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思ったように書けない自分にイラつきます。

もう少し展開を、愛を叫ぶような感じにしたかったんですけど難しいです。

「やって殺る、やって殺る、殺って殺る、殺る、殺る殺る殺るッ!」


 開始早々物騒な単語を吐き、ハクロウは初っ端からフル能力で弾丸となって突っ込んできた。


 そうなるよう仕向けたとはいえ、少し申し訳なく、僕の武士道に則り手は抜かないようにする。

 失敗は許されない、というのもあるけど、それがせめてもの償いだ。

 もしこの後許せないというのなら無防備で殴られるぐらいするよ。


「俺が勝って……証明してやるッ!」


 自分が本物であることか、それとも強者であることか、将又自分と愛するアスカさんの為か……。


「怒らせたのは僕だけど、それでも冷静でなくてはいけない」


 耳をつんざく鈍い金属音。

 思わず仰け反らせる衝撃波が会場に、舞台に、観客に襲い掛かる。

 大振りで真上から振り抜かれた大剣を、『硬化(ハード二ング)』を施した鋼よりも硬い拳で撃ち返したからだ。


『素手で撃ち返したーッ!?』


 今回ばかりは正面から行く。

 さっき言ったハクロウに対する謝罪もだけど、見ている獣人族を力で認めさせるため。

 現に獣人達は驚きのどよめきが起きている。


「ぐ、あっ!」

「怒るなとは言わない。怒りは力を増幅して、生きる活力になるからね」

「何をほざく! 切り殺されろぉぉ! ぐはっ!」


 フィノに頼んで衝撃波を出来る限り弱めてもらう。

 風魔法と結界魔法の応用で、フィノの修行にもなる。

 会場もだけど、観客が見れないと意味ないからだ。


 重そうな鎧を着て、それと同等の大剣を小枝のように振う。

 身体強化をしてても認められるほどで、数十秒連続で攻撃しているけどほとんど変わらない猛攻。

 決して弱いわけじゃない。

 だから周りは信じることになったんだろうね。


 でも、兜越しでもわかる憤怒の形相と血走った眼。

 無駄に筋肉も膨れ上がって攻撃は単調に、大剣の軌道だけじゃなく体捌きからも何が来るのか読める。

 怒ったからと言ってそれ任せではいけないのだ。


「いくら力が僕より勝っていても、それだけ大振りなら対処できる。自分の長所も活かせていない。頭を冷やせ! 『魔力爆撃』」

「ぐはっ! い、いてぇ……それでも俺はッ……!」


 魔力を通して爆発させる、魔力通しよりも衝撃と破壊力のある攻撃。

 それを受けて吐血しないというのは鎧の性能とハクロウの頑丈な身体にある。


 一瞬ぐらつくも、ハクロウはすぐに立て直し再び突っ込んできた。

 吹き飛ばされて少し冷静になった様だけど、


「まだダメだ。『魔力通し』」

「うぐっ……ガアアアアアア!」

「うおっと!」


 力づくで相殺した。

 それも一つの方法だけど、僕の込めた魔力を相殺することは何度も出来ることじゃないと思う。

 もしもの時の切り札になるだろうけど、今は悪手だ。


 相殺の衝撃でバランスが崩れる僕。

 そこを狙って大剣が振り抜かれるけど、衝撃を利用して後ろに飛んで避ける。


「『ブリザード』! 一旦頭を冷やせと言っているでしょ?」


 おまけに大剣の側面を蹴り付け、逆に怯んだハクロウを極寒の吹雪で閉じ込める。

 まだ魔法を使って来ないけど、並な魔法では解除できないレベルだ。


『シロ殿の氷魔法によりハクロウ様が閉じ込められました!』

『ハクロウ様は少し怒りで攻撃が単調となっている。威力は申し分ないが、今のままではシロ殿に当てられまい。シロ殿は逆に冷静で、的確な判断を下している』


 司会と解説の二人が戦いの状況を説明する。

 そこに僕が怒らせた卑怯者だとヤジが飛ぶ。

 確かにその通りだから頭を上げられず、彼等がハクロウに味方する勢力だろう。


