各地5
魔都バラクブルム
アルセフィールとは魔反対の位置にあるガレンシア。
邪神レヴィアの出現に伴って世界を覆った漆黒の雲はガレンシアの上空でも広がっていたが、現在はいつもと同じ薄暗い空模様に戻っていた。
「まだまだ若いもんに負けん! これを食らうんじゃ!」
白い肌の小さいエルフの老人ゴルドニア。
自分の十倍以上の巨体を誇る猪型の魔物を殴りつけて吹き飛ばした。
風魔法を拳に纏うことで威力を増加させ、風の刃でも切り刻んでいる。
「爺さん先に行き過ぎだ!」
「張り切り過ぎて怪我すんぞ! 若い者に負けてないのは分かったが、あんたは歳なんだから落ち着いてくれ!」
「若いくせに何を言っとる! お主らが遅いだけじゃ!」
ヒャッハー状態になったゴルドニアは止まらない。
この状態になるのを空間に穴を開けてみていたディルトレイは、若かりし頃を思い出してげんなりしていた。
「……本当にエルフなんっすか?」
「お前は戦争に出たことがなかったか。あのエルフは何度と苦渋を飲まされた近接魔法戦闘のスペシャリストだ」
「その後ろを護る老婆エルフは支援に特化した遠距離のスペシャリスト。二人が揃っていたらこんなものじゃすまなかったぞ」
「はぁー……無茶苦茶っすね」
「そんな奴等と渡り合っていたのが俺達であり、族長でもあるわけよ」
ゴルドニアの部隊に配属された少ない若手ダークエルフ達は年配達からそんな会話をしていた。
それでも手だけは休むことは無く、着々に魔物の群を討伐していく。
その頃の上層部。
「通信が妨害された時は混乱しましたが、すぐに復旧したので問題はなさそうですね」
少し焦ったと出ていない汗を甲で拭き取る仕草をしたサテラは、玉座に座ってちびちびジュースを飲む青髪の少女、魔王ことポムポムちゃんに頷いた。
「神が関わってはちんぷんかんぷんですけど、流石シュンさんです」
ガラス製ストローから口を離し、ポムポムちゃんは褒める。
最後のセリフはジュースを見ていたが、魔道具作りに関して褒めていたのだろう。
「現状どうなっていますか? また、私が行った方が良いですか?」
「いえ、キメラという高速再生持ちが暴れているようですが、スペンサー卿とボゴイが競いながら屠っています。妖精族は森で惑わし、セイレーン族は海で惑わし、ハーピー族は空で惑わし、誘き出したところを叩いています」
多種多様な種が存在する魔族だから出来る戦法だ。
連携が出来るのは冒険者ギルドと酷似した組織を作り上げ、実際にアルセフィールの冒険者達と関わった経験があるからだ。
シュンの話を聞いて、それをバリアルが伝え、ギルドを作ったポムポムちゃんの英断と言えよう。
本人はただ面白そうだと思っただけだろうが。
「新しい情報が入りました」
「聞かせてください。面倒だったらポイッと投げましょう」
ケーキの包み紙をゴミ箱へ投げながら、ポムポムちゃんはリスの様に膨らませて言った。
何とも緊張感の無い本部だが、この余裕こそが魔王として魔族達に良い影響を与えるのだ。
サテラはそれを理解しているため母親のように微笑み、届いた報告に困って肩眉を器用に上げた。
「どうやったのか理解不能ですが、邪神の集団の中に折れた赤角の鬼を目撃したそうです」
「はい? それって私が屠った先代のバカじゃないですか」
「間違いないと思います。配下にその時亡くなった忠誠を誓っていた者達が見られたそうです」
面倒臭い事にポムポムちゃんも眉を困ったように顰め、ケーキを食べる速度がなぜか上がった。
そして、ケーキの美味しさに頬を緩める。
「アンデッドですか?」
「はい。魔王陛下の名を叫び出て来いと、怒り狂っているそうです。アンデッド化した上に改造され、邪神の影響を濃く受けているようで以前の数倍は力が上がっているかと。まあ、脳筋に拍車がかかっただけですね」
「また面倒なことをしでかしますね。でも、数倍上がった所で大して変わりません。貰った聖水と神聖武器で成仏させちゃいましょう」
