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獣王バルドゥル

 獣人族の集落ビスティア。

 数多くの獣人族が生まれ、帰ってくる故郷だ。

 集まりと考えるとエルフ族もドワーフ族も村が点在しているけど、フェアルフローデンもドワーフの地下洞窟もビスティアも種族の場所となる。


 フェアルフローデンは植物のみで作った大自然の家で、地下洞窟は金属や酒を保存するのに適し、種族の特性や住みやすさに適している。


 ビスティアもそれは同じで、ガノンの様な陸地を歩く人族と変わらない種は普通に粘土と藁と煉瓦の家を、ヴァロムさんのような空を行く種は大きな木に木製の家を。小柄な種族や地中に住む種の小さな家や看板の立てられた穴も見える。

 恐らく、海岸へ行くと水棲の獣人族の家や住処が見れることだろう。


 広さは王国よりないけど、首都よりは大きい。

 これは集落と言えるのかな? 

 国であることに間違いはなく、人族とそもそも体系が違うんだ。


 森や海から得られる恩恵により活気があって、中央に行くと地面が綺麗に均され文明が覗えるようになってきた。

 よく考えれば閉鎖的じゃないんだから当然だね。

 それでも土なのは彼らの歩きやすさとかがあるんだろう。


 中央は市場みたいにもなっていて、多くの獣人達がこの場でのお金を使ってやり取りを行っている。

 見たこともない食べ物や道具が数多くあって興味を惹かれちゃうよ。


 大きな赤色のバナナっぽい果物、湖で育てるという水の野菜、森の奥で取れる巨大な蜂の蜂蜜や海で取れる珍しい魚介類、獣人達が縁を結んだ魔物や動物から貰ったものも数多くある。


 魔大陸でもいろいろな物を見たけど、ここでも知らない食べ物や食材がたくさんあるんだね。

 ぜひ食べて新作料理のアイデアが欲しいところだけど、まずは獣王のバルドゥルさん……様かな? に会うのが先だ。


 バルドゥル様がいるのは、この市場を真っ直ぐ行った少し盛り上がった丘の上。

 右に進めば海と森の湖が、左に進めば力試しの舞台と山があるそうだ。


 肝心のハクロウだけど、どっかで会ったことがある気がするんだよね。

 フィノも「ハクロウじゃないけど、似た名前を聞いたことがない?」って聞いてきたもん。

 僕だけならあれだけど、フィノが言うのなら間違いないね。


 フローリアさん達に聞いてみるも覚えていないらしく、偽者と言われても多く捕まえ関わってきたから一人を特定するのは難しいって。

 虎だけど僕達よりは鼻の良いガノンも、ハクロウの匂いを嗅げば誰かが気付くって言ってた。

 ってことは、僕とフィノはハクロウってバルドゥル様の息子に会ってないってことになるよね。


 だとしたら矛盾するんだよねぇ……。


 バルドゥル様の所に向かうまでの間いろいろな話を耳に挟んだ。

 内容は想像しやすい物で、僕としては許容範囲内だったよ。

 でも、フィノは綺麗な眉を顰めてね。


 僕の権威とかを鼻にかけるって言うのかな?

