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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第13章【Wall lock】ウォール・ロック
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5 北と南が一度出会えば二度と離れることはない。

 いつしか、一同はジーンマイセの丘を降りていた。

 コンベイとグラニテの間に立つ、標識の傍を通りすぎる。

 グラニテの標識がオリーブグリーン、コンベイの標識はクリームイエロー色だ。

 ここからいよいよラヴァ州の中央地帯・コンベイ地区に入っていく。


 ショーンが唇を真一文に閉じ、レモン水でモグモグと口をゆすぐ間、ペーターは右耳をひくひくと動かし、警護官の件でブツブツ考え事をしていた。

 突然、《ビッビーッ》と、オールディスから無線が入り、クレイト市警が予定通り、こちらへ向かっていると伝えてきた。

 このまま順調にいけば、コンベイ町の手前で、両者が落ち合える。

「……まあ、警護官については引き渡し後、サウザスへ戻ってブーリン警部に相談するっす」

「このままUターンして帰るのか?」

「ええ。ジブンたちはこのギャリバーで帰りますけど、ショーンさんはコンベイから鉄道で帰るっすか?」

「えっ……そうだな、列車で帰りたいけど、あ、そういや紅葉……っ」

 紅葉は真後ろから追いかけていた。まっすぐな瞳で、小さな黄色いギャリバーに乗って。眉ひとつ動かさず、ピンと背筋を伸ばし、黒髪をなびかせて追っている。

「問題ないっス。列車にギャリバーも載せられますよ。コンベイで護衛もつけるっす。ちゃんと、おふたりで帰れますよ」

「……うん」


 ラヴァ州では珍しく黄土色をしたコンベイの大地は、伝統的に風が強く吹いている。強風のせいで、そこかしこの岩土に流紋が刻まれているほどだ。おかげで吹きっさらしのギャリバー内にも、ビュービューと風や砂埃が吹き込んでくる。

「…………ウ、ゲッホごほ!」

 紅葉を見るため後ろを向いたショーンも、砂粒が思いきり口に入ってしまった。

 慌ててペーター刑事に脇に寄せてもらい、レモン水で漱いで吐いた。

「ゲホっ……はー」

 水筒を鞄にしまい、改めて唇を拭った。

 鬱蒼としたルクウィドの森が、手に届きそうなほど街道と近い。

 曲がりうねった木の枝々が、上空に見えている。

 あと1時間も走れば、コンベイの街へ着く。

 その時だった。



【北と南が一度出会えば二度と離れることはない。 《ノーザンクロス》】



 ショーンは聞き取れなかったが、ペーターの大きな鋭い耳は、正確にその呪文を捉えていた。ペーターは聞きとった瞬間、受け身を取った——が、遅かった。

 囚人護送車隊の周りに、強烈な磁場が発生した。



「──ぐわあああああああッ!」

 鉄という鉄が地面に張り付き、一個隊は速度のついたギャリバーから身を投げ出され、黄土色の地に勢いよく転がった。

「あァぐっ……!」

「痛えっ!」

 トランシーバーをはじめとして、全身に防護用の鉄製品をつけた警官はもちろんのこと、ショーンも、羊角用のメットとリュカに貰ったナイフが、ぴったりと地面に張りついていた。

「く……っそ」

 腰のベルトに下げた装飾ナイフが、釘で固定化されたように動かない。大事なお守りなのに。

(せめて、メットだけでも……!)

 一方、ヘルメットは大部分が革で出来ていて、鉄具はちっちゃい鋲や金具のみ。

「はっ、はあっ……」

 肩を上げれば少しは抵抗できそうだった。必死で指を首へと伸ばし、ベルトを引きちぎろうとしたが……頭をグッと動かすだけで、脳みその中身が津波のようにグルリとうねった。

「うアアあッ!」

 頭を動かすとユラユラ地面が揺れた。地震、違う。平衡感覚を失っている。



「ハぁああっ……!」

「──ァガッ、ゴフ!」

 他のみんなも、声にならない声を叫んでいた。

 生きていて到底体験することのない強力な磁場が、護送隊を襲っている。

 鉄を最低限しか身に付けてないショーンでさえ、こんなに苦しい。

 防具や武器で全身覆われた警官たちの苦しみは想像がつかない。

 こんな強力な呪文、人間相手に打っていい代物じゃない!

 クラウディオは平気だろうか。紅葉は——紅葉は無事なのか?


 地面に転がったショーンの目の前に、囚人護送車の様子が見えた。

 まずい。

 鎖を何重にも巻きつけているユビキタスの命が危ない。

 ——これは本当に彼の味方の仕業か⁉︎

 地面を這う芋虫のようにもがき苦しんでいると、西の遠くに人影を見つけた。

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