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96話

 動画を観終わった僕の頭の中によぎった感情は、焦りだった。

それは父さんに勝つためにがんばって編み出した必殺技・カカスペシャルをあっさりとラーニングされてしまいただでさえ少ない勝ち目がさらに減ったことによるもの……ではなかった。

なにしろカカスペシャルの原型は花果無形流の後継者のみが受け継ぐことの出来る相伝の技、父さんが使えてしまってはいけない技なのである。

それをラーニングされてしまったということは……これ、お祖父ちゃんにバレたらおおごとじゃない?

いやいや、バレなかったとしても花果無形流の伝統を破ってしまった事実は変わらないわけで、今の時点でもうおおごとである。


「どうしよう……」


 僕は思わず呆然として、そう呟いてしまう。

それを見た”ツインスネーク”さんは、僕のリアル事情を知らないためストレートに父さんとの闘いでの勝ち目が大きく減ったことで絶望しかけているものと受け取ったようで、僕を励ますために言葉をかけてくれる。


「やはり流石のカカソーラくんもこれを観てしまっては自信喪失もするか……だが諦めてはいけないぞ、カカスペシャルの考案者であるカカソーラくんならさらなる対策を考え出せる可能性も高いのだから……」


「あ、それはもう考えてます」


「えっ、思ったよりもへこたれてない!?」


 もちろんカカスペシャルを普通に繰り出して勝利するのが最高のパターンだと考えてはいた。

しかし僕だって父さんの無茶苦茶さは過去の試合動画を観て予習済みだったのだ、相伝の技をラーニングされたという視点ではおおごとでも、必殺技をラーニングされたという視点では父さんならそのくらいやるだろうという意味で慌てるには値しない。

カカスペシャルの弱点だって、お祖父ちゃんから正式に教えを受けている以上間違いなく父さんよりも僕の方が把握していることだし。


「励ましてくれてありがとうございます。でも見ての通り、全然へこたれてませんので。『打倒クウさん』の目標を捨てる気はありませんよ」


「お、おう……なんという根性……まあへこたれていないのならがんばってくれ!」


 そんな感じに”ツインスネーク”さんと会話を交わして、僕達はそれぞれのランクの試合へと向かっていった。

相伝の技をラーニングされちゃった件については明日正直にお祖父ちゃんに白状してから考えることにして、今はとにかく目の前の試合だ!



「捉えたぞ!投げ技からの絞め技、逃れられはしない!!」


「そう簡単に捕まりません!」


 今闘っているのはトロールの闘士(パンクラティアスト)――格闘士(グラップラー)の上位職のプレイヤーだ。

闘士はリーチこそ短いものの、くらった相手の行動を大きく制限する投げ技・絞め技と呼ばれる戦闘スキルを使用できる職業だ。

最高ランク・エトワールに到達しているだけあって相手はかなり俊敏な動きで僕の懐へと飛び込んできて投げ技を仕掛けようとするが、僕の習得している花果無形流は武芸十八般なんでもござれ、素手格闘術の動きも自分で習得している以上だいたいお見通しだ!

最小限の動きで相手の動きを回避し、即座にこちらの攻撃へと移る。

くらえ、父さんに既にラーニングされてしまった以上もう出し惜しみはしない!


