作戦
投稿したと思っていたのですが、されていませんでした。
親知らずも生えて口が閉ざせないほど腫れ、投稿が今日までずれこんでしまい申し訳ありません。
「お初にお目にかかります。私が皆様方にご迷惑をおかけしているバカ犬、もといハクロウの許嫁のアスカと申します」
また、何か個性的な人が出てきた。
巫女服ってわけじゃないけど、白と赤の和風っぽい服を着て、どこか懐かしい雰囲気を持つリスの獣人。
聞いていた通り小柄で護りたくなる感じだけど、師匠達と同じ強者だけが持てる気配と魔力を持っている。
「僕はシュンです。よろしくお願いします」
「私はシュリアル王国王女フィノリアと申します。珍しい服装ですね」
「これですか? これは獣人族が崇める神獣様の巫女の正装で、私の様なある程度実力のある者達が務めるのです」
巫女だった。
魔族の例があるから、この服とか巫女って単語は勇者が関係しているはずだ。
だって、巫女って日本語だから。
それは置いておいて、フィノにもいろいろな服を作ってるから巫女服自体は知ってるよ。
だから珍しいって言ったんだ。
色々な服を着てくれると僕も嬉しいけど、どっちかというとフィノがそれを楽しんでるんだ。
王族だから毎日違う服を着たりするから慣れもあって、流石に巫女服を僕が着ることはないけど、陰陽師のようなイメージで作ってもらった服を着てペアルックにしたりとかね。
エルフ族は巫女服っていうかゆったりとした服も好んで、子供や女性達に結構人気でもある。
これに関しては、別に僕が儲かったりはしていない。
アロマにアイデアだけ渡して、後は自由にしてもらってる。
お金は腐るほどあるから、アロマに無償で服を作ってもらうって契約だ。
「神獣様というのは?」
「読んで如く霊獣や幻獣に近い存在で神と同等の位を持つ、とでも言えばいいでしょうか」
霊獣や幻獣が進化した、いや、上位に至った存在ってことだ。
格が上がるってことだね。
魔物の進化と違うのは、神と同等の存在になるってことだからただの進化とは違うってこと。
メディさん達と同じ神の力を使えるわけで、神域にも行けるってことだ。
実際いるみたいだけど、メディさん達と同じく力の行使は禁止されて、顕現もほとんどできない存在になる。
「僕達で言う神様と同じってことだね」
神獣の力が借りられれば良かったけど、流石にそこまで都合よくは回らないものだね。
「挨拶はそこそこに本題へ入るとしよう」
バルドゥルさんが手を数度叩き、皆の視線を惹き付けた。
「アスカ、あ奴の様子はどうだ?」
「はい、変わりなく準備されています。しかしながら、身の内に焦りのようなものが見えます」
アスカさんは職業柄も合わさって、相手の機微まで分かるみたいだ。
いや、僕とフィノみたいに相手のことを想ってるからかもしれない。
「ハクロウ様の身から出た錆」
「なぜこのようなすぐに分かることをしでかしたのか……」
「うむ、あ奴の自業自得だ」
族長達含めて全員が頷く。
凄い言いようだ。
でも、皆は苦労のことが嫌いじゃなく、どうにかして僕達が処断しないようしている。
王国の英雄の名を語るってことは最悪王国を貶すことになって、両者の間にいらぬ争いが起きてしまう。
シロや幻影の白狐の名前は現代の英雄の名前で、僕が思っている以上に力があるんだ。
だから、この祭りでどうにか獣人族を納得させて、同時に僕達が偽者を倒すことで威信を保ち、両者の友好に利用する。
偽者の話が外に漏れなかったのも計画の為で、僕達が黙っていればいらぬ争いは起きないって寸法だ。
勿論そのために獣人族には譲歩してもらわないといけないし、これからハクロウをどうするべきか話し合う。
「シュン様には大変ご迷惑をおかけします」
「いえ、言っては何ですが偽者には慣れてますので。逆に良くばれないものだと感心します」
「うふふ、バカ犬……ハクロウ様についているのは同類達ですから。ああ見えて何故か人望はあるのです」
類は友を呼ぶ、と。
僕は……呼んでないと思う。
そういう人に限って何故か慕われるのも分かる。
ちょっとずつハクロウの人柄も分かってきた。
「その同類が馬鹿なのが厄介だ。若手も多いものだから、血気盛んでな。叱り飛ばしても、殴り飛ばしても、死んでも言うことを聞かんだろう」
「然り。ですが、私達も本気で怒ることはできないのです」
