90話
翌日、6月15日。
今月の闘技場シーズンの開幕である。
逸る気持ちを抑えて1日のスケジュールをこなし、やって来た夜のDFOの時間。
最高ランク・エトワールに到達した今シーズンからはこれまで次のランクに向けたレベル上げにあてていた時間も必要ないので、プレイできる時間を全て闘技場に捧げることが出来る。
「目標にしてきたエトワールだけど、どう、緊張してない?」
「問題ないよ。程よく気合いが入って、絶好調って感じ!」
一緒に闘技場を訪れたアルカナの問いかけに、僕は自信満々にそう答える。
今日のアルカナは《ヴァンガード》の方の予定が入っているものの、ついに目標である父さんと同じランクに挑む初日ということで集合時間前に見送りだけでも、ということでついて来てくれているのだ。
「試合のマッチングはランダムだから今日いきなりおじさんと当たることもありえるんだよね……」
「それでも僕は全然構わないんだけど、そう都合良くはいかないでしょ。それでもエトワールは間違いなく強敵揃い、誰が相手でも油断せずにがんばるよ!」
「そうだね。今日は試合の観戦は出来ないけど、高難易度挑戦しながらでもちゃんと応援はしてるから!」
そうやってアルカナと会話していると、話しかけてくる3人組が現れた。
「やあ、カカソーラさんにアルカナさん。君もこれから試合に行くところかな?」
「水月さん!ミロさんにリッドさんも一緒なんですね」
「ええ、せっかくだから一緒に行かないかって水月さんに誘われたの」
「オレとしては姉さんと2人が良かったんだけどな!」
”コスプレ勇者”で真・七剣乱舞の使い手である水月さんと、ドワーフの騎士であるミロさんとトロールの拳聖であるリッドさんの姉弟である。
「カカソーラさんは水月さんと同じで今シーズンからエトワールでしょ?最高ランクでの闘い、がんばってね」
「はい!目標の『打倒クウさん』も果たして見せます!!」
「あのクウさんと実際に闘えるんだよなぁ、羨ましい。オレ達も急いで追いつくからな!」
「ふふふ、その頃にはカカソーラがきっと新たな王者になってるよ」
アルカナは自信満々にそう言った。
ちょっと期待が大きいけど、これまでいっぱい手助けしてもらった分全力でそれに応えて見せなければ彼氏の名がすたるというものだ。
僕もまた自信満々に、アルカナの言葉に続けてこう宣言する。
「うん、頂点で待ってるよ!」
「あらあら、言ってくれるじゃない」
「僕達も負けていられないね。じゃあそれぞれがんばっていこう!」
「ああ!言われなくても全力で行くぜ!!」
僕達4人はそうやって健闘を誓い、見送ってくれるアルカナに別れを告げて闘技場の受付へと向かった。
さあ、本当の本当に始まるぞ、最高ランク・エトワールでの闘いが!
*
まず選手控室の特訓くんでいつも通りの準備運動と、必殺技の練習をしておく。
アルカナと一緒に戦闘スキルの組み合わせを試行錯誤して完成させた必殺技は、おそらくこれで万全だ。
肝心の父さんとの試合のときにタネが割れてしまわないように、出来るだけ必殺技なしでも勝ち進んで行きたいところだが、出し惜しみして負けるなんて情けないこともしたくない。
少しでもヤバいと思ったらガンガン使っていくことにしよう。
「ふう、そろそろ行くか……」
深呼吸して精神を整え、最高のコンディションになったところで試合相手を確認しに行く。
最初の相手は、ヒューマンの侍。
MEIさんが作ってくれた上位ランカーのリストにはいなかった人だが、戦績を見るとここ数ヶ月ずっとエトワールを維持している人だ、油断は出来ないだろう。
気を引き締めて、僕は試合を受諾し闘技場の舞台へと飛んだ。
最高ランクであるエトワールでの舞台では、闘技場の観客席は超満員。
おなじみの戦闘BGMをかき消しそうな勢いの歓声が飛び交っている。
そんな中、僕と試合相手の侍さんは向き合っている。
カウントダウン終了を待つ間、まずは僕から挨拶をする。
「はじめまして、今日はよろしくお願いします!」
「ああ、こちらこそよろしく。……”絶対王者”クウそっくりの見た目で破竹の勢いで勝ち進んできた”闘技場のニューヒーロー”っていうからどんな奴かと思っていたけど、意外と礼儀正しい人なんだな」
「意外とって……これまでどんなイメージだったのか聞いてもいいですか?」
侍さんは少し戸惑ってから、僕の質問に答える。
「あー、クウの身内って噂だったし、あのアルカナと一緒にいるところもよく目撃されてたからなんというか、『強い奴以外興味ないぜ!』みたいな感じかと……」
「そんなイメージだったんですか!?全然そんなんじゃないですからね!!」
「まあそこは実際会ってみたらすぐに違うってわかったよ。でもあんたがどんな奴だったにしろやることは一つ、全力でぶつかり合うだけ……そうだろ?」
侍さんは不敵に笑う。
確かにどんな性格の人が相手でも、ここ闘技場でやるべきことも、守るべきルールも変わらない。
それは全力で闘い、ひたすらに勝利を目指すこと!
