表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第5章【Ubiquitous】ユビキタス
32/339

6 時が経てば思い出す

「ハイっ。こちら記事デスよ〜!」

 どすん! と机の柱が鳴った。見るだけで重量を感じる。

 当時の記事は、紅葉もまだ直接見たことがない。ここに事件の全容が書かれているのか……。

 事務員ナタリーと社長ジョゼフは楽しそうに束を分けて、テーブル端から日付順に載せていった。せっかく紅葉のために持ってきた物だが……彼女は直視できずにいた。

(これが……当時の………………っ!)

 空のコーヒーカップが震える。脂汗が額から垂れた。

 一番左端にある、事件当日の記事がどうしても見れない。


 視線を逸らしたちょうど真ん中に、ユビキタス先生の大きな写真がデカデカと載っていた。いったい何の記事だろう。日付は皇暦4560年12月05日。

「……こ…これは?」

「え、ああ、町長選の結果よ。先々代のカルマ町長から引き継いだの。事件の2ヶ月後ね」

 モイラは赤く塗った長い爪で、10年前当時のユビキタスの写真を示した。

 よく読むと、第44代の町長選の記事だった。

 得票数はユビキタスが圧倒して当選している。

「町長交代で、カルマとユビキタス、両者の長尺インタビューを載せてるんだけど、2人とも事件のことに触れてるわ。ま、治安に気をつけなさいってだけだけど」

 紅葉より年若らしきナタリーが、「事件当時って、ユビキタス町長じゃなかったんデスね」と呟いていた。



「紅葉さんは……先々代のカルマ町長のことは覚えてるかしら?」

「いいえ、お名前だけしか……」

 カルマ町長には、直接会ったことはない。正確にいうと、彼は紅葉を直接見たかもしれないが、紅葉が意識を取り戻したとき、既に高齢で亡くなっていた。

「でも……ユビキタス先生とは色々お話ししました。そう、町長になってからも」

「町長になってから? 待って。あなた、彼から直接、学校で教えを受けてないわよね」

「えっ、はい……」

 紅葉は事件後、1年間近くまともな意識がなかった。

 意識を取り戻してからも、体がうまく動かず半年ほどリハビリに費やした。サウザス学校へ入学できたのは、それからだ。便宜上ショーンと同年齢として扱われ、12歳の春から14歳の冬まで通い、卒業した。

 それはユビキタスが町長を務めた4年間と、まるまる時期が被っている。


「ならどうして彼を、先生って呼んでるの?」

「ショ……友人が、『ユビキタス先生』って呼んでたからです。それに先生が町長だった時も、何度も学校へ来て、町や政治の講和をしてくださいました」

「なるほどね。その時、個人的にお話はした?」

「……はい」

 多忙だったのに、月に一度は、学校に顔を出してくれたユビキタス。先生はとても人気で、みな直接お話したがっていたのに、直接の教え子じゃない紅葉とも、何度も対話してくれた。

「……入院中も、先生は何度もお見舞いに来て下さったそうです。私は気を失ってて、全然覚えてないんですけど」

「当時の取材によると、事件以前の記憶も無くなってたのよね。……あれから思い出したことはある?」

「えっ」



 モイラの言葉にハッとした。

 いまの今まで、自分が事故の衝撃で、記憶を一切思い出せないのは当たり前だと思っていた。

 ──でも、『時が経てば思い出す』という可能性もあるのだ。

 どうしてその可能性に気づかなかったんだろう──

 くたびれたワイドパンツを引っ張る。

「え、えっと、挨拶の仕方とか、食器の持ち方とかは……目が覚めた時も分かってました。でも自分の家族とか、苗字とか、住んでた場所とか……民族とかも、分かりません」

 動揺しながら答えた。自分でも何を言っているか解っていない。


「──正式な民族学者に見せたのかい?」

 困惑する紅葉の、すぐ後ろに立っていた、鮮やかな赤髪の男が声をかけてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