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浄化

 ミクトさん達と話し合った僕は一旦ビスティアへと戻り、知り得たことが重要案件だからフィノと共に王国へ転移することになった。

 勿論、ビスティアをそのままにしておけないから支援隊が到着するまで手伝って、魔法大国の方はシルに任せている。


 僕がシルと呼んだ時はフィノも目を丸くして驚いてね。

 シルの無事に安堵したんだけど、こっちも嬉しかったみたいだ。


 その間にバルドゥルさんと情報交換を行って、今回の支援もするために正式な協力を結んだ。

 そうしないと緊急事態でも厄介なことになるかもしれないからね。


 ハクロウからは謝罪を貰った。

 その時アスカさんが付き添っていたんだけど、男のプライドっていうのか、素直になれないハクロウはそっぽを向いて頬を掻きながら言ってた。

 これもシルと同じでツンデレみたいなもの?


 ハクロウを責める人も少なからずいる。

 でも、庇う人もいて、どこか吹っ切れたハクロウが文句も言わずしっかり働いているからそこまでじゃない。

 ハクロウが何も知らなかったのは明確だし、族長の中にも裏切り……かどうかまだ判断できないけど出ているからね。


 そのためにも早く魔道具の製作を急がないといけない。



 王国へ帰って来た僕達は報告をするためにローレ義兄さんの下へ向かう。

 そこには義父さん達もいて、通信の魔道具を使い各地に赴いているレオンシオ団長達に指示を出していた。


 ビスティアや魔法大国ほどじゃないけど、多少なりとも被害が出ていたらしい。

 といっても盗賊とかそんなレベルで、諜報員とかじゃないかって話だ。


 ミクトさん達が言ったことから推測すると、邪神は狂い始めているから連携も取れていないだろうし、今回上手くいったのはアルティスが念入りに組んだからだ。

 それでもうまく事が運ばずずれたのは運が良く、やっぱり連携が上手くいっておらず、煉獄の様子から察するに独断行動やいくつか目的に分かれているんだろう。


 獣人は自分達が一番とか言ってて、煉獄は強い奴を殺したい、アルティスは全てが壊れればいい……良くある話、目的は違うけど成し遂げるために手を組んだ感じ。

 そんな状態でトップが崩れれば連携できなくて当然だ。


「それでも力の差で覆される。堕ちても腐っても神である、ということだな」

「私達に手が出せないというのも歯痒い所がある、か」

「またシュンに頼らないといけないのね」


 と、苦々しい顔で義父さん達は評価した。


「加護というのも厄介です。本当に私でも出来るのかな?」

「出来るはずだよ。フィノに加護をくれた神様が言っていたんだからね」


 手の開閉を繰り返し可愛らしく首を傾げるフィノに、そっとその手を包み込んだ。


 まだ僕も力を使いこなしたわけじゃないけど、感覚的には掴んでいる。

 出来ればフィノもあの空間に連れていければいいんだけど、今はまだ無理かな?

