シュン、怒りの激闘
「これが転移か……クックック、クハハハハ! 感じた、感じたぞッ! お前の膨大且つ、畏怖させる濃密な怒りをなぁ!」
狂っている……。
転移した場所は都市から離れた草原。
良くアル達と訓練する場所で、ここは素材も少ないし、見晴らしも良い。
動物や魔物は既に逃げ去り本気を出せる。
「さあ、早くやろうぜぇ! 悲鳴、苦痛、恐怖、肉を切り裂き、血を噴き出し、骨を断つ……俺に快感を味合わせてくれやァッ!」
相手は煉獄という名の僕や師匠と同じSSランク。
赤黒く濃密な魔力がうねりを上げ、僕の目にはミクトさんとは違う死神――空洞の瞳でじっと見つめる死神が見える。
煉獄の濃厚で狂喜する殺気や威圧、殺した人の怨念が絡みつき、どれだけの躯を築いたのか想像もつかない。
デモンインセクトの漆黒剣を持つ手に力が入る。
「今、恐怖したのか? 分かるぜぇ……お前の早まる鼓動が手に取る様に!」
いや、これは恐怖じゃない!
相手は師匠レベルなんだから怖くないとは言わない。
もしかすると戦闘方法によっては師匠より強いと思う。
SSランクは上がない分その差が激しいと聞くからね。
でも、僕の敵はこいつよりさらに強大で狡猾な相手を倒さないといけないんだ。
こんな相手に手間取っていては容易に一年後が想像できる。
「それに、やっと素直になってくれたんだ」
そんなシルのためにも絶対に負けられない。
あっちのことは分からないけど、二人なら絶対にやってくれる。
「だから、負けられない。僕は殺しはしないから安心すると良いよ」
「殺しはしない、だと? ほざけッ! これからやるのは崇高な儀式である殺し合いだ! 血沸き肉躍る、生きとし生きる者全ての本性が現る儀式だ! 汚す発言をするな!」
言っていることは戦闘狂、それも悪いほうの。
だからといってやって良い事と悪いことの区別が付けられないんだったら大量殺戮者と何ら変わらない。
「僕はお前じゃない。殺したいほど腹は立っているけど、生憎戦うことに喜びを感じる性格じゃないんだ」
「チッ、期待外れか。見た目と同じく腑抜け野郎だったようだな!」
「安い挑発には乗らないよ。まあ、僕の力は分かっているはずだ。早くかかって来るが良い、火遊び男」
煉獄は安い挑発に乗り、熱風の魔力を叩きつけてきた。
対抗する魔力を噴き出し、剣が青白く発光する耐久度限界まで送る。
残った魔力は練り上げた状態で維持して、何時でも魔法が放てるよう準備する。
「ああ、そうだな。お前は強い、限りなく俺の人生の中で上位に位置する強さだ。同じSSランクを殺したこともあるが、桁違いというほかない」
それは僕の魔力が高いからだと思う。
身体能力はAランクとそう変わらないからね。
「だからこそ殺し甲斐がある!」
煉獄も大剣を軽々と構え、魔力とは違う不吉な生き物のようなオーラが噴き出し絡みつく。
目が怪しく光り、口が裂けたかのように口角がつり上がり歯が覗いた。
「俺を止められると思うなよ? この力、全てを出せる相手と戦える。簡単に死んでもらうのもつまらねえ。俺を楽しませてくれよ!」
僕はあれを知っている。
性質は全く違うけど、メディさん達の加護と同じものだ。
気味が悪いねちゃつく奴だけど、同じ性質だから余計に――
「腹が立って仕方がない! お前には、その力について聞きたいこともある! だからといって殺されないと高を括るな!」
「クックック、殺さないのではなかったのか?」
「ああ、殺しはしない。それでは終わってしまうからね。素直に話せるよう恐怖を刻み込んでやる。シル達が味わった恐怖を思い知らせてやる!」
剣を軽く振り、魔力同士がぶつかり合い歪む空間を消し去る。
風は綺麗に煉獄を避けて吹き抜け、
「堪らねぇ! 堪らねえぞ! その生意気な態度、後悔させてくれるッ!」
「僕に勝てると思うなッ! 『水光よ、一体となりて、纏え』!」
「『地獄の炎、俺の糧となれ』!」
無風になった瞬間、聖なる光纏う水と焼き尽くす黒い炎がぶつかり合った。
