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6 強くなりてえ……!

 警部から聞いた情報によると、ユビキタスは事件当日、朝8時に学校へ出勤し、午前9時から午後2時半まで昼の授業を、午後4時から午後9時半まで夜の授業を行った。退勤したのは夜10時。

 もしユビキタスひとりが犯人ならば、退勤後、誰にも知られず、役場から巨漢の町長を連れ去り、尻尾を切って線路に吊るして、本体をサウザスのどこかに隠したことになる……

 ——いくら老人にしては力持ちだからって、そんなの可能だろうか?


「誰か他に、手を貸してる人物がいるはずなんだ。複数犯なら、町長の本体がサウザスで見つからない事にも説明がつく。ソイツが町の外へ持ち去ったんだよ」

「つまり……それが組織の人間だと?」

 紅葉が一番伝えたかった、組織の話へと戻ってきた。

「可能性は高い…………その話が本当ならね」

 ショーンの眼鏡の奥が鈍く光った。シンと部屋が静まり返る。



「……う、嘘だと思うの……?」

「さあ」

「…………っ」

 紅葉はアルバのことはよく分からない。秘密組織とやらがアーサーによる壮大な虚言だったとしても、まったく判断がつかないのだ。

 ——けど、ユビキタスが元々アルバを目指していたという事実で、組織の話の信憑性は高まった。でも、オーガスタス町長を連れ去った目的は何なんだろう。サウザスでも乗っ取る気……? もうワケが分からない。


 紅葉は頭をクシャクシャしながら、鉄のスプーンで小鉢をコンコンと叩いた。

 コンコンコンコン……ショーンの尻尾の先までピリピリ響いた。

「そんなイライラするなよっ!」

「〜〜~っ、だってもどかしいじゃない! 全然わかんないんだもん!」

「そんなに町長の居場所を知りたいのか?」

「居場所っていうか、私は事件の解決を……っ」

「——紅葉!」

 イライラでもどかしい顔をしている紅葉に、ショーンはグッと顔を近づけた。

「紅葉。ここらで目的をはっきりさせよう」

 ショーンが、珍しく、真面目な顔をして彼女に言った。



 部屋に持ち込んだ夕食は、最後のかけらも余さず食べきった。

「——も、目的?」

「ああ」

 ぼちぼち日付が変わる。明日は、紅葉が好きな 風曜日(かぜようび)だ。

「僕たちは図らずも、この事件に2人とも深く関わった」

「うん……」

「多くのことを見聞きしたけど、結局分からないことも多い。警察しか知り得ない情報はたくさんあるし、その新聞記者だってそうだ」

「……それは」

「僕はただのアルバだから、警察に協力するのも限界がある……【帝国調査隊】になれば話は別だけどね」

 紅葉に至ってはただの一般人だ。新聞社のおかげで多くの情報を得られたけど、彼女自身の力は本当に限られている。


「一番怪しいユビキタス先生は、明日クレイトに護送されてしまう。町長の残りは見つかってないけど……たぶんサウザス外にいる。アーサー記者に組織のことは後で詳しく聴くとして……この先、調査するにしても、僕ら2人ができる事はもうそんな多くないよ。いつもの仕事だってあるんだし。紅葉は今後どうして行きたいんだ?」

「………私は」

 紅葉は燃えるように心臓が熱くなった。

 穏やかに過ぎていった日常は、とうに破壊されてしまった。

 過去の自分の謎を掘り起こしたこの事件は、これで終わってしまうのだろうか。

 自分の小さな角が——冷たい。



「私は…………強くなりたい」

「強く?」

「ショーンは、私の力を知っているでしょ」

「……そうだっけ」

 ショーンは一瞬とぼけてみたが、心当たりがある出来事がフッと脳内を通りすぎた。

「私には、人より強い力がある……だから、それを活かさなきゃ」

 紅葉が自分の両手をじっと見ていた。

 ショーンの額から、大きな汗粒がジワリと湧いた。

「活かすって、何をするんだよ」

「そうだね……まずは、武器が欲しい」

「武器って…………なんで」

「——ショーンの身を、守りたいから」


 水曜日の夜は、サウザスでもっとも静かな夜だ。

 いつもと変わりのない静寂。

 だけど、危険はすぐ頰の傍で刃をチラリと見せている。

 ここからもう一波乱、起きるに違いない。

 本能がそう訴えていた。

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