 僕は例外みたいだしさ。


「シュン君が言うなら信じるよ」

「うん、フィノなら絶対できるよ」


 握った手を恋人繋ぎにしてニコニコ笑い合っていると、ローレ義兄さんのわざとらしい咳払いが聞こえ、視線を戻す。


「二人の仲が良いのは兄としても喜ばしい……が、今は話を先にしてくれ」

「申し訳ありません。お兄様は遠距離でしたからね」


 そう言えばそうだった。

 公国の姫君で歌姫と呼ばれるローレライさん。

 フィノも手紙のやり取りをするぐらいでちゃんと会ったことがないみたいで、この前こっちに来た時は僕達はいなかったんだ。


「そうだ、目の前でいちゃつかれるとイラッとする」

「あら、お兄様ったら」


 そうは言うけど、通信の魔道具で話し合いぐらいはできるんだけどね。


「ふふっ、男の嫉妬は醜いぞ。二人の仲が良くて安心だ」

「ええ、そうね」


 義父さん達もかなり仲が良いと思う。

 色々あったから複雑な所もあるだろうけど。


「話を戻すが、シュンの話によると加護の力を使った魔道具で判別できる、とのことだが……。すぐに作れる物なのか?」


 まあ心配だろうね。

 僕は明確に違うと聞いたけど、何も知らなかったら聖剣とかと何ら変わらないもん。


「魔力感知を魔道具にするのを応用します。既に邪神の力の一部は採取済みですし、加護の力で一方通行の結界で覆えば恐らく」

「予防策は考えてあるということか」


 内からは引き寄せられるけど、外からは感知できない。

 そうしないと邪神に気付かれて力が大きくなるかもしれないし、対象にも変化があるかもしれない。


「それが無理なら邪神の力を解析して、それと同じ反応を示す魔道具を作ります。どちらにしろ魔力感知と同じ仕組みで、レーダーを作ります」


 七つの球を集める的なね。

 こっちは万を超える人だけど。


「出来るのなら構わん。先に影響を受けている者がいないか確かめてから行ってくれ」

「分かりました」

「フィノはシュンから加護の使い方でも学んでほしい。少しでも使い手が増えた方が良いのでな」

「はい、頑張ります」


 それはミクトさん達からも頼まれてるし、フィノの思いを尊重する。


「こちらで対策部隊を作っておこう。通達も必要だな」

「まだ教えていないので、一応それらしい人物がいれば眠らせるように伝えてあります」

「ビスティアで効いてたもんね。それなら安心」


 麻痺や睡眠は比較的誰でも使える魔法だからね。

 特に最近は適性のある魔法以外も指導してて、魔物と安全に戦うにはそう言った魔法が有効的でもある。

 気付かれていたらそれほど効果はないけどね。


「だが、二人共無理をすることだけは止めてくれ。邪神については任せっきりになるが、それ以外は俺達で対処できる」

「はい、痛感したばかりなので大丈夫です」


 フィノもしっかりと頷いて繋いでいる手に力が込められた。


「次にこちらの報告だ。この奇襲は想定外だったが、おかげで無事……ではないが乗り切った。その影響は知るところだろうが、邪神の存在が明るみになったことだろう」

「そこで二週間後、『世界大連合(ファミリア)』だったか? の会議を開くことになった。完成したという映像魔道具を使いたいところだが、今回は立案国であるここで行う」


 父さんが引き継いで言った。


 確かに魔道具は完成しているけど、まだ届けてないから使えない。

 一度集まってもらうなりして、そこで注意事項や使用法を伝えて渡さないといけないかな。


「魔族は魔道具を使うことになるがな」

「そこは仕方ないわ。でも、そこまで怖れるような方ではないでしょう?」


 義母さんはポムポムちゃんと話したらしく、映像の魔道具が機能したかも確かめたそうだ。

 実際に顔を合わせたわけじゃないけど、お互いに会話したということ。


「会議には二人も参加してもらう」

「それまでには魔道具を完成させておきます。試作品をビスティアと魔法大国に送ろうかと考えている所です」

「うむ、王国はお前がおるし、聖王国もどうにかするはずだ。帝国はシュンが転移できるからな」


 まあ、ミクトさん達は何も触れなかったから行動を起こさないだろう。

 僕達もかなり被害を受けたけど、あちらも作戦が失敗して戦力が落ちたはずだからね。

 決戦も一年を控えて、これ以上手の内を見せたくもないだろうしさ。


「こちらも被害を受けただけではない。こちらもシュンに頼ることになるが、これからは効果的なアイデアをバンバン出してくれ」

「分かりました。いろいろと考えているので任せてください」

「計画書の提出は忘れんようにな」


 義父さんに注意されてしまった。

 ロトルさん達にも注意されてるけど、生き残るために自重は捨てるつもりだ。

 勿論、後のことも考えて問題ない道具を作るつもり。


「フィノはシュンを支えてやれ」

「はい、言われなくても分かっています。シュン君と一心同体ですから」

「ふふっ、お前も明るくなって何よりだ」


 うん、僕も明るい笑みで癒してくれるフィノがいてくれて嬉しい。

 ちょこっとだけ怖い……何でもないです!