緑色のカーペットだった草原はその姿を広範囲に渡って変えていた。
茶色い地肌を露出させ、黒く炭化している部分もある。
それでも多いのは煉獄が放った黒い炎だ。
黒い炎のことを地獄の炎と言っていた。
消し去る性質を持つ闇魔法も混ざっていて、対象が焼き消えるまで消えることはない。
火魔法も見た目ではわかり難いけどかなりの高温で、普通は焼かない土まで黒々と焼くほどだ。
「チッ! ちょこまかと逃げやがって……だが、逃げてるだけじゃ俺は倒せん!」
「当てられない時点でお前が弱いってことだ! 僕を殺したければもっと強い攻撃をして来い! 本当にSSランクなのか!」
お互いに一進一退の攻防を繰り出し、相手の隙を突こうと目を光らせる。
煉獄の炎は並大抵の魔法を全て焼き尽くし、邪神の加護の影響で身体能力だけでなく魔法に対する抵抗や察知能力も上がって厄介だ。
「減らず口を……叩くなァァッ! 『黒炎爪』!」
「『聖光水流壁』!」
大剣を横薙ぎに片手で振り抜き、飛んで下がった所を振り下ろされた爪の斬撃が飛んでくる。
それを光魔法と水魔法の上級防御魔法で防ぎ切り、お返しに魔力の斬撃『一刀両断』を繰り出した。
あれを普通にくらったらただじゃすまない。
魔力障壁でどうにか弾いているからまだいいけど、魔力の減りも激しくて戦い方を切り替えるしかない。
「猪口才なッ! 妙な技ばかり使いやがって、少しは正々堂々向かって来い!」
それをお前が言うな!
裏を返せばそれだけ焦ってるとか、僕のスピードにはついてこれないとか、からめ手には弱いことになる。
でも、さっきも言ったように水は蒸発するし、火や氷や木は論外、土は炭化するし、風や雷は無理矢理乱して吹き飛ばしてしまう。
煉獄自信が強いのもあるけど、これほどまでに邪神の加護が強いということだ。
「もっと俺に力をッ! こいつの断末魔を聞かせてやるからよぉぉッ!」
加えて、この戦闘を見ているのか、徐々に邪神の力が増してきている。
加護の強さが上がっているだけかもしれないけど、これは異常だ。
洗脳や暗示の事、それを治す治療法、相手の事、加護の事、いろいろと聞きたいことだらけになってしまったよ。
魔力切れを狙ってもいいけど、僕の魔力は長距離転移やビスティアで多く減っている。
それでも半分残っているから大丈夫だと思うけど、煉獄の魔力は邪神の加護も合わさって長期戦は避けたい。
「聖なる光よ、悪に断罪を――」
ならばと相反する属性の光魔法の一撃を繰り出す。
上空に光が集まり出し天使の様な形を取る。
眼下で黒いオーラを噴き出す煉獄に顔を向け、一瞬怒ったように見えた。
僕のイメージもあるからちょっとメディさんやロトルさんが入って、余計に敵対者に怒りが籠ったのかも。
「チイィ! させるかぁッ、やられる前に殺してくれる!」
それを察知した煉獄は魔法を止めようと僕に向かって突進してきた。
その魔法に身の危険を感じ、近づくことで僕も巻き込んで阻止する腹積もりもあったんだろう。
「でも、この魔法はお前だけを裁く! 『裁きの光』!」
神様に似た天使は一瞬僕に微笑み、両手を突き出し光の粒子を集め出す。
光は形を成し、出来上がった光の錫杖を振りかざした。
大剣を持ち上げた煉獄は光の柱を叩き付けられ、焦げ付いた大地に這いつくばる。
僕も巻き込まれるけど、眩しいだけで意味はなく、逆に温かい力が身体に流れこんできた。
遥か上空にある雲にぽっかりと穴が空き、地面に効果を及ぼさないのに地面を揺らし、轟音が魔法大国中に鳴り響く。
ちょっと凄すぎる魔法だね……絶対何か言われる。
ビスティア……までは見えてないよね?
でも、ここにも教会はあるか……覚悟しよう、うん。
それにしても消費魔力が半端じゃない。
この魔法は教会の高位の聖職者が使うらしく、相手の心や過去に作用して、対象者に憑りついている怨念や魂を締め上げるような効果があるらしい。
浄化にも近い魔法で、見るからに煉獄が纏っていた不吉な気配が削れた。
何故知ってるかって?
