表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/145

邪神の手先と計画

少し調子が戻ってきました。

来週は間に合うかと思います。

少し以前言った地の文に意識を向けてみたのですが、何か拙い点があれば教えて下さると助かります。

 シュン達がビスティアへ向かう準備をしている最中のこと。

 出発前にシリウリードはシュンの転移魔法で魔法大国へ戻り、林間学校で教わったことを復習するためにアルタ達と集まっていた。

 主にフィノから言われたこと(シュンが言ったこともフィノに変換されている)を中心に、自分達が出来なかった弱点や欠点を見つけ克服を行う。



 それよりも少し前、林間学校が終わった頃、魔法大国に一人の男が姿を現した。


 その男の特徴は黒いローブを被りよく分からないが、覗く顔下半分には赤と黒の恐怖を体現する刺青が彫られていた。

 背には身の丈ほどの赤い大剣。

 がたいも良さそうで、見るからに冒険者と言うこともあり誰も不思議には思わなかった。

 いや、逆に注目を浴びなさ過ぎていた。


 夏の暑さでもローブに体勢を付ければ問題なく、素顔を見せたくない冒険者は見られないだけで結構いるのだ。

 シュンもそれに分類されているだろう。




「煉獄さん、こちらです」

「アルティスか、案内しろ。ついでに状況もだ」


 煉獄さん――名前については知らされていない、俺が所属する組織の幹部だ。

 名前など知らなくともどうでもいい。

 SSランクの冒険者で、ギルドでも消息が掴めていない狂気を孕んだ危険人物だと言われている。

 まさにその通りだと思っているが、味方ならこれほど頼もしい人はいない。

 少し自分勝手で乱暴な点は恐怖を覚えてしまうのは秘密だ。


 俺達は神から願いを叶える力を貰う代わりに、神が殺したいと思っている相手を殺す手伝いをしている。


 俺の願いは帝国と王国に復讐すること。

 家族が殺された、というのが始まりだが、今では全てが嫌になっているだけだ。

 切っ掛けはそうかもしれない。


 だが、力を貰い、一員として動いている内に家族が殺されたという理由はそれでしかないことに気付いた。

 俺は元々そういった壊したい衝動を持つ気質だったのかもしれない。


 国は掌を返したかのように危険な思想を持つという理由で粛清し、俺のような子供は再教育を受ける監視を付けられた。

 別に力こそが全てだとは言わない。

 それでももっとやり方はあったはずだ。


 始まりは王国の粛清だ。

 元々は帝国の貴族が手を出した、俺達の一部のせいでもある。

 だが、その余波は帝国の気質さえも変える結果となり、王国等の呼びかけに他国でも内部調査が起きた。


 俺が王国や帝国を恨んでいるのは理由づけだけでしかないのだろう。

 そうでなければ目的もなくやることになるからだ。

 家族が悪いことをしていたというのも知っているし、当時はそうでもなかったが落ち着いてみれば粛清されて当たり前だ。

 今の俺も捕まればその対象となるのだから。


 それでも俺の幸福や何かを壊したのは、それだけの根拠になる。

 やけっぱちと言われることもあるが、この世界がどうなろうが知ったこっちゃないってことだ。

 もう、全てを壊したい、そう思う。


 だから、神が殺したいという奴に興味があったし、それで王国や帝国に復讐できるのなら構わない。

 こんな世界……無くなっても良い。



「煉獄さんには申し訳ないのですが、標的は此処から離れるようです」


