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94話

「さあ、どんどん行くよ!【龍に捧げる序曲(オーバーチュア)】!!」


「くっ、【スチールジャケット】!!」


 僕から距離を取ることに成功したぽぷらさんは、【龍に捧げる序曲】から【龍と奏でる間奏曲(アクトチューン)】、【龍が愛した終曲(フィナーレ)】へとつなげる吟遊詩人(バード)の単体攻撃組曲(コンボ)の演奏を開始する。

このコンボは発動に時間がかかるものの、最後まで発動しきればかなりの大ダメージを与えることの出来る強力な攻撃だ。

しかもぽぷらさんにはマニュアルモードによる速弾きという発動時間というデメリットを大きく軽減できる技術がある。

僕は保険として防御力を高める銃剣士(ソードガンナー)の専用スキルを発動しつつ、コンボを妨害へ迅速に移る。


「届け、【マナバレット】!」


 まずは魔法弾を撃ち出して魔法や吟遊詩人を始めとする遠距離攻撃職業の戦闘スキルには及ばないものの離れた相手へと攻撃できる戦闘スキル【マナバレット】をぽぷらさんへと放つ。


「ふふふっ、甘いっ!」


 しかしぽぷらさんはひらりと【マナバレット】をかわし、その上途切れずに演奏を続ける。

やはりエトワールの上位ランカーだけあって簡単には妨害もさせてくれそうにない――だが、それも想定内だ。


「【マナバレット】は囮だ、本命はこっち!」


 ぽぷらさんは【マナバレット】をかわしたことで演奏を続けることは出来ているものの確実にその体勢を崩している。

そこにすかさず僕は【マジックバレット】を発動し魔導師(ウィザード)の初級火属性魔法【ファイアーボール】を撃ち込んだ。

今度は流石のぽぷらさんも避けきれず、【ファイアーボール】をもろにくらう。

もちろん【ファイアーボール】は初級の魔法なのであまりダメージは与えられないが、その分少ないMP消費でぽぷらさんの演奏を止めることが出来るのだからそれで十分。

その隙に僕は近接戦闘の間合いまでぽぷらさんに近づき、思いっきり斬りかかる!


「はあああぁぁぁ!!」


「なんの、【ノイズ】!!」


 ぽぷらさん――遠距離攻撃職業の吟遊詩人にも近接戦闘に対応するための戦闘スキルが一応存在する。

それが今発動した【ノイズ】……不協和音を奏でることで即座に発動でき、近距離の相手にのみダメージと攻撃速度を低下させる「ヘビィ」の状態異常を与える戦闘スキルだ。

【ノイズ】によって付与されるヘビィの効果時間は極めて短く、武器を一振りすればすぐに効果が切れてしまうほど。

しかし今回の場合振り落とされんとする僕の一撃を鈍らせればぽぷらさんにとっては十分だったようで、鈍った僕の一撃をすれすれで回避したぽぷらさんはすぐさま再び距離を取ろうと動き出す。


「惜しかったね!さあもう一度あたしのターン……」


「いや、逃がしません!!」


 ヘビィの効果が切れると同時に、僕は素早く次の攻撃態勢に入る。

普通のプレイヤーならその間にぽぷらさんが再び距離を取ることを許していただろうが、僕にはゲーム世界の肉体の身体能力をフルに活かせるVR適性と、お祖父ちゃんとの日々の鍛錬でつちかった反応速度がある!

