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最終決戦前

「そうでしたか。不甲斐ない私達をお許しください」


 何が神ですかって自虐的なセリフを吐く。

 それだけロトルさん達は優しい神様なんだってわかる。

 でも、何でも頼ったりして生きていくのは人形と同じってよく言う。


「邪神の居場所さえ分かれば処罰覚悟で誰かが向かってもいいんだがな」

「うぬ! 我なら仕事も少ない故やっても良いのだがな! 許してくれんのだ!」

「お前が行ったら邪神より立が悪い結果が眼に見えてるからだ!」


 げんなりして怒る器用なミクトさんはマッチョなクレアストルさんの頭を叩く。

 そのやり取りで目的は達成してくれるけど周りの被害が甚大じゃない、ってわかるよ。

 うん、どっかの島とかならいいけど、場所は僕達の住む大陸だからね。


「それよりも、宣戦布告」


 イシュルさんが呟く様に言う。


「分かっていると思うけど、天魔族の長メフィストとやらが介入できたのは邪神レヴィアが手伝ったからよ」

「ですが、全く感知できませんでした。結界こそ発動していませんでしたが、ここ最近ずっと警戒していたんですけど」

「恐らく、生身ではなかったからでしょう。邪神の力を甘く見てはいけません。その力は私達と同じで、悪辣な分最悪です」

「あれは、シュンと同じ魔法。でも、巧妙に隠し、ていた」


 それは気を付けないといけない。


「生身で来なかったのはばれるからでしょうね。来ていたら気付けたでしょうし、放った雷魔法で倒せていたはずよ」

「天魔族は想像通り邪神、いえ、その上司だった神が作り出した種族ね。元が何の種族か知らないけど、自分達にとって都合の良い悪意や感情を込めて作ったと思えるわ」

「だから、あんな気持ちの悪い魔力を持っているんですか」

「悪く言えば実験する神はいくらでもいる。態と災害を起こして危機感を持たせたり、聖人となる人物を産み出し腐敗を防いだりね。加護も同じような意味合いがあるの」

「そのぐらいなら許容範囲内だからな」


 神様達も人間とそんな変わらないってことだ。


「その手を打ってきたということは戦力的に劣っているからでしょう」

「ローレ義兄さん達も言ってました。少しでも有利に立つために危機感や疑念を募らせた、と」


 宣戦布告は僕達の会議場だけでなく、ギルドや各国の集会場や魔族側でも同時刻に起きたそうだ。

 既にいつ起きてもと言われていたからそこまで混乱はなかった。

 ローレ義兄さん達は住民を安心させながら避難させて、最終準備に入ってる。


「あまり効果はなかったようで安心したわ。私も鼻が高いわね」

「メディの鼻が何故高くなる?」

「え? だって、シュンを送ったの私だし……そうなると、シュンを陥れた輩も……」


 なんか、メディさん見てるとほっとするよ。

 親近感が湧くってのもあるけど、こんな人達が仲間にいると思うとね。


「邪神が出てくれば私が神託を降ろします」

「諦めなければ絶対に勝てる! 我は武術神ではあるが、戦いの神でもある故な! お主が諦めない限り我の加護から流れる力は不滅である!」

「貴方なら、出来る。仲間を、信じて」


 加護の力を加えたお守りは、ただ単に身を邪神の力から保護してくれるだけが能力じゃない。

 お守りを通じて権能を持つ神様の恩恵を得られるんだ。

 お守り自体の能力はそっちが主だね。


 メディさんは創造神だからお守りぐらいじゃ効果が大きすぎて無理だったんだけど、ロトルさんは生命力や回復に、ミクトさんは敵の気配や死難くなって、フレイさんは直感や運命に抗う力が出る。

 こうやって疑似的な加護を齎すのがお守りでしょ?