 人通りの少ない、各地に点在する息のかかった酒場へ向かい、俺は煉獄さんに頭を下げた。


 自分達が悪いことをしているという自覚がある者は半分程度だと俺は思う。

 それは俺のような復讐であったりするからだ。


 中には煉獄さんのように戦いたいからという理由の人もいれば、今の壊れている俺ですら近づきたくない狂気を放つ奴もいる。

 幹部の連中はこれが浄化だと口にする。


「ふん、想定内だから気にするな。どこに行くという?」


 少し放たれた威圧に冷汗が止まらない。


「そこまでは探りを入れられませんでした」

「チッ……」

「ですが、推測は出来ます。エルフ族、ドワーフ族と続き、魔族との渡りも付けたことから、次は獣人族辺りが妥当ではないかと」


 何度も苦心を飲まされた標的もそうだ。

 神の力で強くなった俺でも、その底を測れない幹部以上のクラス。


 煉獄さんはその名の通り憤怒や業火の塊で、恐怖を体現している。

 戦闘も剛毅の一言に尽き、全てを灰燼と化す火魔法と火に特化した肉体、背負っている大剣は高ランクの火竜から作った一品で、振った衝撃で爆発も起きる所を見たことがある。


 対して標的は近付いてもその凄さは分からず、その一端は魔法を使った一瞬でも感じ取り難いほど。

 一度手合わせをしてもらったが、実力の半分も出してくれていなかっただろう。

 聞いた話では剣ではなく魔法主体の、それも巧妙にコントロールされた技量だという。

 怒りによって放たれる魔法も要注意で、去年起きた帝国の第三皇子の話や魔闘技大会の件は肝を冷やしたそうだ。

 煉獄さんは魔族を撤退させた頃から注目しているそうだ。


 どちらが勝つか分からない、というのが本音だ。

 それほどまでに隔絶した差があり、SSランクというのは化物だ。


「てんで方向が逆じゃないか、クソが!」


 煉獄さんが拳を握り、炎の形を取った魔力が噴き出す。

 思わず俺は身構えてしまい、煉獄さんと視線が合い背筋が凍る。

 心臓を鷲掴みにされたかのようだ。


 煉獄さんは組織内でも恐れられ、気に食わない相手を殺したこともあるほど。

 俺がそうならないのは何故か気に入られていたりするからで、怖いがとても頼もしい兄貴分のような人だ。


 酒場のマスターは青い顔で縮こまっている。


「お、抑えてください! いくら隠蔽できるといっても限度があります! 感知に長けた標的がいなくとも、ここは魔法技術の生粋が集まる大国なんですから!」

「生意気言いやがって……まあ、良い」

「あ、ありがとう、ございます……」


 魔力と怒気を抑えても、その視線一つで子供ぐらい殺せそうだ。


「標的とはいずれ戦う。これは決定事項だ」


 打って変わった好戦的な燃えるような笑み。

 どうしてそこまで戦うことに興味を見出すのか俺にはわからない。

 だが、俺が嫌になって暴れたいような物に近いというのは分かっている。

 煉獄さんも過去にいろいろとあったらしいからだ。


 だからといって人の過去にそこまでの興味はない。


「ビスティアへ行くというのは想定外だったが、想定できる範囲でもあったわけだ。こちらに王子は残るのだろう?」


 醸し出ていたオーラを度数の高い酒と共に飲み込む。


「はい。林間学校で浮き彫りとなった点を克服するために学園に残るとか」

「ふん。それは王国が手薄になるからだろう。ここの方が安全ということだ」

「それは……どういうことですか?」


 騎士団が動くような事案があると?

