依頼での遭遇
「……こうかッ」
バンジさんの掛け声とともに、黄色く楕円型の物体が宙に飛んでフライパンの上に着地する。
「おお、成功だ!」
「おめでとうございます。バンジさん」
黄色い物体は先ほどフライパンの中でひっくり返され、完全に閉じられた。中身をきれいに閉じ込め、その表面は滑らかで押すと弾力がありそうなくらいふっくらしている。
「これを皿に移して、この物をかければいいんだな」
「はい、それで完成です」
そう言って取り出したのは赤い半液状の物体だった。その物体をラージさんが皿に移した黄色い物体の中央にかけた。
そう、これはオムレツだ。オムライスではないのは米がないからだ。
「よし! 完成だッ! 早速試食と行こうか」
バンジさんはスプーンを二本持ってきて片方を僕に渡す。
「それでは、いただきます」
二人で先ほど作ったオムレツをスプーンで両端から切り分けて口に運ぶ。
中はトロっとしていて、半熟の卵と塩とタレで味付けした肉や野菜が混じり合い、素晴らしいハーモニーを奏でている。赤い物体、トマトに似た野菜で作ったケチャップの酸味が舌に刺激を与える。
「うめぇ。シュン、いつもありがとうな」
食べ終わってすぐにバンジさんがお礼を言ってきた。
「いえいえ、僕もできたものを食べさせてもらっているので、ありがとうございます」
この街に来てひと月が経った。週に三回ほどバンジさんと料理をして過ごしている。ラージさんに教えたことはあと少しで教え終わってしまう。この後はデザートにしようかと考え中だ。
冒険者家業の方は今まで通り、あまり目立たずに過ごしている。依頼に行っては魔物を仕留めて帰って来るので、ビスマさんには助かっている。
そのことを知ったギルドマスターのロンジスタさんが「お前のランクはあまり意味がないな」と笑いながら言っていた。
……まあ、僕も思わなくもない。
ロロの身体が一回り大きくなり持ち上げるのが大変になってしまった。大きくなったことで力が強くなり狩りが簡単になってきたように見える。魔力の方も順調に増え、技術も覚えてきた。もう少しで纏わせるだけだった風魔法がとばせるようになると思う。
僕の方は特に力が増えたとかはなく、毎日普通に過ごしている。ただ、剣などのメンテナンスに困りバンジさんに聞いてみると、知り合いの鍛冶師を教えてもらえた。その人はドワーフのドリムさんと言ってガンドさんの弟子でした。
こちらも手紙が来ているみたいで僕のことを知ると歓迎してくれた。ここでもガンドさんと同じように僕が注文をして作ってもらえるようになった。
あの村は謎でいっぱいである。本名不明のエリザベスさんにも弟子がいるかもしれない。この街のはいなかったので王都に行ったら調べてみようと思う。
噂についてはあれから進歩が何もない状況だ。やっぱりできるだけ早く王都へ行って確かめた方がいいようだ。ミクトさんの頼みだからできるだけ解決してあげたい。
僕はオムレツを食べたお礼を言い、冒険者ギルドへと向かう。道中、顔見知りとなった出店で食べ物や世間話をしてゆっくりと進む。
ギルドへ着くといつものようにロロと一緒に中に入って依頼の確認をしに行こうとする。
「シュン君、依頼を受ける前にこっちに来て」
ターニャさんが僕を見つけて受付から呼ぶ。
なんだろう? 何かあったのかな?
「ターニャさんおはようございます。何か用ですか?」
「シュン君は今日付けでDランクとなりますので、ギルドカードを貸してください」
え? Dランクになる? どういうこと?
