかったから、防音用の結界を張って防いでおいた。
一階に降りると、また皆こちらを向いてきた。
う~ん、やっぱり目立つのかな?
身に着けている装備品の素材はわからないように阻害魔法(結界)をかけているから、魔力すら感じられないと思うんだけど……。
それでも、ある程度の魔力か実力があれば、気づかれちゃうんだけどね。
これは、身長が低いからだな。
早く大きくなりたいよぉ。
「シュン君、今日はこのまま帰る? それとも、依頼を受ける?」
依頼か。う~ん、今何時だ?
大体、昼前か。
よし!
「今日は簡単なものを受けようと思います」
「そう? これからは私が専属となるから、いつでも私のところに依頼を持って来てね」
「ミルファさん、ちょっといいか?」
僕とミルファさんが階段付近で話していると、周りで静かにしていた冒険者達の中から代表して一人が聞いてきた。
それなりに強そうな感じがする三十代っぽい剣士だ。腰に下げている剣は魔剣じゃないけど、装飾がされて高そうに見える。身に着けている革鎧には古い傷がついていて、歴戦っていう雰囲気がする。
「はい、なんでしょうか?」
「ああ、なんだ、俺は今専属って聞こえたんだが、ミルファさんはこの子供の専属になったってことでいいのか?」
しどろもどろに剣士は言った。
ミルファさんは人気があるようだ。
周りの冒険者を見ると、何人かが頷き、何人かが聞き耳を立てている。記憶にある魔法使い三人ほどは、それほど驚いていないみたいだ。
アイネさんが言っていたように魔力感知か探知を打ち消したのが効いているようだな。
「そうですよ。今日付けで、この子の専属になりました」
「……それは、幼いから、面倒を見るという……」
僕をチラチラ見ながら、両手を遊ばせて剣士は言った。
ミルファさんを見ると極上と言っていいほどの笑顔を浮かべていた。
「はい」
「それじゃあ……」
「違いますよ」
「え? どういうことだ?」
周りの反応も、この剣士と同じように意味が分からないといったような感じだ。
こういう時に狐のコートの能力が欲しいよね。
「この子の名前はシュン君と言います。こう見えてもAランクなので、無暗に突っかかると怪我をしますよ?」
「…………お、おう」
「それでは、シュン君。やりたい依頼を見つけたら私のところに持って来てね」
「わかりました」
僕は唖然としている冒険者達、固まっている空気の中、依頼板の元へと向かう。
そして、何度目かの襲撃を受ける。
「お、おい! やめとけ! 怪我をするぞ!」
「うっせぇ! こんな子供がAランクなわけねえだろうが! 腰抜け共が! 見とけ、俺様がこいつの化けの皮を……ぐっふ、ブクブクブク……」
「どうかしましたか? ん? この人、こんなところで寝ていると風邪をひきますよ? 誰か、運んであげた方がいいのでは?」
『いえ! 何もありません! こいつが勝手に寝ただけです! そこで寝たいそうです!』
「あ、そうなんですか」
「な、何が起きた!」「し、知らん! あいつがいきなり倒れたことしかわからん」「あの子が何かしたの?」「そうとしか思えんが、何をしたんだ?」「てか、あいつ誰?」「ああ、言わんこっちゃない」「どういうこと?」等と聞こえてくる。
魔力を感知できない者は何が起きたかわからず騒いでいるようだが、寝ているこいつのことを引き留めようとした魔法使いの男が知っているような発言をしたため、周りから説明を求められて集まり出した。
僕がしたことは極々簡単なこと。
ただ単に魔力を全力、とはいかないけどギルマスにぶつけたぐらいの魔力をこいつだけに無理やり感じさせただけだ。
一気に押し寄せる殺意に似た波動と質量を感じる魔力の重圧がかかって、壊れる前に失神として防衛したのだ。
あちらでも『恐らく』話をしている。
話し終わったタイミング僕は後ろに振り向き、微笑んであげた。
あちらもぎこちない微笑みを返してくれた。
僕はそれを確認すると依頼を確認する。時間がないから、王都内の依頼を探す。もちろん、Fランクの依頼だ。
依頼 【民家の取壊し】
一年前、第二区画で起きた火災で半焼した民家を取り壊して、売地にすることになった。
『依頼内容・手段・成功』
その取り壊しの手伝いを頼む。
腕力、魔法、手段は問わない。
出来るだけ早く取り壊してくれると、追加報酬を払う。
達成はこちらの判断で決める。
報酬 銅貨五枚~銀貨一枚
期限 受理された日から一週間以内
依頼主 第二区画解体専門屋代表ロッペン
土木関連か。……これはパスだな。
どのくらい掛かるかわからないからな。
依頼 【迷子の子猫探し】
大切にしていた『セタちゃん』が逃げ出しちゃったの。
目を離した隙にどこかへ行ってしまいました。
『依頼内容・手段・成功』
どこにでもいる黒い子猫です。額に小さな白い毛が生えているのが特徴です。
第二区画のどこかにいるはずです。
報酬 銅貨三枚
期限 三日程
依頼主 フローリア フローラ
この依頼は親子の依頼だな。子供が書いた様な字ときれいな字が書かれているからな。
まあ、受けないけど。
王都に着いたばかりだから、地理に詳しくない。下手したら僕の方が迷子になってしまう。
他にも十数個ある依頼をじっくり見ていく。
街や家の清掃活動にバイト、薬品の実験になってください、なんていう怪しい依頼まである。その分報酬は高いけど……。
半日で済みそうなもの……はないな。
これが最後か…………お、これいいじゃないのかな?