「最初はハクロウ様が、と思い鎮火させるのが遅かったもので」
「何より、私達の中にもハクロウ様を信じていた者がいたほどですからな」
目を背けた人達のことですね。
別に疚しいことをしたわけじゃないから良いし、情報を封じてギルドも深く教えなかったのも悪かった。
これはなるべくしてなった、と思った方が楽だろうね。
「それは置いておき、バカ犬は後に引けぬところまできました。昨日話をしたところ、弱音こそ吐かないものの随分思い詰めていた様子でした」
「見栄だけは立派だな」
貶しているように聞こえるけど、その笑みを見ると誇らしげだ。
父親として、ここで逃げない根性を認めているのだろう。
僕だったら、と思うけど、そもそも前提の偽者になるという発想をしないと思う。
「それならあ奴の方は大丈夫だろう。次にどう展開するか、だな」
「ただ倒すだけでは納得しませんぞ。シュン様には獣人族全員にその力を見せつけて頂きたい」
「身勝手ですが、ハクロウ様の全力を引き出したうえで完膚なきまでに叩きのめしてほしい」
ちょっと難しい提案だけど、それしかまずないだろうね。
シンプルで効果的だからこそよく使われる方法だもん。
「ですが、それだけでは納得しない者やご子息が危ないのでは?」
フィノは名前を呼ばないほど怒ってはいるけど、ハクロウ自体が悪い人じゃないと気づいてる。
「そうだな。だから俺達はハクロウが英雄だと認めていない。否定もしていないがな」
「現状そのおかげで大きな動きはありませぬ」
「しかし、ちょっとした振動でいつ爆発するか分かりません」
水面下の戦いってやつかな。
一年でここまで発展するとはね。
これも馬鹿の力ってやつ?
「もうちょっと早めに宣言するべきだったかもね。そのタイミングは結構あったもん」
「そうかもね。でも、過去には戻れないわけで、目の前のことに全力で挑むしかないよ」
メディさん達なら出来るかもしれないけど、それこそ世界に関わってるから駄目だ。
そもそもそれが出来たら邪神とか来る前に戻して阻止すればいいわけで、やっぱり神様でも時間を戻すとかは出来ないんだよ。
若しくは神と名の付く存在には効かないとかね。
そっちの方があり得そうだ。
「王国側としては後の影響も考え、異存ありません。ですが、バルドゥル様方の言う通りご子息には罰を受けて頂くこととなります」
「死なない程度ならやってもらって構わん」
その辺は昨夜フローリアさん達と話し合い、多少の賠償と謝罪、以降の全面協力とか条約を結ぶつもりだ。
残すはどう締め括るか、出来ればハッピーエンドで士気を高めたい。
「難しいね」
「シュン君でも? こういう時は良く面白いこと言ってくれるのに」
そ、それはないよぅ……否定できないけど。
でもフィノに期待されていると思えば、ここで男を見せないと!
そうだ、逆から考えていこう。
ハッピーエンドにはハクロウが騙してたけど、それは仕方がなかったとか、ハクロウだから、で済ませられるのが良い。
ハクロウは人気があるみたいで、愛される馬鹿だから多少は無理がきく。
「シュン殿? 急に黙り込んでしまったが……」
「こうなったシュン君なら大丈夫です。きっと突拍子もないことを言ってくれるはずですから」
「そうですね。おかげで処理が大変ですけど」
「ほほう、お前がそういうとはな。ヴァロムから変わってないと聞いたが?」
「お、覚えていてくれたんっすか? い、いやー、光栄っす。あ、あはは……」
ガノンが弄られている気配が……。
此処でキーワードとなるのはハクロウがシロを使った理由、半信半疑の人が多い、ほとんど馬鹿だってこと。
だから変に理屈に沿っても無駄で、ここはシンプルな案が良いとみた。
それなら……。
「む? 何か思いついたようだな」
皆待ってくれていたみたいだ。
何か笑ってるけど……緊張してきたんですけど。
「シュン君、とりあえず言ってみて」
「と、とりあえずって……。こほん、絶対にしないといけないのは周りの反発を無くすことだよね? ハクロウが偽者ってばれてもさ」
「そう。シュン君が本物だっていうことは実力で示せるけど、騙したことに対する反感はどうしようもない」
「こちらでも抑えられるでしょうが、物わかりの良い者ばかりではありませぬ」
「ハクロウ様がそうしなければならなかった、と理解すればまだどうにか」
なら……うん、これで、いける……かな?
