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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第30章【Specialty】スペシャリティー
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2 図書館には夢が詰まってる

「アンナさん、それにしても昨日の今日で仕事がお早いですね」

「いえそんな、全てアルバ様のお導きですわ! 警部、この方がライラック夫人の件をご相談くださったのです」

「ほう、左様でしたか……」

「おかげで長年の悩みが一気に解決しそうですの、大感謝ですわ!」

 ウキウキするアンナの横で、ゴフ・ロズ警部はショーンの顔をじっと見ていた。ショーンも警部に早く言いたいことがある。

「……アンナさん、少し警部とお話しさせて頂けませんか。内密の用がありまして」

「ええもちろん、私の用事は終わりましたもの。ここで失礼しますわ、また近いうちにお会いしましょうね」

 アンナは泥まみれのドレスで優雅に一礼し、署長室から去っていった。



「——お久しぶりですな。あれからご活躍のほどは聞いております」

 相変わらず、地の底から這うような暗い声だ。暗くて落ち着きのある……神殿の祈祷室の奥にいるような。

「そんな、活躍なんて……全部エミリア刑事のおかげです」

「森の民ともうまく交渉できたとか。生半可な者では狩人と会話すらできません」

「それも、木工所のテオドールとマチルダの協力あってこそです。アルバート社長が快くお貸しくださったので」

「フ……なるほど、彼はそういう気骨のある人間ですので」

 先ほど散々な言われようを食らったばかりなのに、ゴフ・ロズ警部は笑みを浮かべて、勝手知ったる同郷の男を褒めた。

「警部——以前お願いした『暗号電信』の件で来ました。ライラック夫人と子供たちの問題は、アンナさんの協力をもって今日で解決しました。これで教えていただけますか?」

「……フム」

 彼が、頑鸛族の強い視線を送る。

(頼む、たのむたのむ)

「分かりました、お教えしましょう。ただし私の勤務時間外になります。今日の夜は用事がありますので、明日の夜9時はいかがでしょうか」

(——ぃやった!)

 ショーンは小躍りしながら、約束を取り付けた。

 昨日まであれほど次々に依頼されて、クエストが積み上がった時はどうなるかと思ったが……こうして徐々に達成されていくと気分が晴れる。


 波に乗った勢いで、さらにショーンはおねだりした。

「警部、もう一つお願いしてもいいでしょうか。ゴブレッティについて興味がありまして、ちょっと調べたいのですが」

「ゴブレッティですか、部屋一つ分の捜査資料がありますが……何をお知りになりたいのでしょう」

「……へやひとつぶん……??」

 もしや創成期からの資料が、すべて保管されているのだろうか。こちらが知りたいのは、22年前に一族全員亡くなった時の死因や状況、そしてロイの背丈だが……。

「一般的なことでしたら、図書館にゴブレッティのコーナーがあります。警察資料よりも分かりやすいかもしれませんね」

 猿の尻尾を毛羽立たせて途方に暮れるショーンに、警部は優しく促した。





 トレモロ図書館。

 大きくていびつな五角形の建物だ。役場の建物群の一番奥にあり、神殿が隣にある。24時間利用でき、現在の時刻は、夜山羊族のメリーシープが司書として座っている。

 3月20日銀曜日の午後5時。そろそろ夜の準備がはじまる頃だ。

 警察署から出たショーンと紅葉は、トレモロ図書館を訪れていた。

「ゴブレッティのコーナーは一番奥にあるみたいだよ」

「地下倉庫の入り口は載ってないな……閉架書庫にあるのかな」

 木のボードに書かれた案内板を眺めつつ、建物内を散策した。

 トレモロ図書館は、サウザスの図書館よりも広く、ちょっとした博物館のような空間だった。小説の専門分野ごとに細かく部屋がわかれ、本棚や勉強テーブルだけでなく、ガラスケースや解説パネルが設置され、絵画や骨董品が飾られている。

 歴史小説のコーナーには古びた盾や甲冑像が。ホラー小説の壁にはおどろおどろしい黒猫の絵が掛かっている。科学小説のところには実験器具や化石標本が展示され、探偵やスパイ小説の本棚はなんと隠し扉になっており、秘密の小部屋に入れて、そこにも本が収蔵されていた。

「うわー凄い、いっぱい本が読みたくなっちゃうね」

「うん……」

 ショーンがサウザスにいた頃は、本や雑誌は『マジリコ通販』で頼んでいた。

 魔術やアルバ関係の本は、普通の本屋や図書館には置いておらず、アルバはみなマジリコ通販を利用している。サウザスから出た後もちゃんと利用しないと、最新情報から遅れてしまう。ただ到着に一ヶ月かかるため、住所をどうするかが問題だが……



 ひと通り館内を巡り、いよいよ一番奥のゴブレッティコーナーに向かおうとしたら、その手前に、魔術関係のコーナーがあるのに気づいた。

「お、フツーの図書館にあるなんて珍しい……」

 棚2つと少なめだが、立派な魔術書が並んでいる。横の綺麗なガラスの展示ケースには【星の魔術大綱】が飾られていた。白いページは濃い枯れ葉色に変色しており、相当古そうな版だ。ラベルを見ると……第10版。

「——じゅっ、10版⁉︎ 嘘だろ、こんな所に飾って良いのか?」

「そんなに貴重なの? いま何版くらい?」

「僕のは154版だよ!」

 第10版なんて、魔術学校でもそう簡単に目にすることはできない。売ればイゴの金塊がザクザク手に入るような代物だ。こんな風にぽんと置かれているとは……。

 そんな超貴重な【星の魔術大綱】は、挿絵つきのページが開かれていた。魔術師が笑顔で、建物を爆破させている。展示ラベルには『第10版 ディートリヒ・ゴブレッティの所蔵品』と書かれていた。

「ディートリヒって確か初代の人だよね? さすがゴブレッティ家だねー」

「まずいよ、コレ。盗まれる前にこれも地下倉庫に隠した方がいいよ」

「んーでも、地下倉庫に置いといた『設計図』が盗まれたんでしょ。だったら危ないのは一緒じゃない?」

「そうか、じゃあどっちにしろ駄目か……」

「——ああた達! 図書館ではお静かにッ!」

 ショーンと紅葉の背後で、甲高いヒステリックな男の声が響いた。

「ムムッ、今この図書館のワルグチを言いましたね? 小生には分かりますよッ!」 

 後ろを振り向くと、そこには図書館長、兼、神官長のイシュマシュクルが立っていた。

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