これがダメなら諦めようとして見た最後のFランクの依頼書に書かれていたのは、
依頼 【料理屋の手伝い】
料理を作りたい、と田舎から王都へ引っ越し料理屋を開いたところまではよかったのですが、全く繁盛しません。
『依頼内容・手段・成功』
お店の立地、外装・内装、料理、種類など何でもです。
とりあえず、私の何がいけないのか指摘・アドバイスをお願いします。
報酬 小金貨一枚 (昼食を出します)
期限 適切なアドバイスの元、私が納得するまで
又は、
お店が軌道に乗るまで
依頼主 セドリック・ロジスター
これは僕のための依頼でしょ。
それに、昼食を食べさせてくれるのなら食費が浮くね。……お金は数十年程遊んで暮らせるほどあるけどねー。
よし、これに決めた!
僕は貼り付けてある依頼書を綺麗に剥がして、ミルファさんの元へ持っていく。報酬が多く設定されてあるのが気にかかったけど、それだけ成功させたいのだろうと思いあまり気にしないでおく。
「ミルファさん、この依頼を受けます」
僕は右手に持った依頼書をミルファさんに見せた。
すると、依頼書を見たミルファさんは眉を顰めて言い難そうに言ってきた。
「……シュン君、本当にこの依頼を受けるの?」
「……? 何かあるんですか?」
「この依頼はね、五人が失敗しているの」
「五人もですか……」
なぜ、Fランクの依頼でそんなに失敗するのかな?
料理の評価やお店のアドバイスとかをするだけなんでしょ?
「この依頼を受けた人全員が入院しているのよ。回復した冒険者に聞いてみたんだけど、あまりよくわからないのよね。だから、やめておいたほうがいいと思うのだけれど……」
それは……食中毒か?
もしそうだとすると、相当やばいんじゃないのかな?
この世界の医学は低く、回復魔法に頼っているところが大きい。そのため、回復魔法や回復薬で治らないものは悪憑きと言われ、迫害の対象だったりする。
この食中毒に関しては回復魔法で治りはするが、完全には治せない。
回復魔法というのは、対象の治癒力を高める魔法のことを言う。わかりやすいように言うと、怪我なら『ヒール』を使って細胞組織を治すようにする。病気の場合、細胞が破れているわけではないから『ヒール』やそのイメージでは治すことが出来ない。
病気を治すには、その病気の特性と原因を知らなければ、感知させることが出来ないと思う。
で、食中毒は知られてはいるが、腐った物を食べた等といったようなことしかわかっていない。
しかも、『ヒール』は怪我や痛みを癒す・和らげる魔法だ。
「どうするの?」
「そうですね……とりあえず、受けてみます。やばそうだったら、状況の報告に来ます」
「わかった。受理しておくわ。場所は、ここ第二区画ね。詳しい場所はこの地図を見て言ってちょうだい」
「わかりました」
僕はこの辺りの地理が書かれた地図を受け取って、ギルドを後にする。
◇◆◇
――何処かの離れにある庭。
今日も、そこでは一人の少女が魔法の特訓をしていた。
少女は両目を硬く瞑り、精神を落ち着かせて集中させている。少女から感じられる魔力は、常人の数倍を思わせるほどだ。これほどの魔力はこの世界に百人といないだろう。さすがに、シュンよりは少ないが……。
少女は目を薄ら開けるとゆっくりと右手を上げ、顔の前に人差し指を立てると初歩の火魔法を唱え出した。
「……『我が指先に……火よ……』」
詠唱と共に溢れ出した魔力は常軌を逸している。少女を中心に弱い風を起こさせるほどだ。地に生えている草が、その風に揺られ擦れる音を立てる。
魔力は指先に集まり出し、火の形を作り出そうとし始めた。
「『……灯れ!』」
ポっ スッ
鍵を唱えた瞬間、指先に小さな火が灯ったが、すぐに火が消えてしまった。
「はぁ。今日もダメだった。あと三か月もない。私は、どうすれば……。」