それを思って第一波に使わなかったわけではない。
聖水はキラキラと輝き、柄付きの小瓶を気に入ったために保管しようと思った。
神聖武器も綺麗なので飾っておこうと思っただけなのだ。
それどころか聖水や神聖武器は魔王や魔族に有効だと言われており、いつか勇者が現れた時の反応が見たいと面白がっただけだったりもする。
因みに、聖水や神聖武器が効くのは魔王として邪神レヴィアの様に堕ちた者のみであり、普通に王として君臨しているポムポムちゃんにとっては効果をなさない。
「そのように指示を送ります。勇者となれるチャンスだと伝え、シュン様から送られたアルセフィールの部隊を当てなさい」
魔王を倒せば勇者になれる、という魔族であるサテラの煽り文句に、総本部とやり取りを行うために派遣された魔族以外の者達は苦笑を浮かべた。
「ゴルドニアの部隊にも行かせろ。ふぅ、暴れ足りんだろうからな」
「お疲れ様です、ディルトレイ」
「余計なお世話だ、一応感謝しておこうとのことです」
「そこまで伝えんでよい!」
その煽りはかなり有効だったようで、血の気の多い実力者ばかりを送っていたこともあり、両者共に二つ返事で了承が返って来た。
「先代魔王について詳細を教えてほしいそうです」
「先代バカは兎に角肉弾戦です。力を誇示することしか頭にない脳筋さんで、見え見えの罠に嵌まるほどです。アンデッド化した今簡単なからめ手に引っかかるでしょうね」
「魔法は身体強化や爆撃とする範囲技でしょう。危険ですが挙動で分かると思います。魔法に対する耐性は強くなっても変わらないでしょうし、魔王陛下に氷漬けにされたので氷魔法に恐怖を覚えているかと」
無駄に生命力が高く、ポムポムちゃんが放った氷魔法の中で身動きが取れないまま放置されたのだ。
命も閉ざす永遠の氷ではなく、解けず、動けず、ただただ冷たい。
前口上の最中に氷漬けにされ、一瞬で戦闘は終了、先代魔王は身動きの取れない氷の中でじわじわと自分の命が消えるのを待っていたということだ。
恐怖ものだろう。
「相手は魔王ですけど、魔王の下に来れないのなら挑戦権はありません」
「ふふふ、魔王陛下自ら前線に立たれたのは?」
「あれはティータイムを邪魔したあいつらが悪いのです。絨毯に食べられたお菓子の恨み――」
ポムポムちゃんはそう言って新たなケーキに手を伸ばし持ち上げた瞬間、ポトリと絨毯の上にケーキが落ちてしまった。
「……」
ポムポムちゃんは固まった。
赤いイチゴが転がり、白い生クリームが赤い絨毯の上で白い血痕のように飛び散る様を、ピシリと固まった笑みで見つめている。
サテラ達も硬直し、石像の如く動かない。
ポムポムちゃんが取るのを失敗して落したのではない。
タイミングよく魔王城が揺れ取りこぼしたのだ。
そして、数度の爆発音が響き、静寂の後に玉座の間の重厚な扉が部屋の中へ倒れる。
その地響きと風でケーキスタンドがテーブルから落ち、飾ってあったケーキたちが無残な姿へ成り果てた。
「――は凄まじく恐ろしいのです。そう、地獄が生温いほどに、恐ろしいのですよ」
淡々と呟くように言ったポムポムちゃん。
それに気付かず内部へ侵入してきた、自分の首を絞める所業を働いた張本人はツカツカと玉座の間の中央へ歩いてきた。
「お久しぶりですな、魔王陛下。ご機嫌麗しい様で何より。私も魔王陛下とお会いすることが出来て感無量でございます」
「……メフィスト、ですか」
恐ろしいほどの魔力を体内で練り込み、ポムポムちゃんはいつもと変わらない笑みを浮かべて立ち上がり、ふわりと跳んでしわくちゃな人族のような醜悪な老人――天魔族の族長メフィストの前に降り立った。
「……魔王陛下」
二人以外誰もが硬直する中、どうにか再起動したサテラが呼びかける。
その声には恐怖や恍惚の混じり、興奮してどこかもじもじしていた。
