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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第11章【Black Maria】ブラック・マリア(サウザス町長吊り下げ事件 ③魔術バトル編)
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2 対峙かなうも交差せず

挿絵(By みてみん)


 新聞社室長の女性、モイラが、隣にある応接室へ案内した。

 アルバであるショーンだけがソファへ座り、リュカと紅葉は後ろに立った。

 室長は録音機を回そうとしたが、ショーンは慌てて断った。

「待ってください、表に出せない情報もあるんです」

「……そう、分かりました」

「表に出せない情報とは?」

 アーサーが肩をすくめて笑った。


「3年前のエミリオ・コスタンティーノ、および町長の負傷事件について、そちらでご存知のことはありますか」

 ショーンの真鍮眼鏡のレンズが光った。

「レストラン『デル・コッサ』での出来事です。隠蔽するよう圧力がかかったのでは?」

 さらに追求した。

 モイラ室長とアーサー記者は目を見開き、両者顔を見合わせ……そして、苦虫を噛み潰したような顔で、モイラが答えた。

「……ええ確かに。報道しないよう言われましたわ。町長の直々の要請で」

「町長は、よく “お願い” しにくるからね。マメな人だ」

 アーサーは未だクスクス笑っている。



「では、他に町長から隠蔽するよう頼まれたことはありますか?……その、事件に関係しそうなことで」

 まだこちらが知らないこと——おそらく州警察も知らない事も、新聞社は知っている。それが事件を解く手がかりになるはずだ。

「そりゃまあ、町長のお願いはそれなりにありますよ。でも全部たいしたことじゃない」

 両腕を軽く広げておどけるアーサーを、モイラは横でジッとねめつけていた。

「そう──大事なことは別にある。それは町長自身すら気づいてない事だ」

 簡単な仕切りの応接室には、モイラとアーサー、ショーン一行しか中にはいない。だが、新聞社中の人間がひっそり聞き耳を立てているようだった。


「気づいてない事って何ですか。こちらには交渉材料がある。正直に教えてください」

「へえ、どんな?」

「銀行時代からの、町長の被害者一覧表です。おそらく警察もあなた方も把握してない」

 深夜の病院内で、ひっそりとヴィクトルが温めてきた秘密の一片を、思い切って彼らにぶつけた。

「何ですって?」

 モイラが反応した。しかし、アーサーは眉ひとつ動かさなかった。

「それは凄い。だが今は特にいいかな。こちらもスクープがあってね、火急のだ」

「スクープ……?」

「そう。クレイト市の知人から、ようやく調査結果が届いたのさ」



 アーサーは数枚の書類を机に放った。

「失踪事件の日、町長についていた警護官2人。どちらも前任のユビキタスが連れてきた人間だ。オーガスタスは町長職を引き継いでから、迂闊にもそのまま使っていた」

「はあ……警護官?」

 向こうからペラペラ情報を明かしてくれるアーサーに、ショーンは調子が崩された。

 紙には粗い画質の顔写真が映ってる。どこか現実感がない。

「2人はクレイト市の優秀な警官だとの触れ込みで、ユビキタスの肝いりでサウザス警察に入った。どちらも州の人名簿に名前はあったが——クレイト市警に在籍した記録がない。ラヴァ州警察にもだ」

「え————はあっ⁉︎」

 ことの重大さにようやく気づき、声を上げた。

「だが、彼らに紹介状を与えた警察官は実在している。書面も正式かつ有効のものだ。そいつはクレイト市警の者だが、5年前に仕事を辞し、州外へ引っ越している。その後の消息は、不明」

「……なん、って」

 滅茶苦茶だ。

 やりたい放題じゃないか。


「……それ、サウザス警察は知ってるんですか?」

 ショーンの背後から、リュカが質問してきた。

「さあね。オレがもし警官だったら、町長とクレイト警察幹部の証印があれば、それ以上は調べないかな」

 ショーンの背中に冷たい汗がじっとり流れた。アルバの試験日の時より、遥かにひどい悪寒がする。

 ——ユビキタス肝いりの警護官なんて……

 町長の被害者名簿や、コスタンティーノ兄弟の疑惑のおかげで、もしかしたらユビキタス先生は事件と関係ないのでは——という淡い希望が、シュルシュルと散ってしまった。それどころか、事態はもっと悪い方へ向かっている。

「オレはね、彼らは “例の” 奴らなんじゃないかと思ってる」

 怪訝な顔をしたモイラとリュカと違い、心当たりのある紅葉とショーンは、何のことかピンときていた。

 アルバに憧れる人間を集めた組織——

 もし、彼らも組織の人間だったとしたら——

「そいつらも……呪文が使える?」



 その時、耳障りな音を立て、壁のトランシーバーがビービー鳴った。

「何ですって……ええ。ええ……」

 モイラが深刻な目でブチンと通話を切った。

「まずいわ、アーサー。警護官たちに逃げられた」

 悪いことが起きる時は、たいがい連鎖的に重なっていく。

「おいおい。何をやってるんだ州警察は」

「州警は『デル・コッサ』と『ボティッチェリ』の家宅捜索に入って手薄だったみたい。その件は貴方が、誰かさんにゴチャゴチャ忠告したんじゃないの」

 モイラは厳しい顔でアーサーを睨みつけている。

 リュカと紅葉の顔が、一気に青くなった。

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