『卑怯者? 確かに武を重んじる我等からするとそうだろうが、シロ殿はハクロウ様に対し正面から戦っている。それが分からない皆ではないだろう』

『私もそのとーりだと思います! ハクロウ様に対し、シロ殿は本気を出している。この戦いが深いものだとすると私達が共感しても非難することはないでしょう!』


 今度はヤジを飛ばした人達にヤジが飛ぶ。

 乱闘にならないのはこの戦いを見守る為だけじゃなく、しようとした人は予め多く配置された兵士達の手で止められているからだ。

 兵士の訓練にもなるとして、賛成された。


 フィノにはフローリアさん達が張り付いているから安心だ。


 そして吹雪が止み、一瞬の硬直が訪れた。

 が、次の瞬間ハクロウの周りの温度が急上昇し、大爆発が起きた。


「吹き飛べえぇ、ウオオオオオオ!」


 火魔法を使ったのだろう。

 それも雪を解かす方向ではなく、自分の長近距離で爆発させて吹き飛ばす方向で、だ。

 通常は爆発のダメージを被るだろうけど、ハクロウは魔法耐性も付いているフルアーマーを着ていて、さらに自分の肉体は頑丈ときている。

 これは良い判断だと言えるだろう。


「……ぉぉぉおおおおオオオッ!」


 そして、ハクロウは雄叫びを上げ、爆風と土煙の中から突っ込んできた。

 鎧は凹み、所々焦げが付いている。


 僕は一瞬避けるか、と思ったけど、さっきの解説の言葉を思い出し、僕も剣を抜いて戦うことにした。

 純粋な力は認められたとも思ったからだ。


「オラアアアァ!」

「少しは頭が冷えたみたいだね」


 装備していた剣は全てが漆黒のデモンインセクトの鎌から作った、魔力や魔法に対して優れた能力を持つ剣だ。

 しかもドワンさん達がそれをさらに強化して、ちょこっと修行として訪れた魔大陸で倒したSSランク――ヒュドラ並――の魔物の素材が使われている。

 強度や切れ味だけでなく、魔力伝導率、自己修復、重力制御などの能力が付いた。

 もう一本のベヒーモスとヒュドラの剣は時間短縮のためにドヴェルクのババルンさんに任せている。


 普通に振り抜いたら大剣を切り飛ばすから、いなし払うように弾く。

 一撃も与えられないことに冷静さが戻り、ハクロウの斬撃に理性が宿り始めた。


「チッ、間違いねぇ……あの時のガキか」

「あの時? やっぱり僕とどこかで会ってる?」

「ふん! 口調こそ違うがその嘗めたような態度ッ! 忘れるものか!」


 そんなこと言われたの始め……てではないか。

 つい先日、フィノから同じようなこと言われた気がする。

 別に嘗めてるわけじゃないんだけど……そう聞こえたのなら謝るよ。


「その態度がッ……気に食わねぇぇぇってんだろぉぉぉ! 『燃え聳えろ、フレイムタワー』!」

「詠唱破棄、ね」


 足元が真っ赤に染まり、直後地面から天へ昇る炎の柱が生まれる。

 魔力反応で危なげなく避けるも、そこ目掛けてハクロウが飛び掛かって来る。

 こちらが本命だったのだろう。


 この魔法の熟練度と詠唱破棄を考えれば、獣人族の中でも指折りと言っても過言じゃない。

 でも、アスカさんの魔法の前には無意味だったりする。

 アスカさんはハクロウにとって天敵とも言える使い手だからね。


『熱いッ! 観客の皆さんは火の粉に気を付てけくださいぃぃ!』

『私達はここを離れるわけにはいかない。それにしてもハクロウ様のこの魔法。腕は上がっておられるのでしょう』


 炎の柱が消え去り、今度は無数の火の球を飛ばし、手数を増やす作戦に移行してきた。

 半分以上が無駄内になっているけど、攻撃しながら魔法を使える技量から努力を覗える。


「なぜ当たらない! クソがッ!」


 水の球で反撃され、当たらないことに焦りが生まれる。


 バルドゥルさんに目を向ければ静かに頷かれた。

 それは合図であり、ハクロウが本気を出した証拠だ。

 次の作戦に移行する。


「何故、君は僕を偽った? 前にも僕の偽者として行動したことがあるんだよね? で、僕に倒された」

