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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第22章【Logistics】ロジスティックス
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6 ショーン・ターナーの1週間

 ショーン・ターナーは銀曜日に手紙を書いた。

 火曜日に郵便局と銀行に行き、

 水曜日に事件が起きた。

 地曜日に証拠を見つけ、

 風曜日に容疑者を護送し、

 森曜日に駅の爆破を止めた。

 ——そして金曜日、町長に再会した。



 ボォーン、ボォーン。

 時刻は12時。肖像画ブライアン・ハリーハウゼンの真下にある装飾時計が、3月12日金曜日の始まりを告げた。

「まあ……ターナーさん! 主人を見つけてくださったそうで、何とお礼を言ったらいいか……ありがとうございます」

「は、はい! あの……ご無事で何よりです」

 町長夫人のダイアナが、目に涙をためてショーンの両手を握った。


 ——不意打ちのような邂逅に、ショーンの胸中は激しく揺れ動かされた。

 この病院内にいるのは何となく分かっていたが、まさかヴィクトル院長の書斎にいるとは思わなかった。爆破事故で病棟が埋まったせいだろうか。

 オーガスタス町長は、全部で7名の取り巻きと、壁を埋め尽くす本棚に囲まれて、寝台にぐうぐう眠っていた。

「……意識が戻ってないと聞きましたが……いかがでしょうか」

「ええ、まだ一度も……ぜひ声を掛けてやってくださいまし」

 ダイアナはショーンの背中に手を回し、オーガスタスのそばへ促した。



 約一週間ぶり……正確には5日ぶりに拝見する町長の姿は、以前とかなり変化していた。

 恰幅の良かった腹回りは、スイカ1個分ほど萎んでおり、ふてぶてしかった顔立ちも、ナイフで削ぎ落とされたようにシュッとしている……立派な口髭と顎髭が無くなったせいだろうか。

 髭の消失に気づいたショーンに、ダイアナが裏から言い訳した。

「発見した時にお髭がだいぶ伸びててね、私が全部剃ったのよ。目が覚めたら怒られちゃうかしら」

「いえいえ、かえってお若くなられましたよ!」

「そうです、非常にハンサムです!」

「あらそう? うふふ」

 傍に控える町長の取り巻き……酒場の太鼓隊マーム夫妻の息子であり、元銀行員の役人ロビー・マーム。そして町長の現第三秘書であるギルバート・ブロークンの両名がおべっかを使った。

 奥にいるサウザス警察と州警察はともに銅像のような顔をしている。

 ……ショーンは何となく声を掛ける気が薄れ、腰をかがめて寝台の下を覗いてみた。


 病院用の寝台は、真ん中に穴を開ける機構があり、穴の大きさを調整して、各民族に応じた尻尾を垂らすことができる。

 穴の最大値は鰐族に合わせた太さらしく、オーガスタス町長も、寝台の大きな穴から尻尾を垂れさせていた。

 けれどその先は……体から30cmくらいの長さだろうか、ぶっつり断たれて無くなっており、断面には包帯が巻かれていた。

「おお、痛ましい……私、そこは未だに見れていないの!」

 ダイアナが嘆いて床に膝をついた。

「……早く良くなりますよう、お祈り申し上げます。リッチモンドさん」

 ショーンはありきたりの見舞いの言葉を告げ、ひとまず去ろうと体を回転させた。

 自分の目的はあくまで負傷者の治癒だ。ここに居たのではマナを回復できない——

 その時だった。


「ショォーーーン様ああっ!!!!」

「ぎぃゃあああああッ‼︎‼︎」

 突然、目覚めたオーガスタスに、ショーンは猿の尻尾を思いきりむんずと捕まれた。





 そこから先は大騒ぎだった。

 警察や医師はもちろんのこと、振興会や新聞記者、野次馬まで集結し、辺り一帯揉みくちゃになった。その間、ショーンの尻尾はオーガスタスに思いきり掴まれ、変形していた。

 州警察はいらん人々を追いだし、(ショーンのこわばった尻尾が、ここでようやく解放された)オーガスタスは医師の診察のちに、警察の取り調べが入り、ショーンは残りの患者の治癒を再開した。

 病院の廊下を奥へ上へと進んでいき……明け方にようやく、最上階4階の一番奥の部屋に到達した。

 最後の負傷者は、小柄な円猫族の女の子だった。両腕に包帯を巻いてベンチに座り、手術室をじっと見ている。


「ちょっと良いかな、治療呪文を……」

「あなた……ショーン・ターナー様デスね」

「えっ、はい……」

「私、ナタリーと申します。出版社で一度お見かけしました。覚えてらっしゃらないかと思いますが……」

「そ、そんなことないよ……」

 誰だっけ……ショーンは朦朧とした脳味噌で思い出そうとしていた。

 ナタリーは治癒呪文を受けながら、

 新聞室長モイラがコリン駅長と対峙したこと、

 モイラは現在火傷の手術を受けていること、

 ペイルマン氏が治癒に当たっていることなどを熱心に語っていたが……

 ショーンはもちろん、ほとんど情報が頭に入らなかった。


「モイラ室長、必死でした……私もアーサーさんの仇を討ちたいです」

「アーサー……わかった!……出版社の受付にいた子だ!」

 ショーンは治癒を終えると同時に、縮みきった脳味噌でようやく、この子の素性を思い出した。

「受付?……いえ、私、今日から新聞記者です」

 円猫族のナタリーがニニャっと笑った。

「治ったら取材させてください、アルバ様」

 外ではすでにミソサザイが鳴いている。

 最後の一人に呪文をかけ終えたショーンは……ふらつく体で病院の階段を下りたのだが……いつの間にか踊り場で倒れて、深く眠りこんでしまった。

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