「どういう意味ですか? ランクアップには試験があるって言ってませんでしたっけ?」
「試験はあるんですがDランクのランクアップ試験は対人戦闘になります。シュン君の場合は既にギルドマスターがご存じなので、免除ということになりました」
ニコニコしながらターニャさんは言ってきた。
そんなことされたら目立つんじゃ……? 誰も見ていない? こういうことはよくあることなのかもしれないな。
「こういう事例は偶にあるので皆さんは驚きませんよ」
ターニャさんは僕の内心を見抜いたようで先に答えてくれた。
「そうなんですね」
そう言ってギルドカードをターニャさんへ渡す。
ターニャさんはカードを受け取り、何かの機械に差し込んだ。少しして色の変わったカードが出てきた。
「はい、お返ししますね。シュン君、ランクアップおめでとう」
ターニャさんから白から空色に変わったギルドカードを返してもらう。
これで僕もDランクか……。特には変わらないな。
「ありがとうございます」
「これでDランクまでの依頼を受けることが出来るようになりました。これからは討伐依頼や長期依頼が出てくるので気を付けてください」
「はい、わかりました」
そう言ってDランクの依頼を見にクエストボードへ行く。
討伐依頼が確かに増えているな。魔物もそれなりに強くなっているようだし……。長期依頼は護衛とかのことかな。王都に行くまでに一度は受けていたほうがいいかもしれないな。今日は準備ができてないから普通の依頼にしよっと。
僕はクエストボードから『ゴブリン討伐、報酬は銀貨五枚と討伐証の所持数により加算する』という依頼を選び、紙を剥がして持っていく。
ゴブリンは緑色をしていて、繁殖能力が高くどこにでも出没するEランクの魔物で、姿は人型に近く知能は低い。この依頼はDランクとなっているので何かあるのかもしれない。
「ターニャさんこれにします」
「ゴブリン討伐ですね。この依頼は元々Eランクの依頼でしたが、Eランク冒険者が二回失敗したためDランクの依頼となりました。帰ってきた冒険者の情報ではホブゴブリンがいるそうです。シュン君はわっていると思いますが気を付けて行ってください」
ターニャさんが依頼の詳細と経緯を話してくれる。
ホブゴブリンはゴブリンが成長し、進化した魔物のことだ。ゴブリンを従え、行動することが多い。
「気を付けて行ってきます」
そう言って冒険者ギルドを出て森へと出発する。
ひと月の間に何回も訪れた森なのでほとんどのことを熟知している。
「ロロ、ゴブリンのいる場所に案内してくれるか?」
ロロは魔物の匂いも覚えてくれるので、今回のように特定の魔物や採取をするのに役立ってくれる。しかもゴブリンは臭いためすぐにわかるようだ。
「ガウッ」
ロロは返事をすると鼻をスンスンし始め、ゴブリンの匂いがする方へ移動を開始した。
しばらくするとロロが立ち止り、警戒態勢に移った。それを見た僕も身体強化と魔力を剣に通し始める。
「グギャ、グッギャギャッ」
「グギャギャッ」
目の前の背の高い草むらからゴブリン達が二十匹以上の群れで出てきた。
これはいやに多いぞ……。もしかしたらホブゴブリン以上の魔物が支配しているのかもしれない。
「ロロ、注意を引きつけてくれ。魔法ですぐに倒す」
「ウォン……グルルルゥー、ガアァッ」
ロロは了解と一吠えするとゴブリン達の注意を引くために威嚇を開始する。ロロの威嚇に反応したゴブリンは僕から目を離すと、手に持っている棍棒や枝を上下に振り始め、ロロに対抗している。
僕はその隙に左手に魔力を煉り、広域風魔法を発動させゴブリン達に向けて放つ。
「『ウィンドストーム』」
放たれた風の竜巻は辺りを巻き込みながらゴブリン達に当たり、一匹残らず切り刻み倒していく。風がやむとそこには二十匹以上のゴブリンが地に伏していた。
ちなみに相手が生きているかどうかは魔力感知で確認することが出来る。
「ロロ、警戒を頼む」
ロロに辺りの警戒を頼み、僕はゴブリンの討伐証である左耳を削ぎ落としていく。
