91話
6月17日、DFOの闘技場でのこと。
闘技場6月シーズン開幕から3日目、挑戦者達の調子も出始め、観戦するプレイヤー達の会話も花が咲く。
最も注目されているのは、やはり最高ランク・エトワール。
”絶対王者”クウを始めとしたエトワールに参加するプレイヤーの話題があちこちで飛び交う。
「やっぱりクウは今シーズンも無敵だな。見たか?昨日のヴェントスとの試合」
「見た見た。ヴェントスもいい線いってたけどクウが相手じゃな……」
「それと昇格組で目立ってるのはやっぱりあいつだったな」
「ああ、”闘技場のニューヒーロー”カカソーラも絶好調だ!」
その中でも特に注目されているプレイヤーとしてカカソーラの名前が上がっていた。
クウ以来闘技場史上2人目のストレート昇格でエトワールまで上り詰めたということでシーズン開始前から注目されていたが、実際にシーズンが開始してからも前評判を裏切らない、しかし予想以上の勢いでカカソーラは勝利を重ねていたのである。
「まだ上位ランカーとはマッチングされてないとはいえ連戦連勝だろ?とんでもないやつだな」
「中身はどんなやつなんだか……噂じゃクウの身内でアルカナの弟子だって話だけど」
「クウとカカソーラの見た目がそっくりなのは2人がリアル血縁者でそれぞれリアルの容姿に似せたからってあの噂か?2人が身内なのはともかくあんなイケメンのDFO廃人がそんなにいるわけないだろ」
「そうだよなぁ……」
大正解の説は否定されたが、カカソーラに関する様々な噂も飛び交いまさに大注目のプレイヤーとなっていた。
だがそんな中でも、カカソーラが本当にクウに勝てるのか、という話題はまだ上りもしていなかったのである。
*
「よしっ、また勝った!」
エトワールに昇格しても絶好調の僕はなんとか勝利を重ねることが出来ていた。
とはいえ強敵を相手にするので一戦一戦にかかる集中力がここまでのカドリーユとプルミエとは大違い、試合の間に取る精神を再集中させるための休憩時間はこれまでよりも長くなっている。
おかげで挑める試合数が減ってしまうのは少し痛いが、万全の闘いが出来ないよりはマシだろう。
僕は準備体操をしながら精神状態を整えて、ゆっくりと選手控室の掲示板のところへ向かい次の試合のマッチングを行う。
そろそろ上位ランカーとも当たりそうな気がするんだよね……と期待しつつ試合の相手を確認して、僕は思わず声を上げてしまった。
「えっ、あるるかんさん!?」
種族ドワーフ、性別男、職業死神――通称”道化師”。
高い実力を持ちながら試合中おどけた動作を繰り返し自滅して敗北するという意味不明のプレイを好んで行っているよくわからないプレイヤーだ。
上位ランカーとの試合でのみ本気を出して勝利することでギリギリ降格せずにエトワールに残留し続けているこの人のことをどうしても理解できずにいた僕は、初めて試合を受諾することに一瞬ためらいを感じてしまった。
「……いやいや、相手を選り好みしちゃよくない。どんな相手でも、全力で倒してみせなきゃ”絶対王者”に勝とうなんて言う資格がなくなっちゃう」
自分にそう言い聞かせて、僕はあるるかんさんとの試合を受諾する。
念の為もう一度深呼吸をして精神を集中させ、僕は闘技場の舞台へと飛んだ。
万雷の歓声が響き渡る中、向かい合った試合相手――ピエロの様な衣装を身にまとったあるるかんさんに、僕はいつも通り挨拶をする。
「はじめまして、カカソーラです。今日はよろしくお願いしま……」
「カカソーラさん!ワタシとの試合ではそういう堅苦しいのはナシでいきましょう!」
「へっ!?」
が、ハイテンションなあるるかんさんに遮られてしまい僕は思わずたじろいでしまった。
「ワタシ達がこれから披露するのはエンターテイメント!そんな風にかしこまっていては観客のみなさんは興冷めですよ?」