少女は目の縁に涙を浮かべて、誰にも聞こえぬ掠れる声で、そう呟いた。
少女は生まれてから一度も魔法を成功させたことがなかった。別に、適性がないわけではないだろう。火が灯っている時点で魔法が成功しているのだから。
だが、何度やっても一秒以上持続せず、高位の魔法になるほど発動しない。いくら魔力を煉り込めても結果は同じ。
逆に込めすぎて暴発させたことが何度もあるのか、魔法を使うことに恐怖のような感情を感じる。
それなのになぜ、魔法を使おうとするのだろうか。
それは、『あと三か月』という期間が関係している。
その、理由はこの少女と少女に近しいものにしかわからないことだ。
「■■■、またやっていたのか? どうだった? 成功できたか?」
少女が俯いていると、すぐ傍にある一室から優しく心配そうな気持の含まれた男性の声が聞こえてきた。
少女は、その声がする方に振り向くと同時に走り、抱き着いた。
「……ッウ、グス……ス、ン。ダメだった」
「……そうか。■■■、まだ三か月ある。この三か月でどうにかしてみよう」
男性は少女の小さな背中をさすりながら、励ます。
が、少女は一向に泣き止まず、悲しむばかりだ。
「ヒッ、グズ……ス、もう無理じゃないの? ……何を試してもダメだった。父様達以外、皆私を見放したのに?」
どうやら、この少女と男性は親子のようだ。呼び方から想像できるのは、身分が高いということだろう。
「…………そうだったね」
「なら、どうしろっていうの!」
少女は男性を力一杯突き放すと、怒りと悲しみの混じった震える声で叫んだ。
男性は痛いところを突かれ苦々しい顔になったが、気を持ち直して再び話しかける。
「■■■は確か英雄様に会いたい、って言っていたよな?」
男性は近づき諭すような声で訊いた。
少女はそれがどうしたのか分からずきょとん、としている。
「えい、ゆう? それって『幻影の白狐』さんのこと?」
「うん、そうだよ。今、王都にね、その英雄様が来ているらしい」
「ほんとう?」
「そうだよ。王都では結構有名になっているみたいだ」
少女は『幻影の白狐』に惹かれている。
少女の耳に入ってきた噂の内容は、王都の住民の知っている内容よりももっと少なく、誇張されていた。
少女の知っている内容は、
秘める魔力は上限知らず、扱う魔法は神秘である。
街を沈める凶悪な魔物達を打倒した。
万の魔物の大群を操った魔族は一人の若者の手によって退けられた。
その姿は白き狐の衣に身を包んだ一人の子供。
噂の内容が断片的となり、ほとんどのことがシュン、シロと合致していた。少し大袈裟なところもあるが、そこは目を瞑ろう。
少女が惹かれているのは、話の内容だけではない。
少女は自分と同じかもしれない。高魔力を保持しているのにもかかわらず、自分の思うように扱っている。何よりも、自分と歳が近い英雄だ。惹かれてもおかしくないだろう。
内包する魔力が多いほど扱うのが難しいのは当たり前だ。何も使わずに十センチを十等分するのと、千センチを千等分するのとでは難易度が違いすぎる。
魔力が多いほどその差が顕著になる。
「その英雄様に■■■のことを頼んでみよう。彼の英雄様は魔法に秀でているようだから、何かわかるかもしれない」
「……うん、わかった」
「それじゃあ、これから、呼びかけを行うから少し待っていてね」
男性はそう言うと、屋内へと入って行った。
残された少女は先ほどまでの悲しい気持ちが吹き飛び、自分の大好きな英雄に会えることでいっぱいになった。
反面、その英雄でもダメだった場合どうしたらいいのかと思い、恐怖で押し潰されそうになる。
今日はこれ以上集中できなくなった少女は、今日はこれ以上しても意味がないと思い、屋内へと入って行った。




