92話
僕の魂はあるるかんさんに絶対に本気を出させるという闘志で熱く燃え始めたが、思考はあくまで冷静沈着でいなければならない。
動かしようのない事実として、僕の動きはあるるかんさんに完璧に読まれ、攻撃を軽くあしらわれているのだ。
あるるかんさんはしっかりこれまでの僕の試合を研究して、その上で今現在のように手を抜いていい相手として扱っているのだろう。
……それはとっても腹立つな!!
「なかなかいい動きをしてくれますね、”闘技場のニューヒーロー”さん!リアクションの方はイマイチですが……」
「よく言う!!」
努めて冷静さを保ち、なんとかあるるかんさんの動きを捉えようとしているがなかなか上手くいかない。
柳に風、という言葉がふさわしい軽妙な動きであっさりといなされてしまう。
こちらもあるるかんさんの方からしかけてくる攻撃をいなせているものの、芸人のエフェクトを出す片手間に繰り出されるやる気のない低レベルの戦闘スキルをいなしたところでなんの価値があるだろう?
このままでは目一杯おちょくられた挙げ句、適当なところであるるかんさんが自爆し勝ちを譲られてしまう。
そんなものは事実上の敗北、いや、敗北以上の屈辱だ。
「さあさあ、観客のみなさんも楽しんでいただいているでしょうし、そろそろクライマックスといきましょうか?」
「まだまだ、こっちは全然やりきれてないんだから!!」
「フフフ、でしたら早くしていただかないと。長引き過ぎる試合は観客も興冷めというものです」
あるるかんさんが僕に煽りを入れ出す。
もう試合終了への流れまで自分の手のひらの上、僕に出来ることなどないと言いたいのだろうか?
確かにここまでは完全にあるるかんさんの手のひらの上で踊らされ、文句を言う権利が無いほどに実力差を見せつけられてしまっている。
こうなったらもうあれ――アルカナと一緒に開発した「必殺技」を使って流れを変えるしかない。
「必殺技」が上手く決まれば、あるるかんさんといえども僕の連撃から逃れることは出来ないはずだ。
そうと決まれば、早速叩き込む!!
*
あるるかんは思考する。
今日の試合相手、カカソーラのポテンシャルは”絶対王者”クウと同等。
しかしいかんせん頭が固いというか、相手が”道化師”とわかっていてもなお「両者が勝利を目指して闘う」という前提で動いてしまっている。
これがクウだったら、こちらが盛り上げるための――彼の目からすればおちょくるためのものに見えるだろうが――動きをするときちんと織り込んで闘い、さっさと自分の土俵に無理矢理持ち込んで来るだろう。
まあそれがわかっているからこちらも始めからクウを相手にした場合に一番盛り上がる闘い方……正々堂々挑んで敗北するのだが。
(真っ直ぐさは美徳ですが、それだけではワタシのスタイルを崩すのには足りません。今日のところはそこをお勉強してもらいましょう)
あるるかんは余裕の表情で試合終了までの段取りを再確認する。
自分の残りHP、試合開始からの時間を鑑みると、あと2回ほどカカソーラの攻撃をわざと受け、【血の供物】で自滅というのがちょうどいい流れだろう。
2回目のカカソーラの攻撃はこれまでよりもじっくりと受けてあげて、いけるかも?という盛り上がりを作るのも忘れずに。
過去の試合動画の研究でカカソーラの攻撃パターンは見切っているし、この段取りで問題は一切ない。
「だったらこれで終わらせてやる!」
さっきの煽りに反応したのか、カカソーラがこれまでとは一味違う気迫で攻撃をしかけてくる。
「フハハ、出来るものなら終わらせてみなさい☆」
(気迫は変わりましたが、動きは相変わらずの真っ直ぐさ……また軽くあしらってあげましょう)
あるるかんは余裕の態度でカカソーラの攻撃を待ち構える。
カカソーラの攻撃パターンからいって、次は除けにくい角度から銃剣士の単体攻撃コンボを打ち込んでくるはず。