 前にも思ったけど、良く偽者でそこまで出来るよってレベル。

 悪いことをしているわけじゃないし、そのおかげでまとまりが出来るのならいいと思う。

 ばれたら大問題だから僕が思っている以上に事態は深刻なんだけどね。




 丘の上には一際大きな屋敷があって、そこが代々の獣王が住み、会議とかを行う場所みたい。

 獣人族は皆家族っていう意識があって、獣王になった者は先代と酒を飲み交し、初代の血筋を入れるんだってさ。

 初代の血は獣人一が引き継いで、最強の子供を作って、獣人族が衰えないようにする。

 奥さんもたくさん作って、子供もたくさん作るから、獣王は男でも女でも絶対に初代の血が受け継がれる。


「シュリアル王国よりフィノリア様、シュン様以下使者をお連れしました」

「うむ、御苦労」


 ヴァロムさん達はバルドゥル様に労われて、この場を辞した。


 バルドゥル様は狼の獣人じゃなくて、黒い体毛としなやかそうな筋肉が凄い豹の獣人だ。

 魔力は獣人達と変わらないけど、淀みない流れと落ち着きながらも感じる熱い圧力。

 その威圧感は一族の王である者に相応しく、重圧も凄く強いっていうのが伝わってくる。

 人族は国の王で強いとか関係ないからまた違うんだけど、魔王と似たような感じだ。


 僕達は作法に則って一礼し、床の上に直に座るバルドゥル様の前で腰を下ろす。

 座ることで対等っていう意味もあるけど、協力するんだからこちらは攻撃しませんよ、って意味もあるんだ。


「遠路遥々よく来てくれた。聞いていると思うが、見ての通り力の象徴な物でな」

「いえ、お気になさらず、こちらもまだ成人していない身です。それに、バルドゥル様から感じるお力は素晴らしい物かと」

「ふはは、そういうがフィノリア王女もかなりの実力者であろう? 隣のシュン殿は俺でも計り知れぬ」


 そう言って挑戦的な獰猛な笑みを向けて来る。

 てか、怖い。

 半分以上が豹で、見るからに肉食って感じでさ。

 ま、失礼だから思うだけにするけど。


 僕の内心は読めないだろうけど、大きく笑ったバルドゥル様はその笑みを消し、唸り顔を顰める。


「早速で悪いが、不逞の息子が迷惑をかける。いや、既にかけているか」


 怒ってるんじゃなくて、苦渋の顔だったんだね。

 ハクロウには怒ってるんだろうけど。


「すでに聞いているかと思うが、不逞の息子ハクロウは俺の言うことも聞かず、愚かなことに竜の威を借っておる」

「竜、ですか?」

「うむ。今直に見たからこそそう評せる。竜ぐらいなら簡単に屠れるであろうが、あ奴がやっておることはさらに達が悪くなる」


 僕が竜ね。


 上位竜と呼ばれる属性持ちの竜ぐらいなら倒せる。

 それ以上になると何千年って単位で生きるようになって、魔物や幻獣は長生きになるほど強くなるから竜って枠に入ってないんだ。

 でも策を弄すれば倒せるだろうし、何より体も大きいから一点集中で狙えばね。


 って、こんな話は置いておいて、今は僕の威を借る狼を懲らしめないとね。


「すでに場は整えてある。二人っきりになった時『本物が来るぞ』と囁いてやったからな! その時の様子ときたら……ふはは、笑いが込み上げるわ!」


 そんなことしてたんですか……。

 それならハクロウが本物じゃないってわかる。


「獣王様、子供のようなことをされては!」

「煩い、お前達ももう少し普通にすればよいのだ。所詮、俺は武の象徴なのだからな」

「それでは示しがつきませぬ! 獣王とは種族の頂点でもあるのですぞ!」


 なんとなくハクロウという人と同類な気がしてきた。

 馬鹿とは言わないけど、本能に従うとかそっち方面。


「どことなくシュン君に似てるね」

「え?」

「だって、武の象徴になる予定でしょ? それにシュン君戦っている時指導するのは良いけど、どこかおちょくっているようにも聞こえるよ」


 ……本当?

 首を傾げたら頷かれた。

 う~ん……フィノやる達にはそうじゃないと思うけど、喧嘩を売ってきた人にはそうかもしれない。

 獣魔族の狼男ことギュンターと決闘した時そんな感じだったのを薄らと覚えてる。


「おっと、放置してすまなかった。こいつはそちらで言う宰相となる、上役のカムラとカムロ兄弟だ」

『よろしくお願いします』


 上役って聞いていたからてっきり端の方に座っている老人かと思ったけど、二人ともそれなりに若い……獣人だからわかり難い。

 それに二人は象と亀の獣人で、どちらも人間と考えると長寿に分類されるんじゃないかな?