世界教にお布施たくさん渡してるし、加護のことも知ってるから聞いたら教えてくれたんだ。
僕が作っても良かったけど、光魔法でも神聖な魔法は既存している方が威力は高いからね。
曰く、神様の恩恵や力をお借りするらしいから。
となると……今の魔法、メディさん達がちょっとやっちゃった系?
これは僕を媒介にしてるから神様が介入したことにはならないだろうからさ。
良い事に気付いたかもね。
魔力はかなり使うけど。
「ぐうぅぅぅぉぉぉおおああああ!」
だけど、邪神の力は闇じゃないから、大剣で受け止め弾き飛ばされてしまった。
「がふっ……ごほ、やってくれたなぁ……。あー、気持ちわりぃ……本当に気持ち悪い。だから……ぶっ殺されろぉぉ!」
それでもダメージは与えられたようで、血を吐きながら肩で息をしている。
瞳の力は衰えていないから油断は駄目だ。
減った魔力を再度練り上げ、剣を構える。
「クックック……強い。この俺がここまでやられるとはな」
流石は高位聖職者が使う光魔法なだけはある。
相手が殺戮者だとか大量殺人者だとしても、ここまでの威力が出たのはやっぱりメディさん達が手を貸してくれたと思っていいだろう。
光魔法、聖魔法といった方がしっくりくる魔法だね。
かなりダメージを与えられたようだ。
煉獄は身体をぐらつかせ、大剣を地面に突き刺し――身体を仰け反らせ吠えた。
「だが、俺はまだやられん。やられんぞぉぉぉ! これが痛み! そして恐怖! 全てが俺に力を与える!」
……ここでMだとか思ったらいけないんだろうね。
「クックハハハハ! お前にもわからせてやる! 俺の手で命を握り潰してくれる! クハハハハ、神よ、更なる力をぉぉぉぉぉ!」
選択を間違えたようだ。
生きて捕えようとして様子を覗った僕、それと目の前で蠢く黒い手が絡みつき変貌する煉獄。
――くそっ!
僕は悪態をつく時間も惜しみ、練り上げた魔力を斬撃として飛ばす。
だけど、その全てが邪神の加護と力と思しき黒い手に弾き飛ばされる。
『裁きの光』ほどではないけど連続で神聖な魔法を放つも焼き焦す程度でしかない。
ここで改めて焦燥感というべき、相手がどれだけの存在なのか思い知った。
「でも……でも、僕は皆の為にも負けられない!」
「ああ、ぁ、ああぅぁ……力、力が漲るぅぁ……ク、クフ、クフハ」
煉獄の浅黒かった肌は黒さを増し、髪は白く灰色に、身体は二回りも膨らみ、着ていた服が弾け飛ぶ。
赤かった瞳が金色に変わり、まるで何度か相対した竜種を思わせるものへと変わった。
「あっちは、ふ、終わったようだなぁ……クハ! 期待はしていなかったが、クフ、感じる……。俺に流れ込んでくる恐怖と怒りの声が!」
煉獄の叫びに呼応して爆発的な圧力が飛んでくる。
一体何の加護を貰っているのか知らないけど、口ぶりから負の感情をエネルギーにしているのだろう。
都市内の争いが収束しても、被害は大きいから流れ込むエネルギーは莫大となる。
「一体、何をここまでさせるんだ……」
煉獄が何故ここまでやるのか分からない。
過去に何かあるのか、それとも何もないのか。
それは僕にはわからないことだ。
でも、相手は忌むべき敵だ。
もう判断は間違えられない。
ここは残りの魔力を使いもう一度、いや、ぶっつけ本番だけど即興改良した魔法を放つしかない!
そう思い魔力を練り上げた瞬間、煉獄が爆ぜた。
「違う!」
「オラァッ! 防ぎやがったか、クハハハ!」
地面が爆発してそう見えたけど、実際は察知できないスピードで動いただけだった。
正面から振り下ろされた大剣を勘で受け流し、咄嗟に下がって回避する。
蟀谷から冷汗が流れる。
霧散しかけた魔力をどうにか保ち、僕のいた場所が大きなクレーターと化していることに気付く。
剣を持つ腕も少し痺れ、どれだけ強くなったのか見当もつかない。
慢心していないと思っていたけど、これほど後悔したことはない!
これぐらい予想できたことなのに……クソッ!
