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獣人族

サブタイトルを思い付きませんでした。

それと短いです。

少しシュンサイドが続き、シリウリードサイドになる予定です。

 二度目の夏休み。


 今年の夏休みは一旦王国へ帰るものの、僕とフィノは獣人の集落へ向かうことになっている。

 シリウリード君も帰るけど、すぐに学園へ戻るみたい。

 僕達の見送りが目的で、学園で訓練するんだって。


 まあ、僕がいないと距離を考えれば夏休みに帰えっても時間はほとんどないし、出された宿題を片付けるのならパーティーの連携の為にも残った方がいい。

 一部の食堂は開くし、生徒も教師も結構残ってるから、お金や道具は置いて行くつもりだ。


 シリウリード君が一人になるからね。

 得た情報によれば何かしらの動きがあるみたいで、対策を練っておくことにしたんだ。

 それでも絶対じゃないから安心はできないけど。



 それと獣人族の情報と噂を実際に聞いてみると、確かにシロに対してのものがあるみたいだ。

 大体一年とちょっと前だから、僕達が入学する頃、若しくはその前と言うのが始まりだね。


 噂自体はそこまで悪質なものじゃない。

 シロを悪く言うようなものじゃないし、あれから二年が経ってシロが表に出てこないから眉唾的なものにもなってきた。

 悪く言うのは本物が出てこないからで、僕としてはどうでもいいと感じるんだけどね。


 ただ、王国では助けられた人が多くいるわけで、義父さん達は知ってるからそんな噂したら白い目で見られるって。

 そもそもシロを貶したら僕を貶すのと同じだから、フィノが黙ってないと思う。


 ま、それが広がれば問題だけどさ。

 それが広まってるわけじゃなく、噂からはまた偽者のようなのが出てきたみたい、なニュアンスなんだよね、これが。


 もう笑うというか、まだいたの? って感じ。

 『幻影の白狐』って呼ばれてるから獣人になるのは分かるけどさ。

 偽者に対しても一度処罰しないことを決めたから、今更何か言うわけにもいかないしね。


 ただ、本物が魔闘技大会に出たから、それを見ていた人は本物かは置いておき背恰好で分かると思うんだよね。

 確かに『白尾の狐』の仮面付きコートには隠蔽効果があるけど、そこまではいかなかったと思う。

 それにランクアップ試験の時のメンバーは気付いてるだろうしね。


 久しぶりに会いたくなってきた。

 皆今頃迷宮都市かな?

 目標はそんなこととか言っていた気がするし。




「さて、今回の獣人族との話し合いだが、まずはメンバーから話すとしよう」


 ローレ義兄さんから面と向かって言われると、これが大事なことなんだってわかる。

 その通りなんだけど、獣人族とは仲が悪いわけじゃないからね。

 魔族との話し合いが終わった今、今まで付き合いがあった獣人族と仲良く出来ない理由はないって思えるんだ。


 ま、それが原因になる可能性もあるけどさ。


「シュンとフィノ、それから今回はフローリアとその部下が行くことになっている」

「今回もよろしくお願いします」

「フローリアさんが一緒なんですか。久しぶりですね」

「大陸内だからな。部下も帝国の時と同じ案内のガノンを含めた騎士十名ほどだ」

「お兄様、少なくてもいいのですか?」


 確かに少ないのだと思うけど、いつもこんな人数じゃなかったっけ?