「はい、僕は信じてくれる人のために、皆もそれは同じです」


 勝てない相手じゃない。

 背中を任せられる仲間を信じて、愛する人や戦えない人を護る力を糧にね。


 それに、僕とフィノで邪神対策の秘密兵器も考えてる。


「そうよ、シュンくん。今の貴方ならきっとできる」

「我は信じている! お前の力は神に匹敵すると!」

「貴方の考え、賛成する。やってみると、良い」

「加護の力は守りが力ではありません。私達の繋がりもあるのです」

「俺達六人、一人は頼りないが最高神にして創造神だ」

「頼りないって何よ! こほん。シュン、貴方には前世を含めて迷惑をかけるわね」


 メディさん達が僕を囲み、威厳を纏ったまさに神の様子で見る。

 僕も自然と背筋が伸び、メディさんに一つ頷く。


「迷惑だとは思っていません。思っているとしたら傍迷惑な邪神達に対してです。メディさん達には感謝の念しかありません」


 この思いはメディさん達に嘘じゃないと分かってくれるはずだ。

 なにせ心読めるしね。


「ふふふ、シュンさんは何時も変わりませんね」

「それでこそシュンだ。この戦いはお前がカギとなる。絶対に死ぬことだけは許されない」

「分かっています。フィノや皆を護る為にも死ねません。それに二度死ぬのは嫌ですからね」


 もう覚悟は決まってる。

 死ぬ覚悟じゃない、邪神に打ち勝つ勇気の覚悟だ。


 そして、今も世界の監視をしてくれていたロトルさんがハッと何かを感じ取った。


「来ます! 凡そ五時間後、予想通り各地の王都を中心に姿を現します!」

「シュン、戻って直ちに連絡しろ!」

「分かりました! 神様に願っていいのか知りませんけど……皆さん、見守っていてください」






 神界から戻った僕は転移で総本部に向かった。


「戻ったか、シュン」

「お帰りなさい、シュン君」


 タイミングよくローレ義兄さん達がいた。

 ただいま、と一言口にしてすぐにロトルさんから教えてもらった邪神警報を通達してもらう。


「分かった。聞いていたな! 通信班は直ちに各地へ通達しろ! ファミリアの兵士達は防衛態勢に入るよう連絡だ!」

『はい!』

「時間は凡そ五時間後。それでも感知し難いらしく早まる可能性があります。狙われているのはやはり主要都市とのことです」

「だそうだ」


 冒険者達にも通達して、奇襲を受けても反撃に入れる準備に移る。


 国民の殆どは街の中に避難が完了していて、避難訓練通り『押さない、走らない、喋らない、戻らない』を実行させて避難場所まで向かってもらう。

 その護衛に兵士や新人冒険者があたり、別ルートを使って騎士やベテラン冒険者が街を囲むように布陣していく。


 この数か月間僕は各地を回って主要都市の防備を固めていった。

 魔族と協力してアルカナさん達に作ってもらった空気中の魔力を吸って発動する物理・魔法耐性を施す壁、上空を護る守護障壁、邪神の力を感知して迎撃する自動迎撃の魔道具とかの設置をね。

 非戦闘員でも戦ってくれる人には怪我人の治療を魔石で出来る魔道具やDランクまでの魔物を爆散できる色々な魔道具を準備している。


 お守りにも秘密がいくつかあるし、防衛に関しては大丈夫だと思う。


「私達は此処で待機?」

「基本そうなるよ。一応この遠隔操作型の映像魔道具で状況を確認しながらね」

「そんなものまで作ってたの?」


 取り出した魔道具を見てフィノが飽きれた。

 元々ラジコンとか遊び道具の為に作ったんであって、それに通信の魔道具をくっ付けただけなんだ。

 ラジコン、してみたかったんだもん。


「遠隔操作型だけど外に設置した魔道具を切り替える方法だから、視界が変わるだけで操作自体はほとんどできないし、石が当たっただけで壊れるからね」

「そういえば守護障壁の魔法陣を描いている時に何か置いてたね。それがそれと繋がってるってこと?」

「そう。流石に他国までは手が伸びなかったけど、王国だけでも分かれば余所でも対応できるからね。どうにか戦いの主導権を握っておきたいでしょ」


 普通の戦いならまず僕やポムポムちゃん、フィノでも主導権を握れる。

 いきなり邪神が出てくることはないと思うからね。

 というか、出て来たらどうにかなるレベルまで来てて、だからメフィストが態々あんな宣戦布告をしてきたんだ。


「シュンの言う通りだ。戦争において主導権は何よりも大切だ。大きな戦い程特にな」


 フィノが驚いた顔で僕を見る。

 そ、それぐらい前世だったらほとんどの人が知ってるんだよ!

 み、見くびらないでほしいね。


「ますます惚れ直すよ。自慢気なシュン君も可愛い」

「そこは格好良いって言ってほしいけど……。って、自慢げだった?」

「自慢げだったと思う。いつもより声が高くて早口だったし」

「ぐ……そう言われるとそうかも」

「そこもシュン君らしいよ。いつものシュン君なら皆安心できるもんね」

「フィノ……ありがとう」


 ニコニコ顔を合わせていたら大きな咳払いが響いた。

 危ない危ない、今は通信していたんだった。

 もしかして聞こえていたかなぁ。


「はぁ、ローレライと結婚したというのに……邪神め! この恨み、何倍にもして返してくれる!」


 その意気ですよ。


 ローレ義兄さん自体の力はあんまりないけど、指揮に関しては凄いからね。

 この前見せてもらった魔物の討伐は、上手い具合に新人騎士を動かしてCランクの群を倒したからね。

 僕やフィノなら瞬殺でも、人を動かしてとなると難しい。

 というより、僕は絶対失敗するね。


「そこ、自信満々に言わないの。メッだよ?」

「か、かわ……じゃなくて、無理なものは無理なのです。僕は作戦通りに実行するとか、力を見せて士気を上げる方が得意だね」

「それが一番なんだけど……はぁ」


 何、その溜め息。

 僕だって格好良く指揮できたらいいなって想像するよ。

 でも、僕自身がその想像が不可能じゃないかって思うぐらい非現実なんだ。


「SSランクは総じてそんな感じだ。アリアリス殿の様に指揮を取れる者がいないわけではないが、やはり戦場で力を示してくれた方が良い」

「後ろで鼓舞するのがお兄様やお父様ということですね」

「そうだ。適材適所、役割分担とでも言えば良いだろう」


 そう、それが言いたかったんだ。


「ふ、出来ないのと出来るけどしないのは大きく違うよ」


 わ、笑ったな?