「何でしょう。私はケーキ達の無念を晴らすのに忙しいので手短に頼みます」
「い、いえ、周囲に被害を出さないようお願いします。ここにはシュン様のお菓子が山の様にあるので」
「そうでした。サテラ、無粋なお客さんの相手は私がするので、(お菓子達を)しっかり守ってくださいね」
「は、はい! 相手はあの天魔族なので魔王陛下も――」
「心配は無用です。私の戦闘力は53万以上ですよ? 勿論フルパワーで戦う気など毛頭ありません。それをしてしまえば星を壊してしまいかねませんからね」
更に恍惚としていくサテラ達魔族を置き去りに、メフィストの目の前まで歩き足を止めた。
メフィストも同じ魔族ならその力を感じ取っているであろうに、考えの読めないしわくちゃな顔の口角を釣り上げている。
そして、ポムポムちゃんは笑顔なのに凄まじい怒りが見える表情を浮かべ、
「絶対に許さんぞ、ゴミ共! ケーキの恨みを思い知るまで、じわじわとなぶり殺しにしてくれるッ! です!」
邪神レヴィアに匹敵する魔力がメフィストだけに向かって叩き付けられた。
「ふふふっ、これが魔王陛下、いや、魔王の力ですか。心地良い」
が、メフィストはしわがれた声で受け切り、それどころか薄ら開いた瞼の奥から狂気に孕んだ怪しい瞳が貫いた。
メフィストの放つ悍ましい邪神レヴィアの力が籠った圧力をポムポムちゃんが封じ込めるが、漏れ出た靄と風が玉座の間を襲う。
拙いと察したサテラは、咄嗟に早口で指示を飛ばす。
「ディルトレイ!」
「もう少し老骨を労われ! シュン殿も魔王様も勝手すぎるであろう! ええい!」
その声に反応したのは汗をびっしり掻いていたダークエルフの老人ディルトレイ。
十数分前にシュンとフィノが放った『神之怒光』を転移させたばかり。
無茶な連発に悪態を付くのも仕方がなかっただろう。
ポムポムちゃんは困ったように笑って軽く頭を下げ、メフィストが放った黒い波動を振り向きもせずに打ち払う。
そして、二人は玉座の間から姿を消し、数秒後に魔王城をシュリアル王国と同じく大地震が襲った。
フェアルフローデン
世界樹の結界と干渉しないように大結界を張ることが出来ない。
人数差と戦力差も大きく、世界樹を守り切る役割、他の地と違い逃げる場所も無い背水の陣でもあった。
すでに魔道具を使い切り、いよいよ全勢力を上げて立ち向かわなければならなくなっていた。
「目を覚ませ! 邪神如きの甘言に惑わされた馬鹿者達! 自分達がやっている所業に胸を張れるのかッ!」
細身の剣を片手に怒号を飛ばすディネルース。
細剣は緑色の神々しいオーラを纏い、一振りする度に邪神の集団を吹き飛んでいく。
「目を覚ますのはそちらです、ディネルース様! ご先祖様の無念を晴らさず、剰え追い出した張本人に降る等もってのほかではありませんか!」
「無念を晴らす? 笑わせるな! 貴様等が勝てば世界樹は滅ぶ! それが分からぬわけではあるまい!」
「そんな筈はありません! 私達を世界樹の守護役に抜擢すると約束して下さった! それに邪神ではなく神です!」
同胞と魔物が交互に襲う激しい攻撃を、ディネルースはエルフ達の支援を受け防御する。
それが邪神の集団に組みするダークエルフ達には我慢ならず、更に戦闘は激化していく。
これには邪神に良い様に操られている原因がある。
エルフ族やダークエルフ族なら身内で争うのがおかしいと、正常な状態なら分かるはずなのだ。
それを分からず一方的に判断するとなると、どうとしか考えられなかった。
「クソッ! 邪神をこの手で殴らねばどうにかなってしまいそうだ!」
駄目だと分かっていても邪神レヴィアに怒りが込み上げる。
ディネルースの悪態は如実にファミリア達の心を表していた。
「エルフ如きが勝てると思うな!」
「ふん、まだまだ若い者達には負けんさね! それどころか戦争を知らん木っ端共が勝てると思われて恥ずかしいわい!」