「それ以外のことはこちらでやる。学園はどうなるか分からないが、恐らく通っている暇はなくなるだろう」


 フィノと顔を見合わせるけど、既に仕方ないと話し合っていた。

 学園に通って皆といろいろとしたかったけど、僕達は最優先にしないといけないことがたくさんあるんだ。

 それを疎かにするわけにはいかないからね。


「まあ、学園側も授業どころではないだろうからな。魔道具を届ける時に事情説明をしてやると良い。公国出身の貴族もいるんだろう?」

「アル……アデラールと」

「シャルリーヌだよ、シュン君ったら。確か男爵位で、アルがヴィスマー、シャルがクレデンスだったと思います」


 いやぁ、愛称でしか呼ばないからうろ覚えだったんだ。

 ……ごめん。


「ヴィスマー男爵とクレデンス男爵……覚えておこう。今後付き合いも出来るだろう。恐らく爵位も上がるだろうからな」


 僕を見て言わないで!

 今度御挨拶に行こう。


「それはそうと、会議に先立って祭りを並行で開きたいと考えている」

「こんな時期に、と思うでしょうけど、少しでも国民の意欲を下げたくないの。同時にローレの婚約発表も行うわ」


 なるほどねぇ……それならいいかもしれない。


「その頃は復興も済んでいるでしょうし、各地でも同じような露店を開かせば反発もないかもしれないですね。溜まっている物も消費したいところでしたし」

「変なものは売りだすなよ? まあ、魔物の肉を安値で売るのは良いかもしれんな」


 ちょっと楽しそうになって来たかも。

 ついでに魔導花火――通常あり得ない動く絵の花火とか、メッセージや声付き花火とか、励ませるような企画を考えると良いかも。


「面白そうだから私も考えたいけど、やり過ぎは駄目だよ」

「分かってるって。ちゃんと計画書を書くからさ。お金も消費しないといけないと思うんだよね」

「いや、それ増えるだけだと思うが……」


 それ言ったらだめですって。


「とまあ、何度も言うようだが頼んだぞ」

「はい、頼まれました。ローレ義兄さん達も無茶はしないでくださいね」




 それから数日後、どうにか試作品の魔道具と聖水が完成した。

 完成した試作品は人体に被害が出ないことを確認し、捕らわれているアルティスに対して使用して確かめることになった。


「まずはこの聖水を使います。飲ませるのが一番でしょう」


 手に持っているほのかに輝く水が入った小瓶を、この場にいる全員に見せる。

 感嘆の声が漏れるのは微量でも神の力が入っているのを感じ取ったからだと思う。


 ここには僕とフィノとシル、クロスさんとララさん、大臣も数人いて、ビスティアからも見届け人を連れてきた。

 後は何が起きても言いように魔法騎士の団長と治療師や文官、世界教の大司祭も来て見守っている。

 ちょっと大司祭の今にも傅かんばかりの震えが怖いけど……。


 その小瓶の蓋を開けると光が零れ、眠っているアルティスの顔が歪んだ。


「それだけでも効果がありそうだな。改めて聞くが、人体や周囲への影響はどうだ?」


 と、クロスさんが代表して確認してきた。


「通常の聖水と同じく清い水に神聖な魔法、今回は加護の力を意識した『聖光(ホーリー)』を使用しました」

「やはり、加護の力がないと効果がないのでしょうか?」

「いえ、ミク……神様方が言うには通常の聖水でも効果があるそうです。ですが、邪神の力や加護が強い場合、完全な浄化は難しいとのことです」


 危なかったぁ、危うく大司祭の前で神様の名前を愛称でさん付けするところだった。

 ちょっと痛かったけど、フィノに感謝だ。

 シルがジト目を向けてやれやれとやっているのは情けなく思うけど。


「あ、あぁ、やはりやはり……シュン様は神々と対談が出来るのですね」


 こっちは失敗してた。


「僕はちょっと特殊なので……まあ、対談しているかと言われればそうなんですけど……」

「おお、これほど嬉しいことはございません! やはりシュン様は神々が遣わした使者だったのですね? 光神教などという訳の分からない集団に、いえ、邪神の手先でしたな。そんな輩が我が聖王国に跋扈していたとは……アルセフィールの守護神よ、お許しください」


 お、おぅ……多分、ロトルさんはそんなこと気にしないと思う。

 光神教のことを申し訳ないと思っていたみたいだし……言っても変わらない、逆に歓喜してややこしくなりそうだ。


「まあ、その辺にしてだな、聖水を試してみようではないか。まだ取り返しがつく段階なのだから、懺悔する前に罪を清算せねばな」

「クロス陛下……はい、その通りです。皆様方、情けない姿をお見せし、申し訳ありません」


 皆苦笑して、小さく頷いた。


「こ、怖いですよぉ……」

「いや、神様って結構人間味があるからね」

「そういうことは言っちゃダメ」


 はい、すみません!