 僕も内心笑ったけどさ。


 そこへ、武装した義父さんが現れた。


「父上、やはり気は変わりませんか」

「変わらんな。ローレが立てない今、前線で鼓舞するのは私しかいない。レーレダレックは……良くはなったが駄目だな。周りが聞かんだろう」


 武装はドワンさん達が作り上げた逸品で、アルカナさんと一緒に僕が刻印を施した一級品。

 加護の力をお守りを通して分け与えることもできる王国最強の王族の鎧だ。

 聖剣とかよかったんだけど、作っても義父さんが戦うわけじゃないからね。

 剣は鼓舞できる儀礼用とでも言うのかな? 振り翳すと支援魔法が使える武器を作った。

 見せてもらった神器を参考にしてるんだ。


「確かにそうですが……母上はお許しになったので?」


 勿論、ローレ義兄さんが言うように危ないことはしないでほしいと止めたよ。

 特に体調が治ったと言っても、この世界の平均年齢だともう高齢だからね。

 身体も弱くなってるから戦場の空気でいつ崩すか分かったもんじゃない。


 それでも義父さんはこればっかりは譲らないって頑固に言ったもんだから。


「ああ、許してくれたよ。条件としていくつかあるがね」

「わかりました。決戦の後はシュンとフィノの婚約……結婚式があるのですから絶対に生き残ってください」

「ふん、分かっておるよ。それを見ずに逝けるものか」


 小さく鼻を鳴らす義父さん。


「結婚だなんて……まだ成人まで一年以上あるんですよ。お父様もお兄様も気が早すぎます」

「でも、ローレ義兄さんの言う通りでもあるよ。義父さん、無茶はしないでください」

「分かっておるよ。マリアに死ぬことだけは許されておらんのでな。無事帰って盛大な結婚式を見届けるまではな」

「お父様! 見届けた後はシュン君とのこ、ここ、子供! を見ないでどうするんですか!」


 ぶふぉっ!?

 い、言ってくれましたね、フィノさん。

 通信の先からも噴き出す声が届く。

 ローレ義兄さんや義父さん達も呆気に取られる。


「ごほん! そ、そうだな。孫をこの手で抱くまで死ねん」


 咳払いをしたけど全く動揺を抑えられてない。

 ローレ義兄さんも驚きの次に納得の表情になって頷いた。


「まさにその通り。父上、私とローレライの間の子供も孫です」

「う、うむ、分かっておるぞ。お前達の方が先に出来るだろうからな。本当なら作って決戦に挑んでもらいたいが」

「無茶言わないでください」


 いつもと変わらない様子に緊張が解けていく。

 隣ではフィノが真っ赤になって悶え、何故か僕のせいだと小さく呟いている。

 羞恥心に悶えるフィノも可愛くて珍しいから構わないけどね!

 思わずぎゅっと抱きしめちゃう。


『子供と言えば、俺とララの間にも出来るだろう。シュンには勝てないが、その子には負けんぞ! あ、ちょっ、まぎゃああああ!』

『はっはっは、それは面白そうだ。クロス魔法王は相変わらず仲が良いようで安心。余の所はそろそろ生まれそうだぞ』

『俺の所はもうすぐ五になる。競えないのが残念だが、年長者として立派にやれるか見ものだな』


 それぞれの国で希望が生まれてくるんだね。

 僕とフィノの子供がどうなるか分からないけど、しっかり育てようと思う。

 しっかりできるのか怖いけど、僕と同じようなことは絶対に味合わせるつもりはないよ。


 フィノとの赤ちゃんを考えると確かに身悶えしそうになる。

 嫌とかじゃなくて、まだその段階が恥かしいっていうか……ね。


「そういうわけで、私は前線で指揮をする。後のことは頼んだぞ」

「はい、父上の御武運を祈ります」


 外で待機していたレオンシオ団長と一緒に退室した義父さん。


 身悶えていたフィノが腕をぎゅっと握りしめる。

 冗談かどうかわからないけど、気丈に振る舞ってあんな台詞を吐いたんだと思う。


「大丈夫だよ」

「うん」

「邪神を見つけてぶっ飛ばそう。それが一番早く終わる方法だからね」

「ふふふ、シュン君なら出来るよ」

「僕だけじゃないよ。フィノがいるから、皆が信頼できるからだよ」


 フィノの震えが収まり、何時もと同じ笑みが戻る。

 僕達も最後の準備を行い、決戦に備え力を蓄える。


 そして、約五時間後に各地の観測班から帯状に伸びる影を補足した報告が届く。

 その十数分後に第一波と激突し、決戦の幕が上がった。


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