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97話

 翌日、日課の朝の稽古が終わってから僕は正直にカカスペシャル――もとい花果無形流相伝の技をDFOの中で父さんに見て覚えられたことをお祖父ちゃんに白状した。

けっこうやらかしちゃったよなぁ、と覚悟して白状したのでびくびくしながらお祖父ちゃんの反応を待っていたのだが、意外にもお祖父ちゃんは落ち付いた様子だった。


「ふむ、そんなことか」


「えっ、そんなことって……おおごとじゃないの!?」


 思わずツッコミを入れてしまう僕にお祖父ちゃんは不敵に笑いながら説明をする。


「まあ聞け。技を使えばいずれ真似をする敵が出て来るのは当然のこと、さらに空のやつは流派を継ぐ気がないくせに昔から相伝の技を盗もうと虎視眈々と狙ってやがったからな。あいつが病気で寝たきりになったことで後回しになっていただけで、いつかはこうなることはわかっていたんだ」


「わかってた……ってことは対策はもうあるってこと?」


「ああ、相伝の技を教えるときにちゃんと説明しただろう?この技は正式な伝授を経ずに見て覚えただけだと、はまってしまう『罠』がある」


 罠……そうか、アレのことだな。

ということは、父さんがカカスペシャルをラーニングしたことで「罠」によって本来存在しなかった父さんの弱点が生まれたということ。

必殺技をラーニングされた、という事実から受ける印象とは逆に僕の勝ち目が増えたということだ。


「そうか、『罠』を利用して父さんが相伝の技を使ったところで反撃でやっつけちゃえばいいんだね!」


「そういうことだ。いいか天、これは花果無形流の後継者であるお前の責務だ」


 お祖父ちゃんは僕の肩をぐっと強くつかんだ。


「責務……?」


「ああ。技だけ盗もうとするあの不届き者のバカ息子をぶっ倒してやれ!」


 今まで一緒に暮らしてきた中で見たこともないくらいの満面の笑みだった。

お祖父ちゃんは父さんが跡を継ごうとしなかったことをけっこう根に持っているらしい。

あれかな、父さんがずっと病気で寝たきりだったから責めるに責められなかったのが一気に快復に向かってることで表に出てきたっていうのもあるのかな?

ともかく僕はきちんと花果無形流を継ぐために真面目に修業中の身、お祖父ちゃんから課せられた責務もきっちり受け取って父さんに挑むとしよう。


「わかりました、師範。絶対父さんに勝って、後継者に相応しいのは僕だって示します!」


「よく言った!」


 お祖父ちゃんはご機嫌になり、僕と2人で朝食へと向かった。

なんかプレッシャーが増えちゃったけど、父さんに勝つのは元からの予定通り。

正々堂々、がんばるぞ!



 そしてその日の学校、いつも通り秘ちゃんと一緒に過ごす昼食の時間に今朝こんなことがあったと報告をしてみた。


「なんか急に責任が増しちゃってない……?ゲーム内の対戦でしかないのに……」


「あはは、まあお祖父ちゃんもちょっとムキになってるだけで負けたら後継者失格になるわけじゃないし。実際には大袈裟な声援が増えただけみたいなもんだよ」


「そうなの?まあ天がプレッシャーに押しつぶされそうってわけじゃないならいいんだけど」


 秘ちゃんは少し心配そうな顔をしながらもそう言って僕の説明に納得してくれた。

頼れるし僕に対してはいつも気遣いが細やかな、本当に最高の彼女である。

思えば今みたいに父さんとゲームで闘うことを楽しみにできるのも秘ちゃんが元々DFOのヘビーユーザーじゃなかったら出来なかったことなんだよな……


「どうしたの天?なんか遠い目しちゃって」


「あ、うん。ここまで来れたのも秘ちゃんのおかげだなーって、噛み締めてたところ」


「ここまでって……闘技場の最高ランクで”絶対王者”のクウと闘えるまでってこと?」


「それだけじゃなくて、DFO内でいろんな人と知り合ったり、DFOを通じて父さんと距離を縮めたりも含めてのことだよ」


 ふり返ってみれば、本当にたくさんのことがあった。

秘ちゃん――アルカナと2人っきりでDFOの世界を満喫することから始まって、一緒にダンジョンに挑んだり、思い入れのあるシリーズ作品の武器を自分で使えるようになったり。