「続けますね。人体への影響は……悪影響はないと思います」

「でしょうね。ですが、使った後どうなるか分からないのですね?」

「はい。力だけが浄化されるのか、それともあの戦闘の様に抜け出るのか。もしかすると身体に異常が出る場合も考えられます」


 それはないと思うからアルティスで試すんだけどね。

 一番深刻っていうか、かなり影響を受けてそうだったから。


「そこは仕方あるまい。厳しい言い方をすれば、心が負け誘惑されたこいつが悪い。俺達がしっかり面倒見れなかった責任もあるがな」


 洗脳されていたとなれば情状酌量の余地がある。

 罪を消すことは対外的に無理だけど、せめて元通りになってから受け入れてほしいというのが願いだ。


「フィノ、シルを頼むよ」

「うん、少しは加護が使えるようになったもん。それぐらいやるよ」

「くっ、僕も加護が欲しいです……」

「シルはフィノを敵から護るんだ。加護の武器とかも考えているからね」


 嫌そうな唇を尖らせるけど、頬を赤く染めて大人しく頭を撫でられている。


 っと、そんなことよりも、


「では、試します。何が起きるか分からないので、決して近づかないでください」


 皆が頷いたのを確認して近づき、アルティスの顔を上げ聖水を口の中に流し込む。


「うぐっ!?」


 それだけでアルティスは苦しみの声を上げ、椅子に縛り付けられているのに軋むほど暴れ始めた。

 その力は脳のリミッターが外れた様な自分の限界を超え、肉が食い込み、血が流れ落ち、骨が軋む音が聞こえるほど。


「『聖縛(ホーリーバインド)』」

「うがアアア!? ヤ、ヤメ、ロぉ……ぐぼあっ!?」


 加護の力を使った聖なる鎖の束縛。

 それも聖水の効果に合わさり、アルティスの身体から力が抜ける。


 飲むのを拒み、口から零れる聖水。

 喉を摘まみことで無理矢理流し込み――ゴクリ。


「きゃあ!」

「にょぉ!?」

「うおっ!」


 その瞬間、アルティスを中心に悍ましい気配が全身を駆け抜けた。

 煉獄ほどではないけどあの戦闘で感じた邪神の気配と同じもので、ちらっと見れば皆顔色を一変させていた。


 魔道具を作るために何度か経験しているフィノも、どことなく緊張と震えが奔ったようだ。

 シルを抱きしめて加護の力で不安を解消する。

 一番危険なのがシルだと思うからだ。

 それでもシルはアルティスのことを見守りたいって言ってきて、僕とフィノはその覚悟に了承した。


 だから、気をしっかり保って。


「『浄化の光(ピュアリファイ)』」

「ぅぐ、ぐが……ぁ」


 今度は空気中に満ちた邪神の気配に狙いを定め、穢れを浄化する魔法を唱えた。

 次第に皆の顔色は戻り、アルティスも落ち着いていく。


 アルティスの顔色も元通りになり、動きが完全になくなって、規則正しい呼吸が聞こえ始めて魔法を消した。


「どうだ?」


 フィノに笑いかけると、クロスさんから確認の声。


「これで大丈夫です。一応身体検査をお願いします」

「わかった。――お前達」

「はっ」


 魔法を解除して、治療師達がアルティスの拘束を解いていく。

 その間に今起きたことを話し合う。


「あの気配が邪神、ですか……。なんと悍ましいのでしょうか」


 大司祭が嘆きと怒りが混じった感想を口にした。


「確かに身体に悪そうだ。あれで欠片でもないのだろう?」

「怖気づかれましたか?」

「馬鹿言うな! あれぐらい俺の魔法で消し去ってくれる。ララは黙って隣にいればいいのだ」


 流石クロスさんとララさんって感じだ。

 他の人達もクロスさんに負けてられないと、気圧されていた表情を引き締める。


「最初っから結界を張っておけばよかったよ。ごめんね、フィノ、シル」


 力を知ってもらおうと考えていたからだけど、想像よりも強くて失敗したかと思った。

 でも、フィノは首を横に振った。


「これからもっと強い相手と戦うんでしょ? あれぐらい耐えないと駄目だよ」