……こういうことは何回やってもなれるものじゃないな。人の耳を切り落としているみたいで嫌な感じがする。
ゴブリンは素材にならないためそぎ終わると燃やしてしまう。アンデット化させないためだ。
「ロロ、次を頼む」
「ウォン」
剥ぎ取り終え、ロロに次のゴブリンの場所へ案内してもらう。
その後、何度かゴブリンの群れと遭遇したが前の戦闘と同じように広域魔法で倒して、討伐証を剥ぎ取っていった。
「これで何度目だ? さすがに疲れてくるぞ」
すでに百匹以上のゴブリンと十匹ほどのホブゴブリンを倒している。これは間違いなくゴブリンジェネラル級の魔物がいるはずだ。
このままではこちらの疲労が溜まっていくだけだ。
「ロロ、この辺りで一番匂いの強いところへ案内してくれ」
「ウォンッ」
ロロも疲れているみたいだな。これを最後にしよう。
ロロが匂いを察知し急いで移動を開始する。
しばらく走っていくと森の中枢の開けた場所に着いた。そこには木製の枝や木でできた武骨な洞窟のようなゴブリンの巣があり、表にはゴブリンとホブゴブリン、アーチャー、メイジ、コマンダーが出ている。表にいるものだけで百匹はくだらない。巣の中には同じ数のゴブリンとジェネラル級のゴブリンがいるだろう。総勢三百はいると思った方がいいな。
まさしくGみたいな奴等だ。
この数を相手にするのか……。広域魔法を当てて司令塔であるゴブリンコマンダーを先に倒して統率を無くしてしまおう。
「ロロ、僕が魔法を放ったら、無理をしないようにコマンダーを倒してくれ」
「ウォン」
小声でロロと話し作戦を決める。
僕は早速魔力を煉り上げる。
久しぶりにここまで煉り上げた気がする。この街に来てから、今回のように危険な目に遭ったことがなかったからな。
ファチナの森では、常に周囲を警戒して過ごさなければならなかったから、この感覚は久しぶりだ。
僕の中で魔力が高まり始め僕の気分も高揚していく。
「グギャー、ググギャ、ギャー」
「ギャギャギャ」
僕の魔力に気が付いたのか、一斉にこちらを向き近づいてくるがもう遅い。僕は強く煉り上げた魔力を魔法へと変換させる。
「『アイスサイクロン』ッ!」
氷魔法と風魔法の合成魔法だ。
合成魔法は一応この世界でも存在するが使うものはあまりいない。魔法を合わせると制御が一気に困難になり操りにくくなってしまうからだ。無理に操ろうとすると魔力が一気に持っていかれてしまい魔法が消えてしまうこともある。
氷と風の竜巻が起こりゴブリン達を襲う。頭や胴、足等いろんなところに、鋭くとがった氷の刃が刺さり風に刻まれていく。
この魔法で半分ほどのゴブリンが倒れる。魔法が収まると同時にロロが飛び出していき、司令塔であるゴブリンコマンダーを仕留めに行く。ロロは身体強化と風魔法を使い、爪の範囲を広くする。
「ガアーッ」
「グ、ガッ……」
僕は剣を抜き放ち、風魔法を纏わせる。一振りすれば爆風を巻き起こしゴブリン達をズタズタに切り刻む。
「『風よ、纏え!』ハアァーッ」
「グギャッ、グフ……」
残り十匹程度となると巣の中から増援が出てくるが僕とロロは、容赦なく切り刻んでいく。
「グアアアアァァァァーッ」
ほとんどのゴブリンを殲滅し終えると、巣の中からひときわ大きなゴブリンが怒りの咆哮を上げながら出てきた。その姿は普通のゴブリンとは違い身長四・五メートルほどで鉄製の汚れたフルプレートを着ている。手には身の丈ほどある錆びついた大太刀を持っている。こいつがゴブリンジェネラルだろう。
「お前が親玉か! くらえッ『エアリアルカッター』!」
ギンッ
「ガアアァァーッ」
「ぐっ、……はじかれたか」
空気の刃がゴブリンジェネラルを襲うが持っている大太刀と鎧で防がれてしまった。そのまま突っ込んでくる勢いを緩めず、大太刀で水平に斬り付けてくる。剣で受け止めるが膂力に負け、吹き飛ばされてしまう。
「ガアーッ」
ザンッ
ゴブリンジェネラルは吹き飛ばされた僕を追いかけ追撃を叩き込んでくる。僕は咄嗟に横回転し難を逃れる。大太刀は地面に深々と刺さり力の差がありありとわかる。