「黙れッ! その嘗めた口閉ざさねえとぶっ殺すぞ!」

「それは何故? 何かしたいことがあった? 成したいことがあった? それとも――」

「黙れつってんだろがぁぁぁぁッ!」

「――アスカさん、かな?」


 アスカさんの名前に過剰反応を示す。

 振り抜かれた大剣が地面を砕き、剣圧が暴風を生む。

 観客である獣人達は最高潮に高まり、ハクロウコールが鳴りやまない。

 勿論僕に対する声援もあるけど、ここはアウェイだし、獣王の息子という立場だから僕を応援する人はほとんどいない。

 する人はハクロウを懲らしめてほしいと考えている人ぐらいだ。


「アスカさん見てるよ? これ以上無様な所を見せたらどうなるか」

「ああん? 殺す」

「殺すって……。その前に自分の行動を顧みなさい」


 僕の偽者をして罪悪感はないのか。

 危機感を覚えないのか。

 起こるであろうこと、バルドゥルさんの思い、騙した同胞の怒り。

 そして――


「アスカさん……小さくて可愛いよね」

「――ッ!?」


 ひぃぃぃぃっ!?

 背筋が凍る魔力を感じました!


 前にも言ったような記憶があるけど、フィノは僕がフィノ以外の女の子を呼び捨てするとこうなる。

 本人は特に分かってなくて、無意識でやってるんだけど、今みたいに褒めでもしたら……ひう!

 微笑みが怖い。


 呼び捨てしていいのはシャルとクラーラぐらいなもので、学園の後輩にもさん付けだ。


「特に尻尾の毛はふわふわで、全体の艶も、毛並みも、色も良い」

「……」


 此処にロロがいたら怒られてたと思う。

 ロロも僕が他の動物を撫でてたら怒るから。

 怒るというより自分も構ってほしいって拗ねるぐらい。

 それがまた可愛いんだけどね。


「貴様……俺のアスカに……」

「あのねぇ、俺の俺のって……君はアスカさんの何なの?」


 堪忍袋……とは違う気もするけど、我慢の限界が来たようで、何かが切れる音がした。


「アスカは俺の許嫁だぁぁぁぁッ!」




 もう、シュン君は子供なんだから……ふぅ。


「あわわ~、シュン様はお強いですね」

「手を抜いているとはいえ、あ奴もよくやる」


 アスカはシュン君じゃなくて、ハクロウの動きばかり心配そうに見てる。

 バルドゥル様も両者を見て、シュン君の力量を測った後はハクロウがどれだけ食いついているのか見定めてる。

 カムラさんとカムロさんの二人、族長の方々も黙って見つめ、どこか激しい戦いに身体が疼き始めているかも。


 根っからの戦闘種族ってことかな?

 よく分からないけど、変身するからねってシュン君が言ってた。


「うわ! あ……キャ!」


 ハクロウがやられる度に、アスカは自分のことのように声を出し応援する。


「声まで良く聞こえんが、見事に策に嵌まっておるな」

「あれを策と呼ぶのでしょうか? 挑発して本音を出すだけ。やり過ぎていなければいいのですけど……」


 いえ、見るからにやり過ぎているはず。

 シュン君は人の悪口とか滅多に言わないけど、戦いの最中は感情も昂るからか毒を吐く時があるの。

 それが客観的に見た本音で、シュン君からしたら指摘だったり、相手のことを思って言ってるんだけど、言われた側は癪に触っちゃう。


 その時、二人の動きが止まり、何かシュン君に対してイラッと……。


「ど、どうかされましたか?」

「え? ううん、動きが止まったなぁ、と思って」

「そ、そうですか?」


 今頃シュン君がいろいろ言ってるんだろうなぁ。

 私から見てもアスカは小さくて可愛らしいもの。

 戦い方も相手を騙すような技術的で、シュン君と少しおにあ……いえ、私の方が似合ってるはず。


 そもそもシュン君の心は鷲掴みにしているんだから大丈夫!

 あ、思いが通じたのかシュン君がこっち向いてくれた。

 ただ、どこかぎこちない笑みだったけど……?


