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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第15章【Memorial party】葬礼饗宴
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5 静かなる電信符号

「————っ!」

 ショーンは目を覚まし、仰向けで倒れていることに気づいた。

 空は青々と冴え渡り、地面は黄土と茶土が混ざったような色をしている。風が吹き、頰に髪が当たる。すぐ右横を向くと、遠くでクラウディオが仁王立ちで立っていた。視線の先は、あの仮面の男だろうか。反対側を向くと、ペーター刑事が近くにうつ伏せに倒れて、こちらを見ていた。


「はあっ、ハア……ッ」

 どうもあれから、状況は全く変わってないようだ。ショーンの眼球は相変わらずグルグル廻っていて、体中の細胞が循環し、再生産している感じがする。本来、失神呪文は1日近く効果があるはずだが、葉っぱを齧った影響からか、すぐ復活できたようだ。

「……………ショー……さん……っす」

 ペーターが、微かな小声で名前を呼んだ。長い耳が地面にペタリと付いて、目元は心配げに俯いている。ショーンはすぐにでも大声で返そうとしたが、ハッとなって口をつぐんだ。仮面の男に気づかれちゃまずい。まだ失神している事にしなければ。



〔聞こえるか?……ペーター〕

 ショーンは口を限りなく動かさず、ものすごく小さな声で音を発した。ペーター刑事は、ぱちぱちと瞳を閉じて目配せをした。さすがウサギだ。感度が違う。

〔……音を立てず、話すぞ……あっちに聞こえないように〕

 仮面の男が、ウサギ並みの聴力を持たぬことを祈りながら、ペーターに細い音波のような小声を送った。彼は瞳をパチパチさせ……変な間隔でしばたいている。妙に瞼を閉じる時間が長い……これは。

〔ま、待って、そうか電信符号か。最初からもう一度頼む……〕

 電信符号。長音と短音を組み合わせて文章を送る。警察はこの符号をさらに複雑に暗号化して使っているが、ショーンは日常的に使われる最もベタなものしか知らない。幸い、ペーターが送ってきたのは、ショーンでも理解できる一般的な符号だった。


〔は、い〕

 しぱしぱと瞳が瞬く。森の囁きのような会話がスタートした。

〔は、っ、ぱ、あ、り、ま、す、か〕

〔葉っぱ? 僕が齧ったやつか?〕

〔は、い〕

〔待って、気を失う前に握りしめてて……あった、落ちてた〕

 幸い、手の届く範囲に落ちていた。ショーンはそろそろと左手を伸ばし、自分の歯型がついた葉っぱの柄を中指と薬指でそっとつまみ、またそろそろと腕を戻した。クラウディオの方に視線を移すと、戦況は変わらず、ジリジリとした緊張感が漂っている。



〔取ったぞ。これでどうするつもりだ〕

〔ジブンもそれ齧って、ここから抜けます〕

〔えっ、待ってくれ、相手は魔術師だ。どうやって戦うつもりだ?〕

〔分からないっす。少しでもおふたりの囮になれれば……〕

〔だめだよ!〕

 ショーンの呼吸が速まった。

 囮なんて……。ペーターのような警官にとっては、自分の命より任務を全うするのが大事なのかもしれない。けれど、ショーンはもう任務が失敗し、ユビキタスが連れ去られても良いとすら思っていた。

 いま現在、5人の警官と2人のアルバが磁力に囚われ、遠くで警官1人と紅葉が失神している。もし、磁力と失神をショーンが呪文で解いたとして、束になってアイツに飛びかかったとしても──果たして敵う相手だろうか。


(敵う……そんなの叶うか……?)


 スーアルバ並みのマナの持ち主なのは明らかだ。この場はいったんやり過ごし、州警察やアルバ統括長と相談して、ヤツが誰なのか突き止めてから、大規模な作戦を練るなりしないと。今この部隊で戦うなんてとても無理だ。みんなの命が無事なうちに、速やかにユビキタスを連れて何処かに立ち去ってくれたら……!

 ショーンはギュッと目をつぶり、ペーターの顔から背を背けた。

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