身体強化の段階を一段階上げ剣に雷魔法を通し始める。雷魔法の方が風魔法より威力が上がり、追撃として痺れさせることが出来る。
「『雷よ、纏え!』」
先ほどよりもスピードが上がり、ゴブリンジェネラルは僕を捉えることが出来ずにいる。
「グッ、ガアーッ」
「ここだッ! 『落ちろ! ライトニングブレード』!」
ゴブリンジェネラルが僕を見失った瞬間に背後へと移動し、稲妻を剣に落として纏い、長さ七十センチほどの雷の刀身を作り出す。ミスリルのショートソードから稲妻のロングソードへと変貌させる。
そのまま金属製の鎧ごと胴体を真っ二つに薙ぎ払う。刀身から硬い感覚が伝わるが一瞬のことで、鎧を紙切れのように切り始め、すぐにゴブリンジェネラルの肉に到達してその身を焼き尽くしながら進んでいく。
「グバッ、グガハッ、ガアアアアァァー……」
ズダァンッ
ドシンッ
ゴブリンジェネラルの断末魔が辺りに響き渡り絶命する。
真っ二つになったゴブリンジェネラルの上半身が前方に吹っ飛び、音を立てて地面に落ちる。数秒後には下半身がグラつき後ろへとゆっくり倒れていく。辺りには金属と肉の焦げた匂いが漂っている。
ゴブリンジェネラルの死を知ったほかのゴブリン達は一目散に森の中へ逃げて行った。
「はあぁーっ、疲れたー」
僕はそう言うとその場にへたり込んでしまう。辺りには魔物の気配がないので大丈夫だろう。
「ウォンっ、く~ん?」
ロロが近づいてきて、心配そうに僕の方を見て鼻をくっつける。
僕がゴブリンジェネラルの相手をしている間にゴブリン達が近づいてこなかったのはロロが相手をしていたからだ。ねぎらいの気持ちを込めて首筋や体、頭などを撫で回してあげる。ロロは目を細め気持ちよさそうだ。
「よし、討伐証を剥ぎ取って街に帰ろう」
「ウォン」
休憩を終えさっき倒したゴブリン達やゴブリンジェネラルの討伐証と使える武器や防具、真っ二つにしたゴブリンジェネラルを収納袋に入れ、森から街へと移動を開始する。最後にゴブリン達を燃やすことも忘れずにやっておく。
今度来た時にゴブリンゾンビの討伐とか嫌だもんね……。
少なくとも今日倒したゴブリンは四百体は超えているだろう。このことはギルドに報告しなければならない。これは冒険者の義務になるんだろうな。
でも、このまま出してしまうと目立ってしまうだろうからターニャさんに言ってロンジスタさんを呼んでもらおう。
それがいいに違いない。
街まで戻って来ると知り合いになった門番さん(ファルナさん、男、彼女募集中だと)に確認をしてもらってほぼ顔パスで入る。
今日は疲れているので寄り道をせずに冒険者ギルドへ直行する。途中に串焼き屋のおっちゃんが声をかけてきたけど愛想笑いをするだけで買いはしなかった……。
「ターニャさん、依頼終わりました」
疲れ果てて声が少しかすれてしまった。
「お帰り。……どうしたの? そんなに疲れてるけど……。失敗しちゃったの?」
心配そうに聞いてくるターニャさん。
「いえ、依頼は無事に完了しました。ですが、問題が発生してしいまして……」
「問題ですか? ここでは言い難いようですね。解体場には誰もいませんのでそちらに行きましょう」
「はい」
ロロも疲れているだろうに一緒に来てくれる。
すぐに解体場へ行き、僕達はゴブリンジェネラル達のことを話し始める。
「それで問題とは何ですか?」
「依頼に言った森でゴブリンジェネラルと遭遇しました」
「えっ! は、早く緊急依頼とギルマスに伝えないと!」
ターニャさんは聞くとすぐに行動しようとするが僕が止める。
「ターニャさん、待ってください。もう倒したんで大丈夫です」
走り出そうと片足を上げた状態でターニャさんが「ピタっ」っと止まる。そのまま顔をゆっくり僕の方に向けて「はい?」と言った。
「いえ、ですから、ゴブリンジェネラルは既に倒したので大丈夫です。ターニャさんには後処理をどうにかしてほしいんです」
僕がちゃんと言わなかったのがまずかったな。反省、反省……。