「そろそろだな」

「ええ、そろそろのようですな」

「しかと耳を済ませておきましょう」


 私は獣人ほど耳は良くないので、今展開している風魔法を使って声を聞き取る、シュン君オリジナルの魔法を使う。

 アスカはどこか楽しみな様子で、手を胸の前で組んで小さな耳をピンと立て、尻尾も怪我ふわふわしてる。


『――君はアスカさんの何なの?』


 君はフィノの何なの? とかシュン君が聞かれたら……ふふふ。

 私がシュン君の何? って聞かれたら、世界一大好きな婚約者……いえ、恋人とか男の子って即答する。


 だから、いけ好かないハクロウの返答次第で――


『アスカは俺の許嫁だぁぁぁぁッ!』


 ……そこは『大切な』とか、『愛する』とか言ってほしかった。

 でも、アスカ達の様子を見る限り満足そうで、部外者に近い私が言うべきことじゃない。


「シュン君、ここからが大事だからね」




 うん、フィノの言う通りここからが大事。


「はぁ、はぁ……アスカに手を出してみろ。地獄の果てまで追いかけ嬲り殺すからなぁ……」


 所々鎧が壊れ露出した毛が逆立ち、どれだけ怒っているのか分かる。


 ハクロウはほぼ獣型の獣人で、バルドゥルさんの血を濃く受け継いでいるのかもしれない。

 遺伝するのか知らないから仕方ない。


「英雄たる僕を? 偽者の君が?」

「ぐるぅ!」

「まあ、そこはどうでもいいよ。いや、良くはないけど……こほん、今やっていることはその許嫁に顔向けできることなの? 胸を張れる?」

「う、うっせぇ! お前にとやかく――」


 僕は瞬時にハクロウの眼前に移動し、片耳が取れた兜に手を置く。


「いや、僕が本物だから権利ぐらいあるよ。それとも、君のアスカさんに対する想いは……他人を偽って、嘘を付いて、そんな薄っぺらい物だったの?」

「ぐはっ!」


 そして、地面に兜が割れる勢いで叩きつけた。


 いや、普通に割れないよ?