にこやかにそう語りかけるあるるかんさんに、僕はなんとか自分のペースを取り戻してこう答える。
「エンターテイメントだかなんだか知りませんけど、それをやるのはあなただけです。僕はいつも通り『試合』をするだけですから」
「おや?もしかしてカカソーラさんはワタシのアンチの方ですかな」
「そうではないですけど、あなたにあなたのスタイルがあるように僕にも僕のスタイルがあるので」
「フフフ、そう言いつつもワタシのこと『理解できない』って表情でダダ漏れですよ?まあいいでしょう、そんな方とでも一緒にエンターテイメントを披露するのがワタシの腕の見せ所です!!」
内心が漏れていたことを指摘されて、僕は再びたじろいでしまう。
まだ試合が始まる前の段階で既に相手のペースに飲まれつつある、これはよくない。
一旦あるるかんさんに感じている違和感は忘れて、闘いのみに集中しなくては。
「さあ、”道化師”VS”闘技場のニューヒーロー”。大迫力の『ショー』の始まりです!」
「……よろしくお願いします!」
カウントダウン終了に合わせて、あるるかんさんは高らかに宣言する。
「ショー」じゃなくて「試合」だという反発心を飲み込んで、試合開始の合図と同時に僕は戦闘態勢に入った。
いつも通り能力強化の戦闘スキルを発動し、さらに銃剣士専用スキル【リロード】でMPをカートリッジに変換、万全の態勢を整えてあるるかんさんの方に向かって駆け出す。
「行きます!!」
「いらっしゃいませ~」
あるるかんさんは副職業の芸人の効果でド派手なエフェクトを振りまきながらポーズを決めて、開始地点から一歩も動かず僕を待ち構えていた。
どう見ても隙だらけのそんなあるるかんさんに、僕は遠慮なく銃剣士の単体攻撃コンボを叩き込む……のだが。
「はあっ!!」
「うおっと~~~☆」
単体攻撃コンボの一段目、最初の戦闘スキルを打ち込んだだけであるるかんさんは派手に吹き飛んでしまった。
もちろん無防備にしていたから戦闘スキルがいつも以上に効いたなんてことはゲームであるDFOではありえない。
僕の戦闘スキルをくらったのと同時に死神の移動用戦闘スキル【ソウルゲート】を発動し、後方に派手に吹き飛んだように見せかけたのだ。
ついでに芸人のエフェクトも撒き散らしながら吹き飛んでいるところを見るに、【ソウルゲート】本来の使い方をしていれば僕の攻撃を回避することも余裕だったであろうことがうかがえる。
「だったら、もう一撃!!」
僕は再びあるるかんさんとの間合いを詰め、今度は逃げ場がないように戦闘エリアの端ギリギリで攻撃を仕掛ける。
「おおっと、これは逃げられませんね~☆」
しかしあるるかんさんは相変わらずの調子で単体攻撃コンボの一段目だけを受け、芸人のエフェクトと同時に姿を消す……いや、しゃがんで地面に這いつくばることで消えたように見せかけたのだ。
とっさにこんな動きが出来るなんて、やはりとんでもない実力者……って感心している場合じゃない!
このままだと死角に回ったあるるかんさんから反撃をくらってしまう!!
「えいやっ☆」
なんとか防御の姿勢を取った僕にあるるかんさんがしかけてきたのは死神の弱体化効果を持つ戦闘スキル……ではなく、芸人の花束を渡すアクション。
もちろんダメージ効果はないのだが、これで完璧に僕は理解してしまった。
あるるかんさんは僕を本気を出して闘うべき相手ではなく、自分のペースであしらって最後は自爆で勝ちを譲っていい相手と認識しているのだ。
つまり……僕はなめられている。
それがわかるともう僕からあるるかんさんへの印象は「理解できない」で済まなくなった。
「……絶対に本気出させる」
許さないぞあるるかんさん、絶対にだ!!