「えーっと、ゴブリンジェネラルが森に出てきたんですね」
「はい」
「シュン君が遭遇して倒しました」
「そうです」
「そして、その後処理を私に任せたいですと」
「そう言いました」
ターニャさんは僕の言ったことを頭に浸透させるために、ゆっくりとオウム返しをしてきたから僕は相槌を打つ。
しっかり十秒ほどフリーズしていたターニャさんは、息を思いっきり吸い込み始めたので慌てて口を塞ぐ。
「ふあんふえふふええええぇぇぇぇー」
ターニャさんからググ持った声が聞こえてくる。
僕が塞いだ両手に息が溜まりブヒューとかフスンとか音を立てて空気が漏れる。指の間や手の隙間から空気が漏れてくすぐったいような感覚が、僕の手を襲う。
「えっと、落ち着きましたか?」
こくん、こくん。
僕の問いかけに首を思いっきり振って頷く。
これは思いっきり大きな声で話し始めると思う……。……もう一度念を押すか。
「ターニャさん、落ち着きましたね?」
うん、うん
今度はゆっくりと頷いたので僕は塞いでいた手を離した。
「シュン君! ゴブジェネ倒したのって本当!」
ターニャさんが驚いた剣幕で聞いてくる。
ふむ、ゴブジェネ……いい略し方だな。今度からそう呼ぼう。
「本当ですよ。僕がゴブジェネを倒しました。収納袋の中にゴブジェネの本体と武器が入っています」
そう言って台の上にゴブジェネの上半身を取り出して置く。
ズダアァァン
レッドベアーの時よりも大きな音が解体場に響き渡った。
「…………。シュン君、すごいね」
ターニャさんがゴブジェネの上半身を見て目を見開き、僕を見て言った。
「これはどうしたらいいですか? 他にもゴブジェネの下半身とゴブリン達、四百体ほどの討伐証、武具があるんですけど……」
「スゥーっ、……はぁー。ギルマスを呼んでくるからここで待っていてね。シュン君」
そう言ってダッシュでギルマスのところまで行くターニャさん。
残された僕は誰か来ないかビクビクしながら帰って来るのを待つ。
次第に足音が聞こえ始め、二人が到着する。
「シュン、ゴブジェネを倒しただとぅ!? ――うおぅ、本当のようだな」
「そう言ったじゃないですか……ギルドマスター」
息を切らせながら飛び込んできた。ロンジスタさんは僕に叫びながら、台の上に置いてあるゴブジェネの上半身を見て驚き、ターニャさんは伝えたのに信じていなかったロンジスタさんに文句を言う。
「真っ二つか……。どうやったんだ?」
「剣を魔力で強化したうえで雷魔法を纏わせて刀身を作ってです」
「そのやり方はお前だけだろうな。こいつのランクはBだ。普通は大規模戦闘になっていただろうな。他にもゴブリンがいたのだろうからな」
そんなに危険なことだったのか。今度から気を付けて行こうっと。
「シュン、聞くのはマナー違反だとわかっているんだが……お前は何個の魔法が使えるんだ? 火、風、水、雷、無、召喚。他にも使えるんだろう?」
「そうですね。覚えやすい召喚魔法と無魔法は除けても四つありますからね」
ロンジスタさんとターニャさんが聞いてくる。
……さすがに隠し切れないかな。この二人になら伝えても大丈夫と思うんだけど……。
「言ってもいいですけど、誰にも言わないでくださいね。知っているのは師匠達しかいません」
「いいのか? 誰にも言わない。報告もしない。お前もいいな、ターニャ」
「はい、個人情報なので誰にも言いません」
「……。わかりました。魔法を全て言うわけにはいきません。魔法は基本と派生の魔法はすべて使えます。師匠に言わせれば、『お前の魔法はこの世界から逸脱している』だそうです」
沈黙が流れる。
「それは、本当のことなんだな?」
「はい」
「お前が目立ちたくないと言った意味がよくわかる。いや、目立ちたいうんぬんよりも国にばれたらやばいな」
「シュン君はすごいんですね」
ターニャさんはそれしか言えないようだ。
「ちなみに魔力量の方はカードを貰った時点では五十万でした」
「ごっ、そんなにあるのか」
「師匠は私を超えたと言っていましたね」
二人とも魔法のことよりも僕の魔力量の方に驚いているようだ。