そちらに意識を集中し、単体攻撃コンボ1段目の【マジテックソード】だけを受けて……
「はあああぁぁぁ!!!!」
しかしカカソーラが繰り出してきた戦闘スキルは【マジテックソード】ではなく、単体攻撃コンボの3段目、【バレルロール】だった。
(なぜいきなり3段目から!?コンボなしで使ってもダメージボーナスも追加効果も発動しないのに……嫌な予感がする、ここは慎重を期して回避を……)
本気を出せば最高ランク・エトワールの上位ランカー相手でも安定して勝利をつかめるあるるかんである。
カカソーラの定石破りの戦闘スキル選択を軽視せず、回避を選択する、が。
「逃がさない!!」
カカソーラは【バレルロール】が回避されたと見るや今度はカートリッジを消費して発動する攻撃用戦闘スキル【バレルスラッシャー】を発動する。
【バレルスラッシャー】は威力は高めに設定されているもののカートリッジを消費するには見合わない程度の差で、あまり使われない戦闘スキルなのだが……今この状況に限ってはその攻撃モーションが【バレルロール】を回避した相手に追撃を叩き込むのに最適の動きだった。
「なっ……!?」
予想外の戦闘スキルの連続、それにも関わらず綺麗につながったカカソーラの攻撃を、あるるかんはまともにくらってしまう。
そしてカカソーラの攻撃は、それだけでは終わらなかった。
コンボによるボーナスを無視しためちゃくちゃな、しかし一つ一つの攻撃モーションを見れば美しくつながった戦闘スキルの組み合わせから繰り出される怒涛の連撃。
あるるかんはそれから逃れることが出来ず、じわじわとHPを削られていく。
(なんだこの戦闘スキルの組み合わせは!?これまでのカカソーラの試合どころか、ワタシが見てきたどの銃剣士もこんな闘い方をしたことはない!このままではまずい、なんとか抜け出さなければ……!)
もはやあるるかんに「エンターテインメント」のスタイルを貫く余裕はなかった。
死神の移動用戦闘スキル【ソウルゲート】を発動し、なんとかカカソーラの猛攻から逃れようと試みる。
「逃がさないと行ったはずだ!!」
しかし、攻撃用戦闘スキルよりも入力動作が複雑に設定されている移動用戦闘スキルを発動する隙をカカソーラは与えてくれない。
カカソーラの連撃――「必殺技」から逃れるためには、攻撃用戦闘スキルで反撃を狙うしかないのだ。
あるるかんは破れかぶれに、死神の攻撃用戦闘スキル【デススラッシュ】を発動しようとするがそれも怒涛の連撃で防がれる。
終わらないカカソーラの攻撃、それがついにあるるかんのHPを削り切る。
「僕の、勝ちだ!!!!」
*
鐘の音が鳴り、僕の勝利を高らかに告げる。
初めての実戦での使用だったが、「必殺技」をちゃんと発動することが出来た。
「……どうですか、これが僕のやり方です」
まだ高揚している気持ちをなだめながら、あるるかんさんに語りかける。
「必殺技」そのものは成功したものの、本気のあるるかんさんを倒せたのかどうかはまだわからないのだ。
「フフフ、まさか真っ直ぐにひたすら突き進むやり方でワタシのスタイルを崩されるなんてね……認めましょう、カカソーラさんはワタシが全力で挑むべき強者だった」
「あるるかんさん……」
良かった、ちゃんと全力のあるるかんさんに勝てたみたいだ。
思わず少し達成感にひたっていると、あるるかんさんはいきなり天を仰ぐようなポーズを取る。
「しかし!この試合は『エンターテインメント』として始めた以上『エンターテインメント』として閉めさせて頂きます。さらば!!」
そう言いながらあるるかんさんはまたもや芸人のエフェクト……天国から光が差すようなものを出す。
同時に僕達は選手控室へと戻される、それは試合を観戦しているプレイヤー達から見れば僕達が天国へ召されたかのように見えただろう。
……結局あるるかんさんの演出に巻き込まれてる!?




