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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第56章【Iron sand】砂鉄(クレイトの舞台は揺れる ①新たな仲間編)
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3 舞台はふたたび白銀三路へ

 湖と石畳と三日月の都、クレイト。

 ショーンと紅葉にとっては、ほんの10日ぶりほどになるだろうか。あの時はラルク・ランナー州刑事に連れられ、トーマス・ペイルマンとともに白銀三路の地下道をこっそり渡った。


「なんだか、居ちゃいけない所にいるみたい……」

 お天道さまの下、祭りのように賑やかな界隈のなかにいて、紅葉はぽそっと呟いた。そんなわけないのだが。

 地上の白銀三路は、風曜日、旅の曜日ということもあり、いっそう観光客の往来が激しかった。

 前回、行きも帰りもこっそり地下を通った身としては、ここの大衆の歓喜の念は眩しすぎるのもムリはない。


 クレイト名物『白銀三路』。

 クレイトの中央駅から、州議事堂までをまっすぐ貫く、白銀色をした巨大な大動脈である。

 その名のとおり三つの路があり、中央が人が歩く道、左右の二路が馬車、自動車、ギャリバーなどの車輌専用道となっている。車道では速度が厳しく制限されており、今のような混雑した昼間なら、歩行者のほうが早いくらいだ。

 三路の通り沿いにある建物では、高級レストラン、高級服飾店、ホテルに大企業の事務所が立ちならび、三路の中には、小さな屋台にテント、物売りたちが鈴を鳴らして、食べものや雑貨の購入を呼びかけている。


「あー、買い物したい、服ほしー。なんか買ってよ、アルバ様」

 ギャリバーの上で見晴らしが良いフェアニスは、あちこち目移りしては勝手なことをのたまっていた。

「そんなドミー、カケラもないよ」

 ショーンは一瞥もくれず、クレイト市の地図を広げ、行くべき場所を確認していた。

「紅葉、次の信号を左へ曲がって。州議会の役人が使える宿舎があるんだ。そこでニーナ号と荷物を預かってもらおう」

「分かった」

「なーに、アルバ様ってお役人なのぉ?」

 フェアニスが髪をいじりながら聞いてきた。

帝国魔術師(アルバ)は全員、役人だよ。帝都と皇帝、そして州に仕えてる」

 役所で働いたことは一度もないが、役人としての特権は使えるのだ。


「宿舎についたら、フランシス様への面会を頼んで、ランチを食べて、エメリック・ガッセルの自宅を調べて……それと」

「トレモロ地区に連絡をとろうよ。ガッセル家のことは、木工所のオリバー・ガッセルさんにも話を聞いたほうが良いと思う。それと、サウザス町長とロビーにもお礼と報告をしなきゃだね」

 馬どころか、生まれたての仔猫にすら抜かされる白銀三路の混雑道で、ショーンと紅葉はやるべき事項を挙げていた。

「トレモロならぁー、それこそエミリアとも連絡を取ったらどう?」

 大きなあくびをしながら、フェアニスも提案してくる。

「愛しき我らのツインテールちゃん、エミリア・ワンダーベルとね」





「エミリアー、帰ってきたんでしょう」

 Rの手紙を開けようとした途端、招かれざる客が、アパートの部屋のドアをノックしてきた。声の主は、呪われし我が双子の姉——

「アンナ……何でいンのよ、来たくなかったでしょ」

「当たり前でしょう。二言めには帰れって言うでしょうから。それでも家族として、退院お見舞いの義理を果たしにきたのよ。貴方の好きな風船ガムも買ってきたわよ、喉に詰まらせないで頂戴ね」

 ありがたいご忠言をくださる姉様を向かい入れるため、エミリアは舌打ちしながら手紙をポケットに突っこみ、渋々と立ち上がってドアを開けた。

 

「ガムが無かったら開けてないからね」

「あらそう、はいはい」

 アンナ・ワンダーベルは、トランクに買い物かごに肩下げ鞄と、大荷物を持って立っていた。崖牛族は見ため、かよわき女性でも、想像以上に力が強い。

「何をそんなに詰め込んできたのよ……」

 姉のワインレッドのドレス姿は、さながら葡萄狩りで大量に収穫したかのようだ。

「仕方ないでしょう、包帯、お服、非常食のカンカン、早く治るためのお酒でしょ、それと貴方が置きっぱなしにしていた実家の荷物も、いくつか持ってきたのよ。ほら、お父さまが越してきて、何かと手狭になったものだから」

「へぇー、引っ越してきたの? 一緒に住むんだ……」


 木工所レイクウッド社のしがない設計士、オリバー・ガッセル。

 彼の真の名は、有名建築家一族の最後の末裔、ロイ・ゴブレッティ。

 昔、ヴィーナスとヤッただけの、産みも育てもしてない双子の父親だ。


「ま、あんたは念願のお父さまが見つかって、さぞかし満足でしょうね」

 この姉アンナは、昔から妙に父親さがしに執着していた。病的とも言っていいだろう。それこそ、事件捜査中のアルバに無理やり依頼するくらいには。

「どこがよ、全然よくないわ! あの人、私とお話しどころか、目も合わせようとしないのよ!」

「……そう」

 とっくに成人済みの娘に対して、急に少女を可愛がるような態度を取れるはずもない。


「いい? あの人は、私たちの父親じゃない、あの人は……ヴィーナスの恋人なのよ!!」


 アンナは大きく背中と角をのけぞらせ、我こそは悲劇のヒロインであるかのように悲壮感たっぷりに嘆いた。

「…………そう」

 欲しかったのは、本物(ロイ)ではなく、理想の父親だったのだろうか。

「なぜそう淡白なの? 貴方はショックじゃないの、エミリア!」

「生きて見つかっただけ良いじゃない。つーか、あんたも恋人つくったら?」

 その後、双子の姉アンナはわめき、騒ぎ、当たり散らし、大げさにも掻いて嘆いて咳きこんで、およそ数十分の時間が数時間にも感じられた。エミリアのポケット内の手紙は、汗が染みこみ、皺だらけになり、Rの字も滲んでしまった。

「まぁーた、あいつんとこ強盗でたしー」

 通りがかったアパート管理人のジェラジョーは、その喧騒を耳にし、肩をすくめた。

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