「ぼ、僕も負けません!」


 シルもぐっと拳を握りしめ決意を固めたようだ。

 僕はそれを信用して頷き、皆の方に振り返る。


「力は分かったと思います。抗うには加護の力か神聖な魔法が必要となります。なので、世界教とその使い手には決戦まで苦しいかと思いますが、手を貸していただくことになります」

「勿論です。既に加護持ちに招集をかけ、少しでも多くの者に魔法の指導をしています。聖水の生産も増やし、いつでも戦えるように、と教皇様と聖王陛下より指示もあります」


 ロトルさんの神託によるものだろうね。

 あと、アルタにもいろいろと教えたから通信の魔道具で伝えてくれたんだと思う。


「俺達はどうするべきなんだ? 弱い相手なら眠らせるなりして無力化できるだろう。だが、通常よりも効き目が弱いと報告が上がっている」


 それに眠らせたとしても戻るわけじゃない。

 相手は殺そうとして来ているのに、こっちはそれが出来ないというのも不利で、メンタル面も厳しい状況に置かれる。


「そこについては、今のうちに出来る限り戦力を削ぐしかないですね」

「シュンが作る魔道具や聖水か」

「後は祈りですかね」


 と言うと首を傾げられ、フィノが答える。


「邪神は負の感情を力にしているから、戦力を削ぐということは邪神の影響力や力も削ぐことになるってことだよね」


 そういうことだ。


「なるほど、祈ることで抗うわけか!」

「神様が言うにはその認識で間違いないらしいです」


 祭りを開くのも活気を取り戻すってこともあるけど、怖いとか悲しいとか思わせないようにするためだ。

 そのために聖域っていうか、加護の力で守ってくれる場所を作っている。

 実際戦争が始まったら戦えない人が多く出てくるからね。

 内部から切り崩されないようにするためだ。


「では、そのことを周知させる必要があります。今の混乱を防ぐためにも必要なことでしょう」

「そうだな。貴族に緊急招集をかけろ。先に手先がいないか確かめるぞ」

『はっ!』


 そうこうしている間にアルティスの容体を確かめ終ったようだ。

 見た所表面上問題はないようだけど、数年間蝕まれていたから魔力に淀みが出て、肉体や魂に損傷があるように見える。


 それは僕が死んだ時と同じ感じだ。

 そう思うと沸々とした怒りが込み上げ、何でこんなことをするのか疑問でならなかった。


「死に至ることはありませんが、日常生活に支障が出ると思います。無理に体を動かしたがために肉体の損傷が激しく、邪神の力の副作用だと思いますが魔法を受け付けません」

「死なないだけでもマシだろう。治る見込みはあるのか?」

「そこは時間が解決してくれると思います。ただ、精神面はまだわかりません」


 目を覚ましたわけじゃないからね。

 無理に体を動かしているから魂ごと疲弊して、深い眠りについているんだと思う。


「大丈夫ですよね?」

「うん、問題はないよ。眼を覚まさなかったら治療法を聞いてくるからね」

「分かりました。シュン兄様しか頼れないから言うんですからね!」


 安堵したからか、いつも通りのシルで僕も安心だ。


「こちらが探索用の魔道具となります。聖水は今ある分を渡すので、瓶一つ一人分だと考えてください」

「わかった。問題があればすぐ連絡しよう」


 これで魔法大国側は問題ないだろう。

 次にビスティアでも同じように治療と魔道具を渡す。


 問題点は治療した時の気配の対処や治療後のことも考えないといけない。

 他にも問題点がいくつか出てくるだろうはずだから、どうにかしてファミリア会議までに完成させないと。


 かなり負担が来るけど、


「私も手伝うから頑張ろうね」

「ぼ、僕も手伝わないこともないですよ?」


 こんなこと言われたらやらないわけにはいかないね。


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