93話
最後の演出のせいでいまいち実感のないあるるかんさんへの勝利を手にした僕は、その後の試合はなんとか自分のペースを取り戻して闘い抜き、勝ち点を稼いでその日のDFOタイムを終えた。
そしてその翌日、6月18日。
「何そのオチ!絶対面白いやつじゃん、あとで試合動画観てみよう」
「面白いじゃないですよ、せっかくがんばって勝ったのに消化不良です」
「まあまあ、途中まで舐めプされてたとはいえ上位ランカー級のあるるかん相手に勝てたのは間違いないんだ。素直に実力を誇っていいところだろ」
「わたしとしてはカカソーラをナメてたやつが実力をわからされていい気味って感じだね」
僕とルピナスさん、シリウスさん、アルカナは予定が合ったので4人で連れ立って闘技場へとやって来ていた。
その道中それぞれの闘技場での調子を報告しているうちに、自然と話題は昨日僕が闘ったクセの強い試合相手・あるるかんさんのことになったのだ。
今シーズン開始前の少し自信なさげの雰囲気はどこへやら、やってみたら中級者ランク・プルミエでもそこそこいけたらしいルピナスさんは上機嫌で面白がり、シリウスさんはいつも通り常識的な意見、アルカナも僕の勝利に満足気で平常運転だ。
「まあ考案した『必殺技』がちゃんと実戦でも使いこなせそうだってわかったのは良かったですけどね」
「うーん、『必殺技』かぁ……それはちょっと問題だね」
ルピナスさんは深刻そうな顔で僕の言葉に反応する。
僕の「必殺技」が問題……どういう意味だろう?
もしかして対クウさん用の切り札をこんなに早く披露してしまうのは良くなかったのだろうか……
「せっかくの必殺技なのにカッコいい名前を付けずにそのまんま『必殺技』なんて呼び方をし続けるのは良くないよ!至急技名を考えなきゃ!!」
技名の話だった。
「いや、そこはどうでもいいだろう……」
「どうでもよくないよ、シリウス!技名ってのはすごく大事!せめて『俺の必殺技part2』くらいのものは付けておかないと!!」
「いや、そんな名前ならそのまま『必殺技』の方がマシじゃないかな……?」
ルピナスさんの主張にシリウスさんとアルカナはあまり乗り気ではないようだが、僕はちょっと共感するものがあった。
僕の「必殺技」、確かに名前を付けてあげる必要がある。
実はこの「必殺技」の元になった花果無形流の相伝の技に「相伝」と呼ばれるだけで名前が付けられていないのにもちょっと寂しい気持ちを覚えていたのである。
「……僕的には欲しいですね、技名」
「でしょ!」
「だよね、カカソーラ。『必殺技』なんて呼び方は駄目だよ」
「凄まじい手のひら返し……!」
アルカナの清々しい手のひら返しも可愛いけど今は置いといて、問題は具体的にどんな技名を付けるかということ。
使うときに叫んで勢いをつけられるように短く言いやすいものにするか、あるいは歴史ある花果無形流の技から考案したことを鑑みて長々と重みのある名前にするか。
どちらにせよカッコいいものにしてあげたいのですぐには思い浮かばない。
「せっかくなのでじっくり考えてみます。まあクウさんとの試合までには決めたいんでそんなに時間はかけられないんですけど」
「うんうん、それがいいよ。じゃあそろそろ選手控室に行くとしますか!」
「だな。それぞれベストを尽くしてかんばろう」
「じゃあわたしはここでカカソーラの試合を観ながら応援してるよ。今日もがんばって!!」
こうしてアルカナの声援に送られた僕と、それを暖かく見守ってくれるルピナスさんとシリウスさんは闘技場の受付から選手控室へと移動した。
今日はアルカナの応援があるからコンディションは最高潮、どんな相手が来たとしても勝ってみせるよ!
