1 葬礼饗宴 (メモリアル・パーティー)
【Memorial party】葬礼饗宴
[意味]
・追悼会、慰霊祭、(仏教における)供養
・ルドモンドにおける葬儀形式のひとつ。
[補足]
「Memorial」は「記念、思い出」を表す形容詞であり、「死者の追悼、形見」をも意味する。ラテン語「memoria (記憶)」に由来する。「party」は、すなわちパーティーである。
葬式。
それはもっとも原始的で、人類が脈々と受け継いでいる式典のひとつだ。
ルドモンド大陸にも、もちろん葬式がある。州や地区、民族、家系、宗教により大きく形態が異なっているが、ラヴァ州サウザスでは家や民族に関わらず、同一の形で葬儀を行う。【葬礼饗宴】、あるいは【最期の茶会】とも言われる形式である。
【葬礼饗宴】とは、故人が家族とともに行う最後の宴会である。宴会をした後、火の神様の加護による火葬を受け、骨箱に納められ墓地に埋葬される。
遺族はまず故人に白いおくるみを着せ、化粧を施し、パーティー会場へ移動させる。会場は、家の広間や庭先、公園、寄合所などなど。故人が信仰していた神の祭壇をこしらえ、捧げ物をし、近しい親族や友人らと食事会を行う。食事内容は、故人の好物、神の好物、家庭料理や郷土料理だ。酒やお茶も惜しみなく自由に振るまわれる。
そして皆で【最期の茶会】を終えたあと、遺体を棺馬車に乗せて火葬場へ運ぶ。サウザスでは、鍛治・製鉄を司る《火の神ルーマ・リー・クレア》を信奉神としているため、葬式はすべて火葬で行われる。北区の東端に神官の住まう火葬場があり、サウザスの民は——身寄りのない者や旅人も——ここで等しく世話になる。
火葬は、まず家族が故人へ葉冠と花束を手渡し、まんべんなく聖油を振りかける。家族がいない場合は神官が代わりに行う。そして祈りを捧げられながら、ルーマ・リー・クレアの炎に包まれ、焼かれていく。数時間後、美しい骨と灰になった遺体は、埋葬用の箱に納められ、祭壇場へ迎うのだ。
祭壇場とは、共同墓地の入り口にある木製の屋外舞台である。屋根つきで雨天時も安心だ。(ただし、政治家や俳優などの有名人は、もっと豪勢な場所で大々的に行われる事もある)サウザスの共同墓地は、区ごとに分かれており、北区は火葬場のすぐ傍に、西区は南西端に、東区は貧民街の隣の南東にある。由緒正しい家系は別所に墓があるパターンもあるが、ほとんどの住民はこの共同墓地へ眠りにつく。民族や家系ごとに細かく区分され、身元不明者用の墓もある。
いよいよ墓地内の祭壇場にたどり着いたら、最後の葬儀──埋葬の儀を執り行う。埋葬は、まず神官による祈りの詞から始まっていく。参列者は、故人の思い出や心のうちを語りあい、ひと通りスピーチが終わると皆で別れの歌をうたう。最後に、生と死を司る《光の神デズ》と、闇と願望を司る《夜の神モルグ》へ、故人の魂を見守りくださるよう祈りを捧げ、遺骨を墓へ埋葬する。
葬儀は1日で終わることもあれば、数日かけて行われることもある。災害が起きたときは共同葬儀を行ったり、伝染病の時はすぐさま火葬し、茶会やお祈りは後で行うこともある。遥か昔にサウザス勃興の父、ブライアン・ハリーハウゼンが亡くなった際は、1ヶ月も葬儀が行われたが、これは例外中の例外だろう。彼の墓は、西区の公営庭園に眠っている。
今日は3月10日、風曜日。東区貧民街の一角で、元新聞記者の老婆、ジーン・フェルジナンドの葬儀がしめやかに行われようとしていた。