そのうちルピナスさんやシリウスさんを始めとする友達もできて、クランも結成して自分達だけの拠点も持った。

闘技場での闘いは本当に楽しくて、ここでもいろんな出会いがあった。

基本快進撃だったけど、白熱した闘いや敗北からのリベンジもあった。

アルカナを巡る恋のライバルとの闘いなんてのもあったな……ちょっとややこしいことになってたけどふり返ってみればもういい思い出だ。

それから闘技場以外のコンテンツ、レイドダンジョンなんかにも挑戦したな。

闘技場で知り合ったライバル達やトッププレイヤーの助っ人さん達と一緒にわいわいみんなで攻略するのもすごく楽しかった。

あと忘れちゃいけないのはオフ会、DFOファン感謝祭をみんなで観に行けていい思い出が作れた。


「秘ちゃんと一緒に遊びたくて始めたDFOのおかげで、本当にいろんなことを楽しめたよ。ありがとね」


「なになに、いきなり改まっちゃって。忘れてるかもしれないけど、天がDFOを始めてからまだ何ヶ月かしか経ってないんだよ?そんな風に振り返るのは全然早いよ、DFOにはまだまだ楽しめるところがたくさんあるんだから!」


「……そういえばそうだったね。じゃあこれからもメインは闘技場でがんばっていくけど、他のコンテンツもいろいろ教えてくれる?」


「もちろん、任せてよ。天の生き急ぎっぷりもそろそろ落ち着ける段階だしね。まずメインクエストの続きを更新されてる分全部やって、天が1回挫折したっていう釣りにも再挑戦して……それからカジノにも行かなきゃね、あそこにはいろんなミニゲームや限定アイテムがあるからきっとすごく楽しいよ!それから……」


 秘ちゃんはうれしそうにDFO内にある様々なコンテンツを紹介してくれた。

それは聞いているだけでワクワクしてくるし、これから秘ちゃんといっしょにこなしていくと考えるとさらに楽しそうに感じられた。

そうだ、僕にはまだまだやりたいこと、楽しめることがたくさんあるんだ。

そう思うとなんだか逆に、今のめり込んでいる闘技場への気合いも盛り上がる。

DFOの世界を僕がこれからも目一杯楽しむために、その一部である闘技場――父さんとの決着も全力で楽しんで成し遂げよう。

かなり欲張りな考え方かもしれないけれど、僕はまだまだDFOを始めたばかり。

闘技場に挑み始めたときから打倒クウさんを掲げたときの気持ちを忘れず、志高く行こう。


「本当に、どれも楽しみだね!」


「でしょ!!全部わたしがしっかりサポートするし、なんなら《ヴォワヤージュ=エトワール》のみんなやフレンドさん達も誘ってみようか……」


 なんて話していたところに僕達の端末に通知が入る。

それはちょうど《ヴォワヤージュ=エトワール》のSNSグループからの通知で、ルピナスさんが何かを書き込んだようだった。

えーっと、なになに……「非公式だけど面白いイベント開催されるみたいだよ!」……


「ゲーム配信者グループ対抗で8人レイドボス・聖天使セラフィム攻略タイムアタック、各チームのチャットをリアルタイムで動画配信……なにこれ、参加チーム全部チーム名が野球の球団じゃん!」


「しかもマジックスキン使って球団のユニフォームっぽく見えるようにコスプレもしてるじゃん、本格的。どうする、配信観てみる?」


「そうだね、開催日も休日で闘技場のシーズン終わった後だし……観てみようか!」


 本当にDFOには楽しそうなことがいっぱいだ!

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