*
と、勢い込んで始めた本日の闘技場挑戦。
最高のコンディションにある僕は上位ランカーに当たらなかったこともあって連戦連勝を続けていた。
最高ランク・エトワールだけあって試合相手はみんな高度なテクニックを持っていたが、「VR適正」という体質的に一段上の操作性でもってリアルの戦闘技術をゲーム内でも活かせるという僕のアドバンテージはまだまだ有効なようだった。
もちろん父さんは同じ土俵で闘ってくるわけだけれども。
「ふう、また勝利っと……」
高い機動力を持つ竜騎士との試合を終えて、僕は休憩と試合の振り返りをするために選手控室にあるソファーに座り込む。
勝った試合でもきちんと振り返りをして、得た経験を最大限に活かせるようにするのだ。
さっきの試合は「必殺技(仮名)」を使うことはなかったが、相手の動きを捉えるのに少し苦労した。
エルフの種族特徴と僕自身の反応速度で補っているものの、タンクである銃剣士で機動力の高い職業を捉えるのは難しくなってきた雰囲気だ。
これからはミロさん対策に鍛えた相手の動きを誘導する戦術を使って、相手がこちらに攻撃を仕掛けてきたところにカウンターをお見舞いするやり方も使っていくべきだろう。
「よし、休憩終了!」
試合の振り返りも一通り終わらせて、僕は次の試合相手のマッチングを始める。
ほんの少しだけ待ったあとに表示された試合相手は、エトワールで当たる初めての上位ランカー。
ドワーフの女性キャラクターで職業は吟遊詩人――ぽぷらさんだった。
ドワーフの高い敏捷力とマニュアルモードで武器のバイオリンを速弾きして吟遊詩人専用の戦闘スキル・魔歌を移動しながら発動するという離れ業とで高い機動力を持つプレイヤー。
まさにさっき考えていた高機動型の相手への戦術が必要となってくる相手だ。
「いいタイミング、なのかな。じゃあがんばって行きますか!」
僕は試合を受諾し、闘技場の舞台へと移動する。
”高機動型吟遊詩人”のぽぷらさん、全力で打ち破ってみせるぞ!!
「こんばんは、カカっち!アルっちは元気かな?」
「こんばんは、ぽぷらさん。アルカナは元気だし今日は僕の応援しに来てくれてますよ」
「へぇ、アルっち彼氏くんの応援こまめに行くタイプだったんだね。ひゅーひゅー」
挨拶から話題は僕達の共通の知り合いであるアルカナの方に行く。
そういえばぽぷらさんには始めから僕がアルカナの彼氏だって話が行ってるんだったな。
だったら隠す必要がないので堂々と彼氏面をさせてもらおう。
「えへへ、応援のおかげで僕の今日の調子は絶好調です。だから勝ちに行くので、よろしくお願いします!」
「わーい、カカっちも堂々とのろけるタイプだったか!いいねいいね、あたしも全力で勝ちに行くから楽しんでいこう!!」
僕達はお互いに宣戦布告をし合う。
うん、やっぱりこういうのが闘技場らしくて僕は好きだな!
そんなことを再確認していると、カウントダウンが終わり試合開始の合図が出る。
「行きます!」
「かかってきなさい!」
僕がいつも通りの戦闘準備を済ませぽぷらさんに向かって突撃を始めると、ぽぷらさんは移動して僕との距離を保ちながら武器のバイオリンを構える。
そしてバイオリンという楽器からは想像できないスピードで曲を奏で、魔歌を発動する。
「まずは小手調べ、【狩人の前奏曲】!」
ぽぷらさんが発動した【狩人の前奏曲】は遠距離攻撃と同時に麻痺の状態異常を与える効果を持つ。
攻撃ダメージ自体は大したことはないが、麻痺は厄介なので僕は即座に【マジックバレット】で治療魔法【ディスペル】を発動、状態異常を治療する。
そしてさらに突撃を続け、近接戦闘の間合いに飛び込んだ……と思ったそのとき。
ぽぷらさんも次なる魔歌の演奏を完了させた。
「次の楽章は、【騎士の行進曲】!!」
【騎士の行進曲】は触れるとダメージを受けるオーラをまといながら前方に大きく移動する効果を持っている。
僕はオーラを回避することに成功したが、その隙に大きく移動したぽぷらさんに再び距離を取られてしまった。
このまま逃げ回られてはじわじわとHPを削られてしまう。
ぽぷらさん、やはりかなりの強敵だ!