 因みに、カムラさんが象でそれなりに身体が大きくて筋肉質、鋭い牙が二本あるマンモスのような感じで、カムロさんは眠そうな感じだけどはっきりした感じで、甲羅を背負ったどっかで見たことがある仙人の若いバージョンみたいだ。

 二人とも老齢さがあるから見た目よりは歳を取っているんだろう。


「詳しいことは二人から聞いてくれ」

「バルドゥル様はまだまだ子供ですな」


 言われ慣れているようで、眉を軽く上げて目を閉じた。

 僕達は苦笑を浮かべ、紹介されたカムラさんとカムロさんの方に向く。


「ほとんどのことはヴァロムより伝えられているかと存じます」

「はい。僕としてもそちらの要求を断る理由はありません。ちょっとその偽者というのも気になるもので」

「そうでしょうな。本物からすれば怒って当然です」


 二人は腕を組んで、周りの人も同調するように頷く。

 でも、僕が言っているのはそうじゃなくて、言葉通りその偽者が気になるんだ。

 ハクロウ……ハクって部分がどこかで聞いた覚えがあるんだよね。

 聞けば白い狐っぽい装いとかいうじゃん。

 それに該当するような人物と相対した覚えが……。


「偽者はたくさんいたからね。そのおかげで私は本物に指導してもらえたんだけど」


 と、フィノは僕を偽るハクロウに憤りを感じているだけだったりする。

 たくさんいたから誰か分からないってのもあるんだろうけど、大部分は興味がないんだろうね。


「獣王様の仰るようにすでに場は整えてあります。シュン様の話をすると様子がおかしかったですな」

「獣人族は力を重んじ、強き者に従う習性があります。ですから、他人の威を借りるハクロウ様は大罪を犯しているのです」


 族長達も無言で頷く。


「ですが、なぜそのようなことを?」


 偽者をそこまでやるのかってことね。

 確かに疑問だ。


 すると、少し場が騒然となり、全員が腕を組んで目を瞑っていたバルドゥル様の顔色を窺うように見た。

 僕達もつられてそっちに視線が剥き、薄らと目を開けて小さな溜め息を吐いた。


「……うむ。良くある話、あ奴には俺が決めた許嫁がいる。獣人族の中では群を抜いた美貌の持ち主で、特に毛並みが柔らかく誰もが羨むほどだ」


 本当にどこかで聞くような話だ。

 と言われても僕にはよく分からない基準だし、ロロの毛並みも素晴らしい。

 本物の獣と比べたら失礼なのかもしれないけど。

 ロロも女の子だからね。


「許嫁の名はアスカ。小柄で力の無いリスの獣人なのだが、隠密力と速度、更に獣人には珍しく魔力もそこそこで、その特性を活かした幻術を使われると俺でも手を焼くほどの実力」


 肉食と草食が、とか思ったらいけないんだろうね。

 僕が「狼とリス?」って呟いたら、フィノに脇腹を突かれた。

 これがおちょくる悪い所なんだろうけど……フィノ? 笑うの我慢してない?