よく使われてるけど、僕達が上手く誘導したら大丈夫なはず。
そのために皆の協力が必要だ。
「アスカさんに確認しますが、ハクロウのことを?」
「はい、ああ見えて可愛らしい所もありますので、私以外に御せる人もいないでしょうし」
な、何か違う?
でも、フィノは共感してる?
何故?
悪寒が……。
「ハクロウはそれに気づいているから余計に負けられないと考えた。それは即ち、ハクロウ自身も少なからずアスカさんのことを想っている」
「なるほど。シュン君に……気付かなかった」
ちょっと待って。
僕にしては、とか続けようとしなかった?
目を逸らさないで、フィノさん。
「なら、こうしましょう。そのためには皆さんの協力が必要です」
「むむ? どうするというのだ? どんなことでも協力してやるぞ」
「それはですね――」
さらに二日後。
話し合いの次の日は準備として『獣人祭の開催!』、『シロの本物現る!?』、『思いを賭けた決闘』の噂を流し、最終打ち合わせをした。
バルドゥルさんを筆頭に準備をする人達は乗り気で、両者を刺激しないよう決闘の審判や解説にも事情を説明して味方に引き入れた。
審判や解説が出来るのなら相手の力量を読めるからハクロウを怪しんでいたみたいで、僕が白狐の格好をしたら納得してくれた。
普通は分からない白狐の仮面とコートだけど、あれは獣人族が崇める神獣に準ずる幻獣の毛から作られた逸品で、僕でも違いが分かるのだから獣人族が分からないわけがなかった。
否応に僕が本物だとそれを見て判断した。
ちょっとだけ釈然としなかったけどね。
ハクロウにも伝言を頼んだ。
あっちは多分本物を知っていると思うから、『待ってるよ』とか『アスカさん、可愛いね』とか挑発する文句を伝えた。
ちょっとフィノに知られて、ね……笑顔が怖かったとだけ言っておく。
思い出しただけで……ぶるるる!
あと、夜中こっそりとハクロウの前でアスカさんと歩いてみたり、料理を作ってみたり、戦ってみたりした。
これはフィノは傍にいたからセーフ!
料理はフィノから僕が料理上手なのが伝わって、仲良くなったアスカさんがハクロウに手料理を食べさせたい、ということで指導した。
手合わせは僕の力量を確かめるのと、アスカさん自体も強い僕と一手ご指導してもらいたいとかあって、確認目的があったんだ。
アスカさんもハクロウの想いが確かめられるってノリノリで、逆にフィノの凄味が増して僕のライフがすり減ってた……。
ま、そんなことよりも、今は目の前の一大イベントだ。
『本日のメインイベント、本物はどっち!? 英雄対決だぁぁっ!』
『二年前、シュリアル王国に現れたSSランク冒険者『幻影の白狐』ことシロ。その実力は折り紙付きで、万を超える魔物の軍勢を相手取り、Sランクヘビーモス、SSランクヒュドラを撃破する腕前。聞けば王国に住まう雷電の悪魔の異名を持つ同ランク冒険者アリアリスの弟子と聞く』
人から聞くと誇張されたように聞こえるけど、実際本当なんだよね。
ヒュドラは皆で倒したんだけどさ。
今ならまだ何とかできるけど、当時は疲労が溜まってたし、一人じゃ再生に追いつけなかったと思う。
僕も順調に成長してるってことだ。
『皆さん落ち着いてください! 言いたいことは分かります! 分かるのですが……現れたものは仕方がない! 皆さんが争っても意味はなく、ここは最強の武を重んじる私達獣人族が納得する闘いで決着を見守ろうではないですか!』
『そうだな。戦闘馬鹿の多い獣人が一番理解しやすい方法だ。強い者に従う、それこそが至上であろう』
一触即発っぽかった観客達も怒りを収め、準備された闘技場の上で対峙する僕とハクロウに目を向けた。
僕は白狐の格好をして、ハクロウはいつもの狐の鎧……はて? どこかで見たことが……。
どこだったかなぁ?