僕はぽぷらさんに追いつき、今度こそ本命の一撃――必殺技を叩き込む。

戦闘によるテンションの上昇で勢いのまま僕はこう叫んだ。


「くらえ必殺――カカスペシャル!!」


「これは……あるるかんとの試合で見せたあの!?」


 どうやらぽぷらさんはこの前の僕とあるるかんさんとの試合をチェック済みだったらしい。

しかしこの状況から僕の必殺技……いや、カカスペシャルから逃れられるほどの対策はまだ発見できていなかったようで、なすすべもなく僕の怒涛の連撃を受けるしかなかった。

もともと近接戦闘を苦手とする吟遊詩人、仮にカカスペシャルの「隙」を見つけられていたとしても、この連撃の中そこをつくことは不可能だ。

僕は舞うようにカカスペシャルを繰り出し続け、そのままぽぷらさんのHPを削り切る。

鐘の音が鳴り、僕の勝利を告げた。


「ぽぷらさん、試合、ありがとうございました」


「あはは、見事にやられちゃったね……すごかったよ、あのカカスペシャルってやつ」


「えへへ、今シーズンのために考案した必殺技ですから!」


 がんばって考案した必殺技を褒めてもらって僕は少し照れてしまう。

父さん相手に使う前に予定外に何度も使ってしまっているが、勝利のために役に立っているからまあOKだ。

さあ、ぽぷらさんに別れの挨拶をして次からの試合もがんばろ……


「ところでカカスペシャルって名前はカカっちが自分で考えたの?すごいまんまな名前だけど」


 ……。

どうしよう、試合中に思い付いて勢いのまま叫んじゃったけど冷静になるとそのまんま過ぎる技名で恥ずかしくなってきた!!

無意識に*あゆぴっぴ*さんの呪殺コンボことアガマルすぺしゃるに影響されちゃってるし!


「えっと……そう、ですね……」


「へぇ、そういうストレートなネーミングあたしはいいと思うよ!流行るといいね、カカスペシャル!!」


 流行るのはちょっと恥ずかしいかな!!


「それなんですけど、技名もう一回考え直したいというか……」


「うーん、どうしたの?あ、そろそろ選手控室に戻される時間だ。じゃあね!」


 さわやかに笑ってぽぷらさんは手を振る。

そしてそれ以上技名について話す暇もなく、僕達はそれぞれの選手控室に戻されていった。

……どうしよう、やらかしたかも!!



 その日はぽぷらさん以外の上位ランカーに当たることもなく、順調に勝利を重ねて闘技場の挑戦を終えた。

しかし僕の中にはひとつ拭い去れない不安があり、翌朝は日課の稽古の前に少しだけ端末からDFOの闘技場関連の掲示板を覗いてみることにした。

恐る恐る見たそこには、次のような書き込みがしっかりとなされていた。


『@¥:カカソーラの創作コンボ見たか!?

    あれ絶対抜け出せないだろ


 @$:情報遅いぞ、あるるかんとの試合でもう出してただろ


 @%:見た見た

    何やったらあんな組み合わせ思いつくんだか


 @#:武術やってる説が有力


 @@:技名もあるらしいぞ「カカスペシャル」っていう


 @&:カカソーラそういうの自分でつけるタイプなんだ……』


 はい、カカスペシャルもう広まっちゃってますね!!

いや、別に笑われたりはしてないけどなんかこう、もっといいのがあったんじゃないかって考えちゃってものすごく恥ずかしい!

じっくり考えたものならこれでいいんだよ、って開き直れるけど、完全にテンション上がった勢いでその場で決めた技名だもんな……

僕は少し頭を抱えつつ、稽古着に着替えて道場へと向かった。

よく考えたら花果無形流の相伝を元にした技にそんな名付け方するのアレだよね……

すみませんご先祖様……


 そんなこんなでちょっと集中できない午前中を過ごしたあと、秘ちゃんとのお昼ご飯タイム。

ご飯のお供の話題はもちろんDFOのことで、そうなると自然必殺技のことも話題に登るわけで。


「そういえば天、必殺技の技名のことなんだけど……」


「はい……どうぞ好きなだけダメ出ししてください……僕は勢いでそのまんまな名前を叫んじゃう考えなしです……」


「いや、文句つけるつもりじゃないよ!?気にしすぎだよ!!」


 しなしなになってしまった僕を秘ちゃんが慌ててフォローしてくれる。


「闘技場に来たときに技名の話したばっかりなのに決めるの早いなーって思っただけだから!普通にいい技名だと思うよ、カカスペシャル!!」


「ありがとう……でも今はちょっとその話題はそっとしておいて欲しいかな……」


「……残念だけど《ヴォワヤージュ=エトワール》のSNSグループ、今この話題で持ちきりだよ」


 そんな気がしてチェックしてなかったんだよね!

いや、ルピナスさん達が馬鹿にするわけないってわかってるけどちょっと僕には今1人で悶える時間が欲しいんだ!!

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