「ぬかせっ、チビババがッ! ごふあっ!?」
「老人を労わらんかい! お前さんもいずれチビになる、知っとけ世間知らずの坊や!」
二百年も生きていないダークエルフの若造のセリフにキレたシルルエクル。
支援に特化しているとはいえ、遠距離の魔法の腕はゴルドニアの上を行く。
今の攻撃は飛び膝蹴りだったが……。
「考えも甘すぎる! 甘言に惑わされるのは尻が青い証拠さね!」
「手を取り合うという方が甘い考えだ! お前達エルフは俺達に苦渋を飲ませ、過去の行いを飲み込めと言っているだけだ!」
「神は違う! 私達に世界樹と安穏を齎すと約束して下さった!」
「ふん! それこそ嘘さね! どこが信用できるというんだい!」
シルルエクルは飛来する矢と魔法を躱し、森を傷つけないようにコントロールした精密な魔法で迎撃する。
ダークエルフも自然を傷つけない種族に違いはない。
が、襲い掛かって来るダークエルフ達は森のことなどお構いなしに攻撃を加えている。
洗脳の影響が出ている証拠だった。
それでも拮抗するのはファミリア側の武力が上回っているからだ。
しかし、少なくない被害が森やファミリアに現れ、少しずつ世界樹や精霊に影響も出ている。
「貴方達は騙されていると理解しているのでしょう?」
「知らんな。我らを排除したエルフの言葉こそ信用できん」
戦場の傍らの静寂地域。
そこではエルフ族前族長フレデリアと壮年のダークエルフがお互いに牽制し合いながら語り合っていた。
「確かにそれは私達の咎でしょう。過ちを犯したのは私達だと思います」
「上から目線に……それを傲慢だと知れ!」
「それを引き起こしたのは邪神レヴィアです!」
両者から魔力が迸り、辺り一帯にいた者達は後退る。
「貴方達は何を求めているのでしょう? 世界樹? 私達の命? それとも終焉ですか?」
「知れたこと! ご先祖様の無念を晴らす一点のみ!」
消える速度で放たれたダークエルフの槍をゆらりと躱したフレデリアは、額に手を当て小さく溜め息を吐いた。
歯牙にも掛けないその様子に怒りを込み上げ、額の血管が蠢いたダークエルフの連続攻撃。
「踊らされていると気付きなさい! 過ちが過ちの範囲の中で、取り返しがつかなくなる前に戻りなさい!」
ビスティア
黒い体毛に白い毛が生えた狼の獣人は炎を纏った拳を振い、怒りの籠った嘆きの咆哮を上げる。
「どうしちまったんだよぉ! お前達、戻って来いよぉ!」
同胞が敵に回った悲しみの涙を流し、獣王バルドゥルの息子ハクロウは仲間の為に拳を振う。
視野が狭くなり、部隊から突出してしまっていた。
仲間達がそれを見て追いかけるが、邪神の集団の獣人達に阻まれ断裂されてしまう。
一つのことに集中し、全力で信じて全力で行動する性格だ。
その悪い影響が少し出てしまっていた。
「ハク! てんめぇ、こっち来てんじゃねえよ! クソ狼!」
そこへ突っ込んできたのが目付きの悪い紺色の狼人。
鋭い爪を伸ばし、更に魔力で強化することで攻撃力と鋭利さを上げる攻撃を得意とする獣魔族のギュンター。
ハクロウは虎の獣人をぶっ飛ばすと、声が聞こえた方角を睨み付けた。
「はん? お前もクソ狼だろうが! ギュンギュン!」
ギュンターもまたハクロウと同じで突出していた。
これは同族嫌悪という奴であろう。
「ギュンギュン言うなッ! てめえこそ黒いくせにハクだろうが! ……恥犬」
「俺が付けたわけじゃない! 名前は関係ねえだろうがよぉぉ! ……負犬」
「「んだとゴラぁっ!」」
二人は額を擦り付け、激しい火花を散らす。
その傍らで襲い掛かる獣人や魔物を拳や足で叩きのめしていた。
恥犬とは思春期にありがちな反抗期も合わさり、婚約者を得るために一人で突っ走っていた恥かしい犬――狼、という意味だ。
負犬とはシュンをただの人族だと侮って挑み、敬愛する魔王の前でコテンパンに噛ませ犬、いや、狼となった、という意味だ。
どっちもどっちだ。
