表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/339

2 鍛冶屋一家の夕食

「……ねえ、なんでこのシチュー、美味しい匂いがしないのかしら?」

 フレヤが不満そうに、シチューの皿をかき回していた。

「ショーンが呪文に失敗したんだって、昨日言ったろ」

 リュカがなんでもないように、ズズーッと汁をすすった。

 あれから、《消臭呪文》が抜けないまま、鍛冶屋トールの1日が経った。

 昨日は休日ということもあり、一家は中央通りのレストラン『ボティッチェリ』にてディナーを取った。今夜は自宅で、リュカがこしらえたタマネギシチューとアップルパイを食べている。

「お兄ちゃん、明日になれば匂いは戻るって言ったじゃない」

「まだ『明日中』だぞ」

「ふざけないで!」

 フレヤはバン! と大きく机を叩いた。シチューはフレヤの大好物だが、香りがなければドロドロの小麦粉を溶かしたような味しかしない。



「……ショーン君は結局何をしにきたんだ?」

 オスカーが、樫の木のように大きな手で、黒糖パンを小さくちぎった。父はいつも喋りだしがゆっくりだ。

「さあ、何しに来たんだろうな。なんか来てすぐに帰っちまった」

「なんだそれっ、バカじゃん!」

 ボルツがバンバン机を叩き、母親のエマが「やめなさい!」と暴れん坊の両手を握った。

「もう……ショーンちゃんが、遊びに来てくれてたのなら上に言って……久しぶりだったのよ……もー暴れない……」

「ちょーちょーが死んだっ、チョーチョーが死んだ!」

「ボルツ、黙りなさいッ!」

 先割れスプーンをカンカン鳴らして騒ぐ弟に、フレヤがやれやれと両手を振って溜め息をついた。

「ボルツは町長が何か分かってないのよ。きっとチョウチョだと思ってるの」

「へえ、フレヤは町長を知ってるのか?」

 銀のナイフでアップルパイを切り分け、妹に渡しながらリュカが訊いた。

「もちろん知ってるわ! えーと、サウザスで一番偉い人!……そうよね?」

 彼女は小首を傾げ、歳の離れた兄のリュカに確認した。



「……エマ、あれから何か続報はあったか?」

「いいえオスカー! お昼の号外が出たっきり、夕方のは大したことは載ってないわ。州警察は何をしてるのかしら」

「………捜査が難航してるんだろう…………容疑者が多すぎる」

「号外って?」

「まーやだ、リュカったら見てないの?」

「朝刊だけしか」

「ちゃんと読んでおきなさい」と険しい顔をした母エマが、今日の新聞をまとめてリュカに手渡した。

 食後にクルミコーヒーをいただく父親の横で、

「お兄ちゃんてば、ほんとうに世の中のことに疎いんだから!」

 とフレヤが無邪気にアップルパイを頬張っている。

 リュカはサボテンビールを飲みながら、順に読んでいき……

 10年前の事件の記事に、ギュッと眉間に皺を寄せた。


挿絵(By みてみん)




 3月8日午後8時。市場から出前が届いた。

 皆で新聞が積まれた机を囲み、黙々とヌードルをすすった。

「……ちょっと辛いわね。スパイス効きすぎ」

「そうかい? これが美味しいんじゃないか」

 モイラはクールな見た目と違い、意外とピリ辛が苦手らしい。

「紅葉ちゃんは大丈夫かい?」

「はい、大体なんでも食べられます」

「雑食なのか?」

「……たぶん」

 草食のショーンは、あまりお肉が食べられない。だが、紅葉は雑食のリュカと同程度に、ご飯はなんでも食べられた。

 アーサーはさっきから紅葉のツノをじっと見てる気がする。

 紙パックに入ったヌードルを食べ終わり、事務員のナタリーに片付けてもらった。

 こうして食事を共にしても、緊張感が和らぐことはない。


 さて……とアーサーが、オットマン付き社長椅子に、悠然と足を組んで座った。ジョゼフは自分の革張り社長椅子を、恨めしそうにジッと見ている。

「さあ、事件の真相に迫ろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