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反省会と情報

 フィノ姉様達と別れて数日が経ちます。


 今頃王国を出発して、シュン兄様とイチャイチャラヴラヴしているのでしょう……ね!

 本当なら僕だって行きたかったです。

 でも、アルタに言われて僕は思ったんです。


 フィノ姉様に僕の進化を見て褒めてもらおう、とです!

 早速離れて後悔してますが……。


 この半年ほどずっとフィノ姉様と一緒でした。

 それなのにまた離れるというのは……何か心に来る痛みがあります。

 無事に帰ってきてください。

 そして、僕の進化を褒めてください。


 そうそう、ローレ兄様から周囲に気を付けておくよう言われていました。

 フィノ姉様達は狙われやすい反面、実力から狙われにくいとも考えられる不安定さです。

 今回は最速を誇るロロが馬車を引くらしく、襲われる確率も低いことでしょう。


 ですが、認めてはいますが僕は弱いですからね。

 本当なら王国で過ごし、シュン兄様の転移魔法で帰るというのが良いのだと思ってます。

 強くなるのならそれでもいいわけです。


 それでも仲良くなった皆と連携もしたいですし、城は居心地が良くありません。

 父様達も忙しそうに動いてます。

 なら、僕は先を見据えて少しでもシュン兄様の力になれるよう動くのです。

 フィノ姉様の為に動くのです!

 間違えただけですから、勘違いしないでください!



「さて、まずはお浚いから入ろうか」


 いつもの半分も生徒がいない学生食堂のテーブルに集まっています。

 パーティーのリーダーは僕なんですけど、参謀的な役目はアルタが買ってくれてます。

 僕は状況判断をしたり、大筋を決めていく感じで、断じてシュン兄様ではありません。


「パーティー全体だと連携の低さ、手段のバリエーション、一人一人の技能やお互いのことを知るのもまだまだだと言われたね」

「魔力や体力もだけど、地道にしていくしかないわね」

「そうですね。私は上級生のパーティーを見ていてカバーやフォロー、声を掛け合うといったのが見受けられました」

「俺は先輩達の胸が……ごほん! あー、見た目で分からなかっただろうが、制服を改造してるな。うん」


 だらけた表情で鼻を伸ばすレックスは、睨まれて怯えるのなら言わなければいいのに、と僕は常々思います。

 ですが、それがレックスらしく、二人の関係なんです。


「あんたは相変わらずね……!」

「まあまあ、レイアさん落ち着いてください。レックス君、服の改造というのは本当ですか?」

「ああ、間違いない。女性の服しか分からないが、俺の目に狂いはないはずだ」


 自信満々に胸を張っています。

 多分ですが、学年を通して制服は同じですから、そこの差異(女性限定)を感じ取ったのでしょうね。

 どんな能力ですか、と問いたいところですが、僕もフィノ姉様なら目を閉じていても分かる気がするので人のことは言いません。

 シュン兄様のことは……知りません!


「フィノ姉様達の制服はシュン兄様が魔法を籠めていたと思います」

「やっぱりそうなんだね。シュンさんならしてそうだし」


 皆もそう思うんですね。


「確か物理・魔法の軽減と魔力回復の上昇、低級魔法は弾いたりするはずです。僕の服も似たような感じだと聞いてます」


 見た目はほとんど変わってませんけど、裏地とかによく見れば魔法陣が描かれてたりします。

 シュン兄様は羨ましいことにフィノ姉様と夜な夜な魔方陣の研究をしているのです。

 きっとキャッキャウフフしてるんですよ!


 今もお互いにあんなことやこんなことを……!

 馬車が揺れてシュン兄様がフィノ姉様を押し倒したりなんて!?


