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1 エミリオ・コスタンティーノ

【Crate】クレイト


[意味]

・(果物や瓶を運ぶ)透かしのある木箱。

・ルドモンド大陸のラヴァ州にある地区の名称。ラヴァ州都。


[補足]

クレイトはラヴァ州で最も古くから存在する地区である。ラヴァ州はクレイトを中心に開発され、クレイトを中心に物事が進んでいる。さあ税を納めよ! 税を納めよ! 街づくりを進めるのだ! 書籍『Let's create a city around the crater』より





 エミリオ・コスタンティーノ。

 彼の人生は皇暦4567年3月7日に終わった。


 クレイトの高等学校で必死に勉強し、先々代から務めてきた町長の第三秘書の地位に別れを告げ、レストラン『ボティッチェリ』の片隅に引きこもって暮らしていた。

『ちょっとぉ、エミリオさんずっとこのお店にいるのォ? 車椅子でも役場に勤められるでしょう、何人か働いてる人いるわよ?』

『とんでもない、オーガスタスの野郎が死ぬまで、役場になんか行かせられるか!』

『死ぬまでって……やだ、アハハもうジャンたら』

 鬱陶しい軽薄な会話が、部屋の外から聴こえてくる。

 エミリオはシャツの襟元をネクタイごと緩め、青インクの万年筆で書かれた手紙を、ペーパーナイフでピリッと切った。


 ジワジワと蝉が鳴いている。

 彼は車椅子を動かし、私室から出て店のキッチンへ向かった。

 食器昇降機のボタンを押し、上へ向かう。

 屋根裏は静かだ。ランプに火をつけ、便箋を開いた。

 森の湖のように深い青い色は、親愛なるユビキタスから。

 夏空のように冴えた青い色は、親友のレイノルドのものだった。

 手紙は2通とも、時候の挨拶の下には、ビッシリと数字と文字と記号で綴られた暗号が書かれている。


 エミリオは鉛筆を使い、幾重にも蜘蛛の巣のように編まれた文章を、ひとつひとつ紐解いていく。

 没頭していたらあっという間に開店時間になった。

 これから彼の仕事が始まる。

 今日の客は、出版社社長ジョゼフ・タイラー主催の懇親会だ。

 いい情報が得られそうだ。

 エミリオは分厚い辞書をくり抜いて作った、秘密の物入れに手紙をしまった。



 時が経ち、皇暦4569年12月31日。

 コスタンティーノ6兄弟は『ボティッチェリ』の2階個室で年越し会を行っていた。

 机には色とりどりの料理に酒瓶、先祖と両親の写真を並べて、今年の苦労と来年の多幸を祝う。

 長男のマルコが鉈のような包丁をふるい、大魚の胴体にぶち込んだ。

『ウワッハッハ、行くぞぉ解体だ!』

 料理人ではないマルコの刃先は少々ずれて、テーブルへめり込んでしまった。

『おい兄貴っ、机にぶつけるな!』

『いいじゃないか、それくらい。クロスをかければ分からない』

『大切なテーブルだぞ。料理のことはピエトロに任せろ!』

『エミリオどうした。メシをもっと食べたらどうだ』

『——兄さんたち、頼みがあるんだ』


 珍しい末弟の頼みに、兄たちは喜んでヤイヤイ騒いだ。

『どうした、エミリオ。なんでも聞くぞ』

『欲しいものがあるのか、言ってみろ』

『そうだ旅行にでもいくか? 久々に帝都へ行こうじゃないか』

『帝都はお前が行きたいだけだろ、ファビオ』

『ほら、魚を切りわけ終わったぞ。どうだこの断面、生々しいだろう。新鮮だ』

 赤く艶やかな断面に歓喜して皿を配る兄たちに向け、車椅子に座ったままのエミリオは、赤ワインの杯をスッとあげて、穏やかな声で頼みを告げた。

『オーガスタスを始末したい』





「——それで殺したのか⁉︎」

 あの日から3ヶ月後の3月10日。

『ボティッチェリ』の1階広間で、ブーリン警部が声を上げた。

「まさか、アイツを殺すなど!」

「そうだとも、あの男のせいで処刑されるなどバカバカしい!」

「そうだそうだ、ちょっと酔っ払う場所を貸しただけだ!」

「黙れ、一人ずつ喋ってくれ!」


 警護官に逃げられた一件から、兄弟をひとまとめに拘束した結果、大合唱を聞き続ける事になってしまった。

 現在、何とかエミリオの秘密基地である屋根裏部屋の存在を聞き出し、捜査と尋問を行っている。

 小さな昇降機から次々と搬送される大荷物に、警官たちは己の爪の甘さと、兄弟たちの狡賢さに呆れていた。


「ずっとコソコソ聞き耳を立てていたとは……コスタンティーノ家もおしまいだな」

「エミリオはただ屋根裏に住んでいただけだ、何が悪い!」

「そうだそうだ。自宅でどう過ごそうと、こっちの勝手だ!」

「御託を抜かすな! ウチの母ちゃんは市場で青物屋やってんだ。お前たちを信用してたのに、裏切り者め!」

 応援に来たサウザス警官たちとも喧嘩をし始め、ブーリン警部はゲッソリと肩で息をした。

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