「ちょっといいかな?」
「チッ……なんだよ」
「僕と一度会ったことがない?」
そう訊くと、ハクロウは目に見えて狼狽え、恐らく目を高速で彷徨わせ冷汗をかいていることだろう。
貴賓席に座るフィノに確認を取ってみるけど、可愛い眉を寄せて思い出せないでいるようだった。
でもそれは、僕と同じくどこかで見たことがあると言っている。
『どちらが本物なのか。それよりも祭りを、戦いを、両者の思いを見てほしい! 』
『獣王様も関わっておられる。この戦いは我ら獣人族だけでなく、シュリアル王国、強いては世界に関わって来るからだ』
『そう! これは偽者を暴き出すのではなく、勝者の言うことを聞き、我らが一致団結するためにある! というより! 獣人なら勝者に黙って従え! グチグチ文句を垂れ、人の後ろでこそこそする奴は獣人族じゃない!』
うわぁ……凄いな。
一見この場を盛り上げ、獣人族がこの戦いの結末に従うようにしてるけど、実際の所を知ってるとハクロウを挑発して、ばれても文句を言わないよう塞いでるように聞こえる。
こっちに笑顔を向けてくるから、そうなんだろうけど。
「ま、何処で会ってようがどっちでもいいや。もしそうなら偽者君は分かってるだろうし」
「ぐ……ああ、会ったことがある! お前のその姿、忘れるものかッ!」
やっぱりそうなのか。
でも、僕は何処で会ったのか覚えてないんだよね。
物理・魔法耐性のある白銀の鎧、暑そうなフル装備で頭に狐の耳っぽい物がある。
身の丈を超える大剣を持ち、鎧で分かり難いけど少なくともアル達よりは強い。
四人で戦えば勝てるだろうけどね。
「どうして僕の名を語ったのかな?」
「お前、俺のアスカとどんな関係だ! 変な回答しやがったらただじゃおかねえ!」
話、聞いてないよ。
でも、良い塩梅に整ってきた。
僕は挑発するように肩を竦め、アスカさんに軽く手を……振ったらフィノに睨まれたので、念話で弁解した。
いや、謝罪した。
「僕とアスカさんは見ての通りの関係だよ」
「き・さ・まぁぁッ!」
アスカさん、滅茶苦茶嬉しそうだ。
ハクロウにちょっと親近感を覚えたんだけど……何故?
僕はしっかり想いを伝えてるし、こんな馬鹿なことはしないんだけど。
「そんなに怒らないで」
「なっ……!?」
「自分でも偽者ってわかってるんでしょ? 後には引けないんだよね? 大切な物を手に入れる為に」
どう挑発したらいいのか分からないけど、こんな感じ?
僕の目的はハクロウを怒らせること。
それもただ怒らせるだけじゃない。
『おおっとぉ!? 対峙する二人から不穏な空気が!』
『どうやらこの戦いには雌雄を決するほかに何かあるようだ。お互いに顔見知りの様にも覗える』
「獣人は強い者に惹かれるんだったっけ? 僕になってどう思われるかな? アスカさん、悲しまないかな?」
「……」
「君は、方法を間違えた。だからアスカさんは……」
「黙れぇぇぇぇッ!」
あんまりこういう行為は好きじゃない……。
上手く出来ているようで一安心だけど。
じゃ、最後に一言。
「それが嫌だったら僕に挑め! 獣人族に証明しろ! 父親を納得させろ! 思いを叫べ! 奪われたくないのなら全力で抗え! それが最も認められる手段だ!」
徒手空拳で構え、濃密な魔力を拳に纏う。
青白い光が宿る物理系最強の拳……だと思う。
勿論この状態から魔法も放てる。
『会場の空気も温まり、両者の中央に激しい火花が散る! 観客の声が地響きとなり、私の声が聞こえません!』
『世界を見て回ると飛び出し、一年前に帰って来た現獣王バルドゥル様のご子息ハクロウ様。対峙するのは我こそが本物だと、王国からやって来たシロ殿』
名を語るだけはあるようで、怖気づかずにハクロウも大剣を構える。
近くにいた観客が息を呑み、歓声も熱狂も罵声も喧騒も、全て静まり引き込まれた。
『時間となりました! 勝敗に恨み無し、次期獣王候補と呼ばれるハクロウ様、対、王国からやって来たシロ殿の対決をここに宣言します! それでははじめッ!』