「獣人族の強さの基準は、いかに自分の特性を活かし相手を倒すか、これに限る」

「覗うに、御子息はアスカ様より……」

「うむ、はっきりと劣っておる。正面から戦えば確実に勝てるが、男なのだから相手の土俵で戦わねば駄目であろう?」


 それは僕だけでなく、フィノ達女性でもわかることだ。

 いや、戦う女性だからこそ分かるってやつだ。

 弱い男は駄目とかよく聞くし、女騎士ってそんな感じの人が多い。

 逆に男騎士は歯を食いしばって負けないよう努力する。

 良い関係だけど、恋愛面から見ると……ちょっとね。


「旅から帰ってきて少しはやるようになったようだが、それでも五分以下であろう。単細胞で馬鹿だから術中にすぐはまり負けるはずだ」


 ギュンターと一緒で魔力操作とか感知が苦手そうだもんね、狼って聞くとさ。

 アスカさんはリスの獣人っていうから危機察知能力も高いだろうし、相手が肉食となると更に魔法の精度が上がると思う。

 そこに幻術系統の魔法が合わさったら最強の組み合わせじゃん。


 僕だったら魔力を解放して幻術を解くし、フィノなら広域魔法、フローリアさん達ならそれぞれその方法を考えるようにしてある。

 対策がいる、僕が幻術を使うのを見てそう思ったらしいよ。


「ということは、良い所……いや、負けるわけにはいかないとか考えた結果? でも、それって愛想を尽かれる気がするけど……」

「うん、アスカ様が信じていたらばれた時が怖いと思うよ」


 選択を間違えたね。

 しっかり修行したら超えられたかもしれないのに。


「あ奴は本当に馬鹿なのだ。いくら強い奴に惹かれる習性があっても、俺達も人間であることに変わりない」

「アスカ様は御子息のことを愛されておられるのですね」

「うむ。分かっておったから許嫁にしたのだ」


 なんだろ、これ。

 僕とフィノの立場が逆だったらって感じ?

 うーん……確かに逆だったら情けないって思うかもしれない。

 フィノは護る存在だからね。

 勿論、信頼もしてるからフィノの望み通りにするよ。


「アスカ様は四代前の獣王様の子孫となります。父君はヴァロムの上司に当たる警備隊総隊長」

「身分云々はありませぬ。アスカ様ならハクロウ様の手綱を握られるであろうと考え、私達も賛成した次第です」

「しかし、ハクロウ様が思った以上にあれでして、まさかこのような馬鹿げたことをしでかすとは思いもよりませんでした」


 暗に馬鹿って言ったよね?


「それでも悪い奴ではないのだ。あ奴はあ奴なりに負けられない、相応しくなろうとした結果だ。その手段が最低でもな」


 バルドゥルさんは腕を解いて膝に置き、軽く頭を下げた。

 それだけハクロウのことを思ってるんだろうね。


「家族思いですね……」

「獣人族は仲間意識が強いからな。情があれば尚更だ。俺にも父親としての他に、獣王としての負い目もある」

「実力主義だからこそ比べてしまう、ですか」


 苦い顔で族長達も唸る。

 自分達もハクロウがこのような暴挙をしてしまった一端があると分かってたから止められないんだろう。

 名前は忘れたけどフィノの軟禁された兄姉もそんな感じだ。

 フィノの可愛さに嫉妬したり、権力が欲しく手とかでね。

 ひねくれちゃったんだ。


「恐らく、俺が説教をしても無駄だろう。俺達では逆に反発してしまいかねん」

「申し訳ないですが、恥を忍んでお願いします」

「どうか、ハクロウ様が正道に戻れるよう、現実を見せつけてほしいのです」


 全員が頭を下げるから、僕達は慌てて上げさせる。


 でも、それだけ仲間意識が強くて、ハクロウが悪い人じゃないのが分かる。

 ここまでやれば絶対反発する人が出るもん。

 そう考えたら何故か不思議に思うのは何故だろう?

 んー……今まで、毎回敵対している人がいた、から?


「分かりました。僕が出来ることなら喜んで協力します」

「それでこそシュン君だよ」

「やりすぎだけはしない様お願いします」


 注意されちゃったけど大丈夫だよ。

 周りに被害を出した時はない……はずだもん。


 元々断る気はなかったけど、僕の言葉を聞いてはっきりと笑顔が浮かぶ。

 多分この辺りはローレ義兄さん達は知っていたと思う。

 何となくだけどそう思うんだ。


「それでは、詳細を詰めましょう。普通に倒しても駄目だと思いますからね」

「そうだな。ハクロウは会場の準備をしているはずだから、アスカを呼んで打ち合わせをするとしよう」

「大衆にばれた後のことも考えないといけません」


 こうして僕達は数日後に開かれる祭りに参加することとなった。


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