98話
そんなこんなでその日もやるべきことをしっかり終えて、夜のDFOタイム。
今日は珍しく《ヴォワヤージュ=エトワール》のメンバー全員のタイミングが合ったので、みんなでわいわいと話しながら闘技場へと向かった。
話題はもちろん今シーズンの闘技場のことが中心で、それぞれ調子を報告する。
一番ハイテンションで語っていたのはルピナスさんで、今シーズン開始前の自信なさげな様子はどこへやら、中級者ランク・プルミエでも十分に自分の実力が通用したことをうれしそうに報告する。
「いやー、やってみたら案外なんとかなるもんだね!これは今月の目標達成どころか、エトワール昇格も遠い話じゃないかも!?」
「わかりやすく調子に乗ってますね……」
「上位ランカーと当たってわからせられるフラグだな」
「そこ!MEIさんとシリウス、聞こえてるからね!!」
ルピナスさんとMEIさん、シリウスさんがじゃれ合う様子を僕とアルカナ、兼光くんは微笑ましく見守る。
ルピナスさんがリーダー兼ムードメーカーとして《ヴォワヤージュ=エトワール》というクランを引っ張ってくれているのも僕がこうして楽しくDFOライフを送れている要因だよね……
そんな風に考えているといつの間にか闘技場の入口にもう到着していて、周囲は僕達と同じくこれから闘技場に挑戦するプレイヤー達や、アルカナと兼光くんのように観戦しに来たプレイヤー達で混み合っている。
そしてその中に、僕達は知り合いの一団を発見した。
「おっ、《ヴォワヤージュ=エトワール》御一行じゃん。そっちもこれから闘技場か?」
そう言いながらぶんぶんと手を振るトロールの男性プレイヤー――リッドさんと、そのかたわらでこちらに小さく手を振るドワーフの女性プレイヤー――ミロさん、そしてさらにその隣でにこやかに笑って軽く片腕を上げるヒューマンの男性プレイヤー――水月さんだった。
リアルできょうだいらしいリッドさんとミロさんに、ミロさんとフラグを立てつつありリッドさんに敵対視されている様子の水月さんという組み合わせだが、なんやかんやで3人で行動することが多くなっているようだ。
「はい、たまたま予定があったのでみんなで一緒に来たところです。しかもリッドさん達と一緒になるなんて、今日はなんだがいろいろとタイミングが合う日ですね」
「ふふふ、そういう日はさらに立て続けにタイミングが合ってくるものよ。例えば……」
ミロさんがそう言いかけたところで、新たなメンバーがエントリーする。
「あーっ!アルカナさん――とその他のみんなじゃないか、奇遇だな!!」
それはブラウニーの女性プレイヤー――かつてアルカナをリアルも男性と勘違いして僕と恋のライバルになったリンさんだった。
今日は本当に色んな人とタイミングが合う1日らしい。
「その他のみんなってひどくないかなぁ!?」
「だって人数多くていちいち呼ぶの面倒だし……なにか新企画があって集まってるのか?だったらおれも混ぜて欲しいな」
オフ会のときにリアルで知り合いらしいと判明した兼光くんがリンさんによる呼称にツッコミを入れたところで、リンさんは興味津々という目付きでそう尋ねてきた。
まあそう勘違いしてもおかしくないくらい人数が集まって来てるよね。
それを訂正するのは、リアル性別が判明してもリンさんにとって憧れの対象であることは変わらないらしいアルカナだった。
「残念だけど特になにかあるわけじゃなくてたまたまタイミングが合っただけだよ。今ちょうどリンさんが来たのも含めてね」
「そうなのか!?すごい偶然もあるもんだな……」
「さっき言いかけたみたいに何もかもぴったりタイミングが合う日ってあるものよ。だからこれから挑む試合でも、念願の組み合わせが実現するかもね?」
ミロさんが話題を戻して、僕にそんなことを示唆する。
念願の組み合わせ……それはもちろん、父さんとの試合に他ならない。
「……そうなるといいですね。せっかくならアルカナが応援してくれてる絶好調のときに闘いたいところですし」
「おお……相変わらずの仲良しっぷりだなカカソーラさん……」
リンさんは僕の発言にちょっと気圧されたようだった。
他のみんなも生暖かい目で僕を見る中、アルカナだけが僕の発言がうれしかったようで満足気だ。
「さーて、立ち話はこの辺にして、そろそろ闘技場始めちゃいますか!」
そんな空気を打ち破るようにルピナスさんがそう提案する。
もちろん今日もここにはそのためにやって来たので、僕はすぐにそれにうなずく。
他のみんなも賛成し、僕達はそれぞれの健闘を祈りながら受付へと向かい、応援のアルカナと兼光くんの声援を背に選手控室に移動した。
ミロさんの言う通り、父さんとの試合が実現するといいな!
