3 駅長からの置き土産
ショーンは大地呪文 《グングニル》——
黄金の細長い光を、サウザスの上空から大地へ放った。
呪文が放たれたのを見て、紅葉はとっさの判断で、列車を降りて退避するよう運転手らにむかって叫んだ。
神の槍 《グングニル》は空を斜めに切って進み、
停止すんぜんの列車の鼻先に飛びこみ、線路を壊し、
神槍が壁にめり込むがごとく、地面をえぐり割って進んだ。
光るモグラの口は、禍々しい火薬の塊を飲みこみ、地層の奥へゴブンと潜りこんだ。
地面下で起爆された爆弾は、間欠泉のように爆風をブシューッと吹き出し、サウザスの大地を揺らす。
ラヴァ州が誇る鉄紺色の蒸気機関車『イィールド号』は、眼前の爆風にひどく揺れたが……横倒しはなんとか耐えて踏みとどまった。
貨物駅から離れるべく、北西方面へ走った運転手3名と紅葉らは、起爆音が起きた瞬間、伏せて倒れたが怪我はなかった。
「……たす…か……った……」
ショーンはヨロヨロと足から生えた翼を動かし、線路の右脇に降りたった。
グラつく貨物列車から急いで離れて、紅葉らとは逆方向の南東側へ走っていく。
光るモグラのおかげで衝撃はかなり抑えられたとはいえ、近場で爆発を喰らうのはやはり辛い。
「おえっ……ゲフっ……」
主に濃煙のせいで、目と鼻と耳が酷いことになっている。
火薬を使った煙というのは、どうしてこう気管部を痛めつけるのか。
ジリジリ、バチバチという音も遠くで聞こえる。
「……ジリジリ?」
厭な予感がして爆弾のほうを向いた。
炎と煙が大地の裂け目からモクモクと上がっている以外、変わったところは見つからない。
でもバチバチとどこかで鳴っている。
よく聞くと、音自体が移動していた。
地表を見ると、太い線、あるいは管のようなものが熱探知のレンズに映った。
管はジリジリ音を立てながら赤く光り、右へ右へ……大型倉庫へと向かっている……
「……導火……線……?」
全部で12棟ある大型倉庫のうち、一番端にある倉庫に、導火線が繋がっていた。
ショーンがいる位置からおよそ50mほどの距離だった。
倉庫の壁に置かれている謎の黒い塊は、先ほどの線路脇のものより遥かに大きい。まるでドラム缶が何10本も積まれているような……
「はあっ、ハアッ……」
まずい、導火線がもう倉庫の近くまで迫ってる……
止めなきゃ、止めなきゃ……
そう指先を動かすも、脳みそが完全に動かなかった。
マナはまだ体内に残っている。なのに何の呪文も浮かばない。
無意識に猿の尻尾を振った。
どうする……どうすれば…………
【私とアイススケートをしよう。 《エーリヴァーガル》】
ショーンの左後方部から右前方へ向かって、雪のように白く輝く光線が体をかすめて飛んでいった。
冷却呪文 《エーリヴァーガル》——
氷の川のごとき光線を放ち、触れたものを冷却する。
パチパチと火花を鳴らしていた導火線は中の火薬ごと凍りつき、着弾前に発火の役割を失った。
「ガッハッハ、お手柄だ! ショーン君!」
「悲劇は食い止めたようだな、小僧」
簡易トロッコで線路を走ってきたクラウディオとペイルマンが、ショーンを褒め称えた。冷却呪文はクラウディオの右手から発射されたようだった。
「…………おふたりとも……ご無事で……」
ショーンは全身が脱力し、それしか言葉が浮かばなかった。
「これはこれは。君のとこの駅長氏は、ずいぶんな宝物を置いてきたようだな」
クラウディオは真鍮眼鏡をレインボー色にキランと光らせ、倉庫に積まれた爆弾を眺めた。
「こんな特大の馬糞があっては、明日の鉄道交通はままならん。さっそく解体するとしよう」
「お願いします、クラウディオ先輩。ワタシはサウザス病院に行って患者の治癒を行います。——お前さんはどうする、もう休むか⁉︎」
ペイルマンはショーンに向かって怒鳴った。
サウザスのアルバ、ショーン・ターナーはゆっくりと振り向き……
「ぼくは……」
彼はどこか遠くを見るような、胡乱な瞳で——
「……治癒を手伝います」
——しかし、何かを決意した表情で、先輩たちにそう答えた。