「シル、大好きなことは分かってるから冷静になろうね」

「だ、だ誰もシュン兄様のことなんて!」

「はいはい、フィノリア様が好きなんだよね」


 ぐぬぬ~、アルタのくせに……。

 最近アルタが気安くなってきた気がします。

 悪くはないですけど、解せません。


 結局調べても特にないですしね。


「制服の改造については私達でやるのは難しいかと思います」

「してもらおうにもお金ないものね」

「シュンさんに頼むわけにもいかないし、制服を改造している人もそんなにいるわけじゃないでしょ?」


 アルタの言葉に全員頷きます。


「僕達がやるとしたら連携と掛け声と手段の三つです。トーナメントの最中何度か味方に攻撃しそうになったりしましたから」

「俺もシル君の案に賛成だよ」

「夏休みだし、少し遊ぶとかしてみるのもいいんじゃないか? 学院より外の方が女の子も多いだろうしな」


 本音八割ぐらいですか?


 レックスが言う通り遊ぶというのは良いかもしれません。

 冒険者ギルドで薬草摘みとかしてみるのもいいでしょうし、フィノ姉様達と行ったピクニックでもです。


「次は個人的な所。パーティーに壁役となる存在がいないから、俺とレックス君は前衛で敵を引き付ける手段がいるはずだよ」

「それ言われたな。何度か抜かれて大変だった」

「僕も支援が追いついていなかったと思います」


 その辺りの連携が必要です。


 アルタは速度を活かした死角からの攻撃で、レックスは敵を正面から相手して引き付けるって感じです。


 フィノ姉様のパーティーは強いですけど見本になりません。

 シュン兄様とフィノ姉様の力押しでどうにでもなりますから。

 見本にするならパーティーメンバーのアルさん達です。

 レックスはアルさん、アルタはレンさん、僕はフィノ姉様が良いですが……クラーラさんですか?