「そんなにあるのならばこんなこともできるか……」
「そうですね……」
半分しか合っていないけどそこは黙っておこう。
「もしかして、加護持ちか?」
「はい、そうです。よくわかりましたね」
加護の力は一度も使っていないのによくわかったなぁ。
「これでも何度か加護持ちと会ったことがあるからな。……勘みたいなものだがな」
「シュン君はいったい何者なんですか……」
「……シュン、詳しい事を話してくれ」
「はい。僕はDランクのゴブリン討伐の依頼を受け森へ行きました」
僕は依頼のことを話し始める。
「……ということです」
ロンジスタさんは僕の話を聞くと腕を組み合わせ目を閉じた。
どのくらいの時間が経っただろうか。僕が話し終わるとその場の空気が一気に変わり、居心地が悪くなってきた。
なんだか空気が重くなってきたな……。
「……シュン、今こう言った事例が多くなってきているんだ」
ロンジスタさんは重たそうに口を開き、話し始める。
「依頼に行ってみると定められた魔物よりも、強力な魔物が支配していて怪我をするケースが多くなっている。ギルドでも調査をしているがそこまで切迫している状況ではない。支配している魔物も一つ上のランクのものが多かったからだ」
そこで一息つく。
魔物の活性化が始まっているのか……。
「だが、さすがに今回のようなことを放置することが出来ない。ホブゴブリンならまだしも、ジェネラル級が出てくるとなると、何か起き始めているのかもしれない」
「今回のようなケースは初めて起きたってことですか?」
「この街では初めてのケースとなる。……だがシュン、お前は過去に一回遭遇しているはずだ」
僕が過去に一回遭遇している? この街に来てからだと、ゴブジェネを除けるとレッドベアーが一番強かったけど魔物を纏めてはいなかったよな。
……そうなると、それ以前でってことになるよな。…………あ、師匠の試験で氷漬けにした魔物のことか。
「そうだ、ウォーコングのことだ。ファチナの森には生息していなかったはずだが、魔物を纏めていたのだろう?」
「はい、あの時はいろんな種族の魔物を纏めていました」
……あの時は死ぬかと思った。今回はロロがいたから助かったんだけどな……。
「このことをギルドの上層部へ報告しなければならない。そうなると……」
ロンジスタさんは僕の方へ向く。
「僕のことを言わなければならなくなるのですね」
「そうだ。それとランクを上げなければならなくなるだろう。目立ちたくないだろうが力があるものの宿命だと思って諦めてくれ」
ロンジスタさんはすまなさそうに言う。
やっぱりそうなってしまうのか……。決闘の後に言われた通りになってしまったな。
「できるだけ便宜を図ってやるつもりではいるが……やはり、目立ってしまうだろうな」
「……仕方ないです。無理にしてもらうと余計に目立ってしまうかもしれませんから」
「……そう言ってもらえると助かる」
ロンジスタさんが頭を下げる。
「では、これでおしまいにしよう。ランクアップについては試験を受けることになるとだろうから日程が決まり次第、ターニャに伝えてもらう」
「わかりました」
「任せてください」
「討伐証とゴブジェネの下半身があったら出してくれ。他にも買い取ってほしいものがあればここにだしてくれていい」
僕はそう言われたのでゴブリンの討伐証である左耳四百個とゴブジェネの下半身、武具を取り出し台の上へ置いた。
「多いな……。時間が掛かるからお金は明日の昼にでも取りに来てくれ。武具に関しては劣化しているからそれほど高くは買い取れないぞ」
「わかりました。それでいいです」
錆びたりして劣化したものが多いから仕方がないだろうな。フルプレートは真っ二つにしちゃったから使うこともできないな。
「今日は疲れているのでこれで失礼します。明日の昼頃に受取りに来ます」
疲れた足取りで“街の旨味亭”まで帰ると、バネッサさん達うに心配されてしまった。そのまま部屋へと直行し、ベッドの上で泥のように眠る。