 物理耐性があるし、普通の金属でもないみたいだから、魔法耐性の術式を刻印で一時的に消去して、土魔法で金属の結合を弱くしてから衝撃で壊したんだ。

 下手したら頭が割れるからね。


「ぐぅ、ぁ、な、にしやがる!」


 それでも脳が揺れて、鼻から血が少し垂れた。

 診察してみたけど、特に異常はなさそうで安堵。


「何って、今は戦いの場だから。で? 君はアスカさんを騙して心苦しくないの? 僕だったら罪悪感で無理だね」


 ばれた後どうなるか分かったもんじゃないし。

 な~んて、口が裂けても言えない。


「お、俺だって……これが悪いこと……アスカに申し訳ないってわかっている!」


 まだ戦闘意欲が消えないハクロウ。

 手を離さなかった大剣を握り直し、再び振り被って来る。

 今度は真正面から大剣に剣を当て、刀身の半分以上を切り飛ばした。

 すると即座に大剣を投げ捨て、拳を繰り出してくる。


「なら、どうしてやってしまった!」

「くっ、ぐば!」

「答えろ!」


 拳を握り、力任せに背負い投げのように地面へ叩き付けた。

 ハクロウが肺の中の空気を吐くと観客から悲鳴が上がる。


 あ、ちょっと乱暴になった。

 でも、ハクロウに会ってから放っておけないっていうか、何か僕とフィノみたいでこのままにしておけないって思うんだ。


 僕とフィノは両思いで、アスカさんとハクロウも実際そうだ。

 出会いとかは違うけど、共感できるところは多くあって、僕もフィノに劣っている所があったら男として情けなく、ハクロウみたいに……そう、拗ねてたかもしれない。


 馬鹿なことをしてアスカさんと破局、僕にはフィノとの破局に見えるんだ。

 だから、お節介かもしれないけど、僕はこの作戦を思いついたのかもしれない。

 フィノも一緒かもね。


「かはっ! ぎ、ぎざまぁ……」


 ハクロウはそれでも立ち上がり、赤く染まる顔をこちらに向ける。

 膝が震え満身創痍でも黒い瞳に宿る闘争心に衰えなく、自分で言うのはあれだけど強大な敵に怯えを見せない。

 アスカさんを奪わせないという気持ちもあるはずだ。


 それを理解してか、観客全員がハクロウに視線が向き固唾を飲む。


「アスカさんは見ているんだよ?」

「……ぐぅ」


 ちらっと心配そうに祈るアスカさんを見て、鋭い歯並びの口を覗かせ喉で唸った。


「君は、アスカさんの想いに応えていると思う? 自分が愛する人に胸を張れる? 僕は出来る限りそうできるように、お互いを理解していこうとしているよ」


 ハクロウは黙り込み、僕の瞳を睨むように見つめ続けた。

 そして、上を向き閉じた目から雫が零れ、膝から落ちた。


「お、俺だって、これが悪いことだと分かっている! 相手の武を貶す、獣人が最も嫌う行為だということもなぁっ!」


 ハクロウの魂の叫びはどこまでも響く。

 薄々気づいていた獣人達の反応は静かなもので、


「でもなぁ……でもな! こうするしかなかったんだよ!」


 真実を知っても騒ぎ立てず、ハクロウの叫びに耳を傾けていた。


「俺の親父は獣人族最強の獣王だ。俺は生まれた時からその背中を見て育ち、将来自分もって思ってた。それでも、周囲の奴等の期待、重圧、反応……全てが重く圧し掛かる!」


 そこで強い衝撃を受けたのがバルドゥルさん達だ。

 そのことも話していたけど、これほどまでハクロウの負担になっていたとは思わなかったのだろう。


 聞けばバルドゥルさんは歴代の中でもトップクラスらしく、豹の獣人の特性を活かした俊敏性と一撃必殺の攻撃力を持っていると聞く。

 その特性は狼であるハクロウにも似た部分があり、彼等もここの能力が異なると分かっていても色眼鏡で見ていたんだ。


「そこに前々から気になっていたアスカ……アスカとの婚約が決まった」


 それだけでもっと重圧、焦りを感じたんだろう。

 言動から強さを求めているのは分かるからね。

 獣人として、男として、愛する人のために嫌だったんだろう。


 やっぱり共感できる。


「本当ならアスカを倒して、いや、負かした後にもう一度言うつもりだった……」

「結婚してくれ、とか?」

「ぶっ!? あ、ああ、そうだ! 悪いか!」


 い、いや、悪いだなんて言ってないよ!

 フィ、フィノが怖い笑みを作ってるよ!?

 僕、いらないこと言ったの?


「俺が努力したらアスカも強くなる。アスカが強くなるのは俺も嬉しかった。だが、それ以上に堪えられなかった! 強いお前にこの気持ちが理解できるか!? 惨めさ、怖さ、焦り、不安……仕方なかったんだぁぁっ!」


 両腕を地面に叩き付け、血飛沫が上がる。

 どうやら筋肉を痛めて大剣を振っていたようだ。


 でも、それは良い方向に向かわせる結果となり、ハクロウに後ろめたさを感じた者達が一斉に目を逸らした。

 そこに冷戦状態となっていた両者は関係なかった。


 僕は唸るようになくハクロウに近づき、ボロボロになった肩に手を置いた。

 また殴られると思ったのかビクリとハクロウの身体が跳ね、恐る恐る顔が持ち上がる。


 ――僕だって最初っから強かったわけじゃない。


 流石の僕でもこの場と状況に適したセリフだと思わない。

 僕が言っても説得力ないし、弱い頃を知っているのは師匠だけだから。


 だから、僕はこの言葉を選ぶ。


「ハクロウ、獣王バルドゥル様はこう言ってた。『情がある』って」

「情……」


 静かに、呟き返す。


「そう。それは親として思ってくれている、愛してくれているってこと。アスカさんも強さに惹かれたんじゃない。ハクロウ、君自身に惹かれてるんだよ?」


 そこで、ハッとハクロウはアスカさんの方を向いた。

 アスカさんも涙を流し、嬉しそうに笑って頷いた。

 バルドゥルさんも隣で頷き、目を閉じていた。


「僕は獣人族じゃないからわからないことが多いけど、愛する人が何を求めているかはわかる。本当に愛しているのなら、圧倒的な力よりも心が、想いが、全てが欲しいって思うんだ」


 そうでしょ? とハクロウに訊ね、ちらっとフィノを見れば嬉しそうに頷いてくれた。


「後はどうしたらいいか分かるよね? 確かに方法は間違えた。でも、そうなってしまった理由がある。偽者だとバルドゥル様が知らないと思う?」

「それは……」

「そうだよね。知っていて何も言わなかったんだ。負い目を感じて、何時か気付いてくれるって信じて、ね」


 これぐらいしておけば大丈夫だよね?


 司会の人に目配せを送り、最後の仕上げに入ろうとした。


『戦意喪失、いえ、私達獣人が強き者に縋り過ぎ、ハクロウ様を負かせてしまったのです』


 その時――


『もう我慢ならねぇッ! 折角お膳立てしてやったというのに情けね! 俺が、俺達が英雄をぶっ殺し、最強は獣人だと分からせてやる!』


 四方から爆音が轟き、僕に向かって千を超える獣人達が襲い掛かって来た。


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