と、合流した両者の部隊の者が苦笑を浮かべる。
「何をやっているんだ……はぁ」
それを本部から通信で聞いたバルドゥルは頭を振って溜め息を吐いた。
「獣王様、我ら相手に余所見とは余裕ですな!」
バルドゥルを囲む数人の獣人達が筋肉を膨らませる。
彼等は邪神の配下となった元族長達だ。
バルドゥルはそんな彼らを睨み付け、狩猟豹に相応しい鋭い牙が覗く。
「貴様等如きが獣王たる俺に勝てると思っているのか? たかが族長が吠えるな!」
バルドゥルの身体が一回り肥大化。
黒い体毛に白い斑点が濃くなる。
爪と牙が伸び、瞳孔が縦に裂け、肉食獣へ変貌。
獣人族の固有能力獣化だ。
「くっ! 我等には神の力がある! 獣王であろうと負けるはずがない!」
「自らの力を誇る武の獣人が他人の力で何を誇れるという?」
バルドゥルの言葉にファミリアの獣人達の闘志が高まる。
それに対抗して邪神の集団の獣人達が黒い靄を噴き出す。
全身の毛を逆撫でたバルドゥルは憤怒に眉を吊り上げ、青い雷を迸らせ掻き消え――
「それに……我らが神は神獣様であろうがッ!」
「ぐはっ!」
――近くにいた牛の獣人の目の前に現れ、衝撃が起こる前に宙を舞った。
「貴様等は他人の力を借りて強くなるだけでなく、我らが神を捨てるとは……獣人に非ず!」
「人族如きに負けて何が獣人かッ! 姿なき神獣と姿有り力を貸していただける神では比べるまでもない!」
自分達のことを棚に上げ、彼等もまた獣化を行う。
バルドゥルは憤怒に染まった顔を無に変え、冷たく鋭い気配が邪神の集団を突き刺す。
腐った性根の言い分を聞き、洗脳されていても心はそう思っているのだと理解、堕ちたのだと、完全に元に戻す選択を排除した。
「外道まで落ちておったかッ! よかろう。獣王として貴様等に最後の慈悲、引導を渡してくれる! ガアアアッ!」
「そのセリフは我らの方だッ! 行くぞッ! 「「「「ガアアアッ!」」」」」
両者の力がぶつかり合い、瓦礫の山を吹き飛ばす。
ファミリアと邪神の集団も続いて衝突。
「愚息ハクロウと同じように恥を晒して戻れると思うなよ? 家族の為に死んで詫びろ!」
小さく呟くようにバルドゥルは言った。
「うおぅっ!」
「ど、どうした?」
「い、いや、何かな……言いようのない寒気が」
バルドゥルのセリフは戦闘音で聞こえていなかったようだが、ハクロウには野生の勘とでも言うのか全身の毛が逆立った。
気づいたギュンターは驚き、自信も毛も若干逆立ってしまった。
そこへ、落ち着く鈴の音が響く。
「ハクロウ様、そのような場所で何をなさっているので?」
隙間からゆらりと現れたのはリスの獣人アスカ。
「お仲間はあちらで苦戦していますよ」
幻影から逃れた魔物が襲い掛かるが、右手に持つ鉄扇が舞い首を切り落とした。
血が降り掛かるも白い光が左右に割く。
その中で浮かべられたアスカの微笑みは怖いの一言に尽きる。
「い、いや、その、な?」
「いや、その、ではわかりません。父君とシュン様はそれはもう格好良く男らしく戦っておられます。あれに世の女性は惚れるのでしょうね」
「く……」
良い様に言われたハクロウをギュンターは口を押さえて笑うが――矛先が向く。
「そちらのギュンギュンも何をしておられるので?」
「え? あ、や、俺は……そう! こいつを助けに――」
「それでお仲間を危険に曝しては意味ないでしょう? それともバカ犬が心配でならないと? 信用してください」
「は、はい! イエスマム!」
この人には逆らえないと本能に叩きこまれ、ビシッと敬礼。
それを見ていたハクロウは気付く。
黒くてわかり難いがその頬がほんのりと赤くなるのを。
そして、まなじりが吊り上がるも……
「喧嘩するほど仲がよろしいようで。でしたら、私に変わってキメラにお相手を頼みたいですね」
アスカの威圧に支配され、否応なく仲間の方へと邪神の集団を吹き飛ばして突き進んでいった。