 そのような話は誰からも聞いていない。


「王国は標的が動くのに合わせて騎士団を動かす。名目上各地への使者や遠征、俺達へ対抗する連携強化のためだ」

「裏では違うと? 俺達を誘っているというのでしょうか?」


 そうだとして手を出すような奴は……いるかもしれない。

 そもそもこの情報すら煉獄さんがどうやって手にしたのか分かっていない。

 煉獄さんがいた場所からここに来るのなら王国の近くを通る。

 だから、その時に気付いたとも思えるが……。


「俺が知ったのは偶々だ。王国はまだ以前の傷が癒えていない。そのような段階で騎士団が動くようなことがあれば噂の一つや二つ立つ」

「そういうことですか」

「裏では標的が動くカモフラージュでもあるのだろう」


 度数の強い酒をもう一度注ぎぐびっと飲む。

 酒に関しては良く知らないが、よく倒れないものだ。


「確かに標的の動きは目立ちます。その実力や行動から容易に手を出せませんが――」

「手が出せないだと?」

「いえ、容易に出せないだけです! 今回のことはカモフラージュよりもいつ出たのか分からせないようにする偽装と、手を出させて捕えることにあると思います!」


 言葉選びに失敗してはならない。

 疑似的な死を何度も受け、高鳴る心臓と冷汗を極力抑えて考える。


 ビスティアに行くルートはどうするのか分からない今の段階では、確実にあちらの方が有利なのは間違いない。

 加えて騎士団の目を惹く移動に合わせて出てしまえば、こちらの一瞬の遅れやラグが生まれる。

 その一瞬を利用した速度で向かう筈だ。


 今までの傾向から恐らく動くのは標的と王女、加えて複数の精鋭部隊。

 姿も偽っていることだろう。

 今回は距離もあることながら速度移動ということで通常の馬車とは思えない。


 それなのにこうも情報が出ているということは捕まえる気があるということ。

 こういった駆引きでは全てを秘匿する、若しくは偽の情報を出して裏をかくのがセオリー。

 どちらにしろこちらを欺き、こちらはそれを看破するのが当たり前。


 しかし、それはお互いの力が拮抗している、これが大前提だ。

 煉獄さんを信用していないわけではないが、標的の実力は神が殺そうとして失敗していることからも明らか。

 実力が知れ渡っているのなら態と本当の情報を開示し、その場で対応させた方が必ずいい結果に繋がる。


 標的は考え無しで動くが、学園でしでかしたことはこちらに二の足を踏ませる原因となっていた。


「相手が既に王国付近にいるという情報があります」

「ああ、神出鬼没だからな」

「やはり、それは転移である可能性が高いです」


 このことは以前から言われ続けている事柄で、そうでなければ辻褄が合わないこともある。

 最もそう思えるのが、魔族との話し合いを冬休みの数週間で片付けたことだ。

 魔大陸とはほぼ真反対にあり、標的達ならまだ飛んで行けるだろうが騎士達はそうもいかない。

 ダークエルフ族の前族長ディルトレイが空間魔法の使い手と聞くが、こちらへ味方するダークエルフ族からはそのような話聞いていない。

 そもそも初対面だったはず。


「やはり転移魔法……加護を持つのは確定ですからそれ以上の可能性もあります」

「加護持ちか……相手にとって不足はない」


 滲み出る闘志や闘気という奴に肌がピリピリとする。

 思わず身体がブルリと震え、俺までどこかうずうずとする闘争心が掻き立てられてしまう。


「それを踏まえ、今回転移で向かわないところを見ると確実に誘っていることが言えます」

「それが何だという? 結局俺は無駄足を運んだということだ」


 戦闘方面には回転が速い煉獄さんだが、やる気を失くしたことにはとことん興味がなくなる。

 そこを支えるのが俺の役目でもあるわけだが。


「いえ、決して無駄足ではありません。それも上手くやれば標的と戦うことが出来、更に王国に打撃を与えられます」

「ほう……話してみろ」


 酒を飲み干し、怪しく光る赤い瞳をギラリと向けて来る。

 口の中が急激に乾き、喉が自然と鳴った。


「え、ええ。この後工作が必要ですが、ある程度形は出来ているので大丈夫かと思います。まだ表面的ですがこんな感じです」


 どちらにせよ、標的がいなくなるというのは好都合だ。

 煉獄さんには悪いが、少しの間我慢してもらう。

 だが、上手く事を運べば煉獄さんが求めた本気の標的と戦えるはずだ。


 煉獄さんの異名は善悪関係なく死という裁きを与えるところからついている。

 俺としては煉獄より悪鬼とかその方面のような気もする。


「上手くいけば標的と見えることができる……そういうことだな?」


 獰猛な笑みを浮かべ、神が殺せと命令しようとも自分の意志で戦いの赴く意思が見えた。


「はい。それまでは大人しくしていてください。標的の魔力感知は相当なものです。差し出がましいですが、美味しい相手はとっておいてください」

「ふん、いいだろう。だが、絶対にうまくやれよ?」

「わかっています」


 そこで一旦煉獄さんと別れ、標的が学園を離れるまで慎重に事を運ぶこととなった。




 それから数日後終業式が行われた。


 流石に煉獄さんのような大物が街へ入るとそれなりに警備がきつくなってしまう。

 顔は知られていなくとも、知っている者は結構いる。

 特に魔法大国の魔法王や学園の長は知っていると思った方がいい。


 そこをどうにか調整し、作戦通り事を運んでいくのが俺の仕事だ。


 煉獄さんは標的と戦う。

 俺は王国や帝国に一矢報いるために囮となる王子――シリウリードを狙う。



 そして、標的が王国に現れたという情報を聞き、計画がスタートした。

 その際標的に対して何かすることを小耳にはさんだが、恐らくあちらは俺が思っているように完膚なきまでに倒されるだろう。

 ビスティアの工作員も動くだろうが、標的の魔力を少しでも削ってくれることを願おう。


煉獄と安易に名を付けたわけではないのですが、想定していたキャラのイメージと違っていました。

まだ、煉獄は戦っていないので普通に修正できましたけどね。

煉獄というのは灼熱というか、地獄や炎関係かと思っていたのですけど、調べてみれば死者の魂が浄化される世界のことを言うのですね。

よって煉獄のイメージは善悪関係のない、ただ単に破壊をする、という定番のキャラになるかと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