シルに合わせる顔がない。
でも、信じてくれるフィノの為に負けられないんだ!
「逃げるな、よぅぉ!」
「くっ! 『聖光弾』!」
「クハハ! そんな攻撃当たるかッ!」
巨体でありながら音速を超える弾丸を容易に避ける。
魔法を使った一瞬の硬直を狙われ、腹部に強烈な蹴りが飛んできた。
「かふっ!?」
蹴りをギリギリ剣で受けきるも衝撃を受け止められず吹き飛ばされた。
「死ねぇぇゃァァッ! 『黒炎灰燼』!」
「せ、『聖光水神壁』!」
そこを間髪入れずに嘆く黒い炎が襲い掛かる。
メディさん達が見ているのなら、と先ほど使ったウォール系の魔法に加護を意識した魔法で防ぐ。
「そんな壁ぇァ、クハハハハ、ぶっ壊れろぉぉぉ!」
「ぉぉおおおおおお!」
僕はいつの間にか叫んでいた。
目の前では嘆く炎が光り輝く人っぽい形をした何かに阻まれ、左右に分かれて背後を燃やし尽くしていた。
人っぽい水は両手を突き出し、清浄なオーラのようなもので僕を護っている。
やっぱり……。
そう思わずにはいられず、自然と僕の口元が上がる。
人っぽい水は肩口に振り返り、僕を褒めるように微笑んだことで確信を得た。
「クハ! これも防ぐとはな! つくづく殺し甲斐のある敵だァァッ、フハ、クフハ!」
V字に地面が焼き焦げ、水っぽい人形……いや、名付けるなら『聖なる水の化身』ってところかな? が最後に炎を掻き消した。
ついでに煉獄の様子と何度かの攻撃である程度分かった。
腹部の治療をしながら剣の様子――ドワンさん達に再度鍛えられた剣は刃毀れ一つなく、感謝の念が堪えない。
都市から人の声も届き、それはシルが応援してくれている気がした。
気のせいかもしれないけど、そう思いたい。
「はぁ、はぁ……今度は失敗しない」
「やられる覚悟でも出来たのか? クハッ!」
「お前の弱点が分かった。いや、欠点か」
狂ったように笑い声を上げていた煉獄が黙る。
僕はそれをお構いなしに治療を終え、試作品であまり効果がないゼリー状のポーションを飲み込み魔力を微量でも回復させる。
「お前は力を持て余している。肉や骨がどうとか言いながら今の攻撃は真逆だ。いきなり加護の力を使おうというのが間違っている」
僕は加護の力を七年以上も使ってきている。
邪神と違ってメディさん達への感謝も堪えないし、加護の力がどれだけのものか一番理解しているのは僕だ。
いや、さっきのやり取りで分かったんだ。
「だったらどうだと言うんだ? お前の断末魔が聞けないのは残念だろう、クハ、ハハ! だが、お前を殺せることに変わりない!」
「力のコントロールが出来ないのなら対処はしやすい。向かって来るイノシシを躱すようなものだからね!」
不意に思った言葉に煉獄は再び口を閉ざす。
最初の攻撃は真正面から近づきすぎた攻撃だった。
普通に動けるのなら正面からはない。
蹴りも腹部じゃなくて顔とかを狙えばよかったし、あの魔法も目標がずれてた。
肉体が力に耐えきれていないのも、見ただけで分かるというものだ。
力を持て余している証拠となる。
「クハ、今更殺される奴の挑発に乗ると思うか? 回復しても、クフハ……ダメージは抜けきっていまい」
「そうだね。立っているのがやっとだ」
虚勢を張っても意味ないし、素直に認める。
そんな様子が気に食わなかったのか煉獄は眉を顰めた。
「諦めたか? クッハハハ、恐怖に染まってほしいが、お前を殺せると思うだけで快感が奔る。それに……お前を殺せると思うと、あぁぁぁあああッ!」
半分以上が異形となった本能のままに……前より狂った煉獄。
黒いオーラが激しく蠢き、赤い髪と金の瞳が怪しく輝く。
その威圧だけで身体が吹き飛ばされそうになる。
これが加護の力ってやつだ。
「ふんああああ!」
「く、ぐ、うらあ!」
肉体の限界を超える身体能力に切り替え、神経や脳まで負担をかけどうにか剣を受けきる。
その間に二つ分の魔力を練り上げ、先ほどと同じく反動を利用して距離を取る。
「距離を取っているだけでは倒せんぞぉぉおおお!」
骨に罅が入っているのか、全身に鋭い痛みが走る。
それでも僕は勝たなくちゃいけない。
だから、僕を殺せると慢心し止まった煉獄の――
「チィィィィッ!」
――隙を突くッ!