*
闘技場観戦勢のスタイルも参加勢のように様々だ。
ネット掲示板などで話題になった過去動画を中心に観る者もいれば、全てのランクの試合をしらみ潰しにチェックし埋もれている名勝負を探す物もいる。
その中でも特にこだわりの強い者は、過去ログでなくリアルタイムでの観戦にこだわるプレイヤー達だ。
ある程度の傾向はあるものの、お目当てのプレイヤーがその日その時間ログインして闘技場に来ているとは限らず、マッチングする試合相手もランダムの中で名勝負にリアルタイムで遭遇できる確率は極めて低い。
それでも彼らは張り込みやネット掲示板・SNSなどを駆使した情報網を使って見応えのある試合を探し求めている。
そんなリアルタイム勢がこのところ今か今かと待ち構えている試合といえば、”絶対王者”クウと”闘技場のニューヒーロー”カカソーラのマッチアップである。
2年間頂点に君臨し続けるクウに瓜二つのプレイヤーが現れ、怒涛の勢いで最高ランク・エトワールへと登りつめた上に「打倒クウ」を目標に掲げているのだから話題にならないはずがない。
リアルタイム勢は今シーズン中ログイン時間がほぼ固定されているカカソーラの試合履歴に張り付き、クウとマッチングするときをずっと待ち構えているのである。
そしてついに、その時がやって来た。
「来たぞ!クウVSカカソーラ、ついに成立だ!!」
「よし、リアルタイム勢スレ……いや、闘技場関連スレに手当たり次第にこの情報を拡散しろ!この組み合わせなら普段リアルタイムにこだわってないやつでも観に来る!!」
「っていうかもう専用実況スレ立てるぞ!!」
彼らのそんな行動の結果、その日闘技場エリアにはかつてない程の数のプレイヤーが押しかけることになったのだった。
*
来た、ついに来た。
ミロさんの言う通り、父さんとの試合が実現してしまった。
僕は高鳴る鼓動を深呼吸で落ち着け、普段よりも時間をかけて試合を受諾する。
初めて闘技場を知ったとき以来の憧れがとうとう実現するときが来たのだ。
移動した闘技場の舞台は、いつものエトワールのフィールドなので歓声に包まれているのだが、その音は一切気にならず、同じく移動してきた父さんに意識が集中している。
「よう。とうとうこの時が来たな、天」
「そうだね、父さん。ここまで来るの、長かったよ」
「おいおい、お前と同じでストレート昇格してる俺が注意してもアレだけど、超高速でエトワールに登りつめたお前がそういうこと言うと顰蹙買うぜ?」
「あはは、そうだったね。まあとにかくここでクウさんの伝説も終わらせてみせるから、覚悟してよね」
「大した自信だな。いいぜ、受け止めてやるから全力でかかってきな!!」
カウントダウンがいつもよりゆっくりと感じられるスピードで、しかし確実に進み、試合開始の合図が出る。
待ちわびた一戦が、ついに始まる!!