「シュンさんを除けばそうだろうね。シュンさんは万能タイプの防御は最大の攻撃とでも言うのかな?」

「一つの攻撃が防御にもなってるものね」

「強すぎる攻撃が、とも言えますが、普段は結界や魔法の相殺を行っている気がします」


 むぅ、確かにその点は僕が見習うところだと思います。

 高火力の無い僕はシュン兄様のように防御力を主体に頑張るしかないんです。

 攻撃に関してはアルタ達がいますし、リリは支援が得意ですから僕が防御に回れば丁度良いっていうのもあります。


「僕も結界魔法とかを覚えた方がいいかもしれないですね。攻撃は三人いますから、防御手段を増やし幅を広げましょう」

「レイアは火魔法と遠距離攻撃、シャルさんを目標にするといいかもね」

「それと弓を覚えようと思うのだけど、どう?」

「ゆみぃ~? 不器用なのに大丈夫なのか? 邪魔になりそうなのはついぐほっ!?」


 一言余計なんですよ。


「弓というのはいいかもです。最近はクロスボウとかありますし、少し出費が嵩むのが問題と言ったところですか?」

「そこは問題ありません。冒険者としての収入の方が多いですから」


 僕達はシュン兄様のように副業はしてないです。

 していると言えば休日に冒険者として依頼を受けるぐらいです。

 学園からも依頼が出ていて、それを達成すると食事引換券とかが貰えます。


「リリもクラーラさんにいろいろと教わるのが良いかもしれないです。平民だったはずですから聞き易いんじゃないですか?」

「回復魔法と支援魔法を教わりたいですね」


 リリがそっちを担当してくれるのなら僕は防御に回れます。

 しっかりと役割分担もしておかないといけないってことです。


「よっしゃ! 早速頼みに行ってみようぜ」


 レックスは拳を固めてやる気に満ちています。

 うずうずしてたんでしょうね。


「先輩達は学園にいたはずだよ。まだ外には出掛けてないはずだから急いで向かおう」

「あ、僕はちょっと用を足してから向かいます」

「じゃ、先に行ってるね」




「漏れます漏れます~……間に合った」


 学園のトイレもシュン兄様考案の綺麗な奴にしてほしいです。

 汚いとは言いませんけど、不衛生なのは確かですからね。


 手洗いは水魔法でどうにでもなりますけど、足した用はそのままです。

 臭いは魔道具で消していますが無臭というわけにはいきません。

 刺激臭と言いますか、鼻の奥にツーンとくる臭い。

 思わず顔が顰めっちゃいます。


「こんな時にパッと作れるシュン兄様が羨ま……こほん。もとい……」


 良い言葉は思いつきません……。


 一人になると思うことがあります。

 素直になれない自分とか、シュン兄様と仲良く……し、たいとかです。

 気を使ってくれているのは分かってますから余計に思うんです。


「結局、僕の独り相撲とでも言うんですかね……ぶるり」


 ちょっと違う気もしますが、シュン兄様とフィノ姉様がいる所を見るとムカッとするんです。

 もうちょっとで折り合いぐらいは付けられますけど、自分の心をどうにかするというのは難しいです。


「そもそも僕とフィノ姉様は半分血が繋がってますから、ね」


 そう考えるとシュン兄様は姉弟のやり取りを見ていて、フィノ姉様が取られると危ぶむ僕の独り相撲であってますね。

 だって、シュン兄様はフィノ姉様を独占しないことだけは確かですから。

 配偶者としては独占しても、家族という枠組みなら僕の扱いとフィノ姉様も変わりません。


「か、変わらないですよね? ……ふぅ~」


 あんな態度を取った僕でも……いえ、まずは自分の力でやるんです!

 シュン兄様達は自分の仕事に行ってますし、お手数をかけるわけにはいきません。

 もし何かあっても自分で切り抜ければフィノ姉様に……ぐふふ。


「あれらは一応身に着けておきましょう」

「何を身に着けておくのですかな? シリウリード様」


 うわっ!


「スティルですか……。驚かせないでください」


 出し終わっていてよかったです。


「それは申し訳ありません」

「いえ、僕もちょっと強く言い過ぎました。スティルも夏休みは学園に?」


 少し硬いですけど、スティルは笑みを浮かべて隣に来ます。

 どこか作りめいて見えるのは気のせいでしょうか。


 そう言えばスティルからアルタを注意しろって言われたんでしたっけ?

 ですけど、どうやってスティルはアルタが怪しいと決定づけたんです?


 確か……実力云々とアルタのことを聞かなかったという点でした。

 よく考えれば実力云々はシュン兄様程でなければ隠せますし、学園に入るまで冒険者としてもあまり活動していなかったとか。

 テレスタの出身といっても僕にはわかりません。

 王族ならまだしも、それほど家格の高くない伯爵の出みたいですからね。


「ええ、帝国と魔法大国の位置関係は王国より少し遠いので、帰ると時間が無くなってしまうのですよ」

「学園で鍛錬するんですね」

「はい。合宿で浮き彫りとなった欠点を克服しようかと思いましてな。兄君シュン殿を見て私も上を目指そうかと」


 シュン兄様はモテますね。

 強いと他者を惹き付けると聞きますが、異性じゃなかったですっけ?