「ええ、その通りです。いい勝負にしましょう!」
僕も笑ってそう返したところでちょうどカウントダウンも終了、試合開始の合図が出る。
「行くぜ!!」
「はあああぁぁぁ!!」
お互いにありったけの自己強化の戦闘スキルを発動し、接近戦を挑むべく駆け出していく。
先手を取ったのは僕、まずは銃剣士の単体攻撃コンボを叩き込んで相手の体勢を崩す……つもりだったのだが。
「甘いぜ!」
相手は侍の高レベル専用スキル【刹那の見切り】を使用、一度だけ全ての攻撃を無効化するこの戦闘スキルで僕の初撃を受け流し、その隙に侍の単体攻撃コンボを打ち込もうとする!
「なんの!」
しかし僕だってそう簡単にはくらってやらない、VRの肉体の身体能力をフルに活かして相手の攻撃をギリギリのところで回避、そのままの体勢から魔法弾を撃ち出す戦闘スキル【マナバレット】を発動し攻撃後の隙だらけの相手にお見舞いする。
「避けたか、だがまだまだだ!【返しの太刀】!!」
「ここは受ける!【スチールジャケット】!!」
相手は攻撃をくらった瞬間のみ発動できる戦闘スキル【返しの太刀】を発動、ダメージを無効化し高威力のカウンターの一撃を放つ。
僕はそれを避けることも出来たが、そうすると一旦相手と距離を取らねばならず相手に立て直す猶予を与えてしまう。
なのでここはカートリッジを消費する銃剣士専用スキル【スチールジャケット】で防御力を飛躍的に高め、あえて受けることによって接近戦の間合いを維持して次の攻撃に即座に移る。
「くらえ!!」
僕は今度こそ【マジテックソード】から始まる銃剣士の単体攻撃コンボを相手に叩き込み、そのHPを大きく削る。
しかし勝敗を決するにはまだまだ足りない、なのでさらなる追撃を叩き込むべく僕は銃剣士のレベルを最大まで上げることで習得できる高レベルの専用スキル【マナマシンガン】を発動する。
この戦闘スキルは単体攻撃コンボを命中させたあとにカートリッジを大量に消費することで発動でき、追撃として魔法弾を大量に撃ち込みあらゆる行動を不可能にする状態異常・スタンを与える。
「これで終わりだ!!」
僕はスタンで動けなくなった相手に再び単体攻撃コンボを打ち込み、そのHPを削り切る。
響き渡る鐘の音、エトワールでの最初の試合は無事勝利に終わった。
「これが”闘技場のニューヒーロー”の実力か……負けたぜ」
「当然のように【返しの太刀】を合わせてくるの、お見事でした!いい試合をありがとうございます!!」
「ははっ、そんなまっすぐ言われちゃ悔しがる気も失せるよ」
僕達は別れの挨拶をして選手控室へと帰還する。
よし、この調子でエトワールでもがんばるぞ!