「フィノの言う通りだが、そこまで大きくすると企む者が出る」

「企む者っていうのは、これを妨害するという人達ですか?」

「そうだ」


 世界の危機だっていうのにそんなことを企む人がいるんだ。

 まあ、前世でもいろんな人がいたからそうだし、危機が分かってるのは実際に手が入った王国や帝国だけだからね。


 二つ返事で参加してくれた魔法大国のクロスさんがあれなだけだ。

 うん。


「一番可能性が高いのは黒幕である邪神の集団。あれから二年経っているからな。実際手を出してくるのが来年の終わりだとしても何かしらの工作はしてくるはずだ」

「こちらの情報も得ているかもしれないから、少数精鋭で獣人族の集落に入るということですね?」

「僕の転移じゃだめですか?」


 魔大陸へ行った時みたいに空から獣人族の集落付近へ行って、その後帰って集団転移すれば簡単なんだけど。


「そうしたいが、今回は手を出してくるのか確かめる、という意味もある。少し危ないが、カモフラージュでいくつかのルートに分けて出すつもりだ」

「それでこっちは早く移動できるように少数精鋭なのですね」

「二人には危ないことをさせるが、もし何かあれば倒そうとせず帰ってきても構わない。シュンがやられるとは思えないが、相手は神だからな」

「何をしでかすか分からない、ってことですね」


 ないとは思うけど、即死攻撃とか有り得そうだもんね。

 本当にないと思うけどさ。


「別動隊は遠征を兼ねて行うから安心しろ。同時に他国との合同訓練をしたり、人を招いて技術の話し合いもする」

「そういう理由なら構いません」

「私も構わないです」


 久しぶりに旅に出れるってことでもある。

 ほぼ一年だからね。

 二人で旅ってのは、今の所難しいから無理だけどさ。


「他に妨害するのは未だにフィノの婚約者の座を狙う不届き者、帝国との関係を悪化させようと企む者、後は信じられない者もいよう」

「お兄様が公国の姫と婚約したのも一つの理由ですよね?」

「は? あ、や、まあ、そうだが……」


 そうだったのか。

 聞いた話ではお互いに好き合ってとかだったけど、政略結婚というんだっけ?

 情報も仲良く見せる為のブラフ的な?


