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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第44章【photograph】写真(ノアの大富豪の怪異 ②大富豪と陰謀編)
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2 現場検証が終わるまで

「ハイ、諸君、そこから動かないで!」

 15人ほどの警官たちが、時計塔に突入してきた。

 ノア警官らは赤銅色の服だったが、警部と思われる指揮官は、銀色にまばゆく純白の警官服を着こんでいる。

「動くな、そこを動くな!」

「えっ……ちょっ!」

「やだーーん♡」

 現場にいた3名は、荒野の犯罪団よろしく取り押さえられた。

 都市長ですら敬意を払ってくれる、偉大なアルバ様はもちろん、大富豪秘書キューカンバーも、秘書を取り押さえていたサウザス役人ロビー・マームも、揃って犯人扱いされた。

「署に連行しますか?」

「ノンノン、現場検証が終わるまで、時計塔から出さないで。特殊な状況よ。写真を撮って!」

 大量の警察のカメラが持ちこまれ、バシャバシャとシャッターが切る音が響く。

 もう30分以上、老人の躰は宙にぶら下がっていた。

 体からは様々な体液がぼたぼたと落下し、絨毯にしみつき悪臭を放っている。

「……」

 ショーンは膝を折ったまま、デズの神とモルグの神に祈りを捧げた。


《ラビュラビュ、ラビュラビュ♪ お口のおともに~

 12歳のアライグマの女の子、

 ソフィアが作った、ラキララ社の風船ガムよ!》


「そこ! ラジオを止めてちょうだい、精神が乱れるわ」

「あの…!」

「ハイ、あなた、知ってるわよ。サウザスのアルバ様でしょう」

 白い服の女性は、警官というより舞台女優のような風貌だった。

 白地に黒ぶち模様の垂れ耳、頭の上には巨大なカール髪、妖艶な涙ぼくろに、白地に黒ぶち模様の長い尻尾……犬豹(いぬひょう)族と思われる。


「すみません、ノア警察の方ですよね。僕はサウザス事件で、州警察とトレモロ警察に捜査協力してきました。だから今回もご協力できるかと……」

「スタップ! あなたのご活躍はもちろん聞いてるわ。悪いけど、ウチで特別扱いはできないの。アルバ様も容疑者になりうるのよ、アーハン?」

 長ーくカールしたまつ毛を、バサバサッと、ショーンの頬先でしぱたたかせる。

「………ッ、わかりました」

 無駄だと分かっていたものの、一応訴えてみたが、やはりダメだった。

「あらやだ♡ あたしもアンタのこと知ってるわー! タバサのビューティーサロンに週2で出入りしてるでしょう、割引クーポンばっかり使ってドケチだって有名よーん」

「おだまり! おしゃべり九官鳥ッ、第一容疑者のくせに生意気ね! 手錠をかけなさいッ」

「いやぁあーーーん♡ えっちぃー♡」

 ショーンの膝が脱力し、サッチェル鞄が肩からズレる。ひょっとして彼女も、秘書オーレリアンやキューカンバーと同じ人種だろうか?


「んま、名乗ってあげてもいいわ、ノア警察のヴェルヌ・ビネージュ。犬豹族。警部よ」


 彼女は立派なお名刺、ではなく、白薔薇でデコられた警察手帳をビシッと見せてきた。


挿絵(By みてみん)




 ピルルルルゥーーーと鳥の鳴き声が響く。

「平和だなぁ……」

 いつも遠くの大空にいる渡り鳥たちが、手に届きそうなほどすぐ近くを次々に横切り、ピルルと風を作っていく。

「……これからどうしよう」

 傷の具合は深い。このまま眠りについてもよかったけれど、いつまでもノアさんの厄介になるわけにはいかないし、何より早くショーンに連絡しなきゃ。

「めんどくさいなー……」

 紅葉はやる気を失って、天界のベッドに漂っていた。

 鼻血や傷血、口腔内の血が、風と陽光にあたって洗濯物のようにカピカピに乾いていく。

(この先どうしようかなぁ……)

 ノア地区で追いかけるなら、フェアニスリーリーリッチを追いかけたほうが早い。ピザ屋で働いてたくらいだし、痕跡もいろいろ残っているだろう。

 でも本当に知りたいのは、ラン・ブッシュと【Fsの組織】のことだ。フェアニスは組織のことを「知らない」と言ってたし、追っても徒労に終わる可能性が高い……本命を仕留めないと……

「はは……いちいちこんなにケガしてたら、もたないよねー……」

 紅葉は深く息を吸って、吐いて、痛みをなるだけ遠くへ飛ばした。

 ラン・ブッシュには呪文の心得もある。

 きっとフェアニスより何倍も強い。

「もっと強くなりたいな」と

 空に溶けそうな声で呟き【鋼鉄の大槌】をぎゅっと握った。



《ラビュラビュ、ラビュラビュ~♪

 ソフィアの風船ガム~♪》


 デッカーのラジオが終わったあと、ソフィアの風船ガムのCM曲がエンドレスに流れるようになったので、チャンネルを変えた。


《ファンロン州に春がやってきました。新婚ツアーへ参りませんか? コンベイ街のポンペー旅行へ…》

 ブツッ

《みんな大好き、ジョンブリアン社の黄金マカロン♪ 来週の金曜日から割引デーがはじまります! なんと驚異の2%引き…》

 ブツッ

《緊急ニュースです。ノア地区の時計塔にて、現在の『守り人』である大富豪、キアーヌシュ・ラフマニーが亡くなって発見されました。》

「——————!?」

 ダイアルを回す手が止まった。


《時計塔の最上階で、天井から首を吊った状態で発見されました。現場には彼の秘書を含めた容疑者3名が——》

 紅葉は傷も忘れて、ベッドから飛び起き、駆け出していた。

《ラフマニー氏は、三輪式軽自動車ギャリバーの製造販売会社『キンバリー社』の筆頭株主であり、彼の死は経済界においても影響が——》

 清らかで平和な天国の塔から脱出し、泥臭くてきな臭い、血に塗れた地に降り立つ。

《現在、時計塔には多くの住民が詰めかけていますが、ノア警察は交通が乱れるので家にいるようにと……》

「ショーン! ショーーーン、どこにいるの!?」

 紅葉はトランシーバー『エルク』で、ショーンに呼びかけながら、時計塔へ夢中で向かった。

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