 どっちにしてもシュン兄様は人を惹き付けます。

 騒動も一緒に惹き付けてますから、フィノ姉様に怪我をさせたら許しません。

 シュン兄様を怒れるのは頭の上がらないフィノ姉様除けば僕しかいないと思ってます。


「シリウリード様も夏休みは学園にお残りになるのですか?」

「はい、そうですよ。僕達もいろいろと思う所がありますから、先ほどまで話し合いをしていた所です」


 そう言うとスティルは少し考え始めました。

 この前みたいに一緒に、とかと思っているのでしょう。

 一つのパーティーでするより一緒にした方が戦ったりできますからね。


「……一つお願いがあるのですが?」

「一緒に、ですか?」

「気付かれてましたか……。ええ、お願いできますか?」


 僕としては拒否する理由はありません。

 アルタのこともありますし、監視と言いますか、見ておく分には一緒にいた方がいいです。


「私としても少々気になることがありますので、シリウリード様と一緒の方が何かと安心です」


 スティルは微笑みを浮かべそう言いました。


「アルタのことですか?」

「それもありますが、最近帝国内が騒がしいと報告がありましてな。帝国に限らず、不穏な動きがあると聞きます」


 表情は真剣そのもの。

 用を足しているという恰好を除けばですけど。


 不穏な動きというのはローレ兄様から聞いた邪神の集団の暗躍のことでしょう。

 シュン兄様が聞いた限りでは来年ということですから、その一年前にこちらに前哨戦を仕掛けてくるとほとんどの人の意見が一致してます。

 まだ会ったことないですけど、ポムポム魔王もその可能性が高いと言ってます。


「つかぬことをお聞きしますが、兄君のシュン殿はおられないのですか?」

「はい、所用で王国に帰っています。……ロロという召喚獣に乗れば数日ですからね」

「ほう、確かウルフ系の魔物だったと記憶していますが……一度見た限りでは納得です」


 あ、危なかったです。

 何もないとは思いますけど、シュン兄様が転移魔法を使えることはできる限り隠さないといけません。

 もうばれているようなものですけど、ほとんどの生徒は知らないはずです。

 アルさん達も知らないとフィノ姉様が言ってました。


「ご指導を、と思っていたのですが残念ですな」


 一瞬目が光った様な……気のせいでしょうね。


「代わりと言っては失礼ですけど、フィノ姉様のパーティーアルさん達と鍛錬できないか交渉に行くつもりです」

「なるほど、その手がありましたか。私も先輩方が残るというのは耳にしておりました」

「聞いてみないとわからないですけど」


 シュン兄様が何か言ってる気がしないこともありません。

 お人好しでお節介焼きですからね。

 頼んでなんていませんが、皆が、強くなれるのなら感謝しないこともないですよ?



 王族である僕が待っているのはおかしいのですけど、フィノ姉様達を見ていたらこれが普通な気がします。

 元々王族だからといって威張る方ではないですしね。


「そう言えばシリウリード様、ご存知でしょうか?」


 アルさん達がいつも集まっている場所に向かっている最中、スティルが唐突に何かを思い出したのか聞いてきました。


「何をです?」

「お耳に入れるべきか迷ったのですが、先日怪しい男がこの都市へ来たそうです」

「怪しい、男……ですか」


 まさか邪神の集団ですか?

 こっちに来るかもしれないという話は聞きましたけど、クロス陛下や学園長先生が監視している手はずのはずです。

 何かあれば連絡ぐらい来ると思うんですけど……。


「何分街をぶらついている時に冒険者の会話を聞いたものでして、詳しいことまでは分かっておりません」


 申し訳なさそうにするスティル。


「杞憂かもしれませんが、気を付けておいて損はないです」

「一人での行動は避けておくのが無難でしょう。よろしければ少し調べますが?」


 申し出は有難いですけど……難しいです。

 やっぱり自分で見るなりしないと信用ならないんです。


 シュン兄様は考え無しですけど、人に任せることはあまりしません。

 それは自分でやりたいのかもしれませんが、欠点や欠陥は自分でやった方が原因が分かりやすいですから。

 料理や魔法、武術以外の勉強でも同じです。


「元々一人で動くことは少ないですからね。トイレぐらいでしょう。調査についてはお願いします」

「分かりました。私は冒険者の方から調べてみます」

「助かります」


 僕も独自に調査をします。

 照らし合わせれば正しいのか信憑性が上がりますからね。


 一体その怪しい男の正体は何なのでしょうか。

 それとアルタの正体は考え過ぎなのでしょうか。

 フィノ姉様がいないとこれほどまでに心寂しく、一日がとても怖く感じます。

 王族としての危機感か、とても不安で小さい警報が頭の中で鳴っている気もします。


「フィノ姉様、どうかご無事で……。シュン兄様、怪我をさせたら恨みます。僕は切り抜けてみせます」


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