「ロロォォォォォォッ!」
煉獄が痺れを切らし足を止めた一瞬、一つ分の魔力で転移魔法を唱えロロを上空から呼び出す。
「グルゥオオオオオオオオン!」
「な、なんだ!? ぐはっ!? ぐぅぉぉああああ!」
「グウゥゥ、ガアアアアッ!」
今までにないほどロロは歯を剥き出し、怒りの唸り声をあげ立ち上がろうとする煉獄を抑えつける。
風魔法で真空状態を産み出し炎を作らせず、ロロも光り輝くオーラで加護の力で対抗する。
僕と繋がっているから僕の加護を使えるんだ。
本能でやっている分ロロの方が加護は上手く使えているかもしれない。
「うおおオオオオ! 獣如きが、俺を止められると思うなぁぁァァ!」
「グルアアアッ!」
勉強の多い戦闘だけど、今の僕じゃ煉獄に対抗できるほど加護の力を強く出来ないだろう。
理解しているから尚更わかる。
でも、時間がかかるだけで使えないわけじゃない!
「ロロ!」
「クゥン!」
黒い手がロロの身体に絡みつこうとしたのをぎりぎりで避け、
「上手く逃げても無駄だ! 焼いて食って――」
「ロロを、食わせるかぁぁ! 神聖な光り、聖雷を持って悪を断罪す、神々の威光の前に悪よひれ伏せ、『神の鉄槌』ァァァアアッ!」
立ち上がった瞬間、天から雷を纏った黄金色の鉄槌が振り下ろされた。
煉獄は再び地面に叩きつけられ、今度は悲鳴を上げて苦しむ。
鉄槌は形を変え、煉獄を護る黒いオーラを砕き、周囲に雷を落とす。
地面が抉れ、それでも清浄な気配が辺りを満たす。
それだけこの魔法にメディさん達の力があるってことだ。
「懐かしく、思う……ぐ」
「クゥン」
魔力切れで倒れかけた僕を鼻先で支えるロロ。
身体は傷付き、あの黒いオーラである邪神の加護や力がどれだけのものか覗える。
帰ったらご褒美を上げるね。
ポーションを飲み干し、煉獄の最期を見守る。
この攻撃の前に悪に堕ちた人間如きが抗えるとは思えないからだ。
「ぐ、がァ、ぅああぁァアッ……ぎ、ぎざ、ま……!」
込めた魔力が尽きるまで聖なる力が身を焼いて浄化し、雷が煉獄の罪を裁く。
周囲に落ちる雷も無差別に落ちているのではなく、未だに暴れている魔物や敵に落ちている。
聖なる光は悲しみや怒りを抑え、回復効果はないけど負の感情を消化する。
光が包み込み、黒い炎ごと煉獄を消滅させた。
僕はそこまでイメージしていなかったけど、メディさん達が助けてくれたんだろうね。
なんだかんだ言って過保護な人達だし、この方法ならメディさん達も戦いに介入できる。
加護をたくさんくれたり、加護には神の力が宿っているっていうのはこのことのヒントだったのかも。
もっと早く気付いていたかったけど、これはこれで教訓だ。
次第に雷が収まり、黄金色の鉄槌が細く天に帰っていく。
消え際に僕の周りを撫でた気がした。
いや、良くやったと褒めてくれた。
「でも、逃げられた……のか」
最後の一撃を加えられた瞬間、煉獄の身体が黒いオーラに包まれたのが見えた。
魔法だからわかり難いけど、倒したという感覚もない。
完全消滅したとも思えないからね。
「はぁ、どうにか倒したよ」
「ウォン」
「もっともっと頑張らないといけないね。でも、今は休ませて、ほしい……よ」
これから大変だろうなぁ。
何せ、世界で初めて神の力を使っただろうし、あの魔法はどこからでも見えていたと思う。
魔大陸でもポムポムちゃんは鋭いから気付いただろうしね。
ま、聖王国への牽制? やりやすくなったと思うから結果オーライかな?
ロロ、後は頼むね。
あー……フィノ、怒るだろうなぁ。




