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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第11章【Black Maria】ブラック・マリア(サウザス町長吊り下げ事件 ③魔術バトル編)
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3 末っ子

 多くの飲食店が休日をとる水曜日、レストラン『ボティッチェリ』は、なぜか煌々と明かりが点いていた。

「もう終わりだ、みんな。出頭すべきだ」

「バカを言うな、ピエトロ。町長はもう居ない、バレる可能性は低い」

「だが警護官はいる、知られたら厄介なことになる」

「もう『デル・コッサ』にまで州警が入ったらしい。例の甲冑が見つかった」

「ハン、諸悪の根源はオーガスタスだ。天罰を喰らっただけさ」

 顔がそっくりの兄弟たちは、次から次へ口を開いた。


 砂鼠族コスタンティーノ家。

 元はハリーハウゼン家の家臣である。商売っ気の強かったご先祖様は、ブライアンが鉱山を興したのを機に、東の端で小さなテントで商売を始めた。そこから今に至るまで栄えるサウザス市場の基盤となった。

 現在は6つ子のようにそっくりな6兄弟、マルコ、ピエトロ、ジャン、ファビオ、ステファノ、エミリオが継いでおり、上の5人が『ボティッチェリ』2階の個室へと集まっていた。



「結局、列車の件はユビキタスがやったのか? なぜこんな事をしたんだ!」

「知らん。何か恨みがあったんだろ」

「“彼ら” と繋がっていたらマズイことになるぞ」

「そうか? とっくに州外へ逃げているだろ」

「しかし何だって尻尾なんか吊るしたんだ、本人を吊るすならともかく」

「知るか! それよりオスカーの倅が斧を持っていったのは何なんだ、証拠でもあるのか?」

「落ち着けファビオ、大丈夫だ。あれには何もない……」

「あれにはってなんだ!」

「やめろ、机を叩くな!——エミリオの様子はどうだ」


 5人が一斉に天井を見た。鉄の小さな通風孔がギイッと開く。

「…………大丈夫だよ、兄さん。」

 細く、柔らかな声が上方から響いてくる。

 鳥のさえずりのように細く、森の木陰のように柔らかな声は、熱くなった兄弟たちをなごませた。声の主はエミリオ・コスタンティーノ。6兄弟の末っ子である。


挿絵(By みてみん)


 末っ子のエミリオは、昔から物腰が柔らかく謙虚な人間だった。

 家族の中で最も賢く教養があり、これは市場で働かせるより上の学校へ進んだ方がいいと、兄弟は金を出しあい、クレイト市の高等学校に入学させた。彼はクレイトで経済学と政治学をみっちり学んで卒業し、サウザスに戻って役人になった。


 優秀で気のつく彼は、就職して数年で先々代の町長・カルマから秘書職に任命された。程なくしてカルマ氏が引退し、ユビキタス町長に代替わりしたが、継続して町長秘書を務めてきた。そしてオーガスタス就任後も、第3秘書として——


 結果、3年前にオーガスタスの尻尾がぶつけられ、腰を負傷して歩くことができなくなった。療養中の今は『ボティッチェリ』の一室にひっそりと住んでいる。



「エミリオ! 昼に『鍛冶屋トール』のせがれが警官と来ていただろう、何か言っていたか?」

 長兄マルコがエミリオに話しかけた。

 通風口から六男の声が聞こえてくる。

「——そうだね。甲冑を調べて、戦斧を外して持ち帰ったよ。理由は何も言ってなかったな。一緒にいた警官じゃなくて、息子の方が持っていきたがってた」

「ほほう」

「州警官じゃなくて倅のほうが? なぜだろう」

「まあ警察はすでに調べているからな」

 兄弟は口々に喋りだした。

「それと、甲冑があった床を調べていた。兄さんたち『痛んでる』と嘘ついてただろう。見破られてたよ」

「まずいぞ」

「ほら、言ったじゃないか」

 一言いうたびにワイワイ騒ぎだすので、エミリオが上からゴホンと咳をし、

「テーブルの傷と解体ショーのことを少し話して、去った」と手短に告げた。

「ありがとうエミリオ。もう大丈夫だ」

 次男ピエトロが礼を言うと、通風孔がパタンと閉じられた。



 エミリオがこの屋根裏で過ごしているのは、兄弟しか知らない事実だ。

 近所の人は『ボティッチェリ』にピエトロやジャンと一緒に住んでいる……としか思っていない。事実1階の私室にはエミリオのベッドもちゃんとあり、車椅子姿でリビングにいることもある。

 だが彼の真の自室——いや仕事場は、この屋根裏部屋だ。

 食器昇降機で上にあがり、屋根裏でひたすら耳を澄まし、レストランの個室から極めて内密な情報を得て、精査する。それを他兄弟に流すことで、東区の市場は “円滑に” 運営されている。


「警察に上のことは知られてないよな?」

「今のところ大丈夫だろう、俺らよりユビキタスの方に夢中さ」

「だが盗聴が知られれば一気に店の評判が落ちるぞ、市場価値も大暴落だ。しばらく止めといた方がいい」

「そうだな……エミリオ、そういう訳だ! ほとぼりが冷めるまで一緒にいよう」

「OK。兄さん」

 ガシャンと昇降機が鳴った。車椅子に乗ったエミリオが、下へゴトゴト降りてきた。

 兄弟たちも個室から降り、キッチンの昇降口で末弟を出迎えた。

 レストラン1階の広間に席を移して、6兄弟全員で談笑していると、玄関ベルの鈍い音がガラーンと鳴り、外には州警察がズラリと整列していた。

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