「行きます、カカスペシャル!!」


「しまっ――」


 僕は必殺技・カカスペシャルを完璧に決め、試合相手の闘士を打ち破る。

決着を告げる鐘の音が鳴る中、僕は試合相手に別れの挨拶をした。


「ありがとうございました。またマッチングしたらいい試合をしましょ……」


「ふっ、今回は負けてしまったが、実際に受けたことでカカスペシャルの弱点は見切ったぞ。次に闘うときは覚悟するんだな」


「……それは本当に楽しみですね」


 一礼をして、僕と試合相手の闘士は選手控室に戻された。

流石エトワールに到達するプレイヤー、カカスペシャルの「見せかけの隙」くらいなら早くも気付く人が現れてきた。

まあ「見せかけの隙」なのだから、気付いてもらわないと意味がないんだけどね。


「さてと、今日はこの辺で終わりにするか」


 いくつもの試合をこなして、気がつけばもういつもゲームを終了する時間が近づいていた。

今シーズンが始まってからそこそこ経ったが、なかなか父さんとはマッチングされないものである。

エトワールのプレイヤーはレベルが高いから父さん以外との試合も十分刺激的で楽しいんだけれどね。

そんなことを考えつつ選手控室をあとにすると、戻って来た闘技場の受付前でまたまた知り合いと遭遇した。

その2人もちょうど選手控室から出てきたばかりのようで、片方のドワーフの女性キャラクター――ぽぷらさんはうーんと伸びをして、もう片方のヒューマンの男性キャラクター――ヴェントスさんは肩をほぐしていた。


「こんばんは。ぽぷらさん、ヴェントスさん」


「あれっ、カカっちじゃん!こんばんはー」


「どうもこんばんは、カカソーラさん」


「僕はちょうど闘技場はこの辺にしてログアウトしようかと思ってたところなんですけど、お二人もあがるところですか?というか知り合いだったんですね」


 そう尋ねると、2人は顔を見合せてちょっと照れたような表情をした。

おや、なんだか面白そうな関係性が発生している気配?

そんなちょっとよこしまなことを考えちゃっている僕の視線に気付いているのかどうか、返事をしたのはヴェントスさんの方だった。


「知り合いというか、先月のシーズンで闘って以来たまに話すようになった感じかな。今日もさっき試合をしたところで、休憩がてら一緒に試合の振り返りをしないかってことになって……」


「そうそう!まだまだお友達の段階だからそんなニヤニヤした目で見ないでね!そしてアルっちに余計なこと教えないでね!!」


 まだまだお友達の段階……どうやらぽぷらさんの方は何かを狙っているようだ。

アルカナに教えないでというのは面白がって事態をこんがらがせることを恐れてのことだろうが、残念、僕もアルカナと同じくらいにこういう状況を面白がるタイプです!


「へえ……お互いどの辺りが気になってそんな感じの仲に?」


「わー、カカっちもアルっちと同じタイプ!!まだそういう仲じゃないから!闘技場での実力を認めあっただけだからね!?」


「……?よくわからないけど、やっぱりぽぷらさんの速弾きスタイルがなかなか真似できないスタイルだと思ったのがまず気になったところかな。リアルでの演奏も聴いてみたいと思わないかい?」


 ヴェントスさんの方はいろいろと無自覚っぽいが、こっそりと天然で距離をつめてるなこの人。


「そういう感じですか……ちなみに今日の試合はどっちが勝ったんですか?」


「それはもちろんヴェントスくんだよ。やっぱり不動の2位は強いね、戦闘スキルの並行入力ももっと話題になるべきつよつよテクニックだし」


「そんな自慢できるものじゃないですよ。クウさんにも結局届かなかったわけですし」


 ヴェントスさんは少し落ち込んだようにそうこぼす。

僕自身の必殺技であるカカスペシャルをラーニングされたショックが大きかったけど、確かに上半身と下半身で別々の戦闘スキルの入力動作を並行して入力するヴェントスさんのテクニックもとんでもなかった。

父さんだってこれまでの試合で見せたことがないくらいテンション上がってたし。


「いやいや、ヴェントスさんがそんなに謙遜することないですよ。ぽぷらさん、ここは励ましてあげて親密度もアップしちゃってあげてください!」


「そうだね、これはある意味チャンス……って、カカっち!余計なことはホントやめてね!?」


 そんなこんなでぽぷらさんとヴェントスさんを二人っきりにさせてあげるためにも適当に挨拶をして僕はそそくさとログアウトした。

いやー、予想外の楽しみを見つけられて満足満足。

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