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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第17章【Cremation】クリメーション(サウザス町長吊り下げ事件 ④事件の真相編)
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6 リトゥラビ・リトゥラビ・ダーダーダー!

 ペーターは、ふわふわした夢の中にいた。

 家の暖炉の前で、ワクワクと絵本のページをめくっている。

 絵本はたくさんシリーズが出ていて、次から次へ読んでいっても飽きることがない。

 そのタイトルは『リトゥラビ・リトゥラビ・ダーダーダー!』

 リトルラビットの3兄弟、ダン、ダニエル、デイモンが魔法使いになって活躍するお話だ。

 家族みんな3兄弟が大好きで、暖炉の前で父母が毎晩朗読してくれた。

 特に次男のダニエルは格好よくて機転が利いて、姉や妹、女の子たちに人気だった。

 でもペーターが好きなのは長男のダン。ダンは正義感の強い仔ウサギで、弟たちを守り、警官をめざしている。

 フフフン。ジブンもダンみたいな警察官になりたいっすねぇ……。



「フ、フフン————うはぁっ!」 

 ペーターは急に目を覚ました。

 居心地のいい暖炉は消えうせ、硬い寝台に横たわっていた。

「目が覚めたか。パイン」

 寝台の右で、静かに腕を組み、竹編み椅子に座る男が口を開いた。

 急に苗字を呼ばれ、ペーター刑事は一瞬誰だか分からず、目を白黒させてしまった。


 相手の服装は、少々くたびれて皺の寄った辛子色のトレンチコートにスーツ。だがよく見ると、顔を知る州警察の先輩だった。

「復活が早いな。まだ午後4時だ。もう数日は眠っているものだと思ったが」

 森栗鼠族、ラルク・ランナー。ラヴァ州警察の私服警官である。

 ペーターよりふた回りほど小柄な彼だが、ふさふさの大きな灰色の尻尾を持ち、長い前髪に隠れた虚ろな瞳には、目にうつる物事すべてを冷静に見つめている。



「うわっ、ランナー先輩。お久しぶりっす!」

「でかい声を出すな。隣でクジノフが眠っている」

 アレクセイ・クジノフ。護送車を運転していた警官だ。失神呪文を打たれたせいで、今日中に目覚めるのは難しい。

「パイン、おおよその話は聞いたよ。死人が出なかったのは幸いだったな」

 ランナーはじっと目を閉じ、タバコを吸うポーズを取って、ハッカ味の棒付きキャンディを舐めはじめた。

「……ええ、でも仮面の男が……ヤツは森へ逃げてったっす」

「致し方ない。さっそくだがキミの話を聞きにきた。コンベイの地で何があったか教えたまえ」

「ここででっすか? 警察に戻ってお伝えしますよ」

「だめだ、左手を負傷している。粉砕骨折だそうだ、治療に努めろ」

「……骨折?」

 ペーターは寝そべったまま己の左側を見た。

 葉っぱの影響のせいか痛みを全く感じなかったが、右腕と違い感覚がない。

 ……骨折した覚えはなかったが、紅葉の腕を掴んだ時のものだろうか……。



「ではまず、サウザスを出立してからの話を聞こう。君はアルバを隣に乗せていたね、事件について彼は何か言っていたか」

「ショーンさん……無事っすか?」

「むろん。まだ上の階にいるはずだ」

「……お礼を言いたいっす。ジブンがお守りするって言ったのに、逆に救ってもらったっすから……」

「何?」

 ハッカのキャンディが、カコンと鳴った。彼は怪訝な顔でペーター刑事を見つめる。

「違うぞパイン。アルバを我々が守るのはおかしい。“アルバが” 我々を守るんだ。向こうのほうが地位も名誉も上だ」


 ランナーは脚を組みながら、右の人差し指を天井へ向けてビシッとさした。

「そうっ……すか……でも、彼は守るべきアルバっす」

「ハ、失礼なことを言うな。そんなに情けない人物なのか、ターナー氏は」

 ランナーは呆れて眉毛をへの字に曲げた。

「そうっすねえ、情けない所はイッパイあるっすねえ……」

 ……だがペーターは忘れていない。ショーンは自らの弱点を曝けだして、警官に策を教えてくれたのを。クルンとしんどそうに曲げた猿の尻尾を思い出す。

「フフ、でも優しいおヒトっすよ…………」

 そうだ……彼は三男のデイモンに似ている。

 デイモンもよく兄たちの後ろで尻尾を縮こまらせていた……でもいざという時は自分を犠牲にしてでも、みんなを守って……。

 昔の絵本を思いだし、ニヤニヤ笑い続けるペーターに、ランナーは眉をひそめてカコンカコンと飴棒を齧った。


挿絵(By みてみん)





 同時刻、サウザス警察、死体検案室前。

「未曾有の出来事よ……未曾有の出来事よ…………」

 星白犀族のテレサ・トムソン先生は、いつもはふくよかな桃色の肌を極限まで白くさせ、しきりにハンケチで頬を拭いていた。

 彼女の親友で似たような体型をした警官のティシーは、見かねて尋ねた。

「気付け薬はいるかしら? テレサ」

「いいえ結構。ああ神様、デズ様モルグ様、ドルーミ様、バッソ、ルーマ・リー、マルク、イホラ、リンド、ミフォ・エスタ、神の皆々様……どうかどうか御慈悲をくださいませ……うっぷ」

「そんな体調で大丈夫? ベルナルド先生に任せておきなさいよ」

「いえ、これはサウザスの規定よ。外部の医師を呼んだ場合、町医師も必ず立ちあうこと……ロナルド先生は必死に火事の治療をしてくださってるの、ヴィクトル先生は寝込まれてしまった……だから、私が行かなくちゃ……っぷ」


 コツコツと廊下の奥から、州警察の監察医ベルナルド・ペンバートンが静かにやってきた。

「テレサ、これを使いたまえ。問題ない、私も愛用しているものだ」

「いえ!……ええ、ハイ。いただくわ」

 諦めてテレサは思いきり薬を吸った。

 準備が整い終わったのを見て、ガコンと、警官のティシーが重い鉄の両面扉を開ける。

 気付け薬を吸い終わった医師2名は、アーサー・フェルジナンドの遺体が待つ検案室へと入っていった。

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