「シュン君、勘違いしているようだけど、お兄様とお姫様――シルヴィア――は噂通りの関係だよ」

「ど、どうしてお前が知っている!?」

「どうしてって、お母様から聞いたり、偶に手紙が来るからです。お兄様のことを聞くのなら私に聞くのが一番ですし、学園経由なら怪しまれません」

「た、確かにそうだが……」


 よく分からないけど、僕の知らない間に姫様と仲良くなってたと。

 いや、元々交友はあったのかも。

 長い様で僕とフィノはやっと二年経つんだからね。

 フィノについて知らないことがあってもおかしくない。


 いつも一緒にいるようでいないときもあるし、手紙は基本ツェルが持っていく。

 女子寮に届けば僕もフォロンもわからないし、一々僕に報告することでもないしね。

 お姫様に会ったことないし、一応未来の義姉さんになるんだけど。


 断じて妬いてるとか……じゃないと思う。


「はぁ~……公国は信じ切っていないところがあったからな。どうせなら、と思っていなかったとは言わない。だから、政略であり恋愛でもある」

「僕からは何もないですよ。フィノ以外と結婚したくないという我儘も聞いてもらってますし」

「ありがとう、シュン君」

「ったく、そうなんだぞ? 実力・財力・人柄や性格・実績・魔道具等もお前が関わっているのを貴族は知っているからな。断っているが婚約話は減らないんだぞ」


 それは申し訳ないです。

 でも、複数の人と結婚して愛を育むってのはね。

 僕にとってはフィノが第一で、それ以外と言われてもフィノに申し訳なくて無理。


「話を戻すが、メンバーは帝国の時とほぼ同じだ。こちらから訪問する旨の書状を渡し、諾の返事を貰っているからそこの心配はいらない」

「集落の場所は分かってるんですね」

「ああ、エルフ族同様に密かに暮らしているようだ。しかし、種族柄森、海、荒野と適した環境がいるようで、少し王国からは遠い場所にある」

「場所はこちらの地図を。赤丸がしてある場所が獣人族の集落、いえ、纏め役獣王が住んでいる場所とのことです」


 赤丸があるのは今まで行ったことのない方面だ。

 他の場所もあるけど、色が違うし他の獣人族が住んでるのかも。


 場所もそれなりに魔物が多くいるみたいだから、それが密かに暮らせる理由なんだろう。

 で、噂が変に捻じれている様なのもそのせいかも。


「噂の真偽は実際にシュンが確かめてくれ。こちらで何かするより、本物であるシロが判断した方がいいと思った」

「何も起きてないということは、獣王は騒いでいないということですよね? お兄様はそれをどう考えているのですか?」


 あ、そうなるのか。

 僕は変に利用するのなら、ばらしてあの時みたいにとっちめるしかないと考えてた。

 ちょっと野蛮だね。


「……俺は気付いているのではないかと思っている」

「やっぱり……。二年経って何もないのなら行動していると思ったのですが」

「俺もそう思った。獣人族はエルフ族のように閉鎖的な種族ではない。それで噂がこの域ならその可能性が高い」

「それで、僕はどうするのが一番なのですか?」


 事実を教えるのか、噂をなくすのか、獣王に伺うのか、話し合いに務めるのか。

 そこを教えてくれないと失敗しそうだ。


「好きなようにして構わない。そろそろシュンがシロであると知らしめる頃だからな。とはいっても時期はあるから口止めはしておくように」

「では、獣王に先に話し、噂のことを判断してから決めていきます」

「ああ、その点はフィノやフローリアと相談すると良い。そのための付き添いだ」


 とりあえず、僕は今まで通り注意しながら獣人族の集落まで行けばいいってことだね。


「獣王とはやり取りで協力すること自体は取り付けてある。お前達の役目は正式な協力の締結と、噂の真偽、帰りに数人の獣人を連れてくることになるだろう」

「ここで話し合いをするためですか?」

「ああ、獣人族が終われば後は聖国だけとなる。お前達の時間しだいで第一回全種族会議がここで開かれる」


 おほう、かなり重大だ。

 多分その会議に僕も出席するんだろう。

 魔族との仲介とか、聖国に関してとかね。


「聖国はシュンの言った通り神託が降り、少しいざこざが起きているようだ。シュンが多くお布施しているおかげか世界教が力を持ち、その教皇が会いに来るとのことだ」

「教皇が来るのですか? それと僕のお布施がそんなことに……」

「言い方は悪いが、宗教も金がないとどうしようもないからな。大体お前は訪れる度に莫大なお布施をしているだろ?」


 いくらか忘れたけど、大金貨を数枚渡した気もする。

 だって今でもお金は増えてるからね。

 一千万円を渡しても、痛くない。


 少し金銭感覚が……。


「それにシュンの加護のことや神託の影響で世界教の力が優った」

「私のことも知っていると思うよ。婚約話もあったんだから」

「本当!?」


 何が何なのか分からないけど、フィノは絶対渡さない。

 僕のフィノ、フィノの僕なんだから!


「これは極秘情報だが、聖国は既に邪神の手が入っているかもしれない。入っていない方がおかしい気がするのもおかしな話だが」

「そ、それは……! でも、一番あり得そう、かも」


 よく考えればそうだ。

 邪神と名乗らなければ神は神と認識されるかも。

 それに光の神はいないって言ってた。


「何時から手が入っているのか知らない。それが本当かもわからない。今までのことを考えれば分からなくて当然と言える」

「分かれば王国も帝国もこんなことにはなってないと思う」

「そうだね」


 そうなると、相手の勢力が増えているって考えるべきだね。

 ただ、一つの宗教が敵に回るとどれくらいの規模になるか想像もつかない。

 会議をする前にメディさん達と連絡を取ってみた方がいいな。


「まあ、そっちの話はまだ確定じゃないからこっちで処理する。何かあれば頼むぞ、フィノ、シュン」

「「はい、任せてください」」




 出発は三日後の朝早く。

 冒険者の格好で馬車に乗り、少し遠回りになるけど迷宮都市バラクを通りながら向かう。

 実際バラクに行くわけじゃなく、バラク方面にはソドムがあって、そのさらに奥へ進むと目的地があるからだ。


 だから久しぶりにソドムに行くことになる。

 バラクに行くのならソドムは通らないけど、尾行されていたらそこで撒く計画だ。


「今回はシリウリード君の護衛としてついていてほしい」

「よろしいのですか?」

「うん、こっちの戦力はしっかりしてるし、転移があるからね。でも、シリウリード君は手薄になっちゃうから」


 フォロンとツェルには護ってやってほしい。

 何が起きるか分からないし、僕達だけじゃなくシリウリード君も狙われる。

 僕達が傍からいなくなるからそれを狙って来るかもしれない。


「二人にも通信機と防御用の魔道具を渡しておく。ある程度なら護れると思うけど、ちょっと詰め込み過ぎて衝撃があると壊れるかもしれない」


 素材は良いから魔道具自体の衝撃は大丈夫なはず。

 でも、防御用の結界が出た時どこまで耐えられるか分からない。

 対邪神戦ように作っているものだからね。

 まだまだ実用的じゃないんだ。


「お世話はシルの従者達がするからいいけど、ツェル達には陰から護衛してほしいの」

「さっきもローレ義兄さんから聞いたけど、そろそろ手を出してきてもおかしくないからね。二人なら安心して護衛を頼めるんだ」

「「勿体ないお言葉です」」


 やっぱり慣れないね、恭しくされるのは。

 年齢差もあるから普通に接してほしいというのは、貴族になった時点で傲慢なことなんだろう。

 ま、アル達がいるから文句を言ったらだめだね。


「フォロンは索敵、ツェルが影で護衛ってところかな」

「そうだね。二人で行って罠にはまったら連絡も取れないもん」

「迷宮にも似たような罠がたくさんあったからね。その魔道具はそれを想定して作った物だから、想定外なことが起きない限り大丈夫なはずだよ」

「命に代えてでもお守りします」


 いや、二人の命も大切だからね。

 出来れば僕が気付くまで持ちこたえてほしい。


 襲撃が無いに越したことはないけど、こうも皆何か予防をしていると来ると思っちゃうんだよね。

 どこか不安があって、フィノもとても心配している。

 早く済ませて学園に帰ろう。


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