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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第13章【Wall lock】ウォール・ロック
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4 警護官に何があったのか

 要人専門の警護官。通称【Wall lock(ウォール・ロック)】。

 それなりに地位も高く、警察の中でも優秀な人物しか配属されない要職だ。もしスパイが紛れ込んでいるとしたら、警察組織の根幹を揺るがす事態となる。

 警護官らは当初、町長事件との関わりは薄いとみられていたが、アーサー記者が正体を突き止めた矢先に逃げられてしまった。現状、ユビキタスに一番近しい人物だと思われるのに、ショーンは彼らについて全く知らない。


「警護官すか……残念っす。昨晩はレストランの調査で手薄で……ジブンが上司に伝えなければ」

 ペーターはギリっと奥歯をかんだ。

「彼らはどうやって逃げ出したんだ? 州警察は前から怪しいと睨んでたのか?」

 経歴を誤魔化し、ウォール・ロックに成りすますほどの力量と胆力、精神力。それを可能にした訓練を、彼らはどこかで受けている。

「……何度か取り調べました。ジブンも立ち会いましたが、どちらも実直で、責任感が強そうで……怪しいとは感じず…………でも、ブーリン警部は警戒を解かなかったっす」



 警護官の2人は、3月7日火曜日、朝からオーガスタス町長に帯同していた。

 早朝の役場にも、午前中の銀行にも、『デル・コッサ』のランチ会食にも同席し、町長の背後もしくは玄関扉の前に立っていた。(あの日ショーンは意識してなかったが、銀行の応接室では扉の前に立っていた)


 そして、午後役場での仕事が終わり、夜9時から『ボッティチェリ』で、町長、警護官2人、長男マルコ、四男ファビオ、五男ステファノの6人で、個室の2階で宴会を始めた。宴会後の夜11時に、役場へ町長と警護官2人が帰還。警護官らは町長室の扉前で待機していた——だが8日地曜の夜1時、町長が町長室から消えているのに気がついた。彼らは職員と役場内を捜索し、朝6時半に町長の尻尾が発見されるまで、ずっと役場内にいた。


 その後、州警察が到着し、警護官2人は役場から出ることなく、まとめて役場の一室(ショーンが閉じ込められた部屋と同じく、トイレ・洗面台付きだ)に拘束された。外は見張りの刑事が巡回していた。9日水曜になってもまだ拘束は続いていたが、その夜はレストラン『ボッティチェリ』『デル・コッサ』の捜査で大勢出払っており、見張りが手薄になっていた。ユビキタスが容疑者として捕まり、気の緩みもあったかもしれない。


 そして本日3月10日の風曜日、午前1時にドアを蹴破られて、逃走された。



「それは足で蹴っただけか? 呪文じゃなくて」

「ええ。たぶんフツーに蹴ったっす。そんなに分厚くない扉っすから」

 警護官らは、廊下で出くわした役場職員を人質にし、裏玄関から突破した。

 玄関付近にいたサウザス警察は、人質を見て手が出せず、2人は近くの路上に停まっていた商人のクルマを奪い逃げ去った。

 ラヴァ州警察が事態を把握したときは、すでにサウザス地区から逃げおおせていた。

「人質を途中で降ろしてくれたのが救いっす。窓から突き落としたそうですが」

「そうか……」

「車は、そのまま東のトレモロ方面へ向かったそうっす」

「トレモロに?」

「ええ。ラヴァ州から逃げ切る気かと。検問は張ったそうですが、この時間で見つかってないとなると、正直もうお手上げです」

 サウザスの隣、ラヴァ州極東の地、トレモロ。

 州で一番小さい地区で、隣はすぐ別州だ。



「聞いたところ、普通に足で逃げたっぽいけど、何か呪文を使った様子はないかな」

「え、呪文っすか? いえ、一瞬の出来事だったそうで、使ってないと思われます……すみません、ジブンも又聞きなんで、分かってないことが多いっす。サウザスに残った仲間が調査してるはずなんで、違う発見があるかもっす」

「うーん、そっか。そうだな」

 警護官の逃走が発覚してから、州警察もすぐにバタバタと護送準備を始めた。ペーター刑事が把握しきれてないのも無理はない。

「……というかあの警護官、呪文が使えるっすか?」

「それはまだわからない。ただユビキタスの仲間なのは濃厚だ」

「ショーンさん、何かご存知で言ってるんですか?」

「ああ、新聞社の調査によると、あの警護官の任命に、ユビキタスとクレイト市の元警察高官が噛んでるらしい」

「——マジっすか⁉︎」

 あ、マズい。言わない方が良かったかも。ペーターのくりくりしたファニーフェイスが、一気に夜叉の形相に変化した。


「だとしたら非常にマズイことっす!」

「い、や、正確なことは判らないんだ……そもそも、うさんくさいブンヤの情報だし……」

「そのクレイト警察の高官が、ユビキタスの仲間って事っすもんね!」

「いや、待ってくれ。ソイツは何年も前に辞めてるそうで……」

 ショーンは周囲に護送隊に聞かれてないか、ヒヤヒヤとあたりを見回した。それなりに距離を取って走行し、エンジン音も煩いせいか、幸い誰もこちらを見ていない。

「まさか……ということは、ブーリン警部はそれを知って……あ、あの件は……そういう……?」

 ペーター刑事が険しい顔でブツブツ呟いている。

(まずい。言っちゃいけないことを滑らせたかも……)

 ショーンは冷や汗が止まらない。これ以上余計なことを言わないように、サッチェル鞄から水筒を取りだし、レモン水でぶくぶく口の中を泡で満たした。

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